/3日目
1人の少年がいた。1人の少女がいた。
少年は神秘に縁が全くなく、少女は神秘にいずれ手が届くだろうとされていた。
互いが目指す方向は全く別で、少年は剣で、少女はその知識と杖でそれを目指していた。
少年は才能がなきゆえにどこまでも無骨で、少女は才能があるゆえにどこまでも先をみすえていた。
だが、その少年と少女は互いに誓いをたてた。
互いが互いの力となるという、右手に刻まれた誓い。
行く道が違い、目指す方向が全く別でも、つねに互いがそばにいるように。
そうして少年はドルイドの下を去り、王の下へと行く。少女はドルイドの下にいながらも少年の無事を願う。
それぞれがただそれぞれの思いのためにひた走っていた。
その姿はどこまでも純粋で、美しいものだった。
「ん…」
外から小鳥のさえずりが聞こえ、目が覚める。
うっすらと目を開けて確認する。
たしか僕は昨日レンに招待されて、一成さんの家におじゃましたんだっけ…。
そして、僕は客までこうして寝ているわけで。
朝日が差し込んできて、思わず手で日光をさえぎる。
「そうか…もう準備とかしなくてもいいんだっけ…」
アインツベルンの館から逃げ出した僕にはもう食事のしたくなどをする必要がなくなってしまった。
僕としてはまるで存在意義が失せたようにその部分がぽっかり穴をあけている。
「……」
僕は胸の辺りを押さえる。
自業自得とはいえ、それはとても僕には重い事だった。
結局この後どうなろうとも、自分はお嬢様を裏切ってしまった事に変わりはなく、今までの生活が戻る事はないのだから…。
「あーあー、朝からそんな悲痛な顔しちゃって」
「え?」
いきなり部屋の隅から声がしたのでそちらの方に顔を向けると、そこには壁に背を預けたキャスターが座っていた。
「…そんな悲痛な顔してた?」
「あーしてたしてた。今にも罪悪感で押しつぶされそうなぐらい」
…そんなにひどい顔をしてたのか…。
そんなキャスターはふう、とため息をつくとにこっと笑ってくる。
「おはよーディート。はやかったじゃないか。昨日もそうだったけど、いつもこんな感じなの?」
「え…っと…」
急に話題を変えたのは素なのか、それとも僕のためなのか。
「僕はアインツベルンで料理を作ったり色々しなきゃならなかったの。だから早朝に起きる必要があったの」
「ふーん、どこもどの時代も従う人は大変だね」
「そんな君はどうなのさ」
「あたし?」
やれやれと言うキャスターに僕が質問を言うと、彼女は自分を指差してきょとんとした。
そのしぐさが妙にかわいく感じる。
「早朝に起きてる僕より早く起きてるんでしょう? サーヴァントは寝る必要がないからって、生前の習慣として寝る事だってあるんじゃないの?」
いくらサーヴァントとして召喚されても彼女たちには生前のらしさがある。
なら習慣として寝てもおかしくはないと思うんだけど。
「…生前も徹夜なんてしょっちゅうだったからあまり気になんないよ」
「へ?」
しれっと、彼女は断言してくれました。
「逆に何日も寝る時もあったし。ドルイドなんて生活不規則の塊だし気にしないの」
「そ…そう…」
こっちはお嬢様に仕えている以上確かに不規則にはなるけど、それでもそこまではいかない。
お嬢様がキャスターのような不規則な生活を送ったらヨハンが何と言うか…。
「まあ、せっかくこの時間に起きた事だし、少し朝のすがすがしさを味わうよ」
そう言って僕は布団を綺麗にたたみ、立ち上がった。
と、気になった事があったので止まる。
「そう言えばキャスター、この屋敷に結界張り終わったの?」
「一応ね。霊地じゃないからそこまで強力なのは作れなかったけど、牽制程度にはなるでしょうね」
「そう…」
もう準備は万全と言う事か…。
なら、これから本当に戦争が始まるわけか。
Fate/the midnight saga(仮)
第11話
/
「早いな」
「あ、おはようございます」
用意してくれた白づくめの和服の寝巻きのまま僕は顔を洗うために水場に向かっていると、庭には既に一成さんが立っていた。
昨日見たようにラフな和服姿で、両手をそでにつっこんでいる。
僕に気づくといきなりそう言ったので、僕も思わず会釈をする。
「家事一般は憐たちにやらせているから、もっと遅く起きたっていいんだぞ」
「いえ、もう習慣みたいなものですから」
そう言ってくれるのはありがたいけど、侍女として生きてきた今までを否定する事は僕にはできない。
だからせっかくの好意だけれども、多分僕が遅く起きる事はないと思う。
「あの、ところでですけど…」
「ん? なんだ?」
それと、一成さんには言わなければならない大事な事があったんだった。
「私の服はどこでしょうか? 昨日寝巻きをもらいましてから脱いでたたんでおいたはずですけど…」
「沙耶に言って洗いに出した。今日は少なくとも着る事は不可能だぞ」
「え…?」
それは困る。
館からは代えの服なんて何一つ持ってきていない。
昨日みたいにカイヌイン…だったはず…が僕の服まで出してくれるとは思えないし…かといって寝巻きのままでもいられない。
うーん…困った。
そんな僕に対し、一成さんは述べる。
表情は変えずに、あくまで淡々と。
「古いのでかまわないなら倉庫にあるぞ。今取ってくるから待ってろ」
「古いのって和服ですか?」
せっかくの好意で悪いけど、和服はあまり着たくない。
なぜなら、それが僕だから。
「洋服だ」
「洋服!?」
これにはとても驚いてしまった。
ここは武家屋敷。住人は全員和服(アーチャーだけラフな和服でも洋服でもないものを着ているけど)だし、西洋とは全く縁がなさそうだ。
なのに、あると?
