/10日目
それは僕の知らない風景だった。
それは僕の知らない状況だった。
それは僕の知らない悪夢だった。
その地にまともに立っている人はいない。
あるのは無数の死体ばかり。
その地にまともにある剣はない。
ほとんどが血でよごれ、中には折れているものもあった。
その地にまともにかかげられる旗はない。
かつてそれに集ったはずの旗は踏みにじられていた。
盾も鎧も、騎馬もまた地にふしていた。
槍も剣も、それを用いる騎士も、皆元の輝くようなものはない。
あるのは終焉と言う一言だけだった。
ただ1人、少年のような青い騎士が剣を地面に突き刺し、慟哭していた。
まるで全てを呪う……いえ、これは違う。彼はその全てを自らのせいにしようとしている。
この惨劇を二度と起こさないように、と。
そしてもう1人、ゆるりと立ち上がるものもいた。
全身鎧に兜をかぶって顔は見えない。だがその赤い騎士は青い騎士に剣を向け、何かを言い放つ。
それは高らかな宣言と言うより悲痛な叫びに聞こえてならない。
だが、青い騎士はそれを切って捨てた。
激動にかられる赤い騎士は最後の戦いを挑み、そして地にふした。
そして、青い騎士にも最後の時が訪れる。
満身創痍、生き残ったのはわずか3人。
そのうちの1人もまた地に倒れた。
最後の1人は青い騎士を乗せて馬を駆り、その終焉の地を離れてゆく。
そうして残ったのは数多の死体と、栄光の終わりと、
魔術師の策謀だけだった。
Fate/the midnight saga(仮)
第35話
/ディートリッヒ
「おはようございます、レン」
僕は丁寧におじぎをしつつレンに挨拶をした。
「……おはよーディート」
そんな彼は暗い面持ちで手を上げて、足取りのおぼつかない状態で挨拶を返してくれた。
この状態になってるって事は……、
「また葵さんに朝食取られたんですか?」
その言葉を聞いてひざを屈するレン。何とか壁に手をついて自身の体をささえる。
そこまで衝撃的な事だったのか。
「おかしい……、昨日よりも早くに起きたはずなんだが……」
「確かにここ最近レンよりアオイの方が多く朝食を作っていますね」
思わず笑みがこぼれてしまう。
レンが起きてくるペースはこの数日で変わっていない。
変わっているのは多分葵がこの屋敷に来る時間で、彼女は日に日に早くなっている気がする。
「そうなんだよー、葵この頃俺を台所から排除するように振舞ってるようにしか思えないんだけどな……」
髪をかきあげながらぼやくレン。
レンは魔術師だから働いてこそしていないけれど、炊事洗濯掃除、家事は一通りできるらしい。
だとしたらレンはなんでも1人でできる、につながる事になって他人が入り込む余地がない。
葵がレンから家事を取り上げようとするのはある意味で当然の手段だとも思えなくもない。
「でしたらレンもまた精進をすればよろしいのでは?」
「駄目。葵と俺との成長速度を比べれば一目瞭然。絶対に来年までには抜かれるな、あの調子だと」
どうやら黙って追い出される事にはなりたくないらしい。
でも精進の場を葵に奪われている今の状況だと、レンが台所から淘汰される日は近そうだ。
「ですがレンは魔術師でしょう。ならば別に家事一般の事ができずともアオイに譲れば……」
「その葵も魔術師なんだけど」
あ、そうか。
葵は昨日のうちにレンに正体を明かしたのだった。
間桐葵、マキリの魔術師。前セイバーのマスター。
その前セイバーが赤木英としてこの60年以上を過ごしてきたのも驚きだけど、葵が彼女を慕っているのもまた驚きだ。
普通のサーヴァントとマスターの上下関係とは違う。と言ってレンとアーチャーのようにパートナー、つまり対等の関係でもない。
なんと言うか、とても親しい間柄、まるで本物の親子のように思えてならない。
事実英さんはマキリのサーヴァント。
そうであってもおかしくないのだけれども。
「ディート、俺は絶対にあきらめないぞ。料理を教えた師としての意地があるからな」
こぶしを握り締め、頑なに主張するレン。
意地と言っているあたり既に危機感が漂っている気がするけど、気のせいにしておこう。
「がんばってください。それより……」
「それより?」
台所の話はこれぐらいにしつつ、僕はレンに言いたい事があったので話題転換に入る。
そのレンは僕の言葉を聞き返そうとするけれど、すぐに何が言いたいのか気づいたようだ。
「キャスター、まだ帰ってきませんね」
「ああ。どこに行ったんだろうな……」
そう、僕のサーヴァント、キャスターが昨日から帰ってきていないのだ。
事の始まりは昨日。葵が屋敷を去っていった頃の話だ。
「それでは憐さん、また明日よろしくお願いします」
「ああ。だけど葵、マキリ邸は双魔に破壊されたままだし、どこに帰ってるんだ?」
「柳洞寺です。おじいさまのサタナさんが起こした事件で封鎖されていたあそこも昨日から帰れるようになりましたので」
そんな会話をレンとアオイは何気ない日常話の延長のようにしていた。
