/8日目・interlude
聖杯戦争とは。
フユキと言う極東の地で行われる儀式で、何でも願いがかなうという聖杯の所有権をめぐった殺し合い。
でも実際は違う。これは第一次でアイシスフィールたち先人が失敗したから決められた事だ。
何しろ儀式を行った3家の中でも所有権をめぐって争いがある始末だ。次もそうなる事は目に見えてる。
だから、表向きのルールを作ってそれで英霊を呼び出すために必要な魔術師を呼び寄せる事にした。
結果的に3家は参加者の1人に成り下がったけれど、公平なルールがあるのなら例え3家のどこかが完成した聖杯を手に入れても文句は言わない
でしょう。
3家の技術の結晶がこの降霊の儀式を現実にしてるだけあって、癪なところはあるけれど。
それでも、図らずして第一次と同じように3家で呼び出した英霊を独占するようになってしまった。
遠坂の者はソウマ、レン、メノウ(の代理だけど)。マキリはゾォゲンともう1人。そしてアインツベルンは私とディート。
ただ、前回との違いは例え自分の家系であっても戦いをしている事だ。
ま、私の知った事じゃないけど。
英霊はこの世界に固定するためにクラスに割り振られる。
本当なら7つだけなんだけど今回は前回からの生き残りが2人もいたから計9人もいる。
全く、マキリの魔術師はやる事が紳士じゃないわね。
私は最高の剣騎士、セイバーことジークフリート。
ドラゴンを殺すためにとても大きな剣をもってどんな敵だってきりふせる。
ルーン魔術も使えるし、防御力も高い。それにとても主人思いだし、最強よね。
ディートは魔術師、キャスターことニムエ。
湖の貴婦人じゃなくてケルトの大釜を持っていて円卓の騎士をしたがえている稀代のドルイド。
宝具なみの光の魔術を攻撃に使ってくる。
対魔力が優れたセイバーでもこいつの魔術は要注意かもね。
ゾォケンは魔術師、キャスターことサタナ。
前回のサーヴァントをそのまま使ってきてる。
で、こっちは湖の貴婦人だけどそれは属性が逆転させられてるらしい。
水の魔術に関しては最高の存在と言ってもよく、それをくらった敵は一瞬で魂を奪われる。
英霊と言うより亡者よね。
もう1人は剣騎士、セイバー。
こっちはちゃんとした前回からの生き残り。この聖杯戦争に関しては他のサーヴァントより意識してるかもね。
その剣技はセイバーと互角でキャスター並みの膨大な魔力もち。宝具は多分全サーヴァントでも最高クラス。
でも絶対にセイバーには勝てない。だってあいつの正体は…。
もう1人は狂戦士、バーサーカーことスキュラ。
神代の怪物だけあって能力値も高いし再生能力もある。理性は始めからない。
せっかくゲストのマスターが召喚したんだけどあいつが奪った。でもアーチャーに倒されたらしい。
んでアイツのは暗殺者、アサシンことハサン。
その実力はあいつが全く戦わないせいで未知数。おととい見たけどなんか弱そうだった。
ディートも気づいてるみたいだし、そろそろアイツごと殺そうかな。
ソウマは槍騎士、ランサー。
なぜか色々な槍の宝具を持っている上に盾の宝具を多数所有。その正体は一切不明。
こいつが一番魔術師してて、私を殺しかけた。絶対復讐するわ。
メノウは騎乗兵、ライダーこと聞仲。自分が動けないから代理人まで出して召喚してきた。
中々強力なサーヴァントだったみたいで、乗っていたのは清では最高の神獣の麒麟。
でも前セイバーに敗北した。
レンは弓騎士、アーチャー。
ランサーと同じようにいくつも宝具を使ってくるやつでその正体は一切不明。英雄と言うより戦争屋みたいだけど。
そして…今回の聖杯をディートのために使おうとしている。
確かに聖杯戦争の本当の目的はその英霊の魂を使ってアレを成し遂げる事。
だからそれで創られた聖杯でディートを救う事はできる。
でも、それはできない。
だって私はアインツベルンのマスターなんだから。
大体ニムエが持ってるのはケルトの大釜なんだからそれ使ってディート救ってやればいいじゃないの。
死者蘇生だって可能にするものなんだから、成りかけの吸血鬼ぐらい浄化できるでしょうに。
それともできない理由でもあるのかな。
それに、アインツベルンの悲願を考えるならアインツベルンの者がディートがロアだって気づいていてもおかしくはなかったはずだ。
なのにおじい様たちは彼女をヨハンやジェイナたちと同じように育てた。何でなんだろう?
