王道・橙子さんの場合

第5話


   /式

「それじゃあ幹也は…!」
「向こうには織がいるけど、荒耶相手じゃあどう転んだっておかしくないからな…!」
私はまた襲いかかってくるミイラを一刀両断する。

 鮮花やアルバはミイラを燃やしているからいいとして、イギリス兵やドイツ兵の銃の弾だとミイラに穴をあけるだけで行動が止まりはしない。
それに白純里緒がナイフで体を斬りおとしても、腕だけになればそれだけ動くし上半身だけになればそれだけで動く。
ようはある程度のダメージが必要らしい。
けれど私の攻撃では一発で倒せている。
なら、強行突破は可能だ。

「先輩、そろそろ行くぞ。いつまでもこんな所にとどまってられない」
「いや、それは分かるけど彼らは?」
そう言った先にはさっきのイギリス兵とドイツ兵。

「どうせトウコの創ったエキストラだろ? ならほっとけよ」
「そういうわけにはいかないでしょう。こうなったら猫の手でも借りてこの状況を何とかすべきよ」
そうは言っても軍人たちの銃はミイラに効きにくいしな…。

「で、おまえはどうするんだ?」
「わ、私か?」
そう、ここで問題になるのはアルバだ。
こいつがどっちに傾くかで状況も全く違ってくるしな。
正直魔術師は信用ならないからいっそ敵に回ってくれた方が分かりやすいんだけど。

「私はアオザキをぎゃふんと言わせるために蘇生に応じてやったんだぞ。ならここは互いが互いを利用するのが一番だと思うがね」
橙子が私たちの敵に回ったのだから、確かに利用するのが一番だろう。それにさっきからのこいつの台詞からもこれは真実だろう。
でもここ一番で裏切る可能性もある。
だけど…、

「どっちにしてもこの状況になってしまっては一度この遺跡を出た方がいいな。さすがに準備なしにアオザキとアラヤを同時に相手はできないからね」
「…っ!」
荒耶のやつの強さは私が実体験したからそれは分かっている。
加えて橙子のやつがいたんでは確かにあいつらをこの状態で倒すのは無理だろう。

「アルバさん、でいいんでしたよね?」
「ん、ああそうだアオザキの弟子」
「黒桐鮮花です」
と、後ろの方でこんな会話が聞こえてきた。
この間にも私と白純里緒が前に立ち、ミイラを一閃する。

「この宝物庫から王の間へと出る際に出てくる怪物は分かっていますか?」
「ああ、もちろん。遺跡内部のクリーチャーの配置は私がやったんだからな」
この遺跡は実に入り組んでいて、はっきり言ってテレビで見たどっかの宮殿ぐらい広い。
この宝物庫は王の間の一歩手前ぐらいに位置していて、普通に行くには王の間とはまた別の道を行かなければならないが、王の間からも直接いける。

「ではあのミイラ兵だけでしょうね?」
「…いや、違うはずだぞ」
既に私たちはさっき宝物庫に入った入り口、つまり王の間に通じる方のやつにたどり着いていた。
イギリス兵は既に銃を渡されていて応戦していて、私と白純里緒が前で戦闘、中にアルバや鮮花に考古学者、しんがりが軍人たちで進んでいた。

「材料はたっぷりあったから色々と創っておいた」
「は…?」

 その時、高くて暗い天井付近に、何かの気配を感じる。
数は数体。
だと言うのにさっきまで戦っていたミイラ兵より禍々しい。

「まさかアオザキのやつがアラヤ側につくだなんて思ってもいなかったからな。やつはこの遺跡を守る現地族かと思ったんだがな…」
「それで、どんなやつが出てくるんですか?」
「確か…」

 そして、それは落下してきた。

「アポピスと名づけた蛇の怪物戦士だったはずだな」

現れたのは胴体は完全な蛇。だと言うのに鎧を着こんで腕もあり、剣と盾を装備している。
頭も顔もあるのに表情は全くなく、ただ飾りと言った感じ。肌は黒がベースだ。
その数3体。前方と左右に分かれて落ちてきていた。

「いくら化物だからって倒せないわけじゃないだろ…!」
白純里緒が弾ける。
アポピスとか呼ばれた蛇の化物との距離は数メートル。それは0.1秒もかからずにゼロとなり、

「はあっ!」
気合と共にナイフを一閃した。
目にも留まらぬ早業ってやつか。

だが、

「な…っ!」
驚愕の声をあげたのは彼の方だった。
既に白純里緒は私の隣に戻っている。

「え? え?」
今の事が何を意味するか分かっていないのは鮮花とエキストラぐらいだろう。

「今何が…?」
「簡単な事だろ」
そう言いつつも私は少なからず動揺していた。

「先輩の攻撃をあれが盾で防いで、刀での反撃をとっさに飛びのけてぎりぎりでかわしたんだ」
「あの一瞬で…!?」
いや、問題はあれが一瞬で起こったことじゃない。
あの蛇の化物が白純里緒の攻撃に難なく反応していた事だ。

