/3日目

「ふう、ふう」
「なあ、聞いていいか?」
「疲れるから用件は手短にな」
柳洞寺と呼ばれる場所に向けて駆け足で階段を上がる俺。
その後ろにぴったりつけるのは俺のサーヴァントであるアーチャー。

 …正直これを始めて随分とたつのでだいぶなれがでてきたけど、やはり疲れるものは疲れる。
当然の事ながらアーチャーは息なんて切らしてはいない。

「なんで駆け足なんだ?」
「あー、英ねえにそうしろって言われてるんでね。だいぶ遠く離れた所でさぼってもすぐ見つかって昏倒コースまっしぐらだからな」
うん、初めの方はそれでぼこぼこにやられたからな。
それに俺のためにならないと思い、しっかりと走る事にした。

「それと…」
ちらっと、アーチャーは俺の右手の方を見る(と思う。実際俺の方が前だから後ろを見る余裕なし)。
俺の手に握られたのは竹刀。駆け足で持つようなシロモノではない。

「不意打ち防止」
「…なるほど」
はっきりと言ってしまうと、階段を昇り終えた途端に攻撃を食らって昏倒、何てことはしょっちゅうだからな。
だけどよける事はまだ俺にはできない。ゆえに受けて反撃をするか、逆にこちらが不意打ちをかけるかしかない。

 階段を駆け上がる。
空は若干雲がかかっているけれども、ほとんど快晴に近かった。
周りにそびえたつ木々の葉の隙間から日光がまぶしく俺たちを照らす。

 西洋化の波はこの町にも訪れているけれども、ここはまるで時間が止まったかのようにそのままのおもむきを残している。 
できれば永久にこのおもむきが残ったままである事を願おう。
どのような道をこの街が歩む事になろうとも…。

「もう少しだな…」
七割ぐらいを昇りきり、残るは三割。
自然と竹刀を持つ手に力が入る。

(いかんいかん…)
力が入れば初動がにぶくなる。
一瞬でも速く動くには適度の緊張だけで十分だ。

 見たところ山門の近くには誰もいない。が、油断は全くできない。
何しろいつぞやの時は床にはいつくばって待っていてくれましたしね。
いつか絶対にこっちから不意打ちかけてやる。

 九割ほどのぼり、視界にある山門が大きくなる。
今日はどんな手で来る気だ…?
そして俺は山門にたどり着き…。

「遅いぞ馬鹿者が」
「ぐ…!」
正面から堂々と不意打ちか!
このパターンは久しぶりだ!

最後の階段を昇りきって一秒もしないで英ねえが放った頭部への一撃を竹刀でかわし、竹刀をひねってそれをいなす。
ここまでは予定通り。

「ふっ!」
そして一呼吸で返しざまの剣を放つ。
ひねってかわしたのだから当然狙うはそこから最短距離に位置する首筋から斜め下に。

英ねえの剣は横にそれているからいくら彼女でも俺より先に攻撃する事は不可能。
なら手段としてはかわす以外道はないだろうけど、横や後ろなどどの方向にかわしても追撃は可能だ。
ならこの勝負、もらった!

「え?」
と思った。その時は確実に。

 しかし、予想に反して俺の体は宙を浮いていた。
これが本当の吹っ飛ばされたと言うやつだろう。
腹部ににぶい痛み。

何の事はない。剣の攻撃の直後に蹴りを放ってきただけだ。
剣がだめならひじでも脚でも使わない方がおかしい。
一応予想の範囲には入れていたから、後ろに飛んで若干ダメージを少なくしたけど…、

「げ」
ここを山門、つまり後ろに階段がある事をすっかり忘れてました。
ここままだと転がり落ちるコースまっさかさまだ。

「アー…士郎! 着地よろしく頼む!」
「あー、憐の修行を邪魔していいのか?」
「は…」
言っている事はまともで俺のためになるかもしれないけれど、できれば助けて欲しくありました。
次の瞬間、身体じゅうに鈍い痛みを感じ、意識を深い闇の底に落としたのでした。




Fate/the midnight saga(仮)

第12話


   /

「こ…この薄情者ぉ…」
「情けない事言うなよ」
少し後、俺は全身あざだらけになりながらも何とか意識を取り戻し、稽古にはげんだわけだが…。

「いててっ!」
「我慢しろ。もう少しなんだから」
見事に何度も何度も英ねえにぼこぼこにされたわけでして。
情けない話だが今回は英ねえ相手に手も足も出ずに終わってしまった。

 そして今、これまた情けない話だが俺はアーチャーの手当てを受けているわけだ。
当然魔術などではなく、傷薬を使ったものだが。
と言ってもすり傷や切り傷などではなく、打撲が主なのであんまし効きそうにないのだが、ね…。

「強くなったな」
「え?」
急に、英ねえはそう俺に対して述べてくる。
それが意外以外の何物でもあるものか。

「今何ていった?」
考えるより先に俺の口からこんな台詞がでていた。

「もしかして英ねえさん、ぼけたか?」
「痴れ者が」
「いてぇっ!」
英ねえが放った竹刀が思いっきり俺を痛めつける。
傷の部分に竹刀当てないでくれっ! 痛すぎる!

「傷の手当てをしている時も気を抜くな」
「んな無茶な」
飛び跳ねる俺にため息をつくアーチャー。
俺が何か悪いことでもしたのか? したのか?