そんな僕の考えをよそに彼は向こう側の倉庫へと足を運んでいく。
屋敷の主人である彼にそこまでさせるわけにはいかないな。
「お待ちください。わざわざ貴方のお手をわずらわすわけには…」
「この屋敷の勝手はまだ知らないだろ? なら俺が行くのは当然の事だ」
侮蔑もなくただ事実を述べるようにして彼は言ってのける。
…確かに彼はこの屋敷に長年住んでいて、僕は昨日来たばかりだけど…。
「朝食までまだ時間はある。その間に案内でもしよう」
「え?」
一成さんのその提案は予想外でひどく驚いた。
だけど僕はすぐにうなづく。
「はい、よろこんで」
屋敷にお世話になる以上、少しでもこの屋敷やそこに住む人に貢献しないと。
倉庫は明かりもなにもなく、ただ日光のみを頼りとする以外なかった。
火の明かりは日光があるからとつけないらしい。
「随分とたくさんの物がありますね」
「歴史も何もないただのがらくたばかりだ」
辺りをみまわすと本当に多くのものがあった。
アインツベルンの館とは全く違ったものばかりで、思わずきょろきょろとしてしまう。
その倉庫でも奥のほうから、木製の箱を取り出してくる。
「多分これでいいはずだが…」
とても重そうだが、床に何かを置かれていない場所が少ないのでうかつに手を出す事もできないし…困った。
「さて、これでいいはずだ。数十年前の古物だが十分に使えるはずだ」
「数十年前の古物!?」
思わず大声をあげてしまう僕。
はっきり言ってその驚きは大きい。
「それはまだこの国が諸外国と貿易していなかった時ですよね? なぜその時のものが?」
ぶしつけな質問だけど、それをしないわけにはいかなかった。
「たまたま知り合いにもらった」
「…そうですか」
そっけなく言う一成さんにそれ以上聞けるはずもなく、それでその会話は終了してしまった。
木箱の鍵を開ける彼。きしむ音などが聞こえてくる。
「これでいいか?」
「え?」
その中身を見て僕はまた驚いてしまう。
これって…。
「私たちの国の服…ですよね…?」
「ドイツ連邦か」
「ええ、そうです」
そう、服は僕たちの祖国であるドイツのものだ。
帝国ではなく連邦になっているのはつい最近統一されたばかりだからだろう。
…でもなんでドイツなんだ…?
「もっと高価な服がよければそれもあるが?」
「いえ、結構です」
僕は箱の中に入っている服の中から数点を取り出してみる。
…サイズが合わない。どちらかと言うとお嬢様向けのものだ。
どれもこれもそうみたいだ…。
「申し訳ございませんがこれらは私には…」
「…では箱を間違えたか。これは彼女のだったか」
僕と一成さんは服を綺麗にたたみなおして箱の中に服をしまう。
僕はそれは日常的だけれども、一成さんのしぐさはそれをとても大切にしているようだった。
「…だとすると悪いが出せるものがなさそうだな。すまない」
「あ、いえ、そんな謝る事はありませんよ。こちらこそご迷惑をおかけして申し訳ございません」
頭を下げる一成さんに悪いと思い、僕も頭を下げてしまう。
とはいえ、困ったな…。このままだと侍女としての気持ちを押し込めて和服を着るか…。
「誰か来たか」
「え?」
急に一成さんは立ち上がり、僕を横切って倉庫を出て行ってしまう。
僕も思わず彼の後を追う事に。
庭を抜け、門へと向かう僕ら。
そんな僕らを待っていたのは…、
「おはようディート。やはりいつものように早かったか」
「ジェ…ジェイナ?」
そう、そこにいたのはおととい別れて以来会っていなかったジェイナがそこにはいた。
ジェイナは僕が来ていたように侍女服に身をつつみ、何やら背中に荷物を背負っている。
ただ、ヨハンもお嬢様も、ましてやセイバーもいないたった一人で。
これは一体…?
