/11日目・interlude

「……静かだなぁ。つまらないなぁ。暇つぶしができないなぁ」
眠りについた冬木の街、その中でシェラザードはただ一人その光景を眺めていた。
嘆く相手もいない。彼にはただそれだけしか時間を潰す手段がなかったりする。

その場所では英霊と呼ばれる存在が何人も集い、そして戦いを繰り広げている。
長くを生きたシェラザードですら見たこともないほど壮絶な光景。
他の二十七祖であればその光景に感動や感銘を覚えたかもしれないが、目的のためにやってきたシェラザードにとっては暇つぶしの材料に過ぎなかった。
シェラザードは溜め息を深くもらした。

「わざわざ苦手な日中を克服したって……これじゃあ退屈だよぉ……」
今度はまた新たな英雄と魔術師が現れた。
拮抗していた戦いにこれで終止符が打たれて、新たなる戦いの幕開けになるだろう。
それでもやっぱり心が躍る事はなかった。

「面倒くさいや。僕はもう寝るから後よろしく」
丸投げ決定。その事実にシェラザードの後ろにいた人物は酷く驚くしかなかった。
手をひらひらさせながら立ち去ろうとするシェラザードを、その人物は肩を掴んで止める。

「随分と虫のいい話ですね。貴方はこの戦いに不正を犯してまで介入しておきながら、静観すらせずに時を過ごそうというのですか?」
「静観すらせずにって……だから君と言う存在をこの場に残しておくんじゃないか」
「そういう問題じゃありません!」
しれっと言い放つシェラザードにその人物はかぶりをきった。

「なぜ貴方がわたしを呼び出したのかは分かりませんし、知りたいとも思いません。ですが死徒である貴方はわたしの敵です。
 その敵を懐柔するからには貴方からも算段を示してもらいたいのですがね」
その人物はシェラザードに容赦ない殺意を漲らせて手に力を込める。
シェラザードはその手をいともあっさりと振り解くと、いかにも面倒くさげにため息をもらした。

「君を呼び出す事が出来たのはあそこにいる大和撫子のおかげさ」
「はあ?」
「彼女が枠の中にいた人物に別の枠を与え、元々いた存在を葬ろうとしたからこそ君がこうしてこの場にいる」
シェラザードが指差す方向はずっと彼らが眺めている英雄が集いし光景。
その人物は胡散臭げに眉をひそめた。

「じゃあ何で君をそんな形で呼び出したか、そんなの決まってるじゃないか。せっかくこの地に便利な機能があるんだから、それを利用しない手はないってね」
「ぐ……!」
「君には足止めをしてもらいたいんだよ。あの娘達が思った以上にがんばってるから覚醒が遅い遅い……。
 もし姫君より先に厄介な連中に来られたらたまらない。だからこそ、君が必要なんだ」
シェラザードは天使よりも無邪気な笑みを浮かべてその人物の肩を励ますように叩く。
だが悪魔も同じようにして人を誘惑するものだ。
その人物は無念をただ拳を握り締める形でしか表せなかった。

「アレさえなければ貴方を真っ先に断罪していたものを……!」
「便利だよねぇアレ。参加しなかったのはちょっと残念だったかもねー。手駒としては十分に使える」
「……っっ!」
拳を、腕を震わせて殺意を瞳に込めるその人物だったが、それ以上の事はしなかった。いや、できなかった。
それを嘲笑いもせずにシェラザードはねぎらうだけだった。

「それに君さ、彼とは浅からぬ因縁だろう? 関わっても損はないと思うけどなぁ」
「……それはわたしが決めます。貴方に押し付けられるいわれはない」
「おお怖い怖い。それじゃあ僕は失礼するから逐一見ててね。彼女が殺されそうになったらちゃんと助けるんだよ。ほどほどにね」
大げさに身振りを踏まえて、シェラザードはその光景に背を向ける。
その人物はやるせない気持ちを押さえつけ、シェラザードには目もくれずにその光景を眺める。

「それじゃあね、期待してるよ」

最後まで笑顔をふりまきながら、シェラザードはその場から消え去った。
残されたその人物はとてつもなく深いため息をもらすしかなかった。
思わず体から力が抜け、ひざをつく。

「……結局、いついかなる時代になろうとも……わたし達は翻弄されるだけなのでしょうか」
その人物の視線はその光景の中にいるたった一人の少女にそそがれていた。
それは親友に出会った懐かしさなのか、宿命の敵に出会った喜びなのか。それは誰にも分からない事だった。

「目的が手段となった貴方はどうなのですか、ロア」

interlude out

Fate/the midnight saga(仮)

第42話


   /11日目

風が吹きすさぶ。突き刺すほどの凍てつくそれが体温を奪っていく。
それなのに、僕の身体も心も、彼を一目見ただけで赤銅の炎を燃やしたかのように熱くなる。
その下手人、トオサカソウマは頭にくるほどわざとらしく、紳士的に一礼する。

「まずは、この地を管理する遠坂のはしくれとして君たちの健闘に賛辞をおくろう」
その動きには非の打ちどころのないほど一切の無駄もない、完璧なものだった。
顔には卑屈なほどの微笑を貼り付け、物腰には緊張のかけらもなかった。