「俺が強いって…昨日とあまり変わってないじゃないか。戦法だって太刀筋だって」
そう、圧倒的な実力差でぼこぼこにされているのは昨日も今日も全く同じだが。

「それが分からんからお前はまだ未熟だと言っているのだ」
そんな英ねえは相変わらずの淡々とした感じに言い放つ。
若干の表情の変化があっても、劇的な変化がないのはとても残念だと思うが。

「実力の絶対差は日々の鍛練にのみで埋められる。ワタシはそう言ったな」
「ああ、確かにいつかそう言ったけど…だからこそ1日で差を埋められるとは…」
「だがな」
彼女の黄金でも黄色でもない、独特の瞳が俺の方に向けられる。
既にこの人は60を軽く超えている年齢をしているはずなんだが、全くそうは思えない。彼女の持つ雰囲気と覇気は全く衰えを見せていない。

「心がけ次第でそんなものいくらでも変える事ができるんだ。当然生半可なものでは微々たりとも変化せんがな」
「心がけ次第…」
「昨日と今日とでは何が変わったかは知る由もないが…」
昨日と今日とで劇的に変わった事。
それは…


「レン…」


やはり彼女、ディートリッヒの存在だな。
聖杯戦争に参加した理由は私念と犠牲をなくしたいという理由だけど、それはあくまで大勢に対してだ。
特定の存在を助けたいなんて思った事は俺の人生の中では…多分なかっただろう。

「そうなってからの伸びは目を見張るものがある。明日からはもっと実戦を想定した稽古に入るぞ」
「げ」
一段落進んだのはとても嬉しいが、これ以上厳しい稽古なんて想像もしたくない。
なにせ今日からは夜街を回らなきゃならないんだからな。

「ん?」
待てよ?
明日?

「まだ昼まであるぞ英姉さん。もう終わりか?」
「いや、たまには別の事をしたいのでね」
別な事?
と、英ねえはアーチャー、士郎の方に顔を向けた。
…もしや懸念してた通り、アーチャーの事に何か感づいたか…?

「まずは客人、憐の稽古にかまっていて貴公を無視してすまなかった」
が、予想に反して英ねえはそう言いながら頭をさげた。
これには俺は確実に驚いた。と言うかこんな事を聞いて見るとは思わなかったし。

「いや、俺には別に構わないで憐との稽古を続けてください。俺も貴女の剣を拝見したいですから」
「なら…」
丁寧に述べるアーチャーに対し、英ねえは何かを投げつける。
下からなのでそれは放物線を描いてアーチャーにキャッチされた。

「…これは…?」
「竹刀だ。見て分からないか?」
いや、それは見たら一発で分かるだろ。さっきまで俺が使ってた俺の竹刀だし。
それをアーチャーに放り投げたのは…?

「貴公はかなりの手だれとお見受けした。手合わせ願いたい」
「「ええっ!?」」
それには俺ばかりではなく、アーチャーすら驚く。
手合わせだって…!?

「初対面の人と剣を合わせるだなんてどうかしてるぞ英ねえ!」
「ほう、お前はワタシに洞察力がないといいたいのか」
「話をすりかえるなって」
宝具がなければセイバー、つまりあの北欧神話の英雄シグルズとも戦える。
そんな事を確かにさっき言ったけれど、実際のところはどうなのかは分からない。
そこまで俺にはまだ洞察力が備わってないのだ。

って英ねえがサーヴァントとも互角に戦えるかはこの際問題じゃない。
問題なのは、英ねえが初対面の士郎相手に勝負を挑んでるって点だ。

「士郎、何も英ねえに付き合う事はないんだぞ」
「そうだな…」
俺の言葉にあっさりとそう言うと、アーチャーは竹刀を俺の方に手渡す。
という事は英ねえと勝負をする気はないという事か。

「…どういう事だ?」
「いや、俺には通常の刀一本はどうも合わないから…」
士郎は手を自分の背中の後ろに回し…、

「こっちを使わせてもらうぞ」

投影で創り出した竹刀の小太刀二本を左右に持って構えをとる。
思いっきりやる気でした。

「しろーうー!」
「いや、だって英さんがああ言ったからには憐の何らかの役にたつんじゃないのか?」
「へ?」
アーチャーにくってかかる俺の動きは彼の言葉であっさりと停止する。
アーチャーと英ねえの戦い、役に立つ…。

「あ、見稽古か」
「未熟者が、やっと分かったか…」
顔に手を当ててはあ、と思いっきりため息をしてくれる英ねえ。
正直これをやったのが街の男どもだったら間違いなくパンチの洗礼を与えている。

「どんな戦闘を経験しているのか知らないが、かなりの手だれなのだろう。だが…」
? いつにないような惜しいといった表情を見せる英ねえ。

「その年で何もそこまでの経験をせずともこの時代では生きていけるだろうに…」
「む、別に俺は誰かに強制されて今までの道を歩んできてたわけじゃないぞ」
「いや、それは分かっている。だが…」
今度は俺の方を見てまたため息を1つ。

「憐がそうなるには一生かかっても無理かもしれないがな」
「って真剣な話は俺へのいやみの前フリか!?」
だとしたら相当タチが悪いぞ!

