/2日目・interlude
「…至極不快…」
その女性はただそう言って口元に手をやる。
目の前に広がる光景は、日常生活ではありえないもの。
まず床と言う床は鮮血で真っ赤に染まり、床や壁には巨大な獣がいたかのように爪あとがそこらじゅうにある。
そう、彼女は今銭湯にいた。
そこには誰もいない。
音もしない。
ただあるのは悲惨な光景だけ。
だが、こんなのを一般のものが目にしたらそれこそ噂のもとになってしまうだろう。
それは彼女の望むものではなかった。
神秘を手に入れるために神秘を世間にさらすのは言語道断だ。
彼女は自分のサーヴァントを見る。
クラス:ライダー。彼女はここで行われる聖杯戦争の存在を知ってから、召喚するならライダーで彼をと始めから決めていた。
そして、それを見事に引き当てる事に成功する。
彼女は自らのやる事には自信どころか誇りがあった。
今回の事を持ちかけてきた彼女の友人も、彼女に関しては自信があったに違いない。
「…騎乗兵」
「なんだ?」
霊体化していた彼女のサーヴァントが隣に現れる。
頭3つ分ぐらい彼女より大きいそのサーヴァントだったが、彼女を見下ろすような目で見た事はない。
ライダーもまた彼女を信頼していた。
「意見を」
「これを行ったのは昨日始末し損ねたバーサーカーの仕業だろうな。これ以上犠牲が増える前に早急に手をうつべきかと」
彼女は短く詠唱を唱えると、その惨状の後始末にかかった。
血の色に染まっていた床は元通り木やタイルに、爪の跡は全く残らず平坦に。
その間一分もかからなかった。
「これ以上留まるは不要也」
怒りも悲しみもせず、ただ事務的に作業を終わらせるとただそういい残して歩き出す。
ライダーは霊体化して姿を消した。
そしてその場からは誰もいなくなった。
銭湯は清潔そのままで、いつものような憩いの場に戻っていた。
ただ1つ、利用者と従業員がいない事を除いて。
interlude out
Fate/the midnight saga(仮)
第10話
/2日目
その時間はとても温かく、楽しいものだった。
料理は和食がメイン。でも文献で見た中華の料理もある。
その事を聞いてみたら、
「…あー、中華はとてつもなく出来にうるさい知り合いがいてね…」
なーんてアーチャーがサーヴァントらしからぬ答えをしてきた。
円卓の騎士の中にいる台所の騎士じゃあるまいし…料理の出来を批評される英雄って…。
「すごいんですよー士郎さんって。和食も洋食も中華も私より上なんですから。それに発想のすごさに驚かされます」
とは葵の話。
どうやら今回は中華をアーチャーが、和食を葵が作ったようだ。
「そうか? 和食はまだかなわないぞ。そこは俺も見習いたいな」
「またまた、謙遜しないでくださいよ」
なーんて葵とアーチャーの会話もあったり。
「憐ー。たまには英さん所じゃなくてうちの道場に出なさいよー」
「…この前師範にぼこぼこにされたばっかじゃないか。それに俺は英ねえの方が性に合ってる」
なーんて憐と沙耶さんの会話があったりした。
食事はとてもおいしく、僕も見習うべき点がいくつもある。
味は洋食とは違うから参考程度だろうけど、もりつけなんかは世界共通だし。
うん、この肉はとてもいい味付けだ。
「ディートリッヒ、でよかったか?」
「え?」
急に、一成さんがそんな事を言ってくる。
それには僕は少し驚いた。
何しろ今まで僕は他の人としゃべったりはしたけど、彼は誰ともしゃべらなかったからだ。
だからこそ彼の周りには人がいなかったと言うのに。
「これからどうなるかは俺にも分からない。だけど悲観する事はない」
「は…はあ…」
その言葉には何か深い意味があったかもしれないけど、今の僕にはその深い部分までは分からない。
それともただ屋敷のみんなと仲良く出来るか、と言う意味か?