「大陸の軍師だったライダーはそこの前セイバーに切り伏せられ、神代の怪物だったバーサーカーはそこのアーチャーによって退治された。
 そして死してもなお残る浅ましい前キャスターはオレのライダーが葬っておいた」
「消えなさい。三流な解説は場を見苦しくするだけよ」
「つまり、今回参加した七人の英雄、そして前回から生き残った二人の英雄。その生き残りが全てこの場にそろっているわけだ」
侮蔑しかないお嬢様の言葉を完璧に無視しつつ、彼は眼下を見下ろした。
戦場としての場の雰囲気を一方的に無視した優雅さは、ある意味で独裁的だ。

……言われてみればこの場所に集まる英霊は六人、生き残ってる全員だ。
でもそれだけ。まだ六人も残ってる。本来七人で始まった聖杯戦争で脱落者が少ない事を意味する。
一体それがどうしたって言うんだ。

「戦争開始から11日も経過した。だが未だにこれだけの英霊が生き残っているのだから、今回は接戦と言ってもいいんだろうな。
 だが、この聖杯戦争は主催者権限によって終了とさせていただく」
『はあ?』
間抜けな声を上げたのは僕だけではなかった。お嬢様やキャスターはともかく、前セイバーまでもが呆れ顔だった。

「ソウマ、ついにゴランシン?」
「遠坂の者が戯言をしゃべろうが私はかまわないんだけれど……」
キャスターもお嬢様もソウマを小ばかにした発言をする。
でも……表情はそうでも眼は笑ってない。逆にこの地では考え付かないほどに冷たい眼差しだった。

管理者権限も何もない。
遠坂の当主はメノウに変わっているし、そもそも遠坂の一存で聖杯戦争の取り止めができるはずがない。
ソウマの言葉は見当違いもいい所だ。

「セイバー、目障りなランサーからつぶしちゃって」
「了解」
お嬢様は溜息混じりに命令一つ。されどセイバーの動きは倦怠感とは全く関係なくランサーの首に迫る。
ランサーは槍どころか構え一つもとっていない。ソウマも全く動く気配がない。反応すら見せない。
何の抵抗もなしにセイバーはランサーの首を刈り取る……と思っていた。

しゃらんと、金属がなる音が聞こえた。

その直前、ランサーは腕を無造作に上げる。剣を受け止めるしぐさでもなく、相手を突き飛ばすしぐさでもない。
ただ、ランサーの籠手が分解しただけだった。
一つ一つの部分は形を、意味を変えていき、それらは鎖となってセイバーの振り切ろうとした腕を拘束ていく。

「ぬ……ぐ……っ!」
セイバーは歯を食いしばって強引に引きちぎろうとするけれど、びくともしないどころか逆に食い込んでいくようにも見えた。
それに誰よりも驚くのはお嬢様か、セイバー本人か。

「信じられない……」
思わず僕は声を上げる。

セイバーの腕力はそれこそ神秘を必要とせずとも竜を一刀両断できるほどに力強い。
僕から見れば、セイバーを拘束している鎖はごく一般的なものとしか分からない。
それこそパスタをちぎるのと同じ手間で対処できるはずなのに。

「さすがは不死身で通ったジークフリート。逸話にたがわず防御力も凄まじい、か」
感嘆の声は漏らすものの、あくまで自信を崩さずにソウマは肩をすくめるしぐさをする。
なおもランサーの鎖はセイバーを締め付けていき、いつしかそれは全身までも拘束しようとして、

弾ける音と共にばらばらになった。

いぶかしげに眉をひそめるランサー、かろうじて間合いを離してお嬢様のそばに立つセイバー。
鎖がばらばらになったのはセイバーが引きちぎったからじゃなくて、アーチャーが狙撃をしたおかげだった。
あまりの俊敏な動作で矢を射、一秒満たないで全ての拘束を破ったのだ。
しかも宝具じゃなく、単純に鉄製の矢でだ。

「なんでセイバーで破れなかったものがあんな簡単に?」
キャスターは首をかしげて考え込むけど、その疑問は最もだと思う。僕も正直意味不明だ。

「……一瞬で本質を見抜いたのか。思った以上に鑑定力があるようだな」
一方のランサーは関心を示した上で手をかざして、破壊された鎖を魔力に還元する。
さすがに破壊された鎖がまた元の鎧に戻る事はなかったか。

「そうあわてなくてもいい、アインツベルンの魔術師。どうせこの先の運命など決まっている」
ソウマは自己陶酔しているみたいに全員を指し示し、また一礼した。
その顔に不敵な笑みを張りつかせながら。

「そう、おまえたちの全滅をもって終幕とさせていただく」

彼は、やる気だ。
ソウマは五人の英霊を前にしても勝利を確信しているように、無造作に片方の腕を突き出した。

「令呪をもって命ずる。全力をもって目の前の者達を殲滅せよ!」

ソウマの袖に隠れた腕が光り輝く。令呪の発動は緊迫したこの場に新たな緊張をもたらす。
ランサーが使う戦法は大量の宝具で敵を殲滅するもの。
その手口、今回こそ暴かないとやられるのはこっちだ。

ランサーは胸に手を当て、何かをつかむようなしぐさを取る。
いや、何かじゃなくてまるで自分自身をつかむみたいだ。


王の書板トゥプシマティ


ついに真の名を解き放ったその瞬間、ランサーの身体から鎧が脱ぎさられる。
そして、その変化は起こった。

ランサーの身体にひびが入っていく。今まで隠していた嘘偽りがはがれていくように、その巨体が巨体でなくなっていく。
剥がれ落ちる彼の肉体だったもの。風の影響でそれを確認する事ができたけれど、土になっていた。
かつてのランサーが影も形もなくなった時、その人物は姿を現した。

