/3日目
歩いているので結構時間もかかったが、何事もなく俺達は川にかかる橋にたどりついた。
近代化が進んだからって橋は当然木製のままだが。
「なあ」
「どうした?」
人通りのない橋を渡っていると、不意にアーチャーが声をかけてくる。
戦いの前に、何か心構えとかを教えてくれるとか?
「憐と葵ってどんな関係なんだ?」
いきなりの発言に思わず脱力してしまい、こける俺。
うあ、顔から落ちたからすっげー痛い。
「何言い出すんだって!」
「なんだかとっても仲よさそうだったから」
それ今するような会話か?
若干考える俺。
…そう言えば『どんな関係か』を真剣に考えた事なんて少ないな。
葵に関しては一度もない。
「…妹のようでもあり、幼なじみのようでもあるな。かなりあやふやな関係だろ」
「あやふやって…」
「正直赤の他人ってほどではないけど、どこら辺なのか全く分からない状態。知人までなのか、実は恋人同士なのか」
自分でもほんっとうに分からない。
俺的には『家族』なんだが、実際はどうなんだろうか。
「いつまでもこのままじゃいかない事は分かるんだが…どーすればいいのかさっぱりだし…」
葵は優しい。まるで女神のように。
それは俺に向けられていると思えば皆に向けられているとも思う。
だからなのか、葵が何を思っているのかが俺には分からない。
分からない方がいいのか、分かっていた方がいいのか…。
しかし、それより先に進めたいとやった事はなかった。
それに…、
「今の生活がなくなるのが怖い、か?」
「っ!」
俺は思わず夜空を見上げる。
空はあいにくの曇り。所々から星は見える。
…なんだか今の俺みたいだ。
「そう、かもな」
素直に俺は認める。
「士郎はそんな事はなかったのか?」
聖杯戦争が始まってからは彼をアーチャーと呼ぶ事にした。
日常との境を明確にしたかったから(かと言って日常生活のなかで心でアーチャーと呼んでいても士郎と呼ばなきゃならない場面もあるけど)。
だけど、今は彼をそう呼ぶ。
「誰にだってそんな事はあるんじゃないか?」
そんな士郎はあっさりとそう言った。
「え?」
「変化を恐れてたら何もできないと思うけどな、俺は」
「…変化を恐れてたら、か」
確かに、今の状態が永遠に続くなんて思ってはいない。
だけど、その終わりがいつになるか、が問題だと思う。
「…はあ、なら聖杯戦争終わったらそのへんのけじめをつけるか」
「聖杯戦争が終わったらか?」
「え?」
その思わせぶりな言い方は一体なんだ?
「いや、何でもない」
「何でもないって…」
ものすごく気になるだろ。その言い方。
「何でもないんだ。何でも…」
「…まあ、いいか」
橋も渡り終わり、俺達は川の向こう側にやってきた。
俺たちの昼徘徊する地区を通り過ぎたときは人通りもあったけど、さすがにこの時間になると人通りも皆無に等しいか。
まあ、何かあったときに面倒な事にならずにすむんだけど。
「で、気はまぎれたか?」
「は?」
いきなり何を言い出すんですかアーチャーさん?
「さっきまでの憐はなんか緊張してて思うように動けないと思ったから話題を工夫してみたんだけど…どうだ?」
「…っ!」
驚いた。
確かにさっきまでの俺は今みたいな会話はできないぐらいがちがちになっていたかもしれない。
そんな事まで見抜くのか。
「ああ、大丈夫だ。ありがとうな」
「まあ、適度に緊張してもらわないと逆に困るんだけどな」
「それは大丈夫だって!」
その辺はちゃんと割り切っているからな。
何より、俺達は勝たなきゃいけないんだ。
「で、何か怪しい気配とかは?」
ここに来た本来の目的に戻って、俺はアーチャーにそう訪ねる。
キャスターがいれば細かいところまでバッチリなのだが、贅沢も言ってられない。
「…いや、今の所特には」
そう、か。
なら、
「くまなく探す以外なさそうだな、はあ」
「贅沢言うなよ。元々キャスターと組む気はなかったんだろう?」
「いや、おっしゃる通りなんだが…」
なまじ手段があるとそれに頼りたくなるのが人間って言うもんだと思うんだが、どうかな?
「…特に以上は見られず、本拠地にされてる形跡もなし、と」
まずは百目木邸より一番遠い丘の方をチェックしてみたけど、怪しい点は何一つ見られなかった。
「魔術師として来るなら工房を簡易的でも確実に持ってくるはずだから、やっぱ形跡はない、でいいんだよな?」
「ああ、形跡は全くないぞ。普通の魔術師がここにいた可能性はないと思う」
「普通の、ってあたりかなりビミョーなんだが」
「魔術使いが参加してる可能性だってあるだろ」
…確かに。
魔術使いなら工房要らずだもんな。うーん…。
「まあ、次は向こうの方にいこう」
「ああ、そうだ…」
不意に、アーチャーは町の方を見下ろした。
丘の上というのもあり、結構な範囲を見下ろせるんだが、視力がいい俺でも詳しく見ることなど到底できるはずもなく。
「何か?」
「いや、何かを感じて向いたんだけど、気のせいだったか…」
と、またアーチャーの言葉が止まる。
そして、目を凝らすようにして町の方を見ている。
「2人組みだ。町を歩いてる」
「町を歩く2人組み? そんなの今の時間ならまだいてもおかしくないだろ」
そう言いながら俺は望遠鏡を取り出し、アーチャーの見ている方を見る。
そこにいたのは2人組み。
1人は初老のいわゆる紳士というやつ。
日本でこんなにスーツを着こなしているやつなんてまずいない。スーツそのものが西洋人向けなのだから。
ここ日本だよな?
