/4日目

「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
その場にいる6人は無言だった。

 目の前にいるセカンドオーナーと名のったメノウは紅茶をすすっている。
それは英国風に言うならエレガントというべき風格だ。
僕は内心でひどく驚きながらも紅茶をすする。
レンが入れてくれるのやアーチャーが入れてくれるものとはまた違ったものだ。

「紅茶はやはり葉と入れ方にもこだわらないといけませんからね。それは徹底させています」
と、メノウは力説していた。
だから紅茶は心を癒すかのようにおいしかった。

で、キャスターはそれよりクッキーの方をつまんでいる。
これはメノウ自身が作ったものらしく、なかなか紅茶と合っていた。
本当に午前中だというのに、アフタヌーンティーを楽しんでいるようだ。

 そんな僕達は目つきがかなり怪しくなっている。
別にメノウ自身に怪しい所は何一つもない。
むしろ人の気を引くぐらいの風格ではあるけれど。

「おかわりは?」
紅茶を注いでくれた女性はそうメノウに述べる。
凛とした物腰がまたメノウとは違った雰囲気をしている。

「いえ、まだ結構ですからそこで待機なさっていてください」
「了承」
その女性はメノウの言葉にこくりとうなづき、遠くの椅子に座る。
そこまでは問題ない。家政婦を雇うぐらいどこでもするだろう。


問題なのはその女性がライダーのマスターだと言う事ぐらいだ。




Fate/the midnight saga(仮)

第15話


   /

「さて、まず述べておきたい事は、もはや双魔に関してはわたしたちも把握していないという事です」
紅茶も半分になってきた頃、メノウはそう言った。

「双魔を把握していない? どういうことなのですか?」
遠坂と名乗る2人である以上、絶対に最低限親戚関係ではあるはずだ。
なのに、なぜ?

「双魔はわたしのお兄様です。本来でしたら彼がセカンドオーナー、つまり遠坂の家督を受け継ぐはずでした」
そう言うとメノウはそでをまくっていく。
そこには何一つたりともしみがない、綺麗な肌があった。

「見ての通り、令呪はおろか魔術刻印すらありません。わたしは生まれ持ったものと途中からの修行でしか魔術の鍛練ができませんでしたから」
「…」
「ですがわたしはセカンドオーナー、この地を守っていく義務があります。例え聖杯戦争に参加していなくても」
「その後始末はしなければならない、ですか」

思えばまだ数日しか経っていないけど、かなりの被害が出ているはずだ。
それについてさわがれないのは、隠蔽を行っている人がいるからだろう。
マスター達にそれをやる余裕がないなら、参加していない者がやる必要がでてくる。
今回はそれをセカンドオーナーが引き受けているのだろう。

「参加していないのはこの通り、わたしが戦闘者としては脱落しているからです。この状態では英雄の足をひっぱるだけですからね」
メノウは腕を広げる。
車椅子に乗っている彼女が攻撃を回避するために高速で動くには、二本足で動ける僕らより困難な事だろう。
両手がふさがっていれば反撃ができないし、魔術で高速移動すれば隙が生じる。

「参加をしていればわたしも当事者、ですから第三者が監督者として事後処理を行うべきだと思うのですが、今回はこのような形となりました」
「それはご苦労様です」
「ですがわたしは体が不自由な身。ですから不本意ではありましたが、協力者に来てもらう形となりました」
そう言うと彼女はライダーのマスターに手を向ける。

「ご紹介します。ライダーのマスターであり、わたしの友人でもある王麗俐。彼女にはわたしの移動と事後処理の手伝いをしてもらっています」
レイリーは無言でこちらに頭をさげた。
僕も頭を下げる。

「他にもマキリの者の動向やこの地への被害を顧みない者たちの打倒をしてもらっています」
それが昨日のバーサーカーとの戦いか。
セイバーのお嬢様たちも夜は出歩いているはずなのに、戦闘を含めたら3回もバーサーカーに関わってるし。

でも、

「それならレンや双魔を狙う理由になっていないようですが、どうなのですか?」
「……」
メノウはため息をつく。
まるでそれを話したくないような表情だけど、逆に話さねばならないとの表情にも見える。

「その事で貴女の協力がいただきたい」
「?」
そして、キッと僕の方を見据えた。
お嬢様もそうだけれども、魔術師の当主は皆こうなのだろうか?

「協力、とは?」
「それは…」
一瞬目をつぶるが、また目を開けてこう言った。


「憐と双魔を早々に脱落させていただきたいのです」


「え…!?」
「お兄様たちはサーヴァンを持つべきではありません。レイリーにも協力させますから、どうかご協力を」
メノウは頭を下げる。
レイリーはそれを見ても無反応で、彼女の傍らに待機するライダーは腕を組んで目をつぶっている。

憐と双魔を早々に脱落させる?
なぜ?

「貴女の事情は聞き及んでおります。その事に関してはわたしたちが全力で協力いたしますし、脱落した後なら憐も助けを与えるでしょう」
「悪いけど話が見えてこないんだけどさ」
混乱している僕に代わり、キャスターがこう鋭く言い放った。

「何で君は同じ遠坂の名を持つ双魔と遠坂と関係ないレンをどうにかしようとするわけ? その辺の事情を話してくれないかなぁ」
ずけずけとキャスターは言うけれど、内心で僕がいいたかった事だ。
理由も知らずにそんな協力をできるはずがない。
レンの思いは無駄にしたくないから。

「……」
「事情を説明してくださらないのでしたら帰らさせていただきます。どうも紅茶をごちそうさまでした」
なので僕は丁寧に紅茶の入っていたカップを持ち上げ、立ち上がろうとする。
ライダーがまたレンを狙う可能性は高いけれど、キャスターとアーチャーなら何とか対抗できるだろう。
なら、これ以上いても無駄だ。

「…10年以上前の話です」
「「…!」」
僕らは動きを止める。

「瑪瑙」
「かまいません、レイリー。協力していただくのですから、ある程度は事前に話しておかねばなりませんでしょうし」
何か秘密にすべき事なのだろうか、レイリーが話すのをやめにするが、この言葉と手の制止だけでレイリーはそのまま座ってしまう。
従う、と言うよりそれだけ信頼関係が成り立っているといった感じだ。
現にレイリーは軽くため息をついている。

「憐がレン・グリーンウッドになる前の話でしょうか」
「レン・グリーンウッド?」
Len Greenwood.
グリーンウッド…?