「冗談だ冗談」
そう言うとふう、と一息つく。
表情をその瞬間に真剣なものとし、英ねえは剣を(竹刀だけど)片手で立てて顔の前に持ってくる。

「ワタシの名は赤木英と申す」
アーチャーはそれにも驚くことはなく、同じ方の剣を顔の前に立てる。

「俺の名は衛宮士郎だ」

これから行われるのは戦闘ではない。
あのセイバーと戦おうとしていたあの時とは全く状況が違う。
だが、あの時とはまた別の緊張感がそこにはあった。

こうしている間にも互いが互いを探りあい、最良の動きを選択しているのだろう。
本当に実戦を想定しているかのように。

「ではいざ」
「尋常に」

2人は剣を下ろす。
英ねえは広いスタンスで脇構え。たまに俺ともやる試合の時にとる構えで、一瞬の払い胴または水月や喉への突きを狙う攻撃主体のものだ。
対するアーチャーはあくまで無形。だがその実防御にも攻撃にも移れるよう肘を若干曲げている。

「「勝負」」
そして、2人の勝負が始まった。

   /

最初に飛び出したのは英ねえ。
予測どおりに彼女は払い胴で攻撃をしかける。
とは言っても軌道はバレバレ。アーチャーの左の剣であっさりと受け流された。
うん、ここまでなら俺でも対応できる。

アーチャーは双剣なのを生かしてもう一方で攻撃に入る。
弧を描かない最短の攻撃、突きだ。

「な…!」
が、俺はあっさりと驚かされることになった。
アーチャーは右の剣で攻撃をしかけたわけではなかった。

英ねえが放った逆方向の胴を受け止めたのだ。

右胴から左胴への瞬時の切りかえし、その動きは…間違いなく昨日のセイバーに準ずるものがある。
英ねえはその速さをもって怒涛の攻撃に入る。
それは繊細さや舞い…などではなく、正に疾風。

一方のアーチャーは双剣で英ねえの剣によるダメージを最小限に食い止めている。
剣を受け止めるのではなく、受け流すでもなく、あくまで最小限に抑える事で致命傷をさけ、逆に攻撃のタイミングを増やしている。
こんな戦い方もあったのか。

互いに剣の応酬は止まらないが、アーチャーはその場を一歩も動いておらず、英ねえは攻めきれていない。
…こう言っちゃ何だが、さすがは英雄。
俺だったら数回は昏倒しているだろうその攻撃を完全に防ぎきっている。
これなら、いずれはアーチャーの方に勝機が傾くだろう。

「!?」
「?」
が、踏ん張りなどこまかい動きは見せていたものの大きく動いてはいなかったアーチャーがその場を大きく飛びのく。
間合いにして数メートル。アーチャーはまた無形に戻るが…。

「む、さすがに鋭いな。そろそろ戦法を変えようかと思っていたのだが」
「戦法を、変える?」
戦法を変える、そんな事は初めてだ。
何しろ英ねえはこちらが戦法を変えようとすると、

「自分の剣を見失っているぞ。他人の剣を使って勝てると思うな」
などと言ってすぐに俺を昏倒させるくせに。
なのに、なぜだ?

 英ねえは構えもせずに一歩、踏み出す。
表情は不敵な笑みを浮かべていた。

「さあ、ゆくぞ」
普段なら英ねえはまず構えをとり、そこから一瞬で間合いをつめて攻撃をしかけるのが主だ。というかそれ以外見た事がない。
が、今の英ねえは全く構えをとらず、しかもほぼ歩きのスピードでアーチャーの方に向かっている。
こんな状態でどうしようって言うんだ…?

「……」
そんな英ねえに対し、アーチャーは飛び出す。
無茶な体勢ではなく、いつでも受けにまわれる、だが牽制ではないほどの一撃を放った。

「なにっ!?」
が、アーチャーの放つ剣は、正にかげろうを切ったかのように空を切る。
残像すら残したような印象を受ける。
遠くに離れた俺だから分かった事だが、あの一瞬で英ねえは真横に移動していたのだ。

それに気づくよりも早く、アーチャーは剣を払う形で追撃に入る。
英ねえはそれを全くかわそうともしないで剣を払う。
先に攻撃したとは言え、アーチャーは小太刀。一方の英ねえは普通の太刀。攻撃範囲に違いがありすぎる。

「く…!」
アーチャーはその攻撃している剣で何とか防ぎきり、即座にもう一方で切り返しに入る。
それはまたしても英ねえが放った第二撃と相殺する。

そして再び起こる剣の応酬。攻めはたいてい英ねえ、守りと反撃がだいたいアーチャー。
英ねえはフェイント気味に高速移動を繰り返すが、全てアーチャーによって反応されている。
予測ではない。あくまでも勝負勘というやつか、それとも優れた洞察力か。

どれくらい経っただろうか、多分そう長くは経っていないと思うがまるで永遠のような時間だった。
先に間合いを離したのは英ねえの方だった。
あれだけ動いて息の1つもあがってはいないが、心の方は若干動揺しているようだ。

「さすがだな。あれだけの動きに瞬時に反応するとは…」
「あれはあなた本来の動きじゃあないはずだ。だからそれなりに対応できる」
確かにあれは英ねえ本来の動きじゃあない。
それはいくら俺との訓練の時にも本来の動きを隠していたんだとしても、分かる事だ。

英ねえの本来の動きは、力とテクニックが主体のはずだ(あれだけ速く動けても)。
なんで今の俺より力のない英ねえがそんな戦い方をするのかは分からないけれど、非力をテクニックでは埋めるけれども速さで埋めようとはしていない。
英ねえふうに言うなら「彼女の剣ではない」なのだろうか?

