/

 朝日が昇っていく。再び一日が始まった。
僕は丘の上から街を見下ろしていた。いつもの様子がまるで嘘みたいに静かな朝を迎えていた。
風の音と、鳥のささやきが僕の耳に入ってくる。それが何とも言えずに心地よい。

「まるで世界を祝福しているみたいだな…」
僕はそうつぶやく。

雲はほんの少ししかなく、晴れより快晴の分類に入るだろう。
街の人達とここで昼食を食べたらどれだけ楽しいだろうか。
ふと考えると笑みがこぼれてくる。

「へえ、詩人じゃない。ちょっと驚いちゃったわ」
と、いつの間にか僕の背後にいた女性がそう述べてきた。

見た目は僕と同じぐらいだけど、一目見ただけで美人だと断言できた。
肩辺りまでで整えられた艶やかな金髪、見るものをそのまなざしだけで魅了する真紅の目、洗練されたそのしぐさ。
その麦わらでワンピースの女性は、まるで女神のような印象を僕に持たせる。

「それはどうも。僕にもセンチメンタルな所が残っていたのか」
と、僕の隣に彼女は立って、街の方を眺める。

街は全体が眠ったように静かだった。
人の生活の息吹も、飼っている動物たちも、鳥のささやきすら聞こえない。
だけど、確かに街には誰もがいる。だからゴーストタウンなんかではない。
文字通り、街は眠っているんだ。

「朝にしては随分と静かね。自然の音しかしないわ」
「だろ? こんな静かな朝は珍しいよね」
互いにその理由は分かっていたが、あえてこんな話になる。
彼女はうーん、と背伸びをして僕の隣に腰掛ける。

「ねえ、何か面白い話でもしてよ」
「へ? 面白い話?」
「そ、ここで会ったのも何かの縁だと思ってさ」
面白い話、そんな面白い話なんてあったっけ…?
面白いと言うより僕自身の滑稽話ばっかりしか思い浮かばないんだけど。

だけど僕にはもうやる事はない。
ただ街を眺めるだけだったんだから、別にそういった話に時間を使ってもいいか。

「じゃあ退屈だろうけど、僕の冒険談でも…」
そして僕は彼女に短くもあり、長くもあった僕の半生を話し出すのだった。




全ては君の為に

第一話・そして幕は開け


 家を出ようと決心したのは、父さんの考えが気に入らなかったからだ。
親の敷いたレールの上を親の命令どおりのスピードで走る、そんな自分が嫌でたまらなくなったから。

よく僕は兄弟や姉妹と比較され、一族の恥さらしだのおちこぼれだの散々なことをよく言われてすごしてきた。
はっきり言えば対魔だの裏の世界には僕は全く興味がわかなかったし、関わる気にも全くなれなかった。

父さん達による特訓とかで幾度となく死にそうになった。
いやでいやでたまらなかった子供の時からずっと。

 叱咤する父さん。影で笑う弟たち。哀れな目で見る姉たち。
血を、涙を、嘔吐をたくさんたくさん出してきた。



 だから僕は家を出てやった。



   /

「お前さん、一人旅かい?」

 あてもない旅、世界各地を旅しまわっている僕に店の主人はそう尋ねてくる。
と言っても、数ヶ月で他の国に移動しまわっている僕が現地語を簡単にマスターできるはずもなく、カタコトだが 話せるとかジェスチャーで会話を試みるとかそんな手段をいつも取っていた。
今回も同じ方法を使ったのだけれども、主人が僕のためにゆっくりと話してくれたので助かった。

「はい、そうですよ」
僕はそう明るく答える。
いいねー若いって、と店の主人はつぶやいて肩をすくめた。

 フランスの一地方、街という事もあり、昼間でも市場は賑わいを見せていた。
店の人と世間話をする男性、野菜を手にとってまじまじと眺める主婦っぽい人。
街の市場は活気にあふれていた。

その中で僕は旅での食料をなけなしの金で買っているわけだ。
昼間だというのに酒を飲んでいる人を見かけたのは気のせいということでおちつく。
店の主人は僕の方をじろじろと見てこう言ってくる。

