/

「く…っ!」
ライダーは内心であせっていた。

自身の武器は金鞭と呼ばれる鞭。その攻撃範囲は数十メートルは行く。
他にも彼には幻術も使え、キャスターほどではないが行使できる。
更に自らは麒麟に乗り上空に舞い上がっているため、攻撃がされにくい。

 古今東西問わず、人間であるなら地面の上を立つのが当たり前。空中に飛び上がってくるには跳躍と魔術行使しかないだろう。
だがのっているのは天かける麒麟。そう簡単に落とされはしない。
故に、飛び道具を用いてこないセイバー相手ならばまず遅れを取る事はない。

だと言うのに実際は全く攻めきれていなかった。

鞭をふるい、攻撃をするたびに前セイバーの剣ではじかれている。
しかも前セイバーはたくみに鞭をはじく事でその反動でライダーに攻撃をしかけているのだ。
当然鞭に振り回されるライダーでもないので、それは当たりはしないが。

かと言って幻術のたぐいは対魔力が高い前セイバーに効きはしない。
麒麟の術もそれに入るかは分からないが、万が一の事を考えて行わせていない。

結果、ライダーは鞭をふるい続ける事で前セイバーの隙ができるのを待っていた。

(無益だな…)
前セイバーは剣を振るいながらそう考えていた。

 前セイバーの片方の腕はセイバーのグラム、アーチャーのゲイ・ボルグで深い傷を負っていた。
ゲイ・ボルグ単体ならば戦闘に支障は少ないが、グラムは前セイバーにとってはとてもまずかった。
だからと言って前セイバーにはセイバーを倒せない事はこの前の戦いで分かってしまっていたが。

跳躍をすればあの麒麟の位置まであがれないこともない。
しかし空中戦はバッタのように飛ぶしかできないのであれば空を舞う麒麟に乗るライダーに撃墜されてしまうだろう。
宝具もしかり。あれをこのまま放っても麒麟の速さなら逃れる可能性もないわけではない。判断に用いる材料が足りないのだから。
魔術は剣を触媒にしなければ行使できないほどの未熟であり、詠唱にやたらと時間がかかる。

(せめて両腕が使えれば…)
そうすれば鞭を剣にからませて武器を奪う事だってできたのだが、と内心で舌打ちする。
だがそんな泣き言は殺し合いでは通用しない。今できる事を全力でやるだけだ。

よって、前セイバーもまたそのまま剣を振るい続けていた。

 ゆえの拮抗。
だがその拮抗の重みはライダーの方がはるかに上だった。

なぜなら攻略を進めているのはライダーたちの方。この柳洞寺はもはや前キャスターの神殿と言っても差し支えない。
更にライダー側のサーヴァントは3、前セイバー側のサーヴァントは4。なら前線で戦えるレイリーが間違いなくサーヴァントと戦っているはずだ。
だからこそ前セイバーはそのまま時間稼ぎをしていようと問題はなく、ライダーは時間稼ぎをしている事などできない。

だが前セイバーも時間稼ぎで終わらせるわけにはいかなかった。時間稼ぎをしていて前キャスターたちが倒される可能性だってあるからだ。
この先前セイバーがセイバーを倒すには誰かの助けが必ず必要となる。
ここで仲間を殺させるわけにはいかない。

 ならば一番早いのは一刻も早く、しかもできる限り負傷を受けずにライダーに勝つことだ。
その前セイバーのねらい目は、ライダーがしびれを切らす瞬間だ。

「…」
(…)
互いに武器を振るいながら、その実互いに隙をうかがい、互いに相手の出方を待つ。
体を動かしているが、実際は2人の間で心理戦が展開されていた。




Fate/the midnight saga(仮)

第20話


   /

「うおおっ!」
気合と共にアーチャーは双方の手に持つ純白の剣と漆黒の剣を振るう。

気合を上げる事は不意打ちにはまず向かない事だが、事正面からぶつかり合う戦場においては力の入り具合の関係で十分に役に立つ。
他にも相手を威嚇する意味もあるが、英霊同士の戦いでそれに勝敗が左右される事など少ないだろう。

アーチャーを迎え撃つのはバーサーカー。
アーチャーが宝具を使って負わせ、2日前までは残っていた傷はもはや完治していた。
怪物部分は体の半分が吹き飛ばされていたにもかかわらずの治癒。と言うよりそれはもはや再生の域だ。

「■■■■――!!」
バーサーカーは咆哮をあげ、その巨体をもってアーチャーへと襲いかかる。
アーチャーが飛び込んだ方向では足蹴にはできないので、そのまま6つある首の一つで喰らう事にする。

金属音が鳴り響く。

 アーチャーの剣は首の持つ牙によってはじかれてしまった。当然これは両者にとっては不本意な結果。
勢いをそのままに、アーチャーは首を足蹴にして目の前の少女に斬りかかろうとする。

いくら驚異的な再生能力を持つ神代の怪物とは言えゴルゴンやケルベロスとの大きな違いは、本体とも言うべき少女の部分が残されたままにある。
少女の上半身+怪物の下半身=スキュラ=バーサーカー、ならばその少女をどうにかすれば…!