そして、もう1人。
まるで神話にでも出てくるような美女、いや、美少女と言うべきか。
その髪は風のふく青空のようで、その身体は繊細な人形のようで。
その存在そのものが神が嫉妬するようなようで。
「…誰だあいつら?」
「いや、普通に考えてサーヴァントとマスターだろ」
「それぐらい分かるって」
あんなちょっと前まで江戸時代真っ盛りだったこの日本に場違いな存在。
なら、こっちの関係者だろ。
いまだ俺が見てないのはランサー、バーサーカー、アサシン。
ランサーはディートが見ているから除外。
だとしたら、
「普通に考えてあの少女がサーヴァントだろうけど、アサシンにもバーサーカーにも見えないぞ」
「まあ、それは合ってみれば分かると思うぞ」
む、それはそうだな。
あのままあの怪しい2人組をそのまま放置にはいかないからな。
そう思うと俺達はかけだした。
/
「で、どうするんだ?」
「どうするって?」
めまぐるしく景色が変わる中、俺達は失踪していた。
そんな中、俺達はそう会話をする。
うん、これも英ねえのしごきがあってこそ成せる技。今さらながら感謝してる。
「俺がアーチャーって事忘れてないか?」
「あ」
セイバーや英ねえ戦では双剣を使ってたから印象に残ってないけど、アーチャーは弓兵だったっけ。
つまり、遠距離からの狙撃をすることだって可能なわけか。
「いや、一番最初はやっぱり正面から行きたい。相手がどんな手段を用いるか分からないから、始めはその方がいいと思うんだけど、どうかな?」
「分かった。ならそうしよう」
遠距離からの狙撃で相手をしとめられないとは思わないけど、万が一を考えると銭湯みたいなことがあったら困るからな。
どんなサーヴァントかも分からないのだから、全力でぶつかってみて確かめる。
「あっと、いい忘れた」
俺は手をつく。
これはぜひ戦う前に聞く必要があるだろ。
「なあ、アーチャーは2対2か1対1×2とどっちがいいんだ?」
「? 言ってる意味がよく分からないけど」
「俺たちが互いに協力して相手のタッグを倒すか、俺がマスターでアーチャーがサーヴァントを別個に倒すか、どっちがいいかなんだけど」
それによって大きく戦法が異なるからな。
ちなみに俺が昨日セイバー戦でやろうとしてたのは2人でセイバー1人を相手にする戦法。
今考えると結構無謀だったかもしれない。
「…基本的にはタッグの方がいいと思う。ピンチの時は助け合えるし」
「分かった。そうしようか」
そう話している間に俺達はもうさっきあの2人組みのいる場所までたどり着いた。
魔術を使って基礎体力を強化しているのもあるけど、それでもハイペースだろうな。
「ここまで来ればサーヴァントの気配を察知できるな」
「そう、か。なら急ごう」
俺はアーチャーに先導されて夜道を走っていた。
そして、
「こんばんは、紳士と淑女の皆さん」
俺とアーチャーはそんな事を言いながら敵マスター組(?)の前に立ちはだかっていた。
Fate/the midnight saga(仮)
第13話
/
「で、アーチャー。相手はサーヴァントか?」
「…ああ。間違いない」
今さらでなんだけど、小声でそれを確認しておく。
ということは…。
「やっぱあの少女の方がサーヴァントなのか?」
「…だと思う」
アサシンともバーサーカーとも思えないような少女。
…なんだかとてつもなくクラスが気になるんだが。
「これはこれは、私に何か用かな?」
初老の男は流暢な英語でそう述べてくる。
確か英国の平民が移住したのがアメリカだからアメリカのは市民の言葉を使われている。
それに対して英国の上流階級は濁りがない、綺麗な英語だ。
…と誰かが言っていた。
ならこいつは英国、魔術の本国から来た魔術師か?
「用? まあ、そうだな。こんな真夜中にこの町っぽくない人を見かけたんで声をかけてみたんだけど?」
「ほう、そういう君はこの町の出身かな?」
「さてね」
あえて言う必要なし。
そう思うのも勝手だし、思わないのも勝手だ。
どう転んだ所で俺の不利になりそうにない。
「まあいい。今宵私に声をかけたのはそれだけではあるまい」
「さあ? それはあんたが今までした事に問いかけてみたらどうだ?」
お互いにもう分かっているんだ。何しろサーヴァントはサーヴァントを察知できる。
それに、魔術師にだって魔力がある奴とない奴の区別ぐらいはつく。
なら、後にやる事は決まっているだろう。
すなわち、戦いだ。
「ああそうか」
初老の男はわざとらしく天を仰いだ。
「君は昨日起こった事を怨んでいるのかね? それは見当違いというものだ」
「は?」
あえて初老の男の会話にのっておく。
そしてそのついでにキャスター製の腕輪をちぎった。
「私は見ていたんだが、あれをやったのは別の者達だよ。いやはや、私も止めようとしたのだがね…」
「なるほどね」
『別の者達』についてライダーだのキャスターだの特定をしていないのはさすがだ。
俺はアーチャーに念話でとある事をささやく。
そのついでにくくっと笑ってみせた。
「悪いな。俺バーサーカーとアサシン以外は確認してるんだよ」
「…っ!」
「アサシンはハサン以外なし、なら犯人はバーサーカーのマスターであるあんたしかいないんだよ。やれアーチャー!」
「――――
俺の言葉が終わらぬうちに瞬時に弓矢を出現させたアーチャーは、これまた瞬時に弓を振り絞り、矢を放った。
その数6つ。
初老の男の額、両目、口、喉、心臓、を寸分たがわず狙った弓は高速で敵に迫り、
少女から伸びた何かに全て突き刺さる。
「えっ!?」
「…っ!」
それは奇妙な光景だった。
初老の男は何が起こったかすら反応できていない。
まあ、普通の魔術師が英雄クラスの射を見切れるかと聞かれたら「どうかな?」と俺は答えるから気にならない。
それに、少女も全く動いていない。
ただ、少女の半身がグロテスクに変化を遂げているだけだ。
「ほう、では君も一昨日のライダー同様、私と戦おうというのか。なら、やれバーサーカー」
「……」
バーサーカーは上を見上げた。そして、
「■■■■■――!!」
悲痛に聞こえる咆哮をあげる。
少女の細い足が見る見るうちに変化していく。
それはもう目を覆うばかりの光景。
だが、見ておかなければならない。
ちょっとの行動が命取りなのだから。
細い2本足は12本の獰猛な野獣の脚となり、
脚のつけね付近からは6つの犬、いや狼かもしれないけど、の頭が生えている。
ケンタウロスみたいに見えなくもないし、キマイラに見えなくもない。
だが、少女の上半身はそのまま。
そのアンバランスさがまた恐ろしい。
「なあアーチャー、間抜けな事聞いていいか?」
「…どうぞ」
「あれ、なんかギリシア神話にでてくるよーな怪物に見えるんだけど」
「大丈夫、俺もそう見えてる」
どうやら俺が幻覚を見せられているわけではないらしい。
「あれ、スキュラって言ったっけ?」
「ああ、そうだな」
スキュラ。
女神の嫉妬などで美しい女性が醜い怪物にさせられるエピソードをあげればきりのないギリシア神話の中で、メドゥーサと並んで(と最低俺は思う)
