幻橙英雄

第5話・始祖王@


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 ランサーとバーサーカーの戦いだが、魔術などでのものは全く使われない、それこそ戦士と戦士の決闘のようにあざやかだった。

ざっとバーサーカーの戦法を説明するなら、単純に斧で攻撃するだけだ。
その斧だが、木を切るような小さなものではない、いや私からしたら木を切るものでも十分に大きいがね。
普通の兵士なら両手で持つようなものを片手で平然と持っているのだ。
しかも、それを二刀流。本能だけでそれをふるう姿は嵐以外の何物でもない。
コンクリートの壁に当たればそれは砂の壁のように崩壊し、地面に当たればまたコンクリートが破壊する。

雄たけびのようなものをあげて斧を振るう。
それをランサーはただ受け止める事はせず、力を殺すためにいなし続けていた。
二本で襲いかかる狂撃を一本の剣でやるのだ。当然両手持ちと二刀流では一本にかける力は段違い。
当然受ける事もできるはずだが、それではもう一本を防ぐ時にタイムロスが生じてしまう。これを避けたいのだろう。

肉迫するバーサーカーに対し、全くひるむ事無く剣を振るう……、いや、今回は振るってはいなかった。
そう、セイバーの時とは違い、突いていた。
バーサーカーの攻撃をそらし、突く。ねらい目は単純、喉、口、目などどれも戦闘面で致命傷になるものばかりだ。
振るうのと違って突きは点、つまり致命傷が与えやすく力も入りやすい。

ランサーは突きが外れてもその後の払いをせず、また剣を手元に戻し、また攻撃か防御に行動を移している。
嵐のような怒涛の攻撃と、技術による洗練された反撃。
その構図がかれこれ数十分は続いたような気がした。

少し間合いが離れると、ランサーはその俊敏さですかさずバーサーカーとの間合いをつめる。
魔術のたぐいは全く使わない。単純に技量だけでバーサーカーと互角の戦いを演じていた。

「■■■■■ーー!!」
また雄たけび、と同時にバーサーカーは地面を割れんばかりに踏みしめてまた飛び出した。

「ふっ!」
バーサーカーの一撃をランサーは突きではじき、もう一方も払いで軌道をそらす。
そして一閃、それはまたバーサーカーの最初の一撃を放った方で防がれた。

「……」
こうやって見ているだけでもランサーの戦いにはほれぼれする。
バーサーカーも狂戦士、だと言うのにどこかそれよりも尊い何かを感じるのだが…。

「ぐ……っ!」
だがそれを良しとしないのは当然バーサーカーのマスターだろう。
当然だ。あれだけ意気込んでおきながらこの体たらくではな。
それにランサーには魔術という切り札が宝具の他にある。

「ふん」
面白くなさそうに、ランサーは間合いを離して、剣を振るった後こちらの近くで構えをとる。
バーサーカーはそれを追おうとするが、マスターはそれを良しとはしなかった。

「そろそろ互いに手を抜くのを止めにしたいのだが、どうかな?」
と、ランサーはこんな事を言い出した。
ぎ、と唇を噛む敵マスター。

「『狂化』もしないでこの後勝とうだなんて思わん方がいいぞ」
さも当然のように話すランサーの顔は微笑を浮かべていた。
敵マスターはこれでもかとばかりにランサーを睨みつけている。屈辱だ、と言わんばかりに。

「……なぜ『狂化』をしていないと分かった」
「では逆に聞くが、今のがまさか本気だったのか? バーサーカーは戦闘面だけではセイバーにも勝てるような可能性を秘めている。
 ならそう考えるのもおかしくはあるまい」
……確かに、それは私も思った。

あのバーサーカーは、明らかにセイバーより弱い。
狂戦士に技術も経験からくる感も何もあったものではなく、ただ本能のみで振るわれる攻撃は単純。ただ敵を殲滅するのみだ。
対するランサーもそれに応じて単純な戦闘しかしていない。かけひきなど一切存在しない。
と言ってもバーサーカーは過去ことごとく自滅していたと聞くから本当にセイバーを超えるバーサーカーがいるかは疑問だが。

