/開会式
「全く…とんだ誤算でした。」
シエルは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
今彼女たちがいるのは、『フードファイターズ』の収録会場。
周りにいるのはおそらく大食い自慢達だろう。その数ざっと300人近く。
だが空腹を通り越して餓死寸前まで行った自分の敵ではない。
つまり、原因は別にあった。
「誤算って…何がですか?」
その誤算の原因が不思議そうにそう問いかけてくる。
シエルの後ろにいるのは、いつも見ている制服姿ではない二人の知り合い、遠野志貴と乾有彦だった。
はははと有彦は笑い声をあげる。
「まさか先輩、この人数がってわけじゃないですよね。何ていっても賞金バスターって恐れられたセンパ…げふうっ!」
世界を制する左フックが有彦の腹を直撃し、痙攣を起こしながら彼は倒れこんだ。
放った本人は、有彦君来てましたっけ?の勢いで話し出す。
「だっていくらわたしが大食いだからって知り合いの前、特にこんな公共の場でそんな姿を…。」
「だから先輩の知名度が全国区になるだけで他は別に何の代わりも…ぶへえっ!」
剣崎順も真っ青な右ストレートが顔面を直撃、有彦は鼻血を出しながら仰向けに倒れる。
「そろそろやめてください先輩。」
志貴はそんなシエルと有彦の間に立ちはだかった。
「遠野…お前ってやつは…。」
「有彦殴ったぐらいで傷害罪で捕まってほしくないですから。」
「己も敵かーっ!」
有彦の叫びは無視しつつ、志貴はきょろきょろと辺りを見渡す。
「先輩、先輩が手ごわそうって思う人はいますか?」
「敵…ですか?」
はんっ、とまるでここにいる全員を馬鹿にするような態度をとるシエル。
思わず後ろに下がりたくなる衝動を抑えて踏みとどまる志貴。
「こんな店舗宣伝番組にわたしの敵が出てくるはずないじゃないですか。」
「それは大きく出ましたね。エンゼル。」
いきなり志貴の後ろから声が響いてくる。やさしそう、だが知識に満ちた男性の声が。
振り返ると、そこにいたのは年齢はだいたい20代半ば、いかにも文系な体つきに黒ぶちめがねをかけた(イメージキャラ:玄霧皐月)
いかにも無害そうな人だった。
志貴の知らない顔だったが、シエルはそんな彼を見て驚愕の声をあげた。
「プ…プロフェッサー、玄武如月(げんむきさらぎ)!?」
「お久しぶりです。2年ぶりでしょうか、エンゼルシエル。」
「プロフェッサー?エンゼル?」
シエルと玄武という人物とで行われる会話に全くついていけない志貴は疑問詞を浮かべるだけだった。
そんな志貴に気づいてか、シエルが玄武という人物を紹介する。
「遠野くん、彼は玄武如月、通称プロフェッサーです。
こんなみてくれですが、大食いでは世界に名を広めているんですよ。」
「エンゼルは大食い大会での彼女の通称でね。これでも数々の世界大会に名を轟かせたんだよ。」
意外、ではなかったが驚く志貴。
「エンゼルは試合前の優雅さから来ているようなのですが…。わたしはどんな呼ばれ方をしてもかまいませんが。
プロフェッサーは彼の人柄からそう呼ばれています。」
「はあ…。」
聞いてもいない事だがとりあえず相づちをうっておく。
玄武はかなりさわやかな印象を持たせたが、先輩は対して彼への敵意むき出しだった。
「イタリアでのスパゲティ大食い大会の屈辱、今こそ晴らしてあげます…!」
「おや、ですがあなたにそれができますか?」
「ええええーーっ!?」
志貴は思わず大声を上げてしまった。
あの先輩が大食いで負けるなんて、しかもいかにも少食みたいな人に!?
そんな志貴をよそに2人の会話は続く。
「…どういう事です。またわたしが不覚を取るとでも?」
「いえ、どうやら今回の大会は私以外にも来ている人がいるようなのでね…。」
シエルはそう言われると、とりあえず周りを見渡す。
志貴には誰もが同じようにしか見えないが…。
「ビースト…マジシャン…プリンス…ジャンボ…。」
そんな意味不明な単語をつぶやくシエル。
そして360度周り終わると、玄武の襟首を掴んだ。
なだめようとする志貴だったが、それは無駄に終わった。
「どういう事ですか!何で歴戦のファイターがここにいるんですか!」
「どうやらアメリカの大会がノーゲームになったんでこれで決着をつけようと集まったらしいね。」
そんな状況にありながらも淡々と話す玄武。
だが首に血が回らなくなってきているのか、みるみる青ざめていった。
「私たちにとって最大の障害はおそらくギルだろうね。」
「ギル!エンペラーまでここに来ているんですか!」
プリンスやエンペラー、どこかのテニス漫画みたいな肩書きだなーと完全に他人事のように思ってしまう志貴。
隣で鼻にティッシュを詰め込んでいる有彦も同じ感想を抱いているらしく、そんな感じだ。
「あの帝王とまで言われた男までここに来ているとは…完全に誤算でした。」
「私も彼まで来るとは思っていなかったからね。ではお互いがんばりましょう。」
そう言うと玄武は手を上にあげて立ち去っていった。
それを厳しい目つきで見送るシエル。
そしてつぶやいた台詞はこれだった。
「厳しい戦いになりそうです。」
それで…、
「で、何で僕までここにいるんですか?」
「どうせ仕事ないんだろ。ならいいじゃないか。」
疑問詞を浮かべる幹也に対して里緒は気楽にそう返した。
幹也、里緒、学人のいる試合会場は人で一杯になっており、観客も合わせれば千は軽く超えるだろう。
そんな事を思いながら、里緒はあれ?とつぶやく。
「両儀は?あの時は勝手にしろって言ってたけど、近くにデパートもある事だし、ついてくるかなと思ってたんだが…。」
「彼女なら先輩についていく事になった途端に不機嫌になってそれっきりですよ。どう責任持ってくれます?」
「ボクが用意する賞金でどこかにデートしてやれよ。」
あっさり言うけど大丈夫なのか?と幹也は思う。
ざっと彼が見渡しただけでもよくテレビに出てくる大食い自慢ばかりだ。
「大丈夫ですか?よくテレビで見る人ばかりですけど。」
「黒桐くん。ボクの起源はね、“食べる”という事柄だったんだ。」
「それを今言いますか?」
「だから当たり前のように、何かを、食べるしかない。」
「無視ですか。」
まあいいかと再び辺りを見渡す。と、見るからに怪しい格好をした人物が2人いた。
1人はオペラ座の怪人でファントムがしているような格好をしている人物、もう1人は中世の医者みたいな格好をしている人物。
どちらもこの場にふさわしくない姿をしていることだけは間違いなかった。
会場に設置されたステージでは司会の人とアナウンサーが何やら開会式らしきものを行っていた。
もうすぐ試合が始まろうとしている。
一方…、
「どうしたんだセイバー?」
士郎は疑問を浮かべつつ自らのサーヴァントにそう述べた。
開会式もほどほどに終わり、そろそろ一回戦の準備をスタッフが始めていた。
そんな中、セイバーは執拗に辺りを警戒していた。
「何ていうことですか…。ここにはとんでもない人物が大勢います。」
「とんでもない人物…。」
そのフレーズに士郎も警戒を強めた。
こんな千人規模のなか、ライダーのような固有結界を張られたらそれこそ終わりだ。
額から汗がにじみ出る。
「どんな奴がいるんだ…?」
「教会の者、魔術師、それに他のサーヴァントまで来ています。」
「なっ何だってーっ!?」
キバ○シに仮説を述べられたM○Rのみなさんよろしく、士郎はそう大声で言った雰囲気で述べた。
あわてて口を押さえる士郎。どうやら注目はされなかったようだ。
「…どうする…?この場を脱出するか…?」
「いえ、こんな大勢のいる中で何かをするとは思えません。
それに異常があればここの告知は日本中に流れてますから、そこまでするメリットはないでしょう。
ただ用心はしておいてください。何をするかは分かりませんから。」
「わ…分かった。」
こくこくうなづいて顔をひきしめる。
「所でセイバー、結局参加する事にしたのか?」
「…デパートの開店が十時だったのでそれまでの時間つぶしをサクラたちはここでしようとしたので私も結局…。」
「時間つぶしか…。やるからにはこれでも勝負だから優勝までするのかなーと思ったんだけど。」
勝負、と言われて耳が動くセイバー。キッ、と士郎を睨む。
「勝負とあらば優勝をささげるのがサーヴァントです。必ずや賞金をあなたに。」
「あ…そう…?」
日常的な軽いつもりで言ったはずだが、セイバーはそれを真に受けたようだ。
これじゃあ後のデパートはなしだなぁ…と思いながら頭を掻いていると、
「士郎ー。やっほー。」
「ぶっ!」
もし飲み物を口に含んでいたら間違いなくセイバーの顔面に向けて噴射していたに違いない。
その声としゃべり方をやるのは士郎の知る限りただ1人…。
「ふっ藤ねぇ!?」
「ずるいよー、さそってくれないなんてさ。のけもの扱いして。」
「…フードバトルに…女性を?」
頭をもう一度かく。
自分の知る限り、フードバトルに女性を誘うなんてしたらもれなく黄泉平坂にご招待される気がする。
もちろんアレ抜きで。
だがそんな気遣いは全く無用らしい。
「まあ…、セイバーあたりが言ってるかなって思って。」
「シロウ、あまりにそれでは…。」
もちろん言い訳でしかないので何も言えない。
そんなこんなで本戦が始まる…!