「■■!」
だが本能で危険を感じ取ったバーサーカーは首を大きく動かし、アーチャーを舞い上げる。
いくら足腰が発達していても押さえがなければ結局押し合いは体重の多いものが勝つ。
アーチャーもそれの例に漏れず、舞い上がった…はずだった。

 だが実際はアーチャーは猫のようにしなやかに全体でその跳ね上げの勢いを吸収し、後方に飛ぶにとどまった。
そして弓矢を投影し、そのままバーサーカーを射る。

6つの首牽制用に12本、少女への攻撃に3つ。
それをバーサーカーは少女への攻撃だけをガードする事を最優先とし、他はその後に対応した。
結果、矢が次々とバーサーカーに突き刺さった。

「…!?」
だが、バーサーカーは以前と違い、大してひるむ事はなかった。
咆哮するとそのまま空中にいるアーチャーめがけて突進を行う。

「く…!」
アーチャーは着地と同時にバーサーカーの突進を横にかわした。
タイミングが少し遅れたのか、左肩に若干の損傷が見られるが戦闘に支障はない。

バーサーカーは自らが作った勢いを12本の脚で停止させ、またアーチャーに襲いかかる。
今度は相手が上に飛ばないように上から襲いかかり、脚で攻撃を仕かけるようだ。
弓矢ではダメージを与えられないと判断したアーチャーは再び双剣を出現させる。

そしてかわしざまに脚に損傷を与えた。
と言っても脚が動かなくなるような攻撃ではなく、ただなでただけのようなものに過ぎない。

 ヒットアンドアウェーの形が続く。
体重差から考えて、バーサーカーの攻撃は全体重をかけた突進や踏み付けなので受けにまわれば吹っ飛ばされる事は目に見えている。
必要最小限の動きでバーサーカーの動きを受け流し、反撃に転じ続ける。
問題は…。

「もしかして再生速度が上がってる…?」
いや、間違いない。再生速度は上がっている。

夫婦剣での攻撃は確かに大きなダメージはないが、無視できないほどでもない。
だが目の前のバーサーカーは夫婦剣でのダメージを何もなかったのように体の傷を修復させていた。
見た目だけではなく、ダメージの回復は文字通りの意味に。
これは前回の戦いでも確かにあったが回復にかかる時間があった。今の状態はそれよりはるかに早い。

「ぐ…!」
だとしたら牽制程度の攻撃は瞬時に回復されて何の意味もない事になる。
そしてこれなら生半可な重傷であっても回復される可能性が高い。
なら一撃でしとめる事を考えないと…。

そしてもう一つの疑問は、バーサーカーのマスターがどこにも見当たらない事だ。
これほどまでの強さを引き出してるバーサーカーだ。単独行動などまず不可能。マスターが近くにいるはずだがそのマスターが見えない。
前回までならバーサーカーは強くてもマスターはそれほどじゃない。正に狙いどころだったが…。

アーチャーたちは知らない事だが、既にバーサーカーのマスターは前キャスターに殺されていてマスターも彼女に移っていた。
通常の魔術師より魔力が高い前キャスターがマスターになった事でバーサーカーの耐久と再生速度は向上していた。
だからマスターを狙う事は前キャスターを狙う事だ。

「なら…!」
理性は無いがこのバーサーカーはその代わりに本能がある。以前のようなパターンは通用しないだろう。
それなら、別のパターンを作るまでだ。

「キャスター!」
だからアーチャーは前キャスターと戦っているキャスターに声をかけた。
十分に大きな声で。

 今キャスターは前キャスターと魔術の応酬を行っていた。
円卓の騎士は召喚せず自らの実力だけで、主に光の術を主体にして敵の水の魔術と拮抗していた。
どうやらこちらも互角の戦いだ。

「――I am the bone of my sword我が骨子は歪に曲り続ける.」


そのままアーチャーは投影を開始する。
数メートル離れた間合いを少しでも離そうと後退をしながら。

「…!?」
キャスターはほんの少しの注意をアーチャーに向けた。
そしてアーチャーの持つ武器に気づく。

「…なるほどね」
そして含み笑いをした。
あんたも策士ねー、と思いながら魔術の構成を始める。
詠唱はしない、杖で魔方陣を虚空にえがきそれを敵のほうに向ける。

移動速度はバーサーカーの方がアーチャーよりも早い。2人の距離は縮まりつつあった。
今アーチャーが行っているのは敵に背を向ける全力での撤退。戦場では普通絶対にしてはいけない自殺行為だ。
ふりかえってバーサーカーに矢を射る事はできない距離でもある。
それでもアーチャーは弓を振り絞った。

金剛杵ヴァジュラ――!」

「大いなる星の輝き!」


アーチャーとキャスターは敵に対して各々の手段で攻撃を行った。
ただし、普通の攻撃ではない。

 アーチャーの攻撃は前キャスターを襲い、キャスターの攻撃はバーサーカーを襲っていた。
数多の光の屑がバーサーカーを襲う。

「■■■!」
咆哮をあげてひるむバーサーカー。
対魔力がない上に魔力も少ない彼女は自身の耐久に全てを任せるしかなかった。

確かにアーチャーとバーサーカーの距離は近く、宝具を投影し射る距離ではない。
だがアーチャーと前キャスターとの距離は十分に攻撃できる位置だ。
キャスターもまたバーサーカーの注意がアーチャーに向いているのなら攻撃を仕かける事が可能だ。

結果、バーサーカーに大魔術が襲いひるむ。前キャスターに神の用いた雷が蝕む。
その隙があれば十分。

「――I am the bone of my sword我が骨子は捻じれ狂う.」


アーチャーが手にしたのは、この前の戦いで深い傷を負わせた捻れた剣だった。
それをそのまま弓につがえ、しぼる。

偽・螺旋剣カラド・ボルグ――!」


 そしてそれを射る。
光の魔術でひるんだバーサーカーは再度それを受ける事となった。

 そして、前回と同じくそれは大爆発を巻き起こす。

「これなら…」
前回と違って今度は中央に突き刺さったから本体の少女により近い。だから今度は少女にだって損傷を与えているはずだ。
もしこれでとどめをさしきれなくても、損傷した相手ならば次の攻撃に移る隙はいくらでも出てくる。