その黄金の髪は女性のように繊細で波うち、青年のようなその身体は力強く雄々しい。
鎧は一切なく、さっきまでの鎧が全て武器へと変化して装備されている。そのどれもが同じ在り方でありながら、神々しい。
だが問題はそんな程度じゃなくて、彼のあり方だった。

恐ろしい、と思わず頭によぎる。
何しろ彼の在り方は絶対に今の人間、いや、これから召喚されるだろう英霊を含めたって真似できないものだし、同じ在り方のはないだろう。
連想できる単語なんてない。彼を表現する言葉が全く思いつかなかった。
横をふと見たらお嬢様も同じだったようだ。

「僕は、戦いを恐れる」

宝石よりも深い真紅の双眸がこちらを見据える。

「僕は、戦いを共にする」

静かに、作り物のような手が背後の空間に伸びる。

「ゆえに戦いに倒れるものよ、祝福されよ」

そして彼は何かを差し込んで捻る動作を見せる。


「“王の財宝ゲート・オブ・バビロン”」


背後の空間がまるで湖の波紋ができていくように歪む。それも数個じゃなく、数多もの波紋が広がっていく。
そして数多の波紋の中央から、忽然とそれらが姿を現す。
それはランサーの背後を埋め尽くす勢いで次々と出現していく。

剣がある、槍がある、斧がある、鎌がある。
どれもが全て異色の存在感を放ち、場を支配しそうなほどの魔力にどれもが満ちていた。
それらは全てが宝具。僕がいえるのは、そのどれもが一級の品々ばかりな事だけだ。

唯一つも同じものはなく、装飾がほどこされた豪華絢爛なものからたった一つの機能のために生み出された味気ないものまである。
その数……およそ20。

「こ……これほどだなんて……」
「……」
キャスターやセイバーら、歴戦の英霊達もそれには眼を奪われるだけだった。
英雄の象徴とも言うべき宝具をこれだけ大量に所有する者。そんな話は聞いた事もない。
ありとあらゆる神話や伝説を学んで敵の特定をできるようにしたお嬢様も全く同じ思いのようだった。

ランサーが触れもしないで空間がぶれると、それらは一斉に射出される。
まるでただの矢のような扱い、されどその威力は桁違いの投擲。
ただ飛ぶだけで炎を発するものもある。呪いを撒き散らすものもある。
その全てがそれぞれの真価を発揮しようとこの場にいる全員に襲い掛かってきた。

「アオイ! 私の背後に!」
「私の後ろに早く!」
とっさに立ちはだかったのは二人のセイバー。
神秘がより強い神秘に打ち砕かれるんだから、僕らやキャスターの防御魔術は一切通用しない。
そうは言っても、こんな大量の宝具を僕らをかばいながら捌ききれるのか――、

「「うおおおっ!」」

二人の英霊は次々と飛来する宝具を最小限なだけ切り払っていく。
当たりそうで当たらないものの中でも囮と思われるものは捨て置く。
効力が無視できそうにないものは見逃さずに対処していき、彼らの周りに散らばっていく。
キャスターとサタナもまた黙って見ているわけじゃない。
魔術そのもので宝具が防げなくても、ある程度威力を弱める程度ならできる。

4人の英霊はランサーが放つ宝具の大軍に対処できていた。
そして手の空いた英霊、アーチャーの弓が宝具を抜けてランサーに向かっていく。

流星のような射撃はランサーの槍によって次々と叩き落されていった。
キャスターと戦っていた時に見た彼とは一味も二味も違った。
あの時は剣の英霊を見ていなかったから思わず見惚れたけれど、今こうしていると彼から感じられる最も強い印象が一つ。
速さでも技術でもなく、力強さだった。

「その可能性を示してくれ。いずれ竜退治を成し遂げたものよ」

猛々しいなぎ払いと共に矢を一掃、その隙を縫ってランサーは背後の空間から射出せずに一つの物を取り出した。
それは名剣と呼んだ方がいいかもしれない。何の変哲もない、一級品にふさわしいながらもそれ自身には逸話はないと思う。
でも何なんだろう、この違和感は。何か決定的な勘違いを犯している、そんな気がした。

ランサーの身体が勢いよく捻られる。それをまるで投槍をするための構え。
間違いない。ランサーは空間から射出したんじゃない。ああやって自分の力だけで宝具を投げて、お嬢様を――!

「“蒼岬猟竜ネイリング”」
「――是、蒼岬猟竜ネイリング!」

「きゃ……っ!」
無意識に耳を覆ってしまうほどの炸裂音が響く。閃光が奔って視界が白くなる。さっきまでとは打って変わった熱風が吹き荒れる。
僕に分かったのはたった一点だけだった。
それはランサーの投げた剣に何かがぶつかった、という事だ。

「……感謝します、アーチャー」
ランサーの剣が向かっていった先にいた前セイバーは僕らの横にいたアーチャーに軽く礼をすると、再び宝具の撃墜にとりかかった。
アーチャーもそれに言葉でこそ答えなかったけれど、不敵な笑みで返した。
僕とお嬢様は顔を見合わせる。

「今のは……」
「ネイリング、この前アーチャーが私に使ってきたフルンディングと一緒に、ゲルマンの英雄ベオウルフが使ってた宝具ね。
 でもネイリングそのものは竜殺しを成し遂げたわけじゃないはずだけど……役立たずだったフルンディングがああまで強いんじゃあ分からないけれども」
そう、確かベオウルフは巨人退治や竜殺しを成し遂げた英雄だ。
彼の特徴としては宝具の強さよりも自信の強さで敵を打ち破ってきた印象が拭いきれない。
その英雄叙事詩は今もなお人々に語り継がれている。
でも、何でそれを前セイバーに使おうとしたんだろうか。

