Fate/the midnight saga

第54話


   /14日目

「……はっ!」
双魔は大きく息を吐いて憐から距離を離した。
互いに一歩飛ぶように踏み込めば間合いに入るような距離ではあったが、ただ攻撃を仕掛けるだけの戦闘を中断させるには十分だった。
憐もあえて彼の間合いに飛び込もうとはせず、端然と刀を構える。

双魔は自分の身体を調べる。
既に左腕の腱や血管を切断されたのは痛かった。おかげで大して左腕は動かない。
ガンドを貰った左足は執拗に狙われたために棒のような有様だ。これでは自由に動かない。
更に腹部にいい一撃を貰っているために内臓にも負傷がある。応急処置こそ合間を縫ってしたが、出血は止まっていない。

憐は自分の身体を調べる。
腹部に貰った攻撃で骨が何本かいかれている。内臓にも多大なダメージが蓄積している。
頭部にも何発かいいのを貰ったので頭ががんがん揺れている。少しでも気を許すとすぐにでも暗転しそうだった。
ついでに蹴りを何発か脚に受けたために赤くはれ上がり、自由に動きそうになかった。

要は、両者共に魔術要素で無理やり身体を動かしているような上体だった。

「……きりがないな」
「ああ」
もはやこうなってしまえば消耗戦になるのは間違いなかった。
その果てにたどり着く最悪の予想が両者の頭をよぎる。

「このままだとお互いに死ぬ可能性もあるわけだな」
「ああ」
双魔が憐の素直な返事をうかがうと、一瞬だけ詰めあい風が吹く。

「なら一撃だ。一撃で勝負を決めよう」
「一撃?」
双魔は静かにうなづく。

「己の全部を込めた一撃だ。その結果どうなろうと、このぶつかり合いで雌雄を決する」

十年前に起きた事故、すれ違い、考え方の衝突。
遠坂の確執がここで終止符を打たれる。
憐は思わずやや黒味を帯びた笑みをこぼしていた。

「……受けてたつ」
「上等」
双魔もまた不適に笑い、身体を動かす。

「正拳突き……」
それは最も基本的な、だが全ての要素が詰まった構え。
体の流れも魔力の動きも一切の揺るぎはなく、ただ一点だけを見据えていた。

「循環、充填」
前セイバーや憐がやるように魔力を全面的に放出するのではなく、双魔は魔力の一切を身体の中に留めた。
静かに流れる魔力は精製されるのと合わせてやがて大きく静かな流れを生み出す。
日本では決して見られない大河みたいだな、と憐は心のどこかで思った。

「よし…………あれ?」
憐もまた渾身の一撃を放つために準備を開始しようとして、ふと思い当たる。

 そう言えば自分の渾身の一撃って、なんだ?
始めは柳洞寺攻略戦前に前セイバーと戦ったような瞬間魔力放出を行い、英に学んだ全てを結集させた一振りを行おうとしていた。
だが今はなぜかそれが渾身の一撃だと断言できない。
自分の中で、今までの自分を考えると信じられない話ではあるが、それは絶対に違うと警告を鳴らす。

技術? 魔術? 武装?
あらゆる可能性に思考をめぐらして、ふと憐は背中の一振りに着目する。
先程渡された、メドラウトの日本刀だった。

一応刀身だけではなく柄や鍔なども付けておいたが、正直切れ味や使い勝手を考えるとそう大差ないと思ったから使い慣れた今までのものを使っていた。
だったら別に警鐘は単なる杞憂ってことじゃないだろうか?
と断じようとしたその時、

一筋の光が、彼の中で輝いた。

「いや、まさか――こんな事ができるのか?」
憐は今まで冬木や時計塔などで蓄えた知識、聖杯戦争を含めた経験した出来事を思い出す。
彼は手と刀を見比べる。答えてはくれなかったが道を指し示しているように憐には感じられた。
そして彼は静かに目をつぶった。

「……いや、やろう」
憐は心の中で決意を固めると、構えていた日本刀を腰の鞘に収めて背中の鞘から英の刀を抜いた。

心に決めたからには自己の世界に埋没する。
大切なのはイメージであり技術は二次的なものに過ぎない。
考え方を在り方に、在り方を想いに、想いをカタチに、カタチを光に変換――。

キャスターが目指した、そしてアルトリアが用いた尊い光ではない。
憐が目指すのは、かけがえのないものへの大きな想いだ。
どこまでも純粋に、どこまでも無垢に、どこまでもひたむきに胸に秘め続けたあの想いを光にしたものだ。

英ねえ、俺はやるぞ。

「……セット」
魔術回路を起動。憐は以前キャスターの光を再現した時とはまた違った詠唱を開始した。
目指すのは今手に持っている英の刀と同様の、終焉の剣の光だった。
彼は詠唱を重ねて魔力を刀に収束させてゆく。