 アーチャーはそのまま弓矢を敵のほうに向けて注意をする。
雨が蒸発して作り出された水蒸気が辺りを覆っていて視界はさえぎられているが、確かにまだバーサーカーはいた。

「■■■■■――!!」
「何だって!?」

咆哮と同時にバーサーカーの気配が動く。
速度は先ほどより間違いなく遅いが、瀕死の動きではない。
アーチャーとの距離は一定に、円をえがくようにして動いていた。

そして、その動きはアーチャーに対しての直線に変わる。
アーチャーは矢をその気配の方向に射るが、ひるむ気配は無い。

「く…っ!」
夫婦剣を瞬時に取り出したアーチャーは衝撃に備える。

次の瞬間、アーチャーはバーサーカーの突進をまともに受けていた。
自分でも後方に飛びのいたのはよかったが、思ったよりも衝撃は強かった。

吹っ飛ばされる中、通常の槍を投影し地面に突き刺す。
そのまま槍ごと体は後ろに飛ばされるが、何とか壁に激突せずにすみ、地面に脚をつける。

追い討ちをかけてくるバーサーカー。やはり攻撃は突進。
夫婦剣をまた取り出し、それをまたすれすれでかわした。今度はかすり傷も負わずにすむ。

「無傷…!?」
あの剣は確かにバーサーカーに突き刺さり、爆発させた。
いくら神代の怪物だからってあれを受けてもなお行動を行うとはアーチャーには信じられなかった。

「いや…無傷じゃないか…」
バーサーカーの状態を確認してみると、確かに前3つの首は吹っ飛んでる上に脚も何本かなくなっている。
だが出血はもうしておらず、再生が既に始まっていた。

こうなった理由はいくつかある。
まずはここが前キャスターの神殿である事。水の加護によって前キャスターに不利となる飛び道具の威力は軽減される。
あのヴァジュラが威力を失ったほどではないが、天から降る雨がその威力を若干軽減したこともある。
加えてバーサーカーは水属性の神代の怪物。その水の加護を彼女も受けていて、再生能力と耐久の向上をうながしていた。

よってバーサーカーにはもはやあの攻撃は致命に至る事はなくなってしまっていた。

「なら…」
だからと言ってこのまま夫婦剣だけで再生能力を持つバーサーカーに勝つのは無理がある。
ならば、わずかな隙を狙い…、

 再び襲いかかるバーサーカーをアーチャーは迎え撃った。

   /

「大いなる星の輝き!」

「おオイなルミずのはグクミ」

 キャスターと前キャスターは同時に魔術を展開する。
キャスターが放ったのは数多の星屑のような光の魔術。対する前キャスターは自らの立つ池の水を持ち上げ、その光の魔術を撃墜していく。
光はその死をつかさどる水によってことごとくかききえてしまう。

「くっ! まだまだ!」
キャスターは敵に魔術展開をさせないがごとくなおも光の魔術を用いる。
数多の星屑がまた死の水によりかききえていった。

先ほどから行われる魔術の応酬はそればかりだった。
なぜならここは前キャスターの神殿だからだ。

水も、風も、土も全てが前キャスターのためにある。
ドルイドの魔術は相手の精神に対する攻撃や自然を味方として用いる魔術が多い。自然と共にある神々の力を借りるからだ。
だが、今はそれが全て前キャスターに有利なように働いているため、それを用いる魔術を使おうとするとどうしても前キャスターに出遅れてしまう。

 前キャスターの水に対抗するにはアーチャーのように雷で水を貫通させての攻撃を行うか、炎で水を蒸発しつくすぐらいだ。
が、水属性の前キャスターが創った神殿内なのか、炎属性の魔術は水属性の魔術にどうしても劣ってしまう。
雷は五元素のなかでも風属性の魔術、だが必要がなかったためにキャスターはそれをあまり得意とはしていなかった。

ならばとキャスターが使っているのが光の魔術だった。
これは聖剣を創ろうとした時にできた副産物のようなものだが、普通に魔力をそのまま放つより威力は高い。
最大出力の大魔術があの聖剣を模したカレドヴルフだが、それをやっている隙は敵にはなさそうだ。

だから時には光の矢、時には光の剣、時には光の鎌のようにして前キャスターに攻撃を仕掛けていた。
それを前キャスターは自らの下にある死の水でことごとく対応をしていたのだった。

 前キャスターに理性はもはやない。ただの傀儡。
与えられた命令のみに従い、残るは肉体に残った反射と、魂の赴くままに行動をしていた。

前キャスターの攻撃はその全てが水を用いた魔術で、他の攻撃が存在しない。
第一次においては他のものもあったが、今の彼女にはそれしかできなかった。

この柳洞寺に神殿を形成し、敵を迎え撃つ。
神殿のおかげでこの雨は全て敵の攻撃の威力を殺ぐ事に長けるようにできていたし、自らの下にある池は全て自らの色に染めた上でその意志どおり 動かす事ができる。
だが、前キャスターはその池から外に出る事はできない。町全体を生贄にする大魔術の構成はまだ未完成で、動くわけにはいかなかった。

 かと言って雨全体を変化させてキャスターを攻撃させるほどキャスターは甘くない。
動作の時間をさせないようにキャスターが魔術を使っているとしか思えなかった。

キャスターの見立てでは前キャスターとキャスターの魔力は同じぐらいで、持久戦になれば間違いなく他の勝負の方が先に決着がつく。
そんなのはキャスターにとっても前キャスターにとっても論外だった。
だがこのままではらちがあかないのもまた事実。

キャスターは敵が放ってくる水の魔術を撃墜させずにそのまま見過ごす事にした。そして自分の足でそれを避ける。
その間にキャスターは左右の上腕部をくっつける。

そして徐々に離す事によってそこに電気が走る。

それを大魔術の構成だと感じ取った前キャスターもまた動作を開始する。
自分を抱え込むようにしながら上半身を傾け、脚を曲げずに水面の方を向いた。
そして勢いよく上半身をそらす。