一方、それを防がれたランサーは空間からの射出は続行するけれど、その眼を紅蓮に輝かせてアーチャーのみを見つめていた。
端整な顔に憤怒の色が宿り始める。

贋作者フェイカー、お前は――」

再びランサーの背後の空間が歪む。
波紋を立てて出現した宝具の数、実に……実に……、

「ひゃ……百を超えてる……?」
「これらの宝物は、お前が手をかけていい代物ではない!」
呆気に取られるのも束の間。もはや一つ一つが神秘を秘めた宝具の大半がアーチャーに向かって降り注いでいく。
セイバーは自分とお嬢様や僕の事が手一杯で守りにいけない。前セイバーたちが守ってくれるとは思えない。
キャスターのとっさの防御魔術も難なく突き破って、それぞれがアーチャーへと必殺の牙をむく。


「――全工程完了セット……ッ、 全投影連続層写ソードバレルフルオープン……!」


ライダーの背後から飛来する宝具と、アーチャーが射出していく宝具。それぞれがぶつかり合っていく。
凄まじい爆音でありながらまるで音楽を聴いているかのような調和がある。
剣群はそれぞれ同じものがぶつかっていき、同じように砕け散っていく。

「目には目を、歯には歯を、ってね。まだこの時代じゃあハンムラビ法典は明らかにされてないけどな!」
「小賢しい真似を……っ。でもそれがどこまで続けられる!」
続けざまに放たれる両方からの宝具。
10,20,30といった宝具が次々とぶつかり合って破壊されていく。

ランサーとアーチャーの戦いはどっちもが時間との戦いだ。
アーチャーは昨日魔力が枯渇寸前までに失われていた。昨日今日で回復できる量じゃないはずだから、無茶は出来ない。
ランサーの方が圧倒的に有利だけれどこの状況は令呪で作ったもの。効果が切れればこれだけの事はできないはず。
戦いはあくまで攻めているのはランサーの方。それでもこの戦い、持久戦になる。

他の英霊がいなければの話だけれども。

「今よセイバー、やってしまいなさい」
お嬢様の命令でセイバーはうなづいて、大きく構えをとった。

ランサーの攻撃がアーチャーに集中するおかげで両方のセイバーにはゆとりが生まれてる。
接近戦しかできない前セイバーはアオイを守らなきゃいけないけれど、セイバーならこの距離でも十分にランサーをしとめられる。
セイバーはランサーにも劣らない殺気を漲らせた。

「我がマスターに刃を向けし罪、貴様の命であがなってもらうぞ、ランサー!」
恫喝すると、セイバーは、


馳せる竜破壊の聖剣グ  ラ  ム!」


破壊剣を一閃させた。

幻想種最高の存在ですらしとめてみせるシグルズの究極の宝具、それは下手人を切り裂かんと空間を乖離していく。
一方のランサーはそれに反応を示し、武装してあった武器に触れる。
しゃらん、と音をたててそれは鎖へと形を変えて、更にその鎖はランサーを守る盾となった。


神人繋留し天の鎖エルキドゥ


そして、その真の名がつぶやかれた。

エルキドゥ、トゥプシマティ。共に一切知らない名前。
だけどそれらはあまりに神秘性が高くて、あまりに今の僕たちにとっては絶望的だった。
竜すらも一刀両断する破壊の剣は、ランサーの盾の前には苦もなく消滅するだけだった。

「う……そ……」
唖然とするしかなかった。
前セイバーですらその宝具を用いなければ相殺が出来ないほどの威力を誇る必殺の剣が、盾にヒビ一つ入れる事無く消え去るなんて。
それはお嬢様も、当のセイバーだって同じ事だった。

「“聴かざるは尊き神の声ミスティルテイン”」

そしてその隙はあまりに致命的だった。
ランサーが防御の直後に取り出した一つの槍は彼の手から投擲されて、セイバーの胴体に突き刺さっていった。
鎧も全く意味を成さずに砕けて、その隙間から鮮血が舞い散る。

「セ……セイバー!」
「え、ちょ……っ」

絶叫をあげるお嬢様はキャスターを押しのけて彼へと走りよっていく。
セイバーはお嬢様の前で力なく倒れていく。

「セイバー、セイバー……!」
「だい……じょうぶだ。急所は……外してある」
刺さった箇所は腹部。内蔵こそ傷めているだろうけど、肺や心臓には当たっていない。
とっさに回避行動を取れて、キャスターがほんの少し軌道を変えてくれたのが幸いだった。
なのに突き飛ばされたキャスターはふくれ面になるけれど、すぐ後には表情を深刻なものにする。

「ぐ……はあっ……!」
セイバーに止めをさそうと容赦なく降り注ぐ数多の魔剣、魔槍のたぐいはことごとくアーチャーが防いでくれている。
だけどそのアーチャーの表情は歯を食いしばっていて、とても苦しそうだった。
魔力切れよりもまるで何かに必死に耐えているような、そんな印象を抱かせるものだ。