そのかたわらでは英さん、つまり前セイバーがいて、屋根の上にはアーチャーがいる。
2人の英霊はさっきまでの重苦しい空気から抜け出していて、いつものような態度を見せている。
英さんはアオイを守るように、アーチャーは屋敷から敵を見張るように。
また、サタナが襲ってくるかもしれないからメノウはこの屋敷にとどまることになった。
防衛と言う点から見れば遠坂邸の方が優れているけれど、相手が神代の魔術師では現代魔術師の防衛策は無力に等しい。
ならばとサーヴァントが2人いるこの屋敷の方が安全だとレンが強く主張して説得した。
そんなアオイとメノウもある程度態度を軟化させていて、さっきまでのとげのあるものではなくなっていた。
まだ笑いあう仲とまではいかないけれど、このままならさっきのような事は起こらないだろう。
そんな中……、キャスターだけが真剣な面持ちで悩んでいた。
「ヴィヴィアン?」
僕が問いかけても反射的な返事をするだけで、意識は別の方へと埋没している。
これじゃあ話しかけても全く意味がない。と思ってレンたちの方へ意識を持ってきていたんだけど、
「ちょっとあたし出かけてくるね」
不意にキャスターはそんな事を言ってきた。
思わず間の抜けた返答をしてしまう僕。
「でかけるって……1人で?」
「ああ、別に戦いに行くわけじゃない。包丁を刺した場所に行ってみるだけさ。そろそろ魔力が満ちているはずなんでね」
あ、数日前に川の向こうにある霊脈の上に刺したブリタニアの宝具の1つだったっけ。
それを使って魔力供給をすれば戦力としては申し分ないほどに増強できる。
「それなら僕も……」
「メノウがまだ病みあがりだから見てやっててよ。事はすぐ終わるからさ」
いつものように不敵な笑みを浮かべるキャスター。
だけど僕は心配だった。だって……、
「川の向こうではソウマとランサーが本拠を構えてます。彼らがキャスターに不意打ちかけてきたら、それこそ僕がいた方が……」
「単純な消去法さ。アーチャーは防衛、前セイバーはアオイの警護。動いてるのはランサー、セイバー、サタナだけ。
あいつらなら逃亡ぐらいはできるってわけ」
……なるほど。うまくいけばお嬢様がランサーかサタナを倒してくれるかもしれないから。
キャスターが察した僕ににかっと笑いながら肩に手を置く。
「ディート、明日になったら全てが一変する。君の救済は叶うし、誰もあたしたちを妨害できなくなるんだ」
「明日になったら……?」
キャスターの絶対の自信を込めた言葉は説得力を持っているように聞こえる。
でも包丁という魔力の貯蔵を手に入れたところでそこまで一変するとはあまり思えないんだけど……。
「そう、あたしの予想が正しかったら、あさってには奇跡を拝めるはずさ」
「……!」
あまりの大胆さに言葉をなくす。
あさってには奇跡が拝める、それはつまり、あさってまでに他のサーヴァントを全て倒すと言っているに他ならない。
「それじゃあ行ってくるね。レンの奴には自習を進めてろって言っといて」
極上の笑顔を見せながらキャスターは手を振り、そのまま屋敷をあとにしていった。
そんな彼女に対して僕はただ唖然としながら見つめる事しかできなかった。
以上、回想終了。
結局キャスターは今日になっても戻ってくる事はなかった。
令呪でのラインはまだつながっているから脱落しているわけではない。
それに弱まってもいないから再起不能にまでなっているわけでもない。
ただ単純にキャスターはこの屋敷に帰ってこないのだ。
「キャスターは神代の魔術師なんだろ? なら何か凄い事をやろうとしてるんじゃないか?」
「……包丁を取る以外に、ですか?」
あれこれと考えてみるけれどどれも推測の域を出ることはない。
やはり出迎えるしかなさそうだ。
聖杯戦争も中盤に差し掛かって、現在誰もが攻めあぐねている状況になっている。
サタナが何かをしているらしく、使い魔を放ってもことごとく倒される状況になっている今、アーチャーが状況を知る頼りだ。
そのアーチャーが見た所、お嬢様とソウマ、つまりセイバーとランサーが戦闘を行ったようだった。
結果はランサー組の方が撤退したようで、勝敗はつかなかった。
どうやらお嬢様とセイバーは戦闘をしても毎度敵に逃げられる事になっているようだ。
そんな中キャスターは単身でどこかにでかけたままだ。
呼びかけても応答がない状況、彼女が何をしているのか分からないままだった。
対魔力を兼ね備えた者が多く残る今、単身のキャスターが一番狙いやすい事は間違いない。
とても心配だ。
「さて、ワタシの正体を明かした以上、なぜワタシがあのような剣技を用いているか分かるな?」
「ああ。俺より力がないのにわりと力に頼った剣技を垣間見るのは魔力放出で爆発的な威力を伴うからだろ」
「正解」
結局食事も味を感じないままレン達の午前の稽古が始まってしまった。
その間何度もキャスターに呼びかけるけれどやっぱり応答がない。
探しに行きたかったけれど屋敷での仕事を疎かにするわけにもいかず、探しに行くにも午後になりそうだった。