「旅の目的は何だい?」
「いやぁ、特に決まったわけじゃないんですよ。まぁとりあえず歴史を感じたいですかね」

ウソばっかり。旅の目的なんか全くない。
たしかに歴史や自然を感じたいのには賛成だけど、そこまで僕の旅の中では重要ではない。
重要なのは、巡ることそのものにある。

店の主人はそんな僕の顔を見て何やら地図を取り出す。
主人が指差したのは隣街のある一点だった。

「ほら、この道を少し行けば結構古い教会があるんだ。あれは感動するぞー。ぜひ一度行ってみるといい」
「へぇ、そんなにすごいんですか」
「ああ、旅の目的がないならどうだい?」
自慢げに述べる店の主人。
彼の様子からして、主人の印象にかなり深く残っているようだ。

教会か。
僕はキリスト教徒じゃないからそこで神に祈る事はしない。
仏教徒でもないし日本古来の神も信じていない。ようは僕は無神論者だった。

だけど、純粋に昔の建築物と言う意味では教会には非常に興味があった。
神々しさを出すためか、その創りは他の建物とは一線引いている。そんな気がするんだ。

「うーん……」
少し考えたが、別に急いでどこかにいきたいわけじゃあないし、悪くないかも。

「分かりました。そこに行ってみますよ。僕の意見が欲しかったらまたここに戻ってきますけれど?」
「ああ、いい、いい。他人の意見より俺の目の方が信用できんでね。また見たくなったら俺のほうから行くって」
「そうですか」

僕は店で買った雑貨を背負っていたリュックの中に入れ、おじぎをする。
店の主人はにやっと笑いながら酒を飲みだす。
いいんかい、まだ商いの時間だろ。とかも思ったが黙っておくことに。

「どうもありがとうございました」
「そういや兄ちゃん、あんたの名前、一体なんだい?」
「え? 僕の?」

別に本名教えてもいいけど僕には本名を名乗る資格はない。
家出をしてもう数年はたっているし、家族と話す気は全くなかった。それに話したくても僕には……。
だから僕はいつも言う名前を言う。

「……セブン。そう呼んでください」

   /

 時間はたっぷりあるので僕は正午ごろ町を出た。
店の主人の話だと教会は道を行った先の町にあるらしい。のでヒッチハイクをする事はせず、ただ歩いて向かう事に。
宿は向こうで取ろう…そう考えていた。

 のどかな自然が広がる中、大地はオレンジ色に光り輝いていた。そう、オレンジ色に…。

「…ってゆーか…」
そう、つまり、空もオレンジ色、太陽は傾いている、明らかに夕日である。
町を出発したのは正午だったのに…。

「少しって…車でって事かな…?」
…別に店の主人を恨むつもりは全くないが、なんか無性に腹が立ってくる。
あの地図からすると歩いて数時間で着く距離のはずだったんだけど…。
背に腹は変えられないし、ヒッチハイクをするか野宿決定か。

「と言っても…」
遠くで鳥のさえずり声が聞こえてくる。
あとは自分が地面を歩く音が聞こえる。

ようは車どころか、人すら通らない交通量ゼロの道だという事である。
現に今の所すれ違った車には一台もめぐりあっていない。

「まぁ…夜になれば着くだろ。多分だけど…」
そう自分に言い聞かせつつ、徒歩を続行する。


 で、その思いはあっさりと裏切られ、どっぷりと夜があたりを包む。
少年時代は夜の方が好きだった。星座を眺めながらその美しさにひたっていた。
でも今そんな浸る状態にはなし。

「…泣けるよぉ…」

辺りに響くは虫の鳴き声ぐらいになった。
観念して野宿の準備を進めてようとしたその時、後ろの方から自動車の音が聞こえてくる。
音からすると軽トラックであった。

「これは…助かったかな?」
てなわけで交渉の結果、目的の境界のある町まで乗せてくれる事になった。


 ニコラという名のこの人物はその町で酒場のマスターをしている人物で、今回はさっき僕が寄った町に用事で来ていたそうだ。

「いやぁ、すっかり遅くまでのんじまってねぇ。カミさんにしかられちまうぜ。
 『こんな遅くまでどこをほっつき歩いてたんだい。どーせ女をはべらしてたんだろうけどさ』ってな。」
オイオイ、それって飲酒運転だろ、それでホントに大丈夫かよ……。
そう先ほどと同じように頭をよぎるが、あえて言わないことに。

