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結局僕はエレイシアさんのために何もする事はできなかった。
エレイシアさんの母親は、少しでも原因が分かったと言って僕に礼を言うが、正直礼を述べられる事など何一つとしてしていなかった。
誕生日プレゼントは母親にも渡さず、まだ自分が持っていた。
既に日はかげりだし、空は雲ごしでも紅色に輝いていた。
人々が何事もないように通りすぎていく道を僕と神父は並行して進んでいた。
ジュリーさんの宿と教会が同じ方向というただの偶然だったが、僕らは何も話さなかった。
少なくとも僕は何も話したくない気分だし、神父も僕とは話さないだろう。
「一体どうしたんだよ…」
僕はそう1人でつぶやいた。
なぜ彼女は僕の……と言うよりなぜ死徒の事を聞いてきたのか、そして『流される』とは……。
考えれば考えるだけ絶望的な想像だけがふくらんでいく。
「ダメだダメだ……!」
結局そんな事だけしか思い浮かばなかった。
こんな時に僕まで悲観的になってどうするんだ……!
「……魁さん……」
神父がいきなりそうつぶやいたのはもうすぐ僕と神父が別れようとするらへんだった。
正直彼が僕に話しかけるなど以外にしか思わなかったが、真顔で彼は顔を向けてくる。
「……見当つきましたか?」
「……いや、さっぱりだよ。外的要因はこの街にいる限り絶対にありえないし……」
でも、いくらなんでも学校での出来事とかであそこまで彼女が追い詰められるとは考えられない。
だとしたらもっと別の要因があるんじゃないか?
「ただの情緒不安定ではない…そうおっしゃりたいので?」
「そう、まさしくその通りだよ。だから理由はさっぱりなんだ」
神父は思いつめた表情で立ち止まる。そんな神父につられてか、僕も無意識のうちに立ち止まっていた。
少し経った後、彼は思いつめている表情でこう言った。
「私は……心当たりがあります。」
「えっ!?」
僕は思わず彼の肩を掴んだ。そして大きくゆする。
「心当たりがあるって……どういうことだよ!」
「その言葉の通りです」
彼はそう言ってゆするのをやめるよう述べ、手を振り払う。
そんな彼の表情はかなり青ざめている。
まるで悪夢を見たかのように。
再び神父は考え込む。
「と言っても、もしそれが正しいとするなら…最悪の結末を考えねばなりませんね…」
「最悪の結末…、彼女が自殺をするって言うのか!?」
「いえ、そんなのまだマシな方です。もし私の杞憂が正しかったら…」
神父は歯軋りして今度は逆に僕の肩を掴む。かなり力強く。
「魁さん。私はこれからローマへと向かいます。その間エレイシアをよろしくお願いしますね」
「エレイシアをよろしくって…あんたエレイシアさんを見捨てるって言うのか!?」
「万が一の時、手段を講じねばならないでしょう!」
おそらく僕の知らない何かを神父は知っているのだろう。
そんな事も分からず僕は神父を怒鳴りたててしまった。
……。
「今からもう行きますので、どうか万が一の場合に備えて覚悟を決めてくださいね」
「覚悟って…何を…?」
万一、覚悟。
この言葉からはもう最悪の事が浮かんでくる。
「彼女を殺す覚悟です」
「!!」
唖然としてしまう。
何も考えられなかった。
神父の表情からそれが冗談ではない事は容易に分かったけど、なぜ彼女を殺す必要があるんだ。
一体なんで…!
「それって…何なんだよ…なんであんないい娘(こ)を殺さなきゃいけないんだよ…」
「あくまで推測で、確証はありません。ですから『万が一』、あくまで『万が一』です」
「だからあんたは僕の知らない何を知ってるんだ!」
「……」
それ以上神父は何も答えようとはせず、教会の方へと帰っていった。
僕は神父の言った言葉が耳から離れず、眠れない夜を過ごした。
次の日、既に神父は出発したようで、教会には鍵がかけられていた。
僕は毎日エレイシアさんの家を訪ねるが、彼女はあれ以来何もしゃべろうとはしなかった。
この押すだけで壊れそうな木の扉が僕とエレイシアさんの全てを分けていた。
いる事は分かっていたから、とにかく僕は旅先での事を話しまくった。
中国、エジプト、アルゼンチンなど…。
南極にも行った事があるがさすがに死ぬかと思った事。
いつか彼女が元に戻ると信じて…。
そうやって何の進展もないまま3週間ぐらいが経過した頃、神父が帰ってきた。
表情は行く時より暗く、悲しげであった。
「で、どうだったんだよ」
「やはりダメでした……。私が抜けた後もやっぱり変わっていなかったようだ」
「ダメって、それは……」
「その万が一になってしまったら助けようがないって事です」
万が一になったら…?
