王道・橙子さんの場合

最終話


   /幹也

 足がもつれてよろけそうになる身体を何とか保って走り続ける。
遺跡の構造に詳しいわけじゃないから近道なんて分からない。元来た道を引き返す以外僕にはなかった。
自然と足は式が捕まっていた間に直行していた。

遺跡の揺れは激しくなっていて壁にはひび割れが多数入っている。
そして崩壊の前兆で一部床に転がってもいた。
僕は転ばないようにそれらを避けて通っていく。

思えばたった数日の間なのに随分と色々な事があった。
めまぐるしいほど忙しくそれでも幸せな日常とはまた違った世界。
二度と出会えない夢との再会、そして再びの別れ。
命がけの冒険とそれを乗り越えようとする強い意志。

そして、この世界を創った者と現れた夢の人達の考え。
彼らが一体何を想ってこの世界の役柄に納まったのか、全部が分かるわけじゃない。
でもそれぞれが何らかの意志をもって参加していたのだけは分かる。

臙条巴、白純里緒、巫条霧絵、玄霧皐月、コルネリウス・アルバ、荒耶宗蓮。
そして……両儀織。
呼び出された過程がどうであれ、現実世界では彼らはとっくに死んでいたって、この世界では彼らは間違いなく生きていた。
そして、彼らは本物と全く一緒だった。

誰もが去り際に涼しげな……いや、清々しい表情を見せていた。
なんでみんな名残惜しそうにしなかったのか、無念そうにしなかったのか、僕には計り知れない。
最低でも、彼らは間違いなくこの世界で自らの意志を貫いていった。

僕らは彼らをまた新たに刻んでこの世界を去る事になる。彼らの意志を感じ取って。
それはきっとまた平穏な日常を送る僕たちにも些細な変化をもたらすんだろう。
それだけ今回の出来事は重要な位置を占めるはずだ。

「――なんてどこかの主人公っぽく考えてみたけれど」
なんかこの世界と合わない気がする。
この世界を最初に創ろうと思った橙子さんの考えとはかなり違うんだよな。

そう、彼女はこの世界を心底から楽しもうとしてた。
僕らと敵対してる時だって(僕らが真剣な話を持ち込まなければ)笑いを絶やさずに向かってきてたし。
事件の遭遇とか、敵復活とか、ヒロイン救出とか、この脱出劇とか。

重要なテーマは分かる人にだけ分かればいい、大切なのはそれを楽しむ事なんじゃないだろうか?

「……」
そう思い始めると自然と笑みが浮かんでくる。
もうすぐ天井が崩れ落ちそうなこんな状況でもなお。

まだ崩壊してないのは、きっと僕が脱出するぎりぎりまで神殿を保たせる気なんだろう。
一体どれほどの計算をしたのかは分からないけれど、本当に緻密だ。
普段も情熱をかけていない小計算に振り分けて欲しいものだ。

ようやく僕はさっきまで二人の両儀式が二人の魔術師と戦っていた広間を通過した。
思った以上に崩壊が凄まじい。壁画とか柱の装飾品は見る影もなくなっている。
と思っていたらさっきまで僕が通っていた通路が完全に崩れ落ちた。数秒遅かったら下敷きになっていたに違いない。

「本当、こんなくだらない事に叡智を駆使しないでくださいよっ!」
文句を口にした所で誰も聞いてくれないけれど僕自身の熱を冷ますには十分だ。

僕が行く先々で直径一メートルは確実にある大きな柱が崩れていく。
中には既に崩れてたものもあって、蛇行しながら進むしかなかった。
無理な運動が足に響いてくるけど、全力を出さないと脱出できないに違いない。

走る。必死になって走る。
遺跡の中にあるたいまつは次々と落ちていて光を失っていた。もちろん外の光もない。
まだだ、出口はまだ先だ。

「!?」
不意に嫌な予感がして足をブレーキにして立ち止まった。
大廊下と大廊下の間にある扉があった場所。その先にあった大廊下が雷みたいな音をたてて崩れてしまったのだ。
思わず耳をふさぎながらも目の前の状況をなるべく冷静に判断しようとする。

……よかった。通路を完全に塞いだわけじゃない。かろうじて僕でも通れる隙間がある。
落ちてきた天井部分に手をかけて、はいずる事で隙間から先に進む。
何とか身体を全部引き出せたので前方を確認して、呆然としてしまった。

