/2日目

 一体今起こっているのは何なんだ? 絶対にありえない。
今俺は間違いなく殺されようとしている。その人生に幕が下りようとしている。
落ち着いて現実を整理してみよう。


 いつものような朝、いつものような天気、俺は廊下で伸びをした。
既に朝食は作ってあり、ご飯と味噌汁とちょっとしたおかずが3人分並べられている。
彼女が最近俺よりも早く用意をしてしまうので、これは珍しいと言えばめずらしかったかもしれないけど、たまにはこんな事があってもいいかな?

 少し経つとチャイムの音はしないで玄関が開く音がする。
そして、程なくしてやってきたのは1人の女子だった。

「おはようございます、先輩」
「おはよう、桜」
その女子、桜はおじぎをして挨拶をしたので俺は手と笑顔で挨拶をした。
と、桜はテーブルに並んだ食事をみて、少し残念そうな表情をする。

「あ、今日は先輩がつくったんですか…」
「うん、早く起きれたんでな。桜には悪かったかもしれないけど、俺が作っておいたよ」
「あ、そんな事ないですよ。でも明日からはもっと早く来ますね」
「いや、シャレにならないから止めてほしいなー…」
これ以上早く来られたら自分が朝食を作る機会が完全になくなるって。いやマジで。
桜が自分の席に座ったちょうどその時、もう一度玄関の開ける音がする。

「む、これは間違いなく藤ねえだな」
「ですねー」
俺は自分の席に座る。
が、聞こえてくる足音は2人分だ。藤ねえだけでは足りない?

「…藤ねえが誰か連れてきたのか?」
「…そうですかね?」
だとしたらもしかして強盗か?
そう思った俺は席を立ち上がり、廊下へと出る。かっこ悪いがそこらにおいてあった新聞を丸めて。

「あ、士郎。おはよー」
が、帰ってきたのはそんなほんわかした声だった。

「あ、なんだ…藤ねえだったのか。てっきり強盗かと…」
「あー、それひどいわよ。お姉ちゃん傷つくなー」
なんかちょっと拍子抜け。
そんな藤ねえは顔を膨らませて手を腰に当てる。
妙に似合ってるなと不覚にも思ってしまった。

「で、何でそう思ったの?」
「いや、ただ足音が2人分してたんで…」
「あ、それなら彼女よ」
「へ?」
そこで俺はようやく藤ねえの後ろにいた人物に気づいた。
性別は女性、身長は俺より若干だけ下、水色の長い髪と…エルフ耳? 服装は上下一体のもので主婦みたいな印象を与える。
でもどうも今風じゃない気が…?

「…随分と変わったお客さんだな」
「あー、差別は駄目よ。もっとグローバルに生きなきゃ」
そういう問題かと思う俺だったがあえて黙っている事に。
君子危うくに近寄らず、だ。
藤ねえはその女性と共に居間へと入っていく。

「桜ちゃんにもこの人を紹介しとくね」
そして、その人物を前に押し出した。
女性は半ば呆れながらも自己紹介をする事にしたようだ。

「メディアと申します。あなた達の事はタイガ様から聞いています」
と言うが、藤ねえはものすごく不満そうだ。
そして、ほえる。

「ちょっとー! 名前で呼ばないでって言ったでしょう!」
「では士郎くんと同じように藤ねえと呼びましょうか?」
「う…っ!」
その言葉に、藤ねえの言葉がつまる。
はっきり言って先のことは考えていなかったらしい。
このままでは話が一向に進みそうにないので、俺は話題を変える事にした。

「で、藤ねえ、そのメディアさんは何でここに?」
「あー、メディアさんは諸国を旅してるんだって。でも最近になって旅費がつきかけてるみたいだから、ここでしばらくかせぐんだって」
「それは大変ですね」
桜がそう言って彼女に席を勧めた。
俺は深くは考えないで再び席につく事に。

「あ、そうそう、士郎」
「何だ?」
何かを思い出したかのように手をうって藤ねえはこう続けた。

「今晩からメディアさんの分のご飯も用意してねー」
「…分かった」
食事を多く作る分には別にかまわないけど、できればもっと早くに言ってほしかったな。


「ってこれ数週間も前の話じゃん!」
ダメじゃないか!これが今何の役に立つって言うんだ!