/
基本的ルール説明
参加者は400から500人で、勝負は五回行なわれて優勝者を決める。
1回戦は番号1、11、21、…91の10人、2、12、22、…92の10人としていき、計40いくつかにする。
上位4人が2回戦へ(160人から200人)。
2、3回戦はそれお繰り返し、3、4回戦へ(48人から60人→15人から24人)。
ただし相手の重複を避けるため、毎度番号を配りなおし、1から10、11から20…という具合にやっていく。
4回戦は3人でバトルを繰り広げ、1位のみ決勝へ(5人から8人)
決勝に残った者には賞金が与えられるが、順位が高い者の方が金額が高い。
食べるものや勝負方法は試合によって違い、ランダムで選ばれる。
それ以外にも審査員の印象に大きく残った者にも賞金が与えられる。
試合中に戻した場合、反則となり即時失格となる。
1回戦はほぼ予選みたいなもので、ほとんどが生き残る事に成功した。
/2回戦
「あ、どうやらわたし、第一試合からみたいなんで。」
シエルはスタッフがメガホンで言う声を聞いてそうつぶやく。
「先輩、がんばってくださいね。」
「がんばってくださいよ先輩、俺らの代わりに。」
「またまた、しっかりあなた方も勝ち残ってくださいよ。」
志貴と有彦のエールを受け取りながらステージ上のテーブルに座る。
さすがに2回戦ではステージの上でやらないのかと思っていたが、どうやら制限時間を短縮する事でそれを必要としないらしい。
自分の座ったテーブルのメンツを確認する。
誰も見たことがない。これなら勝てる…。勝てる?
眼鏡を外して目をこする。たしか隣にいるのは…。
「プ…プリンス…?」
「おや、これはエンゼル。この私、コルネ・アルを覚えていてくれたか。」
赤マント、金髪に碧眼のその男(イメージキャラ:コルネリウス・アルバ)は笑みを浮かべるが、いい印象を持つはずもない。
シエルは頭を抱えてため息をついた。
「まさかあなたまでこの茶番に参加しているとは…。」
「それは心外だな。私はエンペラーとプロフェッサーを倒せるならどこにだて現れるし、何だって食べるさ。」
余裕に満ちたコルネは、はっはっはと笑いながら席に座った。
「まあいいさ。どうせお前も私も2回戦は楽勝だ。気楽に行こうじゃないか。」
「まあ、そうですね。」
そっけなく言い放つシエル。
ステージの下の方を見ると、志貴と有彦が手をふっている。
「センパーイ。がんばってくださいねー。」
「分かりましたよー。」
シエルはまだ収録が始まっていないのをいい事に、手をふって返事をする。
「こらー士郎ーっ!私の応援もしなさいよーっ!」
シエルの隣にいたのは何のめぐりあわせか、大河だったりする。
「だって藤ねぇだったら2回戦も楽に勝ち進められるでしょー?」
そう口を手で囲って簡単なメガホンがわりにした上でそう述べる士郎。
「…シロウ…。」
「どうしたセイバー?」
真剣な面持ちでセイバーは士郎の体を肘でつつくので、何も言わなくても士郎なら振り返っただろうけど。
「彼女の隣にいる修道服を着た人…。」
大河の番号は10、隣は9のシエルだけしかいない。
数百人いる中でそんなに早い番号を持っているなんて藤ねぇって…と士郎。
「ああ、あの人が教会に属する人…だろ?」
「いえ、それだけではありません。彼女の魔術回路は他の魔術師のそれとは桁違いに高いです。比喩などではなく。」
「それって魔術師でありながら教会に属してるのか、それともただ持ってるだけなのか…。」
「…まあこの大会が無事に終わればいいのですが。もし彼女が何かをするようでしたら私が全力でお守り致します。」
「そんな事にはならないんじゃないか?多分。」
その楽観的な言葉にきょとんとするセイバー。
「ど…どんな根拠があって…!」
「感かな?」
そうだ、シロウならそう言うでしょうね…とセイバー。
『さて、みなさんお待たせ致しました!ただ今より2回戦を開始したいと思います!』
わああっ、とあがる歓声。ステージにはスタッフの人が最初の料理の準備に追われている。
そしているのは女性アナウンサーと男性アナウンサーの2人。男性は渋めの30代、女性は新人をやっと過ぎた辺りか。
歓声がほどほどになった所で咳払いを1つ。
『2回戦の食べ物は、中華料理です!』
「中華料理?」
志貴は思わずつぶやく。
『それでは1番から100番の方々が食べる料理はこちらです!』
ステージの脇には料理人らしき人物と、たくさんの料理が用意されていた。
それは…
「は…春巻き?」
『それでは制限時間は10分です。』
そんな間にも10個ほどの春巻きが挑戦者十名に並べられた。
店紹介やどんな春巻きかを説明しているが、シエルの耳には入ってこなかった。
なけなしの金は電車賃とここまでぶっ倒れないぐらいの食材で使い切った。
狙うは最低賞金がもらえるあたり。
そのためには…!
