王道・橙子さんの場合

第4話


   /鮮花

「マ…統一言語師、ゴドーワード・メイデイ…! なぜおまえがここに…!?」
来るなりアルバと呼ばれた魔術師はそう玄霧に向けて言い放つ。

 わたしはあの事件に関しては後に知らされただけだ。
そんなアルバと呼ばれる人物とは当然直接会ったわけではないから分からないけど、幹也や式の態度からすると、間違いなく本物だろう。

「あの時にアラヤがキミも呼んでいた事は知っていたが、まさかこんな茶番に付き合っているとは…!」
「それはお互い様だと思いますが、ね。ですが人形師から聞いたのであなたもこれに付き合っている事は知っていましたけど」
赤の魔術師はそうか、とうなづいてマントをたなびかせる。
…かっこいいと本人は思ってやっているのだろうけど、かなり微妙としか言えない。

「アオザキがぎゃふんと言わされたと聞いてね。
 ヤツもこの茶番に参加するようだから、後で出し抜いてスマキにした上でナイル川に沈めてやるのさ。
 ヤツが創った世界でヤツが再度ぎゃふんと言う姿を想像するだけで滑稽なものだ。そう言うお前はどうなんだ?」
「私ですか? 少し面白い人物を人形師が連れてきたのでね。彼女の記憶の採取などと引き換えですよ」
2人の魔術師がそんな私事をしゃべっていて世界観を台無しにしているようにも聞こえる。
アルバはどうでもいいとばかりに辺りを見渡して、再び玄霧皐月に視線を戻す。

「それでゴドーワード、アオザキはどこだ。殺された恨みを晴らす機会は早ければ早い方がいいからな」
「彼女の出番はもっと後の方です。ですからもう少し物語に付き合ってはどうです?」
「ふ、違いないな」
と、アルバはわたしたちの方に顔を向けてきた。
そして自分が高貴の出である事を示すかのように一礼をした。

「さて、見知らぬものもいるようだから自己紹介といこうか。私はコルネリウス・アルバという。アオザキとは時計塔で学友だった。
 ルーンでも人形でも私は彼女より先に専攻し、協会で私を知らぬ者はいないだろうね。
 今与えられている役目はドイツ軍将校らしいが…」
やはりドイツ軍だったのか。
軍の腕章はハーケンクロイツだから、ナチスドイツとは思っていたけど。

「それで、ナチスドイツがわざわざこの遺跡に何のようだ?」
式は憮然と言い放った。その言い方からすると、展開をもっと早くしたいようだった。

「もちろんこの遺跡に眠る美術品を本国に持ち帰るに決まってるじゃないか! 芸術品として扱うのも、流して軍資金にするのもこっちの勝手さ」
そういうとアルバは片方の手をポケットに入れ、もう一方の手で指を鳴らす。

「さあ、こいつらの武器をとりあげ、おとなしくさせるんだ」
「Ja Vohr」
そして彼の後ろの軍人たちが敬礼すると、銃を持ったままこっちに近づいてくる。

「…どうするのよ式。このままじゃ私たち殺されるわよ」
わたしは声を落としてそう式に言った。
だが、彼女は首をわずかに振る。

「こっちには幹也がいるんだぞ。それに相手は銃をもった軍隊だ。いくらオレたちならどうかできても、幹也に弾が当たったら終わりだ」
「…っ!」
やはりこの数十人を一斉に倒すすべはないか。
それにおとなしくさせると言う事は、まだ殺される心配はないと言う事だろう。

「隙を見つければこっちは戦力が5人だ。オレ、織、鮮花、藤乃、白純里緒。玄霧皐月と巴は保留。武器を奪われた軍人と幹也は除外してな。
 あの赤い魔術師を倒せばどうにかなるだろ」
「…くやしいけど今はそうするしかないか…」

ほどなくして、英国兵はその銃を、式と織はそのナイフを没収された。
アルバは遺跡の中を見てまわっていたので私の手袋に関しては何も言わなかった。

「さて、では諸君にはこの石棺と宝物庫への扉を開けてもらおうか」
その行程が終わるとアルバはこう言い出す。
抜け目なく、没収した武器は外に運ばれてしまった。

「僕たちに最後のトラップにかかってもらうって言うのか?」
発言したのは意外にも幹也だった。
それはアルバにとっても意外だったようで、軽く驚いている。

「ほう! やはりアオザキの弟子は賢いな。その通りだ。アオザキに復讐する前にトラップであっけなくリタイアなどごめんだからな」
そこ「アオザキの弟子」の部分は気になるけれども、ある意味ではその通りかもしれない。