「く……くはは。なるほど、確かにそのとおりだな。これは我輩の失策であろう」
そう言うと、右手をこちらの方に突き出す。

「狂えバーサーカー、そして敵を殲滅するのだ」
「■■■■■ーー!!」
雄たけびが響いたかと思うと、瞬間にバーサーカーの姿が消えた。

「ふっ!」
ランサーは何もない横に一閃する。

その瞬間、剣と斧が衝撃音を上げてぶつかりあった。

「はあああっ!」
ランサーを覆う魔力の質が明らかに変わった。
砲筒による一撃が、大砲の一撃へと変化するように。
二人の戦いは更に上へと進んでいった。

「■■■■■ーー!!」
だが、一撃がそれでも互角。
バーサーカーは片手、ランサーは両手だというのに、先ほどと違って一撃の強さはほぼ同じだった。
スピードではまだランサーの方が上を行っているからいいものを、先ほどとは違って徐々に防戦になってきている。

「ふっ!」
先ほどと違ってランサーの攻撃は斬りが入っている。突きだけにこだわっている場合でなくなったか。
おそらく狂化されて耐久度はあちらの方が断然上になっているだろう。鎧もつけていないランサーが一撃を受ければそれで終わりだ。
だと言うのに、

「はあっ!」
その剣を振るう顔に焦りが見えないのはなぜだろうか?

バーサーカーの振るうそれは正に立ちはだかるものを全てなぎ倒さんとばかりだ。
対するランサーの振るう剣は、正に閃光。それが走っているようだった。
その2人の間には金属が交じり合う事での火花が幾度となく飛び散り、その音がコントラストを奏でる。

「■■■■■ーー!!」
幾度目の乱舞の後だろうか。
バーサーカーの一撃を、ランサーは今度こそ剣で受け止めた。
デュランダルは決して折れる事はない。
なら、

「ぐ……っ!」
ランサーが吹っ飛ぶのは必至だ。

ランサーが数メートル後ろの壁に激突し、そのガレキが盛大な音をたてて崩れていく。
煙がたったその中で、ランサーは少しふらっとしながらまた私とバーサーカーの間に立ちはだかった。

「これほどの実力の者をバーサーカーで召喚するとは、な」
「当然だ、我輩は優れた魔術師であるぞ。それぐらいできなくてどうする」
多分ランサーの言葉は独り言か、バーサーカーへの賛辞だろう。頭を少しかかえながら言い放った。
だと言うのに返事をしたのは敵マスターの方だった。まるでバーサーカーの実力を自らの実力とばかりに。

「にしても……」
ランサーはまだ続ける。

「バーサーカーとなってもその威厳がわずかににじみ出ているが、生前は軍ではよほどの地位にいたのだな」
「当然だ、バーサーカーは王なのだから」
は? 今こいつはなんて言った?
敵マスターはふんぞりかえって余裕を見せつけている。
そして、こう続けた。

「バーサーカーの正体は、ナルメルなのだからな」

「ナル……メル……」
その名前つきからしてヨーロッパ方面の者ではあるまい。
なら……、

「まさか……あのナルメルか!?」
「ほう。その方、意外と博学なのだな」

 ナルメル。今から五千年も昔の、エジプト先王朝時代最初の王だ。
分かっている事は前3100年頃、上エジプトと下エジプトを統一した王ではないかと言う事。
出土品も少なく、『いる』としか分かっておらず、その他が全く知られていない。
メネス王やスコーピオンキングと同一人物とされるが定かではない。

だが、確実に分かる事が一つある。
エジプトはシュメール人の作ったウルやウルク、つまりメソポタミアよりもすら起源が古いと言う事だ。
なら、そのエジプト最古の王なら、世界最古の王と言っても過言ではない気もする。

「そんな曖昧なやつをよく召喚する気になったな。どれだけの実力か未知数だし、何しろ知名度が低い」
皮肉たっぷりに言ってやるが、どうせこいつには通用しないだろう。
こんなたぐいは、自己に陶酔するタイプだ。