 余談だが、メディアさんは近所でも評判の若奥様と評判がたっていった。
メディアさんはたまに学校に藤ねえの弁当忘れで届けにくるが、どうやら葛木先生と仲良くなったらしい。
一成からするとものすごく面妖みたいらしいが、俺は何気に合っているんじゃないかと思う。

「…ってまたずれてるって」
そんな日常に戻れず殺されかけてるんだ。
その事をふりかえらなければ…。


 今日、俺は確か遅くまで弓道場にこもっていた。
掃除や手入れをして、とにかく帰る事にする。
もう学校に残っている生徒はいないだろうし、残ってたのは多分俺だけだったんじゃないかな?
そんなこんなで校門に向かう途中、その音は聞こえてきた。

「これは…?」
耳を澄ますけど、これって金属音だよな。しかも鉄パイプなんてもんじゃなくて、刃物っぽい…。

 そして、俺はあの2人を見つけた。
1人は蒼の槍兵、もう1人は赤の双剣使い。もう1人がいるみたいだけど、ここからじゃ見れない。
もちろん、彼らが行っている事は友人同士の語り合いなんかではなく、殺し合いだった。

「な…っ!」
息を呑む。
そりゃあ俺だって普通の人から見るなら剣が使えなくはない。それに藤ねえの剣とかを何度も見てきている。
だが、今俺の目の前で行なわれているのは、そんなものを軽く超越していた。

 その槍は全てを貫く閃光。だが双剣はその全てをうまくさばき、更に自分に有利なようにふるっていく。
正直、これほどまでに目を奪われる戦いを見た事がなかった。

俺の知っている中でこれだけの事ができる可能性がある人物はまずいない。
何しろそこで行われているのは、よくアメリカ映画で使うようなCGではなく、時代劇でやるようなチャンバラでもなく、正真正銘の戦いだった。
声も出ない。体が動かない。
俺はその戦いのとりこになっていた。

 どれほど経過したか定かではないが、槍兵が双剣使いと一定の距離をおいて、さっきまでとは明らかに違う構えをする。
だが、変わったのは構えだけではなかった。

 あれは…、ヤバイ。
あれから俺が連想したのは、死だ。

「……」
やばい、一刻も早く俺はここを離れるべきだ。
校舎に隠れる→論外。あそこまでの達人だったら気配や呼吸をすぐに判断してしまう。今俺に気づいてないのは互いに戦闘中だからだ。
2人に事情を説明→却下。あれは試合なんかではなく死合いだ。あれだけの事をしていて俺が無事ですむ確率は少ない。
やっぱ逃げだろ→…これしかないか、やっぱ。

 そう決心すると、俺は音を立てないように注意を払ってそっとその場を後にした。


「思えばこれが始まりだったかな…?」
などとしみじみ思い返せる時ではないが、とにかくそういう事だ。
あの後俺は家に帰って気持ちを整理していたんだっけ。
そして…


「こんばんは、お兄ちゃん」
真夜中の訪問者が、やって来た。

その少女はまるで令嬢…と言うより妖精、隣にいる少女はまるで騎士…と言うより英雄。
話しかけてきた少女は無邪気なまでの笑顔を見せている。隣の金髪の少女は鎧のようなものを着込み、隣でたたずんでいた。

「お兄ちゃんとは二回目だよね。まだ召喚してなかったんだ。でもいいよね?」
一体何の事を言っているんだ?
この前会ったときもそんな事を言ってたけど…。

「あ、そうそう。私の名前はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
そういうとスカートのすそをつまみ、テレビでしか見ないような礼儀正しい挨拶をする。
普通だったら俺も挨拶をするべきだが、そんな事をしているゆとりは全くなかった。

「実はね、私ずっと楽しみにしていた事があったんだ」
そう言いながら少しはしゃぐその少女、


「それはね、お兄ちゃんを殺す事よ」
次の瞬間には今までに見た事のないような冷たい目で見つめてくる。


逃げたい、俺はそう思うけれど、体がうまく動いてくれない。
体中の警報が俺の中に鳴り響く。
だが、時は既に遅かった。

「じゃあ殺っちゃって、セイバー!」
セイバーと呼ばれた金髪の少女は、目には見えない何かを持ったような感じでそれを振り下ろしてきた。

「く…っ!」
正直な話、なぜできたのかはわからなかったが、とにかく俺は成功率が低かった強化をとっさに使ってその何かにぶつける。
強化の対象はそこらにあったポスター。火事場のバカ力ってやつか?

「む」
どうやらその少女が持っているのは剣のようだ。
それを今度は水平に撃ってくるので何とかポスターで受け止める。

「ぐ…っ!」
重い…!
まるで自動車がぶつかってくるみたいだ…!一発一発がなんて重い一撃…!

右上から肩口、左から脇、右下から足のつけね。
次々と繰り出されるその少女の剣だけど、さっき見たあの蒼と赤の戦いほどじゃあない…!
が、その威力は確実に高い!