「ってそれはもしかして…!」
ひとつの可能性が思い浮かび、はっと驚く。
メノウはそれにこくりとうなづいた。

「はい。大師父の弟子の中で数少なく廃人にならずにすんだ魔術師としては優秀な、でも魔法にはほど遠い人。サー・エドワードです」

 サー・エドワード・グリーンウッド。
本名エドワード・グリーンウッド・フォース。
4世の名はついているけど実際は結構古くから続いている魔術師の中では名家の分類、でもそのわりにいたる事がないと言われている。
確かに宝石魔術を扱うと言われているけど、同時になぜか研究以外の事にも手を出す事が多い。
執行者の仕事を肩代わりしたりと代々変人が多い。

伝説に残っているのは、彼を含めた何人かの優秀な魔術師が宝石の翁の何らかの試験を受けたらしい。
見事にエドワード以外魔術師としてどころか人間としても廃人になったとか。
それから鋼の精神だとか勇者だとか、尊敬されたとか、だから魔術師なのに『サー』だとか。

そのグリーンウッドに、レンが養子に?

「といいましても数年前彼は他界なさり、憐が彼から受け継いだのは接近技術用の魔術書といくつかの備品のみだったそうですけれども」
うーん、お館様に聞いた話ではエドワードは結構弟子をたくさん取ってたみたいだからね。
魔術書をもらえただけでも凄いと思うけど。

「ですからグリーンウッド=緑の木、すなわち真木です」
「え?」
僕はてっきり真木がレンの本名かと思っていた。
でも違うの?

「詳しくは憐本人にお聞きください。彼の時計塔での生活に関しては数年前、彼が戻ってきた時に聞いただけですから」
「あ、そうか」
いくら魔術使いだからって、魔術師の弟子である以上魔術師と考えられるのが普通。
なら、いくら極東とは言えセカンドオーナーがいるからには最低限報告の義務が発生するだろうし。

「日本人である彼にそうさせた原因、それが10年以上前の話なのです」
「…」
ふう、とメノウは一息つく。

「その頃はわたしは魔術の事は全く知りませんでした。あくまで遠坂を継ぐのは双魔と誰もが思っていましたから」
だろう。特別な、例えば魔法に至る可能性が弟や妹の方が高いとか(僕らアインツベルンがまさにその例に入るだろう)、 事情がない限り家系を継ぐのは長男か長女だ。

「ですから同じく魔術の事を全く知らなかった憐とも遊んでいました。双魔お兄様も数少ない訓練の合間を縫って遊んでくださいました」
「双魔とレンは幼なじみだったんですか」
「ええ…」
と、メノウは横の窓を眺めた。
それはどこかが寂しげで、どこか懐かしげだった。

「あの頃は良かった…。魔術師とかは関係なく、ただ楽しかった…」
「メノウ…」
「現実を見ない愚かな少女のはかない願いにすぎませんが、とにかく楽しかったのですよ。毎日がめまぐるしいほどに」
ふっと笑いながら目をつぶると、また元の表情にメノウは戻る。

「その時の遠坂の当主様、先代は憐にもやさしくってですね、憐は先代の期待を得ようと色々としたみたいです」
それは残念な事だけど、無意味に近いだろう。
先代、つまり魔術師が望むのは魔術に関する事。他の、剣術とかに秀でていても喜びは…。

「百目木の道場にその頃はもう通っていましたから、わりと優れた方だったようですよ」
「そうですか…」
「…貴女のご想像通り、先代も憐の上達に表面上は喜んでいましたけど、憐は魔術師ではありませんでしたから。
 ですから、魔術の事を知らない憐は更に努力していったんですよ」
「…」
振り向いてもらえない人に振り向いてもらえない。
それは、どんな気持ちだろうか。
僕がお嬢様に対してそんな態度を取られたら…。

「それで、後から分かった事ですが双魔は稀代の天才だったようです。魔法にたどり着くうんぬんはともかくとし、魔術師としては」
「稀代の天才、ですか」
「はい。魔法には至らずとも、確実に時計塔に行けば優秀な魔術師になれたでしょう」
ここでレイリーは紅茶のおかわりをついでくれた。
少しぬるくなっていたけれど、それでも十分においしくいただけるよう配慮された、すばらしいものだった。
それを飲み干したメノウは急に暗い表情になる。

「そして10年前、あの事件が起こったんです」

外は大雨がふりそそぎ、雷鳴まで聞こえてくる。
これでは今日一日は間違いなくこのままの天気で決定だろう。

「あの事件があり、わたしはこうして再起不能となり、憐は魔術師となる道を選んだのです」
「それ…、どういう事なんですか?」
普通に生きてきた2人、魔術師の後継者として生きてきた1人。
彼らの運命を大きく変えたこと。
それは…。

「…」
若干のためらいはあったが、意を決してメノウはこちらを見る。
そして、こう言った。


「双魔が遠坂の者を殺したのです」


再度起こった雷でメノウの顔が光る。
辺りを静寂が支配する。
だれもその沈黙を破ろうとするものはいなかった。

「詳しい事は何も分かりません。ですが、結果的に先代を始めとして多くの人が死に、双魔を含めたほんの数名だけが生き残ったのです」
「…」
言葉も出ない。
今の双魔は20代前半。
その彼が、大人の魔術師たちを全滅させただって…?

「それも双魔お兄様以外は魔術師として再起は不可能となり、遠く離れていたわたしですらこんな事に…。
 わたしに魔術を教えてくれたのはその生き残りの人たちが力を振り絞ってやってくれたからなんです」
では、先代遠坂家当主に見てもらいたかった憐は…。

「逆上した憐は双魔の返り討ちにあい、双魔はそのまま行方をくらませました。
 サー・エドワードに養子になるようその頃言われていた憐は彼が双魔と同じ魔術師と知ると、日本を去っていったのです」
メノウはそういい終わると、入れられていた紅茶をすする。

「お分かりになられましたか?」
「はい、丁寧なご説明でした」
つまり、憐と双魔は元はとても仲が良かったけれど、憐の尊敬する人を殺されたから彼をうらんだわけか。
それが彼の決意だったのだろうか?