キャスターが腕を広げるとそこから雷が走る。
前キャスターが腕を広げると水面が盛り上がり、水の壁が出現する。


「神の敵を薙ぎ払え! 空走る光で!」

「タいダルうぇイヴ」


キャスターが放ったのは雷の大魔術。それは敵と言うより神を汚す全ての存在を薙ぎ払う光のようだ。
前キャスターは水の壁をそのまま動かす。洪水と言うより津波のごとくキャスターに襲いかかる。

互いの大魔術はちょうど中間点、水辺付近でぶつかり合う。

雷によって水を蒸発させつつ分解を行う雷の大魔術だが、水の大魔術はその雷の大魔術の威力を急激に殺いでいく。
そうして、結局互いの大魔術は殺されてしまった。

「ぐ…!」
キャスターは苦い顔をしてまた杖を構えた。

通常の津波ぐらいならそれを突破して前キャスターへ攻撃が可能だが、今回はそれもできなかった。
後ろで戦っているアーチャーたちの事を考えて範囲を広げて威力を拡散したのがいけなかったか?

「あー! やっぱり別の手考えるかしら!?」
帽子からはみ出ている前髪部分をぐしゃぐしゃとやりながら色々と思考を張り巡らす。

 ちなみに今回キャスターは宝具を全く用いていない。
大釜から召喚される円卓の騎士は彼女の支配下にある池の上にいる前キャスターに剣がとどくもんでもないし、対魔力がある騎士はごくわずか。
キャスターに言わせれば、今回の戦いでは正に「役立たず」だったりする。

他の宝具は攻撃にはさして役に立たない上に使う隙もない。
唯一つ使えそうな包丁は川の向こうに置いてきてしまったし…。

「炎は駄目。雷も駄目。光も駄目。騎士はバカばっかだし役立たずだし、どうすればー…」
独り言をしゃべっている間も互いの魔術の応酬は続いている。

「せめて池の水を全てなくすか停止させれば事態はぐっと好転するのだけど…」
だが今まで使った術は全て有効な手立てじゃない。
物体の動きに干渉する魔術はキャスターはもっていないし…。

「あ」
そこでキャスターはある一つの手段を思いついた。
と言うか今まで思いつかなかった自分を恥じる。

「氷の魔術を使えばいいじゃないか!」
敵は液体のエキスパートであっても固体のエキスパートじゃない。
なら液体を固体にしちゃえばいいと今さらながら気づく。

問題はその術式を完成させるのに時間がかかると言う事。
よけながら術を完成させるにも動作が大きいからそれには向かない。
どうしようかとキャスターは迷う。

「キャスター!」
その時、バーサーカーと戦っていたアーチャーが声をかけてきた。
見ればアーチャーはバーサーカーに背を向けて弓矢を手にしている。
そしてその矢は…。

「…なるほどね」
あんたも策士ねーと思いながらキャスターは笑みを浮かべた。
これさえあればあの前キャスターを出し抜ける。

そう思ったキャスターは前キャスターに注意を向けつつ魔方陣を杖で虚空にえがく。
狙うは、バーサーカーだ。

金剛杵ヴァジュラ――!」

「大いなる星の輝き!」


アーチャーとキャスターは敵に対して各々の手段で攻撃を行った。
ただし、普通の攻撃ではない。

 アーチャーの攻撃は前キャスターを襲い、キャスターの攻撃はバーサーカーを襲った。
アーチャーの放った雷をまとった矢は雨と迎撃に向かった水をはじき、前キャスターに命中する。

「ア"ア"ア"!!」

悲鳴を発する前キャスターを尻目にキャスターは術の構成にかかった。
動きは早くからゆっくりヘ、速度を落とす。
そして、


「長き冬は全てを覆う!」


池に近づいたキャスターの杖が水面に触れると、池の水がその杖からだんだんと凍っていく。
前キャスターもそれに気づき、急いでその凍った部分をどうにかしようとするが、凍結のスピードは前キャスターの対処よりはるかに早い。
そして池全体が氷で覆われた。

「…っ!」
「無駄よ。水面は凍らせてるし、あたしの魔力がこもってるからいくらあんたでも突破する事なんてできないわ」
氷の面に手を当てて魔術を行使しようとする前キャスターにキャスターはあきれながらつぶやく。
いくら前キャスターが優れた魔術師だろうと、水と言う触媒がないのだから大魔術はあまり使えないはずだ。

「いただき!」
キャスターは両腕に魔力をため始める。
いくら池を無力化してもまだ雨という触媒がある以上、念には念を入れる必要がある。
だから前キャスターを倒すのはキャスター最大の魔術だ。

「…?」
だが見れば前キャスターはあわてる様子が全く見られない。
池を使うことはあきらめてそのままうつむきかげんだが…。

炎や風と違って土や水を生み出す事はできないはず。
かと言ってこの氷を使役する様子もないし…。

「な…っ!」
だが、次の瞬間、ドルイドであるキャスターの背筋が凍った。
儀式のための生贄だって必要ならばささげたし、騎士たちが軽蔑するような事もやったし、恐れられる事などしょっちゅう。
そのキャスターの背筋が凍った。

前キャスターは、笑みを浮かべていた。

以前ならばそれは騎士たちに向けられ、士気を上げ心をなごませるものだったはずだ。
だが、今はそれは見るもの全てをぞっとさせるものと化していた。

その笑みからは絶望と嘆き、そして死そのものしか移していないのだから。

「!?」
そんな前キャスターの周りに突如として何かが飛来してくる。
撃墜しようとするキャスターだったが、大魔術のキャンセルに手間取ってしまい、それはできなかった。

