/5日目・interlude

 河口も間近な冬木大橋。車が走る道路より50メートルも上、アーチの頂。
その高みにあって海から来る風をもろに受けつつ、ランサーは海浜公園の方を眺めていた。
彼の視線の先にいるのはセイバーとアイリスフィール。
時臣の予想通り、キャスターに狙われるアイリスフィールを警護するためにセイバーが出てきたようだ。

「どうやらセイバー達は今日一日街を練り歩いていたようだな」
『ふむ、大方あのホムンクルスを陽動として、キャスターをしとめる腹だろう。神代の者とはいえその在り方は魔術師。
 あの男ならば下衆な手段を用いてしとめる事も可能なはずだ』
時臣の言葉に肩をすくめてランサーは更にセイバーたちを観察する。

衛宮切嗣かアイリスフィールか、またはセイバー自身の趣味かは知らないが、セイバーは完璧な紳士でアイリスフィールは完全な淑女だった。
あのいでたちでは街の目を引くだろうな、などと他人事のように思いつつ、今度はため息をもらした。
この距離からなら宝具での奇襲攻撃をかければ一発なのだが、どうやら時臣はそれをさせたくないらしい。
ランサー自身も行いたくはなかったので好都合ではあったが。

だが、問題は挑まない事自体にあった。

「こっちからは仕掛けないのか? セイバーの宝具はそれこそ万物を斬るものだろうが、抜刀させなければいいだけの話。
 二本目を使えば勝機は十分にあるのだが?」
『まだアサシンの正体も分かっていない上にアーチャーも姿すら表さないだろう。収集した情報を元に万全を期す事が重要だ』
要はまだ情報収集の段階なので、むやみに戦えない状況だった。

(それで勝機を逃しては意味がない気もするが……)
機会を逃すという不満は胸にしまい、さりげなく視線を外して、ライダーと橙子の存在に気づく。
彼女達は公園の入り口から入っていき、真っ直ぐにセイバーたちに向かっている。

「む、状況が動き出したようだぞ。どうやらトーコ達はセイバーと戦う気らしい」
『そうか、私もライダーの全てを見たわけではないのでね、ランサー、決して眼を離すな』
「……了解」
どうやら漁夫の利を得る気はあるらしい。
戦争者からしたら確かに当然の選択だったが、ランサーは1つだけ魔術師に関して確信している事がある。

常識外れこそが偉大なる魔術師であり、そして魔法使いになる、と。

もちろん金輪際その類と関わりたくないと決心を固めていた。
聖堂騎士たちはローランを始めとして魔法使いたちに引っ掻き回され続けたから、それを思うとランサーはため息しかできなかった。
万一関わる機会があれば、全力を持って逃げ出すだろう。

では遠坂時臣はどうなのだろうか?
典型的な魔術師ではある。昔から変化のない、良くも悪くも魔術師と判断する。
ゆえに『魔術師』の枠から外れる事はないだろう。
魔術師である限り、魔術師以外になれるはずがない。

では蒼崎橙子はどうなのだろうか?
魔術師なら誰しも目指す、「」に辿り着けるだろうか?
ランサーにとっては分からないとしか言いようがなかった。

普通の魔術師とは違う事は明らかに分かる。強いて言うなら、どこかがずれている。
表ではあのような感じではあるが、なぜか深淵には何かがあると予想している。
それが心の闇なのか、それとももっと別の物かは分からないが、本質に迫るのは違いないだろう。

「難儀だな……」
1人ぼやき、これから始まるだろう戦いにそなえて眼を凝らし、

「月が美しい。どの地におっても天空の模様だけは不変じゃ」

不意に聞こえる透きとおった声を耳に入れる。
ランサーはその発言の直前、気配がすぐ近くで生まれた直後にはデュランダルを出現させ、一定の距離を置いて構える。

「いつの間に……!?」
「この戦争に決着がつく頃には満月になっていよう。さぞ美しき事だろうな」
くく、と笑いを浮かべる目の前の人物。
腰まで真紅の髪をたれながし、服は布のみ。まるでサンダルのような靴、しかし首や腕にかかる装飾は金や宝石のちりばめられた一級の細工。
戦いというより、これから王宮に行くかのようないでたちを持つその女性は、間桐のサーヴァント、アサシンであった。

「アサシン、悪いがこれからセイバーとライダーが戦いそうなんでね。かまってはいられない」
「なんとまあ強欲な事よ。そなたにとってはわらわでは不足か?」
ただ1つ、腰布に装備された三日月刀の鞘のみが異色を放っていた。
以前であった時は、あのライダーに奇襲を仕掛けた時ですら装備されていなかった、二本目がある。

「此度の聖杯戦争、一番始めに脱落するはそちじゃ」

そして、すばやく抜刀した。
その動きに力強さもすばやさもあまり見られなかったが、動物にそなわるしなやかさがあった。
以前、ライダーの攻撃を回避した時に行った動きをそのまま剣舞にも昇華させているようだった。

「どうも俺は毎日戦っているような気がするのだが……狙われるような事は何一つやっていないつもりだが?」
「そなたはな。やらかしたのはそなたの主であろう」
愚痴のようにつぶやいたランサーへのアサシンの返答は、しれっとしていた。
だがそれは砂漠の夜のように凍てつく冷たさがあった。