「っ――工程完了ロールアウト。 是、王の財宝ゲート・オブ・バビロン……!」
「まだやるつもりか……っ。いい加減、倒れろ!」

アーチャーは必死になって全身を抑えて、ランサーは号令を飛ばして、それぞれ剣群を一斉に解き放っていく。
一進一退の攻防はなおも続いていく……と思った。

「…………っっ!」
「…………!」

突然お互いの剣群が止んだ。あまりに唐突だったから思わずランサーとアーチャーを見比べた。
そして、僕は息を飲む事しかできなかった。

アーチャーからは無数の剣が生えていた。身体の内側から彼自身を食い破るように、次々と生えていく。
彼はその激痛(だと思う)に悲鳴一つ漏らさないで、でも必死の形相で耐えていた。
その瞳はあくまで敵であるランサーを捉えて。

ランサーの方は一瞬後ろの方に首を向けて、無念に満ちて悔しそうな表情を見せる。
手を上げて下ろすと、用意されていた無数の宝具はまた波紋を立てて空間へと沈んでいく。
残ったのはたった一つの波紋だけ。それをランサーはすばやく手にとって、

「ランサー、覚悟!」
その隙に間合いを無くした前セイバーの剣を受け止めた。
たまらずランサーは手に取った剣を投げ捨てて、両手で槍を持つ。

「はああああっ!!」
セイバーの怒涛の攻撃はまさに嵐を髣髴とさせるような凄まじいものだった。

全てを押しつぶしそうな上から下への振り下ろし。
あらゆるものを一刀両断しそうなほどのなぎ払い。
何物にも穴を開けそうなほどの鋭い突き。

そのどれもにランサーはエルキドゥと呼んでいたものを変形して創った槍で対抗する。
その払いや突きは確かに前セイバーよりも力強く感じる。速度もセイバーに勝るとも劣らない。
けれど、武器の方が悲鳴をあげるようにかけらが飛び散っていく。

「かの有名な剣の英雄、これほどとは……!」
それに決定的だったのは、明らかに前セイバーの方が技量が上だった事だ。
ランサーは苦悶の表情を浮かべながら身体をひねって、渾身の一撃を前セイバーに放った。

鈍くて大きい金属音が鳴り響いた。
ランサーの攻撃に前セイバーは難なく対処して、槍の先に剣を当てた。そしてそれこそランサーの武器を大きく破断していく。
前セイバーは力で押し切るつもりなのか、踏み込みを強くしてランサーに迫る。

「だが僕を、舐めるなぁぁっ!」

ランサーはその怒声一喝と同時に、持ち手の片方を既に切断された方に持ち替えた。
次に本当に力任せに槍を回転させた。槍を引き裂く形の剣は槍に絡まって同じように回転してしまう。
それで前セイバーの手がねじられて剣から離れる、が多分理想なんだろう。

それを前セイバーはすばやく剣を引き抜くだけで絡め取られる事を逃れた。
前セイバーは何の表情も浮かべずに、ランサーは若干の驚きを表して、お互いの瞳を見つめている。
剣の騎士はそのまま剣を前に突き出す。

振りかぶるのと違って他の動作は一切いらない。
前セイバーの漆黒に染まった剣はランサーの喉もと向けて進んでいく。
ランサーの槍での対処は間違いなく間に合わない。ただ彼はそれを視線で追うだけだった。

彼の槍も、身体も、視線すら確かに動かなかった。
彼が動かしたのは、単純に口元だけだった。
絶好の機会をものにした時に見せるほんの僅かなものに過ぎないけれども、あれは確実に微笑だった。
敗北者ではなく、勝利者が見せるような――、

「!?」
真っ先に気づいたのは前セイバーだった。
彼女は突然剣先をランサーから外すと、身体をひねらせて剣を後方にふり抜く。
素人の僕から見てもあまりに無茶のある体勢。そんな状態でも剣に一切よどみがない。

鈍い金属音が響いて、前セイバーの剣に何かが弾かれて宙を舞う。
それはランサーがさっき取り出してとっさに投げ捨てた剣だった。
その間にランサーは自分の槍を鎖に還元、再び構築した時には元の槍に戻っていた。
アーチャーと同じで、ある意味武器が無限……!?

「いつの間にあんなものを投擲していたとは……!」
「安心するのはまだ早い。あの剣がいずれ見せる神秘はあんな程度ではない」
再び前セイバーとランサーは打ち合う。
一合、二合、魔力の光が鮮やかに輝く中でも二人の戦いは止まらない。
優勢劣勢もさっきまでと同じ。徐々にランサーの方が追いつめられていく。

「いけないセイバー! 早くその場を離れるんだ!」
突然僕の横にいたキャスターが大声を上げたので思わず驚いてしまう。
直後、前セイバーも何かを感じ取ったのか、攻勢だったのに間合いを広げようと飛び退く。

その時ようやく僕も気づく事が出来た。
前セイバーは弾いたはずの剣はまるで導かれるみたいに再び前セイバーに容赦なく牙をむく。
しかもそれと全く同時にランサーも渾身の突きを仕掛けてきた。

「フ……フルンディング……!」
「フ、フルンディング!」
フルンディングはさっきも思い浮かべたベオウルフの宝具だ。
まさかそれには追跡能力がある……!?