「憐をこきつかってもいいから、一人でしょいこむのはやめろよ。何なら俺も力を貸す」
「分かりました。ご親切な配慮ありがとうございます」
そんな僕は少食の方だったから箸があまり進んでいなかった。
いや、箸の使い方が分からないとかじゃなくてだから。
「うー、やっぱこのスープもいけるよ…」
一方、キャスターは涙を流しながら一つ一つ味わうように食べてる。
これだけ感動されると料理をする方も嬉しいんじゃないかなってぐらい。
それで、お皿もあらかた空になってきて、お酒(主に日本酒)も尽きてきた。
もう寝込んでしまった人もいるし、大笑いしながらまだ飲んでいる人もいる。
レンは僕との出会いとかを色々と聞かれていたけど、今は1人だ。
なら、
「レン、おつかれさまです」
僕はレンに声をかけた。
そのレンは日本酒の器を手にして座っている。
「ディートこそ今日は大変だっただろ。早めに布団用意しとくから早めに寝た方がいいぞ」
「寝具の用意でしたら自分でしますよ。そこまで手をわずらわすわけには…」
「この家とあっちとじゃあ勝手が違うだろ? せめて今日ぐらいゆっくりしてくれ」
…勝手が違う、か。確かによそ者がそんなおいそれとでしゃばるわけにはいかないな。
なら、お言葉に甘えさせていただこう。
彼は少し酔っているようで、顔つきが少しゆるんでいた。
顔も若干赤いし、彼と一緒に飲んでいた人たちはある程度寝てしまっている。
それでも、彼はまだ正気のようだ。
「いい方たちですね」
「ここにいるみんな? そうだな。だから俺はこの街が好きだ。この街の感じは数百年経とうが変わらないだろうな」
断言するように言う。
その数百年後を確かめるすべがないのは残念だけれども。
「だからこそ、いつまでも平和であって欲しいんだけどな」
「レンはそのためにこの戦いに参加したのでしょう?」
「ディート、また敬語」
「あ」
僕達は若干顔を見合わせて…、
「…ぷっ」
「あはははは」
互いに笑いあう。哂うではなく、笑う。
それをまだ起きている人が不思議な眼でこっちを見るけど、それでも僕らはやめなかった。
「はあ、今日はもう休めよ。いくらアレを補充したからって宝石だと応急的だからな。大幅に回復させるのは休むのが一番だ」
「そう、ですね」
今日はセイバーと死闘をしたし、僕もキャスターも魔力が底をついている。
あの宝石はとても助かったけど、万全とまでは行っていない。
これからのためにも、今日は休んでおく必要があるよね。
「じゃあ俺が部屋の用意を…」
その時、盛大な音が屋敷に響き渡る。
それはまるで何かを蹴破るような、そんな感じ。
『!?』
おきているものは一様にその音に驚く。
「まさか…!」
真っ先に行動に出たのはアーチャーと一成さんだった。続いてレンや他にしらふの人が立ち上がる。
これはもしかして敵襲…!
「んなわけないでしょう。そうだったらあたしが気づいてるって」
キャスターなんだし、とは言わなかったけど彼女は断言した。
その様子は不思議なぐらい落ち着いている。
でも様子が気になったので、僕も彼らの後を追うことにした。
どうやら音がしたのは玄関で、その戸が体当たりで突き破られた音だったらしい。
その突き破った人は…、
「鈴木さん?」
そう、確か銭湯とかの主人をしてるって人。
その彼は玄関口でがたがたと振るえて男性に抱きついている。
そしてその顔は、恐怖そのもので染まっていた。
「一体どうしたんだ鈴木さん!」
レンが彼の肩を揺さぶってうつろな眼を元に戻そうとするけど、全く反応がない。
「いないんだよ…」
「は?」
まるで今まで忘れていて今思い出したかのように、彼はぼそっとつぶやく。
「女房も阪下も本田も荒井もみんなみんなみんなみんないなくなっちまったんだよぉぉっ!!」
彼は、絶叫した。
周りの事は全く目に入っていないし、全く耳に入っていない。
ただただ可能な限り彼は叫ぶ。
そうでもしないと気が狂うとばかりに。
「みんなみんな消えちまった血をたくさん流してさっきまでいたのにさっきまでいたのに!!」
「落ち着けよ鈴木! 一体何があったんだ!」
この屋敷に住む師範代の一人が暴れようとする彼を抑えながらそう言うけれど、鈴木さんは全く聞かない。