『では始めてください!』
アナウンサーの笛と同時に勝負が始まった。
独走はやはりプリンスコルネ。だが、それを追いかけるのは…、
「ふっ藤ねぇ速っ!」
驚きと戸惑いが混じった声をあげてしまう士郎。
2位はなんと大河であった。猛烈な勢いで春巻きをたいらげていく。
一方のシエルは周りに視線を移しながら食を進めていた。
現在の順位は5位。ペースも並の人より少し速い程度だ。
「先輩、随分と遅いな…。」
「本当、いつもの先輩らしくない。」
と有彦。
無理もない。いつぞやのカレー10杯制限時間内に食べ終わればタダの時には21杯食べたぐらいだ。
むしろ店の人が泣いてすがりついてこなかったらどうなっていたか…。
序盤はいいペースだった皆だったが、徐々にスピードが落ちてくる。
プリンスコルネは周りを見て、明らかに手を抜き出した。
ただし皆が追いついてこない程度に。
一方の大河、明らかに顔が青ざめだしたがペースはほどほどにあった。
「藤ねぇがんばってくれ!」
「がんばってください!」
と士郎とセイバーが声をかけると、利き腕でない手でグッドサインをして食べ続ける。
『終ー了ー!』
全選手、その声と笛の音で手を止める。
結果、接戦だったが1位:大河、2位:コルネとなり、差が開き団子状態だったが4位:シエルで通過した。
「先輩、随分と遅かったですね。」
「ホント、先輩ならもう少し行くと思ってたんスけど。」
ステージから降りたシエルに志貴と有彦がそう言ってくる。
もちろんそんな事を言うのはシエルの実力を知っているからだ。
シエルはそんな2人に余裕のポーズをとる。
「何言ってるんですか。最初の方から本気をだすはずないでしょう。1回戦もそうでしたし。
ですから5位の人より1個だけ多いようにペースを整えたんです。」
「「え?」」
「先は長いですからね。残念ながら大食いには適していませんから頭脳で勝負です。」
そんなシエルの発言、普通大食いって全力で毎度トライするのかと思いきや…。
「「先輩…、恐ろしい人…!」」
などとガラ○の仮面よろしくそんな事を同時につぶやく志貴と有彦だった。
「すごいじゃないか藤ねぇ!1位通過だよ!」
口を押さえながらステージを降りてくる大河にそう述べる士郎。
青ざめながらもVサインを示す。
「士郎…。」
幽霊でも見たかのように気のない言葉でつぶやく大河。
どうしたんだ?と士郎は耳を大河の口に近づける。
「やっぱ量より質ね…。」
とつぶやくのが聞き取れたぐらいだった。
「衛宮くん、セイバー、こんにちは。勝ち進んでるみたいじゃない。」
と、後ろの方からそんな凛とした声が響いてくる。
そこにいたのは…、
「と、遠坂さんとアーチャー?」
「何でここにいるかって野暮な質問はなしよ。桜がさそってくれたんだから。」
「あ…そうか…。」
皆で行こうと言い出したのは士郎だ。ならば桜が遠坂を呼んでも全くおかしくない。
一方、流石にアーチャーは私服を着込んでいる。ワイシャツ姿も中々とセイバー。
「え?もしかして遠坂も参加するのか?」
「まさか、参加するのはアーチャーだけよ。」
「「アーチャーが!?」」
士郎とセイバーは思いっきりそう言ってしまう。
あわてて人差し指を口の前に持ってきて沈黙を呼びかける遠坂。
周りを見渡すが、どうやら気にしていないようだ。
そのご本人のアーチャーも全く気にしていないようだ。
「…令呪でも使ったのか?」
「使ってないわよ!こんなくだらない事で!」
「でもそのくだらない事に参加させるなんて…。」
「別に気にしていない。マスターに従うのはサーヴァントの定めだからな。」
とアーチャーは言うが、本当なのかな…と士郎。
…まあ自分もサーヴァント参加させてるし、人の事はいえないが。
「そう言えば桜は?」
「ああ、彼女なら「セイバーが大会に出るなら、私も参加してみます」ってライダーと一緒に…。」
「ふーん。あの桜が大食い大会ねー…。」
「…。」
「…。」
「大丈夫かな…?」「大丈夫かしら…?」
そんなこんなで勝負は続く。
シエルや玄武の知っているいわゆる称号を持つ者は実力を見せたり隠したりの差はあったが、勝ち上がっていった。
その実力者を細かに志貴と有彦にシエルは解説した。
「やはり実力者は食べ方が違いますね。全力を出すにしても隠すにしても。」
「うーん…、俺には同じにしか見えないんですけどね…。」
「遠野くん、何を言ってるんですか。全然違いますよ。」
ぼやきに対してすら即行の反応を示すシエルにたじろぐ志貴。
もう次元が違いすぎます…。
と、後ろから何やら殺気がたちこめてくる。
息がつまってくるほどの圧力、それは明らかに志貴とシエルに向けられたものだ。
有彦もこれは感じた事がある。学校の昼休み、先輩と他2人によるにらみ合いでこんな圧力を感じた。
おそるおそる志貴と有彦が振り返ると、そこにいたのは金髪の美女、アルクェイドだった。
「へえ…、私とのデートを断ってどこに行くのかと思ったらシエルといたとはねぇ…。」
「誤解だアルクェイド、有彦だっているじゃないか。デートじゃないぞ。それに先輩と会ったのはまったくの偶然…。」
「でも一緒にいる事実に変わりは無いわよね…?」
頼むから髪が赤くなった時の秋葉と同じ笑いで言わないでくれと志貴は思ったが、無駄だろうなぁーとも同時に思う。
だって目は笑ってない。
「アルクェイド。」
そこにシエルが割り込んでくる。かなり頼もしいが、ここでガチバトはやらないでほしい。
「わたしたちはフードバトルに参加しているんです。あなたの出る幕なんてありませんよ。」
「それはどうかしら。」
え?と疑問詞を浮かべるシエルら3人、アルクェイドが取り出したのは番号、102だった。
「私も参加者よ。これでシエルや志貴をぎゃふんと言わせてやるんだから。」
そう言うとアルクェイドはさっさとステージの方へと向かってしまった。途中で肩を志貴たちに当てつつ。
「…アルクェイド、何か誤解してないか?」
「それが事実だったらよかったんですけどね…。」
はあ、と志貴とシエルはため息をついた。
100番まで終わり、春巻きが片付けられた。101から200はまた別のメニューらしい。
アルクェイドもある程度なら大食いには自身がある。
志貴が学校に行っている昼間、暇つぶしに大食いにトライした事もあった。
絶対にぎゃふんと言わせてやるんだからと決意を固めるアルクェイド。
と、
「おや、真祖の姫君がこのような大会に出てくるとは、意外意外。」
そう述べてくる男が出てくる。
自分を真祖と知っている。それだけでも普通の人物でない事は間違いなかった。
振り返ると、そこにいたのはいかにも温和そうな金髪長身の男性だった。
「あんたは…!」
「これは、私の事を私の事を覚えていてくれたか。左様、称号メイガス、ミハエルだ。」
その男(イメージキャラ:初代ロア)はそう言い放った。
「彼、アルクェイドの知り合いですか?」
志貴がシエルにそう述べてくる。
こくりとうなづいてシエルはそうですと答えた。
「魔術師(メイガス)、ミハエル。その称号の通り魔術師…と言うより手品師です。
フードファイターとしてはあまり知られていませんが、出る大会には優勝、陰の実力者と呼ばれています。」
「でも先輩、アルクェイドの驚きようはちょっと…。」
「手品師でもあり、本物の魔術師でもありますから。と言ってもかなりの変わり者ですから騒ぎを起こす事はないでしょう。」
ときっぱり言い放つが、やっかいな相手が出てきたなという表情だ。
「まさか貴女がこのような戯れに参加なさるとはね…。蛇が倒れたと言うのは本当だったか。」
ミハエルは続ける。
その言葉に目を細めるアルクェイド。睨みつけるような視線で釘を刺した。
「おしゃべりが過ぎると明日はないわよ、メイガス。」
「いやいや、貴女と争う気はありませんよ。可憐な戦士もいることだし。」
101の番号を見せた彼はアルクェイドの隣、103番の女性に視線を移した。
そこにいた金髪の少女、セイバーは観客に手を振っている。
「がんばれよセイバー。」
「必ずやシロウに賞金を!」
と会話をしている。
アルクェイドはちらりとセイバーの方を見て、またミハエルの方に視線を戻す。
「ふぅん、彼女らも出てるんだ。」
「ほう、知っていたか。ロア処罰に関すること以外は興味なしと思ったのだが。」