「ジェイナ…、貴女は…」
「何も言うなディート。貴女の事情は分かてる」
何かを言おうとした僕の口を、ジェイナはそっと押さえる。
それで黙れる僕ではないけど、黙ってしまった。
「これ」
「へ?」
そして、ジェイナは僕に荷物を差し出してきた。
そこまでの大荷物ではないけれど、小荷物でもなさそう。
「ディートの服。当分こっちで生活するなら必要かと」
「え…!?」
僕はその荷物の中身を見てみる。
入っていたのは、そう、僕らが着ているアインツベルンの侍女服が数点だった。
「これは…」
「ディートは妙な所で頑固。だから服は必要だとクリスが」
「クリスお嬢様が…!」
それを聞いた時、僕は思わずその荷物を落としてしまった。
僕はおとといにはお嬢様を殺そうとしたのに。
昨日にはお嬢様と聖杯戦争で戦ったのに。
だと言うのに、お嬢様は…僕のために…。
「う…」
思わず涙がこみあげる。
僕は目元に手をあてながらひざを地面についた。脚にも力が入らないし、そのまま立ち上がる気も全くない。
「うああ…」
僕はお嬢様の好意が嬉しかった。
ただただ嬉しかった。
ただの使用人の1人に過ぎない僕のために、ここまでしてくれるお嬢様が、ジェイナが、とても…とても…。
「ディート」
そんな僕の頭にそっとジェイナは手をのせる。
その口調はとても優しいものだった。
「元に戻ったらまた帰ってくるといい。クリスも待ってる」
「え…?」
涙で顔を汚しながら僕はジェイナの顔を見上げる。
今、彼女は何て言ったんだ…?
「クリスやヨハンは口には出さないけど、きっと待ってる。私も待ってる。だから生きて帰ってこい」
「……」
私は無言でうなづくしかできなかった。
とても言葉では言い表せない事だ。言葉にもできない。
「ディート、元気で」
「ええ、そっちも元気で…!」
本当はおとといの事の謝罪とか、こっちから今までや今後の説明をしなくちゃいけないんだけれども、そんな気は全くおきなかった。
ただただ、僕はお嬢様たちの思いに感動していた。
「あ、それと」
ぴたっと、ジェイナは止まってこちらの方にまた顔を向ける。
「「後は貴女も淑女なのだから自分でおやりなさい。それと夜は容赦しないわよ」がクリスの伝言。「とっとと厄介事終わらせなさい」がヨハンの伝言。
確かに伝えた」
「お嬢様とヨハンが…?」
あの2人が僕にそんな事を…。
僕は涙を拭い、笑顔でこう言う。
「ではお嬢様には「大変ご迷惑をおかけていたします。ですが貴女は一番大切です」と。ヨハンには「できうる限り早急に終わらせます」と伝えて」
「分かった。確かに伝えとく」
こくりとうなづき、僕の瞳を彼女はみすえてくる。
「元気で」
「元気で」
そうして、ジェイナは去っていった。
後に残ったのは僕と一成さん、そしてジェイナが持ってきた荷物だけだった。
「…いい同僚だな」
一成さんはこう言うので僕はうなづいた。
「ええ、最高の人達です」
こればかりはレンでも越せないだろう一線だと僕は思う。
なぜなら、僕の人生が始まってからずっと共にすごしてきたんだ。
キャスターよりも、レンよりも、お嬢様よりすらも。
「?」
だけど、ふと見た一成さんの顔はどうもさえてこない。
今のが退屈だったわけではなく、どこか申し訳ないといった感じの表情だ。
「どうしたのですか?」
「あ、いや…すまない。こっちの話だ」
それ以上の話を避けるように、一成さんは屋敷の方へと戻っていった。
そんな僕は、その一成さんの表情よりお嬢様たちの心の方が嬉しくてそちらの方に気は回らなかった。
/
朝ごはんは今日はレンが作ってくれたようで、食べた事のない和食料理だった。
僕が口にした事のないものだったけれどもレンはそれを考えて作ってくれたようで、おいしくいただく事ができた。
食事の途中だろうとも沙耶さんたちにとっては話題の場であるらしい。
僕とキャスターにとって意外だったのは食卓に葵がいる事だった。
キャスターがわずかに感じるほどにまで巧妙に隠された葵が魔術師だと言う事。
その彼女が憐とともに何年もこのようにして普通に生活しているのだから、きっと悪い事など考えていないはずだ。
それとも…。
「そう言えばさ、おじいさんって何気に過去は謎につつまれてるのよね。何か師範代の間の噂だと昔は裏家業をやっていたとか…」
とか、
「憐、いい加減こっちの稽古にも出てよー。確かに英さんの実力は師範並かそれ以上であなたには合ってるかもしれないけど…」
とか、
「んー、味は葵ちゃんや士郎さんの方がいいんだけど、やっぱ憐の方が落ち着くのよねー」
とかが話題にあがった。
「それじゃあ行ってまいります。後でまた会いましょうね」
葵がにこっと笑って去っていった。
彼女はあの茶店で毎日働いているので、その準備のためだろう。
「それじゃあ俺も行ってくるな」
「はい、いってらっしゃいませ」
なぜか和服なのにブーツを履くレン。
彼のスタイルは和服がベースであるにもかかわらず、革のベルトをしたりと部分部分に何かが混ざっている。
ベルトについている小物入れの中に昨日見せたような宝石が入っているのだろうか。
ん? 返事をした僕の方をじーっと見るレン。
「何か問題でもありましたか?」
「ディート、また敬語」
「あ」
そうしゃべり方をコロコロと変える事ができるほど器用じゃない僕にはちょっと難しいなぁ…。
僕の横ではアーチャーとキャスターが出迎えをしている。
アーチャーはともかくキャスターはアーチャーと話していたからたまたまついてきただけのようだけれども。