「まずはトォサカのサーヴァントを殺す、次にトキオミの召喚したサーヴァントを殺す、そして仕上げがトキオミ自身の抹殺。これがわらわのマスターが望みし事。
 そなた自身に怨みはないが、運が尽きたと思うがよい」
「……」
思わず頭を抱えたくなる衝動に駆られるランサーだったが、それを行えば首があっさりと宙を舞うのは容易に想像できたのでやめた。
なぜアサシンのマスターが遠坂時臣に怨念を抱くのか、それは後で時臣自身に聞く事にしよう。

「あいにく、俺のマスターは昔も今も蒼崎橙子のみ。おまえらとトキオミの宿命に付き合ってはいられん」
「さもあらん、ならば戦いあうのみよ。どうせそなたではわらわには敵わぬ」

笑みを浮かべながら一歩間合いを詰めるアサシン。唇を結んで一歩前に出るランサー。
ライダーとセイバーが飛び出したのと全く同じ時、2人は飛び出した。




幻橙英雄

第15話・秩序王B


   /

「くっ!」
数十合にも渡る剣と刀のぶつかり合い。
ランサーは絶世の名剣を両手で、アサシンは二振りの三日月刀を左右でそれぞれ扱い、剣舞を演じていた。

セイバーと戦った時とは違い、魔力と魔力とのぶつかり合いでの余波は全く生じる事はない。
むしろアサシンの後方に立てば、ただ心地よい風が感じ取れるだけだろう。
それゆえにランサーは目の前のアサシンを、セイバー以上に恐ろしく思う。

セイバーは強い。
剣の技術、それにともなう身体能力と魔力、そしてその在り方。
剣が不可視だった事を除いても、白兵戦で勝つ事は困難を極めると断定できる。
ゆえに剣を交えれば強弱がはっきりとする。真正面から打ち合い、必ずや上下が出る事だろう。

だが、目の前の美女は違った。
身体能力と魔力は今まで戦ったどんな敵よりも低い。さすがに身体能力ではキャスターよりは上だが、それだけだった。
現にランサーの身で召喚された彼の剣技であってもアサシンよりはるかに速く重い攻撃が行えている。
剣の技術はなるほど、確かに優れてはいるが、それもあまり脅威ではない。

それなのに――、
ランサーは虚の動き、すなわちフェイントを交えて正面打ちを行う。

「言ったであろう、その程度の策などわらわには通じんと」

アサシンの動きはランサーよりも確実に遅い。普通ならば対処のしようもなく一刀両断のはずだった。
だが、実際には一振りの剣で軌道を僅かに変え、もう一振りの剣でその軌道を更に変えるのだ。
二段の迎撃によってランサーの攻撃は完全にアサシンから外れる事になり、捉える事はない。

ランサーの目とて節穴ではない。相手の動きを瞬時に捉え、それに最も適した対応の動きを行う事で最善の結果に結び付ける。
セイバーも確かに洞察力には優れていたが、並外れた直感で宝具すらかわしてみせた。それは感服に値するものだろう。
だからこそ、目の前のアサシンにはぞっとするのだ。

アサシンは、確実にこちらが動作を行う前にその結果を読んでいる。

聖杯から得た知識に、日本の侍が名人になった時に習得する、先々の先を読むと言う言葉があるが、それすらかすんでしまいそうなほどの業だった。
先を完璧に把握しているからこそ本来後手になるはずの迎撃が先手になり、速度の遅いアサシンがランサーの攻撃を捉える事ができるのだ。
未来予知などではない。まるで未来が彼女の手の内にある錯覚まで覚える。

(こいつ……!)
それでも総合的な強さでは完璧にランサーの方が上のはずだった。
それを悟ったランサーは半ばで強引に押し切ろうとしたが、徐々にだがアサシンの動きが更によくなってきているのだ。

まるで己の全てが自分が把握している以上に把握されているかのように。

「く……っ!」
牽制を行って一旦退こうとした攻撃を振るうランサーだったが、

「ふん……」
アサシンはそれをわざと紙一重で回避し、あまった手で攻撃を行う。

逃げ腰の体勢からの攻勢に出る速度も十分に遅く、ランサーもそれを難なく回避、相手の隙を見計らって攻撃を仕掛ける。
なぎ払いのような一撃ではあったが、今度は二刀をもってはさまれたかと思うと、軌道を大きく外れて弾かれてしまったのだ。
攻撃に失敗したランサー、迎撃に成功したアサシン。それでも次に攻撃を行うのはランサーの方が先だった。

「ふむ、さすがに基本能力がこれだけ違えば、いくらわらわに技量があろうとて攻勢には出れぬか。全く、これは考えものよ」
アサシンは反撃もそこそこに、ランサーに対して十分な攻撃を行えていなかった。
彼女が行うのは守勢での対処と反撃のみ。さながら舞い落ちる花びらを掴もうとするかのように攻撃が当たらないだけであった。
これが天性の才なのか、それとも修練の賜物なのかは分からないが、もしこれで身体能力が今より上だったらと思うとぞっとするしかない。