やれやれとしぐさをするミハエル。
「他の皆はどうだかしらないが、私は純粋に大会を楽しみにしていただけさ。」
「本当にそうかしらね。」
うさんくさそうな目つきでそういうが、気にしない事にしてふむ、と言う。
「所で姫君、予言でもしておこう。」
「へえ、面白そうね。言って御覧なさい。」
含み笑いのミハエルに対し、完全に人を莫迦にしきった態度のアルクェイドはそう述べた。
「あなたは最下位で敗北する事となるだろう。」
「ちょっと、いくら大食い大会だからって私が負けるとでも…。」
「思っているよ。君では無理だ。」
思わせぶりな口調でそう言うと、彼は席に座った。
むっとくるアルクェイドだったが、気にしないことにして席に座った。
「さて…。」
幹也はとりあえずため息をつきつつステージ場の席に座る事に。
番号は104、セイバーの隣だったりする。
「…あそこの2人、やっぱりあちら側の人達なんだろうかなー…?」
などと思いながら箸と小皿、醤油さしにラー油、それに酢に目を向ける。
これから推測される料理は…。
「どうもすみません。おさわがせしてしまって……」
と、隣のセイバーがそう幹也に声をかけてくる。
全くそんな気はしなかったが、おそらく自分たちの仲間と話していたことの事だろう。
「いや、そんな事はないです。」
「それはよかった。迷惑をかけていたら…。」
ほっとした表情で席に座る。
…こんな綺麗な女性が大食いに…?(って自分の事もいえないか…)
「あの。」
「何でしょうか?」
思い切って彼女に声をかけてみる。
まるで貴族を連想させるそのしぐさは幹也の印象に残るものだった。
「これ大食い大会ですよね。それに…。」
「私の事はお気遣い無く。これでも自身はありますから。」
「そうですか。」
野暮だったな、と幹也。反省して前を向く。
『それでは百番台に入りまして、食べる料理も変えさせていただきます!』
「あんたの方こそギャフンと言いなさい、メイガス。」
「おやおや、現実を直視なさい、姫君。」
それぞれ他の人には聞こえないように言い合うアルクェイド達。
完全にアナウンサーの言う店の紹介は無視であった。
が、それがアルクェイドにとっては致命的だったかもしれない。
『それでは料理の登場です!』
スタッフが挑戦者の前に皿を次々と用意していく。
そして、それを見たアルクェイドは青ざめた。
「な…なんでこれなのよ…。」
「だから言ったではないか。あなたの敗北は必至だと。」
挑戦者の前に置かれたのはなんと…、
「ギョ…餃子…。」
わりと大きめの餃子だったりする。
ニンニクのにおいが立ち込める。
「で、食するのですかな?姫君。」
「う…っ!」
椅子ごと後ろに下がるアルクェイド。志貴は思わず顔に手を当ててしまった。
「あちゃー、これでアルクェイドはリタイアか。」
「でしょうね…。」
シエルもあきれ果ててそうつぶやくしかなかった。
結果は1位:セイバー、2位:ミハエル、4位:幹也で、
言うまでもなくアルクェイドは餃子を凝視したままで固まったため、0個で最下位だった。
「1位とはすごいね。」
幹也は試合終了直後、思わずセイバーにそうつぶやく。
きょとんとするセイバー。
「僕なんか偶然4位になったようなものだし。しかも2回戦はとても食べられそうにないし。」
「それほどでもありません。多く食べられる事は私にとっても嬉しいことですし。」
思わずその言葉に顔が緩んでしまう幹也。
と、思いがけない提案をセイバーがしてくる。
「名前は何と申しますか?」
「へ?名前?」
「ええ、ねぎらいを言うにも名前を知っておこうと思いまして。」
「…黒桐幹也。君は?」
「セイバ…いえ、衛宮アルトリアといいます。」
「それじゃあ互いの健闘を祈って。」
「互いの健闘を祈ります。」
幹也とセイバーは握手を交わし、ステージから降りていった。
「で?姫君、どうするのですか?」
「うー…。」
アルクェイドはミハエルの駄目押しで涙目になってきている。
そして…。
「うわああんっ!志貴とシエルのばかーっ!」
涙を流しながら走り去っていった。
呆然とするのはスタッフだけでなく、志貴も同じだった。
「こ…公然で固有名詞を出すかー…?」
「まるでわたしが酷い女に聞こえるじゃないですか!」
シエルと志貴は相次いでそう述べるが、アルクェイドに聞こえるはずもなく、2人の声はむなしくひびいた。
「なあ遠野、それにシエル先輩。」
「何だ?」「何ですか?」
「2人が勝っていったら間違いなくアレ、オンエアされるんじゃないか?」
一瞬3人に静けさが舞い降りる。
「そんなバカな。いくらなんでもそんな事が…。」
「だってこれ2時間の特番っすよ。ならありえない話じゃあ…。」
「…。」
シエルと志貴は何もいえなかった。
「さて…。」
有彦は113の番号を持って席に座る。
「遠野のやつ…、何が「お笑いを頼むよ」だ。悪いが俺はこの頃金欠なんでね。お笑い抜きで勝たせてもらうかね」
そんな独り言を言いながら待っていると、隣に現れたのは口笛を吹きたくなるぐらいの美女だった。
紫の長髪に眼鏡。立っているだけで男性陣を味方にし、女性陣を敵に回すだろうと推測する。
彼女をめぐって男と女で世界戦争勃発?ガ○ダムの『if』じゃああるまいし。
「うーん、デンジャラス。」
「何か?」
「えっ!?いや、何でもありません!」
独り言をその女性、ライダーに聞かれてあわてて弁明する有彦を見て頭を抱える志貴。
「あいつ…、また何かやらかしたか…?」
「さあ、隣にいる女性がらみなのは間違いなさそうですが。」
冷静なつっこみさすがです、と志貴は思うが言わないでおこう…。
「ライダー、1回戦突破したんだな。」
「はい、私も挑戦してみたのですけどやっぱり…。」
士郎のつぶやきにそう述べる桜。やっぱり…?と士郎。
餃子はおいしかったですと何気に言うのがかわいらしい。
「ところで先輩、3回戦進出おめでとうございます。」
「褒められた事じゃあないけど、確かに嬉しいかな。」
そんな会話が続く中、試合が始まった。
「うおおっ!」
独走を見せているのは有彦だった。餃子を次々とかきこんでいく。
そして、何気にペースが速いのがライダーだったりする。3位にぴったりと並んで黙々と食べていた。
一見速そうでなく個数を重ねていくので、おおおっと歓声があがる。
「随分とオーバーペースだな、有彦のやつ。」
志貴の危惧は試合開始から続いたが、6分ぐらいたつと急に有彦のペースが落ちだした。
「…有彦の顔が緑色に見えるんですけど。」
「私には紫色に見えますけど?」
とにかく有彦の顔がレインボーに変わりつつあった。
「ま…マズイ…。」
餃子を口に入れたままどうしようか悩む有彦。
隣の美女は黙々と同じペースで食べており、もうすぐ2位にも追いつきそうだ。
こうなったら残り4分は何も食べずに耐えてタイムオーバーを待つしかない!
だが…、
「ど…どうしよう…。」
目が白黒しだして体を不気味に動かしだす有彦。
はたから見ていると何かを召喚しようとしているように見えなくもない。
『終ー了ー!』
アナウンサーの笛が響いた。
結果、2位:ライダー、4位:有彦で終了した。
何とかピークを達した有彦はレインボーな顔色をそのままに手を振る。
「大丈夫ですか?」
とライダーは心配そうに声をかける。
そんなライダーに有彦は…。
「大丈夫ですよ。アフロディーテのような方。」
「え?」
ギリシャ神話の美と愛欲の神を出してくる有彦。
ギリシャ神話に出てくるメデューサであるライダーにそう言うのは偶然だろう。
「その美しさを称えながら今度お茶でも…うごあっ!」
その時の志貴の速さは七夜をはるかに上回っていたかもしれない。
ステージに上がった彼は思いっきり有彦にボディーブローをあびせる。
と同時にあがってきたシエルはバケツを有彦の顔にかける。
「どうも、うちのバカがとんだ失礼を。」
「え?ええ…。」
バケツに大量に吐く(試合後なので反則ではない)有彦をよそに、ぺこぺこ謝る志貴にただライダーはそう言うしかなかった。
その後、志貴たちも順調に勝ちあがっていき、昼の休憩をはさんで3回戦へ行く事に。
/3回戦
『さあ!3回戦に突入いたします!ここでは2回戦と同じ勝負方法ですが、制限時間が20分に延長されました!