「なあレン」
「ん?」
急に、キャスターがため息をつきながらレンに言ってくる。
「なーんでわざわざここから寺まで行く事をするのさ。まさか君ここの人たちより強いの?」
「まさか、せいぜい師範代に互角で姐さんとかろうじてなぐらいで師範やレベルじゃない。でも俺の稽古にとっては英ねえが一番なんだ」
ハナブサ、そう呼ばれた人物。
昨日の夜、80を行く女性にもかかわらず剣のさえは素晴らしいもので見習う点が数え切れないほどあるとレンは説明してくれた。
身長はキャスターより少し上なぐらいで小柄。金を脱色したような長髪で金と黄色の中間ぐらいの色をした瞳。顔はかつてはとてつもなくかわいいもの
じゃなかったかなどと話してくれた。
「多分師範と英ねえが戦えば英ねえが勝つ。それに師範の剣は俺に合いそうにないからな」
「ふーん…」
キャスターはにやっとしながらアーチャーの方をちらっと見る。
「でもこっちにはアーチャーとか円卓の騎士がいるんだよ? それでもそっちの方にいくの?」
それははっきり言ってとんでもない質問だと思う。
何しろいくら優れた剣士だからって英雄や円卓の騎士レベルの人たちがそう多くいるはずもない。
レンの言う英という人との稽古は長く続いているようだけれども、今は聖杯戦争中。
それでもいつものようにするのか、と言っている様なものだ。
が、
「ああ、そのつもりだ」
と、レンは断言した。
即答で。
唖然とするのは両サーヴァント。
「それって君、昨日のセイバーとあたしたちとの戦いを見てもそう思うわけ? 英霊の戦いってみんなあんなものよ?」
「うんそう思うわけ」
またしても断言してくれたレン。
それは、どういう事か?
「レン、それって…セイバーたちよりそのハナブサって人のほうが強いって事?」
「さあ? まだ師範に勝てない俺がものさしで測った所で何の意味も持たないと思うけど、多分宝具がなければセイバーとだって戦えると思う」
沈黙が広がる。
英霊より強いというその英なる人物。
一体何者なのだろうか?
「…ついてきたければついてきてもいいぞ」
「「「え?」」」
レンの発言に、僕ら3人は思いっきり驚く。
「この前は駄目だって言ってたはずだが…」
「いや、確かにその通りだが…」
言ったのはアーチャー。
主に彼に説明するためか、彼のほうに顔を向けている。
「俺が今まで士郎を連れてなかったのはマスターだってばれない方がアーチャーとしてはやりやすいかなと思ったからであって、もうセイバーのにも
ライダーのにもばれてるから、今さら隠したって無駄だし。それにサーヴァント連れて行かないほど自分の腕にうぬぼれてないしな。てなわけで
アーチャーには申し訳ないけどついてきてくれると助かる」
「当然だ。アサシンあたりにコロッと殺されましたなんてごめんだからな」
頭を下げるレンに腕を組んでそう当然のように言い放つアーチャー。
本当に2人は息の合ったパートナーだと思う。
なるほど、彼はあくまで一般人のように装っていた。
半月ぐらい前にお嬢様にあったときにも令呪を隠してそう装ってたし。
でもサーヴァントならサーヴァントを見分けられる。なら連れていない方がマスターだと分かりづらいわけか…。
「でもそれってばれない事が大前提だよね。よく実行する気になったよ。それにアーチャーもよく同意したもんだね」
キャスターがあきれながら言うのをレンもアーチャーも苦笑いするだけだった。
「そんなキャスターは昼間はどうするんだ?」
「あたし? そうだね…」
んーと考えてから手をつく。
「使い魔で敵の本拠地を探ろうと思う。特に表に出てないアサシンと無差別殺戮をしてるバーサーカーはどうにかしないとね」
「そう、か」
彼は靴のひもを結び終え、竹刀袋を持って立ち上がった。
「それじゃあ行ってくるな」
「いってらっしゃい」
笑顔で僕はレンとアーチャーをおくり、2人は屋敷をあとにした。
残るのは僕とキャスターを残すのみ…と思ったら…?
「あれ? ダーヴェルさん、いつの間にいたんですか?」
キャスターの後ろにダーヴェルがいる。
キャスターとダーヴェルはそれぞれ真剣な顔つきをしていた。
「英とかいうやつ…」
「脱色した金髪…にごった黄金の瞳の老女…」
ちらっとダーヴェルを見たキャスターはうなづく。
そしてダーヴェルもまたうなづく。
「やっぱあいつの特徴そのままだよね」
「あのお方の特徴そのままだな」
「?」
誰の事を言っているのかはさっぱりだけど、2人の印象は表情を見る限り違うようだ。
ニムエは嫌悪をあらわにしているし、ダーヴェルは嫌悪しているが尊敬もしているような複雑なものだ。
「モルガンのやつそのままだね」「モルガン様そのままだな」
2人は同時にこう言い放った。
モルガン…モルガン…。
「あ、もう1人の湖の…」
「だからあたしたちが言ってるのは違うって。あたしよりはるかに早くにドルイドになったやつさ」
あ、なるほど、ニムエがドルイドなんだからモルガンもドルイドでもおかしくはないか…。
「絶対にあいつが鞘奪ったと思うんだけど、ダーヴェル?」
「なぜ俺にそれをふる?」
モルガン、ニムエと対照的な湖の貴婦人。
確かアーサーの異母兄妹で、鞘をとったりモードレッドをもうけたりとアーサーが落ちる原因を作ったような存在。
と言うか彼女自身がアーサーにくんでるんだからそうするのは当然か。
そんなモルガンを『様』づけするダーヴェル。彼らとモルガンの関係は…?