「では適当にこの辺りから分けるか。オイ、この右半分を連れて行け」
え? この辺り?
アルバが指し示したのは丁度真ん中あたり。適当なのだから真ん中で分けるのは当然だろう。
問題は、わたしや式たちがこっちで幹也があっちにいると言う事。

「ちょっと! 何でわたしが式と一緒で幹也と別…!」
「おい、あきらめろよ。これ以上話をややこしくするな」
ぐ…っ!
式の言っている事は限りなく正論だけれども、やっぱり納得いかないものは納得いかない。
と、式は幹也側になっている織…だったと思う…を見つめる。

「織、幹也の事頼むぞ」「式、コクトーの事任せておけよ」
そして、同時に言葉を放つ。
目を開いて見つめ合う2人。どちらの顔も少し赤く染まっている。
とーっても腹立たしいと言うか腹立たしいと言うか腹立たしいと言うか!


   /幹也

 式や鮮花たちは宝物庫の方に連れて行かれて、僕らは石棺の方をあける事になった。
石棺に入っているのは当然遺跡の持ち主である王だろう。他にも装飾品とかは入っているかもしれないけれども。
残ったメンバーは僕、織、幻霧さん、巴、藤乃ちゃん、それから英国兵が5人だった。

「せーの…!」
アヌビス像の真下にしっかりと納められた石棺を10人がかりでようやく抜き出す。
みればみるほどそれは立派なものだけれども、厳重に閉まってあった。

それはまるで、外からあばかれたいためではなく、内から抜け出させないために。

「これ典型的な展開からすると、開けたとたんに硫酸とかが出てくるんじゃなかったっけ?」
僕はそれを指差してそう言う。

 とたんに固まる一行。
まあ、誰だって死ぬと分かっていてて手をつけようとは思わないだろうし。

「玄霧さん、どうにかできないんですか?」
「できても「何もするな」と言われては彼女の協力者としてはどうにもできないよ」
そういうとは思っていたけれども、やはりこの人はこの『物語』においては『中立』のようだ。
あくまでそこにいるだけ。ある程度の協力はするけれども、『物語』に深くかかわろうとはしない。

「あの、先輩」
と、おそるおそる藤乃ちゃんが手をあげる。
周りにはまだドイツ軍人が銃を構えているからかもしれないけど、その手は若干震えている。

「私ならどうにかできると思うのですけど」
「それってこの石棺を壊すって事?」
歪曲なら確かにトラップを気にせず石棺を開けることができる。
…ただしその文化遺産の棺は破壊されるけれども。

「それはちょっとまずいんじゃないか?」
「あ、いえ。透視を使えばトラップがあるかを確かめられるんじゃないかと」
「あ」
なるほど。いくら巧みなトラップだろうと、何かしらの痕跡はあるはずだ。
透視をすればトラップなんて一発で見破れるはずだ。
でもそれって…

「アドベンチャーものとしては卑怯な気もするけど…」
「コクトー、今はそんな事言ってる場合じゃないだろ」
するどいつっこみをどうも、織。


「…何もありません。ただ石棺が何重にもあって、中に人が見えます」
「と言う事はトラップが入る余地はない、か。ちょっと意外だね」
透視を終えて目元を押さえる藤乃ちゃん。
少しふらつく体を僕は支える事に。

「おつかれ、藤乃ちゃん」
「いえ…、大丈夫です」
にこっと笑う藤乃ちゃんだけれども、その表情は疲れに満ちていた。
いくら安全確認のためとは言え、つかれさせてしまうのは申し訳なかった。

「じゃあ君たちは休んでいてくれ。あとは僕らがやっておくから」
そう言って玄霧は部下の英国兵に指示を出す。
屈強な男達が石棺の隙間をバーで広げていく。
…その格好を見てると工事現場のおじさんたちに見えてならない。