一体神父は何をしにローマに…?
「エレイシアが抱えているのが心身的な問題だけでしたら私達が何とかします。
ですが…その万が一になってしまったら治療法はないんです。教会も魔術協会も、利用する方法しかなかった。」
「ちょ、ちょっと…話が全然見えてこないんだけど…」
いや、実際には見えている。
あの幻獣が述べた事を思い出す。
『貴様は最も大切に思うものを救えず、殺される』
バカな。そんな事があってたまるか。
神父はうつむきかげんだった顔をこちらに向けてくる。
「ロア…『アカシャの蛇』をご存知ですか?」
「『アカシャの蛇』、転生無限者だろ? それぐらい僕だって知ってる」
十数回も転生を繰り返し、その度に真祖によって殺されている、ある意味で永遠をかなえた死徒。
それを何で…。
「ってまさか…!」
僕ははっと息を呑んだ。もし彼の想像が正しかったのなら…!
「ロアが転生した相手は何も知らないでそのまま育ち、ある時を境に死徒へと変貌し、その相手を乗っ取ってしまいます」
「ある時…?」
「成人した時。個人差はありますが、たいていは10代後半です」
10代後半…。
「その時になると一部の感情に自分が流される気分を味わいます。そしてそれがピークに達すれば、新たなるロアの誕生です」
「じゃあエレイシアさんがそうだって言うのか!?」
「可能性はあります。街の人達からその辺の証言は聞いておきましたから」
なんて事だよ…。
それじゃあ彼女は…。
「でも…。」
「ですからあくまで万が一と言ったんです」
「じゃあ何で…!」
「……貴方も分かっているでしょうが、私は以前騎士団に所属していました」
「……」
神父が言った事は僕にとってはべつに驚くに値するものでもなかった。
それは以前の死徒との遭遇で既に明らかにされているものだったからだ。
「16年ほど前ですが、ある人物が吸血鬼となり、そして友はおろか親や兄弟すらその牙にかけました」
「…16年前って言ったら神父はまだ子供だったんじゃないのか…?」
「その通りです」
そう言うと彼は一枚の写真を取り出した。
何やら名家のものらしく、写る建物は豪華だった。何気にメイドも並んでいる。
皆笑顔だった。
「父上、母上、侍女の皆さん、妹、兄さん、皆しあわせでしたよ」
そう言う神父は微笑をするが、どこか悲しげだ。
……痛いほどそれが僕には伝わってくる。
「ほら、この一番の笑顔を見せているのが兄さんです」
「へえ…」
「一ヵ月後、私を残して彼が殺したんですよ」
「!」
僕は何も言えなかった。
静寂が辺りを支配する。
「…ですから今のエレイシアを見ていると、兄さんを連想させてしまうんですよ。あんな事はもうたくさんですから」
「落ち着けよ神父!」
僕は彼の肩を強くゆすった。彼の首ががくがくとゆれる。
「あくまで万が一なんだろ!?」
僕は強く神父に向かって述べた。神父の顔に若干つばがつく。
「たしかにそうですが…」
「ならきっとエレイシアさんは違うさ! だってロアは家系も重んじるだろ!?」
そう、ロアは聞いた話では肉体のポテンシャルの他に家系を転生の判断にしているらしい。
なら、エレイシアさんがそれに当てはまるはずがない。
神父もそれに気づいたようで、はっとする。
「あ…、そう言えば…」
「ならきっと違う…きっと違うさ…!」
そうあってほしい、ぜひそうあってほしい…。
だがその万が一になったら? エレイシアさんが両親や子供たちを…。
いや、そんな事があってたまるか!