「さりとてこれで終わりではあるまい。その名剣とやらでなくとも木の棒で十分ではないのか?」
「ふん、減らず口を――!」
あくまで涼しげに言い放つアサシンの言葉を切って捨て、アーチを踏み込む。
その構造上、左右に避ける事はできない。回避を取るなら飛ぶか後退しかない。

ゆえに、ランサーがとった行動は防御を顧みない突撃であった。
肉を切らせて骨を絶つとでも言うべきか。アサシンの能力では一撃で戦闘不能にはできないと判断しての行動だ。
そしてその一撃は飛ぶ事での回避を許さない、上段からの振り下ろし。

それを、アサシンは事もなさげに紙一重でかわしたのだった。

「なるほど……ただ洞察するだけと実際に剣を交えてみるとでは勝手が違うか。さすがは英霊、わらわの予測のはるかに上を行く」
そうして間合いを離し、心地よいほどに清々しい声を発した。
ランサーもまた構えを取り直した。左手にはデュランダルを持ち、右手は空。宝具が発動できる構えだった。

「だが小手調べは終わりよ。それもまた見切った。本来とは違う戦法をとってきており、かつクラスがランサーであったので手間がかかったがな。
 思うにランサー、そなたは盾を用いぬ、両手剣の二刀流こそが本質であろう」
「……!」
正に慧眼というべきか、とランサーは本気で思ってしまった。
キャスター戦で見せたもう一振りの剣をアサシンには見せていないはずだ。と言うより戦法の片鱗にも覗かせていない。

本来デュランダルは盾の装備を、もしくは騎乗して手綱をもう片手に持つ事を前提とした片手剣である。
だがその神秘は両手剣として用いる事も十分に可能な在り方をしており、現に切れ味を全く損ねずに損傷する事もないからこその『絶世の名剣』なのだ。
現にデュランダルの所有者たるローランはそのように扱う事が多かった、とランサーは記憶している。

だとしたら、アサシンはランサーの動きから彼自身も気づかない僅かな違和感を看破した事になる。
それも、あの壮絶な攻防の中で見出して全容を把握するとは――、

「ほう、やはり驚くか。だが所詮この程度の洞察は誰にでもできる事であろう。特に上に立つ者であれば、一瞬で敵味方双方の状況を把握せねばなるまいて。
 戦法の看破など、そう自慢できたものではない」
「そうだな。おまえの洞察は何も戦法の把握だけではないはずだ。直感ないし第六感ですら把握しきれない、先を見通しているようだな」
アサシンはランサーの指摘を聞いて鈴を鳴らしたように笑う。

「見通していると言えば未来予知を行っておるように聞こえるではないか。わらわのはあくまで修練によって培った、予測に過ぎん。
 現時点ではその予測どおりにそなたが動き、わらわでも対処できる領域におる。じゃが、二刀を用いればそれを打破できるかもしれんぞ?」
「必要ない。一刀だけでもおまえは俺に傷1つつけられていないだろう。宝具を発動させればいかなる小細工も無意味だ」
「なるほど、それではあくまで爪を隠したままで戦うとぬかすか。それもまたよかろう」
アサシンはゆらりとしたまま、刀を鞘に収めた。
そして、今度はゆっくりと抜刀した。

「ならば、わらわから手の内を晒す事としよう」

その刀には変化が一向に見られない。魔力の流れも感じさせず、構えとて先程と同じ。感じられる雰囲気も変化は見られない。
だが、二刀からは禍々しき寒気を感じさせた。
再度確認するが、呪いの類の概念は見られない。魔力の流れもない。宝具の発動は感じられない。

それでも、戦士が持つ警戒心が最大限の警告の鐘を鳴らす。
気をつけろ、あれは自分を殺す事のできるものだ――と。

「ではゆくぞ、ランサーよ」
アサシンはそれまで慎重さからは考えられないほど大胆不敵に前進を開始する。
本当にただ歩み始めたとも受け取れるそれにはランサーも一瞬驚く。

「何のつもりかは知らんが……」
ランサーは敵を馬鹿にしたような行進を見逃すはずもない。
勢いよく踏み込むと、疾風のごとくアサシンとの間合いをつめ、デュランダルをためらわずに振るう。

「なっ!?」
驚愕の声を漏らしたのは攻撃を仕掛けたランサーの方だった。
何しろアサシンはランサーの攻撃を完璧に見切り、必要最低限の動きで回避したからだ。

そのしなやかな動きはまるで踊りを舞っているよう。足捌きは戦士の目線からは考えられないほど体重を感じさせない。
刀を振るう事もせず、ただ前に進んでいくだけだった。

ランサーは怒涛の連続攻撃をしかけた。正面打ち、なぎ払い、時には突きも織り交ぜての多彩な攻勢だった。
それを全て回避する。一切剣を振るう事無く、まるで羽毛を掴む事ができないかのように攻撃があたらないのだ。
回避の速度も相変わらず遅い。アサシンは彼女が言ったとおりにランサーの動きを完全に把握し、次の攻撃を予測した上であらかじめ動いているのだ。

「もう一度だけ述べよう。もう一振りを用いぬのか? 我が『天球』は名剣のみでは突破できぬぞ」
「必要ないと言ったはずだ。得意になるのはこの一撃を受けてからにしてもらおうか!」
ランサーの装備する名剣を覆う、魔力の質が明らかに変化を遂げる。
宝具の開放――アサシンは目を細めて、構えをといて腕から力を抜いた。