後退する前セイバーの体は明らかに不安定。
されど前セイバーは剣で英雄に上り詰めた存在、体を思いっきりねじってフルンディングを再びなぎ払う。
しかもその剣は衰えず、わずかに早くランサーの槍にも対処するような勢いだ。

「甘いぞ、セイバー!」
ランサーと前セイバーの武器がぶつかる。衝突の轟音が響く……と思ったらほとんど何の音もなかった。

ただ口を開けるしかない光景。
ランサーの槍は彼の一喝と同時に鎖に戻っていき、前セイバーの剣の柄、手、腕を固定していく。
ただ力任せにねじ伏せる。ランサーは全身の力だけで前セイバーの技を無力化してしまったのだ。

前セイバーが魔力放出でその鎖を引きちぎろうとする前に、ランサーは背後の空間から一振りの槍を取り出した。
それはゲイボルグやブリューナグとはまた違ったもの。その在り方は魔槍ではなくて聖槍。
そしてその正体は、

「さあ、いずれ聖人に使われ竜殺しを成し遂げる槍よ、その一端を示せ!」
竜殺しを成し遂げた、聖ゲオルギウスの槍――!

「“神託の十字ドラゴン・クロス”」

「英さん……!」
アオイが悲鳴をあげる。僕はただそれを見ているだけしか出来なかった。
何とか鎖を振り切って致命傷こそ逃れたけれど、腹部に深手を負って手で押さえている。

「ぐ……はあっ……!」
「アサシン、今すぐ回復を……!」
前セイバーは倒れた体を何とか反転させて立ち上がり、アオイはサタナに治療を促す。

「させん、“金剛杵ヴァジュラ”」
「! 大いなる水のはぐくみ……!」

だけどランサーの方が一歩上を進んでいた。
相手に回復させる隙すら与えないように新たな宝具を取り出して、思いっきりアサシンの方に投げつける。
それに気づいたサタナも大魔術で対抗するけれど、その宝具に触れた途端に水が爆発を起こしていく。

そして、思いっきりサタナに突き刺さった。

「あ……あああっ……!」
「か……雷を帯びた宝具……!」
雷をまとった宝具はサタナの体を痙攣させて、崩れ落とすには十分だった。
キャスターはそれを最後まで眺める事無く、左手をランサーの方に突き出して、右手を逆に向ける。

「くたばりな、ソウマ!」
たったそれだけの動作なのに彼女からあふれ出たのは膨大な魔力だった。
大魔術な『大いなる星の輝き』よりもその量は多い。こんなものを詠唱なしでどうやって……、
いや、もしかしたら魔力の流れで悟られないように詠唱を行っていた?


「尊き遥かなる星の煌き!」


キャスターの言葉で左と右の手に光の帯が生まれ、それは数え切れないほど多くの矢になってランサーとソウマに襲いかかる。
それはまるで話に聞く流星群を見ているようだった。
幻想的なほど心を震わせ、でもどこか儚い。もし夜だったなら感動のあまりに涙すら流したかもしれない。

「“貫き開く太陽の弾丸タスラム”……!」

それらをランサーは宝具で対抗する。
以前やった時にはキャスターの隊を壊滅させた光の弾丸は次々と光の矢を落としていく。
だけどそれをやられているキャスターには絶望など一切ない。

「まだまだ! 大いなる星の輝き!」

さっきまでの一斉射撃がなくなったのを見て一気に攻勢に出たのか。
キャスターの光は魔力が続く限りだけれど、ランサーの弾丸は有限なはず。
ならこの勝負もらっ……、

「そうはさせんぞ、キャスター!」
「……っ! ――投影トレース、 ……完了オフ……!」

とてつもない破壊音が僕の耳を襲う。
その直後に何か温かいものを感じる。
破壊音が宝具のぶつかり合う音、生暖かいものがキャスターの鮮血とミンチになった肉だと気づくのに数秒かかった。

それは高速で飛来してきた宝具がキャスターをまるで鞠のように吹っ飛ばした結果だった。
その腹部は内臓が見えるほど大きくえぐれて、そこから大量の血が流れ出ていた。
な……んでこんな事に……?

「あ……キャ……キャスターァァッ!」

僕はランサー達の事は忘れてキャスターの方に駆け寄った。
急いで腹部の状況を診断。よかった、即死や致命傷は免れてる。これなら僕だけでも治せそうだ。
回復魔術を構成、魔力を込めてキャスターの治療に取りかかった。

「レ……電磁加速砲レールガン……!」
「レールガン? 聞きなれない名称だが、それが電磁誘導で引き起こされる物体加速の未来兵器だとしたらそうだろうな。
 さすがにオレはランサーのような投擲技術もないし、おまえのような投射技術もないからこんなもんばかりうまくなる」
状況から言って宝具を投げた人物はソウマ。
ロアの知識を借りれば金属みたいなものに雷の大魔術を使えば高速で射出できるらしいけれど、アイツがそれを使ったのか。

そしてその一撃をそらしてくれたのはアーチャーの投影。
僕は気がついたら爆発していたのに気づいたぐらいだったのに、一瞬で対応したのか。
体からは更に剣が生えてきているのに、改めて凄いとしか言いようがない。

でもそんなアーチャーにランサーが黙っているはずがない。
新たな宝具を取り出して、投擲の構えをとった。

贋作者フェイカー、これで、終わりだ……!」
「ぐ……! ト……投影トレース、 ……――」
「遅い!」

ランサーが次々と投擲する宝具、それらを創り上げた宝具で打ち落としていくけれど、ついにその一振りがアーチャーに突き刺さる。
それはヴォータンの槍、グングニルの別名で北欧神話においてシグムンドのグラムを叩き折ったものだ。
そう、『武器破壊』を成し遂げた宝具……!