「あんたあいつと親しい仲だったじゃないか。どうなの?」
「…とんでもない勘違いをしているようだけど、俺はあの人とは仲は良くない。ていよく利用されてるだけで…」
「利用されてるだけであーんなことやこーんなことをしたと?」
「……」
目をそらすダーヴェル。
はっきり言ってこっちには何の事を言っているのかさっぱりだ。
「あ、ごめんねディート。分からなかったでしょ?」
それを察してか、あわててキャスターがこちらにそう言ってくる。
「うん、分からないよ。それとも僕が分からない方がいい事?」
「……どうだろう?」
首をかしげるキャスター。
「こっちの世界にアーサーとかと関係がある人がいれば話す意味もあるんだけど…ね」
「モルガン様が剣士どころか剣を持ったことすらないから、間違いなく別人だろう。それでもいいか?」
…ここは知るべきか知らざるべきか…。
既に残った正体不明サーヴァントは3人。ライダーはレンの話だとヨーロッパ方面ではないらしい。
バーサーカーに円卓の騎士がいるとは思えないし、昨日のようなあんな事をするとは思えない。
アサシンはその語源からも召喚されるのは限られている。すなわちハサン・サッバーハ。
ならアーサー王物語に関わっている人物がサーヴァントとして召喚されている可能性は皆無に等しい。
「別にいいよ。キャスターたちが話したくなったら話してくださいね」
「…分かったよ。そうする」
はて?
ちょっと残念そうな顔をするキャスター。
もしかしたら話したかったとか?
「それで、ディートはどうするのさ?」
「あ、僕は一成さんに申し出てちゃんと仕事をもらったから、それをしないと」
「「は?」」
あれ? 今度は2人とも驚いた顔をしてる。
「はあ、本当に侍女の鏡だね…。ダーヴェルも見習って欲しかったよ」
「従うものがこれだと上に立つものは本当にありがたがるぞ。ニムエもこれだけ健気だったら…」
「ちょっとちょっと」
にらみ合う2人の間に入る僕。
うー、夫婦漫才みたいにも見えるけど、どちらかと言うと幼なじみのケンカだよね、これって。
そんな僕はヨハンたちぐらいが相手だったけど。
「その仕事って?」
「人数が多くなったから買出しの回数を増やさなきゃならないらしくて、それが今日なんだって。だから市場が開く今ぐらいがいいかなって」
「なるほどね」
ちらっと、キャスターはダーヴェルの方を見る。
「レンの言ったとおり、アサシン辺りにころっと殺されちゃ困るから出かける際には彼かギャラハッドを護衛につけてあげるからさ」
「分かった」
確かにレンまでああしてるのだから、僕もそうしないといけないからね。
それにギャラハッドさんなら…、
「そう言えば言ってなかったっけ。こっちのギャラハッドはランスロットの異母兄弟で、聖杯を掴んだのは別のギャラハッドじゃなかったっけ?」
「ん、確かそうだったはずなんだが…」
「違うの?」
う、ちょっとそれはショックかも…。
「聖杯掴んだようなやつを召喚できるはずもないし、あたしがするはずもないだろ。所詮あの聖杯は異教の神の産物なんだから」
そのニムエの言い方は、まるではき捨てるようだった。
しばし流れる沈黙。と、キャスターは僕の背中を叩いた。
「ま、そんな話は後でいくらでもできるさ。行っておいで」
「ええ、いってきます」
そうだ、早くしないと市場が始まってしまう。
僕はにこっと笑うと靴を履いてかけだした。
「すみませんダーヴェルさん、貴方にご迷惑をおかけしてしまって…」
「これぐらいニムエやモルガン様のに比べれば何でもないよ」
市場での買い物は無事にすんだ。
不意打ちどころか他のマスターとも出会わなかったし、いっぱい買ってしまった。
なのでダーヴェルにも荷物もちをしてもらっているのはちょっと気がかりだけど…。
「そう言えばダーヴェルさんはキャスターとは随分と仲がいいみたいですけど、一体何故なのですか?」
歩いている間話さないのも何なので、気になった事を話題にしてみる。
「…俺は赤ん坊の時に母から離されてね、その時ドルイドの呪いを逃れた事でお館様にひきとられたんだ」
「え?」
母から離された?
つまり、彼は…、
「すみません…聞いてはいけない事を…」
「いや、生前でも昔の事だ。気にしないでくれ」
頭を下げて謝罪する僕に対してあわてて言うダーヴェルさん。
「だからニムエとも同じ年ぐらいだし、幼なじみが正しいかな。進む道は全然違ったけどな」
「そう、なんですか…」
幼なじみ、か。
だからこそあんなにも気軽に話していたのだろう。
他の円卓の騎士よりも頻繁に彼を呼び出すのはそのためだろうか…?
「ちなみに俺がモルガン『様』と呼んでるのは、ニムエの姉弟子だからだ。ユーサー王がお亡くなりになられた時には既に離れてしまったがね」
「ニムエの姉弟子」
…ドルイドになってもニムエとモルガンは無関係ではないのか。
でも湖の貴婦人でないニムエはなぜ同じくそうでないモルガンを憎んでいるようなんだろうか?