「なんて…こと…!」
思わず手を覆うキャスター。なおも笑みを絶やさない前キャスター。

前キャスターを護るようにして立ちはだかっているのは数多の人だった。
いや、それはもはや人ではない。

「死霊魔術…!」
そう、目の前にいるのは文字通りゾンビだった。

この国は土葬よりも火葬がならわしのようで、死体は骨だけしか残らない。
だから目の前のゾンビはおそらく墓場の土を肉として創られているのだろう。

 本来魂は死後輪廻にまわり、ごくまれに世界に保存される。世界にとどまる場合もあるが、そんなの本当にまれだ。
なので死霊魔術は当然のごとくマイナー中のマイナーだったりする。ゾンビと言ったってゴーレムを作るのと何ら変わりはないほどだ。
だが、目の前にいる者たちは正真正銘のゾンビ。なぜなら、前キャスターを構成する魂が振り分けられているからだ。

「…分身、ってわけか」
飛来の様子から見ると普通の人間として復活させたわけでもない。本能で動くとは言え人間以上の筋力を持っているはずだ。

「なら…!」
キャスターは大魔術をあきらめ、光の魔術を放つ。
が、

「しま…っ!?」
ゾンビや前キャスターはそれをことごとくかわしてしまった。
光の性質上、直線でしか進まないのがたまに傷で、もしや軌道を読まれたか?

本能のままに襲いかかるゾンビたち。その間に前キャスターは大魔術の動作に入る。
こうなったら…!


約束された繁栄の大釜ディウルナハの大釜!」


キャスターは大釜を出現させ、それに手を触れて魔力を流し込んだ。
キャスターの思いに答え、キャスターの前に幾人もの騎士が出現する。

「囮がんばってね!」
「最初の一言がそれか…」
キャスターが笑みを浮かべながらそう断言すると呼び出されたダーヴェルががくっとうなだれる。
他にも呼び出された騎士は剣や槍と盾を構え、ゾンビの群れを迎え撃つために列をつくる。

「さあ! いこう!」
「分かってるさ…!」
ギャラハッドの呼びかけに応じ、ゾンビの群れの突進を槍で突き刺し、その間に剣で斬りかかった。

「さて…!」
キャスターは大魔術の動作に入っている前キャスターの妨害用に威力が低いが無視はできないぐらいの魔術を放つ。
前キャスターはそれを見て大魔術をあきらめ、手を天にかざした。

「ここからが正念場さ!」
キャスターは前キャスターに杖を向けた。


   /

「はああっ!」
憐は迫り来る蟲に対して剣をふるう。
なんとも不気味な感触が刀から手に伝わってくる。

「うあ、気持ち悪い…っ!」
斬られた蟲がグロテスクに憐の周りにちらばっていく。
そんな事を気にしている暇もなく再び蟲が襲いかかってくるのを憐はまた切り伏せた。

「憐お兄様。そんな事を言っている暇がありましたらこの状況を打開できる策をご用意ください。わたしより先に英国に留学なさったのでしょう?」
瑪瑙は車椅子に乗った状態で憐と背中合わせになっている。
そして手を迫り来る蟲の方へと向けた。

「――Anfang, …」

そして短い詠唱と唱えて魔力で構成された弾を蟲にぶつけていく。
数多く襲う蟲を数多くの簡単な魔術で応戦している状態だ。

「大体瑪瑙、何で宝石魔術使わないんだ? あれ使えば一掃できるのに」
「そう言う憐お兄様こそなぜお使いになられないのです? 本場で習ってきたのならさぞかし多くの宝石を持ち帰ったことでしょうし」
「宝石はほとんど兄弟子たちにもってかれた。俺の手持ちは今20に満たない。大事に扱いたいの」
「…そんな事をおっしゃってるからこの状況を打開できないのではないのでしょうか?」
あきれながら瑪瑙はため息をつく。

 そう、憐と瑪瑙は事態をいっこうに好転させてはいなかった。
臓硯が送ってくる蟲を相手に延々とそれの撃退を行うのみで、始めいた位置から一歩も動き出していない。
彼の用いる蟲はいもむしを想像させるやつやムカデを想像させるやつ、ゴキブリを想像させるやつ、などなど…。
中には想像すらできないグロテスクなものもいたが、2人がかりで対処できるレベルではあった。

とはいえ、一歩も動けないのも事実。
いくら瑪瑙が車椅子に乗っている事をふまえても余裕があれば臓硯に近づく事はできる。
だが、実際に憐たちは一歩も動き出せていなかった。

「…なあ瑪瑙」
「何でしょうか?」
「…俺たち」
「…ええ、そうでしょうね」
2人は完全に確信していた。
蟲ならば打ち抜けば酸を撒き散らすものなど飛びかかる以外にしてくるやつもいるはずだ。
だというのに臓硯が使うのは直接襲いかかってくるものばかりだ。飛んでいたり地をはっていたり飛びかかる差異こそあれど。

「…間違いなく時間稼ぎされてるな」
「ええ、そうですね」
憐は内心で舌打ちをする。

確かに今憐と瑪瑙を倒した所で臓硯にとって好転すると言えば単独行動持ちのアーチャーからマスターがいなくなるだけ。
確かにあまり好転するとは思えないが…。

臓硯のすることといえば、ただ事態を見守って笑みを浮かべるだけだ。
自身が何をするとかはない。今の所は傍観者のままだ。

「…このままじゃらちがあかない。瑪瑙、きっかけは俺が作る」
「分かりました。それではそれに備えましょう」
憐がそううながすと、瑪瑙は魔術の合間をぬってポケットから宝石を取り出した。

騎士ならば立ち上がれ! その不義にはその剣をもって答えよう! そしてその思いは消える事無く心に刻め!

