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「はあ……っ、はあ……っ!」
少年は逃げていた。自らの持てる身体能力の限りを尽くして。何度も後ろを振り返る。そこにはもう誰もいないのに。まるで自分を説得するかのように。
時刻は真夜中。だと言うのにこの中学生っぽい彼は1人でただ走っていた。八時ぐらいなら塾に行っていれば外出していなくはない。だがそれが十二時ぐらいなら?
時々通りすぎる車のエンジン音と、遠くの踏み切りの音ぐらいしか辺りには無い。だから、少年は自分の荒い息と心臓音だけを聞いて走っていた。
もう走り始めてどれぐらいになるだろうか? たった数分? それとも数時間も? それは少年にも分からなかった。ただ一ついえるのは、体育の千五百メートルの長距離走などメ比較にならないほど走った事だ。
また後ろを振り返る。やはり誰もいない。
一体自分が何をしたって言うんだ。なぜ自分がこんな目に……! そんな事を思いながら、なるべく人通りの多い所に急ぐ。そしてできるなら交番まで……!
「だめだよ亮太くん、そっちに行っちゃったら」
その言葉で少年、亮太の足が止まる。
もう息は切れかけ、足は棒だ。長距離走はわりといいセン行っている。この前も六分切ったばかりだ。
だというのに……。もう足は笑っている。とうに限界は過ぎているのかもしれない。でも限界なんて知った事じゃない。とにかく今は目の前にいるコイツから逃げなきゃ……!
「……!!」
声にもならない悲鳴をあげて、少年はまた走り出す。
ふりきったハズなのに! 後ろからついて来てすらいないのに! どうしてコイツは自分より先回りできるんだ!
当然少し運動している年上だったら中学生の足では逃げられないだろう。でもそれが……。
「!?」
また少年の足が止まる。
今度は一直線に走ったんだ。だとしたら先回りのしようがない。なのになぜコイツは自分の目の前にまたいるんだ……!
「亮太くん、女子って男子と違ってデリケートなのよ」
「そ……それがどうしたんだ!」
もう疲れ果てた体を奮い起こし、何とかその言葉をつむぎだした。それには自分の恐怖を追い払う意図もあったけど、それは失敗に終わる。
「だからあたしの事、知っちゃったよね、亮太くんってば」
「それだけで……それだけで……!」
目の前にいる人物は自分を殺そうとしたのか……!
(こいつは間違いなく狂っている……!)
再び逃げようと後ろを向き、足を走らせる……はずだった。が、もう限界に来ていた足は言う事を聞かず、少年はうつぶせになって倒れる。
「あーあ、せっかく亮太くんと仲良くなれたのにな」
「く……来るな……来るなよ……」
言う事を聞かない足に代わって、手だけで自分の体を後ろに下がらせるが、所詮は手。じりじりと追いつめられていく。だがそれも終わった。ついに少年の背は障害物に当たったのだ。
何とかして、何とかして逃げなきゃ。でもどうやって? 相手は武器を持っている。素手で勝てるほど空手も柔道も得意じゃないし。ならこっちもモノを使って。でもどこから?
「じゃあね、亮太くん」
「来るなって言ってるだろーっ!」
にぶい音とともに、1人の体が地面に倒れこんだ。頭からは血を流し、けいれんをおこす。がちがちと歯を鳴らすのは先ほどまで追いつめられていた少年だった。涙が恐怖などと共にどっと流れている。手にあるのは障害物付近に置いてあった金属バットだった。よく見ると、後ろは粗大ゴミ置き場だ。ぶつかったのは冷蔵庫らしい。色々と置いてあるのは明日が回収日だからか?
一方、金属バットの殴打を食らった相手は手を地面につき、足裏を地面につき、起き上がっていく。その姿は少年の知る存在では定義など不可能だった。
「……ごめんなさい……。あたし、良太くんを困らせる事をしたのね……」
「う……うわあああっ!」
全身のあらゆる力を込めて、少年は相手に襲いかかった。理由は単純、殺らなければ、殺られるからだ。
相手は再び頭部を殴られるが、今度は倒れはしなかった。それどころか振り下ろしたバットを持つ手をしっかりと押さえる。振りほどこうとしても、それはとてつもない力だ。そして、もう片方にあるのは中華包丁。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――」
「やめろ……やめろぉーっ!」
少年の目の前にいる相手、少年とほとんど同じぐらいの少女は中華包丁を振り下ろした。
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『……次のニュースです。今日の朝、………………で中学生の遺体が発見されました。殺害されたのは中学生、林亮太くん13歳です。調べによりますと、良太くんは刃物のようなもので深夜に殺されたの事です。警察では事件の動機などを調べ、犯人を追う事にしています。それでは次のニュース……』
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