悲劇的な女性。
グラウコスとか言う海の神の1人が水浴びをしているスキュラに一目ぼれ。身分を明かしたけどふられる。
それを魔女キルケーに案を頼んだんだが、キルケーはグラウコスを愛しているがゆえに恐ろしい手段を使う。
いつものように水浴びをしたら、水につかった下半身が化物に変化してしまった。
その事に絶望した彼女はこもってしまったけれども、化物になった下半身は人を襲い続ける。
「…だったかな…?」
問題はメドゥーサやケルベロスたちギリシア神話に数多く出てくる怪物。
スキュラはその中でも珍しく英雄によって退治されていないのだ。たしか。
って今はそんな事が問題じゃないし。
「スキュラって、怪物退治とかしてないし、てゆうか彼女自身そうだし、それでも英雄なのか?」
「違うんじゃないか?」
「じゃあ喰った奴らが実は大犯罪人とかで反英雄になったとか?」
「喰ったって…オデュッセウスの船乗りたちがか?」
やっぱ俺の記憶違いではないらしい。
彼女は英雄でも反英雄でもなさそうだ。
いくらあのメディアとかが神代の魔術師だろうとキャスターになれないように、彼女だってバーサーカーにはなれないはずだぞ。
「アーチャー、未来の英雄だったら冬木の聖杯戦争でのバグぐらい知ってるんだろ? それとかのせいなのか?」
「いや、そんなものはないはずだぞ」
「ないならなんで今目の前にいるんだよ」
アーチャーは腕を組んで少しうなる。
「なぜ、よりどうするか、が先だと俺は思うんだけど」
「む、確かに。この事はキャスターたちとゆっくり話すか」
今は現実ではありえないなんて言葉より目の前の現実の方が重要だ。
俺は抜刀する。
今は廃刀令なんぞ知ったものかとばかりに俺身につけてるからなー。昼はしてないけど。
「さあ行こう、アーチャー」
「了解、マスター」
俺達は目前の敵に向かって構えをとった。
「…バグは3次以降に起こるはずなんだけど…」
なんて言葉をアーチャーが言っていたようだけど、気のせいだろう。
/interlude
「やれバーサーカー!」
「■■■■■――!!」
初老の男の命令で、バーサーカーは六つの犬の首と自らを合わせて7つから咆哮をあげ、12本の脚でアーチャーに迫る。
「速い…!?」
バーサーカーはアーチャーの予測を上回るスピードで動いている。
彼女の体長はゆうに数メートル。アーチャーの数倍だ。
その巨体特有のにぶさを微塵も感じさせないほどだ。
が、対処できないほどではない。
アーチャーはこれまで幾度となくあれ以上のスピードを持つ者と出会ってきたのだから。
「――――
アーチャーの詠唱により、虚空より2つの剣が創造される。
すなわち、漆黒の陽剣干将、純白の陰剣莫耶。
生半可な射ではバーサーカーはひるまないだろう。
なら、生半可でない攻撃のための布石を作るまでだ。
「ふっ!」
そして、そのバーサーカーの名を与えられし怪物を全く恐れずにアーチャーは飛びかかった。
いくらスキュラが悲劇的な少女だからとは言え、彼女はバーサーカーで、彼はアーチャーで出会ったからには戦闘は必須。
その戦闘の結果がどうであれ。
アーチャーはバーサーカーの踏みつけをかわし、その間にその脚を斬る。
「■■■■■――!!」
犬の首が一斉に咆哮をあげてアーチャーに襲いかかるが、双剣でそれに対処しつつある程度距離をとった。
再びバーサーカーはアーチャーに飛び込むように襲いかかる。
それを迎え撃つべく剣を構えるアーチャー。
不用意に飛び込んではあの犬の餌食になるだけだ。
ゆえにアーチャーは適度なヒットアンドアウェーで戦う事にする。
あの太い脚で蹴られたり踏み潰されでもしたらそれだけでも戦闘に支障をきたすだろう。
それにいくら12本の脚は対処できても、犬の首は全方向に配置されていて死角がない。
おまけに獣以上にすばやいので攻撃が当たりにくい。
「なら…!」
ひるまないだけで斬れはするのなら、手段はある。
自らの宝具の一端を使う隙ができれば。
その隙を作り出すべくアーチャーはまず再び突撃してきたバーサーカーをぎりぎりでかわす。
そして、すれ違う前にアーチャーは飛び上がった。
乗っかるのは、バーサーカーの獣部分の背中…!
「よしっ!」
うまく相手の動きを予測し、乗っかる事に成功。
あとは犬の首さえどうにかなれば、スキュラの本体である少女の部分に到達する。
敵とは言え少女に手をかけるのはどうかとも思うが、彼女は既に幾十人もの人の命を犠牲にしている。
なら…、
が、犬の首で攻撃してくるかと思っていたがバーサーカーは大きくかがんで、後ろ6本の足を大きく蹴り上げた。
弓のようにしなるバーサーカーの身体。
後ろの方にいたアーチャーは当然の事ながらその勢いで吹っ飛ばされてしまった。
空中で移動できる者などそうはいない。
バーサーカーも理性は失われているとは言えそれを本能で分かっており、アーチャーを喰らわんと襲いかかった。
「く…っ!」
今から投影を始めても間に合わない。
生半可な攻撃ではバーサーカーはひるまず、そのまま喰われてしまうだろう。
なら、
「ふっ!」
一息とともにアーチャーは干将を投げつけた。
バーサーカーは獲物から放たれる飛び道具に反応し、犬の首の1つがそれを払いのける。
が、
バーサーカーの目の前には既にもう一本の剣。
時間差ほんのわずかで放った莫耶がバーサーカーを襲う。
バーサーカーは対応を間に合わすために隣の首でそれを払いのける。
だが、そうして本能的に気づいた。
アーチャーを喰らう事のできる向きの首がふさがっている、と。
気づいたときにはバーサーカーの少女の部分はアーチャーの蹴りをくらっていた。
なまじ自らに体重があり、勢いがあっただけに吹っ飛ばされる事もできず、もろに威力をくらうことになってしまう。
そのまま着地する両者。
ただアーチャーは空手で、バーサーカーは少女部分がぐったりとしている。
「――――
まだだ、この距離ではアレは使えない。
そう判断したアーチャーが投影したのはまた夫婦剣だった。
またバーサーカーはアーチャーを喰らおうと、
アーチャーは隙をうかがおうと戦いを始める。
interlude out
/
「やれバーサーカー!」
「■■■■■――!!」
目の前にいる初老の男は自らのサーヴァントにそう命じ、バーサーカーもそれに答えんとばかりに咆哮をあげる。
彼女の狙いはアーチャーのようで、そちらの方に飛びかかった。
「…てっきり俺を襲うかと思ったんだが…」
聖杯戦争ではいくら英霊であっても現世とのつながりが大切で、そのためにもマスターは必要不可欠だ。
英霊よりマスターの方が弱いのは当然の話で、普通マスターを狙うものだと思うのだが。
「必要ない。私が君を倒せばいいだけのはなしなのだからな」
「…あんたさ」
ふと思った事を口にしてみる。
「レイリーにもそう言ってやられたクチ?」
「…そのれいりーとやらがライダーのマスターだったなら、違うぞ! バーサーカーがあのライダーにやられたんだ!」
…あのライダーが、あのバーサーカーを?