「…宝石魔術ではない上に詠唱は英語ですか。遠坂の魔術師ならばドイツ語を使ったらどうです?」
いや、俺英国のグリーンウッドの魔術師だし、宝石は数が少ないし、と言いたかった憐だったが詠唱中にそんな事もできるはずがなく。
憐が唱えているものは大魔術ではないが簡単な魔術ではない。それを憐は臓硯の方をむきながら唱えた。

「走って燃やして吹っ飛ぶ!」

そして憐が刀を振るうと、雨にも関わらず炎が走った。
走った炎は地面を這う数多の蟲たちを焼いていく。

「…何ですかそのネーミングセンスの欠片もない名称は」
「悪かったな」
「ですが…!」
走った炎は臓硯の前方にいた蟲たちの方を焼き払っていて、守る蟲も少なくなっている。
なら…!

「――Anfangセット, Eing1番, Zwei2番, RozarotNagel薔薇色の爪 !」

2つの投げられた宝石はそれぞれの役目を果たさんとし、臓硯に襲いかかる。
そして次々と命中しては爆発を巻き起こした。

「うわあ…」
憐は思わず声をもらす。
鮮やかなまでの魔術は一言で言うなら、優雅だった。

「…本場で学んできた憐お兄様がなぜ感嘆の声をもらすのですか?」
「いや、俺自身は遠坂の魔術を学んでなかったから、どんなものなのか知らなかったんだ。だけど今日ようやく分かった」
遠坂の魔術はここまで人を魅了するものだったのか、と。
はずかしいし自分の考えだけなのかもしれないのでとりあえず黙っておく事に。

「…英国の方がもっと優れていると思いますけど。まだわたしは未熟ですし」
「…何でだろうな」
確かに瑪瑙は魔力の量こそ高いかもしれないけど、魔術師としての腕なら兄弟子の方が上なのは断言できる。
それでも、これなら遠坂はいつか到達できるのではないかと内心ながら思ってしまう。
これは自分の先生にすら思った事がない事柄だった。

 爆発で巻き起こった煙や水蒸気が晴れていく。
今の威力なら無防備だった臓硯を間違いなく倒しているはずだが…。

「…なるほど、今回の遠坂も優れたものぞろいのようじゃな」
「「!?」」

だが、晴れた先に見えた臓硯は全くの無傷だった。

「無傷…!?」
「そんなバカな! あれだけの術をくらえば無防備だったおまえは…!」
瑪瑙も憐もそれが信じられないと言った顔をしてそれぞれ主張する。
そんな彼らに対して臓硯は笑みを浮かべる。

「何、マキリの魔術は吸収。それを知らぬ遠坂でもあるまいて」
「今の魔術を全て吸収したとは思えませんが。もっと他の手段を用いたのでしょう?」
瑪瑙は辺りに視線を走らせる。

再び集まってきた蟲に覆い隠されてしまった焼き殺された蟲、そして裂傷を受けている蟲、斬られたりつらぬかれている蟲…。
雨、臓硯、マスター、サーヴァント…。

「なるほど。前キャスターの魔術で威力を殺ぎ、蟲を使ってガードをした上に吸収の魔術を用いましたか」
「ああ、なるほど」
「ほう、見抜いたか。慧眼と言うべきかな?」
憐も思わず納得してしまう。

先日に行われたアーチャー対前キャスター戦でアーチャーが放った宝具の威力が殺がれた点から考えても、この雨はこちら側に不利になると判断 する事ができる。
加えて蟲の死骸の量。焼いた蟲にしては数が多い。他の原因で死んだとしか考えられない。
なら、ガードに使ったとも考えられる。

「20を超えずしてこれか…。これは将来が楽しみじゃろうて」
「戯言を」
憐と瑪瑙は再び構えをとった。
どのようにしてこの魔術師を倒すか思考を張り巡らしながら。

「じゃが…今は敵対する間柄」
そして臓硯の周りにまた蟲たちが集まってくる。
先ほど倒してきた蟲とは異質のものばかり。形も大きさも千差万別、多種多様だった。

「速やかに退場してもらおうかの」
「やって御覧なさい」
「受けてたつぞ!」
再び魔術師の戦いは切って落とされた。


   /

 山門の戦いはまだ続いていた。
戦局は相変わらず変化が見られず、互いに武器を振るうだけ。
その攻撃も互いに有利になる事もなく、ただ硬直状態が続いているだけだった。

剣を振るいながら前セイバーはこの状況にうんざりしていた。
これではただ時間稼ぎをしているのと同じなのだから。

「さてライダー」
「む?」
前セイバーは剣を振るいながらライダーに呼びかける。
鞭を振るうライダーはそれに答えながらもその手を止めようとはしない。

「この状況を続けるか、否かだが…どうする?」
「戯言を。続けるに決まっているだろう」
予想通りの返答。
それもそうだ。いくら硬直状態とはいえ、ライダーは前セイバーに直接攻撃を仕掛けられる。
だが前セイバーの剣では空を飛ぶライダーを捕らえる事はできない。直接攻撃ができないのだ。
だからある意味ではライダーが有利に見えなくもない。

「こんな茶番をか」
本来なら戦闘、それも死闘の戦いを前セイバーは茶番だと言い切った。
その表情からは明らかに失望がうかがえる。

「悪いがライダー。そうしている以上、ワタシにはいつまでたっても勝てないぞ」
「何…!?」
ライダーは前セイバーの発言に顔を曇らせる。
なぜなら前セイバーの発言はライダーの戦いを否定しているようなものなのだから。

「おまえの鞭はワタシの剣によって全てはじかれている。その神獣も用いようとしない。それで勝てると思っているのか?」
「ぐ…!」
だから前セイバーはあおる事でこの先に進もうとしていた。
このままでいけば決着する頃には朝日が昇ってしまうだろうから。