「だが真名発覚による弱点発覚もあるまい。それに、絶対の実力の前には知名度など些細な問題に過ぎん」
「……」
あくまで自分は正しい、そう確実に思っているのだろう。
なら訂正してやる義務もないし義理もない。放っておくか。
そんな敵に対し、ランサーは、

「バーサーカーでない彼と戦いたかったのだが、まあいい」
と言って、その構えを変えた。
その構えは、片手持ち。

張り詰める圧迫感は、昨日のセイバーに見せた時と同じだ。

「この一撃、耐えられるか――」
この後にやる攻撃は唯一つ、宝具だろう。

ランサーにも関わらず剣技、しかも斬の宝具。
なぜ斬の宝具を使うのか、それはまだ分からないがランサーなりの考えがあるのだろう。
それを前にして狂戦士は、

「■■■■■ーー!!」
本能だけで危険と感じたのか、ただ直進あるのみだった。
そして両の手に持つ斧が振りあげられ、


神聖なる絶世の名剣デュランダル!」


光の線が彼を斬った。
その速度は、狂化されたバーサーカーよりもはるかに早かった。

昨日と同じ、アスファルトでできている道路が斬られていたが、今度は敵マスターの手前で止まっている。
敵との距離はせいぜい10数メートル。
そこまで威力が抑えられていると言うことはつまり、

「ほう! 止めたか! この一撃を!」
ランサーが感心するように言い、追い討ちをかけるように先ほどと同じく連続攻撃をしかける。
そう、バーサーカーは傷こそ負ったものの、その傷自体は致命傷ではなく戦闘に支障が出るようなものでもなかったのだ。

「どう言う事だ……!」
宝具とは自身の象徴、自らの人生を語る形容詞のようなものだ。
だと言うのにランサーはその宝具が効かない事を当然のように受け止め、平然としている。
それは一体、なぜだ?

「ふ……ははははははっ! 自身の宝具が役立たずだと分かって開き直ったか! 滑稽以外の何物でもないわ!」
敵マスターはそんな事を言いながら爆笑している。
言われているのはランサーで、それは事実そのものだが、頭にくるのは私だけなのか?

ランサーの攻撃はより正確に、より精度を上げ、敵の攻撃を防御しながら反撃に出ている。
バーサーカーは先ほどと同じで嵐のような怒涛の攻撃。宝具による傷がなかったかのように全く変わりがない。
ランサーの攻撃は点と線、バーサーカーは弧、それも全く変わりがない。

結局狂化をしても、宝具を使っても、戦いは一見すると互角だった。
それに焦りを感じているのは、私だけではないようだ。

「ええいっ! 何をしているバーサーカー! これでは手を汚してまで貴様を狂化した意味がないではないか!」
じだんだをふんでそんな事をわめきちらす。
手を汚さなければならなかったのはお前のせいだろうがとは言うつもりもない。言うだけ無駄だ。

そんな彼は右手を高々と上げた。
そして、

「もういい! 宝具をもって敵を殲滅しろ!」
手の甲にある令呪が光り、そんな命令が出てきた。

「■■■■■ーー!!」
瞬間、咆哮が響き渡り、バーサーカーの斧が大きく振りあげられる。
その筋肉は先ほどの嵐などの比ではなく盛りあがっていて、魔力も激しい。

感じるのは、圧倒的な死の予感。
次の一撃は、間違いなく必殺の一撃だ。
だと言うのにランサーは全く動こうとはしていない……!

「ラン……!」
サー、と言おうとして、言葉が止まった。
なぜなら、自身ありげにこちらの方に手を突き出したからだ。

ランサーの意見を聞くか、無視するか。
それを判断している一瞬で、それは起こった。


「■■■■■■■■■!」


宝具の真名、だと言うのにそれが言葉かどうかすら聞き取れないほどゆがめられた言葉が発せられ、それは解放された。
全身のばねをフルに使い、両の斧がランサーに襲いかかる。
そのスピードは私にはただの残像にしか見えなかったが、ランサーは確かにそれをとらえ、かわしていた。
両の斧は当然勢いを殺しきれずに地面に突き刺さる。