どんなやつなんだライダーは。
「…まあ、今はライダーのやつはどうでもいい。だが…」
初老の男は手を前に突き出す。
「やつらが妨害をしてくる前に君を排除する事にしよう」
「なら…!」
俺は構えをとりながら詠唱を開始。そして、
「右手に神秘を、左手に剣を」
全身の強化をほどこす。
一部分の強化と比べて若干威力は下がるけど、こうでもしないと全身をばねにした攻撃が使えないからな。
更に、
「我が纏うは精霊の息吹」
その身体に魔力をまとわせる。
これによって感を鋭くする上に瞬間的な放出によって攻撃力が上昇する。
…欠点はまだ未熟だから後でものすごく疲れる事なんだけど。
「行くぞ!」
脇構えをとりながら俺は男に向かって走っていく。
「Wind Blade !」
詠唱を完成させた男はすかさず俺に向かって魔術を放つ。
おそらくはかまいたちのようなものを発生させて切り刻むものだと思う。
だけど、遅い。
はっきり言って英ねえの攻撃とは段違いの遅くて泣けてくるし。
なのでほとんど紙一重でかわしたまま接近を止めない。
十数メートルはあった相手との間合いも既に5メートル。
このまま斬り捨てる!
「む、Repeat !」
今度はたった一言でまたそれをいくつか放ってくる。
右ななめ20度ぐらいが1つ、やや高い水平のが1つ、左ななめ80度ぐらいのが1つ。
下にかわせるスペースがあるな。
「ぐ、Repeat !」
既にこちらの間合いまであと少し。
なので相手もこちらに当てやすくなっているわけか。
放ったかまいたちはクロス状になり俺の首を狙う。
この距離ではかわしようがない、な。
「ふっ!」
俺は一呼吸で剣を一閃する。
ただの剣なら俺の腕ではただ真っ二つにされてしまうのが関の山だろう。
だが、この剣は魔力を帯びたもの。
ただの風の刃ごときにひけをとりはしない!
「何っ!?」
脇構えからの上段への振りあげ、それで敵の魔術は消失した。
そして、返しざまに剣を下に振る。
「ぐ…!」
相手はかろうじて飛びのいて距離を離そうとする。
けれど、英ねえに比べるとはるかに遅い。
俺は相手が数歩動いて離した距離を一歩で縮める。
「levitation !」
と、敵はまるで鳥のようにして急に速度を上げ、俺から間合いを離す。
そして、空中を飛んで民家の屋根に着地した。
「空中飛行! 風の魔術か!」
己の身体に風をまとわせて飛んだのか、それとも自らの軽量化と重力制御でただ飛び上がったのか。
どっちにしても、今の俺なら飛び上がって追撃もできそうだけど、その間に撃墜させられてしまう。
ここは…
「やはり君もあの華人と同じくインファイターか。しかもよほど戦いなれているとみえる」
…実戦は正直まだ数回しかやってないんだけど、英ねえのしごきが実戦レベルだったからな。
今の相手の言葉からするとレイリーもこうして接近して戦う方なのか。
だとすると、その戦い方をしているものへの対策もしてあるわけか。
「はあ」
俺あまり魔術関連の鍛練はしてないから、そういった遠距離攻撃の技術がまだ未熟なんだよな。
なら…。
「天翔ける詩人の調!」
俺にかかる重力を軽減し、飛び上がる。
普通なら届かないような数メートルの跳躍を難なくこなす。
当然向かうは敵真直線!
「violent wind !」
敵は俺に屋根の方へと着地させないように突風を放ってくる。
う、空中だと踏ん張りがきかないから押し流される…!
「くっ!」
かろうじて屋根の先端に足がかかったのでそれで踏ん張りをつけ、再度敵に飛びかかった。
「levitation !」
俺の攻撃はかろうじて外れてしまい、敵は今度は空中に逃げ込んだ。
くそ、突風がまだなかったら確実にしとめていたものを。
俺は敵の着地地点になるだろう所に走る。
放物線を描く敵より直線で進む俺の方が先に着くのは必然。
ならこの勝負、もらった。
「…ん?」
と思っていた。
少なくともそれを見るまでは。
「く…空中浮遊…?」
はっきり言っておこう。飛ぶのは簡単だ。
少し風とか重力を制御したりして後は勢いをつければ飛べる。
だけど、浮遊ははっきり言ってとんでもない事だ。
何しろ地面を飛び上がった時の勢いが全く使えないし、飛行している時の空気の恩恵にもあずかれない。
ようは、とんでもないって事。
「…でもそれ非効率じゃないか…?」
当然敵は空間の固定なんてせず、風だけで浮遊しているのだろう。
なら、常時魔術を使っている事になるんだが…。
確かに俺ではあいつには届かない。
不慣れな遠距離攻撃をやった所でかわすことは可能だろう。
なら、
(アーチャー、敵マスターを狙撃できる隙はあるか?)
念話でアーチャーに呼びかける。
アーチャーなら飛び道具であいつをいとも簡単に攻撃できるだろう。
あれでは急激に動く事もままならないだろうし。
(さっきからやろうとしてるけど、バーサーカーに邪魔されてる)
(は?)
バーサーカーに邪魔されてる?