「神父、僕はその万が一になった時の治療法を探ってみる。死徒の僕にしか分からない事もあるだろうし、エレイシアさんをその間頼めるかな…?」
「え…ええ、大丈夫ですけど…」
神父は僕の気迫に押されたのか、ただこくこくとうなづく。
「…で、万が一になった時、ロア覚醒まではどれぐらいの期間が…?」
「大体数ヶ月です。あとどれぐらいで覚醒かは見当すらつきません」
「そう…、分かった」
数ヶ月、か。閉じこもってから既に一ヶ月は経過している。
その万が一があったら一刻の余裕はありそうにないな…。
『そして貴様はその大切な者と殺しあうんだ! どちらかが息絶えるまでな!』
…あんなのただのたわ言だ。
「じゃあ、エレイシアさんの事はよろしく頼みます」
「吉報をお待ちしておりますよ」
僕は神父との会話を打ち切り、荷物をまとめてその日のうちに街を後にした。
その万が一にならない事を信じて。
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「と言うわけで何か良い案が欲しい」
「…久々にあって最初の言葉がそれ? もっと貴方は優雅さを学んだ方がよさそうね」
「大きなお世話です」
優雅さだなんて言っていられる場合ではない事ぐらい分かってるくせに。
僕がいるのはアルトルージュの居城。そこで彼女は優雅にアフタヌーンティーをやっています。
お相手は黒騎士でなく、白騎士でもない。
「その優雅の相手が彼?」
「あら、いけない?」
いや、いけなくもないけど…。
プライミニッツ・マーダーがアフタヌーンティーねぇ…。魔術協会のやつらが知ったら泡吹いて倒れるんじゃないか?
いや、今はそんな事どうでもいい。
「で、何か良い案は?」
「そうね、ロアの事だったかしら」
彼女はカップを皿の上に置き、こちらに視線を移してきた。
「現実的にそれはないはずよ。あきらめなさい」
と、軽蔑も哀れみも何もなく、ただ事実を淡々と述べてきた。
それに僕はショックを隠せない。
「何でだよ。死徒を人間に直せって言ってるんじゃないんだ。まだ人間の彼女を救う方法ならあるはずだろ…!」
「ロアだけを殺してそのエレイシアって娘を生かす方法? そんな便利なものがあるのなら、わたしの方がお目にかかりたいものよ」
「ぐ…!」
確かに、そんなものあったら僕だってお目にかかりたい。
「それこそ聖杯みたいな奇跡でも使わない限り、無理ね。それを手に入れても既にロアは覚醒しているでしょうね」
「…ならせめて進行を遅らせる事は…」
「日に日に増していく欲求をずっと抑えていろと?」
「…っ!」
それを言われてはもうおしまいだ。
「なら貴方がしてあげられる事はひとつしかないんじゃないかしら?」
いうな、それ以上は言わないでくれ。
「つまり、誰かを手にかける前に貴方が殺してしまえばいいのよ」
その事実を認めたくないから。
心の底では分かっていたんだ。ロアになってしまう彼女を救うには、それしかないと。
僕にできるのは、相手を殺す事だけなんだから…。
思わず顔を手で覆う。
「なんて…無力」
そして思わずつぶやいてしまう。
「でもその娘、本当にロアに覚醒しようとしているのかしら?」
「……分からない」
でも、あのエレイシアさんがああなってしまう理由が、僕には他には思い浮かばなかった。
ぜひ他の理由であってほしいものだ。ぜひ…。
「あとは噂に聞くだけだけど、直死の魔眼かしらね」
「直死の魔眼?」
「そう、死そのものを見る事のできる殺す事に特化したものね。貴方はどうなの?」
…七夜の一族はありえざるモノを視る能力がある。
その僕も淨眼を持っているけど死を見る事はできない。
それに…、実家は滅んでしまった。今から一族の生き残りを探し出す事はまず無理だし、直死の魔眼持ちの可能性は限りなく低い。
「そう…」
その僕の心を察したのか、彼女はそう言って視線をカップの方に移した。
これ以上彼女が語る事はないだろう。
なら、僕もこれ以上ここにいても無駄だ。
「言っておくけど」
「…?」
「時計塔やアトラスに行っても時間の無駄よ。一日でも早く行ってあげなさい」
「!」
僕のやろうとしている事を一発で看破するとは、さすがだ。
「…本当にないのか?」