「な……っ!」
だが、その攻撃はそれで終わりではなかった。

そう、言ってしまえば地面が爆発したのだ。
地面を構成するアスファルトがことごとく破壊し、その下にある土までが破壊していく。

「ぐ……っ!」
私はとっさに防御関係のルーンで次に襲ってくる衝撃波とアスファルトなどのつぶてをやりすごそうとするが、威力が大きすぎ、数が多すぎる。
結果、頭部など致命傷に到達する箇所をかばい、腕や脚に大きく怪我を負ってしまった。

「ぐ……あっ!」
地面を転がる事十メートル前後、ガンガン響く頭をかかえて顔を上げる。
そこに広がっていたのは、まさに圧巻の一言だった。

バーサーカーを中心として、半径十メートル以上ものクレーターができているのだ。
そこにあっただろう道路や民家の塀は当然の事ながら消滅し、中にいるのはバーサーカーただ1人。
あえて形容するなら、隕石が落ちてきたかのようだった。
クレーターより外側も衝撃波やつぶてを受けて大きく変貌している。
民家の庭の木は外側に向かって大きく倒れ、原形をとどめた壁にはつぶてによる穴が開いている。

よく見るとバーサーカーのマスターも反対側で私と同じように地面にはいつくばっている。
だが、直撃は防いだはずのランサーがどこにも見当たらない。
令呪は消えていないから、まだリタイアはしていないはずだが……。

「ぐぅっ!」
立ち上がろうとして、脚に来る激痛に顔をゆがめた。
まるで痛みだけが体を支配しているみたいだ……!

視線を移して確認してみる。
……肉が半分もなくなっている。これでは動かんはずだ。

と、バーサーカーが斧を地面から抜き、立ち上がった。
そして、

「■■■■■ーー!!」
まずい、こっちのトランクは……とても手に届かないような位置に転がっている。
こうなったら肉がなくなっていようと関係ない。トランクを取らねばまた殺されるだけだ……!

私がルーンで何とか動ける程度に無理をきかせ、動き出すと同時にバーサーカーも動き出す。
距離から言うと間違いなく私の方が近く、今までと同じスピードならわずかに早く私の方が先にたどり着くはず……!

「っ!!」
だが、そんな私の予想とは裏腹に、バーサーカーはすさまじいスピードで接近し、斧を一閃する。

飛んだのは、トランクを取ろうとした私の右腕。

まるで他人事、ただくるくる回り、私の右腕が落ちていくなとしか思わなかった。
バーサーカーはもう一方の斧をふりあげている。

「ああ」
これが振り下ろされればまた私は死ぬな。随分とあっけない終幕だったな。
これで終われば本当に情けない結果だな、などと本当に客観的に受け止めていた。

だからと言って、私はあきらめるつもりは全くなかった。
左腕はまだ残っている。これがある限り私に終わりなどは無い。


「あきらめるな!」


ほらみろ。

バーサーカーはランサーの突きで吹っ飛んだ。
それはそうだ。横からの不意打ちである上に全体重をかけたんだ。そうならない方がおかしい。

「遅いぞ莫迦。どこで道草を食ってた」
「無理言うな。これでも全力で傷を治してきたんだからな」
そう、私の目の前にたったランサーは一番近くで衝撃波を受けたにも関わらず、無傷だった。
その代わり、魔力がごっそりと抜け落ちている。

「回復魔術を洗礼詠唱で使えたか?」
「身体の傷の回復はできないな。あくまで魂の救済を目的としているし。だがこの身は霊体、なら直接効くという訳だ」
とさも当然のごとく話すこいつだが、そんな簡単なものではないはずだが……。

「■■■■■ーー!!」
咆哮をあげるバーサーカー。

「ランサー、あいつを倒せるのか?」
「無論、でなければこの場にはいない」
これもまたさも当然のごとく話す。
それに思わず笑みがこぼれてしまった。

「愚問だったな」
「つもる話はあいつを倒してからでいいだろう」
そう言って、ランサーは私に背を向けた。
と同時にバーサーカーがランサーに襲いかかってくる。

「行く手を阻むは幾万の兵士、救いを求めるは幾十万の罪なき人々」
戦いをする中で、ランサーは詠唱を開始する。

斧をふるうバーサーカー、それを受け流し、突きで反撃するランサー。
互いに一歩もゆずらないように見え、実際はランサーは追い詰められていた。
攻撃に使う魔力を詠唱にまわしているせいか。