「ふっ!」
呼吸を取ってまた踏み込み、怒涛の攻撃を仕掛ける。
相変わらずそれは当たる事はないが、剣を覆う魔力はいつでも宝具の開放ができる状態。
そしてアーチ状の足場では回避の方向も限られている。真直線に進むデュランダルだからこそ、実に有利な状況とも言える。

下からの斜め対角線の攻撃をアサシンはまたすれすれで回避する。
それでも、ランサー自身を攻撃するのには間合いが不十分な状況。
故に、その時に勝機を見い出した。


神聖なる絶世の名剣デュランダル!」


力強く上から下へと一文字に切り伏せるべく絶世の名剣を振り下ろそうとするランサー。
いかなるものをも両断するその一撃は、


天地覆いし開豁の星エヌマ・アヌ・エンリル


たったその一言だけで意味を失ってしまった。

ランサーが見たのは始めて力強く飛び込んでくるアサシンの不敵な笑み。
クロスさせるように左右同時に疾風のごとく振るわれる刀。
そして、力を込めて振り下ろされる間際の状態で、二降りの刀はランサーが持つ剣の柄に命中していた。

あろうことか、宝具の発動直前にその動きを止める事で無効化されてしまったのだ。

宝具の発動すら阻まれたランサーはさすがに隙を生じさせた。
なぜこのような結果になったのか、どうやったらこれほどまでに正確に阻む事ができるだろうか。
疑問は途絶える事無く浮かんできたものの、今は戦闘中。呆ける事は確実な死と同意味だ。
すぐに宝具発動をあきらめ、一旦距離をとろうとする。

だが、その僅かな隙こそが致命的だった。
まるで死神が鎌を振り下ろすかのように、アサシンは死刑執行を行った。


身想毒葬ザバーニーヤ


interlude out


   /

剣を交えるたびに爆撃にも似た音が耳に入る。
踏み締めた地面の舗装はひびが入ってめり込み、とっさに盾の代わりとなった電柱は豆腐よりも簡単に切断される。
ライダーとセイバー、2人の戦いは壮絶なものだった。

ただでさえ背の大きいライダーがブケファラスに騎乗している姿は、彼自身をより大きく見せていた。
その駿馬をあわせてしまえば、もしかしたら四メートルは高さがあるかもしれない。
彼に1.5メートルほどしかない小柄なセイバーが挑む姿は、まるで神話を髣髴とさせた。

それでもライダーの一方的な有利にはならない。
セイバーは小柄なら小柄で相手の懐に飛び込んでゆき、攻撃をする事も可能だからだ。
魔力放出による瞬発力でライダーに襲いかかるセイバーは弾丸を思わせる。

ライダーは大剣とも言うべき大きさの得物を片手で楽々とふるい、その馬を手足のように扱っている。
ライダーと馬とは決して使用者と道具ではなく、だが主従関係でもなさそうだった。ほぼ対等な仲とも言ってもよかった。
2人のコンビネーションは巧みで、息の合った動きでセイバーを蹂躙しようとする。

「くぅっ!」
絶えず動き回るライダー達に食らいつこうとセイバーも疾走する。
力はややライダーの方が上。速度はセイバーとブケファラスでは互角と言った所だが、セイバーの方が小回りが効くか。

受け立ちをするセイバーの体勢がゆらぎ、更に追撃をしようとするライダーの攻撃に剣を合わせる。
セイバーは力の差を利用して一旦距離を置き、懐へと飛び込もうとする。
それに対応するライダーは馬を駆って間合いを自分の有利にしようとし、反撃に出る。

ライダーは時には盾で防御し、力任せにセイバーを突き飛ばしもする。
剣騎士たるセイバーが両手持ちだから、騎乗して剣と盾を用いるライダーの方が騎士にも見えてしまう。
それでもその在り方は騎士と言うより戦士だった。多分、こうやって幾度となくあった戦いでも最前線で剣を振るっていたんだろう。

戦いが始まってからどれほどの時間が経過しただろうか、両者は数メートルの距離を置いて対峙する。
セイバーはあくまで端然と剣を構えて相手を見据える。ライダーは笑顔のままで頭をかく。
その間私はアイリスフィールがどのような手で出るのか、そして衛宮切嗣がどの辺にいるかを観察していたが、特に動きは見られなかった。

「見事である、セイバーよ。真っ向切っての競い合いでこれほどまでに渡り合う事になるとはな。まず賛辞を送ろう」
「貴殿の方こそ、その馬捌きは騎士たちと何ら遜色ない。貴殿の時代では一対一での真剣勝負はあまり行わなかったでしょうに」
「んー、確かに余は大多数対大多数を主としておったからなぁ。いささか勝手の違いに戸惑っておるのも事実。まあ戦う事に変わりはないのだがな」
ライダーは豪快に笑いながら大げさに肩をすくめるしぐさをとる。
一見すれば隙だらけな動作ではあったが、セイバーはその隙を取る行動には出ようとしない。