「よし、第一の石棺はこれで外れた…」

 とたん、何か霧状のものが全方向に噴出された。

「うおああっ!」
「ぎゃああっ!」
うめく英国兵。彼らはその霧状のものがかかったところを押さえて転げまわっている。
多分彼らを襲ったのは酸性の物質なんだろう。

本来ならこの惨劇に憤るか驚かなけきゃならないのかもしれない。
しかし、不謹慎だけど僕が真っ先に感じた事は、

「やっぱり」
だったりする。
だってこの世界を創ったのは橙子さんだ。そう簡単に行くわけないって。
しかも彼らの様子は典型的その他大勢のやられ方に見えてしまう。

「空間と空間のはざまにトラップを設置ですか。これでは物理要素しか見えない透視能力では確認のしようがない。
 そう悲観する事ではありませんよ浅上君。人形師が貴女の能力を知った上でわざわざそのような対策を取ったのですから」
と、玄霧さんは淡々と語るけれども藤乃ちゃんのショックは大きい。
なにしろ、自分が安全だと言ったものが安全でなかったのだ。ショックしない方がおかしい。

「黒桐さん、浅上君は私がショックを軽くしておきますから、君たちは続きをよろしくお願いします」
「…」
僕は織や巴と顔を見合わせる。

「どうするんだ?」
「やるしかないだろ。そうしないと先に進まないんだから」
巴と織の会話は確かに事実だけども、とてもくらーい現実を表してる気がするけど。

「でもまだ1個目だぞ。またトラップがあったらどうするんだよ」
「うーん、橙子さんの性格から言って同じ場所に二度トラップを仕かける事があるのかなぁ…」
思った事をそのまま口にするけど、全く自信がない。
何しろ、今まで橙子さんは裏を裏をって行ってくれたし。

「…ならもうこれしかないだろ」
「「これ?」」
僕と織の言葉に、にやっと巴は笑う。


結局、どうせこれだって橙子さんが創ったものだということで石棺はあっさりと破壊される事になった。
織は式と違って『視えてない』らしいので、結局藤乃ちゃんがする事になった。
ごめんね藤乃ちゃん。でも織たちを考えるとそうするしかないんだ。


 そして、石棺の残骸から出てきたのは、包帯でぐるぐる巻きにされたミイラと装飾品の数々。
それは美術館でしか見た事のないような高価なもので、その時代を表していた。

「すごい…」
ドイツ兵の誰かがそんな事を口にする。
僕も思わずそう言いたくなるほど、それは目をみはるものだった。
これが今の状況じゃなければもっと感動できただろうに。

「さあ、運ぶぞ」
「中尉殿、ミイラの方はどうします?」
「当然保存もしっかりして我が祖国に運ぶ。これは歴史的な大発見だからな」
僕達はまた銃を向けられ、少し離れたところに座らされてしまう。
その間にドイツ兵がガレキを取り除き、その宝の数々を運んでいく。
その扱いは荒く、いつ傷ついてもおかしくないような感じだった。
そして周りにあったものを片付けおわり、残ったのはミイラとそのミイラが身に着けているだろう宝石などの数々。

「よし、ミイラを運んだらこいつらはもう用済みだ。殺してしまえ」
「Ja Vohr」
う、確かにもうトラップなんてないから僕らは用済みになってしまうだろう。
ならはむかわれる前に殺してしまうのがベターだ。
でも橙子さんが脚本を書いているにしてはそれはないんじゃないかと思う。
つまり、こっちが何とかして脱出するか、何か起こるか。

「コクトー、どうする? 今ならオレだけでもあいつらを倒せそうだけど」
「……もうちょっと様子を見よう」
脱出するとしたら織が主戦力になって強行突破するぐらいしかないだろう。
ここにはあの赤い魔術師もいないし(式たちの方に行ってしまった)、相手の人数も少なく大体7,8人。
なら強行突破できなくもないけど…。

「…織はここで何か起こると思うか、こっちが行動しなくちゃいけないのか、どっちだと思う?」
「……オレ式やコクトーと違って橙子の事知らないし、何とも言えないな」
あ、そうか。この中で橙子さんを知っているのは玄霧さんと藤乃ちゃんだけか。
ならもしかして…。