「物事はけじめが肝心よ。そうでしょう?」
「…分かった」
全く納得はしていないが、僕はその場を後にする事にした。
彼女がロアでないというほぼ絶望的な可能性を信じて。
「カイ」
「…どうしたんだ?」
「いつでも帰ってらっしゃい」
「……」
そのアルトの温かい言葉に、僕は返事を送る事はなかった。
/閑話
魁が去った後も、アルトは紅茶を優雅に飲んでいた。
「姫、あれでよかったのか?」
「よかったのよ。あれで」
どこからともなく現れた、黒い騎士に対してアルトはあっさりと言い放つ。
「にしてもちょっと突っぱねすぎだと思うけど」
「そうかしら?」
壁に寄りかかる白い騎士に対してもそうだ。
黒い騎士はため息をつく。
「…もはやあやつを見る事はないだろうな」
「そうだね。幸せに生きようとして逆に不幸になってくみたいでさ」
「…黙りなさい」
白い騎士は、そう言って睨みつけてくるアルトを見て肩をすくめる。
「…彼の選んだ道よ。なら彼の意思を尊重してあげましょう」
「我らの姫にしては随分と寛大なお言葉だねぇ。僕にもそれだけの言葉を送って欲しいよ」
「あら、貴方にも十分に与えてるつもりだけれども?」
「あれが?」
白い騎士は思わず苦笑いをするが、すぐにやめてしまった。
「…さあカイ、貴方はどうするのかしら?」
そう言って彼女は空を眺める。
それは皮肉なまでに雲ひとつすらない星空だった。
/
ヒッチハイクだけをたよりに、ようやく近い街のところまでやって来れた。
乗せてくれたおばさんに会釈をして、僕は交渉に入る。
だが、こんな時に限ってエレイシアさんの街に行く車に出会う事はなかった。
「…歩いていくしかないのかな…?」
思わずそうつぶやいてしまう僕。歩いていくとゆうに半日はかかってしまう距離だ。
はっきり言ってそんな事はしたくない。
一刻も早く僕は行きたいんだ。
「おや、お前さんは…」
「え?」
悲観にくれる僕に、後ろからやってくる車のドライバーが声をかけてきた。
ふりかえった僕の目に入ったのは…。
「教会を紹介してくれたおじさん?」
「おおっ! やっぱりお前さんか!」
そう、彼はあの教会がある街、つまりエレイシアさんの街を進めてくれた店の主人だった。
それで僕の気が少し晴れる。
「で、どうだった? あの教会は」
「ええ、素晴らしいものでしたよ。街の人も皆親切で暖かかったですし」
ああ、あの街で過ごした時間は僕の中では間違いなく最高のものだった。
希望にあふれた子供たち、暖かい大人たち、そして…エレイシアさん。
「…あの時は…本当に良かった…」
だからこそ、僕はもう一度あの瞬間を…あの笑顔を…必ず取り戻してみせる。
絶対に。
「それで、今回はどこに行くんだい?」
「あの街に縁ができまして、もう一度訪ねようと思っているんですけどヒッチハイクする車が…」
「それなら俺が乗せてやるよ。こうして再会したのも何かの縁だしな」
「え? いいんですか?」
などと言っているが、実際は万歳したい気分だった。
「おう、早く助手席に乗りな」
「助かります」
僕は心の底からのおじぎをして、車に乗り込んだ。
車に揺られる事2時間。すっかり日は落ちてしまいうっすらとしか空は赤くなく、ほとんどが黒に染まっていた。
3回の訪問だが、いつものように街には明かりがともっており、幻想的だ。
だというのに…。
「おじさん、すみませんがここで十分ですので」
「ん、そうか。また会えるといいな」
「こちらもですよ」
彼は最後まで明るくそう言い、引き返していった。
それを見送ることなく、僕は街の方へと走っていた。
とてつもないむなさわぎがしたから。
街に入った頃には既に日は落ち、夜になっていた。
道には誰もいないけれども建物には明かりがともっていた。
「よかった…」
僕は思わずそうつぶやいていた。
死徒に汚染された街でこういった文明的な事が行なわれているはずないもんな。
だけど、最後まで確認しない事には安心なんてできっこない。
だから僕はエレイシアさんの家まで走った。
死徒の身体能力をフル活用したので数分程度だっただろう。
エレイシアさんの家にも明かりがともっていた。
僕はノックをしようとして、それに気づく。
「…『教会にいます。エレイシア』…?」
教会にいる? 一体何で?