まあ、それでも他の失敗作と違ってヨハンたち同様に生き残ったのはディート自身の実力だけどね。
第二次聖杯戦争が始まってから8日がたった。
この前の寺でライダーとバーサーカーがようやくリタイアしてくれた。
それに使い魔で見たけどマキリがソウマに攻略されたみたいだから、前キャスターと前セイバーもリタイアでしょうね。
だとしたら残るサーヴァントは私のジークフリートを合わせて5人。
6人のサーヴァントを倒せば聖杯はできるから3人倒せばいいのか。ランサーとアサシン。それからアーチャーかキャスターか。
できればキャスターにはディートを救って欲しいけど、無理ならば…。
残った敵は誰もが手ごわい。
ランサー自体も強力だけど、ソウマ自身も未知数だ。一番魔術師してて一番手ごわいだろう。
アイツは積極的に戦おうとしてない。でも持ってるサーヴァントがアサシンだけに策をいくつも用意してくるだろう。
レンとディート。単独だとあまり怖くないけど、彼女たちは手を組んで敵を倒そうとしてる。
それに、聖杯戦争以外にも考えなきゃいけない事がある。
それはディートがロアだからこそ起きてしまった出来事。
まずは死徒27祖の1人、シェラザード。魔術師あがりだからネロみたいにあまり白翼公や漆黒の姫たちと仲良くしたがらない。
こいつの目的はロアか、それとも彼女か。
すなわち、真祖の姫。アルクェイド・ブリュンスタッド。
ロアを殺すために現れる真祖の姫。ディートの死徒化はキャスターに抑えられてるといっても、いつ彼女がくるかは分からない。
だってディートったら一度覚醒しちゃうし。
正直、こいつが現れたら例え召喚されたサーヴァント全員でかかっても倒せないかもしれない。
何にしろ、そう何日もこの聖杯戦争が続くことはないでしょう。
さあ、聖杯戦争の後半を始めましょう。
interlude out
Fate/the midnight saga(仮)
第24話
/
「おはようございます」
「おはよう。今日も早いな」
朝、僕は廊下で庭を眺めている一成さんに挨拶をした。
彼もこちらを見て挨拶を返す。
百目木家の朝は早い。
朝日も昇るか昇らないかというぐらい早くから始まるといってもいいぐらいだ。
まず目を覚ますのは一成さんだ。
「実は早起きの習慣はアイシスの影響でね。ヴァルトラウトたちもいたのに何で俺が…」
と一成さんは言うけれど、語る時の表情はとてもうれしそうだ。
次に起きるのは多分僕だろう。
僕はアインツベルンに仕えていた時の習慣が消えずに早起きしてしまう。
どんなに疲れていても、必ず。
でも百目木の屋敷では役割分担が決まっているせいか、仕事が少ない。
「おはよー、今日も早いね…」
と、睡眠が必要ないサーヴァントなのにあくびをしながら少女がやってくる。
のびをしながらやってくる。口ぐらい隠してください。
「ヴィヴィアン、また徹夜をしたんですか? 体に悪いですよ」
「あたしたちの生活は不規則が当たり前。この身になってから上達ってのがなくてほとほとに困るよ…」
そういいながら彼女は洗面所のほうに向かう。
「…やっぱりかわいいですよね」
カイヌインが彼女に綺麗な服を着せたい気分が分かってしまう。
いくら最高峰の魔術師でも、外見は僕よりも幼く見えていてまるで少女。とてもかわいらしい。
「やっぱシロウを夢の世界にでも連れてって聖剣見せてやるかな…? でもあたしそんな魔術使えないし…」
「ヴィヴィアン…。いくら事情を知ってる一成さんの前だからって…」
僕の声に手をひらひらさせるニムエ。
…あの調子だと『聞いている』けど『治す』気はないな。
「…さて、ではやってしまうか」
「はい。そうですね」
僕と一成さんはうなづいて道具を持つ。
これからはじめるのは離れの掃除だ。
離れは洋式を取っていて、アイシスフィール様たちが生活なさるために作ったとか。
いつでも誰かが泊まれるよう、毎日丁寧に掃除を欠かさない。
ちなみに今使っているのは僕とニムエ、それから沙耶さん。つまり女性だ。
この前お嬢様とセイバーが使ったけど。
いつもは一成さんが丁寧にやっているらしいけど、僕が来たから僕が率先してやろうとしたら一緒にやるで落ち着いてしまった。
…もしかしてアイシスフィール様が一成さんにここの掃除を任せてたとか?
「…おはようございます…」
目をこすりながらドアを開けたのは沙耶さん。まだ目が開ききっていなく、こすっている。
猫背だし壁に手をついているし、明らかにまだ半分寝ている。
それでも敬語なのは一成さんがいるからだろう。
「もうねないのであれば掃除を始めたいのだが、いいか?」
「…ふぁい…」
とぼとぼと間隔の短い足取りで洗面所のほうに向かう。
なぜかこの離れ、居間と台所以外の設備が完璧(それは確かに大きさはとても小さいけれど)なのはなぜ?と思っていたけれど。
「…アイシスがこうしてくれって言うから…」
…と、彼とケイローンが必死になって建てたそうだ。ギリシアの大英雄って…。
ちなみに風呂は現在でも使用可能。とても小さいけれどかま風呂よりは大きい。
「さ、やりますか」
これが終わった頃には朝日が昇っている。
沙耶さんは早朝で自主練習。レンと葵が壮絶な朝食バトルを終わらせているはずだ。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます」
屋根の上で遠くを見ているのはアーチャーだ。
彼を見て一成さんと僕も挨拶をする。
「今日はシロウさんが朝食じゃないんですか?」
「いや、今日は憐がはりきって朝食作ってたからやる隙がなかった。「やっと俺の出番が来た!」って言ってて」
それはそれは…。
アインツベルンの食事当番は僕。でもこの屋敷で僕は台所に入れてもらえない。
なぜなら、そこは葵とレンの熾烈な戦いの場所だから。
料理を作るのは早い者勝ち。ただし作り始める時間は決められているらしい。
ここ何日は葵が朝食を独占状態だったけれど、やっとレンが作れるのか。
「じゃあ葵は居間に?」
「いや、葵はまだ来てないぞ」
「え?」
来てない? あの葵が?