それでは1番から10番の選手入場です!』
ギャラリーも増えだし、昼真っ盛り。
志貴はもたれた胃を抑えながら他の選手とステージに上がった。
志貴の見た限り、シエルの言った危惧すべき相手はいなかった。それは安心できる所かもしれない。
ただ…、
「何だ?あのコスプレ選手は…?」
見ると一人だけ場違いな人物がいる。服としては中世の医者の格好。はっきり言って異様に目立つ。
「黒桐ー!ほどほどに勝ちあがれよー!」
「シロウー!がんばってくださーい!」
志貴の右隣に座った赤っぽい髪の毛をした同年代の男子が苦笑いを浮かべて手を振る。
左隣の少々年上の黒っぽい男性はやれやれといった面持ちだった。
よくみると右隣の男子はさっき有彦がナンパしていた女性と一緒にいた人ではないか?
「あの。」
「え?」
志貴の呼びかけにその男子、士郎は顔をむけた。
「さっきはうちのバカがそちらの連れにとんだ迷惑をおかけして…。」
「あ、いや、そんな事ないですよ。あなたが謝る事は…。」
と会話がスタート、自己紹介をしあう事にまでなる。
「衛宮士郎、同じ年代らしいからタメ口で許してくれ。」
「遠野志貴だ。俺は一向にかまわないよ。」
「あれ?もしかして君が志貴君?」
2人の会話に志貴の右隣の男性、幹也が参加してくる。
「ええ、そうですけど…。」
「じゃあさっき金髪の彼女が言ってた人は君のことか。うらやましいね。」
「あ、さっきセイバーと話していた人ですか。」
と士郎。
「あっと、黒桐幹也。それが僕の名前。でも志貴君、女性にあそこまで言わせるんだからすごいよ。」
「いえ、そんな事無いですよ…。」
理想と現実とは全く違うんですと言わんばかりに遠くを見据える志貴。
「…士郎、一体あの2人と何を話しているのかしら。」
「ここからじゃ聞き取れないし…。」
首をかしげる凛と必死に聞こうとする桜だが、歓声につつまれて聞こえるはずも無い。
「口の動きから推測できるが?」
「「え?」」
凛と桜の声が同時になる。提案したのはアーチャーだった。
「命令とあらば一字一句間違いなく伝えられるだろうが、どうする?」
「もちろんお願いするわ。命令で。」
「了解した。」
アーチャーは3人の口の動きに注目し、それを述べる。
「…で、僕の上司が給料を自分のために使い込んで…。」
「…そしたら遠坂とセイバーがさ…。」
「…秋葉のやつ、それはもう大地を破壊せんとばかりに怒り出して…。」
「3人をとりまく女性陣に関する事柄…かな?随分と会話がはずんでますね、先輩たち。」
と同意を求めようとして桜は凛と大河の方に顔を向け、その言葉が完全に失言だった事を一瞬で理解した。
2人は笑みを浮かべている。たしかに笑みを浮かべてはいるが…、
「へえ、衛宮くんってそんな事考えてたんだー…。」
「そうねー。士郎がそう思ってたなんて意外だったなー」
桜は思いっきり後ろに下がろうとするが、ライダーにぶつかってしまう。
はっきりいって、地獄の悪魔まで逃げ出してしまいそうな雰囲気を2人はもっていた。
「ライダー…、どうしようかしら…。」
「ご安心を、サクラ。」
泣き出しそうな桜にライダーは笑顔で肩をもつ。
「何かいい案が?」
「いえ、シロウにはもう少し現状を把握してもらわないといけないようですね。」
「あなたも姉さんたちの仲間ナンデスカーっ!?」
ライダーが浮かべる凛たちと同じ雰囲気の笑顔に思わず叫んでしまう。
「…シロウ…、酷いです…。」
1人、セイバーだけがぶつぶつ言って下を向きながら暗ーい雰囲気を持ってたりする。
「へえ、黒桐、そんな境遇の職場に…。」
と学人はつぶやいた。隣にいるのは里緒、彼が大雑把ながら読唇術をみせたのだ。
「それならアイツでも俺に金を借りにくるはずだわ…。」
納得したかのような顔でそう言う。
「でもさ、ボク気になってる事があるんだよね。」
「え?何すか先輩?」
「あのコスプレ医者。」
そう言って里緒は幹也の隣に座った超絶的に怪しい人物を指差す。
「アレ医者だったんですか…。」
「彼が3人の会話を聞いてると時々かなり動揺してるようなんだけどね。」
里緒の指摘をうけて注目してみる。
たしかに何かしらの反応を示す。
「いつも挙動不審の説は?」
「さっきボク彼と戦ったけどそんな事はなかったよ。」
「……。」
ほどほどの所で準備が終わり、選手の前にはラーメンが並べられる。
『それでは3回戦!このグループにはワンタンメンを食べてもらいます!それでは始めてください!』
戦いがスタートした。
志貴が周りを見ると、幹也は完全に勝負を捨てて、味わう事に徹していた。
そういえばさっき、
「春巻きでおなかいっぱいになったからもういいや。」
と言っていたっけ…と思いつつ今度は士郎の方を見る。
彼は何気に志貴より速い。思い起こせば、
「俺の連れが大食らいだから俺も少しはがんばらないと…。」
と言ってた気が…。
と、
「はっ速い!」
驚きの声をあげてしまう。幹也の隣にいる謎のコスプレがものすごい勢いで食を進めていた。
これは自分ももたれた胃にむちを打たないと…!
結果、1位:コスプレ、2位:士郎、3位:志貴、4位は脱落者続出で幹也となった。
/4回戦・準決勝
『さて!とうとう勝負も準決勝となりました!ここからは3人でのバトルとなります!』
もりあがる観衆。その中、一箇所だけ異次元なところがあった。
「あの…、皆さん?」
おそるおそる口を開く士郎だったが…、
「どうしたの、衛宮くん?」
「先輩、顔が青いです。どうしました?」
「シロウ、そんな退かなくても大丈夫ですよ。」
凛たちの言葉に思わず体を後ろに退く士郎。大体遠坂なんて呼び方の時点でおかしいし。
今にも胃に穴があきそうなぐらいのプレッシャーだ。
まさかアーチャーが読唇術まで出来るなんて…。
「あの…、誤解があると思うんだけど…。」
「では説明してくださる?」
「ええ、私もお願いします。」
「納得できるまで…ですけど。」
「げふうっ!」
今度こそ口から血を吐き出して倒れこんでしまった。胃が限界だったようだ。
「いいのかマスター?これでは彼が…。」
「いいの。放っておきなさい。」
アーチャーの冷静な一言をばっさり切り落としてそっぽ向いてしまう凛だった。
桜もセイバーもそっぽ向いてしまう。ライダーは次の試合なので控え室の方に行っている。
『それでは初戦の選手の入場です!』
その声と共に入ってきたのはシエルと他2人だった。
その2人とも、シエルが警戒していた人物でもある。
「プリースト荒井宗禅、それにマッドドッグ間慎一(はざましんいち)。あなた方がわたしを阻む者ですか。」
「無論、我が障害がおまえならおまえにとっても私は障害だろう。」
とプリースト荒井(イメージキャラ:荒耶宗蓮)は表情を1つも変えずに述べた。
「つれないな。場合によっちゃあ君を勝たせてもいいんだよ僕は。」
とマッドドッグ間(イメージキャラ:間桐慎二)は女子が一発で嫌いそうなにやけ顔で言い放つ。
「おまえは今まで全てを4位で通過してきた。だがそれも終いだ。準決勝からは実力のみが試される。」
「そういうこと。まああんたには潔く退散してもらえると助かるんだがね。」
シエルは唇をかみ締めた。
たしかに4位通過は自らの胃のキャパシティが足りないのを補うためだ。
だがそれも限界に来つつある。決勝までは上がれてもそれからが…。
絶望的な面持ちになるシエル。もはやシエルはこの2人に飲み込まれていた。