午前はさすがに人があまりいない。隣でアーチャーと沙耶さんがいつもの稽古にはげんでいるぐらいだ。
「でも英ねえ、今は葵ってマスターがいるし聖杯戦争期間中だから魔力供給があるけど、この60年以上はどうしてたんだ?」
「第一次が終了して一番悩んだのがそこだ。ワタシは生前から膨大な魔力を最大限に利用する戦法しかとらなかったから、いざ制限がかかると……。
故に魔力をほとんど使わない手段をカズナリら日本の武士、そしてアーチャーに学んだ。
マスターであったゾォルケンに余計な負担をかけないよう、最大の霊脈である柳洞寺にほとんど立てこもっていたぐらいだからな」
「柳洞寺? あそこは自然霊以外を排除するよう結界が働いてるんじゃないのか?」
「山門以外はそうだ。が、一度入ってしまえば霊のような存在が現界し続けるには最適な場所なようでね」
レンは納得したのか、おお、と一言漏らした。
「だからめったに出てこなかったのか。あそこから」
「だがさすがに感は鈍ってくるようだったようでね、アーチャーがいなくなってしまってから練習相手もいなくなってしまい、戦場に赴くしかなかった。
魔力を使用できないから意識して剣を変えるしかなかった」
「……そう言えば柳洞寺でゾウケンがそんな事を言ってたような」
「魂を喰らうのは言語道断。悪鬼の類がする事だ。だが生前染み付いた戦法はもはや変えようがない。
意識していては対処できない敵に遭遇した場合、魔力に頼った力任せの剣技になってしまう。
生前もこの剣より仲間がしていた美しい剣技を学びたかったのだが、この身体能力と魔力を総合的に見るとやはりこの戦法がワタシを表すらしい」
うんざりしたように英さんはしぐさをとる。
その表情はそんな剣しか使えなかった自分への苛立ちが入っているように思えてならない。
「……結局目指していた剣技は自分の剣じゃなかったって事か?」
「ああ。天は二物を与えぬと言うが、ワタシには恵まれた能力を与えられ剣の才は与えられなかった。仲間を見ているとワタシは羨ましくなってくる」
仲間……、英さんがよく言う何らかの騎士団の人たちの事だろう。
赤木英、剣の英霊セイバーとして召喚。
ウェールズ出身と言い、ブリタニア出身のニムエともブリトン語で会話できるほど時代は近い。
その実力は北欧神話の剣士、ジークフリートとも互角に渡り合うほどに強い。
だけど疑問は尽きない。
彼女は女性だ。騎士団に属していたと言う事は性別を隠していたのだろうか?
そして宝具はグラムより強力。よほどの概念武装を所持しているのだから生半可な英雄じゃない。
ウェールズ出身でそれほどまでの存在。
だとすると彼女の属していた騎士団とはたった一つしか思い浮かばない。
騎士団の最高峰、ダーヴェルやギャラハッドさんが属していた栄光の象徴。
すなわち、円卓の騎士団。
宝具で真実の姿を隠しているのは同時期の英雄が召喚された時に真名を知らせないため。
現に円卓の騎士たちと密接に関わったニムエが召喚されている以上、真の姿をさらすわけにはいかないだろう。
でも性別を偽っていてセイバーとも互角になるほどの剣士。正体は何なんだろうか?
トマス・マロリーが書いたものでは違うけれど、グェネヴィアがアマゾネスのように勇敢だったと言う意見も聞く。
でも英さんは王妃とは少し違う気がする。あくまで彼女は一介の騎士であろうとしている。
ニムエは召喚されているし、モルガンが剣士とは考えにくい。
そう言えばニムエが今の英さんを見て「若い頃のモルガンと瓜二つだ」と言っていたっけ。
とするとモルガンに関わった人物……?
「仲間って例えばどんな人たちだったんだ?」
「そうだな。例えばペレ……」
英さんがそこではっとし、口を押さえてしまった。
その表情は明らかにしまった、と後悔を表してる。
「ペレ? ペレで続く騎士か。一体誰……」
と続くレンの言葉は不意に放った英さんの竹刀の一撃で沈黙となった。
頭に命中したそれでレンは頭を抑えつつうめいている。
「レンは油断しすぎです!」
言葉も発せないレンをいい事に英さんは竹刀を彼の方へと向けて強く主張する。
いくら真名が判明しそうだからってそれはひどいと思いますよ。
「自分からボロ出したくせに八つ当たりて酷くないか!?」
「黙りなさい。レンの方こそ油断していたようですけれど、それは棚上げですか。ふーん」
わなわなと手を震わすレンだったけれど、剣の英霊である英さんに激動にかられた状態で戦いを挑んでも負けは確実。
ここは何とか押しとどめる事にしたようだ。
「全く……これだと師範やミサトさんの気苦労がどれほどのものか分かったものじゃあ……うわっ!」
無駄口、とこの場合は言うべきか、を言っている間に英さんはレンへと一歩で接近し、再び竹刀を振るう。
レンもそれで一切しゃべらなくなり、呼吸を整えて全てを英さんに集中させたようだ。
もはやそれは稽古ではなくて戦闘。
いくら竹刀を使っているからとはいっても突きをすれば相手を殺す事だって十分にある。