「ふっ!」
「しま…っ!」
何回切り結んだか、とうとう俺の手からそのポスターが離れてしまう。
はっきりいって、手加減されているのかは分からないけど、日々のイメージのおかげでかろうじて俺にも対応できた。
が、身体能力の差はでかかったか。

 そして、次の瞬間には俺は宙を舞っていた。

「が…!」
盛大な音をたてて土蔵に突っ込み、壁に体を叩きつけられた。
痛い…。
そのまま俺は床に倒れこんでしまう。

「ぐ…がはっ!」
息がうまくできない。だが無理にでもそれを整える。
とにかく今はこの状況をどうにか…。


こうして今に至るわけか…。
目の前では起き上がろうとしていた俺に対し、剣を喉元に突きつけている少女がたたずんでいる。
イリヤもまた、土蔵の中に入ってきた。
その顔は、笑顔だった。

「さ、セイバー。とどめをさしてやって」
「…」

だが、白い少女の命令に何も動作をしないセイバー。
その目は、殺気も軽蔑も何もなく、ただ俺を見つめていた。

 それを見る少女の表情が曇る。

「何をしているの。早くとどめを」
「…申し訳ありません、不運だと思ってあきらめてください」
若干頭を下げると、セイバーは喉もとから剣先を外し、大きく振りかぶる。

「バイバイ、お兄ちゃん」

 ここで俺の人生に幕が下りるのか。
再上演はなし。一回で終わりの劇の幕が、唐突な終了をもって。
いやだ。

幕を下ろすのは2人の少女。多分俺よりも年は低いだろう。
1人は手に剣を、1人は笑顔を。
いやだ。

俺の死は多分悲しむ人が少ないだろうな。
藤ねえと桜、一成とか慎二はどう思うんだろうな?

「そんなの…いやだ…!」
俺が死ぬ事なんかじゃない、今俺が死のうとしている状況の事だ。
俺だって魔術師のはしくれ、これがこっち側にある事ぐらいは分かる。
あの蒼い槍兵、あの赤い双剣使い、そして目の前の金髪の少女剣士。彼らのような人がこの街に集ったのは偶然なんかじゃない。

だとしたら、これは何かが起きている。
神秘とは隠匿するもの、目撃したものは最悪殺される事も少なくない。
今回それは俺だった。
それが現実。

だがそれがもし俺以外だったら? 何も知らない人が目撃していたら? 
俺のように殺されるのか?
その人生に幕が下りるのか?

冗談じゃない…!
いくらその神秘が重要だからって、人の命と引き換えにしていいものなのか?
この剣士にしても、あの2人にしても、おそらく向かう人間はほとんど抵抗なく殺していくだろう。
ただ隠匿のためだけに…。

「俺は…」
俺は、そんなの認められない。
俺は誓ったんだ。それはただの理想かもしれないし、妄想程度なのかもしれない。
だが、俺の信念は覆らない。どんな事があったって。

「俺は…!」
俺の目指す人、俺の目指すもの、俺の目指す全て。
もうすぐ死ぬかもしれないけれど、俺はまだ生きている。
ならその最後の一瞬までそれにかけても、あきらめるわけには…いかない!

「あきらめて…あきらめてたまるかぁぁっ!!」
そんな事は、絶対にさせはしない!


 その時だったか、急に辺りが光り輝いた。
そして、何かの流れが俺と剣士の間にまとう。
そして…、

「ぐっ!」
何かがセイバーを押し出した。

光が収束していく。
それらが収まり、俺と少女たち2人の間にいるのは俺と同じぐらいの年の少女だった。
そして、彼女は俺に笑顔でこう言った。

「質問するわ。貴方がわたしのマスター?」
と。




Fate/princess waltz


   /

「マ…マスター…?」
俺は思わずその少女に聞きなおしてしまう。
少女は笑みを浮かべてこくりとうなづいた。

「サーヴァントアヴェンジャー、貴方の呼びかけに応じてただ今参上したわ」
そして、手に持っていた剣をかかげる。

「貴方の運命は私と共にあり、私の信念は貴方とともにあるから、よろしくね」
「え? あ、ああ…」
何の事を言っているのか全く分からない。
が、アヴェンジャーと名のった彼女が手をさしのべてきたので、俺は反射的にその手を握った。
そして、アヴェンジャーは外に押し出された少女たちの方を見て、手で俺を制す。