ニコラさんはこちらの印象ではかなり気さくな人で、面白い。
この人の酒場はさぞかし繁盛している事だろう。

「だけどそんなに若いのに一人旅かー」
ニコラさんは運転をしながらそう言ってくる。正直、車は真っすぐに行ってない気がするけど、気のせいは気のせいで。

「お前さんよっぽどの人なんだねぇ」
「……言っている意味がよく分かりませんが…」
よっぽどの人と言われても、反応に困る。
そんな思いをよそに、ニコラさんは笑いだした。

「よっぽどのバカか人生を悟った人、そのどっちかだから限定は出来ないけどね」
「はぁ…」
言い直しても僕には言いたいことがよく分からないがよしとする。

 トラックに揺られる事1時間ほど、ようやくふもとに明かりが見え出した。
空の光と町の光が微妙なコントラストを演出して幻想的である。
ってこれトラックがやってこなかったら明日でもたどりついたかな…?

「ほれ、もうすぐ着くぜ。俺たちの街にようこそってか?」

 僕は車に揺られながらその街へと入っていった。
新たなる出会いと、別れがあの街でも味わえると思うと少しわくわくしてくる。
でも同時に心のどこかで今まで感じた事のないものもあった…。


 町に入った僕。建物の雰囲気は先ほどの町とさほど変わりないような気がする。
ニコラさんと分かれてから(家にさそわれたがさすがに断っておいた。)宿を探すため、夜の街を歩くことに。
さすがにもはや深夜といってもいい時間になっているため、人通りは少ない。
せいぜい酔っ払いのオヤジがちどりあしで歩いている程度である。

少しの徘徊の後、僕は宿の看板を見かけてすぐに入る。
日本で言うなら民宿のようなものを考えていたけど、小さいながらもロビーがあった。
カウンターに座って雑誌を呼んでいた店の女主人は旅人である僕の格好を見ていきなりこう言ってくる。

「やああんた。こんな古びた町に何のようだい?
 別にワインもこれと言ったものはないし、ここは観光地なんかじゃないよ。」
「いや、それは分かってますよ。一晩泊めてもらいますか?」
店の女主人は頭をぼりぼりかきながら若干ため息をもらしたように見えた。
普通客が入ったら喜ぶんじゃあないのかな…とも思うけど、どうなのかな?
女主人はいかにもやれやれといった表情で身を乗り出してくる。

「OK、分かった。いつ起こせばいいかい?」
「八時ぐらいでかまわないですよ。そんなに急ぎ旅ではないんでね。」
いつもはもう少し早く起きるけど、明日ぐらいはのんびりとしていたいし、そう言っておく。

「分かった。これが部屋の鍵。何かあったら呼んどくれ。」

意外とあっさり宿が取れ、僕は部屋に入る。
田舎の宿にしてはいささかしゃれた家具があったりする。
ホテルみたいにさすがに冷蔵庫やテレビがあるわけはない(あったら高くなるから嫌だけど)。
僕はベッドに自分の身を放り投げた。
僕の体重を乗せてベッドが曲がる。

「……何日間もいないだろうけど…明日は楽しむか…」
そう言うと、僕は目を閉じ、眠りについた。

   /

「本当に出て行く気?」

 家出決行当日、僕は荷造りを既にすませ、父さんや兄さん達が気づかないように家から出ようとしていた。
だったんだけど、玄関で姉さんが待ち構えていた。
ストレートの長髪、和服姿、この家の者なのか疑いたくもなるが、兄さんの一人と並ぶ一族の中でも天才であった。
そして、家の中でただ一つの僕にやすらぎを与えてくれる存在…それが姉さんだった。

「姉さん…。」
「お父様は絶対に許してくれない。」
知っている。一族を裏切れば二度と戻っては来れないどころか最悪抹殺されてしまう。
だけど、僕の決心は変わらなかった。

「許してもらわなくたってかまわない。僕は僕の道を行きたいんだ。」
「道…ね…。」
姉さんは顔を動かし、外の方を見る。
朝が早く、もうすぐ日の出といった時間なのでうっすらと見える木々が風でなびく様子を見ているようだ。

「対魔は嫌い?」
「対魔が嫌いとか訓練がうんざりとかそういったものもあるけど、繰り返すけど僕は僕の道を行く。」
姉さんはため息を若干もらす。
そのしぐさにも美があるのはさすがだ。