「ふう、なら…」
と、再び英ねえは構えをとった。
いつもと同じで脇構え…。

「いや、あれは違うぞ…!」
脇構えだって身体はちゃんと相手の方に向けている。その方が前に出やすいからか、中段と大して向きが変わっていないのだ。
が、今の英ねえはまるで抜刀術でもするかのように身体を低く、横に向けている。
防御を捨てたのか…?

「数年ぶりか。ワタシ本来の剣を用いるのは」
「ほ…本来の剣…」
英ねえの本来の剣、それをこんなにも早く見る事ができるだなんて、思ってもいなかった。
俺との稽古では片鱗ぐらいしか出してくれていなかったし、する必要もなかったからだろう。

でも、これで彼女がどれほど偉大なのかが分かる。
俺が他の誰よりも憧れたその強さが。

先ほどのように笑みなど浮かべていない。
彼女の目に映るのは、アーチャーただ1人。
その気配は、さっきまでのがまるで遊戯のようだ。

「ふっ!」
英ねえは一呼吸で飛び出し、

一瞬で同じぐらい離れた位置でアーチャーの後ろに立っていた。

「し…信じられない…!」
思わず俺はつぶやく。
遠く離れていたから俺にも一応彼女をとらえる事ができた。
だけど、今見たことが真実だとしたら、本当に事実だとしたら…、

英ねえはダーヴェルやセイバーよりも速い。

「そんな事が…」
あるのだろうか。
英雄たちより現代を生きる者の方が上回る事など。

「受け止めたか! 今の一撃を!」
そのすれ違いざまの攻撃を、アーチャーはさばいてみせた。
が、さっきまでとは違い、本当にぎりぎりの位置で。

「ふっ!」
英ねえは一呼吸すると、一瞬で間合いをつめて攻撃を開始した。
右に攻撃し、それをさばかれると見るや左に攻撃。
さっきまでとは違って踏み込みも強く、より力強く剣をふるう。

正に、嵐。

「…っ!」
だと言うのに間合いはそのまま。つまり英ねえの剣が入るぎりぎりの所でせめぎ合いが行われている。
小太刀を使うアーチャーの間合いではなく、もっぱら彼は英ねえの放つ剣や彼女の手首を狙った攻撃が多くなっている。

「うおおっ!」
英ねえの剣の速度はとてつもなく速い。速いし力強い。
攻撃が防御といった感じに(敵の攻撃は武器への攻撃ではじく、みたいな)振るうそれは確実にアーチャーの方を追いつめていた。

アーチャーというぐらいだから士郎の戦法は小太刀二刀流だけではないはずだ。
にもかかわらず、接近戦で英雄を追いつめる英ねえ。
俺は、その凄さを改めて実感した。

「ぐ…っ!」
思わずだろうか、アーチャーは英ねえとの距離をとろうとする。
これがサーヴァント戦なら何らかの飛び道具を放っているところだろうが、今回は竹刀での戦い、それは使えない。
そんなアーチャーに対し、英ねえは…、

 竹刀を大きく振りかぶった。

 こんなバレバレの動作をする理由はいくつもあるだろうけど、考えられるのは2つ。
予備動作としてそれが必要な事。すなわち、今までの剣を上回る『技』を出すための。
そして、破られない自信があるから。破られる事がないのなら型など不要だ。

あるいは、両方か。

「喰らえ、人間というものの極限に近づきしこの『技』を」
そう言って、英ねえは剣を振り下ろした。
いや、そんなちゃちなものではなかった。

「嘘だろ…!」
1,2,3,4…無数の刃がアーチャーに襲いかかっているのだ。
もちろん同時ではなく一本の剣で振るっているだけにすぎない。
だけど、その動作がこちらからでもとらえきれないほどに、ただ速いのだ。

 たった一本の剣で振るっているにも関わらず小回りの効く小太刀、しかも二刀流のアーチャーより速い。
ある程度のダメージを受けながら昏倒や戦闘への支障を避けるように受けている。
反撃するどころか、後退する隙すら全くない。

そして、

「しまっ…!」
「もらった!」
胴への一撃を防いだため、でついにアーチャーの手が上に上がってしまう。
懐ががら空きになってしまった。

時間差がほとんどなしに英ねえはそのできた空間に竹刀を放つ。
そして勝負はついた。

意外な形で。

「む…!?」
英ねえの剣が半分ぐらいの長さしかない。
半分ほどの範囲ではアーチャーの懐を捉えきれていない。
いつの間にだが、英ねえの竹刀が半分からなくなっているのだ。

「…はあ、負けてしまったか」
その隙を逃さないアーチャーではなく、彼の竹刀が一方は喉元、一方は心臓に突きつけられている。
はあ、とため息をつく英ねえ。実際かなり悔しそうだ。
アーチャーの勝ちか。これで。


剣を下ろすアーチャー。

「いや、武器が違っていれば貴女が勝っていたでしょう」
「竹刀という対等の条件で戦ったんだ。なら竹刀の耐久度を考えて攻撃手段も考えねば…な」
どさっと座り込む英ねえ。
それでも竹刀はちゃんと丁寧に置いているあたり凄い。俺なら放り投げてバッタリだろ。