『では準決勝の方法ですが、食べる料理はこちらです!』
そうして用意されたのはでかいなべとご飯の山。
そしてたちこめるにおいは…。
『子供の大好きな料理、カレーライスです!』
その瞬間、シエルの何かが変わった。
別に第七聖典を装備したわけではない。だが、シエルは自らの勝利を確信してしまった。
「さらばだエンゼルシエル、私を阻んだ者がおまえであった事は、意味があるのだと信じよう。」
「終わりさ。全てが、な。」
なおも続ける2人はもはや眼中に無かった。
シエルを支配する意志はただ1つだけだった。
あれを、食べたい、と。
思わず大笑いをしだすシエル。
「何がおかしい。」
と聞く荒井だが、それに自信たっぷりの顔で答えた。
「あなたがたは、わたしに、倒されます。」
結果…、
「この体は、限界だ…。」
「あ…ありえん…!」
圧倒的大差をつけてシエルが決勝に進む事となった。
2試合目、ライダーと有彦、そして現れたのは…、
「し…式…!?」
と思わず幹也はつぶやいてしまう。
出てきたのは和服美人、男女誰もが息を呑むほどの。
だが、ほんの、正にほんのわずかな違い、雰囲気で幹也はそれが里緒だと言う事が分かる。
髪を黒に染め、カラーコンタクトまでし、着物も着ている徹底振りだ。
「…何やってるんですか先輩…。」
思わず幹也はつぶやいてしまう。
「あ、分かった?キミを驚かせたくてわざわざ準備までしてきたのに。」
「そんな事に手間をかけなくてもいいですよ。あなたは里緒先輩で、式ではないんですから。」
「でもお茶の間には式がここにいるように見えるだろ?滑稽じゃないか。」
そう言ってふくみわらいをする。しぐさまで研究したのだろうか、一瞬式を見ている気になってしまう。
「悪趣味です。先輩。」
「両儀のセンスが?なら本人に言ってくれよ。」
「いや、そうじゃなくて他人に変装する事がですよ。」
「そうかな?」
里緒は自分を確認して、そうつぶやく。
「まあ、本人はここにいないんだから別にいいだろ?ボクが彼女に変装したからって減るものじゃないんだし。」
「でもそれでは式が…。」
「いいの。何なら黒桐くん、キミにもいい思いぐらいさせてやるからさ。」
「遠慮しておきます。」
きっぱり断られたのでやれやれといった面持ちで席に座る。
「これはさっきの美しい人。」
「ライダーです。それと言葉遣いを無理して改めなくても私はかまいませんから。」
笑みを浮かべて有彦の挨拶をかわしつつそう述べた。
「先ほどは大丈夫ですか?」
「なあに、さっき遠野のおかげで気分すっきりですよ!」
はは、と笑い声をあげる有彦。
「にしてもあなたが残るとは思いませんでしたが?」
「偶然ですよ。この準決勝は味わって食べようと思います。」
「そうですか。うん、その方がいい。」
「え?」
「あなたに大食は似合いません。今度…。」
とそこで殺気のようなものを感じて踏みとどまる。控え室の方から志貴が睨みつけているからだ。
「まあ…お互いにがんばりましょうか…。」
「ええ。」
冷や汗を腕でふきながら席に座る。
勝負は里緒と有彦のデッドヒートで進む。ライダーは公約どおり、味わいながら食べていた。
「これおいしいです。」
という声を聞きながらハイスピードで若干リードする里緒を見る有彦。
「こっこいつ、速い!」
まるで猛獣が餌にかぶりつくような印象を有彦は持った。だが、
「こっちだってシエル先輩に鍛えられてきたんだ!そう簡単に負けるわけには…!」
とラスト3分あたり…。
「うーん、何気に隣は速いなー。でもこの分だとボクが勝ちそうだな。」
里緒が半皿ほどリードしていた。
だが有彦の顔はすでにレインボーになりつつあった。
かと言って先ほどのように休むわけにはいなかい。
「……。」
残り1分、レインボーから漆黒に変わりつつあった。
ペースも完璧に落ち、というよりストップして口を押さえる。
うなり声をあげて耐える有彦だったが…。
「んんんーっ!」
一目散にステージ外へと走り去っていく。
結果、1位:里緒、2位:ライダー、有彦はルールにもとづき失格となった。
「がんばれよ、セイバー。」
「任せてください、シロウ。」
そう言ってちらっとセイバーはアーチャーの方に顔をむけた。
「相手が彼だろうと、必ずや。」
「うーん…。」
逆に凛の方はうなり声をあげてアーチャーの方を見る。
「残念だったわね…。セイバーが相手じゃあ…。」
「そうだな、これに関しては専門外だからな。」
と2人はあっさりとそう述べる。
聖杯戦争の時にもそんな弱腰ではなかったような…と士郎。
「だが善戦はしよう。」
セイバーとアーチャーはステージへと上がる。
そこにいたのは…
「ほう、セイバーとアーチャーとやらか。先ほどの戦いは見せてもらったが、フードファイターの王たる我に勝てるとでも?」
「あなたは…!」
なぜかある金ピカをいち早く連想させるその人物こそ、
フードファイターのエンペラー、ギルであった(もちろんイメージキャラはギルガメッシュで)。
「…なんかあなたを見ていると彼を連想させるのですが…。」
「ああ、セイバーに同意しよう。」
違う点をあげるならセイバーにもその高圧的な態度を取っている事か?
2人の英霊は口々にそう述べるが、もちろんギルに分かるはずも無く。
「まあ王たる我が下民どもに敗れるはずもないだろう。我と戦える事をありがたく思え。」
「…細部まで憎らしいほど似ている気がするのですが…?」
「…。」
セイバーの体が細かく震えだす。アーチャーはアーチャーで静かにギルを見据えていた。
「全く、それにしても一目見たときはセイバーとやら、君は貴婦人のように見えたのだが、まさかあそこまで大食らい
とは…君と暮らしている者の気苦労が知れるよ。」
その言葉に、セイバーは、ギルを見据えて…。
「だああっ!セイバー!ここで何かをするのはやめてくれーっ!」
「はっ放してくださいシロウ!このままでは私の騎士王の名がーっ!」
士郎が割ってはいって何やら騒ぎ出す。へたをするとエクスカリバーまで使用しそうな雰囲気のセイバーをなだめようと必死だ。
が、ギルは全く気にしていないようだ。
「いいでしょう、ギルとやら。ならばフードファイトで貴方を亡き者に!」
「良かろう。だが出来ぬ事を口にせぬ方がいいぞ。」
何とか気持ちを落ち着かせたセイバーは余裕たっぷりのギルを睨みつけて、そう宣言したが、彼は全く気にしていない。
結果、
「そんなばかなことが…!王たる我が…!」
1位:セイバー、2位:ギル、3位:アーチャーで終了した。
4試合目、幹也はプリンスコルネとコスプレ医者と共にステージにあがった。
既に幹也の限界を超えており、とりあえず味わう事に集中する作戦に出る事にする。
と、謎の人物は幹也の肩にてを乗っけてくる。
「どうかしましたか?」
と幹也が聞くと…、
「黒桐、さっきはよくぞあそこまで言ってくれたな。3ヶ月間給料80%カットな。」
「いいっ!?」
その言葉に思わず声をあげてしまう。そして、幹也の目の前が真っ暗になった。
「そこの中世の医者の格好をしたやつ。」
と、いきなりコルネは謎の人物を指差してそう言った。
「誰もがわからんだろうが、この私にはお前の正体など分かっている。さっさと正体を現したらどうだ?」
との指摘をうけて医者は笑い声をあげる。
「そうだな、もう姿を隠す必要はどこにもないな。いいだろう。」
というとその着ていた衣装を後ろに放り投げた…!