「マスターはそこで待っててね。すぐに終わるから」
「え? それってどういう…」
俺が言い終わらないうちにアヴェンジャーは外へと出て行ってしまった。

「くそっ!一体何がどうなってるんだ…!」
悪態をつきながら、俺も外へと出る。

庭ではセイバーがイリヤをかばうようにして剣を構えていて、イリヤにもう笑顔はなく、こちらを睨んでいる。
対するアヴェンジャーは余裕そのものだ。

「で、どうするの? セイバーのマスター」
そうふられたイリヤだったけど、次にはもう微笑をうかべていた。

「ふーん、召喚しちゃったんだ。サーヴァント」
「それは当然よ。なんたって私のマスターなんだから」
イリヤの言葉に即座に言葉を出すアヴェンジャー。
そういえばイリヤって子とアヴェンジャーってどこか似てるような気がするけど…。

「じゃあ始めましょうか、セイバー。サーヴァントが出会ったらする事なんて決まってるでしょ?」
「その通りです。サーヴァント同士が出会ったからには、戦い以外に選択肢などありえない」
アヴェンジャーは剣を高々と上げ、セイバーは更に顔をひきしめた。
そして2人の剣が交わる…

「じゃあやっちゃって、バーサーカー」
と思ったら、アヴェンジャーはいきなりそんな事を言い出した。
その途端、アヴェンジャーとセイバーの間に巨人が出現する。

「えっ!?」
「なっ…!」
あまりに突然の事だったので、イリヤもセイバーも驚愕の声をあげていた。
俺もあまりに突然の事で、言葉も出ない。
その巨人は咆哮をあげると、持っている巨大な武器でセイバーを攻撃した。

「ぐ…っ!」
身長はもしかして二倍近い差があるかもしれない。
だが、セイバーはバーサーカーと呼ばれた巨人の攻撃を確かに受けていた。

 その巨体からは全く予想できないほどの俊敏な動きと放たれる攻撃は正に大砲を連発しているようだ。
一方のセイバーも負けずにその攻撃を受けたり受け流しつつも反撃に出る。が、ダメージが与えられていない。
つまるところ、どちらも無傷なままだった。

 でも、見るからにはバーサーカーの攻撃は明らかにセイバーに致命傷を負わせるもので、状況はバーサーカーの方が圧倒的に有利だ。
それはセイバーもイリヤも分かっているようで、その表情は険しい。

「うーん、やっぱりセイバー相手だとなかなか簡単にはいかないわね」
と、アヴェンジャーは急にそう言って、バーサーカーに戻るように言う。
それを見てセイバーもイリヤのそばに戻る。

「マスター、ここで戦うのは不利です。一旦退いて出直すべきかと」
「冗談じゃないわ。セイバー、宝具を使いなさい」
「な…っ!」
セイバーとイリヤが何かを話しているみたいだけど、ここからじゃあよく聞き取れないな…。
でもセイバーがとてつもなく驚いている事は分かる。

「こんな住宅街でやったらそれこそ大惨事に…!」
「あのでかいのはあなたよりも背がでかいでしょう。だったら斜め上にやれば最悪あの家だけですむわ」
「…分かりました」
ふと俺はアヴェンジャーたちの方を見る。
はっきり言ってバーサーカーと呼ばれた巨人は規格外だ。威圧感はこの世のものとは思えないほどに強い。

「ふーん、マスターが彼女だから宝具も使えるのかー。確かにあれならバーサーカーでも何回も殺されちゃうわね」
「ちょっとアヴェンジャー…」
「じゃ、宝具を使われる前にやっちゃえバーサーカー」
「■■■■■■―――!!」
バーサーカーは咆哮をあげると、セイバーに再び攻撃をしかける。
その攻撃はさっきよりも速い…気がする。

「アヴェンジャーでいいのか!? この状況は一体何なんだよ!」
「マスター、後で説明するから今はこの状況をどうにかしないと」
俺の質問がばっさりと切られてしまう。うーん…。

 セイバーは先ほどとは違い、できるだけバーサーカーから距離を離そうとしている。
対するバーサーカーは決してイリヤの方は狙わない。あくまでセイバーとだけ戦っていた。
だが、セイバーの持っていたものが姿を現し、それに何かが集まっていく。

「いけない、このままじゃあこっちまで被害が及んじゃうわね」
「えっ!?」
「しょうがないわね…」
アヴェンジャーはため息をつく。


「宝具使っちゃっていいわよ、ヘラクレス」
「心得た」


…何と言った? アヴェンジャーは。
ヘラクレスだって?