私だって反応はできるし、現に返り討ちにした。
だからと言って、それが数体もいるとなると話は別だ。

「アポピスはミイラなんぞと違って数体でかかれば教会の代行者だろうと返り討ちにできるぐらい強力にしておいたからな。
 いくらおまえたちでもそう簡単には倒せないようにしておいたぞ」
「いや、そう言うのを本末転倒って言うんじゃないんですか?」
などと自慢げに話すアルバにつっこむ鮮花。
こいつその自慢してるのが敵に回ってるって分かってるのか?

といっても対処できないほどでもない。荒耶の方がよっぽど化物だ。

「王の間に通じてるとこに出てくるのはこいつらだけか?」
「ん、まあそうだね。他の場所には別のやつがいるし、ラスボスクラスのも用意しておいたが、アオザキも今出してくる事はしないだろうね」
そうか、なら…

 と、遺跡に地響きがおそう。
石でできた遺跡だから、砂が天井から落ちている。

「ってあれ!」
「な…っ!」
その地響きは、遺跡の仕掛けが動くものだった。
蛇の化物の先で、左右から壁のようなものが出現しだし、進路をふさぎだしている。
それはまるで自動ドアのように。

「く…っ!」
私は飛び出した。
手に持つ剣の長さは竹刀で言う35ぐらいでかなり短い。それでも戦うには十分だ。

まずは剣を一閃する。
敵はそれを盾で防ごうとしていて、反応速度も早い。
だが、狙いは相手にダメージを与える事じゃなく、防具破壊だ。

音をたてずに盾は真っ二つになり、再びの一閃で今度は敵の刀を殺す。
いくら相手が人外の動きと速度を持っていようと、次の一撃をかわす事はできなかった。

「■■■!?」
それに気づいたのか、他の化物も私を阻むようにして立ちはだかってくる。
この間にも先の通路の幅は数メートルを切っている。

「どけ――」
今度は二体同時に敵は襲いかかってくる。
一体は奥に逃げないように突き、一体は横に逃げないように払い。
なるほど、これならよけたくてもよけられないな。下に沈むには時間がないし、上に跳べば後は格好の的だ。
なら、

私は突きの方をかわし、払いを剣で受け止める。
日本刀と違ってこれは重量で敵を叩き潰すものだ。剣で剣を受けるぐらいは容易いし一回で破損はしないだろう。
続けざまに突きを放ってきた方の腕を切り落とし、体勢を低くする。
そして、振りあげた。

死を見る必要もない。ただ腰と腕だけで斬ったのだ。
もう一方のやつは今切ったやつの体に邪魔されてその攻撃でできた隙をつく事はできない。
その間に、私はそいつを殺した。

「急ぐぞ」
私は化物が床に倒れる前に前方に向かって走り出していた。
既に道は1メートルもない。
間に合うか…!?

「式!」
誰の言葉だったかは分からない。
だが、それで気づいた。

「く」
速度を落とした先に突き刺さっていくものが多数。
それは、金属製の矢だった。

「今の貴女周りの事が全然見えてないわよ。少し落ち着きなさい!」
道は五十センチもない。これでは先に行くのは無理だ。
天井にいるのは、さっきの蛇の化物が多数。
だが、もっている武器は槍、弓矢、斧など多数だ。

「いくらリョウギシキがアラヤを殺した存在だとしても、規律正しくまとめられた軍には勝てないだろうと考えてみたんだかね」
「だからそれは本末転倒じゃないんですか?」
私は拳を握り締める。
これでは幹也たちの所に行く事はできない。
かと言って今から別の道を通ってあそこに行くには時間がかかりすぎる。

「式、ここは悔しいけど脱出しましょう。このままじゃあ私たちも危ないわ」
蛇の化物たちは既に床に降り始めている。
今この蛇たちを全滅させて、岩の壁を殺せば…

「式! これ以上進んだって結局また阻まれるだけよ! ここは藤乃や織たちを信じて私たちは脱出すべきよ」
その言葉を聞いて、私は鮮花の方に顔を向ける。
それは、これでもかと言うぐらい怒りと悔しさを押し殺した顔だった。

本当ならいの一番に幹也のもとに駆けつけたいに違いない。
だけど、この状況をふまえてそれが可能かどうかを判断し、それは無理だと結論づけたのだろう。
今から行っても間に合わない、と。