「兄さんが後を継げば少しは一族も変わるかもしれない。あの人今代に反感持ってるから。その時を待たないの?」
「そう、兄さんが家系を継ぐのだから、僕は必要とされない。僕みたいな落ちこぼれがこの家にいても意味はない。
 現に早朝の訓練準備を始める時間が迫ってきていて、起き始めているのに僕を止めに入っているのは姉さんだけだよ。」

 そう、姉さんだけだ…、いつも僕の支えは姉さんだけだった。
古い考えに縛られた父さん、その父さんの言いなりになる親戚ども。
無言の兄さん、そして父さんにただ従うだけど兄弟や姉妹達。
もう何もかもがうんざりだった。

「……顔をよく見せて。」
 姉さんはそう言って僕の顔をじっとのぞいてくる。
いや、姉さんが見ているのは僕の瞳だ。

 姉さんは僕の顔に手を当て、少しずつ顔を近づける。
今にも肌が触れそうになった時、姉さんは止まった。
異様に緊張する僕をよそに、姉さんは微動だにしない。

「…あなたの決心は覆らないわね…?」
「ああ、覆らない。」
僕はきっぱりとそう言った。

 姉さんは少し下を向き、再び僕の方を見る。
少し姉さんがいつも見せないような表情をしたのは僕の気のせいだろうか。

「分かったわ。あなたがそう言うならお行きなさい。」
「ね…姉さん。」
「家を出てもしっかりとやるのよ。」
姉さんは優しくそう言い、僕に微笑む。
その一言は僕に大きな衝撃を与える。

 ああ…この笑顔だよ…僕の支えとなり…僕が惹かれたのは…。

「これ。」
「へ?」
 考えにふける僕に対し、いきなり姉さんは差し出してきた。

「これって…姉さんの武器のナイフ!? こんな大切なものを僕がもらって……。」
姉さんは僕の言葉をさえぎるようにして口に指を当て、静かに言う。

「予備のだから私はもう使わないわ。といっても小太刀使いのあなたの方が使わないみたいだけれども。
 お守り代わりにでも使って。」
「……。」

姉さんは僕の背中を軽くたたいた。まるで僕を元気付けるかのように。

「さあ、お父様たちが来る前に。」
「分かった。それでは姉さん…。」
僕は姉さんにお辞儀をする。今までの全てをそれにこめて。

「お世話になりました。行ってまいります。」
「行ってらっしゃい。立派にお生きなさい。」
姉さんはそう言っていつものように軽く手を振る。
僕はそんな姉さんに見送られながら玄関を出て行った。

朝日が全てを美しく照らし、輝いて見えた。そう…まるで全てを祝福してくれるかのように。

「姉さん……僕は立派に生きてみせます!」

   /

 朝、僕はとにかく鍛練を開始する。
習慣とは恐ろしいもので、家を飛び出した後、僕はこれを毎日朝晩続けていた。
今まで色々な事があり、相手がいた方が上達は速かったけど、基本なくして応用はないと僕は思っているので 続けている。
寝ぼけていた頭も既に覚醒しており、ひたすらにそれにうちこんだ。
いつしか時間を忘れていたので、気がついてみれば既に七時四十分を回っていた。

「主人が起こしに来る時間か……。」

 僕は汗を流し、着替えなどの身支度を終える。
着替えは普通のワイシャツとGパンぐらいで、何も変わった所はない。
僕は自分の顔を鏡でのぞく。

刈り上げよりはやや長い黒髪、童顔、高くはないが低くもない身長、どっちかというと痩せギミの体つき。
顔や体つきから察するにまだ十代後半のままである。

「……やっぱり全く変わらないなぁ…」
そう独り言をつぶやいていると、ドアのノック音が聞こえてきた。

「あ、もう起きてますんで。」
「そうかい、朝飯はもう作ってあるんだが食べるかい?」
女主人はドア越しで言ってくる。
僕は少し考えてから言った。

「分かりました。すぐに行きますので待っててください。」
「あいよ。」

女主人が足音をパタパタとさせて去っていく。
寝癖をととのえて僕は食堂に行くために一階へと降りた。


 食堂にいたのは女主人の他、コックが一人とお手伝いが一人、それから僕と同じく宿泊客が3人であった。
宿泊客の一人は20代前半で長身の男性、一人は20代前半でかなり背が低い女性、最後の一人は50代後半で普通の男性といった所。

「おはよう。お若いの。」
50代の人が渋い声で僕に話しかけてくる。
彼の朝食は目玉焼きとパン、それと紅茶、典型的はものだった。

「おはようございます。えーっと……。」
「ロバート、ファーストネームで呼んでくれてかまわんよ。」
初対面なので名前を知るはずもないので迷っていると、彼の方から名乗ってくる。
…この場合、僕の方から名乗った方がよかったかな…?