アーチャーと共に見た前セイバーとしての速さ、力とは比べ物にならないほど低くなっているのは魔力を一切使っていないからか。
それでも培われた技術は素人目で見てもレンの比じゃない。動きそのものが洗練されている。
そうして竹刀が交わる事数分、この間とは違う点がようやく見えてきた。
英さんは今、自らの剣だといって竹刀を短いのに変えて稽古をしている。
武器の間合いが実戦に近くなった事でレンの竹刀を払い、懐に入る回数が多くなってきている。
逆にレンの竹刀は普通のものより長め。何とかして間合いを広げようとする。
「く……っ!」
苦悶の表情を浮かべるレン。
間合いを広げようとするレンと懐に入ろうとする英さん。
自然とレンの方が後ろへと下がっていく形になる。
剣の速度からするなら確かにレンはもう英さんを上回っている。でも多分この道場では沙耶さんが一番速いだろうけれど。
これは多分一成さんや英さんより筋力があるおかげだろう。
だけど英さんの動きには一切の無駄がない。一成さんよりそれは極端で顕著に現れている。
結果、手数は英さんの方が多いほどだ。
一歩、後ろに下がると間合いを詰める。
一歩、また後ろに下がると間合いを詰める。
また一歩、後ろに下がると間合いを詰める。
「ふっ!」
たまらなくなったのか、レンは大きく後ろへと跳んで一気に間合いを離そうとする。
まずい、それだと英さんなら……、
「ふっ!」
レンと同様、一呼吸でレンの方へと飛び込んでゆく英さん。
後ろ向きで飛ぶのと前向きに飛ぶのだとどちらが速いか、その結果は明らかで……、
「きゃ……っ!」
と、その時だった。大きく体勢を崩した沙耶さんが英さんとレンの直線上に割り込んでくる。
その瞬間にレンは確かに笑った。その眼光はその一瞬で生まれた英さんの隙を見逃さない。
「その瞬間をいただく!」
とは言葉にしていないけれど、その眼光は明らかにそれを物語っていた。
床に足をつけた直後にレンは飛び込んでゆく。
このまま英さんがレンを撃退するには沙耶さんを押しのける必要がある。そうなれば沙耶さんが何らかの負傷を負うのは避けられない。
だけど勢いを殺して踏みとどまればレンの反撃に後手に回る事になる。
もしかしてこれでレンは英さんから一本を……。
そんな英さんは、
「へ?」
驚愕する沙耶さんをよそに彼女の手を掴んで、
「うわわっ!」
体勢を崩しながら倒れそうになる沙耶さんの動き、そしてレンの方へと突進する自分の動き。
それを最大限の勢いとして利用しつつ、ぐるっと回った。
「な……っ!」
手を伸ばして沙耶さんを起こそうとするアーチャーの前には英さんが、
「うそ……!」
反撃に出ていたレンの前には目を回す沙耶さんが出る事になって、
「ぐ……!」
遠心力のみで振るわれた沙耶さんの竹刀をとっさに受け止めるレンは、
回る勢いが止まらないで現れた英さんの竹刀一撃で意識を刈り取られる事になった。
派手に転がるレン。何とかふらつく沙耶さんを受け止めるアーチャー。
そして2人の英霊は一息もらした。
互いにまったく別の意味で。
「なるほど、周りの状況を理解しそれを利用する事は確かに重要だが、ワタシの方がそれを利用しないと思っていたのか?」
床に倒れるレンは間違いなく聞いてないと思うけれど、なお英さんは続ける。
「そもそも騎士団は一対一の決闘ではなく戦争に勝つ事を目的に結成されたものが多い。周りの状況を瞬時に把握し、自分の生存と敵を斬る事を……」
と、剣の舞いに見ほれていたけど僕には別の用事があったのだった。
すっかり忘れていたけれど、僕はアーチャーに用があるんだ。
「シロウさん、すみませんが僕、キャスターを探しに行ってきますね」
「分かった。レンにそう伝えればいいんだな」
「はい、よろしくお願いいたします」
本当なら同盟相手のレンに言うべきだろうけど、午前中はいつも英さんと稽古をつんでいるから声をかける機会を逸してしまったし。
合間に言おうと思ったけど今レンの意識はないし。
「だけど今1人で動くのは危険じゃないか?」
いくら日中だからってランサーや前キャスターが攻撃を仕掛けてきたら確かにたまらない。
沙耶さんがいるからこの事は口にしないけれど、アーチャーは確かにそう言っている。
「大丈夫ですよ。僕はまだ2つありますから、いざとなればヴィヴィアンを呼びます」
2つとはもちろん令呪の事。これを行使すれば空間転移すら可能になるだろう。
それに日中ならランサーたちも手出しはしてこないだろうから、とは言わなかった。
それでもアーチャーはうなづいてくれた。
「本当なら俺もついていけばいいんだろうけど……」
あ、そうか。そう言えばここにはアーチャーと前セイバー、英霊が2人いる。
ならアーチャーについて行ってもらう選択肢もあるんだった。
「レンの事を考えるとここにいた方がよさそうだしな」
だけど、アーチャーはそれを否定する。
その視線の端のあるのは英さん……じゃなくて前セイバー?
「万一、を考えると、な」
「万一って……」
その万一の危険性が前セイバーにあると言うの?