「大いなる星の輝き」

当然憐個人の技術ではまだ蛍以下の光しか出せない。
けれどその不足分は英の刀が補う。指し示す。
英がたどった道を憐はそのまま突き進むだけだった。

「う……ぐ……っ」
それでも彼の体からは魔力が底なしに飲み込まれていく。
酷い疲労感に引き続けてめまいと頭痛が憐を襲う。

それでも彼は倒れない。
全ての不利になる反応は全て無視し、全神経を一撃に集中させる。

一方の双魔はゆっくりと流れていた魔力の流れが徐々に渦を巻きだした。
そしてゆっくりと右腕に充足していき、一気に解き放った。
魔力の流れが竜巻のように回転する。拳、前腕部、上腕部の三つで回転する方向が逆。
それなのに腕そのものは力強く揺るぎもしなかった。

お互いの攻撃は、くしくも二人の従えた英霊が目の当たりにしていた奇跡の再現に他ならなかった。
無論その度合いは当然行使していた者には及びもつかないが、それでも二人は全てを一撃に込めた。
詠唱終了。双魔の魔力が嵐のごとく旋転する、憐の魔力が太陽のごとく光り輝く。

「おまえの信じたもの、俺の信じたもの、いざ尋常に勝負だ!」
「こい憐!」

二人は大地を蹴った。
膨大な魔力の伴った腕を拳を振りぬく、腕を刀を振り下ろす。
二人が同時に出れば一足一刀の間。故に二人の激突は瞬間。

二人は、同時に高らかな宣言を行った。


「Enûma Eliš !」

「Excalibur !」


 双魔はランサーがいつも付き従った存在の奇跡を、憐は前セイバーがいつも秘めていた想いを行使する。
光り輝き、吹き荒れ、引き裂かれ、斬り開かれ。
やがて、全ての奇跡は儚く消え去る。

「……はっ」
憐は大地に崩れ落ちようとする身体を刀だけで支えた。
英に見つかったら間違いなく折檻ものだな、などと自虐的に笑う。

彼の後方は引き裂かれたように抉れ、大気はなお荒れ狂っていた。
左半身のほとんどが言う事を聞いてくれない。と言うより痛みを含めて存在を全く感じられない。
右目だけでゆっくりとうかがうと左腕が雑巾のように捻られていた。よく見れば胴や腹部もある程度渦状に引き裂かれている。

「強く……なったもんだ」
双魔は大地に崩れ落ちた。

彼の後方は一直線に線が走り、全てが両断されていた。
右腕の感覚がない。肩口からばっさりと切断されたとは自分でも把握できる。
更に光の斬撃の余波で全身や顔にも裂傷ができている。

「おまえの……勝ちか」
双魔は憐という魔術師の姿を何とか視界に納める。

まだ二十そこそこの年齢ではあるが様々な魔術師をこの目で確かめてきた。
その上で魔術師という道を選んだ遠坂を許すことは出来なかった。
それでもこんな風な魔術師らしくない遠坂がいるなら……、

「……悪くない」

いつか遠坂は必ず――。

ランサーのマスターとして参加した遠坂の長男、遠坂双魔は静かに意識を落とした……。


 数百回目になるだろう武器破壊が繰り広げられる。
ランサーは槍ばかりでなくあらゆる形状の武器で、アーチャーは夫婦剣ばかりでなくあらゆる種類の武器で戦う。
お互いがお互いの攻撃で生じるわずかな隙を見逃さずに攻撃を行うため、攻防は互角になっていた。

「――――投影トレース開始オン

撃鉄が何度も落ちる。
次々と創り出される設計図を瞬時に具現化し、敵の攻撃に対抗するアーチャー。
彼の頭には未だに出番を待ちあぐねている図面が数枚あった。

「おおおっ!」
再びランサーとアーチャーの武器が衝突する。
受け流そうと試みた攻撃が思いのほか巧みな手さばきでうまくいかず、力を殺しきれない。
アーチャーの身体は大きく後方に飛ばされた。

咄嗟に宝具を作り出そうと設計図を書き出し、それを投影すべく詠唱しようとし、即座にその図面を破棄した。
ランサーは間合いを詰めない。逆にやや間合いを離し、身体を大きくそらしていた。
彼の周りには鎖で精製した無数の武器。

「いぃぃやあぁぁっ!」

野生の肉食動物の慟哭すらなりをひそめるほどの雄たけびと共にランサーはその全てを投擲してきた。
殺到する軍勢は以前見たような宝具の原典群よりも在り方は弱い。だが、全てが真価を発揮して迫り来る。
全部撃墜――不可能。『壊れた幻想』で破砕――間に合わない。防御に徹する――方法次第。

熾天覆う七つの円環ロー・アイアス!」

ギリシアの英雄の投擲をことごとく受け止めた盾がアーチャーの前に展開する。
次々と飛来するランサーの投擲は全てアーチャーの盾に弾かれ砕かれする。
その分アーチャーの盾に大きな亀裂が生じる。

「――――投影トリガー装填オフ

溜めてあった図面の一つを紐解く。
手に確かな重みと感触を受け、それが握られている事を実感する。
投擲の飛来がある程度収まるとアーチャーは自ら盾を放棄し、突撃した。

ランサーもまた投擲が終了間際になると突撃を開始する。
たった一つだけ投擲を行わなかった槍を片手で軽々と持ち、もう片手で別のものに手を伸ばす。
それは賭けにも等しい無謀だったが、ランサーの考えるアーチャーならば必ず成功すると彼は確信していた。