俺は若干遠い位置で戦っているアーチャーたちを見てみる。
確かにアーチャーと敵マスターとの直線の上にはバーサーカーがいる。
普通の人間サイズならそれでも狙撃はできるだろうけど、数メートルの体長になっているバーサーカーではその大きさが邪魔になっているわけか。
(でも理性を失ってるバーサーカーがなんでマスターを守ろうとするんだって)
(本能じゃないか? スキュラって元々そんな感じだし)
元々スキュラは上半身はともかく、下半身はただの怪物だ。本能で動き、人を喰らう。
なら、自身に不利になる事を本能的に悟っていてもおかしくはないって事か。
「はあ、なら自分でどうにかするしかないのか…」
いささか面倒だけれども、それが一番の手段だろう。
俺はため息を軽くついて敵マスターを睨みつける。
まあ今の敵マスターの状況を見ると、中途半端な気球よろしくただ浮いてるだけ。
詠唱をして魔術を放ってくるけど、あれだけの遠距離ではこちらはいくらでもかわしようがある。
かと言ってこちらから出向けばかっこうの餌食になるのは間違いない。
「だからってね…」
このまま相手が疲れるのを見て攻撃するのは癪だ。
遠距離ができない、近距離ではかっこうの餌食、待つのは癪。
なら、
「いいさ、のってやるよ。あんたの策にな」
俺は身体をかがめて勢いをつける。
「天翔ける詩人の調!」
そして、思いっきり跳躍した。
強化された筋力と、重力操作のおかげで上空数メートルにいる敵まで一直線で迫る。
「wind obstacle!」
敵は風をまとうようにして展開させる。
だがそんなの知った事ではない。
強行突破あるのみ!
「でやあっ!」
そして一閃する。
若干の抵抗は感じたけれど、何の妨害にもなっていない。
もらった!
「ふ」
「え…!?」
だが、俺の刀は敵に致命傷を与える事はなかった。
なぜなら、俺の方は風を突破したが、逆に敵の方が吹っ飛んでいたからだ。
「spiral hurricane !」
「ぐっ!」
しまった…!
敵の魔術の一撃が俺の腹部を襲う。
風の魔術の一種だろうけど、まるで岩をぶつけられたみたいだ。
「ぐ…が…!」
かろうじて着地には成功したけど、呼吸が苦しい。
もしかしたら内臓を痛めたかもしれない。
「やはり打つ手はなし、か。あのアーチャーがじきに我がバーサーカーの前に敗北をきっするわけか」
ふっ、と微笑をうかべる敵マスター。
…アレを見ていると断然むかむかしてくる。
あいつのせいで一体どれだけの人が犠牲になったと思ってるんだ…!
何の罪もない、人生を精一杯生きている人たちを!
「ふざけやがって…!」
確かに遠距離はむかず、近距離はあいつには通用しない。
ならやる事はただ1つ。
手段はこの際選んでられない。
「天翔ける詩人の調!」
俺は再び重力を軽減して飛び上がった。
再び敵マスターめがけて一直線に飛んでいく。
「愚かな。また同じ目にあいたいのか…!」
敵は再度魔術を展開する。
今度のは先ほどより強いもので、この身を引き裂かんとばかりに荒れ狂う。
「はああっ!」
そして脇構えから俺は剣を一閃した。
「ぐ…!?」
今度の攻撃は敵の予想を上回るものだったのか、腹部にケガを負わせる事ができた。
が、敵の詠唱しているのは大がつくぐらいの規模の魔術。
この状態では、かわしようがない。
「終わりだ!」
確かに終わりだろう。
俺が魔術の詠唱に入った所で敵の方が間違いなく先に完成する。
だからこそそう言ったのだろう。
だが、それは甘い。
俺が使える数少ない遠距離魔術の1つ。
それは、
「セット、二番、三番、喰らえ一片たりとも残らず…!」
ディートにもあげた、宝石を使った魔術…!
元から宝石に魔力をこめ、一行程だけで発動する魔術だ。
対双魔のためにとっておきたかったけど、二個ほど敵に使用する。
当然敵マスターがよけられる間合いでもない。
「ぐおはっ!」
それらは魔弾となり、見事に敵に直撃していく。
敵マスターはそして墜落していった。
「よしっ!」
俺は着地をすると、なおも起き上がろうとする敵に駆け寄り、
「そこまでだ」
刀をつきつけた。
敵マスターから冷や汗が流れ出す。
それでも目は勝負をあきらめきっていない様子だ。
「どうした、私を殺さないのかね?」
「……」
ああ、殺したいさ。無性にな。
何せこいつはバーサーカーのために銭湯にいた色々な人を殺した。
それを許すほど俺は優しくはない。
「殺さない。殺したらあんたと同じだからな」
だけど、殺してしまえばその一瞬だけで終わってしまう。
こいつの罪は、長く償いをさせるべきだ。
今の状態なら俺の方が有利で、そうするだけの事はできる。
「令呪を破棄してセカンドオーナーのところに出頭しろ。そうすれば許してやる」
「では断れば?」
「両腕を斬り落としてセカンドオーナーにつきだすだけだ。時計塔に戻って裁かれろ」
もちろんちょっとでも抵抗するそぶりを見せれば即座に対処するけどな。
時が流れる。
敵は色々と考えているのか、視線が定まっていない。
「はあ、時間稼ぎをしようとしたって無駄だぞ」
いい加減疲れるのでそう言っておく。
「…なぜそういいきれる」
図星だったのか、少し口調がするどくなっている。
大方バーサーカーがアーチャーを始末をつけるまで時間をかせいでいるんだろうけど。
こっちとしてもキャスターが来るまで時間稼ぎをしてやってもいいけど、そんな悠長な事は言わない。
「アーチャーはすごいからな」
俺はただ笑みを浮かべてそう言ってやる。
その直後、爆音が響き渡った。
/interlude
「む…?」
弓を投影して空を浮いている敵マスターめがけて、アーチャーは矢を何本も放つ。
だが、さっきからと同じでそのたびにバーサーカーが進行上に現れ突き刺さっていく。
矢でひるむバーサーカーではないけれど、ダメージは確実に蓄積されていた。
(さっきからやろうとしてるけど、バーサーカーに邪魔されてる)
憐の要請は最もだ。
あんな宙に浮いた状態ではろくに動けるはずもない。
動こうと思っても初動は確実に必要。
なら、憐に集中している今の敵マスターなら一撃でしとめる事は可能だ。
それを邪魔しているのは目の前にいるバーサーカー。
理性を失い(スキュラが怪物となった状態で元から理性があったかは疑問だが)本能のみで戦うバーサーカー。
その彼女がマスターをかばっている。
「理性を失っていないのか、それとも本能で自分の危険を感じたのか…」
どっちにしても結局敵マスターを狙えないという事実に変わりはない。
だけど攻撃が当たるという意味ではマスターを狙い続けた方が有利には違いない。
飛び道具を放つ事はあいにく敵バーサーカーの動きからするとリスクが高い。
なら今は敵のダメージを蓄積させる事に重点を置こう。
アーチャーは再び夫婦剣をかまえ、バーサーカーの攻撃を退けつつ攻撃を開始する。
「■■■■■――!!」
咆哮をあげてバーサーカーはアーチャーを襲う。
狙いは直線的でめどがつけやすく、スピードが速くてもかわす事が可能だ。
宝具を使う様子もなく、このまま時間をかせぐ事は十分に可能だが、
「問題は…」
今のバーサーカーが果たして狂化させられている状態かどうかだ。
あの姿になった事が狂化だったなら十分に対処する事が可能だ。
だが、もしそうでなかったなら?