「うぐ…!」
その鈴木さんは、一成さんの一発の攻撃で沈んだ。
見事なまでの腹への攻撃だった。何しろ無駄な動きが少ない。
「師範!」
「事情は分かった。銭湯に行ってくる。こいつは寝かせておけ」
彼はただそういい残すと他の人の静止を全く気にもせず走り去った。
「師範! 待ってくださいよ!」
何人かが彼に続いて去っていく。
「ねえレン…」
「…ああ」
当然の事ながら玄関口はざわめくであふれる。
そんな中、僕はレンに話しかける。
これはもう、間違いない。
「セイバーに気を取られすぎた…!」
ぎり、とレンは歯を折れるとばかりにかみしめる。
そう、間違いなくこれは聖杯戦争が原因で起こった事だ。
悔やんでも悔やみきれない。
アインツベルンで育てられた僕だってやりきれない思いなんだ。なら、レンはどれほどなんだろうか。
「俺もアーチャーと行ってみる。ディートはここに残ってくれ」
「でも…!」
「俺たちだけなら逃げる事ができるけど、ディートとキャスターだと相手から逃げ切れるとは思えない。だからここに残ってて欲しいんだ。
単純に様子を見に行くだけだからな」
「……」
確かに魔力が少ない今の僕らが行っても足手まといになるだけだ。
くやしいけど、言うとおりにするしかない。
「分かりました。くれぐれも気をつけてくださいね」
「分かってるさ。俺も自分の命は惜しいからな」
彼はそう言って走り去っていった。
今度は誰もがあわてていて誰もレンには気づかなかった。
「…どうかご無事に」
僕は願うようにそうつぶやくしかできなかった。
/interlude
「憐」
「ああ…」
俺はアーチャーの言葉にあいづちをうつ。
俺達は俺がさっき来た鈴木さんの銭湯の前にまた来ていた。
料理の材料をもらいに行った時は何事もなくにぎわっていた市民憩いの場。
それが、今は生物の息吹も感じられない。
「…士郎、サーヴァントは?」
「いや、いないな」
さっきも確認してもらったけど、もう一度確かめてほっとする。
どうやら現場には俺たちが一番乗りだったようで、役人の姿すらない。
すぐに師範は師範代に役所に行くように命じて、残った全員で中の様子を確かめる事にする。
何事かあったのなら生存者を探すべきだ、が師範の意見だ。
「まずは手分けして中の様子を確認するぞ。あいつ(鈴木)がうろたえるような事が起こったのなら、十分に警戒しろ」
「分かりました!」
そうして俺達は銭湯の中に入った。
そして、唖然とする。
「…なんだこれは?」
さっきの鈴木さんの話だと血がたくさんあったとか言ってたけど、その一滴すら見当たらない。
だが、見る限りでは何も異常がない。
見た感じでは全くいつもの銭湯と変わりがない。
人一人いない事を除いて。
「どう言う事だ?」
思わず首を傾ける俺。
考えられるのは2つ。
1つは鈴木さんの気のせい。彼を騙すためにおかみさんたちが仕組んだ事だった。
そして、もう1つは…、
「証拠を隠滅した、か」
風呂場はともかく脱衣場の血痕を取るとなるとそう簡単なことじゃない。
だとしたら…。
「士郎はどう思う?」
とりあえずは士郎の意見を聞いてみる事にした。
俺にもいくつか可能性が考えられるけど、ひとりよがりかもしれないしな。
「そうだな…」
腕を組みながら辺りを見渡す。
「とあるサーヴァントが何らかの目的でこの場にいた人を皆殺し、他のマスターが証拠を隠滅した、かな?」
俺もそう思う。
ここを襲ったマスターが証拠を隠滅したのなら鈴木さんが見た光景が悲惨なものだったとは考えられない。
つまり、サーヴァントが襲う→鈴木さん目撃、逃亡→別のマスターが証拠を隠滅、が一番考えられる事だ。
「床とか壁とか、魔術で直した跡もあるしな。多分それで間違いないだろう」
「え? それが分かるのか?」
魔力の痕跡を探す事に関してはセンスのない俺には到底出来ない芸当なので、ただ驚くしかない。
「ああ、血の跡があったかまでは分からないけど、床と壁全体に魔術行使の跡が見える。それに所々爪あとみたいなのを直した跡があるな」
「つ…爪あと?」
「ああ、巨大な獣がやったような感じにいくつも」
巨大な獣が壁に爪あとを残した。
それはつまり…何なんだ?