そんな事はないと思う。前セイバーはこれまでの戦いで真正面から戦いを行ってきた。
ライダーでも、セイバーでも、アーチャーでも。どんな英霊が相手であっても。
そんな前セイバーが数年間教えを与えてきたレンを不意打ちで倒そうだなんて事は……。
いえ、待って。
確かに前セイバーは騎士の名に恥じない戦いぶりを見せている。
それはマスターがマキリの者でも全く変わっていない。
だけど、
「アサシンがサタナになりすましているのでは?」
メノウは昨日そう言ってアオイを問い詰めていた。
サタナからサーヴァントの気配を感じたと言う事はそれにつながってもおかしくない。
前セイバーのマスターであるアオイは今日から仕事を休んでいる。
アサシンがいなくなった今、手持ちのサーヴァントは前セイバーのみだからと屋敷にとどまっている。
一見するとそれは正しくも聞こえてくる。本当にアサシンがいないのなら。
でも、実際はアサシンがサタナになっているなら、前セイバーが望まなくてもレンが何らかの魔術行使の影響を受ける可能性も否定できない。
それは先日のレイリーとメノウのように、犠牲になるかもしれない。
まあ、僕もそれに遭遇する可能性も否定できないけれど、人通りの多い場所を選んで進めばある程度は大丈夫だろう。
「俺はレンと共に行動する事を薦めるんだが……」
「いえ、さすがにシロウさんがレンから離れるわけにはいかないでしょう。僕1人でも探せますよ」
令呪でのつながりからするとキャスターは無事だ。
なら令呪を使えばどうにかなるはずだ。
それでは、と挨拶をして僕は屋敷から出かける事にした。
/憐
「容赦ねぇ……」
思わずぼやく俺だったが、結果を見れば惨敗と言う言葉すら似つかわしくないほどの負けっぷりだった。
魔力放出を行って身体能力向上をやっていない状態でも勝てないんじゃ数十年経っても英ねえに実力で勝てそうにない。
や、それまで英ねえがおとなしく現界してるとは思えないけど。
何しろ英ねえは60年以上とどまってでも達成したい悲願があると言っていた。
前回の終わりが聖杯の破壊での決着だったのだから、アインツベルンは器の改良を行ったに違いない。
だとしたら今回の決着は間違いなく誰か生き残るしかなくなる。
英ねえ、つまり前セイバーとサタナ、つまり前キャスターと言うイレギュラーが生まれた事で戦う相手は8人。
うち3人が脱落して1人は同盟中。
果たして聖杯戦争がルール通り1人になるために6人倒さなきゃいけないものなのか、それとも6人倒せば生き残りは何人でもいいのかは分からない。
だけど、どっちにしてもアーチャーとキャスターは生き残る必要がある。
決着はおそらくそう遠くはない日にちだろう。
その時英ねえと再び日常を送る、これが達成する事はすなわち俺たちの敗北につながる。
そうなってしまえばディートを救う事はできなくなり、彼女は……。
「……くそっ」
つまり、この聖杯戦争期間中を最後に俺は英ねえから離れなくてはならない事になる。
まだ俺の剣は先が見えてこないけど、その日は着実に近づいている。
俺の完全敗北か、前セイバーの脱落かは分からない。
俺は英ねえに誓った。俺たちが全面的に対決する事になれば、お互いに全力を出すと。
そして、その時が俺の人生の大きな変わり目になる事は間違いなさそうだ。
「ほら、無様に倒れていないで起き上がったらどうだ?」
「あ、ありがとう英ねえ」
差し出された英ねえの手を取り、体を起こす。
時刻は昼を回っていた。
俺と英ねえとの稽古は終わりをとげ、アーチャーと姐さんも稽古を終えて道場からいなくなっている。
音は何もしない。風の音すら聞こえてくるほどの静寂につつまれていた。
そんな道場の中で俺は仰向けに倒れていたし、英ねえは行儀よく正座をしている。
魔力と直感に頼った戦法を好ましく思っていないらしく、英ねえはこうして精神をさざなみひとつない海のようにするよう心がけているらしい。
目指す方向が違うのか、その点に関しては賛成できないんだけど。
「お疲れ様です憐さん」
「葵もありがとうな」
アサシンが脱落した事でいつもの仕事に行けなくなった葵が茶を差し出してくれたので、それを少し飲む。
うん、やっぱりあったまったお茶はおいしい。
「英さん、憐さん。そろそろ昼食なので居間に来てください。汗はふいておいてくださいね」
「え……?」
ちょっとマテヤ。何だその昼食っていうのは。
あまりににこやかに言ってくれる葵にごまかされてはならない。
「葵、まさか昼食、作ったのはおまえ?」
「もちろんです。沙耶さんに台所に上がらせるわけにはいきませんからそうなるでしょう?」
またしてもにこやかに言ってくれました。
間違いない、葵の奴、俺から昼食をも奪う気だ。
昼間は店で仕事をしているから葵は屋敷に来ない。自然と俺が百目木の屋敷で昼食を作る事になる。
もちろんそれは英ねえとの稽古を終わらせたすぐに。
ディートは昼食までに携わる事はめったにない。多分自分の仕事だと色々な事をやっているせいだろう。
アーチャーはめったな事で率先して台所に立たない。色々と教えてくれる時はあるけれど。
沙耶さんに台所に立たせてはならないと師範代とも意見が一致するので、ようは競争相手が全くいない独壇場なわけだ。
それまでこの娘、侵略にかかりましたよ。
「葵、俺から家事奪って面白いか?」
「え? そんなつもりはありませんよー」
あははーと笑いながら道場から去ってゆく葵。
ごまかしなんて領域じゃない。明らかにあれは確信犯だ。しかも全く悪いだなんて思ってない。
まずい。このままだと冗談抜きで全てを奪われかねん。
「英ねえ、何とか言ってやってくれ。領域を侵略する奴から守るのが英雄だろ」
「残念だがワタシはその侵略する方の英雄なんだが」
ぐあ、そうだった。英ねえは葵の身内同然なんだった。
アーチャーに師事しているせいか、このところの葵の上達速度はもはや手に負えない。
このままだと聖杯戦争中に俺が英ねえを抜くより葵がアーチャーを抜く可能性の方が高いぐらいだ。
こんな考えは絶対に間違ってるけど、このためにも聖杯戦争に勝たなくては、と一瞬思ったり。
さて、昼が用意される事だしいつまでもこうしてのんびりしているわけにもいかないだろう。
とりあえず胴衣を変えるのはともかく、汗まみれな体を拭く事はしないと。
その点師範が律儀だからなぁ……。これもアインツベルンの影響とか?