次々とアーチャーに突き刺さっていく、武器破壊を成し遂げた宝具。
もはやアーチャーが宝具を投影する事はしない。できない。なすすべなくやられるだけだった。

「くっ……!」
「おのれっ……!」
「君達は、動くな」

さっきまでとは違って一つ一つではあった。
でもそれぞれの宝具を力強く、丁寧に投擲していく。
かろうじて動けていたセイバーと前セイバーはそれぞれ神殺しと竜殺しの武器の投擲に対処できない。
ただアーチャーと同じように串刺しにされていくだけだった。

「う……そ……」
「そ……そんな……」
「そんな事があるはずが……ないでしょう……?」
僕も、お嬢様も、アオイも、ただ非現実的な光景を目の当たりにしてそんな風につぶやく事しかできなかった。

「何者よ……何者なのよ……あなたは……」
だって……常識から考えたって有り得ない。あってはいけない。
英雄は栄光と繁栄の象徴。勝利をもたらす存在だ。
こっちにいたのは五人。聖杯戦争に参加する英雄の大半。

なのに、五人もの英霊はたった一人の存在に全滅しようとしている。


   /

「どうだ、前聖杯戦争のセイバー。いずれは竜殺しを成し遂げる一品は。
 この国にも伝わる竜殺し、十束剣。そいつが使っているグラム。聖ジョージが使ったアスカロン。こう見ると色々と種類があるな。
 そう言えば竜殺しを成し遂げた聖ゲオルギウスは今イングランドの象徴として国旗にもなっていたっけ。アングロ・サクソン人が支配する、な」
「き……貴様ぁ……!」

「さて、今回のセイバー。ロキが使わせたミスティルテインを始めとした神殺しの味はどうだ?
 お前を破滅に導くアンドヴァラナウトを使ってもよかったんだが、別にこれでもいいだろう。
 ただ一つ言えるのは、半神である限りランサーには絶対に勝てない」
「ぐ……おおおっ……!」

「で、キャスター。ロンゴミニアド一発でそのザマとは情けない。
 アロンダイトやガラディンも拝みたかったものなんだがなぁ」
「あ……んたってや……つはぁ……!」

「アーチャー。オレはお前が消耗してくれていて本当によかったと思ってるよ。
 まさか武器生成に特化した存在とはな。しかもその状況、まさか固有結界の域にまで達しているとは驚くしかない。
 が、その分武器破壊の宝具はさぞかし効いただろうな」
「こ……のぉ……!」

「そして……サタナ。先代の当主、遠坂永人のサーヴァントでありながらマキリに堕ちた存在。
 先日マキリ邸を強襲して完全消滅させたと思っていたが……まさかそんな形でこの世に止めているとはな。
 今度こそ引導を渡してやる」
「う……あぁ……っ!」

五人の英霊が倒れ、立っているのは敵たった一人。
ソウマの言葉で五人とも何とか立ち上がろうとするけれど、それぞれが致命傷に近い傷を受けている。
最低でもこの戦いでの復帰はもう……。

「そんな奴がいるはずないじゃない……。宝具ばかりかあらゆる神具を所有する英雄なんているはずないわ……」
「まあ、おまえたちは知らなくても当然だな。いや、この世界で果たして知っている者がいるかどうか」
お嬢様のつぶやきに不敵な笑みを浮かべながらソウマは言い放つ。

可能性として話し合った、神話や伝説の全ての原典に登場する者。
あらゆる宝具、神具を集めた人類最古の存在。
まさか、そんな英雄が本当に存在するだなんて……。

「いいか、この国が大陸の文明を学んで発展したように、あらゆるものには起源がある。もちろん神話や伝説だって必ず最初があるはずだ。
 いくら地方によって発展を遂げようとも、その土台である原典がある事は覆しようがない。
 つまり、原典の英雄叙事詩が全く知られていなくても、原典である故にその時にいた英雄の神秘は他の英雄とは比べ物にならない、というわけだ」
「そ……んな英雄が……いるはずが……」
「英霊どもは知らなくて当然だ。聖杯が与える知識は所詮この時代の一般常識より少し上のものに過ぎない。誰からも忘れ去られた神話の事など誰が教える?
 まあ、彼の研究速度ならそろそろ公表されてもおかしくはないがな」
英霊達は呆然とするばかりだった。唇を吊り上げるソウマはそれを満足げに受け止める。
ただアーチャー一人は何かを悟ったような表情を見せている。

「なるほど、そこのアーチャーだけは分かったか。どのような経緯で知ったのかは知らんが、正にその通りだ。
 聖書、ギリシア神話、あらゆるものの原典とも言うべき、古代メソポタミアのギルガメッシュ叙事詩に登場する人類最古の英雄王ギルガメッシュ」
「ギルガメッシュ……」
知らない。そんな英雄聞いたことがない。
だけど英雄王、その響きだけで全てが分かってしまった。

ギルガメッシュには英雄は絶対に勝てない。
なぜならそのギルガメッシュこそが全ての宝具を所有する最古の存在、全ての英雄の原典なのだから。

「戯言を……」
それを聞いてキャスターは傷も気にしないで体を起こし、ソウマを睨みつけた。

「ランサーがギルガメッシュって奴のわけないじゃないの……! それほどの存在だったらあんたごときに従うなんて事はないはずよ!」
「キャスター、しゃべっては……!」
そんな怒声をあげてしまってはせっかく治りかけた傷までまた開いてしまいます……!