それに、幹也のもとには織がいる。
もう1人の私、そしていなくなってしまった私。
彼は私に幹也の事は任せろと言ってくれた。
なら私は――

「…そうだな。織なら絶対に幹也を守ってくれるな」
荒耶相手にうまくいくかなんて関係ない。
彼は私に任せろと言った。
なら、幹也は絶対に大丈夫だ。

「織、幹也を頼むぞ」
私たちは脱出を開始した。


   /巴

「そこにいるのは両儀式であって両儀式ではないか。いくらかの白き小娘がゴドーワードすら復活させたとは言え、
 さすがに両儀式を完璧に創る事は不可能のようだな」
荒耶のやつは俺たちには目もくれず、両儀織の方に視線を移している。
玄霧とか言ってたやつと織、両儀式は両儀と呼ぶんだからこれでいいだろ、以外はこいつの雰囲気に飲まれている。

なんでも両儀織は両儀の半身なんだそうだ。
何の事だかは理解する必要も無いし、放っておく事にした。
3年前に死んだ双子の姉妹でいいだろ。

荒耶はなおも続ける。

「では両儀式は蒼崎の方か。ならおまえたちには用はない…と言いたい所だが、そうも言ってられん」
「な…んだって…?」
瞬間、黒桐はこう言っていた。

「橙子さんが何でおまえたちの味方をしているんだ…! 嘘をつくな!」
「否、我々5人は互いが互いを利用しているだけに過ぎん」
荒耶は、黒桐の発言から間をおかずにそう断言した。

「蒼崎が何を考えているのかは分からぬが、あえて言うなら『面白みを』だろう。蒼崎自身がそう言っていたしこれ以上詮索する気もない。
 白き小娘の正体は私にも分からぬが、世界の中で目的を達成するのではなく創る事自体で己の可能性を探るのを目的としているようだ。
 私やアルバ、それにゴドーワードもこの世界でしか果たせぬ目的があったからこそ蒼崎の意見にのったのだ」
荒耶は一歩前に出る。

「なぜ蒼崎が我々をどのように復活させたかはどうでもいい。ここまでの事をするのだから何かあったのだろう」
一歩前に出る。
黒桐と浅上の顔が少しひきつって見えたのは気のせいだろう。

「大切なのはその過程ではなく、それにより起こる結果のみだ。どのような過程で私が復活したかはどうだっていい。
 この場に私がいる事が重要なのだからな」
また一歩前に出る。

「ならば邪魔をする者は全て我が障害とみなし排除するまでだ」
「ふっ!」
その瞬間、織がはじけた。
たった一呼吸だけで、織は数メートルあった荒耶との距離をなくし、既にナイフでのあいつの間合いに入っている。
そして…、

「…っ!?」

あの時の両儀と同じで、荒耶の目の前でその動きが止まっていた。
まるでビデオのストップボタンを押したように。

「ではさらばだ両儀織」
荒耶がその右腕を動かし、織に迫る。
それは言うなら普通の人がトマトを簡単に握りつぶすかのように織の頭にそれを伸ばし…、

「凶れ…!」
まるで動物が危機を感じたかのように距離を離す。
そして、その場から消えた。

「く…!」
気がついた時には荒耶は浅上の真後ろにいて、織がその間に割って入っていて、荒耶の攻撃を妨害していた。
はっきり言って俺には漫画よろしく、本当に消えたようにしか見えなかった。
なぜ浅上に攻撃を仕かけたまでは分からないけど。

「凶れ」
それに気づいた浅上がこんな事をつぶやく。
その直前には荒耶の姿は再度消えていた。

「粛――!」
「危ない!」
あ、と言う悲鳴。
その直後、何かが崩れた音がした。
振り向くとそこには、

「織!」
ひざと手ををついて体をぼろぼろにさせた織がいた。
黒桐が織の名を呼んで駆け寄る。

「来る…な…!」
織はその黒桐を手で制する。
そして、数メートル離れてたつ荒耶を睨みつけた。
荒耶には傷1つなく、織は戦闘に支障がでるぐらいのケガを俺が見ただけでも負っていた。

 荒耶の周りに見えるのは三つの線。
俺もこれを食らったから分かるけど、これは結界だ。相手を侵入させない、己を守るための。
両儀はこれをナイフで消滅させていた。なのに織はそれをしようとしない…?