「…それは貴様も同じ事だろう。違うか?」
だから冷静さを取り戻したライダーはそう断言をする。

「ああそうだな。だがワタシはいつまでもこのようにしているのはいい加減無駄だと思うのだが」
「無駄…か」
「お互いに決め手にかけている以上、無駄以外の何物でもないだろう? それに…」
ちらっと前セイバーは境内の方を見る。
すぐに視線を戻したが。

「お互い時間稼ぎをしている暇もないだろう」
「…」
確かに敵サーヴァントと自分のマスターが戦っている以上、一刻も早く加勢に行きたい。
なら前セイバーは確かに邪魔なだけだ。

ライダーはそれを思うと、黒麒麟の背中を叩いた。

「行くぞ!」
そしてライダーがそう言い放つと、麒麟が急降下を始める。
もちろんライダー自身は鞭を振るったままだ。

「む…!?」
麒麟の角と前セイバーの剣が音をたててぶつかり合う。
魔力と魔力のぶつかりが激しい音と衝撃を生み出す。

前セイバーは麒麟に対して払いで攻撃を仕掛ける。狙うは麒麟の目だ。
が、それはライダーが振るった鞭によって威力を落とされた隙にかわされてしまう。
その間に麒麟はその首をふるい、角で攻撃を仕掛けた。

「ぐ…!」
体勢を崩しながらそれをかわす前セイバー。
その表情が苦悶にゆがむ。

ライダーの振るう鞭はその武器の性質上、体重がかけられないため剣にはかなわない。
だから片腕でも対応しきれたが、麒麟の攻撃は別だ。

何しろ幻想種最高の存在であるドラゴンの前で幾人もの英雄が命を落とし、勝利を収めてもその体に負傷を負うことはよくある事だったからだ。
大陸の方で竜と並ぶ鳳凰と麒麟、これらもドラゴンと並ぶ存在と考えてもおかしくない。
万全の状態で望んでも死ぬ確率が高い勝負、前セイバーは腕を負傷していて満足に戦えすらしない。

しかもライダーと麒麟が同時に襲ってくるのだ。
結果、前セイバーは対応しきれずにだんだんと後退し、追いつめられていく。

剣を振るえど振るえどライダーの鞭で威力を落とされ、対応されてしまう。
同じく麒麟の攻撃にもライダーが邪魔をして思うように対応ができない。

 やはりこの動かぬ腕を無理やりにでも動かし、対応するしかない。
この先どうなろうと、目先で命を落としては全く意味がないのだから。

「ぐ…あ…!」
だから前セイバーは動かぬ腕に無理やり魔力を流し込み、動かそうとする。
両腕なら…。

「させん!」
ライダーの命令で麒麟がその角を振るう。

麒麟の角がその動かそうとしていた腕に突き刺さった。

勢いをそのままに吹っ飛ぶ前セイバーは山門に激突、そのまま土の壁を破壊して境内を転がる。
前セイバーは動く腕で剣を地面に突き刺し、杖代わりにしてすばやく起き上がる。
今の攻撃で腕は完全に動かなくなっていた。

「…ふ…」
前セイバーは思わず笑みを浮かべてしまう。
自分の剣は両手で剣を持ち、魔力をこめてその勢いで敵を斬り伏せるものだ。小細工など必要なく、ただ眼前の敵を倒すためのもの。

(まさかそれ以外の、仮の剣を実戦で使う事になるとは…な)
幸いにも腕以外の負傷は大した事はなく、戦闘に支障はない。
なら…。

 前セイバーは剣を後ろに退いた。そして負傷している腕の方を前に出す。
本来なら負傷している腕には盾を装備するのだが今はこれでいいだろう。

「ふっ!」
ライダーは鞭を振るいながらその間合いを縮めていく。
が、その鞭は空を斬る事になった。
何の事はない、単純に前セイバーが高速で移動をしただけだった。

「む…!?」
前セイバーが避けた方向にライダーは鞭を振るうが、対応しきれない。
円をかきながら前セイバーは間合いを縮めていき、

「はあっ!」
気合と共に剣を振るった。
幸いにもそれは麒麟が防いでくれ、ライダーはそれの追撃に入る。
が、

ライダーの鞭もまた前セイバーの剣ではじかれた。

「いや、これは…!?」
違う、今までの前セイバーの剣じゃあない。

前セイバーは相手の攻撃の威力を全部受け止めて反撃に移っていた。時に避けてタイミングをそらす事もあったが。
だが、今の前セイバーは相手の攻撃をギリギリの所で受け流し、避けるのも本当にギリギリの位置だ。
そしてその攻撃の回数も少なくなっているし、威力も下がっている。
だが、このやりずらさは一体…?

「やはり、手数の勝負だったか」
「何…!?」
前セイバーは受け流しきれない鞭で確実にダメージを負っている。
だがそれはどれも致命どころか戦闘に支障が起こらないものばかり。
その中、前セイバーの発言にライダーは表情を歪める。

「今のセイバーとアーチャーの動きを見比べればよく分かる。力が全てではないという事だ」
「では今は技術を主体にして戦っているとでもいいたのか…!?」
「そうだ。これももはやワタシの剣」
ライダーと麒麟がさばききれない剣が次々とライダーに刻まれていく。
どれも一撃での必殺の威力はないが、無視できないものではない。

「ぐ…!」
威力がない分、速度が上がっている。しかもその速度が上がってきている。

「はああっ!」
前セイバーは魔力を放出する。
次の瞬間、前セイバーの剣が閃光のごとく走った。

「な…っ!」
ライダーは驚愕した。
問題はその閃光の数が一つではなく、いくつも見えてくる事だ。

麒麟はライダーが危険だと判断し、前セイバーから間合いを離すようにして上空に飛び上がる。
ライダーは無数の切り傷を受けていて、特に鞭を持っている腕がひどかった。
傷を抑えるライダー。

「い…今のは…!」
何の事はない。単純に前セイバーの斬ってまた斬る動作にライダーがついていけなかっただけだ。
一撃に必殺の威力はないが、全てあわせれば正にそれは『必殺技』の域に入るのではないか?