「そうだな。これが聖杯戦争という形の戦いな以上、おそらくギルガメッシュを召喚すれば確実に勝利できるはずだ。
 が、同時に真っ先に退場になる可能性もあるわけだ。英霊そのものが強くても、マスターとの連携がとれないようじゃな」
「えっ?」
「だからこそ俺は彼を召喚した。ギルガメッシュと唯一対等に渡り合う存在をな」
ギルガメッシュと対等に渡り合う存在……?

「そう、ランサーの真名はギルガメッシュ唯一無二の朋友、エンキドゥだ」

「エン……キドゥ……」
それが、ランサーの真名……。

「さて、莫迦話はここまでにして、さっさと終わりにさせてもらうぞ。ランサー」
ソウマの目配せにランサーは無言でうなづき、背後の空間に手を沈ませた。

「知っているだろう。そのグラム一つを取った所でバルムングやノートゥングなど、あらゆる武器は伝承によって様々な呼び方や神秘性がある事を。
 そしてその原典をさかのぼっていった先の物は名称なんか存在せず、それらの可能性全てが含まれている事になる。
 ランサーが真名を述べて使っている時だって、いずれやどるだろう可能性の一つとして神秘を発揮しているだけだ」
「……それで宝具や神具のわりには神秘が大した事なかったのね」
キャスターはぼやくように言うけれど、それでも神秘を発揮できるんだったらそれはそれで凄いと思うけれど。

「だがこれだけは違う。キャスターが目指した『聖剣』、セイバーの所有する『竜破壊の剣』の元となった『太陽剣』。
 アーサーやシグムンドといった『王を選定する剣』の原典、これだけは王者ゆえにギルガメッシュはその王者の剣に名前をつけた。
 それが――」
ランサーは剣を抜き放った。

「なっ……!」
「それは……!」
「あんたって奴は……!」
それはまさしくセイバー、前セイバー、キャスターが三者三様に驚愕するものだった。

「主神マルドゥークの名を持つ剣、『原罪メロダック』だ」

その剣は黄金だった。 在り方は全く違うようでキャスターの光の剣と、セイバーの竜破壊の剣と、前セイバーの星の光と似ていた。
たった一つだけ違う点を上げるなら、三人の英霊が持ってる剣よりも装飾や王を選定する神秘が強く、力強さが劣っている点か。
多分聖剣よりも黄金剣、竜破壊の剣より太陽剣に近い物なんだろう。

「前セイバー。理由はいうまでもないだろうが、特にお前はこの剣にやられる事は本望だろう」
「ソウマ……貴様は……貴様という奴はぁぁぁっ……!」
その端麗な美貌は憤怒で歪み、まるで鬼がその場にいるようだった。
前セイバーは怒りに身を任せて立ち上がろうとするが、結局血の海にまた倒れる事になった。

「動け……動けっ……!」
「さあ、これで聖杯戦争は終ー了ー。やれランサー!」
必死の前セイバーを尻目にソウマは死刑宣告を発する。
ランサーは構えをとって、全身を全て使ってそれを投げ放った。


「“原罪メロダック”」


黄金の剣は黄金の矢となって一直線に前セイバーへと襲いかかる。
キャスターもアーチャーも、それを防ごうと何かをするそぶりは見せても、何も出来なかった。
僕もお嬢様もセイバーも、ただそれを見送るしかなかった。

僕らの歴然たる無力さを表しながら、それは前セイバーに――、


「いやあぁぁぁぁああっ!!」


アオイの悲鳴が響く。 そして、黄金の剣は突き刺さった。

本当に静かだった。さっきまでの戦闘が嘘のように静寂に包まれてた。 舞い散る鮮血はまるで花のようで、流れる髪はまるで小川のようだった。
黄金の剣は鮮血に染まってもなおその輝きを失わずに尊い。

誰も彼もがその光景には何も言えないでいた。
言ってしまったら目の前の光景が幻想から真実になってしまいそうで。
僕も、お嬢様も、セイバーも、ランサーやソウマですら。

何も出来なかった。僕らはただ見ているだけしか出来なかった。
だから、その光景を防ぐ事が出来なかった。

黄金の剣を受けるはずだった前セイバー……英さんの体が彼女の鮮血で染まる。
彼女は目を見開いて、瞬き一つもせず、ただ呆然とその光景を眺めていた。
そして、だんだんと顔が悲愴で彩られていく。

葵は黄金の剣に突き刺されて、地面に倒れた。



to the next stage……


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第43話に続く

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 と、言うわけでランサーの正体はエンキドゥでした。
裏話は彼が脱落した時に公開する事にします。

……今回の話は別に読み飛ばしてもかまわないものでしたね。
本当だったら簡略版でアップするつもりだったのが、データが吹っ飛んだ腹いせにここまで詳しく書いてみたり。
反省はしてます、でも後悔はしてません。
なお、メロダックのくだりは独自解釈です。あしからず。

さて、Fate/Zero1巻でふと気になった所。それは『慶応九年(明治五年)に雨生の当主が聖杯戦争を知っていた』事。
だとしたらもしかして、第二次聖杯戦争に雨生が参加してた?
それを読んだ時点で唯一つのフリースペースだったバーサーカーがやられた状態の第27話を書ききった所ですから、書き直しなんてできません(爆)。
そもそもFateの設定とは若干異なった士郎やアーサー王物語を、ロアを扱っている時点でイフ確定なんですけれども。
閑話でやろうと考えてるイフルートの一つ、『■■■■ルート』では結構原作に準じた感じにしようかと思っていますけれども、うーん。

それでは次の舞台で。
葵の結末は実は二通り考えていますが、どちらにしようか未だに迷っていたり。
  2007年8月2日


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