アーサーを追い込む事にあのニムエは嫌悪感を示してなさそうだ。なら何故…?
「ん?」
と、何やらこの国にはふさわしくない音が聞こえてくる。
これは…ハープ?
「なんでハープの音がここで?」
少なくともここ一ヶ月では聞いた事のないものだ。
なら誰が…?
僕らはその音が聞こえてくる方に足をむける。
既にそっちの方には人だかりができている。
騒ぎ声はあまり聞こえてこないから、音はちゃんと聞こえてくる。
「あれ?」
でもこれたまにしか聞こえてこない。
間に入るのは誰かの声。何やら語るようなものだ。
その内容は…知らないものだ。
「あの、すみません…」
他の誰にも迷惑がかからないように、茶店でよく見かける人に語りかける。
「お、ディートちゃん、どうしたんだい?」
よく思い出すと、田中さんだ。
話しかけてもそれにいらつく事はしなかったのでほっとする。
「一体何を語ってるのですか?」
「平家物語、とか誰かが言ってたけどな」
平家物語…分からないから後でレンに聞いてみよう。
「さて、源義経がこの後どうやって平家の軍に攻め込んだか、それはまた次回という事にいたしましょう。今日はどうもありがとうございました」
と、どうやら終わったようで観衆から拍手が沸きあがる。
話は全く分からないけど、ハープはとても上手だったと思うから僕も拍手を送る。
「あー、異国の楽器で語っても面白いわね」
「また聞きたーい」
「明日もまた来るからなー」
それぞれがそう言って去っていく。
僕はその語り手がどんな人なのかを知りたくなり、観衆が少なくなった時を見て中心に向かう。
「え…!?」
そして、僕はその人の顔を見て驚いてしまった。
そう、その人は…、
「やあ、生きていてくれて嬉しいよ。2日ぶりだね」
褐色の肌、短髪、深い蒼をした瞳、気さくな表情、どこかも分からない民族衣装。
見覚えがないはずがない。
なぜなら、
「シェラザード、アトラス所属の人…!」
彼は2日前、僕の命を救ってくれた人だからだ。
「あのアレンジ太陽剣に攻撃された時はもうだめかと思ったけど、本当に無事でよかったよ」
「……」
僕とダーヴェルは武器をとったりはしていないけど、いつでも行動に移れるように身構えている。
何しろ、彼の正体も目的も不明だし、アサシンやバーサーカーのマスターかもしれないのだ。
「アレンジ太陽剣…?」
その前に疑問に思った事を口にしてみる。
これを逃すとこれよりはるかに大切な疑問で忘れてしまうだろうから。
「グラムは王を選定する武器、つまりカリバーンの原型だろ。ならカリバーンと似たような形をしていないとおかしいね。円卓の騎士の君なら
分かるだろ?」
「……」
話をふられたダーヴェルは答えない。
カリバーンもエクスカリバーも見た事はない僕だけれども、確かにアーサー王があんな巨大な剣を持つとは考えにくい。
「だからあれは竜殺しに特化するようアレンジされたものだと考えるのが妥当だと思うんだ。宝具の真名開放を除けばあんな剣の方が倒しやすいし」
…巨大な竜を倒すんだ。確かに巨大な剣の方が使いやすいだろうけれど…。
「まあ、アレンジされたからってそう簡単に宝具の姿が変わるとは思えないから、まだ秘密があるみたいだけれども、ね」
そんなことより、と続けてシェラザードはこっちの目に視線を移した。
その表情は、微笑をうかべて本当に安堵した感じだ。
「よく生き残ってくれた。こちらからも礼を言うよ」
「…こちらは礼を言うべきかは少し戸惑いを感じるのですが…」
少なくともあの時僕は命を捨てる事を最良の選択とした。
今でもそれには後悔はないし、今でも今自分の進んでいる道が正しいかは分からない。
本当なら感謝を何度でもするべきなのに…。
「感謝なんかしなくていいよ。どうせ後で罵倒に変わるんだから」
「え?」
「ああ、それとこっち側の話をしている点については安心していいよ。僕の声はリアルタイムで馬鹿話に変換されてるからさ」
いや、そういう問題ではない…確かにそれも重要だけど…と思うんだけど。
「もしかして馬鹿話の内容が気になる?」
「いえ、別に」
…ずれてるよ明らかに。
「ではまずなぜ私を助けたのかお教え願いませんか? 私にはその目的が全く分からないのですが」
聖杯戦争がらみにしても、ロアがらみにしても、僕を助ける理由が思い当たらない。
しばらくあさっての方を見て考えるシェラザード。
「…それを話しても襲いかかってこないと約束できるなら」
「できません」
きっぱりと、僕は答えてやった。
「それはまたなんで?」
「貴方が何を思っているのかは知りませんけど、お嬢様やレンたちに危害を加える事でしたら容赦はいたしません」
そう、彼の目的は一切不明、ならよからぬ事に僕を利用する事だってありえるわけだ。
そんなのに、のるわけにはいかない。
「ならいいや。約束はどうでもいいさ。こっちで勝手にしゃべるから。その方が気持ちがいいしね」
そう言うと彼は両腕のそでをめくった。
肌はやはり褐色なままで、傷跡もない。
そして、令呪も。
「見ての通り僕は魔術師とは言ってもマスターじゃない。そもそも聖杯戦争がここで起こってる事も来て始めて気づいたぐらいだ」
「ならなんで…?」
聖杯戦争がらみではない。あくまで彼の言う事を信じるなら。
では…?