アーチャーが剣を振りぬく。
ランサーが片手をかざす。


勝利すべき黄金の剣カ リ バ ー ン!」

王の書板トゥプシマティ!」


王を定める書板が王者の所有する黄金の剣を押しとどめる。
黄金の剣はランサーを両断しようと、王の書板は黄金の剣の所有権を徴収しようと激しくぶつかり合う。
だがアーチャーのは両手剣、ランサーのは片手に収まる書板。

余ったのは、ランサーのもう片手。

「――I am the bone of my sword身体は剣で出来ている.」

「はああっ!」
ランサーは槍を突き出す。全てのものを、神すらも刺し討つベく速度を、威力を伴って。

今黄金の剣を放棄して防御に回れば王の書板を持っている腕が頭蓋を粉砕すべく動き出す。
だが動かねば回避も防御も出来ない。
アーチャーはその絶体絶命の危機を、ほくそえんだ。

ランサーの槍の直撃を受けてアーチャーの体が大きく跳ね飛ばされる。
だが確実に胸板を貫通していたはずの攻撃は、アーチャーに風穴を開けてはいなかった。
こればかりはランサーも仰天する。

「それは……!」
アーチャーの胸は鉄で覆われていた。
否、鉄の剣でアーチャーは武装されていた。
それが百目木邸で一度お目にかかった固有結界の暴走だと判断するのに要した時間は一秒足らず。

それでもアーチャーが最後の攻撃に打って出るのには十分な時間――!

全工程投影完了セ ッ ト ――ランサー覚悟!」

最後の製図が魔術回路に伝わっていく。
アーチャーは右手でなぎ払うように黄金の剣を一閃させる。
それを槍を巧みに使い威力を殺し、無傷での防御に成功させる。
だが今回は振るったアーチャーも片手のまま。そしてもう片手が旋回する。

彼の手の中にあるのは、もう一振りの剣。
彼と共に歩んだ少女が所有していた、想いの剣。
それがアーチャーの手で振るわれる。


約束された勝利の剣エ ク ス カ リ バ ー!」


自身自身と同一存在の鎖で反撃――槍以外は全て攻撃に使ってしまった。
ならば今周りに散らばる鎖を再構成――そんな時間はない。
では拳で弾き飛ばせるか――迫り来る光はそうたやすいものではない。


王の書板トゥプシマティ!」


ランサーは再び王を定める書板でアーチャーの剣を押しとどめようとする。
英雄王が所持していた鍵剣にすら対抗した書板だったが、光を抑えきれない。

「……やっぱりか」
その結果にランサーは納得していたし満足もしていた。

書板が有効なのは王の所有物、王の宝である。
だから王でなかろうと所持するもの、英雄王で例えるなら乖離剣には効果が及ばない。
アルトリアがアーサー王となるべく在った王者の持ちし黄金の剣は砕けた。
それからアルトリアが所有していたのは人々の想いが詰まった勝利の剣。

ならば勝利の剣は王者の剣か?
否。そんなものではくくれない尊さがある。
勝利の聖剣は所有者がアーサー王である必要はない。アルトリア、またはセイバーこそが所有者なのだから。
彼女と彼女の背負った者達の想いで創られたそれは、この世の全財宝を集めぬいた英雄王の宝物庫にすらないものだ。

ランサーの身体を光の線が走った。

アーチャーは両手の剣を消失させる。ランサーは両手の宝具を地面に落とす。
ランサーは今自分が笑っているだろうと確信できた。
戦いに倒れただけではない。想いの光に斬られて倒れる事が嬉しくてたまらない。

「こんなふうに思っていると盟友が知ったらどういうのやら」
その盟友はアーチャーと共に歩んだ青い騎士にどうやって敗れたのだろうか。
だとしたら彼も素直な称賛を思い描いたのだろうか。


「許されるならば、今度もまた彼と共に歩みたいなぁ……」


最古の英雄王と共に歩みランサーとして召喚された人、ランサー。
彼は満足げな表情を崩さないままその場から消え去っていった。


「……はあっ、は……っ」
憐の息は荒い。呼吸をするだけで鉄の味を舌に感じ、眩暈が起こる。
今にも意識が飛びそうになった憐だったが、あいにくそれは出来ない相談だった。

「あー……チャー……」
彼は自分が召喚したサーヴァントを眺める。
左目はもう見えない。前髪がほどけているために右目の視界も最悪だったが腕が動かせない。
それでも彼はしっかりとアーチャーをとらえていた。

「……頃合いか」
アーチャーの身体は徐々に透明になっていた。
聖剣の発動はアーチャーの身では決して許されないほどの魔力を消費する。明らかに魔力が枯渇していた。
しかもヨハンは最後の令呪を行使していたためにどのマスターとも契約がない。単独行動のスキルだけではカバーしきれないものがあった。