「……障害物競走か? アスレチックなのか?」
大廊下の柱と言う柱がほとんど崩れていて、床は既にまともじゃない。
しかも崩れた天井から土砂が降り注いでる有様だ。
こんなんじゃあ脱出どころか先に進む事すら……。

「くそっ……!」
僕は自分の頬を自分でも爽快な音が聞こえるほど強く叩いて喝を入れた。
こんなところで立ち止まるなんて馬鹿げてる。
僕は先に進む。そして再び日常に戻ってみせ――、

その瞬間、大気が震えた。
映画みたいな効果音がある方がおかしいんだけれど、音はあまりしなかった。
代わりに何かが押し寄せてくる空気圧を肌で感じたぐらいだ。

僕は確認するよりも早くにその場を飛び退いた。
躊躇する暇すらない。ほとんど反射の領域での反応だったかもしれない。
まるで野球で言うヘッドスライディングの形になって床に身体をする。

直後、鼓膜が破れるとまで思うほど大きな音が耳に入ってきた。
その直後には辺り一面が埃まみれになって思わず咳き込む。
少し収まったところを見て元いた後ろを振り返ってみる。

絶句。いくつも岩とも言うべき石がその場にはあった。
上を確認してから飛び退いてたら間違いなくミンチだった。
危機的状況に陥った時の感ってあまり役に立たない事が多かったけれど、今回ばかりは第六感に感謝しなきゃな。

「っ!」
立ち上がろうとして脚の違和感に気づく。
まるで他人の足みたいに感覚がなくなっていて、本当に棒になったみたいだ。
踏ん張っても力が入らないでがくがくするだけだった。

ミシ、という不気味な音が轟音の響く中で聞こえる。
そんな情けない自分に喝を入れる暇もなく天井の方を確認してみる。
さっき崩れた所からヒビが僕の上の方にまで広がっていた。

「まず……!」
ほふく前進で何とかその場を脱出しようとするけれど、ひびは僕の進行方向にまで大きく広がっていく。
ならばと立ち上がろうとした所でまた地面に倒れてしまう。

「……今度ばかりは駄目かな」
橙子さんの緻密な計算に僕の状態が吟味されてはいなかったのか、それとも単なる計算ミスか。
どっちにしろ崩壊する神殿から脱出はできそうにない。
あきらめかけて倒れた柱によりかかろうとして――、

「幹也!」

絶対にこの場所じゃあ聞こえないだろうと思ってた声が聞こえてきた。

思わず身体を持ち上げてそっちに視線を移す先の光景を目撃してあっと驚く。
武田信玄の本陣に上杉謙信が颯爽と突撃してきた瞬間を目撃した時はこんな感じなのかもしれない。
もしくは平家の本陣に一ノ谷の崖を駆け下りていく源義経を見た時がそうかもしれない。

出口の方向から猛スピードでやってくるのはなんと式だった。
彼女は軽やかに馬を駆って障害物を難なくやりすごしていき、手綱を片手に持ち逆の手をこっちに向けてきた。

「つかまれ!」
思わず僕は式につられて手を差し伸べた。
式は減速せずに僕の手を掴み……と思ったら掴んだのは手首だった。
僕は馬と腕の勢いだけで宙を舞った。

「わ……っ!」
思わず肩の関節が外れるんじゃと思うぐらいの引っ張り。
式は慣性だけで僕を操り、見事に騎乗させた。

「しっかり掴まってろ。振り落とされるなよ」
式は鮮やかな手綱さばきで方向転換、一目散に出口を目指してゆく。
途中にあった障害物とか崩れてくる落石は式にとって問題じゃなかった。
まるで自分の手足を扱っているみたいに突破していった。


 こうして、僕らはその遺跡を脱出する事ができた。
遺跡はその時を待っていたように全体的に崩れ始め、大量の土煙を舞い上げて大地へと沈んでいった。
僕らはいろいろな思いを胸に、その光景を眺める。

「……終わったね」
「ああ、終わったな……」
本当にいろいろな事があった期間だった。

映画館でのラスト付近になると終わってしまうのが名残惜しくなる事はたまにあるけれど、今の気持ちはそれに近いかもしれない。
それでも僕らはこの世界からいなくなり、元の日常に戻りたい気持ちの方が大きいんだろう。
橙子さんが大切だと言っていた日常に――。