『あああっ!』
アナウンサーも思わず声をあげる。
そこにいたのは水色に髪の毛を染めた凛々しい女性がいた。
知る人ぞ知る、その人物こそ…。
「やはり君か。蒼崎橙子!」
「ほう、プリンスコルネか。大英博物館前大食い大会で打ち負かして以来だな。」
その女性、橙子はポケットから煙草をとりだし、火をつける。
一方のコルネは赤マントをばさっと翻した。
「よく覚えていたな。ならばあのときの屈辱を返させてもらうぞ。」
「それこそまさかだ。まあお前が敗れる事に間違いはないがね。」
冷めた目で橙子はコルネを見据えて、そう述べる。
結果、
「こ…こんな怪物と関わりあうべきではなかった…。」
1位:橙子、2位:コルネ、3位:放心した幹也で終了した。
「黒桐。」
「は…はい…?」
にこやかに幹也の後ろに来る橙子。笑顔がものすごく怖い。
「文句があるなら私に直接言ったらどうだ?」
「あなたに言った事ばかりしか彼らには言ってませんよ。それに事実じゃないですか。」
「…ところで黒桐、『もけもけ』と『みむみむ』と『あどあど』のどれがいい?」
「ど…どれがって…。」
どれも正体不明のフレーズなのでどれかなんて選べない。
だがこの場合、選ばないと更なる災難が待っているに違いない。
意を決して述べる事に。
「では『みむみむ』で。」
「分かった。そう伝えておこう。さっきの給料カットはウソだ。これからも頼むぞ。」
「本当ですか?」
「嘘はあまりつかない。本当だ。」
いくらなんでも気前が良すぎる。何か裏が?と思うが、とりあえずは信じる事にし、ステージから降りた。
待っていたのは里緒だった。
「残念だったな。」
「本当、まさか蒼崎橙子が来ているとは…。」
と2人は述べる。いかにも残念そうに。
「ところで黒桐くん、さっき彼女になにか言われなかったか?」
「え?『もけもけ』だの『みむみむ』だの言ってたけど…。」
「どれを選んだんだい?」
里緒の発言はかなり怪しかったが、彼を信じて真実を述べる。
「『みむみむ』ですけど。」
「…そうか、『みむみむ』を選んだのか…。」
視線を一瞬右にそらしたが、また幹也に視線を戻す。
「まさかとは思いますが、橙子さんとグルでは…?」
「グルだなんてひどいな。そんなはずないじゃないか。」
そういいながらも里緒の手、腕が幹也の首に周り…。
力ずくで幹也の唇を奪った。それも猛烈に。
うめき声をあげて離れようとする幹也だが、里緒の力のほうが強く、引き離せない。
数十秒後にようやく里緒は口を離した。
「な…な…。」
わなわなと里緒に指差し、何かを言おうとする幹也だが何も口に出せない。
「すまない黒桐、これで橙子が仕事をくれるって言うから…。」
「だ…だからって…。」
「これが『みむみむ』なんだ。」
ああ、そうか、これが橙子さんの復讐か…。
思わず放心状態になる幹也。
「おい黒桐。」
そんな彼に学人がそう言ってくる。
「…どうした…?」
「お前の妹さんと知り合いを連れてきたんだけど。」
そして、今度こそ、幹也は真っ白になった。
そこにいたのは式と鮮花。
「幹也…。」
「兄さん…。」
無表情の式ととてつもなく怖い笑みを浮かべる鮮花は幹也に近づいていく。
思わず「タスケテー」の視線を里緒と学人に送ろうとするが…。
「じゃあ俺次試合あるから…。」
「ボク少し飲み物買ってくるよ…。」
と幹也から離れていく。
「は…ははは…。」
もはや笑う以外、幹也に残された事は無かった。
「これが真の『みむみむ』ですか…。」
第五試合、志貴、ファントム、フードファイターのビースト根呂(イメージキャラ:ネロ・カオス)が上がる。
「少年、顔が青いぞ。」
根呂がそう述べてくる。その通り、志貴はもう限界だった。
口を押さえながらなんとか席に着く。
「ほらほら、志貴。いくら食事は健康にいいからってそこまで食べる必要はないわよ。」
「えっ!?」
ファントムの台詞に驚愕の声をあげる志貴。
その人物は帽子、マント、仮面をつぎつぎと放り投げ、正体を現す。
たなびく赤の長髪、ラフな格好、それはまさしく…。
「せ…先生…?」
「やは、久しぶり…でもないけど、元気にしてた?」
先生、蒼崎青子は日常の挨拶をかわすようにそう述べてくる。
「何でここに?」
「んー、ここで志貴とあったのは運命のめぐり合わせかしら。でも私の目的は…。」
そう言うと、厳しい目つきである1人を睨みつける。
それは、先ほど黒桐さんを倒した女性、蒼崎橙子。
「あいつを完膚なきまでに叩きのめす事かな?」
「笑止、勝利宣言とは愚かな。」
会話に割り込んできたのは根呂だった。
「聞いているぞ。あのジャンボが貴様に敗れ去った事もあるとな。ならば我が貴様を打ち破って見せよう。」
「悪いけど、眼中にないわ。」
と青子はばっさり切り捨てる。
…ついていけませんとばかりに志貴は呆然とする。
結果、
「先生…強すぎ…。」
「これが私の敗北、か…。」
1位:ダントツで青子、2位:根呂、3位:志貴で終了した。
第6試合、登場したのは大河、玄武、そして…、
「なあ、あれ…。」
「皆まで言わなくても、言いたい事は分かるわ。」
何とか吐血から立ち上がった士郎と凛はそうつぶやく。
3人目は2メートル半ぐらいの身長、ごつい肉体、あの人物を彷彿とさせた。
「ほう、ジャンボ馬場坂、あなたも大会に参加していましたか。」
玄武はジャンボ馬場坂なる人物にそう述べる。
「バーサーカー?」
「まさか、他人の空似でしょう?」
「にしても…。」
「にしても…。」
「「雰囲気そっくり。」」
2人がそう言うなか、そんな奇妙な馬場坂と玄武にまったくたじろぎもしない大河は勝利宣言までする。
「決勝行ったらおごるわよ!」
と余裕のコメントをする。
ちらりと2人を見比べる。
玄武は明らかにテレビで出てくる『痩せ型フードファイター』という感じで、馬場坂は明らかに『大食いタイプ』だ。
いかにもすます玄武、なんかハリウッドのモンスターみたいな馬場坂。
しかけるなら序盤か?
『では始めてください!』
その合図とともに3人のバトルが始まった!
「藤ねぇ、さっきより速いじゃん!」
「本当、あの空間でも働いているんじゃないかしら?」
冷静な凛に対し、悪夢を思い出させないでくださいと士郎。
おそらくアレを思い出したのだろう…。
「なかなかやりますね。」
と、試合中にも関わらず玄武はそう述べてくる。
「当たり前でしょう。私だってお笑い担当では終わらせないわ。」
いや、それは無理じゃないかなぁと士郎は思うが、言わない事にしておく。
「カレー免許4段の私を甘く見ないでほしいわ。」
「カ…カレー4段?」
「あまり深く考えてはだめよ衛宮くん。」
「それは頼もしいね。」
「信じるの!?」
「それも考えない方がいいと思うけど。」
両者はギャグ要素全く抜きでバトルを繰り広げ、その結果、
1位:玄武、2位:大河、3位:馬場坂で終了した。わずか2皿の差だった。
「惜しかったじゃないか藤ねぇ!」
「本当!ギャグ抜きであそこまでいくなんて!」
「…2人が私をどう考えていたのかよーく分かったわ。」
と大河は士郎と凛につぶやくが、まあそれは置いといて。
「所で衛宮くん、次の相手、メイガスの称号を持つアイツでしょう?」
「ああ、そのはずだけど?」
「で、勝算はあるの?」
それにはもし魔術師(メイガス)が何かしでかしたらどうするんだと言う意味も含まっていたが、そうはとらなかった。
「…正直俺もう限界だし。さっさと降参しようかと思ってんだ。」
「やけにアッサリしてるわね。」
「いや、俺をセイバーと同じに考えないでくれよ。俺そこまで大食いじゃないし。」
「シロウ、それでは私がまるで食にがめついとしか聞こえないのですが…。」
「じゃあ、行ってくるよ。」
「シロウ!」
セイバーの反論は完全に無視し、士郎はそのままステージへと上がっていった。
「サクラ、これでは私が…。」
「あー、先輩の言いたい事も何となく的を射てるようなー…。」
「リン、あなたは…。」
「え?事実じゃないの?多分。」
「アーチャー、ライダー、あなた方は私をそんな眼では…。」
「ノーコメント。」
「私からはなんとも…。」
桜は苦笑いを浮かべながら、凛は真正直に、ライダーとアーチャーはそう言いながらも目線をそらしている。
「うー、そんなふうに私を考えていたんですか…!」
ちなみに結果は1位:ミハエル、2位:マジシャン、3位:士郎で終了した。
/決勝
『さあ!大会も残す所決勝のみとなりました!選手入場です!』
派手な演出と話半分な個人紹介と共に、7人の選手が入場する。
シエル、セイバー、里緒、玄武、ミハエル、青子、橙子の7人が決勝で戦う事になる。
「玄武、まさかあなたがあのジャンボ馬場坂を倒すとは驚きましたよ。」
「まさか、偶然ですよ。」
といつもの調子で、笑みを浮かべてシエルに玄武は述べる。
「私としてはあのミハエルなる人物がクルースニク(イメージキャラ:言峰綺礼)とマジシャン
(イメージキャラ:ワラキア)を倒すとは…ね。その方が驚きですよ。」
「そうですかー?あの敵のペースに合わせた戦いは圧巻の一言に尽きますけど?」
ははは、と笑いながら玄武はこれ以上何も言おうとはしなかった。
「がんばってくださいよセンパーイ。」
「ぜひ優勝して俺たちにおごってくださいよー。」
「まっかせてくださいな!」
志貴と有彦のエールにガッツポーズをとるシエル。
「こうなったら優勝してくれよセイバー!」
「応援しているわよー。」
「お任せください!」
士郎と凛のエールに手をふるセイバー。
「先輩、勝って打ち上げでもやりましょうよー!」
「優勝してくださいよー!絶対に!」
「ボクが負けるわけないだろう?」
学人と幹也の声に優雅に挨拶をする事で返事をする里緒。
そして…、
「さあて、まさか姉貴が私の提案にのってくるとはねー。驚きだわ。」
「何が『お互い傷つかない方法で』だ。結局お前は私をダシにしただけだろうが。」
「あれ?もしかして自信なかった?」
「まさか。完膚なきまでに叩きのめしてやるよ。」
「姉貴に出来るの?」
「「ふふふふふふ。」」
不気味に笑いつつハルマゲドンを起こしそうな雰囲気を漂わせる青子と橙子。
『ではこの大会をしめくくる決勝ではホットドッグを食べていただきます!制限時間は30分!