アーチャーもまた憐の方に視線を移す。
憐にとって今にも消え去ろうとするアーチャーすらあらゆる意味で強く見えた。
そしてそれを忘れまいと心に刻み付ける。

「……勝ったのは……俺たちだ」
「ああ、そうだな」
「また……会えるといい……な」
「それは無理な相談だと思うぞ。万一会う際には敵同士の可能性が高い」
アーチャーはそうなっていても腕を組んで不敵に笑った。
彼はなんだか自分がよく知るアイツがやりそうな仕草だな、などと内心で苦笑する。

憐もまた安らかな笑みを浮かべた。
アーチャーはどんな時でもアーチャーのままで、心のそこから安堵していた。
再契約でもしてアーチャーをこれ以上留めるのは彼にとっては失礼だろう、と憐は考える。
だから憐はアーチャーに自信に満ちた笑顔を見せた。

「じゃあな、俺の英雄」
「さらばだ、俺のマスター」

挨拶はそれっきり。わずかな風が流れて憐の視界を前髪が覆う。
風が収まった時にはアーチャーの姿は影も形もなかった。

若い頃に様々な英雄とめぐり合い、そして一心不乱に駆け抜けていった弓兵。
冬の世界と黄金の想いを持ったアーチャーのサーヴァントは消失した。

「……今までありがとう」
そっとつぶやいた憐だったが、それでも意識を落とすわけにはいかなかった。
この場に残ったものとして、最後まで見届ける意思だけでしがみついていた。


 時間が経過するにつれてセイバーの状況は悪くなっていった。
何しろ敵となっている存在、真祖の姫は明らかにセイバーの脚力腕力魔力など、全ての個体能力を上回っていた。

真祖の姫は必ず相対する存在より上の出力をもって現れる。
それこそが数多の魔王を葬り去った真祖の姫の特性であり、逆に制約でもある。
個体能力で挑んだシェラザードを軽々と葬り去り、武装という火力で挑んだランサーことエンキドゥに苦戦を強いられたのもこのためである。

そしてセイバーは竜破壊の剣グラムを所持しているものの、それを扱う卓越した身体能力と技能がものをいっている。
自然、個体能力は一般的英雄のそれよりも高いものである。
だからこそ真祖の姫には苦戦を強いられるしかなかった。

Alt Nagel.

何度目になるかも分からない腕を振るうだけで巻き起こる真紅の衝撃波。
迫り来る鉄槌は耐久力の高いセイバーを容赦なく蹂躙する。
何度も自身の大剣を取り落としそうになったが、歯を食いしばってこらえる。

「うおおっ!」
そのまま剣を轟音と共に一閃させる。
山をも切り裂くのではないかと疑うほどの一撃を真祖の姫は再び腕で防御する。
威力は真祖の姫を伝って彼女の足場を崩壊させるが、彼女自身に負傷は与えられていない。

雷帝の覇轟剣ニョルニル』でも 『巨帝の断罪剣レーヴァティン』でも、 技の一切は真祖の姫相手には決定打にはならない。
更に自身の持つ最高の神秘である『馳せる竜破壊の聖剣グ  ラ  ム』はすぐさま 回復されてしまう。
世界の供給を断絶する術でセイバーが思いつくのは別の世界に引き込む固有結界ぐらいで、当然それは持っていない。
要はシグルズという剣士では後一歩が届かない事になる。

だから彼は待つ。絶好の機会となる一瞬を。
この場にいるのはシグルズなどという彼を信じた女性を悲しませた英雄などではない。
少女の想いに答えるために召喚された、セイバーなのだから。

 一方の真祖の姫はまたしても道を阻むサーヴァントなどと呼ばれる英霊相手にうんざりしていた。
目的は目の前にいるのにおあずけを食らっていい気分のはずがなかった。
当然、こんな相手にもたもたしている義務も義理もなかった。

見たところ昨晩戦ったランサーと呼ばれた英雄と違い、この存在は武装などの神秘性が弱い。
個体能力は確かに高いがそれは真祖の姫にとっては好都合だった。
では問題ない。少しでも早くこの茶番を終了させ、本懐を遂げてしまおう。

「……!?」
真祖の姫の動きが若干変化したのをセイバーは感じ取った。
それは固唾を呑んで見守るクリス達にはとらえきれない微細なもの。
全神経を真祖の姫に集中させていて、数々の苦難を乗り越えた英雄だからこそ感じ取ったものだった。

 セイバーの二連撃が左右から振るわれると真祖の姫の体勢がわずかに崩れる。
それを見逃さなかったセイバーは渾身の力で大剣を振り上げた。
その際同時に斬った大地の影響などもろともしない一振りだった。
怒涛の攻撃に威力を殺しきれなかったのか、真祖の姫の身体は上空に大きく跳ね飛ばされる。

「よし……っ!」
さすがの真祖の姫でも空中では地上のような高速移動は出来ない。
そう判断したセイバーは絶好の機会だととらえ、最大の攻撃を行使しようと剣を振りかざして、