約束された(エ  ク  ス)――」

射殺す百頭(ナインライヴス)


 セイバーが何かをしようとする前に、それは放たれた。
俺には全く知覚できなかったが、セイバーが次の瞬間には大量の血を流して壁に叩きつけられていた。

 地面に倒れるセイバー、それをただ呆然と眺めるイリヤ。
逆に先ほどと全く違って無表情なバーサーカー、そして勝ち誇ったように笑顔を見せるアヴェンジャー。

「じゃあバーサーカー、セイバーをやっちゃって」
「承知」
バーサーカーは先ほどとは違ってゆっくりとセイバーの方に向かっていく。
そして巨人はその巨大な武器を振りあげて…。


「やめさせるんだアヴェンジャーッ!」
とっさに俺がそう叫ぶと、バーサーカーの動きが止まる。


「ちょ…っとマスター!これはどういうこと!?」

 どういう事だと言われても、俺には許せなかったんだ。
たとえさっきまで俺を殺そうとしていたとしても、あんな少女が死んでしまうって事が…。
それに…。

「状況説明が先だ。俺には何のことだかさっぱり分からないからな。でなければ俺は納得しないからな」
状況次第でなら殺していいかというならそうではないけど。

「く…っ!」
アヴェンジャーはこちらの方を睨みつけてくるけど、この意志を変えるつもりは全くない。
と、

「ふぅん、お兄ちゃんって優しいのね」
そうイリヤがつぶやく。
その顔にはもう狼狽などは残っていない。先ほどと同じ、微笑だった。
その声に反応してアヴェンジャーがイリヤに剣を向ける。

「にしても、まさか戦いをやめるだなんてね。アヴェンジャーもとんでもないマスターを引いちゃったようね」
「…マスターをバカにするならいくら貴女でも許さないわよ」
…また一足触発なヨカン…。

「とにかく、そのサーヴァントって言うのが戦いあうんだろ? だったらそのセイバーって娘(こ)が今こんな状況にあるんだから、説明ぐらいは
 してほしいんだが」
「…もしかしてマスター、聖杯戦争を知らないの?」
「なにさそれ?」
え? 今俺何かまずいことでも言ったか?
アヴェンジャーはおろか、イリヤまで変な目でこっちを見てるんだけど。
しばらく後、アヴェンジャーとイリヤは同時にため息をついた。

「はあ、私が1から説明してあげるから、それでいいでしょう?」
「分かった。それと、イリヤだったっけ? 君も少しあがったら? お茶ぐらいは出せると思うから」
「「へ?」」
…アヴェンジャーとイリヤが同時に目を見開く。
本当にこうして見てると姉妹みたいに似てるよな。

「マスター、分かってるの……って分かってないからこう言えるのよね」
「…そうね…」
うあ、まるで俺が無知みたいじゃないか。
いや、実際そうなんだけど。

「まあ、セイバーだったら復帰しても私のバーサーカーなら簡単に倒せるし」
「言うじゃない。セイバーが宝具を使ったらそのでかぶつごとあなたも消滅できるわよ」
「ふぅん、じゃあ今から試してみる?」
「ちょっとちょっと2人とも、今だけでいいからケンカはやめてくれ。
前途多難だ…。

   /

 一通りの説明をアヴェンジャーとイリヤから受ける。
聖杯戦争の事、サーヴァントや英霊の事、そしてその状況など。

 あまりの事に俺は抗議をしたが、魔術師の行うものである以上、そういった事も行なわれてしまう、とアヴェンジャーは言った。

 居間にいるのは俺、アヴェンジャー、イリヤ、それからセイバーだった。
バーカーカーはアヴェンジャーが消してしまったし、セイバーはあれほどの重い傷だったのにもう治っていた。
アヴェンジャーに言わせればそれは見た目だけらしいけど。

「…そのアヴェンジャーってのは何なんだ?」
「だから、7つのサーヴァントとも違う、イレギュラーなサーヴァントよ。過去の聖杯戦争でもたまにそういったものが呼ばれるわ」
イレギュラーな…?

「サーヴァントの召喚には触媒って言うのが使われるの。それによって目当てのサーヴァントを呼べるように。でもマスターが私を呼び出した
 あそこにそんな触媒なんてあった?」
…ない。壊れた電子レンジとかで呼ばれるんだったら話は別だけど。

「召喚者自身が触媒になる事もあるけどね。未来に英雄になった人とか、それに関わった人とかね。でもそのケースは稀だわ」
と言ってアヴェンジャーはちらっとイリヤの方を見る。
だがすぐに俺の方にまた顔を向けた。

「次に召喚者自身に似ているサーヴァントが選ばれるわ。例えばものすごく小ずるい奴なら小ずるいサーヴァントが。
 勇敢な奴なら勇敢なのが。マスターの召喚はそれで行なわれたんだけど、マスターに近い人でバーサーカーになれる人がいなかったの。
 残ったサーヴァントがバーサーカーだけだったから、バーサーカーに近い私がイレギュラーな形で召喚されたのね」
なるほどね…。
と、アヴェンジャーから先ほどまで、戦闘の間でも続いていた笑みが消える。