朝食を作るためにいくらでも早起きしてこっちにくる彼女が? まだ来てないと?
「めずらしいですね」
「うん、確かにめずらしいよな。ほとんど欠かさずに来てたみたいなんだけど」
「そうですか…」
僕よりも長くいるアーチャーがそう言うのだからやはり珍しい事なのだろう。
少し気になるな…。
「でもたまに寝坊する時もあるみたいだぞ」
「え? そうなんですか?」
「ああ。俺が知る限り今まで3回」
それは知らなかった。あの葵でも寝坊する時があるんだ…。
と、アーチャーは屋根から飛び降りて僕らの近くに立つ。
「だから今日は憐の料理か。随分と久しぶりだな」
「そうですね」
僕もレンの朝食は今日で二回目だ。それまでずっと葵が作っていたから。
葵と憐の料理はほぼ互角。今のところ少し葵に分があると思う。
それが憐には気に入らないらしく、
「必ずぎゃふんと言わせてやるからな!」
と沙耶さんに豪語してたっけ。
まあ、正直な話アーチャーの料理の腕はレンや葵はおろか僕よりも上だ。
一体どんな人生を歩んできたのかは分からないけれど、とにかく上だから仕方がない。
味にとても深みがあって、まるでどこかの景色を体験しているような気持ちにさせる。どこまでも心に響く料理というやつだ。
「…実はどうしても追い越したかった奴がいてね」
とアーチャーは苦笑いしていたけれど、彼以上の料理の腕の持ち主って誰だったのだろうか?
手を洗って居間に行くと、そこには既に師範代たちが待機していた。
おのおのが私語をしていたけれど、一成さんを見ると皆背筋を正す。
『おはようございます』
「ああ、おはよう」
いくら上下関係にゆるいこの家でも、挨拶などの礼儀はきちんとしている。
「あー、おなか減ったよぅ…」
「レン、今日の朝食ってなに?」
この2人以外は。
「姐さんもヴィヴィアンももう少し周りを見てくれって」
問答無用で入ってきたのは沙耶さんとニムエの2人。
沙耶さんはきちんとしている時はきちんとしているけれど、どこかがずれてる気がする。ニムエは相変わらずマイペースだけど。
そんな2人に食器を運んできた憐はそんな突込みを入れるけれど、
「…今日は憐が朝食?」
と言う沙耶さんの無慈悲な言葉でひるむ。
「くそっ! 見てろよ姐さん! 英国帰りをなめるなよ!」
ごめん、レン。そこは自慢できる事じゃないと断言できる。
何しろ英国は香辛料などの調味料が少なかったせいかもしれないけれど、フランスやイタリアの料理と比べて味付けがとてつもなく薄い。
原因としては環境に恵まれてないせいで農業に適していないからだとか色々。
なので評判はどちらかと言われると低いと言わざるを得ない。
が、その分朝食は非常のおいしい。
エッグやベーコン、オートミールを始めとした数々は芸術と言ってもいいぐらいに洗練されている。
僕はそれが大好きだから朝食は英国にそったメニューにしている。
「そう言えば昔こんな事言われたんだよな」
「え?」
そのやり取りを見ていたアーチャーが突然言い出すので僕はそちらの方に顔を向ける。
…その顔はにやけているんですけど。
「大英帝国が陽の沈まぬ国になったのは、本国の料理から逃れたい一心で世界中に散らばったのが原因だったとか」
くく、と笑いながらそんな事をさらりと言ってのけました。
「あっははははははっ!」
「…く…くくく…」
ニムエはそれに大爆笑。
一成さんも口元を押さえて笑いをこらえるのに必死だ。
「士郎ーっ! おまえも敵かーっ!」
「包丁はやめてください包丁は!」
アーチャーに襲いかかろうとするレンを何とかとめようとする僕と師範代たち。
レンはなみだ目になっている気がするけど、やはり気のせいにしておこう。
…やっぱ日本以外を知らない師範代たちには今の事が分からなかったようです。
「今日はまた随分とにぎやかですね」
と、最後に居間に入ってきたのは葵だった。
「すみません憐さん。寝坊してしまって…」
「いや、今日の朝食は俺が作っておいたから座って待っててくれ。それと姐さん」
キッ、と沙耶さんを睨みつける憐。
「朝食とアフタヌーンティーは英国最高の文化だ。士郎や師範、ディートが何と言おうとそれは確実だ」
そういうと台所に行ってしまった。その足取りは荒い。
きょとんとする葵。まあ話を聞いてなかったからそう思うのは当然だけど。
「あの、憐さん一体何かあったんですか?」
おそるおそる沙耶さんにそう聞く。
その沙耶さんは笑いながら手をパタパタさせた。
「あー、憐が英国の食事をバカにされたからって怒ってるのよー。まだまだかわいいわよねー」
「…ほう、レンが憤ったか」
葵の後ろについているのはレンの剣の師匠、英さん。
すんでいた柳洞寺がマキリの者に強襲されたから、今は葵の家に居候している。
だから来たのは葵と同じ時だろう。
「英さんってどこ出身だったっけ?」