「憐がこの戦争に参加した本来の目的は双魔との決着と真実への到達でしょう。どうやら今は貴女のおかげで若干変わったようですが、
 それでも彼との決着をやめようとはしていないはずです」
昨日今後の事で話し合ったとき、キャスターの言葉に憐は力強くうなづいて、ランサーを倒そうと言った。
それは僕に手をさしのべると言ってくれたときとはまた違った決意を感じさせた。

「…レン…」
彼はどれほどの決意を持って聖杯戦争に挑んだのだろうか。
復讐のみにとらわれて参加しているようには見えない。
けど…。

「双魔が参加した理由は残念ながらわたしからはいえません。憐も言わないでしょうから双魔自身にお聞きください」
「…」
「憐の方は説得でかまいませんから、双魔と争わないようにしていただきたい。
 双魔の方はレイリーに協力させるので、憐と戦わせないようにしていただきたいのです」
これ以上2人が争ってほしくありませんから、と付け加える。

僕としても私念に走るレンは見たくない。どれだけソウマとの因縁が深くても、そんなのレンらしくない。
でも、僕はメノウと違ってレンと知り合ってからそこまでの年月が経っていない。
なら、あまり言う資格はない。

「いかがでしょうか。悪くはない提案だと思いますが」
「それってこっちにはメリットもデメリットもないじゃん」
キャスターがそうキッパリ言い放った。
その表情は以前厳しい。

確かに、メリットはセカンドオーナーが味方についてくれる事だけど、こっちにはメリットがあまりないかもしれない。
何しろ、僕らは勝ち進まなければならないのだから。
もちろん僕だけのためじゃない。レンやお嬢様のためにも。

「はい。ですからこれはセカンドオーナー、いえ、遠坂の一個人としてのお願いです」
そう言ってメノウは頭を下げる。
つまり、これは魔術師としてではなく1人の人間としての頼みなのだろう。
だとしたら僕は…。

「…残念ですけど、約束はできません」
そういう事にした。

「なぜ」
メノウの表情が厳しくなる。
それも当然の事だろう。

「私にはレンをとめる資格はありません。それに、まだレンの方の話を聞いていませんからお約束はできません」
もちろん幼なじみが殺しあう事は見たくないのが当然だろう。
それが自らの尊敬する人を殺されたんであっても…。

でも、レンにはそれ以上の決意が見える。私念以外の何かが。
なら、レンの意志も知らなければメノウの協力はできない。

でもこの発言をしたと言うことは、彼女の意志に反したのだからライダーを敵に回した事になる。
こんなせまいところでは不利には違いない。

「…分かりました。考えがお変わりになったらまたおこしください」
「紅茶はごちそうさまでした。とてもおいしくいただけました」
僕は頭を下げ、そのまま立ち去る事にする。
立っていたダーヴェルはそのままライダーたちの牽制を目線で行いながら僕らの安全を確保している。


「マキリにはお気をつけなさい」

「え?」


居間から出て行こうとしたとき、彼女はそんな事を口にした。

「マキリに?」
おそらくマキリの所有しているサーヴァントはアサシン。
確かに気をつける相手ではあるけれど、マキリ個人を気をつけなければならない理由にはならない。
なんで?

「マキリのサーヴァントはアサシンではないですか。なら特別な注意を払う必要は…」
「…アサシンだけではありません」
「アサシンだけでは、ない?」
あのバーサーカー組がマキリと手を組んでいるにしては随分とお粗末な話だし、それでもアーチャーとキャスターに倒せなくはないと思うけど。

「よしなに」

結局それ以上の事を聞きだすことはできず、僕らは遠坂邸を後にした。
ダーヴェルが大雨の中を待機していた兵士をねぎらい、ついでにニムエへの愚痴をつぶやく。
それをニムエが杖を振り回して追いかけている。
僕はそんな光景を見ながらも、頭はレンとソウマの事でいっぱいになっていた。

レンとソウマ。
2人の因縁と関係は思った以上に深そうだ。


   /interlude

 深夜、黒づくめはただそこに立っていた。
見上げているのは星空…ではなく、ただの曇り空。
大雨はいまだ振り続け、黒づくめの体に当たる。

「…」
まるで自分の心の中を移しているようだな、と黒づくめは思った。
その大雨は依然止む気配がない。

「もうすぐ…もうすぐだ…」
黒づくめは顔を上げながらそうつぶやく。
もはや目の前にゴールが迫ってきているのを、大きく喜んでいた。
歓喜ではなく、涙を流すような感動。

「もうすぐで終わる…」
そのまま黒づくめは歩き始めた。
水溜りを踏みしめるので水や泥がはねるが、そんな事は全く気にならない。

「これでようやく終わる…」
だけど、別の意味ではまだ始まったばかりだ。
だから、その感動もねじ伏せて気を引き締めよう。
ようやくおとずれたチャンスなのだから。

「…!?」
大雨の中、その黒づくめに気づく者たちが2人。
大剣を片手で持つ全身鎧の剣士と、その肩に乗るとても小さな魔術師。
2人は、特に魔術師の少女はその黒づくめをにらみつけた。

「…驚いた。本当にこの大雨の中うろつくやつがいたんだ」
クリスと呼ばれる少女はそうつぶやく。
子供っぽく言うが、その目つきと雰囲気は魔術師のそれだ。

「降りていろマスター」
クリスをおろすと剣士、セイバーは剣を両手で持ち、剣先を敵に向けて構えをとる。

「セイバーのサーヴァントと見る」
黒づくめはそうセイバーに対して言い放った。

「そうだ」
「そうか…」
黒づくめは肩に背負っていた布でつつまれた長い物、その布を外し、それを取り出した。
それは、黒き剣だった。
光を一切通さないような、漆黒の剣だった。
が、禍々しさは全く感じさせない。むしろその漆黒が秩序を作り出している。