「――!」

背筋に悪寒が走った。
かつてないほど研ぎ澄まされた感覚なのか第六感なのか、判断はつかなかったが間違いなく感じ取った。
自分は絶体絶命の危機に瀕している、と。

ほんのわずかに意識をセイバーから外していた真祖の姫。
空中に投げ出された彼女の身体。
そして自身は剣を振りかざし、今にも最大の神秘を行使しようと準備万端。

話がうますぎる。
しかしこの機会を逸すれば消耗戦に陥り、アーチャー対ランサーに決着がつく前に敗北は必至。
乗るか、退くか。

戦術や戦略など立てた事のない一匹狼の一生を送ったセイバーは、今までにないほど自分の頭を回転させた。
そうして一つ結論にたどり着いた……まではよかった。

迷った。思考より迷う時間の方が多かった。
その上でセイバーは苦渋の決断を下すしかなかった。
謝っても謝りきれない裏切りではあったが、背に腹は変えられなかった。

セイバーは神秘を行使すべく剣を一閃させた。
それと全く同時に、真祖の姫もまたセイバーに向けて手を突き出した。
空間、固定。座標、指定。標的、確認。
真祖の姫が持つ最大の神秘が解き放たれる。


Gnaden Sturz.


 それは自分自身を拘束するために創造された、ランサーすら脱出できない束縛の鎖。
空間と言う空間から鎖は出現し、セイバーのいた座標に一斉に向かっていった。
その間一秒足らずどころではなく、刹那にも満たない時間であった。

座標上にいた対象を鎖は捕縛し、そのまま締め付けと捻り切りに入る。
ランサーの時とは違って真祖の姫を束縛する鎖はない。真祖の姫の意識を阻むものは存在しない。
故に千年城の鎖は瞬く間に対象をばらばらにするように、すり潰すように動く。
そして、対象は弾けとんだ。

原型をとどめないほどの肉片と血溜りに成り果てたそれは汚い音を立てて地面に撒き散らされる。
やがて存在意味を失ったように魔力へと還元し、消滅していった。
その姿にかつての栄光はどこにも見られない。無残な死に様であった。

だからこそ、真祖の姫は思わず目を見開く。
クリスは悲観のあまりに涙を流しそうになる。
かけがえのない存在を失った者の瞳には燃え盛る闘志が宿る。

真祖の姫が空想具現化した鎖によってばらばらにされた愛馬グラニの最後を見届けたセイバーは、今度こそ剣を振り下ろした。


慟哭せし太陽の剣グ  ラ  ム!」


 話は昼前にさかのぼる。
昨晩アインツベルンの城から脱出したセイバーが最も危惧したのは真祖の姫の存在だった。
アーチャーはランサーと戦う必要があるため、もし同時に襲来してくる場合には戦う事になるのは当然自分の方だとセイバーは確信していた。
だが、方法がなかった。真祖の姫すら倒しうるすべがシグルズにはないのだ。

では、シグルズにはない場所に求めればいいのではないだろうか?
そう思い至ってセイバーはアーチャーに相談し、竜破壊の剣や黄金剣の原典たる原罪、メロダックをじっくりと観察した。
メロダックとグラムを長時間比較する事でセイバーはようやくグラムの中に残るわずかな存在を探り当てた。

それがグラムがレギンの手で竜破壊の剣として生まれ変わる前の姿。
シグルズの父シグムンドが振るっていた王を選定するために大樹に突き刺さっていた剣だった。
その別名、太陽剣。

太陽剣と竜破壊の剣は神秘そのものには大きな違いがあるものの、実際には威力の面では心もとない。
何しろシグムンドの終幕自体オーディンの振るう大神宣言、グングニルによってグラムを砕かれている。
普通に考えれば竜を打倒してのけた竜破壊の剣グラムの方がいいようにも思われる。

しかし、太陽剣は黄金剣同様に王者の剣である。
振るわれる神秘は星の光。それもグラムは主神によってもたらされた太陽の光を帯びている。
恒星の光はその周囲の軌道を描く惑星や衛星の干渉を抑えつけ、真祖の姫の回復を許さない――。

「セイバー……」
クリスはしかしその光景にいい意味でも悪い意味でも感動していた。

 『馳せる孤高の天馬スレイプニル』の発動で身動きせずに離脱を可能にしたのは分かる。
そうしなければいかにセイバーでもランサー戦の二の舞になっていたのだから、苦渋の選択だったのも分かる。
だが……愛馬グラニまで犠牲にしてまでセイバーは一撃を放ってくれた。
その事実がとても嬉しくあり、とても悲しくもあった。

 真祖の姫は星の光を受けて胴を大きく切り裂かれていた。
しかも太陽のエネルギーが残っており、回復が出来ない。一から再生するのにも邪魔があって難しい。
この時初めて真祖の姫は負傷を持った。

対するセイバーは魔力が根こそぎ持っていかれる急激な脱力感に襲われた。
対象がたった一体だけだった竜破壊の剣と違い太陽剣は星の光。その分消費魔力は高い。
魔力が高いとはあまりいえないセイバーにとってはその一撃だけでも疲労には十分だった。

「だが……っ!」
あと一撃、あと一撃さえ直撃させればさしもの真祖の姫だろうと倒せる。
いきりたったセイバーは力強いままで剣先を真祖の姫の方へと向け、再び振りかぶった。