沙耶さんがこう言ったのに少し頭を低くする英さん。
「ウェールズ、つまり英国だな。だがこの数十年間日本で暮らしてきたからな。そろそろ恋しくなっているところだ」
「へぇー、ハナブサって英国出身なんだ」
英さんの返答にキャスターがにやけながら言う。
…なんだか嫌な予感…。
「じゃああんたも分かるよね。祖国の食事事情ってやつ」
…そう言えば数日前、ヴィヴィアンはとてつもなく必死な形相で「雑だった」と言ってのけた。
いくら何でも中世と今の食事を比べるなんてちょっとな、とも思うけど。
でも結局英国の食事事情に行かせるんですか、ニムエ。
「あたしもその辺の出身なんだけどさ、どうも料理ばっかりはなじめなくて…。やっぱ南の方だと思うんだけど」
「同感だ。フランスやローマの方が食事は楽しめる」
英さん、即答で断言。
しかもさも当然のように言っているし。
「えー? 英さんの祖国の料理ってどんな感じなの?」
疑問符を投げかける沙耶さん。
純粋な疑問からだろうけど、よけいに話がこじれます。
それを聞いた英さんは、何を思い出したのか、うつむきかげんで苦痛な事を思い出したかのような表情を見せる。
こぶしはぎゅっと硬く握り締められ、思い出したくもない様子。
…なんだろう。いつぞやのニムエの反応にも似ているような…。
「…雑でした」
言った言葉まで同じだった。
「そもそも農作物を作る環境に恵まれていない英国とフランスやローマを比べる事自体がおこがましい。何ですかあの薄味は。
それでも生きるためだと思って食事はただ口にしていましたが、ローマの料理やここの食事を口にするとそのように考えていた自分に腹がたってきます」
そして赤裸々に語り始める。思いつめた表情は何よりも深くその信憑性を物語っていた。
ほとんど愚痴に近いけれど、とてつもなく説得力があるように聞こえるのはなぜだろうか。
「分かる…とてつもなく分かるわ」
英さんの主張にうんうんとうなづくニムエ。
どうやらニムエ、今の主張に感動したようだ。
「分かりますか、この事が」
「ええ、とてつもなく」
「ヴィヴィアン」
「ハナブサ」
がっ、と。英さんとニムエはお互いに握手をした。
モルガンに似ているからと英さんを嫌っていたニムエが、食と言う一つの共通の思いで結ばれた瞬間だった。
2人の顔つきはとても真剣なもの。
なせいか、他の人からは2人の深い思いが何なのかは分からないようだ。正直僕も半分しか共感できない。
ちなみにアーチャーはそれをみてあさっての方向に視線をそらして苦笑いを浮かべている。
「英ねえ。あんたもか…」
そんな2人のやり取りに絶望しながらやって来たレン。お盆の上には料理がのせられている。
今日の食事は…。
『あれだけ引っ張っといて日本食かよ』
見事なまでの日本食でした。
英国帰り関係ありませんね。
「ぜ…全員でいう必要ないだろー…」
「あ、手伝います」
レンと葵がテーブルに食事をのせていく。
ご飯、味噌汁、魚、他にもごぼうを使った料理やジャガイモを使った煮っ転がしなどさまざまな料理が並んでいる。
って一般家庭では考えられないぐらい豪華な食事だと思うのだけれども…。
「じゃあいっただっきまーす」
全員分が並べられたところで沙耶さんが真っ先に箸に手をつけ、料理を食べ始める。
それにならってみんなも食事を食べ始めた。
うん、ご飯はふっくらと炊けていて、味噌汁は味わい深い。
魚も程よく焼けていて、それに添えられた数々の皿も申し分ない。
お店に並ぶ食事よりもおいしいです、レン。
もくもくと食べられていく食事。
そんな中、レンは沙耶さんのほうに視線を向けていた。
「…姐さん、どうだ?」
そして一言。
その表情は真剣そのもの。
「んー…」
箸を一旦とめて考える沙耶さん。
「ここ最近で憐の腕上がった?」
そして一言。
その言葉にレンの表情がぱあっと輝く。
「それじゃあ…!」
「でもまだ士郎さんの方が上よ。もっと精進あるのみねー」
でもその一言でレンは奈落のそこに突き落とされたのでした。
哀れです、レン。
/
食事もつつがなく終わり、後片付けに入る。
この時点でもまだ台所は使えない。レンと葵がやはり台所で色々としているためだ。
結局最初から最後まで僕は台所に入れないんだよね…。
「悪いなディート。できればディートにも入らせたいけど、そうすると姐さんも入れさせろって言ってくるだろうから…」
とレンは苦笑いを浮かべながら語る。
「…貴重な卵を使って丼作ってくれると思ったら…いつの間にか全く別な料理になってたり…」
「お米が墨になる事はしょっちゅうです。いつかは味噌汁をとても濃厚なものにしてくれました…」
ため息混じりにこう証言するレンと葵。
どうやらこの2人、やっぱりと言うか、沙耶さんを台所に入れたくはないようだ。