「ここまで来るのに足かけ700年以上かかった」
「え?」
「方程式を解くのには非常に苦労したよ。でもおかげでこうして先回りができた」
「一体何を言って…」
僕をかばうようにして、ダーヴェルが前に立つ。
その顔つきは、買い物に付き合ってくれた時のそれとは全く違う、戦士のものだった。
「貴様、何者」
いつでも剣が抜けるように鞘に手をかけている。
さすがに怪しまれないように柄に手をかけてはいないけど。
「その気配、やはり人外のたぐいか」
「そうは言っても他の奴らみたいに本当に人間やめてはいないんだけど、ね。確かにそう言われてもしょうがないかな」
頭をかきながらダーヴェルの言葉を肯定する。
だとすると彼は、
「お察しの通り、僕は死徒27祖19位に位置する存在さ」
彼は、まるで天気がいいと言っているような感じに、平然と言い放った。
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「死徒27祖…! その存在がなんでここに…!」
「ちょっとちょっと、君たちの方は操作してないんだからもっと声のトーン落としてって」
う、これはまずい。
話の内容が内容だし、声を荒げずにはいられない。
「…場所を変えよう」
「その方がいいね。異議はないよ」
と言うわけで僕らが来たのは川沿いだ。
ここなら人目はつくかもしれないけれどもそう簡単に会話は聞こえない。
あいかわらずシェラザードは当然のごとくたっている。
今度はダーヴェルも柄を持って抜刀できるように体勢をとり、僕もいつでも後方に下がれるよう心がける。
「では貴方の目的をお聞かせ願いたい」
「別にいいよ。隠すほどでもないし」
え? これはまた随分と簡単に…。
「まずさっきも話したように僕は聖杯戦争には関係がない。興味がないといえば嘘になってしまうけどね」
魔術師であるならあの本物に近い聖杯に興味を持たない方がおかしい。
それは死徒であっても同じか。
「あの翁が創ったのだから、興味もわいてくるけど君たちの邪魔はするつもりはない」
と言うよりサーヴァントのマスターではないから関われないとも思うけど。
「僕の手段は君の生存にある」
「手段?」
「そう。聖杯をとるのが手段なように、君を助けるのが手段だ」
僕を助ける事が手段。
つまり、僕には生き延びてもらわなければならない。
他の者ではなく、僕に…。
「…なるほどね…」
だから礼はいらないと言ったのか…。
「ようは僕の生存ではなく、ロアの生存が欲しかったのか…」
「その通り」
つまり、彼はロアに生き延びて欲しかったのか…?
「いや、それも手段にすぎない。何度殺しても死なないんだから彼を救う事が目的のはずないだろ」
「でもロアが生きてたってどうせすぐに真祖の姫が…」
「それ」
「へ?」
それ? それって…真祖の姫?
真祖の姫に会う事が目的…。
「僕は、真祖の姫を、殺す」
彼は、また日常のごとく断言した。
「真祖の姫を…」
「殺す…?」
それには僕はおろか、ダーヴェルすら驚愕にまみれている。
「円卓の騎士もやはり真祖については知っていたのか。まあ、優秀な魔術師もいた事だしその頃にはいただろうから…。他に質問は?」
「それはあるさ」
まだ多くの謎がある。
「アトラスの錬金術師だと名乗ったのは?」
「席だけはまだ残ってるからね」
「わざわざロアの転生のための方程式を解いたのは…」
「僕では千年城に入れそうにないから。それ以外で活動していると言ったらロア関連しかなかったし」
「そう、なら…」
これは、非常に重要な事だ。
もしかしたら聖杯戦争そのものに関係してくるほどの。
「聖堂教会や他の祖がそれを見逃すと思ってるの?」
「…! へえ、いい着目点だね」
当然。27祖並みの大物が動いているんだ。
そもそもロアと真祖の姫だけでもあの埋葬機関が動いてもおかしくないと言うのに、それに他の27祖が関わっていればどうなるか…。
「両方問題なし。…さすがにソロモンやグランみたいな奴に知られると姫はあきらめなきゃならないけど、代償がそいつらなら好都合だ。あいつらの
追いかけもほどほどにしてほしいんだけどね」
と言いながらそこいらの岩に腰掛ける。
今の言い方だとシェラザードは他の祖を相手にしても勝てる、と明言しているようなものだが。
「さすがに白翼のやつには言っておいた。「これから真祖を殺しに行きます」って。どうやら真祖狩りについては彼も興味を持っているみたいだから」
「まるで「これから遊びに行ってきます」みたいな言い方だね…」
「それから埋葬機関の方だけれども…」
と、彼は何やら荷物から1つのものを取り出し、こちらに放ってくる。
僕が取ろうとしたのをダーヴェルが制し、彼がそれを取り上げた。
…護身のためだろう。
「…宝具、いや、これは…強力に祝福を受けている。キリスト教徒の概念武装か」
「その通り」
それは剣だった。
西洋の剣であるにもかかわらずそれは細い。でも長い。
少しでも間合いを長く、そして速く敵を斬られるように。
でも、これは、見た事がある。
そう、これは…夢の中で見た…。
「第三聖典…!」
僕はダーヴェルの手から剣をひったくり、鞘を抜く。
間違いない。これはあの女子のような神父様が使っていた剣だ。
「知っていたのか。所有者には船旅途中のインド付近で勝ったんでね。どうせならと持ってきておいた」
「ぐ…!」
勝った、すなわち彼は…!