「それはそうとライダー、なぜ軍を出そうとしない。まさか私では軍を出すには不相応とでも言いたいのか?」
低く抑えた声と共に、セイバーは構えをといて剣をライダーの方へと向ける。
その鋭い視線は一見すれば何とも思わないが、怒りを伴っているのが見て取れた。

実はそれは私も疑問に思っていた所だ。
ライダー自信が強い事は分かっていたが、軍をもって一気に殲滅する事もできるはずだ。
戦って競う事がライダーの目的ではないはずだから、何らかの意図をもってそうしているのだと判断して指摘しなかったんだが……。

「むう、うぬとは初対面のはずだが、我が軍の存在を知っていたか」
「当然だ。例え数多の軍勢が襲い掛かろうとも、この剣をもって全てを切り伏せて見せよう。さあ、出すがいい! おまえが自慢する、軍勢を!」
ぼやくようにして視線をそらすライダーだったが、セイバーの発言は更に怒気を増していく。

この様子だとセイバーはライダーが今まで見せた戦法全てを把握していると見てもいいだろう。
王の街道ロード・オブ・バビロン』、 『殲滅軍隊ファランクス』、そして名も分からぬ正体不明の攻撃もまた。
だとしたらそれを一向に使う気配のないライダーに手加減されていると思われても不思議じゃないが……。
で、そんなライダーは、

「貴様が騎士王だと分かったからには出来る限りで決着は先送りにしたいのだがな」

こんな事をのたまってくれました。

「……!」「え……?」「なっ!」
私はおろか、アイリスフィールとセイバーとで三者三様に驚きの声を漏らす。
決着を先送りにするだと?

「一体、何を考えているライダー」
私が何かを発言する前にセイバーが並々ならぬ闘志を持ってライダーに問いかける。
ライダーはさも面白い事を説明するかのように、笑みを持ったままで発言する。

「セイバーよ。現在時点で確認しているサーヴァントの真名、共通点に思い当たりはないのか?」
「共通点?」
現在時点で確認しているサーヴァントの真名の共通点?

まず目の前にいるセイバーは騎士王アルトリウス、ライダーは征服王イスカンダル。
それからライダーが出会ったキャスターは魔術王ソロモンで、ランサーが倒したバーサーカーは始祖王ナルメル、と。
ランサーはカールだと名乗っていたけれど、それが誰かは分からない。アサシンとアーチャーは依然として不明。

「ライダー、貴方まさか……」
一番最初に気づいたのはアイリスフィールで、驚愕を隠せないままでつぶやくように述べた。
その反応に満足と言った表情を浮かべてうなづく。

「その通りだ。おそらくはアーチャーやアサシンもまたそうであろうな」
「まさか、そんな偶然があるはずが……」
「それが運命とやらの面白さではないか。違うか?」
アイリスフィールから詳細を聞かされるセイバーは言葉を失う。
闘志より驚愕の方が勝ったようで、表情もそれに彩られる。

……確かに仮説が1つだけ思い浮かぶけれど、そうと断定するのはまだ早いんじゃないか?
アーチャーはまだ姿を現してないし、アサシンのクラスに収まっているあいつがその共通点に結びつくとは正直考えにくい。
それに、ランサーに関して説明ができない。

「てなわけで残ったサーヴァント。すなわちアサシンとアーチャーを確認した後に決着をつけたいのだが、どうかな?」
「断る」
ライダーの提案をセイバーはあっさりと切り伏せた。

「いかにそのような共通点があろうとも、私たちは元は聖杯戦争にて聖杯を争うために召喚されたサーヴァントだ。結局は戦うに終始する。
 そのさだめからは逃れられないぞ、ライダー」
「むう、頭の固い奴よの。さだめよりも大切なものがあるだろうが。余にとっては『器』の確認もまた此度の戦いと同位なのだがなぁ」
眉をひそめながら深いため息をもらす彼は、剣を轟音を立てて振るった。

「それでは致し方あるまい。いずれまた、と離脱するのは簡単だろうが、それではあまりにつまらん。
 余の軍を知っていたのだから、あらかじめ余の真名も知っておったのだろう? にも拘らず名乗り返した心意気は天晴れだな。
 その礼もかねて、此度の戦いで始めてのものを貴様に見せようではないか」
ライダーは笑みを止め、セイバーと同じように相手の方へと剣を向けた。
その先にはちょうどセイバーの喉元が来るようになっている。

「……」
ライダーの雰囲気が明らかに変わる。彼を覆う魔力は今までの比ではなかった。
いつぞやの正体不明攻撃と同じ、ライダー自身が繰り出す攻撃、しかも宝具クラスのものに違いなかった。
それを見て取ったセイバーも警戒を怠らず、表情を更に引き締めた。

「ゆくぞ!」
ブケファラスが沈み、弾かれたようにセイバーへと飛び掛った。
今までとは比べ物にならない、前方の敵のみを殲滅するための突撃だった。
セイバーもまた飛び込んでゆく。魔力をともなった急加速はブケファラスにひけを取らない。

ライダーは剣を振りかぶらない。構えからすると突きをやるようで、身体を思いっきり捻っていた。
セイバーはあくまで脇構えで、敵をなぎ払うつもりらしい。ぎりぎりまで敵の攻撃を見定めるつもりか。
数十メートルはあった間合いはあっという間になくなっていき、まずはセイバーの方がライダーの間合いに入る。