「なあ、両儀がやったみたいにあの線を消す事はできないのか?」
「…無理だ」
悔しそうに、はき捨てるようにそう言う。

「式はオレが死んでからそれができるようになったんだ。オレはあくまで三年前の式と同じであっても、それからの式とは違う。だから、無理だ」
せめて間合いが広い日本刀だったら、と続ける。
織は多分両儀と同じ実力。だけどそれができない以上、今の状態であの線を突破できないってわけか…。

「…玄霧さん、ここはどうにかできないんですか?」
「私は傍観者です。ですから荒耶に手を出す事はないと思います」
後ろの方で黒桐と玄霧って男がそんな会話をしている。
そして、

「…逃げよう。対策を練るにしろ式たちと合流するにしろ、ここを離れた方がいい。このままじゃあ全員殺されるだけだ」
と黒桐は断言した。
それは誰もが悟っている、玄霧は別かもしれないけど、事だった。

ここままだと、全滅は必至だ、と。

「どうやってだよ。アイツはそんなの許してくれそうにないぞ」
そこもまた必至だ。
俺とかはともかく、織と浅上って女子は絶対に逃がさないだろう。
今は荒耶に太刀打ちできなくても、式たちがからんだらまず決定打になるに違いない。
でも今はその時じゃない。

 その時、遺跡全体がなにやら動き出す。
石でできたこの遺跡、その粉が天井からぱらぱらと落ちてくる。

「…蒼崎が遺跡の仕掛けを発動させたか」
「遺跡の仕掛け?」
思わず返事をしたのは俺だった。
なぜか荒耶はこっちに対して攻めて来ない。これはなぜだ?

「宝物室とこの間をつなぐ通路を遮断するものだ。これで両儀式たちがここに来る事はない」
「「「「っ!!」」」」
玄霧を除く全員がその言葉に愕然とする。
その直後、黒桐がはっとした表情を浮かべた。

「まさか…!」
「気づいたか」
振動が続く中、微動だにしない荒耶はそんな事を言い出す。

「間もなくこの遺跡は閉鎖される。これによって外界と内界はへだてられ、いかな両儀式であろうとも再度の進入は不可能となる。
 よっておまえたちは孤立する事になる」
「そ…そうか!」
思わず俺はまたそう言ってしまう。

つまり、こいつが攻撃をあまり仕かけてこないのは時間があるからだ。
蜘蛛が蝶をとらえる罠をはり、それに突っ込んでいく時間をかせいでたわけか…!

「なら…」
ならどうする?
こいつの目を盗んで脱出を図るなんてどう考えたって無理。
誰かがこいつを食い止めて他の奴らが脱出する以外道はないだろう。
だからって、荒耶のやつに対抗できるのは…、

「…オレが残る。コクトーたちは脱出して式たちと合流してくれ」
「な…っ!」
驚愕の声をあげる黒桐。
言ったのは、やっぱり織だった。

「あいつ相手に時間稼ぎできそうなのはオレぐらいだからな。これが一番現実的だ」
「でも織…」
「でもはなしだぞ。このまま全滅するよりははるかにマシだ。それにコクトーには式がいるだろ?」

 さっきの織と荒耶との戦いやこのまえのビルでの両儀と荒耶の戦いを見る限り、確かに織なら時間稼ぎはできる。
だが間違いなく織のやつは荒耶にやられるだろう。
一番良いのはこの場で荒耶を倒す事だけどそれは無理だ。
あの線をどうにかしないと…。

(待てよ?)
線、両儀、荒耶、織、兵隊、ナイフ、停止、銃、俺…。

(もしかしてこれって…)
俺は辺りを見渡す。
さっき酸かなんかで死んだイギリス兵、それにさっき荒耶にひき肉にされたドイツ兵。
そしてその脇には…。

「…なら式にはなんて言えばいいんだよ。それに…」

「なら俺がやる」

言い争っている2人に、俺はそう言ってやった。
目を見開く織に、顔をしかめる黒桐。
2人とも分かっているんだろう。この先に起こる結末ってやつが。
だけど、

「心配すんなよ。勝ち目があるからこうやって名乗り出たんだからよ。それに誰かがやらなきゃいけないなら、俺が一番適切だろ」
そう言って不敵に笑ってみせる。
これ以上にないぐらいの強がりなのは自分でも分かっていたけど、やらないのとやるのとでは気分が全く違う。

「織、こいつを頼むぜ。なんてったって両儀にはこいつが必要なんだからな」
「臙条…」
「いいから俺にもかっこいい事させろって」
織はしばらく俺のほうを黙ってみて、うなづく。
その時には表情から迷いが消えていた。

「必ず戻って来いよ」
「俺だってこいつと心中なんざごめんだって」
織は何も言わずに浅上と黒桐の手を持つ。

「行くぞコクトー、それに藤乃」
「…すみません」
浅上はこっちに頭を下げて去っていった。
黒桐のやつもこっちに無言でうなづいてこの部屋を去っていく。

 玄霧のやつもいなくなり、こうしてあの時と同じこの部屋には俺と荒耶しかいなくなった。

「戯けが。もはや脱出を試みようなどとは無駄な事だ。もはやこの神殿は完全に閉鎖された。私を倒さぬ限り脱出などできん」
「だからこそそんなに余裕なんだろ?」
でなければあんなに長話に付き合うこともしなかったし、俺と2人になるだなんて事はしないで一網打尽にしていただろうし。