「ならばワタシと戦え」
黒づくめはそう述べると脇構えをとる。

両者の間合いは10メートル。
この程度など両者にとってはゼロに等しい。

「…なんで…?」
一方、それを眺めるクリスは困惑していた。
アインツベルンのマスターとして参戦するからには、どのサーヴァントがどのクラスか知る必要がある。
そして、敵の真名をいち早く知り少しでも有利になるようにする。
その能力、宝具、戦闘方法、あらゆるものを看破するように。
だが、

「分からない…」
目の前の黒づくめは全くの正体不明だった。
真名が何かどころかクラスも、能力も、目の前の人物がサーヴァントかすら。
気配はある。そこに人がいるということも。
でもそれがごまかされている感じだ。

「あなた、何者なの?」
き然とした態度でクリスは言い放つ。
黒づくめはそれに気づいても構えをとかない。

「アサシン、とでも名乗っておこうか」
「アサシン!」
今まで姿を見せていなかった、最後のサーヴァント。
クリスは笑みをこぼす。

「莫迦ね。アサシンごときが私のセイバーにかなうとでも?」
「かなうかかなわないかは戦ってみれば分かる事だろう、違うかセイバー?」
「な…っ!」
クリスが述べた言葉は黒づくめによってクリスを無視し、セイバーに渡された。
それにクリスは怒りが昇るが、抑えて我慢する。


「じゃあ殺しなさい、セイバー」
「了解した、マスター」

「行くぞセイバー」


セイバーと黒づくめは飛び出し、ほぼ中央で2人の剣がぶつかり合う。

interlude out


   /

「キャスター、やっぱりいないみたいだよ」
「そうだね」
深夜、川の向こう側。
僕らは霊地の中の1つ、丘の方に来ていた。
アーチャーとレンの報告どおり、ここには誰もいそうにない。

午後のやりとりを少し思い出してみる。


「さて、アーチャーが知っていた事でライダーは聞仲と判明した、と」
午後、僕、レン、アーチャー、キャスターはちゃぶ台を囲ってレンの部屋にいる。
ちゃぶ台の上に乗っけられた紙にキャスターがペンで『ライダー』の隣に『聞仲』と記す。

「聖杯から日本語の知識もらってて助かったよ。でなければこんな漢字なんてややこしいの書けなかったし」
確かに、僕も聞くと話すぐらいはできるけどさすがに読むや書く事はできない。
と言うかむしろ必要ないから。

「にしても、よく大陸の方の英雄まで知ってるな」
レンはそう言いながらひじをちゃぶ台にのっけ、手のひらにあごを乗せる。

「まあ、知る機会はいくらでもあったしな」
そういえば僕、アーチャーの正体は知らないな。

真名は分かる。衛宮士郎。
でもそれが誰なのかはさっぱりだ。
名前からいえば日本人で、魔術もできる。

はっきり言うと鎖国していたこの国で西洋の魔術師はとてつもなく少ない。
この国独自の魔術形態はあるけれど、遠坂のような西洋でも十分に通用する魔術師は数える程度だ。
でもこのアーチャーは十分にやっていけると思う。

ならもしかして…。

「アーチャーさん、もしかして貴方は未来の英雄ですか?」
だから僕はそう聞いてみた。
隠すほどの事でもないし、未来の英雄なら真名を知られるデメリットがほとんどない。
…問題はその未来が変わってしまうかもしれないって事だけど。

「「…」」
レンとアーチャーは互いに顔を見合わせる。
レンは「おまえの好きにしろ」と身振りし、アーチャーは「そっちがマスターなんだからそっちがどうにかしてくれよ」と身振りする。
そうすること数十秒、ようやくレンがこっちをむいた。

「…詳しくは未来に影響を与えそうだからはぶくけど、そうだな」
「やっぱりそうですか」「ふぅん…」
僕とキャスターの声がかぶった。
今電話や新聞とかで情報を入手できる機会が随分と増えた。
なら、未来の英雄であるアーチャーが僕らより多く知っている事があっても不思議じゃあない。

「ま、アーチャーのいた世界はあくまで『未来の可能性の1つ』なんだから、今俺たちができる事をしないとな」
「そーそー」
レンとキャスターが珍しく合意する。
確かに。アーチャーのいた世界に近い世界にはなるかもしれないけど、アーチャーのいた世界そのものになる可能性は無いに等しい。
未来は無限の可能性がある、とか?

「ライダーの目的は昨日の言動とかを踏まえて、セイバー組とあたしたちキャスター組を除いた全員と考えられるわね」
レンとソウマのアーチャー組とランサー組、街を荒らすバーサーカー組は昨日で実証済み。
おそらくマキリのアサシン組は一昨日のレイリー今日のメノウの言葉からすると目的の1人だろう。

「優先度はどっちかって言うとアーチャー組&ランサー組み>バーサーカー組みたいだけど、異論は?」
「ないな」
「よろしい」
今度はセイバーと紙に書き込む。

「セイバー組は本気で聖杯を取りに来ているし、サーヴァントであるシグルズに絶対の自信を持っているから手を組む事はまず考えられず」
書き込んだ位置は紙のはじっこの方だ。

「他のサーヴァントとドンパチやらせましょう。うまくいけばライダーやランサーを始末してくれるだろうし」
「…」
レンはランサーの名前が出ても何も言おうとしない。

「ランサー組の目的は不明。多分セイバー組と同じだからこの際保留。万一この2組が襲ってきても、2対1なら勝てない相手じゃあなさそう
 だしね」
あくまでそれは今の所だけど、を強調する。

「アサシン組は依然正体不明のヘタレ。やっぱ昨日と同じでバーサーカー組かライダー組を倒すしかないか」
「そうだな」
う、これだとせっかく集まったのに昨日とほとんど同じことしか話し合ってないじゃないか。
まあ、それだけ事態が進展していないって事だろうけど。

「で、レン」
「ん?」
だが、それで終わる事はなかった。
キャスターが立ち上がろうとしたレンを呼び止めたのだ。
そして、


「どっち優先にするの?」


と言った。

「…どっちを優先にするか?」
「そ。きみってどうやらソウマと決着をつけたがってるみたいだけど、明らかにレイリーはそれを妨害しようとしてるわよね」
「…っ!」
キャスターのその言葉にレンは表情を厳しくする。
今のキャスターの発言は先のメノウとの会話で明らかになったことだけど、それまでの行動から推測もできなくない。
キャスターは意地の悪い笑みを浮かべる。