「僕に決めろと?」
「そう言うのは主役が考えるもんだろ。コクトー」
う、それはそうなんだけど…。
しばし考える。

「…ドイツ兵があのミイラを運ぼうとして持ち上げたら行動に移ろう。それなら大丈夫なはずだ」
そして、僕はそう判断を下した。
橙子さんの脚本ではドイツ兵が残った『ミイラ男』をどうにかするのかもしれない。それならここに残ってもゲームオーバーになるだけだ。
多分それで死ぬ事はないだろうけど、そうなるのはとても癪だ。

「分かった。この人数ならオレ1人でなんとかなるからな」
「おい両儀。おまえおいしいところ持ってく気かよ。俺にもやらせろって」
うなづく織に異議を唱える巴。
とにかくこれで大丈夫なはずだ。

 ドイツ兵は担架のようなものを持ってきて、地面に置く。
そしてミイラに2人の兵士が手をかけて持ち上げ…なかった。


「――粛」


その言葉1つで、頭を持ち上げようとしていた1人が。

「――粛」

もう一言で足を持ち上げようとしていた1人が、

完全につぶされていた。

「…っ!」
息を呑む。
おそらくそうしなかったのはこの場では玄霧さんだけだろう。

 そう、確かにあのミイラがそうつぶやき、何らかの動作をしたのだ。

「蒼崎、これがおまえが私に課した役割か」
不意に、ミイラが上半身を上げる。
そして、包帯が伸びたかと思うと、それはあっさりと引きちぎられた。

「う…うわあっ!」
ドイツ軍の中尉が機関銃をそのミイラに対して発砲する。
他の生き残ったドイツ兵もミイラに対して発砲した。

「不倶、」
その一言で金属の弾は外され、

「金剛、」
その言葉でミイラの雰囲気が変わり、

「蛇蝎、」
その言葉でミイラの何かが止まった。
そして、

「、頂経」
一瞬にしてドイツ兵は全滅を遂げた。

 王の間は一瞬にして静寂につつまれた。
誰もが言葉を失うこの時、ミイラはただ己に巻かれている包帯をとっていく。

「よかろう、なら私はそれを全うするまでだ。この世界に両儀式がいるのならば、その体、私が貰い受ける」
そして、そこから現れた男性には見覚えがあった。
だけど、あの後彼がどんな事をして、その結果どうなったかは橙子さんがおおざっぱにしか言ってくれなかったのであまり知らない。

 でもそんな僕にも分かる事はある。
彼が活動を始めた瞬間、この部屋の空気が一変した。

「荒耶宗蓮…!」
巴がそう言って彼、荒耶を睨みつける。

 そう、そこにはあの時の人がそのまま立っていた。


   /式

「アオザキ、ここまでするか…?」
アルバの奴はこの部屋に入るなりそんな事を言った。
鮮花のやつも白純里緒も同じようにただそれを眺めていた。
が、私にとってはどうでもいい。

ただ本当にテレビでしか見ないような財宝の数々が目の前にあるだけの話だ。

 黄金の犬の像、黄金の鷹の像、黄金の剣に鞘、黄金の杖、黄金の金貨、宝石がちりばめられた王冠。
この一部分だけで幹也が橙子にこき使われる事なく一生過ごせるぐらいの財がある。

「これ本物よ…。すごい…」
鮮花はドイツ兵に銃を突きつけられているというのに宝の物色を始めている。
ドイツ兵もイギリス兵も、考古学者までそれに目を奪われてしまっていた。
興味なしといった感じなのは私とアルバぐらいだ。

「なあアルバ」
「なんだ?」
私はその隙にこいつから情報を聞きだす事にした。

「おまえトウコのやつからこの先の話聞いてないのか?」
「この先の話?」
「玄霧皐月のやつは知ってたみたいだからな。おまえはどうなんだ?」
橙子を出し抜くと言っていたこいつだ。
少しぐらいなら情報を聞きだせるはずだ。

「さてね、他の奴らはどうだかしらないけど、私は知らないな。知ったら面白くない」
「そう、か」
やはりしゃべりそうなやつには教えていないか。
この世界を構成している魔術師は4人。橙子と玄霧皐月、こいつ、それからあの白いやつか。
だけど製作者側のそいつらも役割を持ってこの話に参加している。
ならあの白いのが出てくるまで待つしか…。

「ん?」
まてよ。今は4人だろ?
だとしたら…。

「おい」
「だからなんだ?」
「まさかとは思うが…」
いや、まさかではないだろう。
橙子の正確からすると、絶対にあいつは復活しているはずだ。


「荒耶のやつが最後の1人か?」


「ああそうだ。私が見たのはゴドーワードを除く3人だったからな」
にやつきながらアルバは言ってくるが、後半の方は全く耳に入らなかった。

 あいつが、復活している。
あの、全ての元凶が…!

