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/鮮花
「で、何か用なの?」
私は目の前でフォークを眺めている式に言ってやる。
場所はアーネンエルベ。私がイライラしながら外をうろついていると、そこにものすごくタイミングが悪いのか、式に出くわしてしまった。
そしてなぜそんな事を言い出したのかは分からないが、式が少しゆっくり話せるところで落ち着かないかと言い出したので、この喫茶店に来たのだ。
鮮花はついこの間来て気に入ってしまい、今度また来ようと言っていたが、それはまだ果たされていない。
店の中は天気が快晴なのだろう、かなり混み合っていた。
私達は偶然にもテーブルが開いたところにやってきたので、すぐに座れたが、席待ちで列をなしていた。
見ると私達以外にも10代が多い事が分かる。一人だけはさすがにいないようだけれども。
「しかし先輩がここを知っているとは驚きましたよ……」
「同感、てっきり腹がふくれる店しか知らないとばっかり――」
「あ、ひどいです二人とも。わたしがカレーなどを食べる行為に満足する女だと思ってたんですか?」
すぐそばのテーブルでは3人組がそんな会話を交わして笑い声をあげていた。
本当にいつもどおりの日常を送っているようだ。
再び式に視線を移す。
中性的で整った顔立ち、そしてその和服は否応なしに店の視線をひきつけていた。
そんな私も一瞬凛々しいと思ってしまったのが悔しい。
「分かってるだろ? オレがお前を呼び出す用件ぐらい」
式はあっさりとそんな台詞を言って腕を組んだ。
どうも彼女はここの食べ物や飲み物より、この店自体の雰囲気を好んでいるようで、注文したものもケーキ一つだけだった。
「橙子師の提案ですか? でも私、あなたと話すことなんてないんですけど」
「オレはある。お前にははっきりと言ってなかったからな」
店のウェイトレスが私たちが注文していた品をトレイに乗せて運んできた。
式の前にガトーショコラを、私の前にパフェを置いてうやうやしく一礼する。
はっきりと言わなければならないこと?
式が私にはっきりと宣言する事など簡単に分かってしまう。
私は取り繕いもせずに口元に笑みを浮かべた。
「宣戦布告ね、違う?」
「察しがいいな」
式は一息入れ、こちらを見すえる。
「幹也と行くのはオレ一人でいい。分かったな?」
「そちらこそ、兄さんと旅行へ行くのは私1人で十分です。あなたにも藤乃にもやらせはしないわ」
なぜか周りの人たちがこちらの方を見て若干後ろに下がっている気がするが、所詮気がするだけだ。
「……まあいいわ、それよりあんたはどんな方法をとるのよ」
これ以上不毛な会話を続けても意味がないので、私は話題を変えることにした。
あの橙子師をはめるとなれば生半可なものでは通用しないどころか返り討ちにあうのが当たり前になるだろう。
橙子師と幹也の会話をたまに聞く限り、ほぼ一方的に橙子師が詳しい事をしゃべる有様だった。その知識量は半端じゃない。
だとすると無難なもので納得させるか、橙子師をぎゃふんと言わせるかのどちらがいいのかは…。
「あいつをぎゃふんと言わせる」
「えっ!?」
私は思わず驚愕の声を上げてしまった。
あの橙子師を欺き、ぎゃふんと言わせるなんて早々できたものじゃない。
風の噂では協会時代にそうしようとした人物は今でもトラウマを抱えているとか。
そんな彼女をはめる……か……。
「本人の許可をもらって嫌がらせができるんだ。それを利用しない手なんてないだろ?」
「それはそうだけど……」
「お前もあいつの理不尽さにあきれてるんじゃなかったのか? 一石二鳥じゃないか」
「……っ!」
確かに式の言っている事は正しい。正しいけど現実的じゃあない事ぐらいは私にだって分かる。
しばらく考え込んでしまったが、やはり私の結論は変わらなかった。
「私は兄さんとの旅行を優先させます。確かにそれも魅力的ですが……」
「そうか、分かった。じゃあな」
式はそっけなく立ち上がって颯爽と店を後にした。
「……ってあいつ勘定踏み倒しやがった!」
今さら言っても仕方がないので、後で請求するとして私は追加注文をオーダーする事にした。
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