「主の僕を虐げるものには罰を、主の僕を虐げるものたちには災いを」
だから、私はランサーにルーンを書き込んでやる。
攻撃と防御に優れたルーンを用い、瞬間的にだがバーサーカーと互角の戦いをできるように。

「準備は万全であり、全てを主に捧げるもの。ならば神の裁きは自らにはふりそそがないものなり」
バーサーカーもこれから起こる事を本能で察したのか、自然と攻撃の力が強まる。
だが、突破できない。

「メシアにより民は彼の地よりぬけ、安住の地を手に入れることだろう」
敵マスターはまだあそこでうめいている。
これではバーサーカーを助けるどころか、戦局の把握すら出来ていないに違いない。

「行く先は大海であろうと道を開け、阻むものには大海であろうと情けは無用である」
バーサーカーである以上、宝具を使う事は令呪でも使わない限り無理だろう。

「主は永遠に統べ治められ、民はあなたを歌で、祈りで、行いであがめ、讃えるだろう」
なら、この戦いは私たちの勝ちだ。


「Exode!」


ランサーの剣が光り輝く。
それはもはやただの閃光ではなく、尊きものが持つ後光と言ってもよかったかもしれない。
そして、


神聖なる絶世の名剣デュランダル!」


名剣がふるわれる。

走る光は、バーサーカーを間違いなく斬った。

倒れるバーサーカー、振り下ろしたまま静止するランサー。

「な……に?」
私は軽く驚く。
宝具の威力は間違いなく先ほどより高い。だと言うのにバーサーカーはまだ生きていた。
とは言っても一刀両断に近いもの。もはや虫の息だし放っておけば消えるだろう。
だからと言って、これを逃すほどお人よしではない。

「さらばだ王よ」
「もっもどれっ!」
ランサーの剣が振り下ろされる直前、バーサーカーの姿が消えた。
見ると、必死の形相で敵マスターが令呪を振りかざしている。

「ひいいっ!」
そして、悲鳴をあげながら逃げ出した。

「どうする?」
などとランサーは言うが、既に剣を鞘におさめている。

「深追いはしない。ザマがないが、令呪を二個使わせただけでもよしとするか」
これから勝ち抜く事も考えると、ランサーだけで敵を追わせる事はさけたい。
かと言って私を背負ったままで不意打ちを仕かけてくる他のサーヴァントがいたりしたら対応ができまい。
それに、

「まあ、あの調子だと最低で明日にでもあいつは脱落だな」
「そうだな」
ランサーは私の斬りおとされた右腕を大事に持ち、トランクを取る。

「しかし……」
私はこの戦いで起こった事を見る。
数十メートルのクレーターと、数十メートルの亀裂。
それだけでこの戦いのすさまじさが見て取れた。
これはまた事後処理が大変そうだな、などと他人事のように考えとく。

「今日はもう帰るか。連戦できるコンディションでもあるまい」
「賢明だ。俺もそう提言しようと思っていたし」
そして私たちはこの戦場を後にする。

 時刻は午前二時。
監督役への連絡や私の治療を含めて睡眠時間は3時間ぐらいか。

「大丈夫か?」
「心配するな」
ランサーにかかえられた私はそう言うが、歩くのも億劫だ。

 これでやっと1人か。この先どうなる事やら……。


   /interlude

 ヘンリー・ウォードY世。ごく普通の時計塔の魔術師である。
由緒正しいかは分からないが、本人は少なくともそう感じていた。
当然魔術師であるなら、目指すは「」だ。
彼もまた師匠である父にそうであれと言われ、そのために人生をささげてきた。
だが、彼は悟ってしまった。