「ならあの王は荒耶なのか…!?」
橙子の奴の台詞の中に『ミイラ男』の単語があった。
なら、あの石棺に入った王のミイラが荒耶かもしれない。

「さあな。そうであってもおかしくはないと思うがね」
「幹也…!」
今にでも飛び出して幹也のもとにかけつけたい衝動をこらえ、拳を握り締める。

 敵の戦力は魔術師のアルバと銃を構えた兵士が12人。こっちには鮮花も白純里緒もいるが、確実な突破は難しいだろう。
それに、幹也の下には織がいる。

 正直なところ、織が幹也のもとにいるというのがなければ状況をふまえないで飛び出していたかもしれない。

「しかし…、私はこんな金属などどうでもよかったんだけどね。やはりオートマタに任せていないで私の方があっちにいるべきだったかな?」
そう言いながら金の硬貨の山を蹴り上げる。
オートマタとは多分あのエキストラのドイツ軍人の事だろう。

「少佐殿!」
と、奥の方から偵察の軍人が戻ってくる。

「何だね? 騒々しいな」
「奥にまだ部屋があるようです!」
「奥に部屋が?」
いぶかしげに眉を動かすアルバ。
と、不意に彼は笑い出す。

「なるほどね! さすがと言うかおそるべしと言うか! 大口をたたくだけあってこってるじゃないかアオザキ!」
…何のことだかは分からないが、こいつの私事だろう。

 銃を突きつけられ、私たちが向かったのはその奥だった。
そこにあったのは壁。一面に絵文字が書かれていたがそんな事はどうでもいい。
ただ、前にある一見壁だが注意してみるとそこにあったのは石の扉だ。
だけど…

「これは…?」
それを一目見ただけで私はそれの異質性に気づいた。
これは、外界と内界を遮断する結界が張られている、と。

「魔術的な結界のようだね。この巧みなものはおそらくアラヤのものか。と言う事はあの棺に入っていたのがアオザキ本人か。しくじったかな?」
私にはそれが在る事は分かってもそれが誰のものかまで分かる道理はない。
荒耶とこいつは仲間なのだから、分かっても当然だろう。

「トウコの奴は高みの見物なんて事はないのか?」
「まさか。アオザキは興味を持たないものは全く意識を向けないが、興味を持ったものにはいくらでもつぎ込むからな。どういった理由でこんな世界
 を作ったかは知らないが、やつは間違いなく参加しているだろうね」
だからこそ、付け入る隙はあると付け加えたが正直どうだっていい。
とにかく、目の前にある結界は荒耶のもので、中にある何かを守っているのは間違いない。
なら、

「ふっ!」
一呼吸でそこいらにあった黄金の剣を用い、結界にある死を斬る。

 霧散するイメージはなかったけれど、確かにあったその結界は消失した。
それに驚きの声を漏らすのはアルバだけで、鮮花は無表情、他の奴は何をしたのか分かっていないようだ。

「『直死』、か。これではあの化け物までもがやられるわけだ」
「御託はいい。早く入るぞ」
あと目の前にあるのは石の扉だけだ。別段恐れる事もない。

「ちょっと待て! この先に何があるのか分かったものじゃないんだぞ! せめて扉部分の文字の解読を…!」
とその他大勢のうちの1人、考古学者が言ってくるがどうでもいい。
中にいるのが荒耶なら、アルバともども殺せばこのばかばかしい話も終わりだ。

「そうよ式。こういった話だと扉を開けた瞬間に何かが復活するって事なんだから」
と無表情に語る鮮花。
復活しないと物語が進まなくなって永久にこの世界から抜け出せないなんてごめんなんだけれども。
いや、橙子の事だから脚本変更して無理に何かしら起こすんじゃないか?