「どうも、僕はセブンと呼んでください。」
「セブン?」
「あるとこに言った時につけられたニックネームですよ。」
「おお、そうなのか。よろしく。」
ロバートさんは膝を叩いてから握手を求める。
断る理由などどこにもないし、むしろ握手は歓迎する方なので、その老人と握手をかわした。
彼は不思議そうなものを見た目で眺めてきた。

「しかし、お前さんも物好きだね。こんな季節外れの時に何も来なくても。」
「いえ、僕の国では季節外れって言う概念はないんです。四季それぞれに楽しみがあるんですよ。」
「へぇ、そうなのかい。」

 このロバート、感心しているようだが本当に分かったのか?
アメリカの人に清少納言の言ってる事はさっぱりらしいが、季節それぞれを楽しむ日本の風習が分かってもらえないようだ。
やはり住んでいる場所で考えは違ってくるものだ。

 僕の朝食はパン二枚と紅茶、それとサラダだった。ドレッシングは数種類あり、どれでも好きなものをと言う意味らしい。
僕としてはもっとたんぱく質を取りたかったが文句は言ってられない。

「で、お前さんの目的はなんだい?」
ロバートは再び会話を始める。
僕はとりあえず食事を口に運びながら言うことに。

「教会がいいと言われて来たのでそれを見に来ました。」
「へえ、私はここで小説をよく書くんだ。あまり有名ではないが、ここはよく考えが思い浮かぶんだ。」
小説家か。
確かに原稿さえ編集者に渡せばどこで書こうが自由だし、ここが一番集中できるのだろう。

「そうなんですか。」
「まぁ教会以外にめぼしいもんなんかないに等しいけどな。」
そう言ってロバートさんは笑い出す。

「あいたっ!」
そんな彼を女主人はおたまで殴りつける。
かなりいい音がして、ロバートさんは頭を抱え込んだ。

「いったい何するんだ!」
「ロバート! あんた常連だからってそんな私たちの町を侮辱することは許さないよ!」
うわ、分かりやすい理由。

「あとは何もないじゃないか!他に何があるってんだ!私は事実を……。」
「お黙りっ!そんな口あたしがいる限りきかせないよ!」
女主人とロバートによる口げんかが始まったので、 僕はこれ以上巻き込まれないように食べ終わった食器を運び、外を散歩することにする。
…さわらぬ神に祟りなし…と…。


 さすがに雲一つない青空とまではいかないが、立派な晴れであった。
昼より夜の美しさの方が好きな自分でも実に気分がいい。

「ホント、鼻歌の一つでも歌いたい気分だよなー。」
そう言って僕は伸びをし、空を見上げる。

割と雲は低い所にあるらしく、風に流され動いていた。
町は朝ということもあり、大した人数はいないが、朝は朝でおもむきがあった。
中には、はしゃぎまわる子供もいて気分が和む。

「ほら、そっちです。」
そんな中、道のど真ん中でボール遊びをする見た目は自分と同じぐらいの女性と子供たちに出会う。
それを数人の大人が近くのベンチに座って見ていた。

「ほら、そっちだよ。」
「きゃははっ。今度はそっちー。」

気を惹いたのでしばらく眺める事に。
どうも彼女たちがやっているのはサッカーのようだ。
女性はロングスカートだったが、そんな事はみじんも感じさせなかった (子供相手っていうのもあるけど)。

「それではいくよーっ! 姉ちゃん!」
「いつでも来い!」
急にギャラリーのみなさんが身構えたのでアレ?と思う。
その考えが僕にとっては運命を分けた。

「シュートッ!」
僕と反対側にいる子供が思いっきりボールを蹴ってくる。
んで僕は全く予想外の出来事に反応できず、ボールは顔に深くめり込んだ。

「……っ!!」
もちろん僕はその場にうずくまる。正直かなりボールに空気を入れていたようで、痛い。

「すみません、大丈夫ですか!?」
僕に真っ先に駆け寄ってくるのは今サッカーをしていた女性だった。
蒼で後ろに束ねた長髪、透き通った水色の眼、そして控えめにいってもかなり整った顔。明らかな美人である。
その女性が僕を心配そうに見つめる。