「街に被害を加える方と、きみを妨害する方、どっちを優先的に攻撃するの?」
「それは…」
その先をレンは言おうとするが、声が出ない。
キャスターも随分と意地の悪い質問をするものだ。

でも…、確かにこれは重要な事かも。
今までの生活が大切か、自分の私念が大切か。
これで分かる。

「…」
だが、レンの考え込む時間は思ったより少なかった。

「もちろんバーサーカー組の方が優先だ」
「レン…!」
自分でも分かるぐらい僕はぱあっと表情を輝かせた。
自分の事じゃなく、他のみんなの事を優先させる。
それはとても危険な気がするけれど、その方がレンっぽい気がした。

「ディート、そんな表情されるとてれるよ…」
「え?」
あ、やっぱり違和感あるか。
でも嬉しさは止まらない。

「分かった。それじゃああたしたちもそれに協力しよう」
「頼む」
どんと胸を叩いて胸をはるキャスター。
この中で一番背が低いのに、それが一番似合うのは何でだろうか?

「さて、昨日アーチャーがバーサーカーを半殺しにしたみたいだから、回復のために何らかの行動を起こしてくると思うんだけど、
 今日はあたしたちが川の向こうに行ってきて調べてみるよ」
「昨日とは逆か」
「そ」
にやっとキャスターは笑う。
互いに昨日とは別の方を回る事で効率をあげようとしているのだろう。
でも、キャスターの表情からはどうもそれだけじゃない気がするんだけど…。


以上、回想終了。
キャスターはさっきからしきりに歩いている。

「キャスター、どうしたの?」
「ちょっと待ってね」
バーサーカー組がいつ動き出すか分からないのに、キャスターはそれを止めようとしない。
と、ある一点を見つめてキャスターの動きが止まった。

「ふふ」
すると、ローブからナイフ、いや、小剣を取り出して、


約束された戒めの包丁ライヴロデズの包丁!」


真名を述べて地面に突き刺した。

見えるのは、何かしらの結界が張り巡らされ、魔力がほんの少しずつ集まってきていると言う事だ。

「キャスター、何を…」
「あ、別に取って喰うもんじゃないから安心して」
さらっと、でも核心部分をキャスターは言ってのけた。

「これはブリタニア12の宝のうちの1つでね。どーも今までの戦いからするとあたしたちって結構魔力食う戦い方しかやってないじゃん?」
「ん、まあ…そうだね」
セイバー戦が一番けんちょに現れてたね。

「この宝具は魔力補給用の宝具なんだ。霊地に刺したから数日であたしたちが完全回復できるぐらいまで蓄えられると思うよ」
なるほど、川のあっち側の霊地は都合が悪いから、こっちに来たってわけか。
それなら納得がいく。
いざという時に魔力がなくなったんじゃあ戦えないから。

「さ、行こうか」
「そうだね」
キャスターが歩き出し、僕を背負っているダーヴェルも歩き出した。
まだ大雨が降っているから僕が明かりと傘を持っている。

「…あれ?」
ダーヴェルのペースが少し遅い?
キャスターと5メートルぐらい離れている。

「あの、どうかしましたか?」
「…」
ダーヴェルは僕の言葉を聞いて、こちらに顔を向けてきた。
そして、

「…気をつけろよ」
と言った。

「え?」
僕は思わずダーヴェルに聞き返す。
彼の表情は真剣そのものだ。


「アレ、つまりあの宝具はお館様を殺した宝具だからな」


そして彼はこう述べた。
お館様、すなわちマーリン。

「よく知られている内容はマーリンに教えられた魔法を使って永久に閉じ込められるってやつだな」
…確かそうだったはず。
それがニムエがマーリンにうんざりしていたのか、独占していたかったのかは分からないけど、マーリンを騙して彼女は彼を封印した。
でもその後アーサーの手助けをしたはずだけど…。

「こっちの方ではマーリンから魔術全てを継承し、彼女がドルイドになった時にあの宝具で殺害したんだ」
「殺害って…」
「事実だ。あのニムエにとっては殿や国より神々の方が重要だったからな」
…。
湖の貴婦人であるニムエ。ドルイドであるニムエ。
互いに理想があった事は同じだろう。でも、とった行動はそこまで違うのか。

「…本当にニムエがマーリンを?」
「と言っても確認したわけじゃない。知られてるように封印しただけかもしれないが、とにかくあの宝具で魔力を奪った事には違いない」
そうだったのか…。
あのニムエがそんな事を…。

「古き神々を呼び戻せるんだ」

おととい、彼女はそう嬉しそうに説明していた。
つまり、神々を呼び戻す事が彼女にとっての理想で、全てなのか。

「ならキャスターはアーサーと…」
「終いには対立したな。聖杯探求直後らへんからだろう」
と言ってもモルガン様のように正面きって対立したわけではないがな、と付け足す。
ニムエ、モルガン。2人のドルイドと関係のある騎士ダーヴェル。

「じゃあダーヴェルはニムエやモルガンと親しかったのに神々じゃなくて国を選んだの?」
「…国、と言うより俺は殿個人を選んだんだ」
殿、すなわちアーサーの事でしょう。

「結局俺とニムエは最後対立する事になって、あいつの目の前で聖剣を神々に返したんだ」
「…そう、だったんですか」
ダーヴェルとニムエが話している時、お互いが本音で話し合っているようだった。
僕がヨハンやジェイナと話し合うように。
そんなよほどの存在と道を違えるのはどれほどの事だろうか。

「後悔はないぞ。俺が殿を選んだ事に」
「え?」
「顔に書いてあるぞ。俺としては嬉しい事なんだがな」
「あ」
僕はダーヴェルから顔を背ける。
今の表情は多分しまったなってものだろう。あまりそういうのは見られたくない。

待てよ?
ダーヴェルはアーサーをとり、ニムエを捨てた?