自分では、至れない、と。

ならば子孫が至れるように近づかねばならない。そのために彼は研究を続ける。
そんな時、好機がやってくる。
聖杯戦争への参加。

彼は、自らに誇りを持っていた。
魔法使いでなくても優れた魔術師であると。

だから出土品を触媒とし、スコーピオンキングを呼び出した。
が、大きな誤算は、バーサーカーで呼ばれてしまった事。
彼は知らなかった。ナルメルの適正がセイバーとバーサーカーでしかなかった事を。セイバーが既に召喚されてしまった事を。

そして致命的だったのは、彼にバーサーカーを律するだけのものがなかったと言う事。
だから、それを自らの知恵で埋めた。
足りないものは他人から取り、補っていく。

そうして初戦、相手は冬木の地のセカンドオーナー遠坂。
遠坂のサーヴァントであるライダーは正に圧倒的だった。
いくら他人から色々とせしめたところで自身が至らない事に気づかない彼はなぜライダーに圧倒されたのかすら分からない。

ならば量の問題だろう、と自分を納得させ、より多くを取ってきた。
そして見つけた相手。

 蒼崎橙子。彼は彼女を知っていた。
最高峰の魔術師。ルーン、人形、どれも優れていて、学院生の話題に上っていた。
ならばこそ、彼は令呪を使ってまで倒そうと試みた。

 結果、バーサーカーは深手を負って当分戦闘はできまい。
自身もバーサーカーの宝具で体を引きずる身だ。

「隠れなければ……、奴らに見つからない所に……」
まだ勝算はある。まだ他のサーヴァントに勝てないのなら、勝てるようにするだけの話だ。
自分は優れた魔術師なのだから。

「くそっ! どれもこれもバーサーカーなんぞ引き当てたせいだ……!」
だが今は隠れて様子を見るべきだ。
何も自らが動かずとも他のサーヴァント同士で戦い会ってくれれば勝機はある。
それまで力を蓄え、その後に敵を殲滅すればいい。
すべては、「」のために。

「どいつもこいつも役立たずの無能ばかりめ…、なぜ我輩の思い通りに事を運ばせんのだ…」
傷つく体を壁によりかからせ、なおも歩き続ける。
今敵のサーヴァントが追いついてきたら自分は終わりだ。
隠れねば、隠れねば。

 夜風が今日になってやけに冷たく感じる。
月は三日月ではないが、欠けていて夜に光り輝く。

 そんな月光の下、その人物は立っていた。

玲瓏なる顔、凛とした物腰、黄金の髪を持ったその中性的な人物に。
少女か、少年か、そんな事は今の彼にはどうでもよかった。
ただ、鎧を着たその人物が、彼の求めた最高のカードだと言う事は瞬時に悟った。

「何者」
と彼は言うが、その人物は答えなかった。

ただ、その人物は何かを持ち、すぐにでも自分を殺す事だけは分かっていた。

「誰のだか知らぬがサーヴァントとお見受けする。我輩からそちに提案を申したい」
その人物は答えない。
ただ彼の前に立ちふさがっている。

「この場は見逃してもらいたい。ならば後にそなた達の助力に答えよう」
「断る」
即答。
無表情で語るその人物に、彼は奥歯をかみしめた。

「おまえが街の人々を犠牲にしている事は知っている。ならばこの場で倒れろ」
見えない何かを持って、それを彼に対して向ける。
なら、

「出ろバーサーカー」
勝敗と、自らの命なら、とるのは当然自らの命だ。
バーサーカーが彼の前に立ち、敵の表情が変わる。

「貴様――」
それは、彼に対する侮蔑なのか、憤慨なのか。
その人物は今にも消えてしまいそうな傷を負ったバーサーカーを見ず、ただ彼を睨みつけている。

バーサーカーと彼の間には当然信頼関係など存在しない。
サーヴァントは自らの使い魔であり、自らの下である事は当然だからだ。
が、それは令呪があればの話。令呪を使い切ればバーサーカーに殺されるぐらいは分かっていた。

「……くそ」
しかしバーサーカーは重傷、目の前にいるサーヴァントがアサシンだろうと勝てるはずがない。
ならば、背に腹は変えられない。
自らに、後退などないのだ。

「命ずる、全力をもって敵を殲滅しろ!」
最後の令呪をもって、彼は己のサーヴァントに命じた。
バーサーカーがどちらに向かおうとも関係ない。生き残る可能性が高い方にかけるのは当然の事だ。