「なら勝手にしろ。その間に『ミイラ男』が復活して幹也がどうなっても知らないからな」
そう言いながら私は黄金の硬貨の山に体をあずける。
考古学者は真剣に扉の絵文字とにらめっこしている。

「ふむ、『傀儡師なる者、ここに封印す。かの者…』」
「「「傀儡師!?」」」
思わず私は起き上がって大声をあげてしまう。
しかも鮮花とアルバと同じタイミングに声を発したようだ。

「って事はこの中にいるのは…?」
「ああ、間違いないな」
私は考古学者をどかした後、即行で扉を殺した。

「中にいるのはトウコだ」
崩れる扉。舞い上がるほこり。
そしてその先にいたのは…。

「「え?」」
私と鮮花は同時に声をあげた。

広さにしておよそ宝物庫と同じぐらい。野球場の野球をやる部分ぐらいだろうか。
その中には何もなかった。ただの空洞。
壁は宝物庫と同じように金メッキがされていて、文字が一面に彫られている。中には絵もあるほどだ。
そして柱があるけれどもそれの装飾もこっている。床にも模様が書いてあるけれども何だかは分からない。

そして、中心に向かって結界が幾重にも張られていて、その中心には人がいた。
高価そうな椅子に座るその女は年は私や幹也と同じかもう少し下。髪は黒で長髪。あくまで凛とした物腰。ただ目をつぶって座っていた。
玲瓏、との表現まで当てはまりそうだ。
服は…明らかにこの時代や第二次世界大戦中のものではない。

「式、誰だか分かる?」
「…見た事ある気もするけど…」
そう、どこかでその女は見た事がある。ただ、微動だにしないからそのしぐさで判断する事ができない。
てっきりあの表現からすると橙子本人がいるものとばかり思ったんだが…。

「これは何の真似だ?」
と、アルバは部屋に入るなりその女にそう言う。
まるで長年の友人のように。

「これも何らかの演出なのかい? それともしわが気になりだしたとか?」
「…やっぱり最初に分かったのはアルバだったかー」
と、その女はその言葉を受けて立ち上がる。
若干顔がひきつっているのは気のせいだろう。
そのしぐさで、私にもそいつが誰だかが分かった。

「え…!? ちょ、どういうことよ!」
鮮花は声をあげて抗議するけど、私にだってしぐさのクセで分かったようなものだ。
鮮花にとっては誰かも分からないぐらい、女はあいつとは別人だ。

「鮮花、あいつはトウコだ」
「え?」
目を見開いてこっちとあっちを見比べる鮮花。
信じられない気持ちも分からないでもないけど。

「うそでしょう…? だって橙子さんは…」
「ああ、おまえの言いたい事は分かる。でもあそこにいるのは間違いなくトウコだ」
信じられない、といった顔をする鮮花に対して私は断言した。

 そう、あそこにいるのは間違いなく橙子だった。


   /式

「まいったな。てっきりおまえたちは王の間に残るかと思ったから中盤の今に出てきたって言うのに」
「そうは言っているが、所詮はおまえの脚本のうちだろう」
と話し出す橙子とアルバ。
橙子を知っている者の中で未だに現状を理解できてないのは鮮花だけだ。

「ど…どういうことなのよ。式、教えなさいよ」
「……」
それは私にも分からない。それに私にとっては彼女が橙子だという事実さえあればそれでいい。

「おいおい、君も見たところアオザキの弟子だろう。だが今回私はとても気分がいいからね、説明してやろうじゃないか」
いかにもうんざりといった感じにアルバは言い放つ。
そのアルバに対して橙子は何も反応を示さない。

「実は彼女はアオザキの娘……うおっ!?」
アルバの言葉が終わる前に何かがあさっての方向から飛んでくる。
アルバがそれを変な格好でかわす時に出た声だ。
見ると反対方向には矢がささっていた。石の壁に。

「アオザキ! 復活させておいてまた私を殺す気か!」
「まさか。おまえがあの程度で死ぬようなものか。だがまじめに説明ぐらいはして欲しいものだね」
そう言う橙子は全く煙草を吸う気配がない。
それはあの姿が影響しているのか?
赤い魔術師はため息をつく。

「…なら自分の口から弟子に教えたらどうかい? 私の口より説得力があるだろ……」
「今はそんな事どうでもいい」
アルバの言葉をさえぎって、私は剣を持ちながら橙子へと近づいていく。
橙子をさえぎっているのは何重もの結界だけ。簡単なトラップもないだろう。