だけどわざわざ張り紙までしてあるんだ。きっと彼女は教会にいるんだろう。
また僕は走った。
やはり数分、僕は教会の前にたどり着いた。
そして、その扉を僕は開いた。
昼間ばかりしか来ていなかった僕にとって、その中はさらに神秘的さを増しているように見えた。
思わずため息が漏れる。中はろうそくで照らされていて、明るい。
と、その先には…。
「お帰りなさい、カイさん」
そう言って微笑みをうかべるエレイシアさんがいた。
彼女はかつてと同じように僕の前に立っていたのだ。
「エレイシアさん…」
思わず涙が出そうになりながらも僕は彼女に近づこうとして…、
足を止めてしまう。
それはもはや本能なのか、反射なのか。とにかく分からないが、何も起こっていないのにもかかわらず体が動きを止めたのだ。
そして、告げるのだ。
「危険だ」と。
「良かった。よくなったんだね」
「おかげさまで。カイさんや神父さまには本当に迷惑をおかけしてしまって、すみませんでした」
「あ、いや。あやまる事じゃないって」
とりあえず軽い会話から開始。頭を下げる彼女に僕はそう言ってあわててとりつくろう。
…確かに彼女はエレイシアさんだ。それは間違いない。
だけど…。
「僕はエレイシアさんが元のように明るく生活できればそれでいいよ」
「それは大丈夫ですよ。以前以上に楽しくなる事を私が保証しますから」
にっこりと笑って、彼女は断言をした。
この違和感はなんだ?
「それはそうとカイさん、ちゃんと旅している間もご飯食べてましたか? 偏ってませんよね?」
「さあ? 僕あまり気にしないほうだし」
「ダメですよ。ご飯はちゃんと取らないと。どんな時でもご飯は欠かさずに食べなきゃ」
彼女が見せる喜怒哀楽はエレイシアさんがあの期間で僕に見せてくれたものだ。
…夢は夢のままで終わらせるべきなのかもしれない。
でも、現実は直視するべきなんだ。
だから…、言わなきゃならない。
「エレイシアさん」
「はい、何でしょうか?」
これを。
「神父はどこに行ったの?」
神父が騎士団の者ならば、覚醒したロアにとってはまず邪魔者になる。そして真っ先にロアに気づくのも神父だろう。
なら、彼がいるかいないかで全てが判断できるはずだ。
「街に行っていますけど、どうしたんですか?」
「……」
僕は答えはしなかった。
その代わりに、天を仰ぐ。もちろん教会の天井に阻まれて空なんて見えないけれども。
そうか…。
「ならこの教会には僕ら2人?」
「ええ、そのはずですけど?」
…目をつぶって僕は今までの事を思い出す。
始めてこの街に来た時。
始めてこの教会に感動した時。
この街ですごした僕にとって至高のひと時。
そして…、
「エレイシアさん…」
彼女の声、しぐさ、笑顔、全てに僕は魅了された。
今こそ確信できる。
「僕は、あなたが好きでした」
僕と出会ってくれて、ありがとう。
貴女が好きになれて、本当によかった。
そして、さようなら。
「あら、気づいていたんですか?」
「あのね、僕を完全に馬鹿にしてるでしょう」
まだ僕は目の前にいる人物の方に顔を向けず、天井を仰いでいる。
夢は終わった。いや、僕が終わらせたも同然だろうな。
「今ごろ街全体が死徒の巣窟、違う?」
「いえ、その判断は正しいですよ。明かりは私がつけておいたものです」
僕は懐にしまっておいた短刀を取り出す。
まだ天井に顔をむけたままだったが、ろうそくの火が次々と消えていく。
多分街では偽装しておいた明かりも消えているんだろう。
「今回は随分とゆっくりとやってみましたけど、カイさんは随分と遅かったですね」
「…遅くしたくて遅くなってるわけじゃないけどね」
それで大切なものを失っていくんだから、つくづく僕の人生は呪われている。
「それでは殺し合いましょうか、七夜魁さん」
そうして僕は天井から顔を下ろし、エレイシアさん…いや、そいつを見る。
その美しかった瞳は朱く染まり、着ているのはたった一枚の布だ。
「いや…それは違うよ、ロア」
僕は敵の名前を呼び、体勢をものすごく低くとる。
「これから行なわれるのは一方的な虐殺だ」
to be continued…
/the next foryou
運命の時は来た。
魁の選択肢は2つ。だがどちらも彼が望んだものではない。
そして彼が選んだ選択肢は…。
次回の『全ては君のために』第十一話、夢