「それでマスター、どうするの?」
「どうするの…って?」
「聖杯戦争よ。このまま私を従えて参加するのか、それとも令呪を破棄して日常生活に戻るのか」
俺は…。

「俺は…戦う」
「へえ…本当にそれでいいの?」
「殺し合いなんか俺はしたくない。だからって俺は殺し合いもさせたくはない。俺はこの馬鹿げた争いを少しでも早く終わらせる」
今回の俺はたまたま運がよかっただけで、普通だったら既に死んでいる。
他人の人生をそう簡単に踏みにじられてはいけない。
だからこそ…。

「ふぅん、それじゃあセイバーのマスターみたいにマスターを殺そうとしていても、殺さないの?」
「ああ、できれば話し合いで解決したい」
「…はあ」
アヴェンジャーは深くため息をつく。
確かに俺が言っている事はただの理想論であり、現実を楽観視しているかもしれない。
それでも、殺し合いをするよりははるかにマシだ。

「アヴェンジャーもそんな俺だけど、いいかな?」
「ダメだって言っても聞かないんでしょう? それにそんなマスターだからこそ私は呼ばれたんだけどね」
そう言ってどんと胸を叩いた。
自分は強いから、それでもやられる心配はないしね、と言う感じだ。

「じゃあマスター、状況説明は終わったけど、どうするの?」
どうするって…?

「セイバーとそのマスターよ。もう先延ばしはできないからね」
あ、そうか…そうだったな…。
アヴェンジャーの言葉に、イリヤとセイバーの雰囲気が変わる。
セイバーは剣をこちらに向けてきている。

「そうだな…イリヤは一般の人を巻き込む事はするのか?」
「うちのセイバーは最強よ。そんな事をするのは弱いサーヴァントだけでしょう?」
「じゃあなんで俺を襲ったのさ。別に蒼と赤の奴との戦いを見たからあいつらに襲われてもおかしくはないけど、イリヤのセイバーを見たのはさっきが
 初めてだぞ」
と、イリヤの顔が険しくなる。
俺何かまずい事言ったか?

「お兄ちゃんには教えてあげないもん」
「って教えられない理由で俺を殺そうとしたのか…」
アヴェンジャーがいなかったら親父のところに行ってただろうなー…。

「ま…まあ、とにかく、俺はイリヤとは戦いたくない。今後襲ってきても、多分俺たち逃げるんじゃないかな…?」
「疑問形なの?」
アヴェンジャー、つっこまないでくれ…。

「ふぅん、つまりお兄ちゃんは私の下につきたいの?」
「いや、そこまでイリヤの迷惑はかけられない。だから休戦って形が一番いいかと思う。他全てのサーヴァントを確認して、一般の人を犠牲にする
 ような奴を倒していこうかなって」
魔術師と名のるだけの実力なんて俺にはないし、イリヤの足を引っ張るだけじゃないかな?
だとしたらこっちのリスクは高くなるけど、アヴェンジャーと行動した方がいいと思う。

「その時になったら決着をつけるの?」
「できればおだやかに話し合いで解決したいんだけどな…」
俺個人が殺されるような心当たりが何一つ思い浮かばないし。
そもそもイリヤと出会ったのはこれで2度目だし、初回だってイリヤが一言言っただけだ。
ん…?

「何でイリヤは俺を『お兄ちゃん』って呼ぶんだ? 目上の20前後の人にはみんなにそう言ってるのか?」
「いえ、お兄ちゃんだけだけど?」
「てことは…」
実は親父の隠し子とか? いても不思議に思えないのが悲しいけど。
いや、でもイリヤが見た目どおりの年齢だったら、その時はまだ日本にいたはずだけど…。
あ、でもそんなの数分もあれば…って何考えてんだ俺?

「マスター、帰ってきなさいよ」
はっ、アヴェンジャーサンクス。

「俺は衛宮士郎って言うんだ。アヴェンジャーもマスターって呼び方は止めてくれな」
「分かったわ。私はシロウって呼ばさせてもらうね」
シロウ、か。名前なのね。

「…まあ、イリヤがその辺の説明をしてくれないんだったら、話してくれるまで俺は待つからさ。言いたくなったら言ってくれよ」
「……」
その言葉にイリヤは返事をしなかった。
うーん、やっぱりなんでだろうな…?