「……あと少しですね」
不意に、英ねえからそんな言葉がもれる。
思わず俺は彼女の方を見てしまった。
「あと、少し?」
そしてこれも思わず聞き返す。
英ねえの言葉はどこか悲しげで、どこか寂しげだった。
そして、英ねえの表情もまた見てられないほどに……。
「この数年間、本当に充実していました。これもレンのおかげです。この場を借りて感謝を」
「……きゅ、急になんだよ英ねえ」
なんで彼女が急にこんな事を言い出したのか分からずに困惑する俺。
でも彼女が一方的に続ける。
「この聖杯戦争、私は勝ち負けに関わらずこの冬木の地から去ろうと思っています。二度も奇跡に触れられないのであればやはり私はそれまでなのでしょう。
レンにはすみませんが、おそらく剣を教えられるのは数日になるのではないかと……」
「そ……それは……」
さっきまで俺が考えていた事をそのままだ。
決して避けられない事実。それを今英ねえは口にしている。
俺と英ねえが別の目的で奇跡を望む限り、その結果を避けられやしないだろう。
だけどその事実に苛立ちとあせりを感じていた俺に対して英ねえの反応は意外なものだった。
「……なあ英ねえ、答えてくれなくてもいいから質問してもいいかな?」
そうなった時、俺の思いと英ねえの思いがぶつかる時。
その場合のために、どうしても聞いておきたい事があった。
「どうぞ」
好意的に笑い返す彼女。
いざ戦いになった時、それが聞きだせる状況とは限らないから。明日にもこの日常に別れが来るかもしれないから。
その時のために、絶対に……。
「英ねえの求める奇跡って、何なんだ?」
「……っ」
そう、60年間も待ってまで叶えたい願い。
剣の英雄としてあった英ねえがサーヴァントとなってまで叶えたかったもの。
それを是非……。
60年、それはへたをしたら生前に送ってきた人生と同じ長さを生きた事になる。
その間くすぶる事も消える事もなく、ほんの少しの変化もなくに抱いてきたその悲願。
なんで英ねえは剣をふるうのか、どうしても聞きたかった。
「……」
だが英ねえは明らかに表情を変えている。
先ほどの哀愁はどこへやら、真剣な面持ちで俺の方を見つめてくる。
そしてその瞳は何人たりともよせつけない凄みがあった。
……くだらない質問をしたな。
その願いがどれほどまでに英ねえの本質に関わっているか分かってもいないのに俺はそんな事を言っていたんだ。
それこそ領域の侵害に他ならない。
そう、数年後時の付き合いでは触れられない場所なんだろう。
「悪い。忘れてくれ」
だからとっとと葵の所へいって食事をとる事にしよう。
少しは気分がまぎれるだろう。
あー、言わなきゃよかった。
「葵たちが待ってるし、早く行こう」
葵が作った昼かー。そう言われてみれば初めてかもしれないな。
どんな昼を作ったのか少し気になるし、早く行ってしまおう。
「……私の悲願はな。所詮『自己満足』に過ぎない」
だが、英ねえはそう語ってくれた。
絶句する俺。その事で辺りが静まり返ってしまう。
英雄が抱える悲願、それを英ねえはためらわず『自己満足』と称した。
「自己、満足?」
「そうだ。私が抱くのはその程度の事だ」
英雄とは、他人のために尽くす場合もあれば自分の目的のために走ってその結果そうなっただけの場合がある。
だがそのどちらにしても自分の志を貫いた結果そうなったのだから立派なものだと思う。
だけど、英ねえはそれを自己満足だと言い切った。
「それが達成できたのなら私そのものである剣をも捨ててもいい。だがその悲願を達成するためなら何だってしよう。
誇りが汚されようとも、身体が犯されようとも、心が堕ちようとも、この思いだけは本物なのだから」
「英、ねえ?」
ふっと、英ねえは悲しげに笑った。
それは今まで見た事のないほどにないほどに。今にも泣き出しそうなぐらい弱弱しいものだった。
「私はこの世の誰から見捨てられてもいいからたった2人にだけは認められたかったんです。そのために私は剣を振るい、数多の敵を倒しました。
そうして私もそれなりに認められるようにはなりました」
その結果がこうして英雄となっている自分があるのでしょう、と付け加える。
「ですが1人はそんな私を役立たずとみなし、もう1人は私の存在すら認めようとしない。
衝撃的でしたよ。誰もが受けている事を英雄にまでなった私が受けられないのですから」
英ねえは自分の胸を掴む。
服が破けそうになるけれど、それを気にも留めていない。
「ですから私は最大の敵を葬る事にしました。それまでの私からは考えられない行為にも出ましたし、これによって仲間に迷惑がかかったのも事実です。
ですが、それをしないわけにはいかなかった」
「最大の敵……」
最大の敵。
英ねえがそうつぶやいた時の表情は普段の彼女からは全く考えられないものだった。
憎悪、などでは生ぬるい。自分の全てをかけてでも葬ろうとする相手、そんな感じだ。
思わず息をのむ。
英ねえがそこまで感情を出す相手って一体誰なんだ?