「悔いがないのに今またニムエについているんですか?」
ならなんでダーヴェルはまたニムエについているんだ?
て言うより円卓の全員か。

「ニムエと違って今の俺は宝具で具現化している擬似的な存在に過ぎない」
「擬似的な存在、ですか」
「座って所からサーヴァントは来るんだろ? でも俺達はニムエの大釜が持つ記録から作成されるんだ。
 詳しくは分からないけど、それにニムエ本人の補正がかかる」
「本人の補正?」
ダーヴェルは軽くため息をつく。

「サーヴァントとマスターの関係と同じように、俺幼い時にニムエと契約結んだんだよ。でもアイツ殿を取った俺にその契約で呪いを送ってきてくれてねー…」
ドルイドの呪い、ですか。
神代の呪術なんて考えるだけでも恐ろしいんですけど。

「契約を結んだ腕をモルガン様にばっさりと斬ってもらって、代わりの腕を創ってもらったというわけさ」
「腕を創ってもらった?」
「さっき言ったかもしれないけど、モルガン様はニムエより魔術では劣っていただろうけど道具作成は優れていたんだ。それでさ」
そういえばダーヴェルはニムエとモルガン、2人のドルイドのていのいいパシリにされてたとか言ってたっけ。
それでダーヴェルはモルガンに救ってもらったのかな?

「だからあいつの前で聖剣を捨てる事もできたんだが、今はその腕じゃなくて元の契約してる状態の腕に戻されちゃって…ハア」
深いため息をダーヴェルはつく。
騎士に深いため息は似合わないからやめた方がいいと思うけど。

「ようは『円卓の騎士』に近い使い魔を召喚している、が正しいかもな。それでも座から来るニムエが召喚するんだから、
 世界の記憶から拝借してる扱いになって、限りなく本人に近い事に違いはなさそうだけど」
「そうなんですか」
…大釜ってキャスターが豪語する以上に優れた宝具なのかもしれないな。

「もし聖剣か鞘、そしてブリタニアの宝具がそろえば英雄クラスのランスロット、聖杯のギャラハッド、それに殿だって召喚可能になるはずだぞ」
「えっ!?」
「だから俺がそれらを集めて宝具が使えさえすれば…」
使えさえすれば…?


「最後の殿を召喚して、円卓の騎士たちが決して間違いじゃなかった事を皆に見せられるんだが…」


それはダーヴェルと言う補正を受けて召喚されるからこそ可能な事だろう。
そう言えばあの時、

「それでも俺は最後に見たんだ」

とダーヴェルは言っていた。
多分、それは円卓の騎士たちが一番望んでいたものだろう。
それが何かは分からない。分かるすべもない。
それでも、僕もできればそれを見たいと少し思った。

「まあ、と言うわけでニムエ補正がかけられてるせいで今やニムエの私兵さ」
「私兵だなんて…、今でも立派な円卓の騎士ですよ」
僕は断言するように言った。
それが本音。ダーヴェルもギャラハッドさんも立派な騎士なんだから、そんな事は言わないで欲しい。

「話を元に戻すが、今のニムエが何を思ってるかは俺にも分からない」
「…」
キャスターが何をするかも分からないって事か。

「神々の復活を望んでるかもしれないし、君の救済を望んでるかもしれない。君はニムエを…」
「信じますよ」
今度こそ僕は断言した。
ダーヴェルの目は見開かれ、明らかに驚いた表情を見せている。

「サーヴァントとかマスターとか関係なく、私は彼女を信じます」

だって、ニムエと初めて出会った時のあの思い。
それは本物なのだから。

「…そんな君だからこそ、ニムエも協力しているのかもな」
「かもしれませんね」
くすっと僕は笑い、ダーヴェルは笑みを浮かべる。

「お2人さん。歩くのがとーってもゆっくりなんですけど、どうにかしてくれますー?」
「「あ」」
先のほうでニムエさんがこっちに笑みを浮かべてます。
とてつもなく真っ黒な笑みを。
怖いからやめて。

「悪いな。ニムエが過去にしでかした失敗談を色々としててね」
「…っ! ディートになんて事話すんだよ!」
「おっと、レンとアーチャーにも話したいなー」
「ぐ、地獄に落ちなダーヴェル」
そう顔をゆがめたキャスターだけど、すぐにそれは満足げな笑みに戻った。

大雨はまだ続いている。
それでも僕らは確実に進んでいた。
どんな道をも。
この空が明けたとき、僕らは一体どこにいるだろうか?


   /interlude

「レイリー! 右!」
「了解」
黒づくめとセイバーが戦っていたのと同時刻、川の手前側のほうではとある戦いが行われていた。

「ふんっ!」
「ふっ!」
まずは黒き麒麟にまたがった騎乗兵、そして赤き弓騎兵。

昨日と同じく黒き麒麟は上空で停滞したライダーは鞭で中距離攻撃をしかけ、かつ襲ってくる矢をはじく。
アーチャーは夫婦剣と弓矢の両方を装備、状況によって使い分けながら鞭をかわし、時には受け、反撃に転じている。
お互い一歩もゆずらない、だが手の内を見せない戦いを続けている。

(…どうするか?)
今の所麒麟はただ空中にとどまっているだけしかしていない。だがそれだけとは考えられない。
何か奥が必ず存在するはず。
一方のライダーは圧倒的破壊力はなく、手数で攻めている。でも宝具の真名を言っていないのだからあの鞭には奥があるはず。

(禁鞭、だったっけ)
小説も和訳版も、それをメタ化したものも読んだ。
周を最後まで苦しめた仙人がこの程度で終わるはずがない。

2人は確かに戦闘を行っている。
が、結果的にそれは互いに大した消耗を与えず、時間稼ぎにしか役割を果たしていなかった。

一方、もう1つは、昨日とは全く別の光景だった。

「くそっ! くそっ! くそっ!! どうして貴様らはいつも私の邪魔をするのだ!」
「本場の魔術師が何を今さら!」
悪態をついて魔術を放つ魔術師にその魔術をはじく武士が反論した。