「兄さん!」「先輩……!」
鮮花達が後ろの方から声をあげて駆け寄ってくる。
本当に僕の事を心配していてくれたみたいで、誰もが安堵の表情を浮かべていた。

「兄さん……本当によかった」
「無事で帰ってこられて何よりです……」
鮮花と藤乃ちゃんの後ろでは秋隆さんと霧絵さんがほほえましくしていて、大輔兄さんがにやついている。
そんな反応を見せる事を僕がしているとは思えないけれど……。

「それはそうと兄さん、いい加減式から手を離してくださいませんかっ?」
「え?」
ひとしきり安堵した後はなぜか顔色を百八十度転換させてジト目で僕の事をにらむ鮮花。

あ、そう言えば馬に振り落とされないために僕は式にしっかりとしがみついていたんだった。
右腕は式の腰に来るように、左腕は脇の下から肩を持つようにして。
そうだよな。もう脱出できたんだから、これ以上こうしてたら式も迷惑だろう。

「ご、ごめん式。脱出できたのにずっとこうしたままで……」
「…………」
僕としては感動をそのままにもう少しこうしていたかったけれど、式が若干不満そうな表情をしているんだからこうするしかない。
式はそのまま僕からふいっと擬音がつくみたいに僕から顔を外した。
鮮花も式も大層怒っているようだ。

「兄さん、なぜあそこで橙子さんを追いかけたんですか?
 確かに兄さんにとってあそこであのような行動に出た事はとても重要なことだったかもしれませんが、
 それは兄さんの無事を代償にするほどのものなんですか?」
「あ、鮮花?」
「なぜ兄さんはそこまで自分を軽んじる事ができるんですか。
 兄さんを誰よりも大切に想っている人は兄さんが想像しているよりはるかに多い事は分かっているんですか?」
……なんでそこを怒られなきゃいけないんだ?
橙子さんはきっとあの場面を見せたかったからこの世界を創ったんだろうし、僕はあの場面に立ち会えた事を光栄にすら思ってる。
それに自分の無事ごときで大切な事が引き換えられるのなら、僕は何度だってその選択肢はとる。

「兄さん! 答えて――」
「鮮花、オマエ矛盾してるな」
さらに問い詰めようと僕に迫る鮮花だったけれど、式の発言で彼女に殺気すらこもった視線を投げかける。

「式、それはどういう事なのかしら?」
「決まってるだろ」 式はさも退屈そうに鮮花を見やって、こう断言した。

「鮮花は幹也に幹也でなくなれ、って言ってるようなものだ」

――あ、と。鮮花が見せた反応は意表をつかれたようにつぶやいただけだった。
さらに式は続ける。

「器用に立ち回る幹也なんて幹也じゃない。特別を求める幹也なんて幹也じゃない。――自分のために誰かを傷つける幹也なんて幹也じゃない。
 不器用に走るから、平凡であろうとするから、――他人のために勝手に傷ついてしまうから、だから幹也なんじゃないか」
「式……」
思わず呆気にとられたのは僕の方だった。
式からそんな言葉が今出てくるなんて……夢にも思っていなかったからだ。

「幹也の悪い所は全部私が補う。長所も短所も……幹也の全部、私は嫌いじゃないから」

「……くぅ……っ!」
鮮花は悔しさを隠そうともせずにかぶりを切った後、式や僕から外れた。
その時には式はいつもの様子になっていて、直前の一言を発したときが幻だったんじゃないかと思えてくる。
式は浅くため息を漏らすと、僕の背中を叩いた。

「帰るぞ幹也、オレ達の日常に」
「……そうだね」
帰ろうか、僕らの日常に。


「んじゃあ俺らは先に帰らせてもらうわ。エンディングは幹也たちだけで楽しんでくれ」
「それではお嬢様、お早目のご帰宅をお待ちしております」
秋隆さんと大輔兄さんは挨拶をつげると馬に乗ってそのまま走り去っていく。
先に見えるのは遺跡突入前に見た墓守の一族の大軍。二人が近づいてくるのを見ると、勝ち鬨をあげ始めた。

「これ、どこまでがこの作品なんだろ?」
「朝日が昇るのを眺めながら車で走り去るところまでじゃないか?」
式の言葉に軽く驚きつつ、僕は東の方を眺めた。

夜が明け、雲ひとつなく暗かった空に青みが出てきている。
もう日の出なのか。時間の経過を全く感じなかったな。
それだけ充実していたのかもしれない。

「黒桐くん」
歩みだそうとしていた僕らを霧絵さんが呼び止めた。
見れば彼女はさっきいた位置と全く変わっていない。一歩も歩みだしていなかった。
彼女は本当に嬉しそうな微笑を浮かべていた。