俺たちが今の所知ってるのはセイバーとキャスター(当然アーチャーもだけど)。
セイバーが剣で縦に複数攻撃するような剣技を持ってるなら別だけど、マスターがアインツベルンだからそれはまずない。
彼女らはそんな小細工を使わなくても最強であるよう手をうってくるだろうし。
キャスターが使い魔を使って魔力を補充してる可能性もあるけど、ディートははっきり言って魔力が高く、そんな事をする必要がないし、
そんな事をするとも考えられない。
だとしたら…、
「ライダーの乗ってるやつかバーサーカーのしわざか?」
「…」
ランサーとアサシンの可能性はまずない。それにキャスター適正があってランサーになるパターンも適切な英雄が思い浮かばない。
ライダー本体も考えられないけど、ライダーの乗るものならそれもありえそうだ。ものすごく獰猛なヤツならありえる。
「それなら別にそれらに限定しなくても、魔力供給がうまくいってないチームがやってる可能性は?」
「あ」
そうか、その可能性もあったか。
士郎の指摘に思わず納得する。
サーヴァントは霊体、つまり魔力を補うなら同じようなもの、人間の魂で補完するなどと外道手段も使える。
当然英雄だった者がそれに同意なんぞするはずもないが、目的が聖杯だからな…。
「やっぱ一番可能性が高いのはバーサーカーか?」
「だろうな…。アレは一番制御しにくいって聞くし」
それで肉ごと魂を食らったってわけか…。
なんてやつ…、
「ん?」
そこで1つ疑問がわく。
「魔力を補うためなら何も身体ごと喰らう必要はなくないか?」
魂だけ喰らうのなら身体はちゃんと残るから単純に自然死で済まされてしまう。
悔しい事だがな。
肉まで喰らったら行方不明になるかもしれないけど、むしろこっち側の関係者にはばれやすくないか?
「…食事をする事でサーヴァントに利益が出てくるんだ。生前の実力を出しやすくなる」
「へえ、それは知らなかった」
だとしたら敵マスターはそれを承知でこんな事をしたって言うのかよ…!
拳を硬く握り締め、歯を思いっきりかみしめる。
犠牲者を最小限に食い止めると誓った先からこれだ。
何が守ってみせるだ…!
「…!」
はっきり言って誰が犠牲になったかは分からない。
でも、確実に俺の知り合いが中にはいたはずだ。
本当に犠牲になった人には本当にすまない。
このかたきは、絶対にとるから…。
「いないな…」
しばらく全員で探したが、結局誰もいなかった。
どうやら敵が襲った場所は脱衣所と大浴槽だけで、かまどの所や居住区にはその跡がないようだ。
と言う事は鈴木さんはそこにいたから偶然助かっただけなのか…。
「師範、どうします?」
師範代が師範にそう声をかける。
魔力の痕跡を探せない彼らからすると、これは単なる失踪事件にすぎないのだろう。
そう思うとすごくやりきれない。
「これ以上ここにとどまる事は無意味だろう。帰るぞ」
「はい」
結局俺らにもできる事はないので、俺と士郎でこっそり手を合わせ、その場を後にする事にした。
帰路につく時も、俺はやりきれない気持ちでいっぱいだった。
俺には敵がどうするかなんて予想は出来ないし、出来た所で犯行を押さえられたとは全く考えられない。
でも、何か1つできたはずだ。
それだけで彼らを救う事が出来たかもしれなかったのに…。
「憐」
「ん?」
出来るだけ冷静をよそおって士郎の呼びかけに答えた。
でも自分でもうまくいったとは思えない。
「これからは絶対に止めるぞ」
「…!」
俺はその言葉に大きく驚く。
そう語る士郎の顔つきは真剣そのもの。いや、その言葉すらふさわしくないほどだ。
彼は既に次を見据えている。これから狙われるかもしれない人の事を。
それなのに、俺は今犠牲になった人たちの事ばかりを考えていた。
「く…!」
俺は思いっきり両の頬をはたく。
これは誓いみたいなものだ。
過ぎた事を取り戻すことなんてできやしない。
でも、過去を未来に生かす事は絶対に出来るはずだ。
なら、俺がやる事は決まっている。
「そうだな。これ以上犠牲者を出されてたまるか。敵が誰か知らないが、かならずぶちのめしてやろう」
俺はそう断言して、前をみすえた。
そう、犠牲になった人たちは俺の心に刻み、それを教訓としようじゃないか。
そして、敵には絶対におとしまえをつけてもらうぞ…!