「それにしても…」
髪をかきあげて英ねえはアーチャーの方を向く。

「シロウ、一体その年でどれだけの経験を積んだんだ?」
「経験?」
「シロウの剣は決して才能の賜物ではないはず、なら実戦を経てその域に至ったのだろう。だとしたらどれだけの戦闘を繰り返したんだ」

才能の賜物ではない?
あの域にいてもそれが才能のおかげではないというのか。

あの2人の攻防。
今目をつぶれば全てを思い出せる。
英ねえの攻撃、アーチャーの守備。
全てが俺にとっては遠い存在。

だけど、それが才能のおかげではないと言うのなら、俺もいつかは…。

「…まあ、色々と」
「色々か。そうか」
え? 今ので納得したのか?
俺だったら絶対に納得してないぞ。
アーチャーが英雄になった過程を少しだけでも知りたかったんだが…。

まあいい、今回はそれは保留。
俺が一番気になってる事を言う事にしよう。

「英ねえ、そう言ってる英ねえの方はどうなんだよ」
いくら数十年生きている彼女だからって、英雄と戦い合えるだなんて、彼女こそどんな戦歴を持っているんだ?
それを聞いた英ねえは目を大きく開く。

「話してなかったか?」
「ない」
そんな事は一切。
たまーに世間話のようなのりで断片だけ話してくれた時はあるけど、それだけでは全く分からないし。
分かった、と腕を組んで英ねえは若干上を向く。

「幼い頃から色々と戦いは経験したが…一番最後のは明治維新前だな」
「明治維新前?」
それはまた随分と最近の事だな。

「憐と出会う前だったか、ワタシは維新志士として新政府軍について戦った。刀に命をかける武士たちを相手に幾度となく戦ったものだ」
「へえ、この寺にこもりっきりじゃなかったのか」
「己をせまくしたくなかったのでな」

…明治維新、か。
それにより日本の西洋化が始まり、真の意味で武士の、刀の時代は終わったと言える。
それは、日本の誇りがまた1つ失われて、新たなものを手に入れる事だ。
でも剣を使う俺にとっては残念な事なのだが。

「という事はあの有名な新撰組とも…」
「剣を交えたぞ」
「なーんだ、剣を交えてるかと思ったら…」
ん?

「えええっ!?」
あの新撰組と剣を交えた!?
思わず大声をあげてしまう。

「何だ? そんなに驚くような事か?」
「いや、だって、な」
武士以上に武士らしくあった彼らは己の全てをかけて戦っていき、散っていった。
そんな彼らの1ページに英ねえがいただなんて。
というよりそんな国を左右するような事に英ねえが参加していたことがそもそも驚きだ。

「そうだな…、彼らの志はまさしく誠。それをつらぬきとおし、まっとうしたと言っても過言ではないな」
「…」
俺自身は彼らに会った事などないので何もいえない。
ただ、その志は誰よりも強かったに違いない。
彼女の彼らを語る口調は、とても真実味があった。


「まるで彼らのようにな」


「彼ら?」
「いや、こっちの話だ」
まるで遠い何かを思い出したかのような表情。
彼らとは一体…?

「まあ、それ以外のワタシに関しては近いうちに話してやる。今日はこれで終わりにしよう」
そう言うと彼女は竹刀を持って立ち上がり、ほこりを払う。
もう終わりか? 今日はやけに早かったような…。

「日を見ろ。既に昇っているだろう」
「あ、本当だ」
来た時は若干傾いていた日は、既に上に昇っている。
もう昼になっていたのか。

「明日からはもっと本格的にやるぞ。期待していろ」
「そっち方面の期待はしたくないんだけどなぁ…」
だけど、今日からはこっちは命がけの戦いを始めるんだ。
そんな事で泣き言なんて言ってられない。

「それではまた明日」
「ああ、また明日」
俺は英ねえに一礼すると、竹刀などの道具を持って寺を後にする。

木々の生い茂るなかを俺とアーチャーは階段を下っていた。
さすがに帰りまで駆け足なんて事はしていない。する気力も体力も残ってないし。
日差しはさっきより強く、葉からもれてくるそれも十分に明るい。

「なあ」
「え?」
不意に、アーチャーが語りかけてきた。
本当に不意だったので間の抜けた返事しか返せない俺。
だめじゃん。

「あの人の事なんだが…」
「英ねえの事か?」
…やはり聞いてきたか。
確かに模擬戦とは言え英霊と互角にやれたんだ。聞いてこない方がおかしいだろ。

「彼女は…」
「単純に強いだけで、俺たちのやってる戦争とは関わりはないだろ」
だからこそ、きっぱりと俺は言い放つ。
何より英ねえに迷惑をかけたくないから。

「強いと言っても魔力はからっきしだからマスターじゃあないし、サーヴァントでもないんだろ?」
「む、まあ、確かにサーヴァントならサーヴァントの見分けはつくからな」
特別な事をしない限り、と付け加えて区切る。

「それに彼女はずーっと柳洞寺に住んでるって聞くぞ。俺よりはるかに長く」
「本当か?」
「ああ、一成師範だってちゃんと証明してくれるはずだぞ」
そう、一成師範なら英ねえがいた事を証明してくれる。
なんていっても同じぐらいの年なんだから。

「アサシンが特殊な気配遮断使ってるって考えてもそんな昔から召喚されるはずもないし、杞憂じゃないのか?」
「…まあ、そうかもな」
まあ、俺だってアーチャーの立場だったら真っ先に疑うだろうけど。
って英霊の立場だったらなんて考える事も不釣合いか?