「トウコ、今すぐこれを止めろ」
「このツアーを? なぜ?」
「どうせ物語から言ってもおまえがラスボスだろ。ならいつ倒したって問題ないだろ」
そう言って私は剣を一閃して結界を殺す。
今度のは鏡のように割れる印象を持ったけど正直どうでもいい。
そのまま次の結界を殺すために橙子に近づく…

「なっ…!」
事ができなかった。
まるで空気が凍ったかのように寒さ、いや、痛さを感じる。
とっさにその場から飛びのき、元の位置に戻って確認する。

「これは…!?」
「やはり結界を斬ってきたか…」
そう、確かに結界は殺した。今も存在していない。
だと言うのに今感じた悪寒は一体なんだったんだ?
…まさか。

「そう、直死なら間違いなくこの結界は破壊できる。荒耶の手を借りていないから二重にもされていないしね。だがなぜ破壊しない?」
私は思わず奥歯をかみしめる。
その間に私が壊した結界が再構築されていく。

 流れる時間。その間誰もしゃべろうとしない。
私は再び結界を殺すのをためらっていた。
何重になっていようと、再構築される前にことごとく破壊して橙子に迫る事はできる。
だけど、あの直感的に感じたものの事を考えるともう少し様子を見たい。

「橙子さん、この世界は一体何なんですか」
唐突に、鮮花はそうきりだしてきた。
外見が私たちと同じぐらいでも、その雰囲気は橙子のままな彼女はそういえばそうだなと言いながらうなづく。

「鮮花は式と違って過程を知っておいた方がいいだろうな。手短にだが話そう」
そう言って軽くせきをして、しゃべりだした。

「まずとある魔術師のもつ固有結界を利用して荒耶、おまえ、ゴドーワードらを復活させた」
「それです! まずそこから納得いきません! いくら固有結界、魔法に近い魔術だろうと死者の蘇生は…!」
「その固有結界は簡潔にいうなら『噂を具現化する』ものだからだ」
「噂の具現化、だと?」
アルバがここで憤りを見せてくる。
その憤り方は尋常ではない。

「それではまるで…!」
「ほう、『祟り』を知っていたか。だがアルバ。おまえの考えている『祟り』とあいつとは違う存在なんだよ。
 詳しい事ははぶくが、あれは『祟り』と『悪夢』の混合であって、具現化した存在がその術者すら殺す可能性もあるものだ。
 だがその分完全な形で再現されているだろう?」
「…っ! 確かに生きていた頃となんら遜色はない」

「さて、問題はその固有結界の維持だ。あいつに聞いた話では『祟り』の展開には膨大な方程式が必要のようでな。
 その固有結界を維持することを可能としたのが空間のエキスパート、荒耶だ。何しろいくら固有結界と言っても時間の流れはそのままだ。
 修正をいちいち受けていたのでは一晩がせいぜいだからな。荒耶には世界からの修正を踏み倒すのに奮闘してもらったぞ」
こんな話はドイツ兵やイギリス兵には何を言っているかさっぱりだろう。私も正直どうでもいい。

「そしてこのエジプトのような世界を本物のように感じさせているのは当然ゴドーワード。式に空間を破壊されないようにしているのも彼だ。
 いくら精巧に作っても破壊されたらおしまいなんでね。
 次にこの世界のエキストラやクリーチャーを創ったのは私とアルバだ。さすがにこれはゴドーワードの手でもごまかしが効きそうにないんでね」
それはそうだろう。いくら玄霧が「そこに人がいる」ように言葉を発した所で何らかの違和感は持つはずだ。
すなわち、人間っぽくないと。

「詳しく言うともっと細かい設定があるが、大雑把なら以上だが何か質問は?」
「いえ、この世界がどれだけすごいと言うのを実感させられました」
「それはそうだろう。これだけの優秀な魔術師が集まったのだからな」
問題はその優秀な魔術師が集まって創った世界がこれと言う事だけど。