己の主は勝てと命令した。
ならば神だろうと世界そのものだろうと勝ってみせる。
それを成し遂げてこその英雄なのだから。

だからセイバーは己の限界を超えて剣に魔力を集中させていく。
放てばそれ以上世界に留まるのが不可能に近くなってしまう最後の一手。
セイバーは未練も躊躇も一切なかった。

太陽の光よ、小さく誇り高き主に輝きを――、

「セイバー! 今すぐこっちに戻って!」

不意に耳に入ってきたのはその小さき主の澄んだ声だった。
令呪こそ発動しなかったものの言葉に鋭い意思を感じ取ったセイバーは、ためらいなくそちらへと走り出した。
疾走に邪魔な鎧も剣も全てを捨てて、駆けつける。

クリスのそばに安置されている聖杯は今までにないほど満ち溢れていた。
アインツベルンの者はおろか、第三は目指していない遠坂の者達も魅了される。
それは以前クリス自身が目にしたサタナとニムエ、二人の湖の貴婦人による奇跡とはまた違ったものがあった。

かつてアインツベルンの始祖が願ったもの、この聖杯戦争を始めた者達が願ったもの、その集大成がそこにはある。

ライダー、バーサーカー、アサシン、キャスター、前セイバー、ランサー、アーチャー。
全てで七体のサーヴァント、英霊が聖杯を満たしていた。
万能の釜の器に、中身が。

宝具で大きく傷ついた真祖の姫は器に七体の英霊が満たされた事で眼前で行われる儀式がただ事ではないと気付いた。
五体が満たされていた時は全く気にしていなかった。別に「」に挑もうとする行為そのものは知った事ではない。
が、今となってはアレの性質を無視することなど出来るはずもなかった。

魂を浄化されれば、ミハイル・ロア・バルダムヨォンは文字通り消滅する。
ならば、その親である真祖の姫はどうなる? 指をくわえていればロアへの断罪は終わるのか?

冗談ではなかった。
そんな事はさせはしない。死徒二十七祖だろうと埋葬機関だろうと英霊だろうと魔法使いだろうと。
ロアを殺すのはこの私、アルクェイド・ブリュンスタッドに他ならない――!

真祖の姫の瞳が初めて黄金に輝いた。
途端に存在感は辺りを支配し、圧倒する。
鮮血で服を、身体を、大地を染めながら真祖の姫は飛び出した。

それは数多くの英霊をその目で見てきた魔術師達が今まで見たこともなかったほどの速度。
正に瞬間移動と形容すればふさわしいのではと思いたくなるほどだった。
狂気に彩られながらもなお美しさが絶えないのが更に恐ろしさを倍増させていた。

 クリスが、憐が、瑪瑙がヨハンがジェイナが、そしてディートが。
皆が瞬きせずに見守る中、二人は行動に移る。

セイバーは聖杯で主の願いをかなえるべく手を伸ばす。
真祖の姫は聖杯を破壊しロアを殺すべく手を振るう。
二人の行動はまったくの同時だった。

そうして聖杯に手を触れたのは――、





   /一年後

 一つ外に出れば凍てついた吹雪が舞う極寒の地。
眼下に広がる森林は春の到来など訪れないと悟ったかのように永遠のような眠りについている。
野生動物たちも自然の恵みより厳しさを与えられ続ける。
何もかもの存在を許しはしない白銀の世界の中、歩む者がいた。

 防寒具に身を包んで体格に不相応な大荷物を抱えた者達は深い雪を踏みしめて一歩、また一歩進んでいく。
二つの足跡とそりのレール跡は猛吹雪の前に一分も経たずにかき消されていく。
一メートル先の視界も把握できない状況の中、二人は道順を謝る事無く進んでいた。

二人は終始無言のままだった。
猛吹雪の前では些細な会話すら体力を奪うものではあるが、この二人はそうでなくとも会話一つしなかっただろう。
なぜなら、そんな必要が一切ないから。

「…………っ!」
風の吹き荒れる音しか入ってこなかった耳に久しく聞かなかった物音が入った。
二人のうちの一人が視線だけを向けて、魔術を用いて視力を強化して状況を把握する。

少女が逃げ惑っていた。
この極寒の地で身に着けている衣服は布きれ一枚だけ。
それが少女自身の鮮血と銀色の髪で鮮やかに彩られていた。

ガーネットの色をした瞳は絶望で染まり、すぐに凍ってしまう涙が流れている。
絶えず速いペースで吐く白い息は直後には後ろに流れる。
必死になって動かす手と脚はまるで壊れた人形のように跳ね回っているようにも見えた。

そんな彼女に、大きな影が群がる。
この冬の森で腹をすかせた肉食動物達。彼らが無力な少女に容赦なく爪を牙をつき立てる。
生命を振り絞って発する絶叫も森と雪と風に全て吸収され、少女は彼らの生きる糧となった。

二人は一部始終を把握しておきながら様子も進行方向も全く変えなかった。
例え全速力で駆けつけたとしても、この環境では間に合わなかった事は明白だった。
それにもし助けたとしても、少女に未来はあったのだろうか?