敵マスターは狂化の命令をしてはいなかった。なら、これから行う可能性も十分にありえる。
「……」
アーチャーは再びバーサーカーの攻撃をかわす。
そして再び斬りつける。
これをもう何度繰り返した事か。
敵がひるむ兆候は全く現れず、依然猛攻撃を続けてくる。
見れば始めの方に与えたダメージは既に回復しつつあった。
「ダメじゃん…」
このままではらちがあかない。何らかの別な手段を講じる必要がある。
そう思ったアーチャーは敵に飛びかかる。
犬の首のかみつきをかわし、再びアーチャーは敵に攻撃…できなかった。
「ぐぅっ!」
大木のように太い脚で蹴り上げられ、アーチャーは軽く十数メートルは吹っ飛ばされる。
アーチャーは着地による減速をせず、勢いに任せて転がっていく。
「■■■■■――!!」
バーサーカーはそのまま直線的に襲い掛かってくる。
十数メートルあろうともバーサーカーならば数秒もかからずにアーチャーを喰らうことができるだろう。
だが、それで十分。
「――
手に持つのは先ほどの弓。だが、矢は全く別のものだった。
そう、まるでそれはドリルのように歯が捻じれている。だが、それは間違いなく剣であった。
なぜ剣がそのような形をしているかはアーチャー以外には知る由もないだろう。
「
それを弓につがえ、間をおかずしてアーチャーはそれを射る。
直線的に高速で迫るバーサーカーにそれをかわす手段が残されているはずもなく、かわす動作もむなしくそれが突き刺さった。
「■■■■!!」
声にもならない絶叫をあげるバーサーカー。
刺さったのは犬の首の中でも左の方だ。
だがこの隙を逃す手など存在はしない。
「
アーチャーの力ある言葉によって、バーサーカーに突き刺さった剣はその役目を果たさんとし、
辺りを爆音が包み込んだ。
interlude out
/
「どうやら終わったみたいだけど?」
「う…ぐ…!」
俺は敵マスターから注意をそらさないようにしてアーチャーの方を見る。
見ればアーチャーはあの双剣を構えてなおもバーサーカーの方から注意をそらさない。
そのバーサーカーは…うあ。
見てるこっちがあきらめたくなるぐらいに重傷だ。
あの規模の爆発音でまだ生きているのは不思議だけど、相手は神代の怪物だしありえなくもない。
が、結局再起不能には変わりはなさそうだ。
「さあ、どうするんだ? あんたの頼みの綱のバーサーカーは俺のサーヴァントが負かしてくれたぞ」
「…ぐ…む…」
さっきからうなるばっかでこいつは何も言ってこない。
いい加減こっちにも我慢の限界があるぞ。
「…なぜだ」
「ん?」
うつむいているので声はこもっていたが、確かにこいつはこう言った。
そして、今にも噛みつくように顔を上げてくる。
「なぜ貴様らは私の邪魔ばかりする! ランサーといいライダーといい、お前たちといい! 私に何の恨みがある!」
責任転換かい。
世の中自分の思い通りに動くものだと思ったら大間違いだというぐらい、魔術師であるこいつには分かってるはずなんだが。
「戻れバーサーカー!」
「!?」
突然敵マスターの左腕の真ん中らへんが光り輝いたかと思うと、俺と敵マスターの間に何やらやってくるような気配を感じる。
「貴様!」
もはや許容の範囲外。
そのまま殺してセカンドオーナーの前に突き出す!
俺は向けていた剣を振りかぶりもせず、そのまま敵の喉めがけて突く。
これならバーサーカーを呼び戻されるよりも早くにけりが…、
「
その時、急に力が抜けて剣が弱まる。
それでも突き出しはしたが、刺さった相手は出現したバーサーカーだった。
少女の姿に戻った彼女は、左足と左の腰をごっそりとなくしていて、見るに耐えない状態になっていた。
怪物の左半分を破壊したのだから、足と腰がなくなっている。だからこそ生き残ったわけか。
「アーチャー!?」
そして、急に力が抜けた原因を作ったのはアーチャーだった。
見れば彼の目の前には7つの大きな花びらのようなものが展開されていて、俺のそばに立っている。
これは一体…。
「まさか…!?」
その7つの大きな花びらのようなものは、俺とアーチャーを包み込むようにして守っている。
そして、その外からは何かが襲ってきており、花びらを崩そうとしていた。
1枚、また1枚と花びらが崩れ、その何かが止んだ時には3枚にまで減っていた。
手を下ろし、それを消すアーチャーは双剣をまた構えた。
「ぐ…まさかこんな時に…!」
「こんな時だからこそなのかもな…!」
俺は内心で舌打ちをする。
何かが襲ってきた方向は上空からだ。
一体そんなところからどうやって…!
「盾の宝具、それまで使用可能か」
不意に、静寂さを取り戻した闇夜にその声が響き渡る。
このどこか鋭さを持った声は…!
俺はバーサーカーのマスターから少し距離を離し、そっちの方に顔を向けた。
「だが吾の騎乗兵には及ばず。狂戦士、弓騎士ともにこの場で始末する故」
わりと広いその道で、その女性は凛とした物腰で立っていた。
すなわち王麗俐。騎乗兵を持つ者が。
/
「あんたはバーサーカーみたいに無差別に人を襲う奴らを優先的に倒すんじゃなかったのか?」
一応俺はそう彼女に聞いてみる。
いずれは決着をつけなければならないだろうけど、今ははっきり言ってマズイ。
ライダー組まで相手をしてしまってはバーサーカー組に逃げられてしまう。
「愚問」
だが、彼女はばっさりとそういい捨てた。
ぐ、こいつも結局好戦的にすぎないのか…?