そして、その最大の敵はどうして英ねえをここまで激動にかる事ができたんだ?
「過程は省きますが、それによって確かに1人には大いに賞賛されました。そうして最大の敵を追いつめもしました。
ですが私は最大の敵を倒すまでには至らなかった。結果的に私の人生はそこで幕を下ろしています」
たった2人のためだけに剣を振るい、英雄にまで祭り上げられた騎士。
それが英ねえ……。
あまりの事に言葉も出ない。
誰からも尊敬を受けたであろう英雄がたった2人すら認めてもらえないだなんて、なんて皮肉。
そして、なんて無念。
「なら、英ねえは万能の願望器を用いて、運命を変える気か?」
「とは言え、私は自分の行った事を悔やんではいません。100回繰り返すなら100回同じ事をしたでしょう。つまり私自身がやり直した所で結果は同じ。
私が生を持った時は既に手遅れなのです」
手遅れ……?
「仲間も生前これを望んでいました。ですが死後もこれを追い求める愚かな存在はおそらくは私1人でしょうね。
確かにレンの言っている通り、私が行おうとしているのは過去の改竄です」
過去の改竄。誰もが一度は思った事。だけど決して届かない不可能な事。
俺だって過去を変えたいと思うときがある。あの遠坂邸での事故だってその1つだ。
他にも数え切れないほどあるけれど、決してそれを願い続けた事はない。
だって、それによって起こった出来事の結果今があるんだから。
それを塗りつぶす事は、未来を幸福にしていこうと思う全ての人たちを否定する事に他ならないから。
それはつまり……、
「自分1人のために全人類の必死の行いを踏みつける。だから『自己満足』なのか」
「その通りです。究極の自己満足、それこそ私が生前から目指していた事なのですから」
返す言葉もない。
英ねえの表情は硬い決意で結ばれており、その思いを覆す事など俺にはできやしないだろう。
彼女の思いを変えられるとしたら、その1人かその人物と密接に関わった者でなければ……。
俺はあいにくそんな人物じゃない。だから英ねえを変える事も導く事も出来ない。
俺ができる事は、万能の願望器が2つ以上の奇跡を発揮できたとして、それでも英ねえの思いを解決できる場を置くだけだ。
だけど……、
「英ねえはそれでもいいかもしれないけれど……そうなったら葵はどうなるんだ」
「っ!」
英ねえの表情が変わる。
硬い決意が崩壊し、激しい葛藤が走っていた。
「俺は葵と英ねえがどれぐらい親しい仲なのか想像ぐらいしか出来ない。でも葵は英ねえを母親のようにしたっているじゃないか。
そんな彼女の思いも踏みつけられるのか?」
「そ……それは……」
それぐらいなら俺にだって分かる。
魔術師でなかった俺は両親からは上辺だけの愛しか受けられなかった。
その悲しさ、寂しさはよく分かっている。
葵が英ねえと一緒にいるときは本当に笑顔が絶えない。
間桐の魔術があのようなものであっても、彼女は笑顔を忘れる事はなかった。
そんな事は俺にはできやしない。葵の笑顔は英ねえが守ってきたものだ。
英ねえが悲願を達成しようとすれば、それは自ずと葵を見捨てる事になる。
そんな事葵のためにも……そして英ねえ自身のためにも許してたまるものか。
「英ねえがその人に見てもらいたいのはよく分かる。だけどそのために英ねえを見てる葵を見捨てるのか?」
「……」
うつむく英ねえ。この事実はどうやら英ねえにとっては最大の葛藤のようだ。
「英ねえ、葵のためにも貴女ににそんな事はしてほしくない。俺にそんな事言う資格はないけれど……」
「……だから悩んでいるんだ」
俺の言葉をさえぎるように英ねえは手を前に出した。
それでも俺と視線を合わそうとはしない。
「生前に在った騎士としての私は過去を、この町での1人の女としてのワタシは今を選ぼうとしている。
私がしようとしている事は生前私が受けていた思いをアオイにも強いているのですから」
「英ねえ……」
「レン、ワタシはこの地で生前の3倍以上を生きてきた。もはや数多の英霊が望む第二の人生を送っていると言ってもいい。
生前の人生を取るのか、第二の人生を取るのか。聖杯戦争となった今でもまだ悩んでいる。どちらがいいと思う?」
「それは……」
もちろん俺は第二の人生を取って欲しい。
そうすればこの世界の誰一人として悲しむ事はない。もはや英ねえはこの町になくてはならない存在なんだから。
けど、その事で生前からの思いを無碍にするよう促がす事は俺にはできない。