冬の森を行進する者たちはその出来事を事実として受け止めるだけであった。


 やがてその者達の前に巨大な建造物が姿を現した。
この極寒の地という遮断された環境にそびえ立つ城は、その世界同様に冷たいものだった。
来訪者の一人には門がゆっくりと開かれる音すら背筋が凍るような気がしてならなかった。

城の扉がゆっくりと閉められ、来訪者達は侍女服を着込んだたった一人の者の出迎えを受けた。
その者は来訪者に対して慇懃に頭を下げる。

「お帰りなさいませ。当主様がお待ちになられております」
彼女はそれだけを述べるとそのまま立ち去っていった。
最低限の礼儀しか示さない侍女の有様にも来訪者は心動く事はなかった。

 来訪者達は謁見の前に身支度を整える事となり、部屋に通される。
この城には幾十人もの侍女がいるはずだったが、来訪者達に付けられた者は一人もいない。
いるにはいるのだが身支度の手伝いをするよう命令はされていないらしく、ただ来訪者たちの準備が整うのを待っているようだった。

防寒具を脱いだ来訪者達は身分相応の格好に着替えてゆく。
一人は白いドレス、二人は侍女服に。
二人の侍女は着てきた防寒具を丁寧に荷物の中にしまっていき、布で塗れた荷物を丁寧に手入れする。

長旅を終えたばかりの三人だったが、食事も休息も与えられずに謁見となった。
うち一人の従者は自分の主人に手を回して彼女を支えていた。
主人は足取りも弱々しくおぼつかない様子だったが、ガーネットに輝く瞳だけは静かでゆるぎなかった。

 そうして、一室の扉が開け放たれる。

来訪者達を待ち受けていたのは当主と呼ばれているものばかりでなく城に滞在する魔術師の面々。
彼らの恐ろしいほどに冷めた眼差しが来訪者達を射抜く。
彼らは輪のように作られた円卓で座っており、来訪者達はその中央の空間に歩み出る。

そうしてひざまずこうとして、主人が力なく倒れそうになった。
従者はいたって冷静に主人を支え、仕切りなおしとなる。
三人は恭しく頭を下げた。

「当主様、そしてアインツベルンの皆々様。ただいま冬木の地より帰還して参りました」
そして二人の従者の主、クリスティーナ・フォン・アインツベルンが言葉を発した。
しかしその場の誰もがその発言を聞かなかったかのように反応を示さない。

「……ふむ」
しばらくの沈黙が流れた後にようやく当主、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンがうなる。
彼はこの場にいる誰よりも冷淡な眼光でクリスを見つめていた。

「極東の地で行われた聖杯戦争よりの帰還、ご苦労であった。『クリスティーナ』よ」
「もったいないお言葉です」
クリスのそばで控える侍女、ヨハンナはユーブスタクハイトことアハトの変容を冷めた感情で受け止めた。

クリスがセイバーを召喚してつき従う侍女を選定してから、アハトたちはクリスの事を別の名で呼んでいた。
『フィール』がついた、聖杯を成就させるのにふさわしい名を。
それが元の名、『クリスティーナ』に戻った事が意味するものは――。
最もヨハンナやもう一人の侍女、ジェニファーらは本人たっての希望でクリスティーナのままで接していたが。

「では早速此度の儀式について報告せよ」
「お望みのままに」
狂わしい光を瞳に宿しながら、アハトは厳めしく命令を下す。
クリスは頭を垂れたままよどみなく返答する。

 そうしてクリスは語りだした。
彼女達が経験した冬木の第二次聖杯戦争を。

 なるべく要点だけを詳しく伝えるために冬木の地にたどり着いてから話す事にした。
聖杯戦争前行動、ディートの変質と変貌、アーチャーと真木憐、敵対するマキリの暗躍、前回の聖杯戦争、柳洞寺の決戦。
再びマキリの暗躍、そして二人の湖の貴婦人による奇跡の成就。

「まさか、そのような事が――」
「私は事実を申し上げているだけです。判断はお任せいたします」
第三の一端である死者蘇生の体現を聞かされ、アハトを含めたアインツベルンの面々に動揺が広がる。

 自分達が目指していた秘技が神代の神官、精霊によって実演されたのだ。
気の長くなるほどの放浪の果てに至ったアインツベルンにとってはそれだけでも十分に驚愕に値するものだった。
そうしてその奇跡を耳に入れてアインツベルンが目指した方向は、決してクリス達にとって喜ばしいものではなかった。

「――聖杯戦争とは杯を満たすだけのサーヴァントの降霊の儀式とばかり受け止めていたが、英霊そのものが奇跡を体現している場合もあるのか」
「次はただ高名な英霊ではなく、もっと別の形で選定を行うべきでしょう」
「ならば早速聖杯戦争の枠が許す限りで選ばなければ」
「いっその事、器の担い手も始めからそのように創作すべきでは?」
にわかに騒ぎ出す老魔術師達。
頭を下げたままだったヨハンはあまりの展開に思わず顔をしかめたくなったがこらえた。
ではクリスはどう思っているのか、と視線だけをクリスにずらして、思わず行動に移っていた。