「いえ、沙耶さんがどのような食事をおつくりになるのかは分かりませんが、台所番のあなた方が言うのでしたら」
と僕は言って、屋敷の掃除に入る事にした。
始めの方はアインツベルンの屋敷との勝手の違いにとても戸惑ったけれど、なれると広さの関係でこちらの方が楽に感じる。
毎日の事になったのでそこまでは当たり前のことだった。
「別に毎日掃除をしなくてもいいんだぞ」
と一成さんが言うから一日おきになってしまったけれども。
日本家屋と洋館では勝手が違うらしい。
だからその間の日は洗濯に時間を注いでいる。ここの人たちは稽古もやっているせいか、すぐに洗濯物がたまるのでとてもやりがいがある。
今日は掃除の日なので精一杯がんばりますか。
「じゃあディート、行ってくるぞ」
「今日はどちらへ?」
廊下の掃除をしていると、いつもどおり和服を着たレンが僕の横を通り過ぎていた。
昨日と同じなら彼は町を走ってくるのだろうけど。
「準備運動をかねて走りこみ。英ねえも腕が動かせるようになったらしいから、士郎と英ねえと一緒にな」
言われてみれば確かに英さんの腕はいつものように動いていた。
おととい見たときの疲れが嘘のように取れている。
でも今は柳洞寺に戻っても彼女1人。住職さんたちに文を出したらしいのでこれ以上無人になる事はないらしいけれども。
「それでは午前中に稽古を済ませるので?」
「ああ。午後は午後でやらなきゃならない事がたくさんあるからな。今後の事も含めて話し合おう」
「分かりました。それではいってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくるよ。それとキャスターによろしく言っておいてくれ」
レンは手を上げるとそのまま玄関の方へと向かっていった。
さて、師範代たちは稽古の月謝だけで生活しているわけではなく、今は何人か出払っている。
でも稽古の準備もあるので屋敷にいるのは僕とニムエだけだ。
さあ、済ましてしまいますか。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
少し経った後、レンとアーチャー、それから英さんが玄関から上がってきた。
…レンだけがものすごく疲れた顔をしているのだけれども。
「レン、いつもよりも表情が優れないようですけれども」
「…ああ、全てはこの2人の責任だ」
親指で後ろをさすレン。
でも当の指されたアーチャーと英さんはそ知らぬ顔だ。
「何しろ全力疾走に近いペースで走らされたからな。短距離のペースで長距離を走る奴がどこにいるんだよ…」
「レンがゆっくりなだけだ。最低馬と同じぐらいの速度を維持できるようにしないとな」
「んな無茶な」
レンは肩で息をしていて汗びっしょり。今にもひざをつきそう。
アーチャーはサーヴァントと言う英霊だから疲労の事を言う必要はないけれど、やはり一番大丈夫そうだ。
でも、大丈夫なのが英さんも入っているのはとても驚いたのだけれども。
「さあ、後は稽古で体をほぐしたら勝負を始めるぞ。昨日はカズナリにやられたようだからびっちりとな」
「うあ」
そでで汗をぬぐいながらレンは道場に向かう英さんの後ろについていくのだった。
後でお茶や菓子を差し入れとして持っていこう。
「ん…!」
伸びをする。
屋敷の掃除も全て終わった。思ったよりも早く終わったおかげで昼までまだ時間があるな。
さて、どうするか…。
「ディート」
「はい、何でしょうか?」
と思っていると、やってきたのは一成さん。今日は稽古は休みか。
彼が手にしているのは本だ。それも…、
「ラテン語の書物、ですか?」
「ああ。こうしているとこの国の狭さがよく分かるのでね。稽古がない日は毎日欠かさず読書をしてる」
タイトルは残念ながら読めない。でもかなり古い本だと言う事はわかる。
この年になっても勉学を続ける、か。とてもすごい事だと思う。
「すまないが少しおつかいを頼まれてくれるか?」
「いえ、こちらは居候の身ですから、何なりとお申し付けください」
「…そういうわけにもいかないが…、これから言うものを買ってきて欲しいんだ。金は渡す」
「分かりました」
そうして一成さんから語られる物を頭の中で反復し、覚える。
これぐらいなら忘れる事はないだろう。
「本当なら俺が買い物に行くべきなんだろうが、町での集まりに参加しなくてはいけないのでな。本当にすまないが…」
「いえ、ですから私にできることがありましたら何だっていたします」
僕は深々と一礼して雑巾を始めとした掃除道具を片付ける事に。
一日おきでもやっぱり雑巾と桶の水が汚くなってしまうなぁ…。
「ディート」
「はい、何でしょうか?」
「今の町は物騒だ。残念だが俺では役不足だろう。憐を連れて行け」
普通の意味での物騒ならそれは謙遜と言うものだ。
何しろ一成さんの実力は稽古を見せてもらった限りでは一流の剣士と遜色ないものだ。