「そなたが槍騎兵の主と決着を求めるは既に承知の事」
だが、レイリーの言った言葉は全くの予想外なものだった。
言葉も出ない俺。
この事はレイリーには言ってない筈だ。
「…なぜあんたがそれを知ってる…!」
「友から全てを」
友から、全てを…?
……。
若干考える。
はっきり言うと、俺が双魔と決着をつけようとしている事はアーチャーとディート、それからキャスターにしか話していない。
あの英ねえや師範にすら話してないことなのだ。
他にこれを知っていると言えば…自ずと答えが見えてきた。
「…そうか…そうだったのか…!」
だからこそレイリーはあんな行動を取ったのか…!
ようやくレイリーに関する疑問が解けた。
「だから…なのか…」
そして思わずつぶやいた。
「友との約束ゆえ、弓騎兵及び槍騎兵は真っ先に始末する故」
そう言うと、レイリーは背中に収めてあった二つの剣を取り出す。
いや、それは剣というべきなのだろうか? 刃と柄の長さが同じぐらいで、槍でも剣でもないように見えてしまう。
アーチャーと同じ双剣使いか。インファイターとは聞いていたけど…。
「…憐、話が見えてこないんだけど…」
「あ、悪いなアーチャー」
確かにこれは事情を知っている者にしか分からない会話だったか。
「帰ったらゆっくりと話す。だから今は…」
「分かった」
アーチャーはこくりとうなづくと、白と黒の剣を構える。
「騎馬兵」
「承知」
レイリーの言葉とともに上空に姿をみせたのは、昨日見たライダーのサーヴァント。
だが、昨日とは決定的に違う点がある。
それは、ライダーが何かに乗っている所だ。
「…ウソだろ?」
俺は思わずつぶやいてしまう。
それほどまでに今目の前でおきていることが全く信じられなかった。
敵が乗っているのは、麒麟だ。
「なんで麒麟に乗れる奴がサーヴァントやってんだって!」
そして思わずそう叫ぶ。
麒麟といえば向こうの方ではとてつもなく位が高い、四霊の1つで、その他にも鳳凰やら応龍(龍の中で最も位の高い存在)と並ぶ存在だ。
幻想種というくくりで収めるなら、魔獣ではすまされないだろう。
で、そんなのを自らの乗り物として扱う、それが目の前にいるライダーだ。
「そもそも麒麟が使役された事があるだなんて聞いた事もないぞ!」
「あ、いや…もしかして…」
「え?」
もしかして心当たりがあるのかアーチャー!
俺はアーチャーの肩をゆする。
「ライダーの真名は!?」
麒麟を使役してる奴なんて向こう側が四千年ほどの歴史を持っていたとしても片手で足りるぐらいに違いない。
なら、ぜひ聞きたいものだ。
「ライダーの真名は後にしよう。今は…」
アーチャーはライダーとレイリーの両方を見る。
「敵の攻撃を防ぐ方が先だ」
「…分かった」
確かに今真名を知った所で、戦いに有利になるとは思えない。
ならここはそのまま戦うべきだろう。
「ではいざ」
飛び出したのは意外にもライダーではなくレイリーの方だった。
腕をクロスさせて剣を構えていて、まるで剪定バサミを使うかのような印象を感じさせる。
「アーチャー、バーサーカー組を何とかしといてくれ。その間に俺はレイリーを抑えとくから」
「ライダーはどうするんだ?」
「うまくライダーがバーサーカーの方に意識を向けるよううながしてくれ」
かなり無理な注文だが、今さらライダー組と戦ってバーサーカー組を逃しましたなんてシャレにもならないからな。
ぐ、2対2は想定していたけど、三つ巴だなんて予想外だぞ。
「右手に神秘を、左手に魔術を」
「我が纏うは精霊に息吹」
詠唱をとっととすませ、戦いに備える。
まず俺は敵が真っ先に狙ってきた首への一撃を何とかかわし、飛び上がる。
そしてそのまま弧をえがいた俺の刀はレイリーの頭めがけて振り下ろされる。
「ふっ!」
レイリーはそれをいとも簡単に右の剣でいなし、左の剣で攻撃する。
「ぐ…!?」
は…速い…!
それは予想した事ではあったので刀でそれをさばくけれど、俺の予想よりレイリーの速度は…!
「…良」
アーチャーの剣舞は戦闘にのみ特化したもので、それ以外のものには応用できそうにない。
だが、レイリーのはアーチャーほどの凄みはないけれど、まるでその剣舞は踊りを見ているかのようだ。
「うおおっ…!」
今まで英ねえに教わったものを全て出してレイリーに立ち向かう。
攻撃、防御、受け流し、また攻撃。
幾度それを繰り返しただろうか。
強化と魔力放出でかなり基礎部分を底上げしたというのに、何も行っていないレイリーと俺とは互角だった。
ほんの少しでも気をそらす事があれば、殺される。
「…なるほど」
そのレイリーは笑みを浮かべると、剣を払いつつ間合いを広げた。
うかつに飛び込むよりはここは時間をかせいだ方がいいと思ったので、間合いはそのままにしておく。
「武芸者、か。これでは時間がかかるもの也」
そして、再び腕をクロス…どころかまるでなにかを抱きかかえるかのようにする。
そしてやや重心を下にするスタンス。
これは…?
ぞく…っ!
「…やばい…」
あれは、とにかくヤバイ代物だ。
だけどレイリーはその場から動こうとはしない。
ただ、魔力が流れている事は分かる。
「なら…!」
何かをされる前に斬る!
(かがめ憐!)
「な…っ!」
俺は意識でやるより先に体が反応して、一瞬で這いつくばる。
その直後、
「
空気が切断された。
「ぐ…」
後ろを見れば、アーチャーは飛び上がっていて、バーサーカーのマスターが己の従者をかばうようにして覆いかぶさっている。
そして何より、建物に長く横一文字が走っていた。
つまり…、
「あの一撃が辺りを切断したって事か…!?」
まるで剪定ばさみで枝を切り落とすように、俺の胴を斬りおとそうとしていたのか…!
詠唱をしていた様子もないし、そもそも接近戦を主としたレイリーがそこまでの大魔術を使えるとは…。
「待てよ…?」
確かにレイリー自身にそうする事は多分無理だろう。
俺がそこまで宝石魔術を得意としないように。
だが、もしあの剣そのものにその効果があったのなら?
魔術用具でも優れた分類だったら?
「いや…」
こんな想像はしたくない。
だけど、もし…
あの剣が、宝具だったら?