「お嬢様……!」
クリスは力なく倒れかけていた。
顔面は蒼白、ヨハンが抱えた彼女の体重は羽のように軽い。
それでもクリスは強い眼差しでヨハンを制する。

「だい……じょうぶよ。まだいけるわ」
「お嬢様、ここから先は私が説明いたします。どうかお休みください」
「いえ、これは……私が説明しなくてはならないわ。それが『聖杯』を成就させるために生まれてきた私のけじめなのだから」
クリスはヨハンの腕を振り払い、ひざまずいた体勢に戻る。
あまりに弱々しくて腕力に自信のないヨハンでも容易に制止はできたが、ヨハンがそれをする事はなかった。

そんなクリスの様子をアハトたちは全く気にかけない。
しばらくしてようやく彼女らに意識を戻したほどだった。
先程までの決定的にどこかが違った議論の白熱はなりをひそめ、城の外同様に凍てついた空気に戻っていく。

「続けよ、クリスティーナ」
「御意」
アハトの最低限の命令にクリスは再び淀みなく答えた。
彼女もまた先程の様子を全く面に出していなかった。

 クリスは続けざまに残った出来事を語った。 アインツベルン城の攻防、真祖の姫の来訪、遠坂邸での決戦。
そして、聖杯の成就。

「セイバーを除き前セイバーを含めた合計七体のサーヴァントが器を満たし、聖杯は成就いたしました」
クリスの語ったアハトたちが抱くアインツベルンの悲願、妄執が果たされた事実を前にしても空気は重かった。
その場にいる魔術師の誰もが今の言葉を黙殺し、クリスたちを見据えていた。

「して、その聖杯はどうなった」
茶番だ、ヨハンは心底から呆れ果てた。

交通機関が発達してきたとはいえ、未だに極東の地から冬の城までの旅は軽く数ヶ月を要する。
当然その間に冬木のセカンドオーナーであり第二次聖杯戦争の監督役でもある遠坂瑪瑙によって結果の報告はもたらされた。
過程はなく結果と事後の簡潔な報告だけであったが、アインツベルンにとっては此度の聖杯戦争についてはそれで十分だった。
無論幾人かを派遣してそれが事実であるとも突き止めた。

つまり、今クリスが報告した過程を含めれば目の前の魔術師達は全てを知っている。
知っていたからこそ今の態度を示しているのだろうし、次回の事も考え始めている。
だから茶番。決まった線路しか走れない鉄道のようなものだった。

「ここに」
クリスの言葉を受けてジェイナが持参してきた荷物を紐解く。
厳重に包まれたそれをジェイナはクリスの前に出し、クリスは自分の前へと献上する。

「……これが此度の結果か、クリスティーナ」
「はい」
アハトは瞳に宿る憤怒を隠そうともしないし言葉の端々に宿る刺々しさをむしろ際立たせていた。
彼の態度がアインツベルンの者が皆現在抱く感情そのものを示していた。
クリスはそれでもなお静かに言葉を並べる。

アハトに献上された聖杯は破壊されていた。
四つの線が荒々しく走って引き裂かれていた。
まるで山脈すら両断するほどの力でこうなったのではないかと思うほどに無残な有様だった。

当然、七体ものサーヴァントに満ち溢れている様子もない。
そして彼らの帰還の後に生じる『穴』も確認できない。
もはやそれは聖杯でもなんでもない。ただの残骸であった。


「此度の聖杯は真祖の姫、アルクェイド・ブリュンスタッドの手で破壊されました」




to the last stage……


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 予定通りの内容の消化で終了。15日目朝の風景も入れても良かったのですが、蛇足っぽかったのでやめました。
そうしてまたしても裏話でも。

 アーチャーを士郎にしたのは第二プロットでの事です。実は時期で言えば第一話を書いていた辺り。
Fateは衛宮士郎の話であると思っていたので、ではサーヴァントとして参加させようと至ったのでした。
問題はどのような行程を経て至った存在にするか、でしたが原作アーチャーのパートナーは凛だと確信していたので止めました。
この話はディートを始めとしたアインツベルンと密接に関わる話になる予定だったので、それなら捏造してしまおうと。
その結果生まれたのが『イリヤよりのセイバールートを経験した存在』になったわけです。

 ベースは当然士郎なのですが、若干原作アーチャーが入っています。
どのような場面でアーチャーらしさを出したかはあえて語りません。うまく表現できていれば嬉しかったのですが、難しい。
さて、実は第46話を書いていた時点ではアーチャーがアルクェイドと争って聖杯に手を伸ばすと考えていました。
……書いていたら状況がそれを許さなくなっただけなのですが、個人的にはそれでも良かったかなと思います。
言いたい事は次だけ。誰か、イリヤルートに光を……っ。

 ちなみにこの物語を書きたいと思い至った理由は、モードレッドにも手をとか、アインツベルンを詳しく書きたかったとか大層なものではありませんでした。
ただFateの世界感を生かして何かを書きたかった。それだけです。なのでFate原作が拭いきれないっぽい登場人物がいたりしたわけです。
それがこれだけ肉付けされたのは自分でも驚くしかありません。執筆って凄いや。

 では、最後の幕でお会いいたしましょう。
  2008年4月25日


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