「いいわよ」
「へ?」
「だから休戦の話でしょう? 聖杯戦争知らなかったぐらいだから、魔術師としても半端なんでしょうね。ならこっちも余裕をあげるわ。」
「半端…か…」
事実だけど、こうもストレートだとハートに傷が…。

「その汚いマスターを倒したら、真っ先にお兄ちゃんを殺してあげるから」
「その時はホットケーキでも作ってごちそうするよ。料理には自信があるからさ」
「ほっとけーき?」
「小麦粉とか卵を使った料理。甘くておいしいぞ」
ん? セイバーの顔がゆるんでる気がするけど、気のせいか?

「ま…まあ、考えておくわ」
「そうか。考えてくれるだけでも嬉しいよ」
殺し合いをしない可能性が出てくるのは嬉しい事だし。
イリヤは一息つくと、立ち上がった。

「それじゃあね、お兄ちゃん。またねー」
「今度はゆっくりしたいけどな」
そして、手を軽く振ってイリヤたちは去っていった。

残ったのは俺とアヴェンジャーのみ。
…気まずい…。

「なあアヴェンジャー」
「ん? 何?」
いきなり声をかけられたので、アヴェンジャーはひどく驚いているようだ。

「復讐者って呼ぶのはいやだから、本名教えてくれないか?」
「真名を? まだダメ」
「へ?」
「だってシロウ口が軽そうなんだもん。真名を知られると対策が立てられやすいって説明したよね?」
「ん、そうだったな」
だからってアヴェンジャーって呼び続けるのは…。

「シロウってやさしいのね」
「なんでさ?」
いきなり何を言い出すんですか?
って顔が熱くなってきたし。

「だってサーヴァントは魔術師にとってはただの道具にすぎないじゃない? なのにシロウは私を対等の存在として扱ってるわよ」
「だってサーヴァントって言ったって元は人間だろ? しかも俺なんかより優れた。だったら卑下に扱う方がおかしいじゃないか」
「んー、まあそうだけど…。普通はそうするものよ。あのセイバーだってそうされてたじゃない」
そうだったか? 俺にはちょっとしたパートナーに見えたけど。

「で、バーサーカーって言ってたのは…」
「私の宝具みたいなものと今は考えておいて。私自身に戦闘能力はあまりないから」
「そうか…」

 今日一日だけで色々な事があったな。
赤と蒼の戦士の戦い。イリヤとセイバーとの出会い。そして、アヴェンジャーの召喚。
色々ありすぎて整理がつかないな…。

「とにかくアヴェンジャー」
「ん?」
「未熟って言葉もふさわしくない俺だけど、これからよろしくな」
そう言って俺は手をさしだす。
それを見てアヴェンジャーは笑みを浮かべて俺の手を取り、握手をする。

「よろしくねシロウ」
と、アヴェンジャーは俺の手を引っ張って…?

「じゃあさっそくだけど、私とシロウって召喚が不十分だったせいで、つながってないのよね」
「つながってないって…魔力が通ってないって事か?」
「そうよ。バーサーカーを使うのすっごく疲れるんだから、ちゃんと魔力くれないといやよ」
魔力を与えるって、俺にできる事といえば…あるのか?

「魔力を与えるって、どうやって?」
「契約を強化する事もできなくはないけど、今のシロウじゃできなさそうだし、ここは手っ取り早く体液の交換で」
「体液の交換ね…」
ふーん、それでも魔力を供給できるんだ。
…って…。

「ちょっとまったーっ!それって一体何さ!?」
「んもう、分かってるでしょう? レディーに皆まで言わせる気?」
「会ってまだ半日も経ってないんだぞ!」
「バーサーカー、シロウを連れてってねー」
「って宝具をそんな事に使うのか!?」
「大事な時に使うのが宝具よ」
「これが大事な時なのか!?」

 結末はあえて語らずと言う事で。
前途多難だ。果てしなく前途多難だ。


   /

 第一話
藤ねえ、葛木の忘れ物を渡すために急いで追いかける。その事で藤ねえ、前マスターを殺したキャスターと出会う。
藤ねえ、キャスターから事情を聞き、事態をとめようとする(葛木の時より魔力集めは広く薄くにしたので能力がかなり下がっている)。
アサシンの召喚はしていない。

 第二話
士郎、キャスターと出会う。キャスターは魔力隠しの魔術道具を使っていて魔力が分からないようになっている。
桜がキャスターに気づいているかは不明。藤ねえがマスターなのはキャスター以外知られていない。