「さ、ディートたちが待ってる。早めに帰ろうな」
「そうだな」
幸いにも今日だけは気力も十分にあるし。
俺達はこくりとうなづくと、階段を下りていった。

   /

「それでは憐さん、おやすみなさい」
「葵、送っていかなくてもいいのか?」
夜、夕食もつつがなく終わり、葵が実家に帰る時間になった。
一礼して去ろうとしている葵をそう言って俺は呼び止める。

何と言っても銭湯でのあの一件が起こってから一日しか経っていない。
なら、敵チームがまた何かをする確率は非常に高い。

「昨日あんなことがあったんだ。物騒だろ?」
「心配しすぎですよ憐さん。こう見えてもわたし、ただのか弱い女じゃないんですから」
えへんと胸をはる葵。
いや、屈強の男すらなすすべなくやられるような相手だから困るんだろ。

「でも万一何かがあったらどうする気なんだ? やっぱ俺が送っていくべきだと…」
「大丈夫ですよ。そこまで憐さんの手をわずらわせる事はできませんから」
彼女は笑みを浮かべながらまた一礼する。

「じゃあまた明日早くに来ますね」
「あ、ちょっと葵…」
俺の言う事を無視し、彼女は手を振りながら去っていった。
く、ここはやっぱり…。

「大丈夫よ。何のためにあたしがいると思ってんの?」
え?
彼女をこっそり追いかけようとしていた俺にそう言い放ったのはキャスターだった。
なぜか日本茶の入っている器持ち。

「何のためって…?」
「人質なんかの手段を取られた時に真っ先に行動に移れるように、屋敷に出入りする面々には使い魔をつけてるんだ」
「え? そうなのか?」
使い魔、己の分身でもあり下僕。
その用途はさまざまで、自らの最高のパートナーほどの者もいればただの道具のようなものもある。

「プライバシーは侵害してないから安心しなよ」
「誰も聞いてないって」
「む、それは酷いなあ」
ほおをふくらませて怒るキャスター。
なんだかとてもかわいく感じる俺は正常なはずだ。

「レン」
と、俺たちがいる玄関にアーチャーとディートがやってくる。
そうか、いよいよか…。
少し午後を振り返ってみる。


「マスターがシャルロットの時から調べた事の結果を知らせるよ」
「あ…ああ」
午後、俺の部屋。そこにディート、アーチャー、それにキャスターが各々の座布団の上に座り、ちゃぶ台を囲っている。
上に置いてあるのは貴重な街の地図。それに墨汁と筆ペン。
書き込もうって言うのか。それ俺のだぞ。

「まずはこの地域の霊地だけど…なんだか他の地域と比べると密集してるから驚いちゃったよ」
「だろうな。でなければわざわざ極東くんだりまで欧州の連中が来るはずもないからな」
それにこの地で魔術師をしている遠坂の歴史は江戸時代まで食い込んでいる。
この国の機関があまり手出しをしてこないのもそれにあるのかもな。

「で、それの位置なんだけど…」
そう言うとまるでお絵かきをする子供よろしく、鼻歌を歌いながら丸を書きこんでいく。
その数4つ。

「こちら側に2つ、あちら側に2つですか」
ディートの言うこっち側とかは川の事を言ってるのだろう。
最近ではそうでもなくなってきたけど、今でも違う町といった印象を感じられる。

「こっち側のはこの地のセカンドオーナーである遠坂邸、それから柳洞寺だね」
「遠坂邸と、柳洞寺、か…」
「で、最も霊脈がすごいだろう柳洞寺にサーヴァントは?」
「え?」
俺はキャスターの発言に驚く。
キャスターなのだから、とっくにその事は調べているとばかり思ってたんだが。

「いない。アーチャーがそれを証明してくれるぞ」
「そう、あそこには結界が張られてるせいであまり見えないんだよね。かと言ってそのまま確認しに行くほどうぬぼれてもいなかったし、
 その情報は助かったよ」
「どうも」
確かに、あそこは進入するものは排除しようとするが、一旦入れば逆に鉄壁の要塞と化してしまうだろう。
もしあんなところにキャスターが神殿を形成したら…考えるだけでも恐ろしい。

「次に遠坂邸だけど…」
「ここってこの家とはあの寺に続いてる通りと真反対だね」
言われてみれば確かにそうかもしれないな。
あっち側は最近になって家が多くなってきた所だから、通りの左右で景色がちょっと違うのが面白い。
だが、そんな向こう側の人たちでも、遠坂邸に近づく事はないだろう。

「ここはさすがにセカンドオーナーの居住区だけあって一筋縄じゃいかなかったようだから手付かずだったけど…」
キャスターはそう言うと目を細めてこちらの方を睨みつけてくる。

「サーヴァントが2人いるんだ。あそこには今日攻めたっていい。最低でもあたしはそう進言する」
さっきまでの口調とは雲泥の差。
断ればこっちの方までその杖を向けてきそうなまでの気迫だった。