お互いの動作に異変が起こったのはその直前だった。
セイバーは自身の間合いに入らないうちから剣を振るい、ライダーの方へと向けたのだ。
それが何を意味するかはその瞬間にはわからなかったが、直後にようやく理解できた。


殲滅軍隊ファランクス!」


ライダーが繰り出した一撃の結果、セイバーはアイリスフィールの所まで転がっていった。
ライダーは追撃をせずにブケファラスを落ち着かせ、また笑みを浮かべた。

「……征服王イスカンダル……こいつ、底なしか?」
私は目の前で起こった光景の感想として、その程度しか言う事ができなかった。

「ほう、中々大胆な奴。それにまさか馬よりも速く後退できるとは思わなかったぞ」
ライダーは率直に感心の声をあげる。どうやら自身の一撃を対処された悔しさはないらしい。
一方のアイリスフィールは、セイバーの元でしゃがみこみ、文字通り手当てをしている。多分回復魔術をかけているんだろう。

「――ありがとう、アイリスフィール。大丈夫です」
地面に手をつき、震えながらも立ち上がるセイバー。
その美少女とも言っていいほどの面は苦痛で歪んでいるが、構えそのものに揺るぎは見られなかった。

多分、今ライダーが行った攻撃がランサーに対するものだったら、彼には悪いが勝負は決まっていたはずだ。
勝負を先送りしたのは、ランサー戦でも見せた未来予知にも近いセイバーの直感に他ならない。
突撃するライダーと迎え撃つセイバー。どちらもが敵に対して飛び込んでいった。
そこで悟ったのだろう。飛び込む行為そのものが失策だったと。

ライダーは宣言と同時に突きを放った。
それだけの一撃だったらセイバーなら対処どころかカウンターすら狙えたはずだった。
そう、たった一撃だったら。

ライダーの攻撃はその瞬間、幾つにも増えていたのだ。

それは多重次元屈折現象なんていうごたいそうなものではなく、剣が無数に分裂したと言う表現が正しいだろう。
ファランクスは元々軍の突撃攻撃で行うもので、幾重にも重なる陣形で数多もの長槍を装備させ、敵を串刺しにするものだ。
征服王の下で統率された軍は正に無敵に等しかっただろう。ラムセス2世ぐらいに長く生きていればそれこそ世界征服すらできたに違いない。

それをライダーは剣をもって再現したのだった。
多数の剣による同時の突き。それはもはや点の攻撃ではなく面の攻撃。
それこそ負傷覚悟である程度を捌くか、後退する事で回避するしかないけれど、馬での突撃攻撃で後退はどう考えてもできない。

可能としたのは多分剣を覆っている風なんだろう。
渾身の魔力放出での後退と同時に風を一気に解き放つ事によって急転換を可能としたようだ。
それでも全てを回避する事は叶わず、ある程度の負傷は負ったようだが。

「さぁて、名残惜しくはあるが騎士王、しばしの別れだ。次にあいまみえる時があれば、その時はおそらく剣を交える時ではあるまい。
 その時までにある問いについて考えておいてもらおうか」
私はライダーの言葉に肩をすくめるしかなかった。
これは朝2人で話し合って決めた事だからとやかく言うつもりはないけれど、絶好の機会を逃した事にはため息しか出ない。
衛宮切嗣の在り方やセイバーの強さを考えると、ここでしとめておきたいんだがなぁ……。

「問い、だと?」
「その通りだ。ある意味では貴様の本質そのものを聞くより重要な事だろう。余を魅せるような答えを期待するぞ」
ふふん、とうなってライダーは馬を馴らす。

「王とは何か、をな」

王とは、何か?
いかにも王であるライダーらしい問いではある。
聖杯戦争に参加している質問される側はたまったもんじゃないが、彼にとってはとても重要な事なんだろう。
それを聞いたセイバーは眉をひそめた。

「征服王、私に王道を問うのか?」
「おうとも。今ん所はランサーにしか聞いていないが、いずれは全員に問うつもりだ。
 せっかく古今東西あらゆる英霊が集まっておるんだ。聞かなきゃ勿体無いだろう?」
言ってる事は著しく間違ってる気もするが、自然と説得力がともなっている。
もしかして、アサシンやアーチャー相手にもそうするつもりなのか?

「おいトーコ、貴様からも何か気の利いた言葉はないのか?」
「は? 私?」
ここで私に話題を普通振ってくるかー?
ただでさえもライダーの考えには内心あきれ返っているって言うのに。
しばし考えた後、結局こんな言葉しか浮かんでこなかった。

「アーサー・ペンドラゴンか。いずれはその聖剣、見せてもらおうか」
できれば邪魔など一切ない時と場所でな。

どうやらセイバーはこちらに対して攻撃を仕掛ける気配はないようだった。
それが何故かまでは分からない。向こうには向こうなりの事情があるんだろう。
別に詮索するつもりもないし、これで今日はお開きか。
ん? もしかして聖杯戦争始まって以来始めて無事に一夜を過ごせたか?