十分に誇っていいほどの実力を持っていて、たとえ数十人に囲まれても切り抜けられるだろう。
だが、彼は『今の』と付けていた。
それはつまり、今の状況を意味するのだろう。
すなわち、聖杯戦争の存在。
まだアサシンもランサーも健在な以上、サーヴァントを連れていない状態で町を歩くのは昼間でも危険だ。
この前町に出たときもダーヴェルを連れて行ったし。現にそのとき27祖の1人とであった。
「いえ、レンは稽古の途中ですし、ヴィヴィアンに頼みます」
「そうか。要らぬ世話だったな」
「いえ、そんな事はありません」
…ここはニムエ、キャスターに頼むしかないだろう。
用心に越した事はないのだから。
「じゃあよろしく頼む」
「では」
そうと決まったからにはキャスターのところに行かなくちゃ。
離れの一室の扉を軽く叩く。
しばらく待ってみたけど返事がない。
「ヴィヴィアン、僕だけど入っていいかな?」
もう一回試してみる。
また返事を待つけれど、一向にそれが来る気配がない。
かと言って無断で魔術師の工房に入るなんてもってのほかだ。むしろ罠でこちらが酷い目にあいかねない。
と、何やら扉の向こうがさわがしくなってくる。
この音、何やら物を急いで片付けている音に似ているけれど…。
「ダーヴェル! そのやつはそっち! それもっと丁寧に扱ってよ!」
「モルガン様もそうだったがドルイドはどうしてこう整理整頓がへたくそなんだ! いくら自分が配置を全て分かっていても意味がないだろ!」
「お黙り! これ以上戯言を言ってるとその舌抜いて醜い蛙に姿を変えてやるよ!」
…これも聞かなかった事にしよう。
扉を叩く音を聞くためなのか、防音が効いていないようだけれども……後で指摘しておこう。
しばらく扉の前で待っている。
「やあディート。ささ、中に入ってよ」
そして扉を開けてきたニムエは笑顔を見せた。
……涙ぐましい努力ご苦労様です。
ニムエの部屋は簡易的だけど工房より上のランクにある神殿に近いものがあった。
ただ、直前に整理整頓がなされたおかげで普通の魔術師の工房並みに散らかった状態になっている。
……これで整理整頓できた事にあてはまっているのならもはや何も言うまい。
ダーヴェルは消えているからどうしてもこの状態が基本だと思わせたいらしい。
いや、そんな事より本題に入らないと。
「キャスター、街に出かけるので護衛をお願いいたします」
「ん、分かった。ただ午前中は準備をしたいからダーヴェルに代わりに行かせてもいいかい?」
ダーヴェルに、シェラザードと出会った時と同じか。
「準備? ひょっとすると無人となった柳洞寺に神殿を?」
「あ、それもいいかもしれないけど、それをしてまで行う大儀式がないから意味ないわ。実はレンの奴に頼まれたのよ」
レンに? それはまた何でだろうか。
いや、それは分かりきっているか。
何しろ科学技術が今急激に進歩している。いずれは魔法までなくなってしまうとばかりに。
その分魔術は確かに進歩をするかもしれないが、中世を境に退化している事も否めない。
だがここにいるのは神代とまではいかないが、伝説にまでなる時代の最高の魔術師がいる。
教えを請わない方がおかしいものだ。
「しかしレンの専門分野は宝石魔術と接近用の強化や放出、それからある程度の攻撃と防御魔術の魔術。
自然を味方にするドルイドの術がレンに合うとはとても思えませんが」
「そうだよね。レンもディートもあたしとは違う魔術を使ってるから、短時間じゃあ教えられないのが現実」
するとニムエはこちらの方に顔を向け、手のひらをかざした。
そして手のひらを舞うのは光の粒子。
「でもレンはどうしてもこれを覚えたいんだってさ。ある意味これはあたしが理想として目指したものだから、どうしようとも思ったけどね」
そうか、だからレンは「よろしく」と言っていたのか。
ニムエの話では、レンは昨日キャスターに頭を下げて頼みこんだそうだ。
その尊い光をぜひ教えてくれ、と。
多分それは稽古が終わった後の事だろう。
「何なら今日の午後から始めるけれど、ディートも学んでみる?」
「いえ、一日や二日の行程で学べるほど簡単な分野ではなさそうなので遠慮させていただきます」
おそらく聖杯戦争で教えられるのはよくて基本概念だけ。
それをキャスター並の大魔術までに昇華させるのには長い年月が必要だろう。
ましてやそれを聖剣にまで引き上げるなんて…。
「ん、じゃあとりあえず召喚しておくか」
彼女は大釜を取り出し、その真名を静かにつぶやいてダーヴェルを召喚する。
「じゃあダーヴェル。ディートの護衛よろしく」
「分かった。任せてくれ」
ダーヴェルは静かにうなづく。
この時間なら市場にも十分に間に合うだろう。安売りが終わってしまう前に行くか。
「すみません、ダーヴェルさん。またあなたにご迷惑を…」