 第三話
ランサーとアーチャーとの戦いで、士郎は気づかれずに帰宅。その後イリヤとセイバーの強襲を受ける。

 第四話
アヴェンジャー召喚。この話の最後まで。

   /

「なあ衛宮、僕と手を組まないか?」
士郎に接触をするライダーのマスターで士郎の友人、間桐慎二。

「では苦しまずに殺してあげましょう」
美しく蠱惑的な、だが確実に敵をしとめるライダー。

「気ヅイタカ…コノ距離デ…」
漆黒の衣を身にまといし暗殺者アサシン。

「喰らうか。この一撃を」
戦闘に悦びを持ち、己の一撃に絶対の自信を持つランサー。

「残念ですが貴方では私には勝てませんよ、少年」
片腕ながら他を圧倒する武を持つ凛々しき女性、バゼット。

そして…、

「何、気にする事はない。ただの道楽にすぎん」
「その罪、万死に値するぞ」
謎の黄金の射手とその主。

「殺すわ。たとえあなたでもね」
「理想を抱いて溺死しろ衛宮士郎」
優雅なる若き魔術師遠坂凛とその従者アーチャー。

「シロウ、あなたの考えは危険だ」
参加者皆の思いが入り乱れる時、

「ねえお兄ちゃん。あたしね…」
その先に待つものは、

「士郎…、切嗣さんみたいにいなくならないでね」
そしてその先にあるものは、

「あなた、とても変わってるわね」
それは果たして一体…、

「シロウ、私実はシロウの事がね…」


Fate/princess waltz

執筆予定は残念ながらありません。


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藤ねえ「って執筆予定ないんかーっ!」
アヴェンジャー(以下アヴェ)「しょうがないじゃない。作者が色々なの連載しすぎなせいよ」
藤ねえ「てっとりばやく全部打ち切ってこれ書きなさいよーっ!」
アヴェ「…そんな無茶苦茶な…」

藤ねえ「まあ、それはともかく…」
アヴェ「そうね。この話は本来オリジナルストーリー疾走中のFate/the midnight saga(仮)でのアーチャー、『衛宮士郎』の話だったのよ」
藤ねえ「でした? 過去形?」
アヴェ「作者がヘタレで「やっぱ士郎のサーヴァントはセイバーだ!」に目覚めたのとあまりにこの話が突発的だったのがあったみたいね」
藤ねえ「…ようは飽きたのかしら?」
アヴェ「とにかく皆様にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

藤ねえ「この話を以前見た人は分かると思いますけど、実は私の持つサーヴァントが変わってます」
アヴェ「そ、アサシン(佐々木小次郎)からキャスターに」
藤ねえ「これって何で?」
アヴェ「いくらタイガと葛木が同時にキャスター助けたからってタイガがアサシン持てるなんて馬鹿げてるからじゃないの?」
藤ねえ「うーん…。私としては小次郎さんの方がよかったかもー…」
アヴェ「それにともなって原作では容認されていた表向きガス事故のやつも起こらなくなってるわね。タイガがマスターだし」
藤ねえ「もちろんじゃない。そんなの許せるはずないわ」

アヴェ「それに原作では主人公のシロウが取りうる選択肢で未来が変わってたけど、この話ってシロウが選択する以前にわ…イリヤスフィール
    がセイバーでアルトリア召喚しちゃってるし。やっぱシロウの取りうる選択で未来を決めたかったのが最大の要因ね」
藤ねえ「ふーん。じゃあこの話は?」
アヴェ「あくまでアヴェンジャーこと私とシロウの話、『超捏造イリヤルート』とでも言うべきかしら」
藤ねえ「一応『超捏造大河ルート』に派生可能にするみたい」

アヴェ「で、この話ではバゼットが戦闘続行しているって事とか慎二と手を組むとか色々なことをするかもしれないみたい」
藤ねえ「それと一番の話は遠坂さんが徹底的に士郎の敵になってる点かー…。出会いが違えばこんなにも違うもんなのかな?」
アヴェ「ぜひ原作の方で『イリヤルート』と『タイガルート』の追加を。冬待ってますから」

藤ねえ「さーて、あとはアヴェンジャーがどんな過去を送ってきたか、ね」
アヴェ「分かってくれてるわよね? 私が誰だか」
藤ねえ「さあ?」
アヴェ「どんな『彼女』が私になったかはまだナイショ。でも参加目的はシロウとの幸せな生活、かもね」
藤ねえ「本当のところは?」
アヴェ「さあ?」

藤ねえ「…あとはこの作者の決まりごとになってる、独自設定か…」
アヴェ「この話は私以外の事は原作に沿うみたいよ」
藤ねえ「既にキャスター、セイバーのマスターが変わってるのに?」
アヴェ「それでもよ」

藤ねえ「それじゃああれば次の話でー」
アヴェ「あればねー」
藤ねえ「そう言う事は言わないの!」

藤ねえ&アヴェ「それじゃあ!」
  2006年6月24日
  2006年10月22日 第一回改訂


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