生前英ねえがどれほど悲観にくれ、思い悩み、涙を流したのか。それを知るのは当時生きていた人でもごく少数だろう。
そんな英ねえを俺は説得する事はできない。
だから……、
「……聖杯戦争の勝敗が決める事だ」
「え?」
俺にはこれしか言えない。
そして、言ったことを成し遂げる事でしかできない。
「英ねえがどんなに悩もうとも俺のアーチャーは負けやしない。前者を選ぼうとも英ねえから剣を取り上げて無理やり後者を選ばせる。
英ねえのためとはさすがに言えない。けど、それが俺にできる精一杯の事だ」
例え英ねえがセイバー、シグルズ並に強くても。どれほどの思いを持っていても。
あのアーチャーだったら超えてくれる。俺はそんな気がしてならない。
実力でねじ伏せるとかじゃなくて、そう思わせる何かが彼にはある気がするんだ。
だから、英ねえが葵を見捨てて生前の思いに走っても、絶対に俺とアーチャーが止めてみせる。
英ねえと同じで、この思いだけは本物なんだから。
「言ってくれるじゃないか」
この時、今日で初めて英ねえは笑ってくれた。
その笑みは生前に在った苦悩を全て洗い流すかのように満ちた、と錯覚してしまうほどのものだった。
「確かにそうなれば私の意志など関係ない。アオイとレンが行き続ける限りワタシもまた生き続ける事となるだろうな。
その時はもはやワタシに剣など必要ない。レンが使え」
「『一本とったら剣を渡す』って言ってたやつだっけ。でも英ねえの武装は全部霊体なんじゃ……」
「触媒として使われたのがある。霊体化に邪魔だから柳洞寺に置きっぱなしだがな」
触媒、ああ、そう言われればそうだったっけ。
第一次でおばあさんを始めとして3家は終わらそうとしていたのだから、呼び出す英雄は一流のものにしようとしたはずだ。
つまり、俺みたいに行き当たりばったりじゃなくてしっかりと触媒を7体分用意したに違いない。
英ねえの場合、それが生前用いていた剣と言う事だろう。
ん? 剣?
もしかしてそれって……、
「もしかしてライダーを葬ったあの宝具?」
今のところ英ねえが使ってる剣の宝具はそれだけだ。
後は別の宝具ばかりだから、二本目があるとは思えないし。
とすると、あの星の輝きを放つ宝具が……、
「確かにそうだな。基本、効果の高い宝具はそれそのものが概念武装だから行方不明や破壊されこそすれ、朽ち果てはしない。
が、あいにく私の剣は最大の敵を葬った直後に存在意義を達成してしまってな。ものの見事に輝きを失ってしまった。
へたなナマクラよりは使えるだろうが、たぶん切れ味はレンの刀より下だし、宝具としての性能を発揮する事など……」
簡単に手に入る訳ないか。
世の中そんなに甘くないって。
「だがそう簡単に渡さないぞ。卒業試験は見事に落第。これがレンの未来にならないといいな」
「絶対にそんな事はさせない。俺は絶対にアーチャーを勝ち残らせる」
そして、万事解決して見せるさ。
英ねえの事も、遠坂家の事も、そしてディートの事もな。
俺たちはお互いに笑みを浮かべながら居間へと向かっていった。
その後、居間で昼食をとった。
その時にディートがキャスターを探しに出かけた事を知った。
百目木の屋敷から向こうの霊脈との距離を考えると数時間を見た方がいいだろう。
そう思って心配しながらも俺はディートの帰りを待つ事にした。
だが夕方、夕飯の時となっても彼女は帰ってこなかった。
to the next stage……
Fate/stay nightは救いの話である、と思う。
ヒロインであるセイバーや桜はおろか、衛宮士郎やアーチャー、例を挙げれば枚挙に暇がないが、とにかくそれは事実だろう。
ゆえにその果てに送る士郎たちの日常はどんなに莫迦っぽくなったとしてもほほえましいものかなと。
じゃあ登場人物全員が救われているのか、と言うと実はそうでもないのがミソだ。
それを二次創作で埋めていくのもまた面白いと思う。最後まで残るキャスターとかバゼットと駆けるランサーとか。
でも意外と見られないのがとある人物に関してのもの。去年から自分はそれを書きたいとずっと思っている。
今年の夏までには書きたいものです。
と言うわけで始まった『魔術師の策謀』。ここからこの作品は大きな転換を迎える事になりそうです。
この次の話が終わったらあとは一番書きたいシーンまで突っ走るのみです。
それまで自分の根気が続いている事を願いつつ。
2007年4月8日