「…」
ディートから聞いた話ではディート達がセイバーと戦う前日、ランサーと戦い、キャスターのマスターが命を落としたのだそうだ。
ランサーのマスター、

遠坂双魔

あいつが、ランサーのマスターでこの地にいる。
そして…。

「で、どうなの?」
「いや、遠坂邸には行かない」
あいつを知っているからこそ、俺はそう断言する。
それにはキャスターは当然の事、ディートまで驚いている。

「どう言う事だよ、それ」
敵を見るばかりにこちらを睨みつけてくるキャスター。
当然俺だって理由があっていっているから、ひるむわけにはいかない。

「あくまで優先順位の問題だろ。今無差別に人を襲ってる組はバーサーカー、奴らをどうにかしない事には始まらないと俺は思う」
「む、それはそうだけど…」
「それに、あいつならそのバーサーカー組や今まだ姿を見せないアサシン組と手を組みかねないしな。他はとりあえず保留にして相手の出方を
 待った方がいいと思うんだ」
そう、手を組むのは何もこっちだけじゃないんだ。相手だって組む可能性がある。
まあ、理想的なのはセイバー組とライダー組がバーサーカー組とランサー組を始末してくれる事なんだが。

「どう思う?」
と言ってもこの方法は俺たちアーチャー組単独で行うにはやや心配どこがある。
バーサーカーと戦ってる間に遠距離からセイバーが宝具で俺たちごと始末してくる可能性だって十分にあるのだ。
なんでキャスターの協力ができる限り欲しい。

というわけで彼女に今の事について聞いてみる。
ランサーにマスターを殺されたと言っても、出来れば思いとどまって欲しい。
今は、だけど。

「はあ」
キャスターは深いため息をついた。
それでも、さっきのような形相ではなくなっている。

「分かったよ。今はあいつらは保留、それでいいんだろ?」
「ありがとうな」
俺はそう言いながら頭を下げる。
復讐を思いとどまる事はつらい事だと思うからだ。
それをしてくれて、本当に感謝している。

「その代わり、それが終わったら…」
「ああ、ランサーを倒そう」
俺は断言する。
キャスターはマスターの弔いの意味があるだろうけど、俺には別の思いがある。
そう、それは…。

「残りの2つは…」
ディートはその他の2つに指を置く。
それは川の向こうの丘の上と、町中の部分だ。

「てっきり何かしらのものがあるかと思ったんだけど、いたって平凡な地だよね」
「まあ、他に優れた霊地があるならあえてそこに何かを立てる必要もないんじゃないか?」
この国の機関の者とかが来るなら話は全く別になってくるけど。

「で、今さらそんな霊地に関しての講義なんか始めて意味あるのか?」
「あるよ」
そう言いながらキャスターは俺の方にペンを向けてくる。
インクが飛ぶからやめれ。

「まずバーサーカーだけど、行動を起こしたのは昨日だよね?」
「ああ」
昨日、あの銭湯での一件か。
あんなもんは許される事ではない。

「なぜわざわざ銭湯を襲ってまで事を成し遂げたか、そしてなぜそれが今なのか」
「なぜって、それは聖杯戦争に勝つために…」
「あのね」
そんな単純な話じゃないでしょ、と言いながら更にペンを近づけてくる。
インク付くって!

「まずそんな事したら一発でおかしな事が起こったって一般の人たちにばれちゃうでしょ。普通そんな事しないって」
「いや、だからこそ危ないんだろ?」
「今話してるのは対処法じゃなくて、その原因!」
「うわっ! インク付くって!」
あと少しでほおに突き刺さりそうなぐらい迫ってるんですけど!

「それにそんな事をしたら最低でもこの地にいるセカンドオーナーが黙っちゃいないわよ」
セカンドオーナー、つまり遠坂の事か。

「最悪セカンドオーナー組、つまりランサー達に付けねらわれたっておかしくないんだ。そんなリスクを犯してまでする事かしら?」
…その事では言いたい事もあるのだが、今はいいだろう。
セカンドオーナーは多分…。

「それに強くする作業だったら何も今する必要はないと思うんだけど。召喚したてからやった方がサーヴァントはそろってないし、いいと思うけど」
「それも、そうだよな」
わざわざ馬鹿正直に7体そろってからやる必要性は皆無に等しいし。
なら、別の理由があったって事か?

「てなわけで今日一日かけてその原因を探ってみました」
そう言うと、今度は三角印を地図にかきこんでいく。
その箇所は…。

「…ここは?」
「あたしとランサーが戦ってる間に何かがあった箇所さ」
それは、川の向こうの町からちょっと外れた辺りの場所だった。

「何があったかまでは分からない。銭湯の時と同じで後始末がちゃんとされていたからね」
「後始末?」
「あたしの予想が正しければ、同時にサーヴァント戦が行われたんだよ」
サーヴァント戦が、行われた、か。

「セイバーとそのマスターの会話からして彼女たちの初戦はあたしたち。アサシンは動いていないと予想すると…」
「ライダーとバーサーカーが戦った、といいたいのか」
俺が言おうとした事をアーチャーが代わりに述べる。
キャスターは満足そうにうなづいた。

「そう。それならライダーのマスターがバーサーカーの仕業だと断言できる理由も納得がいくだろ?」
なるほど。
バーサーカーと戦ったレイリーたちならその手口を知っていてもおかしくはないか。
最もあいつらが犯人の可能性だってあるけど。

「つまり、その戦いでバーサーカーはとんでもない負傷を負って…」
「それを補うためにあんなバレバレな犯行を犯したってわけ」
うーん、確かに負傷したままだといつ殺されるか分かったもんじゃないし、緊急的な処置もやむをえない、けど…。