「さらばだ! せいぜいそいつでも相手をしておいてくれ!」
「私が逃がすと思ったか……!」
別れの挨拶をして立ち去ろうとする彼に、その人物は踊りかかる。
十メートル以上離れた間合いは一瞬でその人物の射程距離内に入る。

 そして、剣を一閃した。

先ほどのランサーをセイバーだと思っていた彼には、その人物がふるったものが剣だと言う事を理解できなかった。
そして、その総合面での強さがランサーの上を行っていた事も。

「む……!」
その人物は軽く驚き、跳躍で間合いを離す。
今の結果は簡単、バーサーカーによって攻撃がはじかれたのだ。

もはや彼はバーサーカーにねぎらいの一言どころか振り向きもせず、バーサーカーも彼には全く興味がないようにしてその人物に立ちふさがっている。

「……なぜだ」
敵は狂戦士、だと言うのにその人物はバーサーカーに対して疑問を投げかけている。

「なぜそこまで彼を助けようとする。おまえはもう令呪による縛りはないはずだ」
「しれた事を」
だが、狂戦士は間違いなく答えた。
答えが返ってくるとは思わなかったその人物は目を見開く。

「オレの名はナルメル。王ならば戦場で敵に背を向けるなどありえぬ」
そして、スタンスを広くして斧をかまえた。
もはやこのダメージではバーサーカーができる事は、一撃を放つ事ぐらいだろう。
それを悟ったその人物は、脇構えのようにして目の前の敵にのみ集中する。

「なら答えよう。私の剣にかけて」
そして、両者は飛び出した。

 勝負は一瞬で決した。
いや、始めから決まっていた。

「見事」
そう言い残し、バーサーカーは存在すらなかったかのように消え去った。
残ったのはその人物ただ1人。

 先ほど逃げたマスターを追おうとは思わなかった。
なぜなら……。


「どいつもこいつも役立たずばかりだ……。足止めも満足にできないのか……」
よろける体を引きずり、彼はとにかく川の向こうへ行こうとしていた。

 令呪を失った彼のする道は3つ。
車でもなんでも良いから盗んでこの地を一刻も早く離れる。
潜伏してマスター不在のサーヴァントを待つ。
教会に助けを求める。

だがどれを選ぶにしてもこの場を離れなければならない事には間違いなかった。
いくら彼の見立てでも、あの狂戦士では敵に数分持てば良い方なのは分かっている。
だから、今にも倒れそうな体に無理をきかせて歩く。

まだだ。まだ自分にはチャンスがある。
勝者とは強者とは違う。最後まで立っていた者がそうなのだ。

 だというのに、彼はその人に出会ってしまった。
街灯の下でただその人は立っている。
一見するとただの男性。
が、彼ほど魔術師の雰囲気を持ったものはそうはいないと感じてしまった。

「何奴」
とは言ったが、相手が答えてくれる事などしてくれるはずもない。
バーサーカーの制御に回して魔力は少ない。
もし彼が考えるとおりにその人が敵なら、勝つ可能性は少ない。
勝負は一瞬で決まる。その隙を今はうかがうのだ。

「何者かと聞いてるんだ!」
彼はまた怒鳴る。
その人は、返事も何もしてこない。
だが、確実にその人の注意は彼に向けられていた。

「……」
よく観察すると、その人はサーヴァントらしき者を従えてはいない。
なら、彼にも勝機はある。

詠唱をする様子もない。襲いかかってくる様子もない。
ならなぜこいつは自分の方に意識を向けてくるんだ。

最短で彼は詠唱を開始する。
できるだけ行程を省略し、できるだけ早く、敵よりも先にそれを完成させれば!

「え……?」
それは、一瞬だった。
彼には何をされたかは分からない。
気がつけば、視界の半分を地面が占めていた。

 自分が何をされたのか分かったのは、その人が手に持っているものを見たからだ。
それは銃。現代兵器の象徴。
煙をあげるそれを、魔術師であるはずの彼が持っていた。

「助けてくれ……。令呪なら放棄する……。何なら腕ごと持って行ってもいい……。だから……」
撃たれたのは単純に腹だ。
心臓を狙ったのが外れたのか、狙いをわざと外したのか、彼にはさっぱりだが今はどうでもいい。
生き残りさえすれば……!