「でもあんたもっと世俗の娯楽を見た方がよかったんじゃないか?」
目の前の男は俺の言葉に何も答えない。
まあそうだろうな。俺の言葉は一見するとこいつに全く関係のない事だからな。

「あんただってさっき言ってたじゃないか。蒼崎って人があんたらを復活させてこれを創ったのは『面白いから』だってな」
「…それがどうした。蒼崎がどんな目的でそうしたにせよ、今の状況は覆らん」
「だから今は映画で言うなら一時間って所なんだよ。言ってる意味分かる?」
分かるわけないよな。こいつが映画見てるはずないし。
てゆうか見てる姿が想像できない。

「わざわざこんな世界まで創ったぐらいだ。脚本だって映画そのまんまなんだろうな。だったら今は主人公が脱出して悪を倒す手段を見つける、
 つまり映画なら半分ぐらいってところじゃないか。そんな半端なトコでバッドエンドにするはずないと思うんだけどな」
目の前の男はあくまで無表情。
だけど雰囲気から何かに気づいたようだ。

「有り得ん。この遺跡は私が創りし空間。怪物や他の人間どもならいざ知らず、いかな蒼崎だろうとこの遺跡の操作は不可能だ」

 ―この時、臙条巴から意識を完全に外して荒耶は考えていた。
確かにこの世界の大本と遺跡を創ったのは自分だ。が、それをより本物にするためにゴドーワードやあの白き小娘も参加していなかったか?
白き小娘は傍観を決め込んでいて世界にすら参加していないが、ゴドーワードは両儀織と共に行動している。
では蒼崎とゴドーワードが結託していたら? それは遺跡に穴があけられると言う事になるのでは?―

「まあ、どっちにしたって俺には関係のない話だけどな」
実際俺が存在そのものすら偽物であろうとも、そんな事は関係ない。
なぜなら…、いや、思う必要もないな。

「荒耶、今度こそおまえを殺す」
俺は荒耶とはあさっての方向に飛び出した。

目指すはドイツ兵の死体が転がっている場所。
ここまでたどり着けば…!

「ならおまえを排除して速やかに追跡をするまでだ。遺跡内にいる限り、逃げ出した事にはならんからな」

轟、と、あえて言うならそんな音だろうか。
いつの間にか俺の体は宙を舞っていた。

「が…!」
息がうまくできない。
内臓をいためたかもしれない。
おそらく今やられたのは蹴り一発だ。両儀とかあの兵隊に使った魔術っぽいやつじゃない。
それに、偶然だろうか必然だろうか、転がった方向はドイツ兵の近く。
これで…!

「終わりだ――!」
落ちていた機関銃を手に取り、1つの方向にぶっ放す。その方向なんてカンみたいなもんだ。
だが、それは荒耶の方向だった。機関銃の弾が荒耶の方に襲いかかり、

「戯け」
さっきのドイツ兵のと同じようにそれは全くの無意味となり、
俺の頭は掴まれた。
そのまま荒耶は俺の体を持ち上げる。

「以前にも言ったであろう。おまえの起源は“無価値”であり、何も成し遂げる事はできん、と」
「おいおい…、まさかその前回と同じようになるだなんて思ってないだろうな?」
痛ぇ。
はっきり言ってこんなの二度と味わいたくなかったな。なんてったってトマトみたいに頭がぐちゃっとなる気がして。
頭痛なんざめじゃないぐらいに痛い。

 けど…、

「確かに以前はこのまま腕を振るってミンチだったな。けどあの時と今とでは状況が違うって」
「何も違わん。その存在が虚無へと消えるところまで寸分違わず」
へ、やっぱりそう来たか。

確かにそうだろうな。以前と全く同じ状況になってたら今でもこいつを倒すすべなんて思いつきやしない。
だけど、以前と今とで違う所はいくつもある。
その1つが…、

「じゃあその背中についてんの何だよ?」
「何」
周りの状況だ。
もちろん荒耶の背中になんて何もない。というかこいつの身にはなにもない。
重要なのは、気をそらす事。

「あばよ、荒耶」
足元にあるピンを抜いておいた幾つもの手榴弾からな!