「ライダー、どうやらおまえは乗っている方が優れているようだな」
「何…!?」
目を細めて笑う前セイバー。剣を持ちながら腰に手を当てている。

「ライダーのクラスに当てられる英雄は大別して二通り。自身が優れて乗り物はおまけ、そして自身は優れないが乗り物が優れている場合だ。
 あのイスカンダルが召喚されれば前者になるだろうし、ベルレフォーンが召喚されればペガサスに振り回される後者になるだろうな」
「ぐ…!」
「ではおまえはどっちだライダー?」
そうは言っているが、明らかに前セイバーは今回のライダーは後者の方だといいたそうだった。
ライダーは拳を握り締める。

「後者の場合は乗り物が優れていようとその本体を倒してしまえば『ライダー』は終わりだ。
 だが前者の場合乗り物を倒しても『ライダー』自体はリタイアではないからな。そんな意味では前回のライダーは手ごわかった…」
「…なら…これを受けてみるがいい!」
ライダーはそう大声を放つと、麒麟の角に雷が収束していく。
ここまで愚弄されて黙っていられるほど人間ができているものなどいるものか、と。

「前キャスターにやったようなものとは違うぞ! これは黒麒麟最大の攻撃なんだからな!」
上空にいるライダーたちを阻む手段は前セイバーにはない。
つまり、この雷を事前に防ぐことはできないし、避ける事もできないだろう。
だが、

「…望む所だライダー!」
前セイバーにとってはそれは絶好の機会だった。
その最大の一撃を行えば停止する事は避けられない。なら、自身の宝具が存分に使える事になる。

前セイバーは自身を覆う偽りの衣を解き、剣を覆う漆黒の闇も剣から発せられる光で剥ぎ取る。
前セイバーの膨大な魔力がその剣に収束される。
その剣、そしてその姿が本当の姿を現した。

「…!?」
ライダーはここでようやく今まで戦っていた前セイバーの姿を見た。
その姿は…。


「―――――」


魔力が収束した剣を片腕だけで大きく後ろに下げる。
両腕ならば絶対にしなかった構えだが、この際仕方あるまい。


「天地翔ける聖なる裁き!」


麒麟の角から膨大な雷が発せられる。
まるで地上にある全てを浄化しようとするかのように。


「――――!」


それとほぼ同時に前セイバーは剣をふりきった。
剣から発せられた光は正に夜に光をもたらした。
それは正に太陽、星の光だった。

「な…っ!」
星の起こす一現象を極限まで高めた一撃は、
星の輝きにより切り裂かれていき、


ライダーと麒麟をも斬った。


「あれは…!」
キャスターは戦いをそっちのけでその天に昇っていく光を見た。
それはまるで星の輝き。
そう、それは…。

「…これで決まりだね」
キャスターは確信した。
これは、自分が目指した剣そのものだと。

「前セイバーはシグルズと同じく太陽の剣を持つ英雄…!」
キャスターは拳をかたく握り締めた。


「…!?」
アーチャーもそれを見た。
天に昇っていくその光、それは…。

「…」
アーチャーは自分の手を見つめた。
その時、彼は何を思ったのかはアーチャー以外知る者はいない。
彼に刻まれた思いもまた…。


「が…!」
「レイリー?」
アサシンの放ってくるダガーをはじきながらディートはレイリーの方を見る。
彼女は持っていた剪を床に落とし、片方の手をもう片方の手で押さえて膝をついている。
これは一体…?

「あらあら…」
くすくす、とマキリは笑った。
そのレイリーの隙を狙おうともせず、彼女の方を眺める。

「どうかなさったんですか?」
マキリはレイリーに起こった事をわかっていながらそうやさしく問いかける。
その笑みはとてつもなく黒かった。

「レイリー!」
ディートはレイリーがおさえている手を手に取り、それを見る。
そして、ディートは青ざめた。

レイリーが本来持っているはずのライダーの令呪。
それがなかった。


to the next stage…


第21話に続く

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 ライダー脱落。残るサーヴァントは8体。
せっかく脱落したのでライダーにまつわる裏話でも。

小ネタにもあるようにライダーは元々メドゥーサでした。
しかもロアの(つまりディートの)サーヴァントでしたし。
キャスターをニムエにしようと考えてからライダーは憐のサーヴァントに変更。
この時点で既に双魔と憐を兄弟にしようと考えてます。
本格的に連載を考えるようになってから憐とアーチャーを組ませました。
と同時にライダーは聞仲に変更。漫画版と違って原作版にしようと思ったのであまり強くない印象がぬぐいきれませんでした。
この時点で瑪瑙を追加し、ライダー組を彼女の協力者にしようと考えついてます。
そしてライダーのマスターを中国人にしようと思ったのが第9話を書いている時点です。
それまで仮にバーサーカーのマスターのようなフランス人に仮にしてましたけど、今は変更してよかったと思います。
レイリーを宝具持ちにしたのが第12話を書いている前後です。

実はライダーがここで脱落するように変更したのが結構後の方。
以前はもっと後までライダーは食い込んでましたがその役は前キャスターに変更、ライダーはここでリタイアになりました。
ちなみにマスターは最初から全然変わっていません。ライダーがメドゥーサで憐のサーヴァントだった頃から全く。

…結局自分は話の骨を考えて肉付けはするのですが、その肉を結構変更しています。
一番書きたいところは全く変わっていませんが、他は変わるかもしれません。
今でも「こうした方がいいかな?」と変わっています。
それが良い方に向かえばいいと思います。

それでは引き続き決戦の場で。
  2006年11月19日


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