「前も言ったけど、これぐらいニムエやモルガン様に比べたらなんでもないよ」
一成さんに言われたものや食糧は買い込めた。
ダーヴェルさんはこの前と同じく荷物もちをしてくれていて、とても助かっている。
市場の様子は相変わらずで、銭湯や柳洞寺での出来事にもめげずに明るい。
人々の声がいきわたり、活気に満ちている。
市場にはとんと縁がなかった僕にはとても新鮮な光景だ。
「…聞かないんだな」
「え?」
ほとんど不意に近い形でダーヴェルは言ってきたので少し驚く。
「聞かないとは何をですか?」
だから聞いてみる。
僕が知りたいと思っていた事で聞いていない事って…。
「ニムエとモルガン様の関係」
「あ」
そう言われてみればシェラザードに会う前からそのことに関してはあまり聞いていなかったっけ。
僕はキャスターが自発的に話してくれるのを待っているのだけれども、どうも彼女は必要としない事や聞かれてない事は話さないタイプらしい。
「僕はキャスターが自発的に話してくれればそれでいいのですが…」
「多分それだと一生話してくれないと思う」
…やっぱりと言うかなんと言うか。
「ニムエはモルガン様が鞘を殿から盗ったんじゃないかって思っているんだ。あれさえあれば様々な事ができるからな」
「鞘とはあの聖剣より何倍も価値があるとマーリンが言った…」
そう、湖の貴婦人から聖剣を授けられた時、マーリンはアーサーに「剣と鞘どちらが大切か」と問う。
もちろん騎士であるアーサーは剣だと答えたが、鞘の方が大切だから肌身離さずもってなさいと忠告したのだ。
「残念だが魔術師でない俺には鞘の価値は分からない。だけどニムエもモルガン様もあれには驚いていたからそうしててもおかしくない」
と言いつつ彼はため息を漏らす。
以前の話でニムエは鞘さえあれば聖剣も必要なく大釜で大魔術を実行できると断言していた。
そう、それは第三魔法である死者蘇生すら可能とするだろう。
そしてそれをニムエはモルガンが奪ったと確信している。
「そもそもニムエとモルガン様、それにお館様は全く考え方が違ったからな。お館様は殿の最後も始めから分かっていらっしゃったが、
自分の事より殿に起きる未来を何とか回避なさろうとしていた」
アーサーの未来、そう言えばマーリンは抜群の未来予知ができて、自分の最後まで見えていたらしい。
その見えた未来を何とか変えようとしていたのか…。
「ニムエは殿や円卓の騎士には興味なし。古の神々を何とか呼び戻す事こそ最優先していた」
それは彼女が以前話していた事で分かる。
でもそれには一つ疑問がある。
「ニムエはマーリンをどう思っていたのですか? ただ神々を呼び戻すために利用したのか、それとも…」
「したっていた。それは間違いない」
ダーヴェルは僕の言葉が終わらないうちに即答した。
その表情は冗談のかけらもない。
「ではなぜ」
「…分からない。お館様が一番に考えておられたのが殿の事だったせいか、それともお館様がそうしてくれとおっしゃったのか…。
残念だが俺にはニムエに聞く勇気はない」
…僕も聞く事はできない。
あの時代にいなかった僕にはそこまで踏み込んだ事を詮索する資格はない。
たとえ今僕が彼女の上にいたとしても。
「最後にモルガン様か…」
ダーヴェルの表情がとたんに曇った。
いや、これは話すことをためらっている感じだ。
「無理に話してもらわなくても私はかまいません。ですから…」
「いや、話す。誰かに知っていてもらいたいんだ」
だが次には真剣な顔に戻っていた。
まるで決意に固まったような、そんな顔に。
「元々モルガン様が殿の異父姉だとは知られているよな」
「ええ」
たしかアーサーの母であるイグレインと元夫のティンタージェル公との間の娘だったはずだ。
でもそのコーンウォールを支配していた王は戦で命をおとした。その原因がほとんどマーリンにあると言っても過言ではない。
死の数時間後にユーサーがティンタージェル公に化けてアーサーをもうけたとか。
「史実と違うのはその頃にはモルガン様はお館様の弟子だったと言う事だ。とてつもない天才で、道具作りに関してはお館様をしのいでいた。
…だからこそ衝撃は大きかっただろう。自身の父を師匠に殺されたのだから」
ああ…それは衝撃的だろう。
自身が信じる存在にかけがえのない人を殺されたのだから。
「だからモルガン様はマーリンを、そしてそのときに生まれた殿を激しく憎んでいる。だからこそだろうか…」
「少々お待ちを。だとしたらその後の弟子になるニムエとモルガンでは接点がありませんから、
ニムエと同年の貴方がモルガンと知り合うのは不可能では?」
まして今までの話から推測すると、使い走りとは言え彼はモルガンとは親しい仲のはずだ。
いくら魔術が一切できないダーヴェルだからって、使い走りをさせるだろうか?