「それでトウコ、おまえの役目は何なんだ?」
正直この世界がどうやって創られたかなんてどうでもいい。
大事なのは、どうやってこの世界から出るか、だ。

「さっきおまえが正解を言っていたじゃないか」
「そう、か」
橙子がラスボスか。
ならアルバの言ったことだけど、ナイル川にすまきにして叩き込むぐらいはするか。

「ああそうだ、いい忘れたことがあったが…」
私は橙子に向かって走り出す。
一閃でまず再構築された結界を。

「私の正体だが、ラスボスで合ってはいるが完璧な正解ではなかったんだったな」
一閃で次の結界を。

「間抜けな軍人と考古学者がどえらいものの封印を解く。アドベンチャーではそんなの常識だぞ」
「な…」
一閃で最後の結界を破壊していた。
とたんに橙子は笑みを浮かべる。

「この結界は私を守るものではない。これは私から守るためのものだったんだよ、式。もっと映画を見た方がいいな」
そのとたん、部屋の空気が一変した。
そしてわずかに振動しだし、またそれは収まる。

「この姿だって服や世界観に合わせてわざわざ変えてきたんだ。だというのにこんな所でやられるわけにはいかないだろう?」
と、橙子は右手をこちらの方に出しながらバックステップで距離をとる。
距離を詰めようとする私の前に立ちはだかったのは、黒き平面の猫だった。

「いや、これ猫か?」
猫といわれれば猫だろうけど、それ以外にも見えるような…。

「そうそう、私の詳しい設定を言ってなかったな」
その猫を殺している間に橙子は指を鳴らした。

「今の私は人形師ではなく傀儡師。つまり、王や他のものを復活させるものだよ」
直後、後ろの方から悲鳴が聞こえてくる。
思わず振り向くとそこにいたのは…、

「ゾ…ゾンビ?」
「ミイラ兵と呼んで欲しいな。エジプトものなんだから」
悲鳴をあげたのはイギリス兵やドイツ兵。

彼らの目の前にいるのは、幾人もの死体だった。

それぞれが剣を持って兵士を斬り殺している。
動きははっきり言ってこの前テレビで見たアメリカの映画のよりはるかに機敏で、一介の戦士といった感じだ。
と言っても銃で応戦しているのもプロの兵隊。簡単にはやられていない。

「アオザキ…! あれは私が創ったものじゃないか! それを私にけしかけるのか!?」
「さあ? それはおまえが今後とる選択次第じゃないのか? 私たちにつけばそうでなくなるし、他なら戦うしかないな」
既に橙子と私との間には十数体ものミイラ兵とやらが立ちふさがっている。
これでは全部倒している頃には逃げられてしまうだろう。

だが今はそんな事どうでもよかった。
何しろあいつはこういった。
「王や他のものを復活させるもの」と。

つまり、

「式。さぼってないで手伝いなさいよ」
そう言ってくるのは魔術でそのミイラ兵に応戦する鮮花。
やけにおちついているのはミイラ兵たちより鮮花たちの方が圧倒しているからだろう。

「早くここを突破するぞ」
「え?」
剣を一閃してミイラ兵を両断する。
相手は確かに戦士の腕を持っているけれども、対処できないほどではない。

「突破って…このミイラの大軍を?」
「ああそうだ」
私は断言して部屋を脱出し、宝物庫に出る。
思ったとおり、そこにはさっきまでいなかったミイラであふれている。
そして、

「なんだ先輩、そこにいたのか」
「両儀、それはひどいんじゃないか?」
部屋に入らなかった白純里緒と考古学者と数人のドイツ兵が戦っていた。
でも正直これもどうでもいい。

「ちょっと式。そんなに急いでどこに行く気よ」
「決まってるだろ。幹也のところに戻るんだよ」
そう、一刻も早くあいつの所にいかなきゃならない。
なにしろ、

「分かってるだろ? あいつのいるところにある王が五人目の魔術師だって」
「あ…っ!」

 そう、橙子のやつがここにいたなら、王は間違いなく荒耶。
だとしたら、向こうにいる幹也が危ない。




to be continued…


第5話に続く

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 まず書いてみて一言、ギャグ少ない…。
ようやく続編が書けましたよこの話。この世界を創った手順はなるべく矛盾がないようにしましたが、かなりこじつけっぽいです…。
迷っていた最大の事柄は橙子さんを味方にするか敵にするか。迷って敵にしました。よって明確な敵は荒耶と橙子さんで2人。
アルバは…どっちにしようかはまだ迷っています。ホルホースみたいになるかもしれませんし。
次の場面は脱出です。それでは。
  2006年8月11日


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