「本当にありがとう。この世界の住人の代表として例を言わせてもらうわ」
 本当にいろいろ言いたい事はあるけれど、きっとあなたはある特定の事以外は全てを察してくれるんでしょうから、言わないでおくわ。
 わたしから言いたい事はこれだけ」
彼女の姿がおぼろげになっていく。存在すらかき消えてしまうように。
それでも彼女は儚げな笑みを絶やさなかった。

「いつまでも飛んでいて。私のただ一つの憧れ――」

そして巫条霧絵は姿を消した。
この場に残されたのは僕、式、鮮花、藤乃ちゃん。この世界に招待されたときのメンバーだ。
ほかの人たちは皆退場してしまったか。

「……行こうか、みんな」
「ああ」「そうですね」「ええ」
三人が三人ともいい笑顔を見せてくれた。


 スタッフ
監督・脚本・製作総指揮・住民&モンスター製作・建造物設計・小道具製作:蒼崎橙子
世界構成協力・建造物設計・小道具製作:荒耶宗蓮
モンスター製作・小道具製作:コルネリウス・アルバ
世界構成:玄霧皐月
世界構成・舞台裏関係:『祟り』
世界構成協力:『シキ』

 キャスト
考古学者:黒桐幹也
考古学者友人兼■■■:両儀式
考古学者助手:黒桐鮮花
貴族令嬢:浅上藤乃
墓守の一族族長:秋巳大輔
墓守の一族族長:硯木秋隆
トレジャーハンター:両儀織
トレジャーハンター:臙条巴
トレジャーハンター:白純里緒
博物館キュレーター:巫条霧絵
大英帝国軍将校:ゴドーワード・メイデイ
ドイツ軍将校:コルネリウス・アルバ
王:荒耶宗蓮
傀儡師:蒼崎橙子
女神官:『シキ』

朝日が昇る中、僕らは砂漠を車でかけていき、完。



   /幹也

 世界がガラス細工が床に落ちた時みたいに砕けていく。
あたり一面黄金の砂漠だった風景はいつも見慣れた伽藍の堂の事務所に。
乾いた空気はいつも慣れ親しんだ湿っぽいものになっていた。
そして、遺跡の崩壊の時に分かれた令嬢は淑女の姿に戻り、温かい笑顔をこちらに見せてきた。

「おかえりなさい」
彼女はくわえていた煙草を灰皿に押し付けて、テーブルの上においてあったお茶を差し出してきた。
あまりもの和やかさに僕はどっと疲れが噴き出したみたいにソファーにもたれかかった。
式たちもそれに続くように腰を下ろしていく。

「それで、どうだったかしら?」
「『どうだった』?」
「王道的アドベンチャー。おもしろかったでしょう?」
含み笑いをして橙子さんは目を輝かせながら希望のまなざしをこっちに向けてきた。
……そんな顔をされたら選択肢はないに等しいじゃないか。

「楽しめましたよ。泣きあり笑いありの典型的ストーリーだったと思います」
「王道と呼んでくれないかしら。典型的だとありがちみたいじゃないの」
確かに王道と使い古されたものは紙一重だろうな。
その紙一重をかわしたものこそ作品として出来がいい事になるんだろう。

「あれだけの事を数日だけでこなしたのだから、今日一日はゆっくり休んで来なさい。日常に戻るのは明日からでいいでしょう」
「橙子さん橙子さん」
「ん? どうしたの?」
僕はなるべく声を立てないよう橙子さんを促した。
橙子さんも僕が指差した方向に視線を移してそれに気づいたようだ。

式たちは静かな吐息をさせながら熟睡していた。
彼女達の寝顔はとても穏やかで、寝るしぐさは三者三様でそれぞれ特徴が出ている。
本当に物語で登場するお姫様とか、神話で登場する神が一目惚れする少女に見えてならない。

橙子さんは目を丸くしたあとに飲まれなかったお茶の入ったカップを社長秘書のように手際よく片付けていく。
僕も毛布を用意してそっと彼女達にかける事にした。
そうして僕らは席に座り、互いに顔を見合わせる。

「幹也くん、君も休んでいいのよ。君だってあれだけの事をした上に徹夜明けでしょう」
「かまいませんよ。彼女達だけ静かに休ませて上げてください。僕はこれから仕事やりますから」
結納しなきゃならない仕事だってまだ残っているはずだ。
楽しんだ分はちゃんと取り返さなきゃ。