「きさ――」

 瞬間、大きい音と閃光と共に俺の意識は真っ白になった。


   /鮮花

「く…っ!」
遺跡の振動はまだ続いている。
出てくる化物もさっきのミイラや蛇だけではなくなっていた。

「あれは何よ!」
「糞ころがし、スカラベだったかな? あれはアオザキが見た映画からアオザキ自身が創った奴のようだが」

五センチぐらいだろうか。黒っぽい蒼か翠、そんな光沢を放った昆虫がわさわさとこっちに向かってきていた。
もう黄色とか白の遺跡の床は、そいつらの黒っぽさで覆われている。

 そういえば最近映画番組化なんかで大々的に宣伝されてるミイラ男のリメイクでこんなのが出てきたような…。
余計な事を…!
舌打ちしながらも意識を集中させる。

「Azolt――!」
たった一言の詠唱で火を放ち、無数によってくる蟲の大群を焼き払う。

「本来なら動物の糞を食べるけど、あれは人肉を好むみたいだね」
「悠長に解説してないで手伝ってください…!」
「Repeat」
アルバの腕が上がる。そして、炎がまきあがった。
大掛かりな詠唱は2秒足らずだったとは言え、この『繰り返し』で何度も同じ魔術を使っている。
わたしなんかよりはるかに、いえ、比べるのも莫迦らしいぐらい巧い魔術。
魔術の組み立て、早さ、世界への干渉、どれも一流のものだ。

これが、本物の魔術師――。

 息を呑む。
橙子さんの周りにはこんな魔術師もいたのか。
彼はどんな事を思い、どんな事を目指したのだろうか?

「先輩、逆にあの蟲を食ってやったらどうだ?」
「冗談だろ? あんなに多くは食えないって」
などと前方ではミイラたちを片付けている式と白純里緒なる人の声が聞こえてくる。
…もし少なかったら食べるつもりなの?

「Azolt――!」
「Repeat」
わたしとアルバは互いに一言で魔術を放ち、無数の蟲を追い払う。
それでも蟲の大群の行進は止みそうにない。

 これでもわたしたちは全力疾走。
はっきり言ってもう30分は間違いなく走った。
一体どれだけ広いって言うのよこの遺跡…!

「おい赤コート」
「名前で呼べ名前で!」
「もうこいつら以外出てこないよな?」
式はアルバの言葉を完全に無視してそう言い放つ。
確かに、これから変なのが出てもらっちゃ困るわね。

「のはずだ。アオザキが配置転換してなければな」
「そうか」

既にわたしたちは入り口から王の間に行くための通路に合流していた。
よって一直線に出口を目指している。
もう少しだ。

 それぞれがそれぞれで出来る事をして、襲いかかって来る化け物を倒していく。
その中ではイギリス兵もドイツ兵も関係なかった。

「あ、思い出した」
「へ?」
唐突に、アルバはそんな事を言う。

「何をですか?」
「入り口付近に巨大な像が2つあっただろ?」
思い返す。
ああ、確かにあの藤乃ががれきをどかして入ったすぐそこは大きな空間で、2つほどあった。
なんと言ったかは忘れたが。

「あれが動くんだった」
「…は?」
既にわたしたちはその大きな空間の中にいる。
前方を見ると、確かに巨大な像が地響きをたてて動き出していた。
後ろはまだ蟲の大群が追いかけてきている。だから止まれない。

「どうするのよこれ…!」
「こんなちまちましたやつよりああいった奴の方がやりやすい」
と、そんな声が聞こえたかと思うと何か大きく崩れる音がした。
蟲から前に視線を戻すと、片方の像が土くれになっていた。
そして、

「ふっ!」
式が一呼吸だけで像に剣を突き刺し、土くれに戻していた。

「きょ……巨人兵がいとも簡単に……!」
それ他の奴用だったんだがとぼやくアルバだったが、式は一瞬にしてあの像2つを片付けていた。
つまり、

「これで阻むものはないって事よね」
後ろの蟲はどうにでもなる。
これなら脱出は確実だ。

「FoLLte――!」
わたしはとどめとばかりに炎をくれてやり、とうとう最後に遺跡から脱出した。
ふう、これでわたしたちはもう安全だ。

「これで後は幹也たちを待つだけね」
「いや、そうでもないみたいだぞ」
「え?」
遺跡の入り口から視線を式たちに戻す。
見ると、わたしたちは多数の人間に取り囲まれていた。
全員サーベルを手に持ち、こちらに向けている。