それでは始めてください!』
そして決勝が始まった。
/そして…
「まあなんだ。終わってみればそれなりに楽しめたかな。」
「それはあなたは楽しめたでしょうね。」
伽藍の堂、橙子は煙草をふかしながら優雅に、黒桐は包帯ぐるぐるまきで黙々と仕事を行なっていた。
「私が白純里緒と結託してお前にディープキスをやらせたのがそんなに嫌だったか?自業自得だ。」
「それをあなたが言いますか?」
「いいじゃないか。減るものじゃあるまいし。」
「僕の寿命は間違いなく減ったと思いますけど。」
あの後、式と鮮花にされた事を思い返してびくっと体を動かした。
くっくと橙子は笑い声をあげる。
「笑い事じゃないぞトウコ。」
「そうですよ橙子さん、いくらなんでも悪趣味すぎます。」
「まあ、『みむみむ』はキスまでだ。それからはお前たちが勝手にした事だろう。私は知らんぞ。」
何も言い返せずに黙ってしまう式と鮮花の2人。
「アイツに俺そっくりに変装させたのもお前の仕業か?」
「当たり。なまじ人形を使うよりそっくりになったろ?」
「もうやめろ。オレにも幹也にも迷惑だ。」
時刻はもう夕方、差し迫っている仕事もない。
「ではこのへんで終わりとするか。今日は白純里緒と私の賞金で飲み食い自由な店を手配してきた。
そこで思いっきりやろうじゃないか。」
「随分と気前がいいじゃないですか。元々は里緒先輩だけの奢りのはずでしたが。」
「楽しい事があったんだ。それではいけないか?」
ちなみに決勝では青子と橙子の個数は全く同じだったため、誰もいない所でリアルファイト突入、幻灯機械や使い魔の試作品は
破壊され、自身も傷ついたが、今回は青子にも深手を負わせてお開きになっていたりする。
もちろん幹也たちには内緒で。
「蒼崎さん、そろそろ終わりの時間ですけど。」
そう言ってやってきたのは里緒と藤乃だった。
里緒はまだあの時のまま、式そっくりだったりする。
「じゃあパーッとやるか。たまには。」
橙子はこんなのもいいかもと思いながら背伸びをして立ち上がった。
一方、
「で?」
優勝したセイバー、100万円は即時貯金決定となったが…、
「士郎、どうするの?このペアチケット。」
温泉旅行のペアチケットが副賞で与えられたのだが、ペアなので2人しか行けない。
で、小さいテーブルを囲むのは士郎、セイバー、桜、凛、ライダーの5人。
もはや胃潰瘍を通りすぎて心臓発作を起こしそうな士郎の様子には訳があった。
「セイバーのものはマスターである士郎の物よね?さあ、誰とペア旅行行くの?」
といきなり凛が言い出したのがそもそもの原因だった。
いろいろと思考をめぐらす士郎、誰を選んでも即時病院送りかもしれない状況をどうするか。
そして窮地に立たされた士郎は…。
「分かった。みんなが争う原因になるならこれは…。」
「シロウ、破り捨てるなんて言うのでしたら即刻エクスカリバーですので。」
「何ぃーっ!?」
5ミリぐらい破った所でなんとか手を止める事に成功する。
見ると既に彼女は完全武装、風王結界はどこへやら、剣がむき出しだ。
「な…なら…。」
「先輩、自腹きって他の人のチケットを買うなんて事はありませんよね?」
「え…エスパー?」
考えている事をずばり言い当てられた士郎は思わず引き下がってしまう。
一瞬桜が黒く見えてしまう。
「なら公平に…。」
「葛木先生とメディアにあげるなんてへたれた考え起こしたら即刻アーチャーけしかけるから。」
そして自分も魔術をしてガントをぶちこむとばかりに黒く、果てしなく黒い笑みを浮かべて凛はそうのべた。
「は…はは…。」
半泣きで涙を浮かべるしか今の士郎はする事が思いつかなかった…。
そして…。
「あーあ、ホント惜しかったですね先輩。」
「不覚でした。まさか彼女があそこまでとは…。」
志貴の指摘にシエルは本当に悔しそうに床を殴る。
ちなみに今2人がいるのはシエルの部屋。他に有彦とアルクェイドがいる。
「志貴ー、本当にシエルの料理っておいしいのー?」
「俺よりはうまいと断言しとこう。」
アルクェイドの疑問に即答する志貴。
3人が呼ばれたのは、シエルがぜひ食べてもらいたいという料理を食べに来たためだ。
もちろんそれはカレーである。
「あれ?先輩、このカレー…。」
有彦が匂いをかいで疑問詞がうかんだので、つまみ食いをする。
「これって大会の時準決勝で出されたカレー…。」
「その通りです。あの大会でレシピは盗ませてもらいました。それにアレンジを加えてよりコクを出してみました。」
とキッパリ言い切るシエル。
「普段は行けないところでしたのであの番組でこちらに来てくれたのは僥倖でした。何しろ…。」
シエルの解説は有彦にまかせるとして、志貴はアルクェイドと向かい合う。
「…何よ志貴。」
「悪かったよ。この前の大会に誘わなくてさ。ああいうのに女の子と一緒にいくわけにもいかないしさ。」
「そんな事ないわよ。私は志貴とならどこに行ったって楽しいわ。」
「ん、ならさ…。」
そう言うと志貴はごそごそとポケットから2枚の券を取り出す。
「今度あそこの近くのデパートにある映画館で試写会やるんだ。偶然応募したら当たったからさ、一緒に行こうな。」
と、まだカレーの解説に熱中しているシエルをちらりと見ながら述べた。
しばし驚くアルクェイドだったが、表情がぱあっ、と擬音が付きそうなぐらいに明るくなる。
「うん!行こうよ!」
そしてとても純粋な笑顔でアルクェイドはそう言ったのだった。
おしまい