「…ニムエと一緒にモルガン様と出会ったときがあってな、赤ん坊の時にドルイドの呪いから逃れた俺に興味を持ったと言っていた。
余談だが俺は術を直接書き込まない限り幻惑たぐいは効きにくいらしい」
「へえ、そうなんですか」
いくらモルガンがマーリンの新たな弟子ニムエを憎んでいても、ニムエがモルガンを憎む事はできない。
だからニムエもモルガンの事を知る機会がやはりあったのか。
「だからこそモルガン様はあのような行動にでたのだろうが…」
ふっ、と。彼は空の方を眺めた。
とても懐かしく思っているようにも見え、とても口惜しいように思っているようにも見える。
「ユーサー様には殿以外のもご子息がおられて、ユーサー様より先に死んでしまわれた方もいるんだ。
そのうちで最も王、ペンドラゴンに近いと言われていたのが、モードレッド・アプ・ユーサー」
「モ…モードレッド!?」
モードレッドって言ったら、あのモードレッドしか思いつかない。
だけどダーヴェルの世界ではギャラハッドと同じようにして2人いたのだろうか。
「彼の方がはるかに殿、アーサーよりも王にふさわしい。そんな意味合いを込めて彼女は1人の騎士にその名をさずけ、円卓に遣わした。その騎士こそ…」
その人物こそマーリンが予言で描いた、国の最後につながる騎士。
そして、アーサーの不遇な息子。
「モードレッド・アプ・アルトリウス」
そして、モルガンの息子だ。
「あの人は全ての執念を息子に託し、それをかなえようとした。湖の貴婦人ではないから最後に殿を連れて行きもしなかったしな」
「…」
自分にとってかけがえのない者が自分にとっての尊敬する者に殺された恨みを、
自分にとってかけがえのない者がその者の血を分けた分身に殺される事で晴らす。
なんて事…。
「たった1人を追う者とはるか高みを望む者、そんなモルガン様とニムエが分かり合う事は結局なかったな…」
復讐を果たしたモルガン。マーリンはニムエに幽閉され、ニムエは目の前で聖剣を神々に返され、アーサーは国を滅ぼされた。
だけど、魔術師である彼女にこう思うのは間違っているけれど、それで彼女は幸せだったのだろうか。
復讐のためだけに生涯をささげた人生が…。
そう思うといくら僕が創られた存在だからと言っても、恵まれていたんだなと思ってしまう。
今自分が置かれた状況をも忘れて。
「モードレッド、か…」
また彼の表情がたそがれに戻ってしまった。
とても残念で、無念だとも見える。
「俺はかの…彼にこそ殿の最後のお顔を見て欲しかった」
ぽつりと、まるで懺悔をしているかのようにつぶやく。
ダーヴェルはモルガンと親しい仲だろう。どんな関係だったかは分からないけれど。
だとしたらダーヴェルがモードレッドと普通の円卓の騎士たちより知り合っていてもおかしくはない。
「無念と言うなら、モードレッドこそが一番無念だっただろうな…」
「ダーヴェルさん…」
「なあディート」
と、ダーヴェルは僕の肩を両方掴む。
そして正面から僕の瞳を見つめる。
「何があってもこれだけは覚えておいてくれ」
「は、はい」
「ガウェイン、ランスロット、ケイ、他にも大勢の騎士たちがいたが…」
あまりの迫力に返事をする声がこわばってしまう。
だけど、これから言う言葉はダーヴェルの本音なのだろう。心からの。
「モードレッドこそが一番殿を思っていたんだ」
そこで話は終わり、また歩みが始まった。
それを語った時のダーヴェルの表情は、騎士としての仲間に対する言葉ではなく、むしろ息子や娘に対する言葉のように思えてしまう。
だとしたらダーヴェルとモードレッドの絆はとても深いものだったかもしれない。
アーサーを一番に思っていたモードレッド、か…。
だけど、結局その一番に思っていた(らしい)モードレッドはアーサーに反旗を翻した。
理由は分からない。でも結局モードレッドもアーサーもその戦いで死ぬ事になる。
それを最後まで見ていたダーヴェル、彼は何を思ったのだろうか。
モードレッドと親しそうで、アーサーには従っていて。そんな2人が殺し合いをするのを見届けて…。
「…」
そんな過去を送ってきた円卓の騎士たちが、ニムエが、僕のために行動をしてくれている。
本来アーサーのためにある剣を僕のために使ってくれているんだ。
これはもう幸運としか言いようがない。
ならば、僕も彼らに恥じないよう行動をしなくちゃいけない。
彼らの思いにほんの少しでも報いなければ。
「難しいですね…」
僕はぽつりともらすのだった。
to the next stage…
後半突入。まずは日常シーンからでしたので、話が全く進んでいません。話だけ長くして中身がスカスカなのはどうかしませんとね…。
この話のニムエ達はバーナード・コーンウェル版をベースにしているのでトマス・マロリー版とはとても違いがあります。
七話で多少お話しましたが、その矛盾をこじつけで解決しようとしたら今回のようになりました。
ですので変えるかもしれませんのでご了承ください。
○・アプ・■、これは■の子○と言う意味です。
ですのでギャラハッド・アプ・バンはベノイクのバン王の子供ギャラハッド、と言う意味でギャラハッド・アプ・ランスロットと区別をつけられます。
Fateをやっていて疑問に思うのは、モードレッドとは別のアーサーの子供なんですよね。
アムハルやロホルトを始めとした子供はやはりマーリンの魔術で男となったアルトリアがもうけたのでしょうか? 謎です。
それでは次の暗躍の舞台で。
2006年12月9日