「■■■■■――!!」
「無粋」
すぐそばでは神話の怪物に1人で立ち向かう女性の姿がいる。

「セイバーやランサー、それにアサシンだっているだろう! なぜ私ばかり!」
「あんたらが町の人達を犠牲にしようとするからだろうが!」
武士、アーチャーのマスターの憐はそう断言するので魔術師、バーサーカーのマスターのジョルジュはひるんだ。
剣騎士の主人の少女がいれば「あなたたちが弱いのがいけないのよ」と断言していただろうが。

「はっ!」
昨日体の半分を吹き飛ばされた神代の怪物はまだ再生しきれていない。
それどころか普通に戦う事すらままならず、英雄でもない女性、ライダーのマスターのレイリーにも押されている。
今も4つある犬の頭のうち1つに斬りかかった。

「くそっ! 一体どこで計算が狂ったのだ! そもそも始めにライダーたちに見つからなければ…!」
「油断大敵」
これもまた昨日とは別だった。
今やっているのは1対1×2ではなく、2対2だという事だ。
当然片方に隙が生まれれば2人がかりもありうる。

「ぐあっ!」
レイリーの放った剣がジョルジュの胸元を若干斬り、出血をもたらす。
その間に襲ってきた神代の怪物、バーサーカーの猛攻を、

「天翔ける詩人の調!」
重力制御で逆に重くした憐の攻撃が阻む。
即席ながら組まれたレイリーと憐とのコンビは、しかしバーサーカー組を追いつめるには十分すぎる戦力だった。


事の始まりは数十分前。今度は憐とアーチャーがバーサーカー組を戦う前にライダーが阻んできたことにある。
今回もたまたまバーサーカー組を発見できたが、次発見できるとは限らない。
今こそがチャンスだ。

そう思った憐は、まずライダー組の説得にかかった。
セカンドオーナーのめのうの苦労も考えて、ここはバーサーカーを優先してくれ、と。

だがレイリーはこう述べた。
バーサーカー組が脅威でない以上、そなた達を優先するは必然、と。

このままでは昨日のようにまたなるとふんだ憐は、自らに過酷な手段を選ぶ事にし、アーチャーに命ずる。
すなわち、ライダーの足止めをしつつレイリーが自分を攻撃するようなら牽制しろ、と。

これはバーサーカーが戦えないとふんだからこそ言った事だ。
体の半分もなくなれば、キャスターでもない限りほぼ戦闘不能だ。
ましてや敵はバーサーカー。理性の無いにもかかわらず半死状態ではとても戦えないはず。

よってアーチャーはライダーと戦い始め、憐はレイリーを無視してジョルジュに襲いかかる。
当然サーヴァントもいない2人のマスターを一網打尽にできるチャンスを逃さないレイリーは憐とジョルジュの2人に襲いかかった。
圧倒的に不利なのは戦闘に不向きなジョルジュ。

彼はまだ回復しきれていないバーサーカーの召喚をする。
憐の誤算はバーサーカーの固有スキル、自己再生。
神代の怪物の持つ脅威の再生能力で、バーサーカーはとりあえず戦闘できる状態にまではもってこれていたのだ。
無論依然としてサーヴァントの敵ではない。しかし三つ巴の状態では明らかに戦局は一変した。

これによりレイリーは憐の提案を一部承諾、一時休戦となる。


「天翔ける詩人の調!」
憐は重力制御で自身の限界を超える跳躍を見せ、バーサーカーの女性の部分に攻撃をしかける。
怪物部分はともかく女性部分は普通の少女。しかもそこが本体ならそこを狙うのは当然の事だ。
怪物の持つ6つの首は3つが再生途中、その死角をうまく突く。

「ふっ!」
敵の足はほぼ全部がそろっていたが、再生された足はおぼつかない。
攻撃もできない、防御もできない、ならかわす以外道はないがそれもかろうじてできただけだった。

「…これもしかして、いけるか?」
憐は思わずつぶやいた。
いくら満身相違とはいえ、神代の怪物を自分の手で倒せるのか?

「いかんいかん…」
そういった慢心こそが身を滅ぼす事は英との稽古で身にしみている。
と言うか心の底までしみついている。
ならば、全力で戦うまでだ。

「はあっ!」
だが憐のその気は杞憂に終わりそうだった。
なぜなら、

「ぐおっ!」
もはやそのマスターがレイリーによって倒される寸前だったからだ。
風の魔術で致命傷にはいたっていないが、誰から見てもその戦局はレイリーに傾いている。
通常の魔術師が宝具を持ってそのための訓練を受けた熟練者にかなうはずもない。

 レイリーの剣…かどうかはさておき…がジョルジュを払い、横転させる。
なおも魔術を発動しようとするジョルジュの手の甲を、レイリーは剣で突き刺した。

「うがあっ!」
「往生際悪し」
ぼたぼたと血が流れ落ちる己の手の甲を押さえながら、ジョルジュはレイリーを睨みつけている。
だがそれだけ。それ以上の何もできない。
何しろ魔術を発動した瞬間に彼の頭は真っ二つになっているだろうから。

「む?」
レイリーはちらっと憐の方を見る。
バーサーカーは憐の刀で無数の傷がついていて、明らかに弱っている。
だが、決め手に欠けている事も事実だ。

「何故宝石魔術を使用しない?」
憐が宝石魔術を使用できることは瑪瑙からも聞いていたし、昨日ジョルジュ相手にも使っていた…様な気がする(ライダーで接近中だったので 断定はできていない)。
あれを使えば今のバーサーカーなど楽に倒せるだろうに。

「瑪瑙と違って俺の財政は年中無休で火の車! そんな簡単に宝石が使えるか!」
既にジョルジュやディートリッヒに何個か使ってしまった。
残る相手は双魔やクリス。バーサーカー相手に使っている余裕はないと判断したからだ。

「…」
レイリーの見立てでは確かにこのままなら憐はバーサーカーを倒せるだろう。
が、そんなに待っていられるほど悠長でもない。

「邪魔」
「へ…?」
気づく前に本能で憐はその場を飛んだ。
ちらっと見たレイリーは無表情に、だが構えは昨日と同じように抱きかかえるようにしていて、重心を下に置くスタンス。
あれは…全てを刈り取るものだ。