「まずいぞ…」
それが代々伝わる宝具だったなら、その宝具に見合う戦法と実力を身につけている事になる。
なら、俺に勝てるか?
「…いや、始めから決まってるか…」
俺は顔を左右に振る。
敵の持つものが宝具であっても、俺が戦わなきゃならない事には全く変わりがない。
アーチャーがライダーを押さえている間に、俺が何とかしなくては…!
「Rapid Wing !」
んっ?
思わず俺が横を見ると、バーサーカーのマスターが重傷のバーサーカーを抱えて風の魔術で飛び立とうとしている。
「てめえ、逃がす…!」
「よそ見は禁物」
その隙を狙ってくるレイリーの剣を何とか受け、切り返す。
どうやらバーサーカー組より俺たちを優先するらしい。
無差別に人を襲う奴より友人との約束の方が大切か…!
「アーチャー! バーサーカーを逃すな!」
「ぐ…あいにく…」
ちら見でアーチャーにうながすが、アーチャーの方は上空からライダーが振るう何かを双剣で対処している。
アレは…鞭か?
アーチャーはあれでやられるほどではないけど、かと言って弓を持つ暇もないようだ。
「今日のところは引き分けにしとこう。さらばだ」
「待てこの…!」
俺も何とかして止めたいが、レイリーがそんな事をさせないぐらい強くてそんな隙はない。
ぐ…このまま逃げられるのか…!
「騎乗兵」
「分かっている」
と、そのレイリーのつぶやきにライダーが反応する。
その武器の目標をアーチャーとは別の対象に…
「ぐ…!?」
する前に爆発につつまれ、ひるむ。
「ああーっ!!」
思わず俺が叫んだときには、バーサーカーのマスターはバーサーカーを抱えて夜の町を低空高速飛行で逃げていってしまった。
今のライダーのひるみの原因は…
「レン、無事だった!?」
「む、やっぱしあの程度の魔術じゃあダメージは少ないかー」
やっぱし。
向こうの方から駆けつけてくるのはディートとキャスターの2人だった。
今のはどうやらキャスターの魔術のようで、ダメージの少なさに多少がっかりしている。
「…魔術師…。これはこちらの分が悪し」
そう言うとレイリーは俺の刀をはじき、ライダーの方をちらっと見る。
ライダーはそれにうなづくと、アーチャーを牽制しながら麒麟でこちらの方に飛んでくる。
「
そのまま停止どころか減速もせず、ライダーはレイリーの手首を掴むと飛び立ってしまう。
あの麒麟とライダーなら遠距離攻撃も対処できてしまう。しとめる事は厳しい。
結局、ライダーたちもそのまま飛び去ってしまった。
/
残ったのは俺たち4人だけ。
どれだけの時間がすぎたのかは正直分からない。
「ごめん、遅くなっちゃって…」
「……」
駆け寄るディートとキャスター。
バーサーカー組とライダー組。
両方と死闘をしながら結局両方ともに逃げられし。
てゆうか…。
「…キャスターがライダーを攻撃しなかったらバーサーカーを倒してくれてただろうに」
思わずつぶやく。
それを聞いてキャスターを見つめるのはディート。
「…だから僕は「ライダーは別の何かをしようとしてる」って言ったじゃないか。やっぱ様子を見てた方が…」
「それは結果論でしょ! あたしは何も悪くない!」
ほおをふくらませてこう主張するキャスター。
「あれが宝具の発動だったとしても知らないんだから!」
しまいにはぷいっと俺と逆方向を向いてしまう。
…俺は何も悪くない。…はずだ。
「で、レン。結局どうなったの?」
多少息は乱れているディートはそうこちらに質問してくる。
いつものような笑みを浮かべながらではなく、真剣な顔だ。
「バーサーカー組とまず交戦。いいところまでは行ったんだがライダー組に邪魔されて結局泥沼化。それで2組ともに逃げて今に至る、と」
「なるほどね…」
うなづくディート。
「それで、敵の真名は?」
「それに関しては説明が長くなりそうだ。今日のところはこれで終わりにして、屋敷に戻ろう」
英霊でもないスキュラ。神クラスの幻想種である麒麟に乗っていたライダー。
分からない事だらけだ。
ただいえるのは…。
「バーサーカーは正直1対1でも何とかなりそうだ。が、ライダー組は正直注意すべきだ」
「「…!」」
アーチャーは何の反応も示さない。
ディートとキャスターは驚いた表情になる。
「そんなにすごいの…?」
「それも追って説明しようかと思う」
俺は胸を押さえながらもそう言う。
そして、天を見上げた。
やはり、聖杯戦争は俺の想像なんかよりもはるかに厳しいものだったか…。
ディートを救うためにたちはだかるのは、アインツベルン、双魔、レイリーと…。
「…先が見えないな…」
だけど、俺にはそれでも進むしか選択肢はない。
この思いだけは、誰にも負けたくないから。
to the next stage…
あまり三つ巴の醍醐味をかけませんでしたね…。この後こそは…。
この長編の中では一番長くなってしまいました。それでも対ライダーがまだイントロふうに書かれていたりと書ききれなかった部分もあります。
さて、ようやくバーサーカーとライダーの正体に関して書く事ができました。
第2次でバーサーカーをスキュラにしたのは正直自信がありません。
もっともらしい理由は一応考えているのですが、完全にこじつけ理論な気もします。
宝具は持っていてもヘラクレスのような自動発動にするか、バーサーカーなので使用不能にするかはまだ考えていないあたりストーリーの方が先走ってます。
アーチャーの攻撃でヘラクレスすら1回は死んだのにスキュラがなぜリタイアしないかですが、怪物状態ではスキュラは体の半分が破壊されています。
が、人間の状態に戻れば化物部分は下半身ですから、脚1本とその付近のみの損失だけになります。よってかろうじて生存でどうか1つ。
ライダーは麒麟に乗り、そのマスターのレイリーは金蛟剪持ち。もうライダーの正体は分かったも同然だと思います。
ちなみに自分の中ではライダーはライダー(メドゥーサ)よりは若干実力は低いが、使う幻想種はこちらの方が強力、としています。
アーチャーの偽・螺旋剣の詠唱はどうしようか悩みましたが、原作アーチャーのままにしました。
これで残った不明のサーヴァントはランサーのみですか。…彼の正体はもっと後になりそうです。
それでは次はとうとうあの人にご登場願いたいと思います。…さらにこの話が混沌となる気はしますが。
2006年9月25日
2007年5月24日 表示スタイル変更