「いや……不意をつかれた自分もいけなかったから……。」
「そんな事っ…鼻血も出てるじゃないですか…!」

 彼女の指摘を受け、僕は地面を見てみる。
なるほど、たしかに僕の鼻血がしたたりおちている。
それもドバドバ。当分は止まりそうにない。

「大丈夫だよ。すぐに収まるから。」
そう言って僕は立ち上がり、鼻をぬぐう。
が、彼女は僕の肩を掴むと強制的に押していく。

「止まったと言ったって安静にしていないとダメです!しばらくここに……。」
「えっ……!?」
彼女は僕を日陰のベンチに誘導し、座らせる。かなり力強い印象を僕に思わせた。

「座っててください。今すぐぬれタオル持ってきますから!」
「でも……。」
「う、ご、か、な、い、で、く、だ、さ、い、ね!」
「はい…。」
彼女のすさまじい剣幕に押され、思わすその言葉が漏れる。
…怖いです、正直…その顔…。

「では待っていてくださいね!」
そう言うがすぐに彼女は走って行ってしまった。見えなくなるまで大した時間もなかった。

 僕がぽかーんと待つこと数分、彼女は駆け足で戻ってくる。

「鼻血は拭いておきますから……。」
「別にいいよ、そんな事しなくても…。」
「拭かせてください!これはわたしの義務なんです!」
「はあ……。」
またしても彼女の勢いにおされ、そう言ってしまう。
彼女は僕の鼻や顔を一生懸命に拭いてくれる。

「見かけない顔ですけど旅行者ですよね。すみません、本当に私の責任です。」
「いやいや、別にいい事だよ。子供が思うように遊ぶことは。」
「そう言ってくれると助かるのですが……。」
彼女は僕の血の付いたタオルをしまい、僕の顔に手をふれる。
その手は、非常に温かみのある手だった。

「けががなくてよかった……。すみませんがお名前は……。」
「セブン、別にそのまま呼んでくれてかまわないよ。」
「セブンさん、何らかの形で謝罪をあらわしたいのですが……。」
ほっとした表情の後、そう言って彼女は深々と頭を下げる。
…ここまで来ると僕の方が罪悪感を覚えてしまう。どうしよう。
必死に考えに考えた末、ある考えが頭に浮かぶ。

「じゃあ……この町を案内してくれるっていうのは…どうかな……?」
んでおそるおそる言ってみた。これならわりと軽めだからいいだろう。
そんな彼女は対照的に即座に反応してきた。

「そんな程度でよろしいのなら何回でも致します。本当にすみませんでした!」
「まぁいいっていいって。ところで……。」
僕は頭をぽりぽりかく。
彼女は不思議そうな顔で僕の方を見ている。
言うタイミングはここぐらいしかなさそうだし…思い切って言ってみた。

「名前、聞いてもいいかな?」
「わたしの……名前ですか?」
「そう、名前。案内してくれるなら名前を聞いておいた方が気軽だし。」

僕は照れ隠しでそっぽを向きながら言った。
彼女は体制を整え、まさに天使を思わせる笑顔でこう言った。


「エレイシアと言います。どうぞよろしくお願いいたしますね。」




to be continued…


   /the next foryou

 エレイシアと出会うセブン、彼は何を思い、そして何を感じるのか。
次回の『全ては君のために』第二話、日常にて


第二話に続く

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   今回は記念すべき自分の書いた小説第一号を若干修正してみました。いかがだったでしょうか?
心理描写がイマイチな気もしますけど、今後も改めていこうと思うので…。
これを書くきっかけは「先輩がロアになった時代に志貴がいたらどうなのかなー」と言った疑問からです。
見事にシエル先輩とロア以外はオリジナルキャラになっちゃいましたけど…。
今後の予定として、続きを書く前に5話までの描写が不足している所の追加と、不必要部分の削除を行ないます。
って事でこれが終わるのいつになる事やら…。
 それでは第二話でお会いしましょう。
  2006年4月4日 第二回改訂
  2006年5月1日 背景修正
  2007年1月11日 第三回更新


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