「それではさらばだ!」
「え?」
そんな事を言いながら、ライダーは私と切り札のトランクを摘み上げて、馬に乗せた。
そうして馬を走らせる。

「おま、何考えてるんだ!」
馬に乗ることなんて今までなかっただけに、この揺れる感覚は正直堪える。
がくがくと頭が揺れるせいで声までもが震えている。
そんな私をよそに、ライダーは涼しげに発言する。

「ん? こうでもせんと不意打ちを食らうかもしれないからな。ただでさえもエミヤキリツグとやらやアサシンと言った不埒な輩がおるようだからなぁ」
「む」
確かにあんな開けた公園では撃ってくださいと言わんばかりだろうな。
一番気をつけなければいけないのは戦闘中よりむしろ戦闘後の油断だろうし。

かくして今日の戦いはほとんど小手調べで終わってしまった。
結局分かったのはライダーの底知れぬ実力と、セイバーの並外れた直感の再確認だけだった。
私だけが勝ち残るのならこれは僥倖と言うべきだろう。それほど征服王イスカンダルは大きな存在ではある。
だが……私の召喚した英霊、ランサーと共に勝ち残る事を考えると……更に壁が高くなってしまった気がしてならない。

そもそも相性の問題から言うと、あの遠坂時臣がその時になってもランサーを帰すとはとても思えない。
多分デュランダルだけがランサーの武器じゃないはずだ。ランサーとなる決定的な何かがあるはずだ。
……うまく彼だけを脱落させる方法も考慮に入れておかなければならないかもしれない。

疾走する馬の速度は自動車よりも速いかもしれない。あっという間に公園の外まで出てしまう。
流れゆく街の光はまるで流星。通り過ぎる文明の物音はバックコーラス。
都会ならではの光景を見ながら、私はため息をもらして天を仰ぐ。

ランサー、おまえは今どうしている?


   /interlude

「ぐ……!」

ランサーは苦悶の表情をあらわにして、仕切りなおすようにアサシンとの間合いを広げていた。
鮮血が下の道路へと滴り落ちて行く。

アサシンの攻撃で負傷した首筋を確認する。
どうやら頚動脈や気管、それから神経への損傷は見られず、戦闘続行可能。
ランサーは傷をそのまま放置してアサシンへと構えをとった。

「まさか宝具の発動すら見切られるとは思わなかったぞ……」
「そうじゃな。宝具の発動とて身体の流動によって行われるものに過ぎぬ。集中し洞察を行えば、それとて見切る事は可能よ。
 じゃが、さすがにわらわとて見切る事ができるのは目に見える事のみ。魔力の流動までは探知できぬがな」
アサシンは刀を一本鞘に収め、そのまま天を指す。

「天地創造、人類であるならどの種族もが神話として語り継ぐ、始まりの時。人間や目の前に広がる海とて神であられるマルドゥークが創り上げたもの。
 いかに人間の文明が進もうとも不変な、あの天とて神が創られたものじゃ。神々は万物にあらせられ、我らを見守っておる」
『マルドゥーク?』
時臣はその名詞を聞くと、いぶかしげに眉をひそめた。
彼の記憶が正しければ、マルドゥークは世界最古の神話であるバビロンで天地創造を行った神だったはずだ。
その名前が出てくると言う事は、アサシンの正体は――、

「事、天空から下界を見渡せば、それこそ手に取るように万物が把握できよう。
 それこそこの世界が球体と分かった現在においても、それを取り囲む天球からこの世を見下ろすように」
囁くように言い放つアサシンだったが、その眼は絶対の自信に満ち溢れていた。

「何を行おうとも天からは丸見えなのと同じように、そなたも我が天球、 『天地覆いし開豁の星エヌマ・アヌ・エンリル』からは逃れられぬ。 潔く負けを認めるがよい」
「ふん、喉をなでた程度でいい気になってもらっては困るぞ」
ご大層な名前をつけているのは一向に構わないが、その結果は喉に切り傷ができた程度に過ぎない。
結局アサシンはランサーに対して大きな傷を与える事ができないと確信する。

目の前のアサシンなら対魔力は存在しない。よって魔術が有効なはず。
いくら行動が見切られているとはいえ、身体能力には決定的な差がある。
ならば剣と魔術を織り交ぜれば、絶対に倒せるはずだ。

そう思って間合いを詰めようとしたランサーだったが、

「が……っ!」
次の瞬間、強烈な気分の悪さに襲われた。
それはもはや立ってもいられないほどで、かろうじて剣をアーチに突き刺した上で片膝になるのが精一杯だった。
気分の悪さだけでなく、痙攣や脱力感に嘔吐、あらゆる障害が一斉に喰らいついたようだった。
何かを言おうと思っても、言葉を発しようとするだけで気分が更に悪くなっていく。

「なでる程度で十分よ。ひとたび傷をつければそこからわらわの調合した毒がそなたを蝕んでゆく。ああ、なぜ英霊にすら効く毒を作り出せたか?
 そなたは度重なる戦闘で負傷しすぎた。流れ出た血からそなたへの特別な調合を行ったまでの事よ」
くく、とアサシンは笑みで顔を歪ませ、ランサーへと歩み寄っていく。
動けないランサーを前にしても油断など一切もせず、軽やかなほどの前進だった。