「君」
その人は、始めて口をあける。

「そうやって助けを求めた人を何人助けたんだ?」
そして、彼の視界はブラックアウトした。


   /

「……っ!」
思わず私は顔をゆがめる。

 バーサーカーとの一戦後、私とランサーはホテルに戻っていた。
アナスタシアとキャスターも戻ってはいたが、今日は別にどうでもよかろう。

あの後、私はこんな事もあろうかと持ってきた簡易手術用具一式で手当てを終えた。
人形を作るうえで人体の構造を把握する事は当たり前で、そのために色々と学んだのが役に立った。
そんなわけであらかたの治療は終わったのだが…、

「動かすなトーコ、まだつながりきってない」
「言われなくても分かってる……っ!」
斬られた右腕もつなげた上でランサーの魔術で完璧にしたが、治りたてなので痛いものは痛い。
キリスト教徒でありながら洗礼詠唱以外の魔術を使うランサーを疑問に思ったが、

「聖書に載ってるんだ。聖書まで否定する教会など俺は知らないぞ」
とあっさり言ってくれた。
と言っても彼の治療は主に霊体面や精神面であって、肉体面は本当にケガの治療よりちょっと上ぐらいまでしかできないらしい。

 今日の戦いでランサーは宝具を2回も使用した。
使用した魔力はばかになるまい。
だと言うのに、

「威力は低いんだ。まああんなもんだろう」
とこれまたあっさり言ってくれた。

「ランサー」
「ん?」
「おまえの本当の宝具は何だ?」
だから、単刀直入で聞いてみる事にした。

「デュランダルでは不足か?」
「私が見てきた今の所、確かにおまえはセイバーにもキャスターにもなれただろう。それは分かっている。だがなぜランサーになったんだ?」
「言っている意味がよく分からないが?」
……なおもそう言うか。
なら徹底的に問い詰めるまでだ。

「召喚時には『剣技でも突きが得意だ』と言う理由でランサーになったと言うが、セイバー戦にバーサーカー戦は結局突きと斬りはほぼ同じくらい。
 つまり、結局剣士である事に変わりはないだろう」
「……」
「しかも宝具はやはり斬るもので、『出エジプト』の名を持つものも結局は斬るものだ。どれもセイバーの名にはふさわしいだろうが、
 ランサーにふさわしいかと言われると否定せざるをえないぞ」
ランサーは黙ってこちらの言い分を聞いている。
そして私が説明を終えると、静かにこう言ってきた。

「それは、俺の実力に不満を持っているからか?」
「違う。隠し事をする事自体に不満がある」
そう、問題はこの一点だけだ。
実力に関しては何ら不満要素はない。だが、隠し事をされていては私はランサーを疑う事も事実だ。

「いくらまだ聖杯戦争が始まったばかりだとは言え、教えてくれてもいいんじゃないか?」
「悪いが当分それは秘密にさせてもらいたい」
ランサーは即答してきた。
あまりの早さにあっけにとられる。

「デュランダルに別の使い方があると思ってもらってもよし、別の宝具があると思ってもらってもよし。だが、確かに突く宝具が俺には存在する」
「それはつまり……」
「ああ、知りたければ令呪でも使ってくれ」
そして、俺たちの信頼関係は終わりだ。とまでは言わなかったがありありとそれが見て取れた。
そんな彼に私は、

「あるならあると言ってくれればよかったのに、それに秘密は大いに結構だぞ。こっちもトランクの中身を秘密にしているんだからな」
とランサーの肩を叩きながら言ってやる。
それにランサーは目を丸くしたが、

「そうだったな。そうだった」
と言って笑みをこぼした。

 ともあれ今日一日は無事にすんだか。
色々な事があったが、わりと充実していたな。
残った敵は5人。さて、どう出るかな?



続くんじゃないか?


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第6話に続く

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  2006年8月4日

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