「殺したのか…!?」
「人聞きの悪い。両方同意の上での戦闘だ。あっちもこっちを殺す気だった。ならこっちも礼儀としてそうするべきだろ」
「…」
反論はできない。
なぜなら、それがこちらの世界なのだから。
所詮、負ければ文句は言えない。
「と言うわけで交通面やここへと来るための手続きを考えると、既に事は終わっているからね。誰にも邪魔はできないし、誰にも邪魔はさせない」
「…」
あくまで彼の表情の変化はわずかだ。だけど、怒ったり悲しんだりはしない。
「…なぜそこまでして真祖の姫を殺そうとするんだよ」
「色々と理由はあるんだけど、一番の理由はそうだね…」
一呼吸置いて、彼はこう言った。
「終焉の回避…かな…?」
なぜ真祖の姫を殺すことが終焉の回避につながるのかは分からない。
だが、口調は同じであり表情も大して変えはしないが、彼は間違いなく本気だ。
目的のためならば、彼は…何だってするだろう。
「…なら今後はどうするつもりなんだよ」
「今後? そうだね…」
でもこの際彼の目的はどうだっていい。邪魔者が入らないのなら問題ない。
でも、この男はどうするつもりなんだ。
「何もしない、かな」
「何も…ってどういう事だよ」
「君には『死んでは困る』けど『願いを達成されても困る』からね。だから協力もしないし敵に回りもしない。あくまで静観するまでさ」
…この男の言っている事は真実か、否か。
「信じる根拠は?」
「それは君の心がけしだいさ。僕は君にアルクェイドを呼び寄せてもらえればそれでいいのだから」
「…」
僕はダーヴェルの方を向いて、手を下の方に下げる動作をする。
警戒こそ解かないものの、構えはといてくれた。
「ならその言葉、信じます。しかし私にその牙を向ける可能性は?」
「ある。そうならない事を祈る」
「そう…」
僕はそのまま彼に声をかけずに立ち去る事にした。
ダーヴェルも無言で後を追おうとして、
「そう言えば君、アインツベルンの侍女だっけ?」
とのシェラザードの声で僕らは止まった。
「そうですが、それが?」
「…なぜロアが侍女に転生したかはかなり疑問だね。あのクリスティーナって名前の少女ならともかくさ」
「さあ? 私のあずかり知る事では」
これは僕も思った。
だけど、現実にはそうなのだから、そんな事を考えても仕方がないと思う。
「それともロアだからこそ侍女になったとか、かな」
「え? そんなまさか」
本当は僕の時点で完成していたけれども、何らかの手段でそれを知ったから侍女になった?
そんなはずはない。僕はあくまで失敗作だ。そしてクリスお嬢様こそが選ばれし存在なんだ。
そんなはずは…。
「ま、あくまで推論だから気にしないでくれ。真実は誰にも分からないしね」
「…」
僕は何も言い返せなかった。
何しろ何も言う事がない。
「本当ならもっと語りたいところだけど、君も忙しいんだろう? ならこれぐらいでおひらきにしようか」
「そうですか」
今度こそ僕らはその場を離れる。
シェラザードの手段がロアの救出にあるのであっても、僕は彼に命を助けられた事には変わりはない。
それには感謝はするけれども、僕は彼とは二度と会いたくはない。
彼は、お嬢様たちにだって危害を加えるかもしれないのだから。
「いいのか? 倒さなくて」
「…かまいません」
ダーヴェルの忠告にこう答えておく。
「今はまだ敵ではないみたいですから…」
「今はまだ、な。味方になるかもしれないし、敵になるかもしれない。だが無事に終わらせるのであれば…」
「戦わざるをえない、ですよね?」
帰りの足取りはどこか重く、まるでそのまま未来を暗示しているかのようだ。
シェラザード、27祖の1人。
また厄介ごとが増えてしまったか…。
to the next stages…
と言うわけで現代では既に残っていない27祖の位でオリジナルキャラを出しました。当然の事ながら原作で出てきたら即変えます。
彼の目的については簡潔に説明しましたが、詳しいところはまだ秘密です。
それにしても当初予定していた彼の性格、よく考えてみるとメレム・ソロモンとかぶってるじゃん。と言うわけで若干変更しました。
なぜディートがロアなのか、シグルズのグラムはなどの問いに1つの答えは出せました。と言ってもあくまでシェラザードとディートの会話の間ですの でぼかしてあり、嘘でもあるかもしれません。謎が判明するのも後半の方ではないかと思います。
次の話はやっと憐に戻ります。できれば夜まで書ける事を期待しつつ、それでは。
2006年9月1日