「って話がそれてるって」
それも大切なことだけど、今は霊地の話をしてたんだろ。

「だから、優れたマスターだったらサーヴァントにとってほんの少しでも有利になるように霊地に本拠を構えるかもしれないって事よ」
「あ」
そんな考え方もあったか。
思わず手をつく俺。

「と、言うわけで遠坂邸に行かないんだったら今日はその辺を重点的に探索して欲しいんだけど、どう?」
「いいんじゃないか?」
あっさりとキャスターの意見に賛成する俺。
ただくまなく探すより少しでも手がかりがあった方がいいからな。
今日はあっち側の探索か。

「ん?」
ちょっと待てよ。今の言い方おかしくなかったか?

「「探索して欲しい」って、ディート達は?」
「あ、僕らはこちら側を探そうと思ってるんだけど」
キャスターの代わりに答えたのはディートだった。
別行動を取るって事か?

「なんでまた?」
「もしバーサーカーが今日も行動を起こした場合、街を標的にする可能性が高いと思うんだ。僕ら全員が向こうにいたら何の対処もできないと
 思うんだけど…どう思う?」
う、確かに。
今キャスターと話してた霊地だのの話は『とどまっていれば』の話で、積極的に出る方だったらいくらそこが本拠でも空っぽの可能性が高い。
でも…。

「…危険じゃないのか…?」
「あのね、もしかして昨日の戦いをものさしにしてる?」
心外だなーとか言いながら思いっきりため息をついてくれるキャスター。
こいつ、英ねえと同じかよ。俺の周りの女性の中でオアシスは葵とディートだけ?

「こっちにはキルフッフ、サグラモールを始めとして円卓の騎士を召喚できるんだ。セイバー相手でも負けやしないさ」
キルフッフ、サグラモール…。えっと…。誰?

「あー、やっぱり影薄いか…。やっぱレンもケイとかガウェインの方がいいクチ?」
「ごめん、あまり俺詳しくないんだ」
「ま、いいさ。それにダーヴェルだってあのランスロットに匹敵できるような剣技を持ってるんだ。これでもまだ不安?」
ランスロット、円卓最強の騎士。
彼に匹敵できる剣技? 一体それは…。

「でもここぞとばかりにやられてくれるしさ。おとといはホント焦ったよ…」
いないのをいい事に色々と不満を述べるキャスター、ニムエ。
生前はかなり尻にしかれていたのかもしれない。

「で、そっちの方こそ大丈夫なの? あのセイバー相手で戦えないなら同行するけど…」
「「むっ」」
その言い方、すっげー腹立つ。
それは俺だけでなかったみたいで、アーチャーも不満そうだ。

「そんな事はないぞ。なあアーチャー」
「ああ。キャスター、そう言った事はいずれ後悔する事になるぞ」
「そうね。ぜひそうしてくれると助かるわ」
「「う」」
こうしてダーヴェルも尻にしかれたわけか。
気をつけないと俺もそのうち尻にしかれる事になるのか? なるのか?

「ま、今日の方針はそれぐらいでいいと思うけど、どうかな?」
「ん、いいんじゃないか?」
「俺もいいとおもうぞ」
「僕もそれでいいと思うよ」
というわけで地図などを閉まって茶店にでかけたのだった。


以上、回想終了。

「いよいよだね」
「いよいよだな」
そう、今までは俺達は『敵に戦いを仕掛けられ、それに応戦する』戦いをしてきた。
でも、今からは違う。

俺達は戦いを仕掛けに行くんだ。

「じゃあ、お互いに何かがあった時は分かってるよね?」
「分かってるって」
そう言いながら俺は手首にまきつけた物を見る。
何やら植物でできているような腕輪。
ドルイドが創った魔術用具との事だが…そうは見えないのが最大の特徴だったりする。

「それを切れば相手側にそれが伝わるようになってる。何かあれば一目散に駆けつけるわよ」
「分かってるって」
姐さんたちには「夜の散歩だ」って言ってきたし、大丈夫だろう。多分。
俺はディートの顔を正面から見る。

「それじゃあ」
「それでは」
俺は笑顔を見せてみせ、ディートはほほ笑みを返してくる。

「無事に帰ろう」
「御武運を」
その言葉に全てをこめ、俺とアーチャーは屋敷を後にした。
無事に帰ってこれる事を願いつつ。

to the next stages…


第13話に続く

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 夜の戦いまで進めようと思っていたらその前ふりだけで終わっていた。
四話連続での更新です。この話、まだ続きそうなので終わりそうな話から手をつけたいものですが…いやはや。

今回、英がとてつもなく強く書いていますけれども、ちゃんとした理由がございますのでしばしお待ちいただければ幸いです。
第1話公開から4ヶ月経過いたしましたが、その間に自分の頭の中にある物語も随分と様変わりしているような気がします。特にサーヴァントの真名が まだ明らかになっていないのをいい事に変えているのが2名ほどいるあたり行き当たりばったりな気もしますが、いい方向に転んでくれる事を願っています。

さて、次の話でいよいよ書けるのが、本編にはなかった『三つ巴』の戦いでしょうか。
UBWルートで若干あったかなー程度なので、気合を入れて書きたいと思います。
では。
  2006年9月18日


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