「やっやめろぉーっ!!」
ジョルジュが叫ぶが、もはや全てが遅い。


即チ大河ヲ剪定スル也キ ン コ ウ セ ン


レイリーの放った一撃はバーサーカーを一刀両断せんと襲いかかり、

途中で威力を失った。

「!?」
「なっ!」
レイリーが目を見開き無言で驚愕し、憐は思わず絶句する。
憐は昨日あの宝具の威力を知った。レイリーは幼い頃からこれを使う訓練を受けた。
宝具だろうと神秘はそれ以上の神秘で破られる事は分かっていたから防がれた事事態は驚きに値しない。

だが、その防いだものはただの水だった。
バーサーカーを守るようにしてその水の壁は展開されている。

「な…んだと…?」
これにはジョルジュすら驚いている。
と言う事はこれはジョルジュやバーサーカーの成した技ではない。

「「…!」」
それには戦っていたアーチャーとライダー、2人のサーヴァントも気づく。
アーチャーが見た所、あの水の壁にはとてつもなく高密度の魔力が込められていて、宝具の威力を散らしたらしい。

「やばっ」
その水の壁に通る魔力が流動し、何かの行動を起こそうとしている。
憐は気づいたがレイリーがそれに気づく様子はない。ならばとそのままジョルジュの腕を斬りおとそうとしている。

「くそっ!」
友と言うからにはレイリーは瑪瑙の知り合いだろう。
憐はそのままレイリーの腰を持ち、

「天翔ける詩人の調!」
重力制御でその場から離脱しようとする。
が、

「!?」
その直後水の壁から伸びた鋭利な棒が、もはやそれは槍というべきか、2人に襲いかかった。
加速度をつけて間もない。もはやかわしようがない。

(や、やられる…!)
そう思った憐はとっさに宝石を取り出し、魔術を解き放とうとする。

その時、その水の槍は四散した。

「…?」
見上げるとライダーの乗る麒麟、その角から電気らしきものがばしっている。
化学にうとい憐には分からなかったが、麒麟が発した雷によって水の槍は水素と酸素に電気分解されたのだ。

「例を言うよライダー」
「マスターを守っただけだ」
レイリーを下ろして頭を下げる憐にライダーはそっけなく言い放つ。
そのままライダーはレイリーのそばに降り立ち、アーチャーは憐のそばにかけよる。

今や水はバーサーカーとジョルジュを守るようにして展開されていた。
憐は内心で深いため息をつく。

「これ本当に俺たち争ってる場合じゃないよな」
「……」
今バーサーカーたちを守っている魔術はバーサーカーたちがやったものじゃない。
と言うか魔術は宝具を防ぐほどに強力だった。
そんなの、神代のキャスターでもできるかどうか。

「まだ見ないアサシンの仕業か?」
その可能性はきわめて低いが、それでも憐の考える中では一番選択肢が高い。
もはや他のサーヴァントは明らかになっていて、これを行えるのがニムエぐらいなんだから。

「否」
が、レイリーはそれを即座に否定する。
彼女の視線にはもはやバーサーカーたちはなかった。
見つめているのは民家の方だ。

「?」
憐もそっちの方を見る。

そこにいるのは、ニムエと同じぐらい小さな少女。
化物になる前のスキュラに雰囲気がそっくりとも感じるし、ニムエとも雰囲気がそっくりと感じる。
そう、まるで海か湖の精霊のような。
だが…、

「な…なんなんだよアイツは…!」
思わず憐はぞっとする。
その少女からはもはや生命の息吹を全く感じない。
自らが死の象徴で他の全てにも死をもたらそうとする、この世にいてはいけないモノ。そんな印象だ。

「…やはり生き残っていたか」
レイリーとライダーの表情が先ほどよりも厳しくなる。
先ほどまでは憐とアーチャーはライダー組と戦う事を避けていたし、現在のバーサーカー組は問題外。
だが、今目の前にいる少女は、あきらかに自分たちを殺せる者だ。

「吾の友遠坂瑪瑙の命により、貴様を滅ぼす」
レイリーがそう宣言すると少女は笑みを浮かべた。
普通ならそれをかわいいとか思うだろうが、少女がやると背筋まで凍ってくる冷たい印象を受ける。


魔術師キャスター

「え…?」

憐はレイリーの言葉に困惑した。
(キャスター? キャスターだって? キャスターはニムエのはずだろ? なのになんであの少女もキャスターなんだ?
 それに瑪瑙の命って…彼女は何か知っているのか?)

憐はただその考えをぐるぐる頭の中で回転させるしかできなかった。

大雨は当分止みそうになかった。



interlude out


ステータス情報が更新されました

第16話に続く

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 ニムエについての詳しい事はとりあえず説明できたかと思います。基本はコーンウェル版。さすがにあそこまで極端にはできませんけれども。
基本的に英雄が持つ宝具は数個なのにニムエは12個って…今考えるとすごいですね。当然同時使用はできません(大掛かりな儀式を行わない限り)。
その彼女が現在何を考えているかはまだ保留で。ダーヴェル関連の閑話を1つはやりたいと思っています。

レイリーはセカンドオーナーによって呼び出された魔術師にしました。
基本ルールは2次で出来上がってるのに隠蔽は誰が行うのかなーと思えばやっぱ土地の管理者である遠坂がやるんじゃないかと思います。

ようやく一部書けた憐の過去話。これも閑話で1つで少し詳しく書こうかと思いますが、まだ全てが開かされてないのでしばしお待ちください。
ちなみにサー・エドワード・グリーンウッド。名前は出しておきながら物語に関わってこないかと思います。
閑話で少し出てきますから名前考え損ではありませんけど…。嗚呼。

 さて、減らしてないのにとうとう7体以外のサーヴァントを出しました。
黒づくめがサーヴァントなのかバゼットみたいな実力者なのかはさておき、少女はサーヴァントです。正体はまだ秘密で。
7体以外のサーヴァントがいれば、ギルガメッシュのように最後の方で敵を一掃する以外にも真っ先に全滅させる手段を取る者もいるだろうと思いこうしました。
4日目も終わろうとしていますが、あと数日で何人かは脱落すると思います。それが誰なのかはお楽しみに。
  2006年10月22日


2style.net