「え? これって…」
顔つきからすると英国人でもドイツ人でもない。ターバンをかぶり服はアラビアっぽい、つまり現地人だ。
もしかして…。

「墓を守るって現地の民族?」
「らしいな…」
わたしたちは囲まれていた。
現地人の数は数十人。こっちは十人強。
それでも突破できる自身はあった。

「おまえたちがあの魔物を復活させたのか」
現地人の1人がそんな事を言い出す。
魔物…とはあいつらの事だろう。

「…どうなのかな?」
わたしはわざと式の方にふってみるが、彼女は無視を決め込んでいる。
冷や汗が見えたのは多分気のせいだろう。

「ここにいた兵士は我々が片付けさせてもらった。おまえたちにも魔物を復活させた罪はつぐなってもら…」

「そこまでする必要はないんじゃないか?」
「全くでございます。この方たちを傷つけようなどとはもってのほかです」

 そんな言葉が、奥の方から聞こえてくる。
声が聞こえてきたのは現地人たちの集まりの奥、その声はだんだんと近づいてくる。
そして、

「え?」
「な…っ!」
わたしと式が唖然とする。
何しろ、現れた二人は、

「や、久しぶりだな鮮花」
「お嬢様、ご無事で何よりです」
「だ…大輔さん?」
「あ…秋隆…!」
わたしと式の知り合いだったのだから。


   /幹也

 既に日はくれ、空は星空になっていた。雲も全くなく、冷える。
そんな中、僕、織、藤乃ちゃん、そして玄霧さんは英国軍のジープに乗っていた。

「……」
砂の上を走っているから道路よりも平坦がない。
そんな車に揺られながら今の事を考える。

 あの後脱出しようとした僕らだったけど、結局途中までしかいけずに道がふさがってしまった。
だけど玄霧さんが言うには、トラップをかいくぐろうとした墓荒らしが以前その付近までショートカットを作っていたらしく、そこから外に出る事ができたのだった。
なんかすっごくご都合的だったけど、橙子さんの創った典型的な世界だし、不問にしておこう。
出た先は墓の入り口より数キロ離れた位置にあり、ドイツ軍に見つかっていなかった。
そこには英国軍数人が見張っていて、そのうちの1人にジープを運転させている。

「どうやら彼は何らかの爆弾を使ったみたいだね」
と脱出直前に玄霧さんは言っていた。
つまり、臙条巴は爆弾を使ってあいつを倒したって事なのか、それとも…。
どちらにしても所々の通路が遮断されていて、元に戻る事も不可能になってしまった。
だとしたら、生き延びても脱出のすべがない。

 結局僕は彼を失ったのだろう。
それが最善の策だったのか、それとも愚策だったのかは僕には分からない。
今分かっているのは、その結果僕らがこうしている事だけだ。

女性仕官がハンドルを切る。
でもこの女性、どうも僕より年下な気もするんだけど…。

「あの、玄霧さん」
「どうしたのですか?」
助手席にのっている玄霧さんに、僕は質問をする事にした。
黙っていても何も始まらない。

「これからどこに行くんですか?」
「カイロですよ。朝には着くはずですからその間寝ていただいてもかまいません」
カ…カイロ? 橙子さんはそんな大都市まで作ったのか?

「何のためですか?」
「カイロミュージアムに知人がいるので…という設定ですけど?」
なるほど、あいつに対抗するような手段を探そうって事か。

「でも式たちは…」
「離れた場合の集合場所はそこになってますから。黒桐くんたちに同行した考古学者もカイロミュージアムの人ですよ。
 彼が生きているならそこで合流できるでしょう」
…橙子さん、行き当たりばったりに見せかけてしっかりと組んでたんですね…。

時計を見るとまだ午後八時。時差までは再現していないようで、日本の時間と同じままのようだ。
食事はさっき車に乗る前に済ませてきた。この際取れるだけで満足しよう、ってぐらいの味だったけれども。
と、少し気になる事がある。

「あの、玄霧さん」
「なんでしょうか?」
「もしかしてこの世界での時間って…」
「ええ、リアルタイムです。向こうでも今は夜のはずです」
う、やっぱりスケジュールを組ませて旅行させるだけあって、リアルタイムか…。

 風景は星空と黄金の砂で全く変わらない。
僕はそれをぼーっと眺める。
と言っても僕の左右には織と藤乃ちゃんがいるけれども。

「あの…先輩…」
「え?」
右にいた藤乃ちゃんが、とろーんとした口調でそう言ってきた。
見ると、すごく眠たそうだ

「すみませんが先輩の肩によりかかっていいですか…?」
「え、ああ。いいよ」
座高からするとちょうど彼女の頭は僕の肩の位置だ。
それでは失礼します、と言って藤乃ちゃんは頭をよせる。

「おやすみなさい…」
よっぽど疲れていたのか、藤乃ちゃんはすぐに寝付いてしまった。
これじゃあ僕はうかつに体を動かせないな。うん。

「役得だなコクトー」
「ぶっ!」
思わず吹き出す僕。
左隣では腕を組んだ織が何もなかったかのようにただ外を眺めている。

「役得って何だよ」
「いや、こっちの話。詳しくはトウコに聞いてくれ」
…橙子さん、式にだけでなく織にまで何を吹き込んでくれたんですか?