「確かにそうだけれど、無理しすぎると体壊しちゃうわよ」
「そんな心配そうな声をあげなくても大丈夫ですよ。徹夜ぐらい何度も経験してますし」
そんな物悲しげな顔をしないでください。思わず誘惑に負けてしまいそうになっちゃいましたよ。
まあ、僕の体が休眠を求めてる事は確かに事実だけれど、こんな時のために特別に濃いコーヒーの入れ方もマスターしてるし。

ふと、僕は橙子さんの方に視線を移した。
さっきまで僕は彼女が高校時代だった時の姿と会話をしていた。今とはすっかり違った、でも同じ存在と。
彼女がどんな思いで今まで過ごしていたのか僕に想像はできそうにない。

……それでも、僕は彼女が送ってきた物語が無駄なんかじゃなく、その結果この穏やかな日常があるんだと思いたい。
橙子さんが求めたものも、橙子さんが挫折したものも、橙子さんが笑みを浮かべるものも、きっと彼女の中で重大な意味を持っている。
それを全部大切に胸にとどめながら人生をこれから歩んでいくんだろう。

こっちの視線に気づいたのか、橙子さんは一瞬物悲しげな表情を浮かべると、めがねをそっと外した。
彼女は透き通ったまなざしは僕の全てを受け止めるように深い。
そして、いつもの眼鏡を外したときの筆舌に尽くしがたい目つきの悪さは微塵も感じさせなかった。

「本当、平穏だな」
「平穏ですね」
「幸せだな」
「幸せですね」
僕らはほがらかに笑いを浮かべて、それぞれの作業に戻ったのだった。


一見ありふれた物語であっても作者はそのどこかに自分の言いたい事を隠していると言う。
時にそれは本当に分かりづらいし、時には観衆に誤解を与えてしまう事だってある。
それでも作者は自分の想いの全てを作品に捧げて自己主張をする。

橙子さんがあの世界で本当に語りたかった事を僕がちゃんと理解しているかは分からない。
もしかしたら大変な勘違いを犯しているかもしれない。映画や小説でもないから再度確認する事もできない。
橙子さんがまた自己主張するなんて保障はどこにもないのだから。

だから、僕は今回の冒険で起こった事を全部受け止めて明日に生かそう。
自分の中で例え些細な変化すら起きなくても、橙子さんならきっと満足してくれるはずだ。
今確信を持って言えるのは、あの世界での体験は僕にとっても有意義だったって事だ。

「ところで黒桐」
「はい、なんでしょうか?」
橙子さんは分厚い資料の束をこちらに手渡してきた。
各仕事ごとにホッチキスで止めてあって、その出来も舌を巻くほどだ。

……問題はその中に見過ごす事が断じて出来ないものが混じっている事ぐらいだ。

「次回作についてなんだが、おまえの意見も参考にしようかと思ってね――」

とりあえず、今日もまた平和な日常だった。



   /王道・橙子さんの場合 了


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 まずはここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
気がつけばすでに一年半も経過しており、その間に描写の仕方やこの話の本質そのものも変貌を遂げてきました。
にもかかわらずきちんと終幕を迎えられた事を喜ばしく思います。

自分の中では空の境界に収まらず、あらゆる作品と比較しても蒼崎橙子の存在は大きなものです。
魔術師でないと主張しながらアルバに怪物と断定される在りよう。なのにロケットペンシルの事で納得いかない姿は本当に対照的です。
そんな彼女の魅力を刹那も表現しきれていないでしょうが、少しでも伝わったのでしたら幸いです。
彼女の魅力は小説や映画でぜひご堪能ください。
(ちなみにペンシルロケットの使いにくさはぶっちゃけ異常です……)

今後の予定。まずFate関係の長編二つを終わらす作業をしつつ一次創作を進めたいなと思います。
空の境界長編案も結構思い浮かぶのですが、実は更に熟考してしまうとオリジナルの話に繋げられるのでどうしてもそっちの方に……。
二次長編を書く機会は減ってしまうかもしれませんが、またこうして空の境界に携われればと思っています。
それではまたいつかお会い致しましょう。
  2007年11月3日

文字化け防止用に
そのままで
名前(省略おっけー)
あどれす(省略おっけー)
ご感想 すごくよかった
これからもこの調子で
可もなく不可もなく
もうちょっと
原作やりなおそう
その他なにかあれば


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