「なぜわらわがアサシンで召還されたのか、真名は一体なんなのか、そんな事はどうでもよい」
「ぐ……!」
ランサーは震える足を何とか踏ん張らせて、立ち上がろうとする。
だが腰に力が入っていない上に目まいも酷い。構える剣も心なしか細く見える。

「肝心なのは、そなたがわらわに敗れると言う事実だけじゃ」

アサシンは二刀をもって、剪定ばさみで枝を切り落とすように上下から切りつける。
回避や防御、攻撃の対処はどう考えても不可能。玉砕覚悟で突進した所で倒せるはずもない。
ランサーにできる事はただ1つ、身体から力を抜く事だけだった。

アサシンの刀が空を斬り、ライダーの身体はアーチから崩れ落ちてゆく。
重力に身を任せる先にあるのは橋の下を流れる川。
そんなランサーを眺めてアサシンは、

「逃がすと思うたか!」
強い口調と共に追撃に入った。
アーチの底を蹴ってすぐさま自然に落下するランサーに追いつき、再び刀を振るう。
一振りはかろうじてデュランダルで防御する事ができたが、もう一方は無情にもランサーの胴へと襲いかかる。

胴こそ切断できなかったものの、確かな手ごたえを感じるアサシン。
彼女は落下もそこそこに、橋に刀を突き刺してそれ以上落ちるのを防ぐ。
そして、川に水しぶきを上げて落ちたランサーを見送った。


『やったのか……? 遠坂の奴のサーヴァントをやったのか?』
「む、ビャクヤか」
まだ時刻で言えば10時ほど。まだ人はまばらだが行き来しているため、アサシンはいち早く霊体化する。
その直後に念話が聞こえたために返事を行った。

「おぬし……随分と余裕じゃな。まさかわらわへの魔力供給を丸投げしたか?」
『まさか、ちゃーんと俺も供給してたさ』
どこか冷たく言い放つアサシンを声の主は全く意にも介さずに飄々と発言する。
そんな鶴野をどう思ったのかは、アサシンにしか分からない。その胸の内を語る事はないだろう。

『それで、遠坂の奴のサーヴァントはどうなんだよ』
「そうじゃな……致命傷は与えられておらぬ。負傷だけじゃったらじきに回復できる域であろう」
あっさりと述べるアサシンだったが、鶴野はそんな調子のアサシンの態度に頭に血を上らせるしかなかった。
彼が放つ次の言葉も容易に予想できてしまったアサシンは、深くため息をもらした。

『おま……それでなにボケッとしてるんだよ! 今すぐ追えよ!』
「あわてるでない。刀に毒は盛っておいた。即効性でないゆえにまだ生きてはいるじゃろうが、1日もあれば十分にくたばるだろうて」
『……そうか、それならいいんだよ。でもなんで即効性じゃないんだよ』
調子がいいな、などとアサシンは思いながら仕草を取る。当然念話でのやりとりなので相手に見えるはずもない。

「なら即行でくたばってもらった方がよかったのか? 毒の中和はそれこそ一流の薬師でも調合比率を判明せぬ限り不可能よ。
 神秘で治療するならば、やはり神代の魔術師の術や宝具でも使わねばな。さて、ではあのランサーやトキオミとやらがそれを行えると思うか?」
『……いくらアイツでも無理だろ』
「その通り。助けたくても何もする事ができずに己の無力を味わう事となる。問おう、そなたの望みはトキオミを殺す事か?」
分かりきっている質問をあえてするアサシン。
鶴野はその言葉を聞いて頭を冷やしていき、

『違う、俺の望みはその程度じゃあ収まらない。俺の目的はあくまで遠坂の奴に決定的な敗北を叩きつけてやる事だ。
 魔術師としては数段に優れたあいつを、数段劣った俺が、魔術の世界でね』
憎悪の限りをもってその言葉を発した。

「……どうやら征服王の奴めも戦闘を終了したようじゃな。あやつは危険ゆえ、まだ動きの全てを把握しているわけではないから、
 もう少しばかり観察したかったのじゃがな……」
『はん、遠坂のサーヴァントでなくなったあいつの事なんてどうでもいいだろ。そのうち他の奴が始末してくれるさ』
アサシンはそれには返事をくれず、天を仰ぐ。

相変わらず月が美しい。都会ではガスや夜の明かりのせいで天が曇って見えると知識にはあったが、存外に保たれていた。
手をかざし、その美しき月を掴むような仕草を取る。
そしてため息をもらすと、踵を返した。

「これより帰還する」


interlude out



続くんじゃないか?


ステータス情報が更新されました

第16話に続く

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 と、言うわけで今回は少し風呂敷を広げた程度で終了。
次の日を折り返し地点と思っているので、そろそろ何を今さらなアーチャー登場と、全サーヴァントの真名判明も行いたいと思います。
さて、問題は今のペースだといつになる事やら……。
この調子ならば30話以内での完結も夢ではない……かも。

それでは次の舞台で。
  2007年6月27日

文字化け防止用に
そのままで
名前(省略おっけー)
あどれす(省略おっけー)
ご感想 すごくよかった
これからもこの調子で
可もなく不可もなく
もうちょっと
原作やりなおそう
その他なにかあれば

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