「いーや、別にそんな大したことじゃないぞ。結構特別な人から好かれやすいって事ぐらい」
「…心を読まないでくれ」
笑みを浮かべて織は笑う。
正直笑っていられる状況ではないけれど、僕も今は笑う。

「やっぱさ、こんな事になってもオレはトウコに感謝してるんだ」
「橙子さんに?」
「だってこんな事でもないとコクトーに会えないじゃないか」
僕は何もいえなかった。

「本当に変わったけど、コクトーはコクトーだし、式は式のままで安心したよ。これならオレは…」
「織、それ以上は言わないでくれ」
夢が覚めてしまうから、とまでは言わなかった。
それでも織も分かってくれたようで、言葉を止める。

「今は今だ。この状況を実感してようよ」
「…そうだな」

空はどこまでも澄みきっていて、全てをうつしていた。
どこまでも純粋に。

「なあコクトー」
「ん?」
はて? 織にしては珍しく、顔が少し赤くなっている。
まるで式みたいに。

「オレも眠いんだ」
「それなら休むといいよ。ちゃんとここにいるからさ」
「それなら…」

と、織は僕の左肩に頭を乗せてきた。

「じゃあおやすみ」
「えっ! ちょっと織…!」
「なんだよ、式とか藤乃はよくてオレは駄目なのか?」
「え…いや、そんな事はないけど…」
うう、しどろもどろになってきてる…。
うん、本当に今のは不意打ちだ。

「分かった。おやすみなさい、織」
「ん、おやすみ…」
さあ、なら僕も寝る事にしよう。
今この瞬間をかみしめて。


 で、カイロについたのは午前六時ぐらい。その頃には僕は目が覚めてしまった。

「おはようコクトー」
で、いきなりそう言われた。
織は朝なのを感じさせないぐらい凛としてこちらを見つめる。

「寝顔かわいかったぞ」
「ちょっ…ちょっ…!」
なんてこと言い出すんだよ織そもそも式は早起きなんだから散々見てきたじゃないかってこれ式の事だったっけそう言えば式も同じ事を言って たような気もしないでもないけどって話題がずれてるよもどさなきゃ多分織の事だからからかいなしに純粋に言ってくれたんだろううんきっとそうだ これが橙子さんなら絶対にからかいだろうけど織ならそうだろうし…。

「おはよう、織」
自分でも驚くぐらいの冷静さで返事を返していた。

 既に空は明るい。
ちょうど太陽が昇っているところで、朝日が砂を更に黄金に見せていた。
それがとても幻想的で美しく見えても来るけど、正直僕は織に見ほれていた。

まるで絵画の一枚のようなその光景。ただそれは美しい。
それが第一印象だった。

「そろそろみたいだぞ」
「そろそろって?」
「目的地」

 そこから一時間、僕らはカイロ美術館の前にいた。
第二次大戦中の設定のはずなのに街はにぎやかなもので、まるで戦争などないみたいだった。
…橙子さんがその事を見逃すはずないし、わざとだろうか?

「すみませんが…」
「あ、英国の…。彼女でしたら図書室です」
入るなり玄霧さんは職員にこう言う。まだ七時だと言うのによくいるよなぁ。
とりあえず寝ている藤乃ちゃんを起こすのは気が引けたので女性仕官の人にまかせて僕と織だけが玄霧さんに同行している。
そして図書室に入ろうとしたとき、

「きゃあっ!」
なんか悲鳴と共に大きな音が響き渡った。
扉を開く僕らの前に広がっていたのは…。

「あらら…」
見事なまでに典型的なドミノ倒しとなった本棚だったりする。
さっきのはその音だったのか。

そんな中、倒れていた女性は服をたたいて、こちらに気づく。

「あらごめんなさい。でもこんな状況よ。ここは使えないわ」
そして、こう言って本を集め始めた。
と、

「あら、おはようございます」
「おはようございます」
玄霧さんに対して挨拶をかわした。
彼は彼女に手を伸ばし、

「こちらが巫条霧絵さん。ここの職員ですよ」
と僕らに紹介した。




to be continued…


第6話に続く

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 6話でも終わりそうにありませんね…。と言うか今回もギャグすくない…。
本来なら4話と5話は1つでしたが、あまりに長いので2つに分けました。それでも前回までの話より長いですけど。
ちなみに女性仕官は黄路美沙夜…にしようと思っていましたけどとりあえず現時点では保留。と言うかこの世界に参加できるかと考えると…。
その分秋隆さんや大輔さんはわりとすんなり出せました。
まあ方法としては「これは夢なんだ」と橙子さんが刷り込んだとか「実は…」と全部ばらしてそれをあっさり認めたのか、とか色々考えています。
さて、ようやく折り返し地点。次はギャグいっぱいやりたいです。本当に。
それでは反撃の舞台で。
  2006年8月11日


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