「あれ誰だ?」
と、思考の世界にいた俺は師範代の言葉に現実に引き戻される。
場所は屋敷へと戻る坂道一歩手前の場所。
そこに、少なく点在する明かりの下に、1人の人物がいた。
アインツベルンの少女であるクリスティーナよりはマシかもしれないけど、ディートリッヒよりも華奢で小さいその身体。
濃い蒼と濃い茶色でできた長髪、整った顔は美人と言うより聡明。
その顔立ちは明らかに日本人でも西洋人でもない、
「漢人…?」
そう、その人物の出身国は明らかに清だ。
中性的で男か女かも分からない。
だが、1つだけ分かる事がある。
(士郎…)
(ああ、分かってる)
それは、彼女が魔術師だと言う事だ。
「師範、どうします?」
「声をかけられないのなら放っておけ」
その人物はこちらの方をただ見つめている。
おそらく狙いは俺たちだろう。
(あいつが行動を起こすようならいつでも倒す準備はしとけよ)
(分かってる)
なら、相手が行動に移る直前にこっちが行動に出る。
だがマスター自身がこうして出向くのはなんでだ…?
単なる様子見か、それとも…。
俺達はその人物を気にする事無く通りすぎようとして…、
「一番若き者と隣にいる強者、話したき事有」
「え?」
通りすぎようとした時、その人物はそう言ってきた。
思わず一同でその人物の方にふりかえる。
「一番若い…って俺か?」
師範代とか師範に比べると、俺の年齢は一番下だろう。
「隣にいる強者…もしかして俺?」
と、士郎は自分の方を指差す。
俺は後ろの方にいて隣は士郎だけだったから、そうなのかもしれない。
「君は、誰だ?」
いくら何でも漢人に知り合いはいないぞ、俺は。
そんな事を思っていると、その人物はさぞくだらない事を話すかのようにこう言ってきた。
「
「「…っ!」」
やはり聖杯戦争関係者だったか…!
俺と士郎は同時に構えをとる。
と言っても師範たちがいる手前、徒手空拳になってしまうのは仕方がない。
「戦闘態勢の必要皆無。対話を望むのみ」
「対…話?」
確かに攻撃しようものなら師範たちを巻き添えにしても攻撃をしかけていたかもしれない。
でも正々堂々と戦うために話しかけてきたかもしれない。
「そうか、なら憐と士郎はここに残るのか?」
「…はい、そうしたいと思います」
師範の言葉に俺はそう述べる。ただし視線と意識は相手に回したままで。
(士郎…いや、アーチャー。付近にサーヴァントは?)
(…霊体化してすぐ近くにいる)
く、やはり近くに待機させてたか。
だとしたら師範たちが帰ろうとするところを後ろから攻撃しかける可能性は…?
「する意味が皆無也」
俺の考えをみすかしたかのように、その人物は言い放った。
内心驚くが冷静をよそおう。
(…どう思う?)
(もしこの人たちに攻撃をしかけるなら絶対の隙が生じ、攻撃がしやすくなる。そんなリスクは犯さないと思う)
…そういう考え方もありか…。
「分かった。応じよう」
俺はこくりとうなづいて構えをとる。
当然警戒はしたままだけど。
「では憐、士郎。門限は守れよ」
「分かってますって」
師範たちはそのまま屋敷へと帰っていった。
そうして残ったのは俺とそのレイリーなる人物。そして互いのサーヴァントだけだった。
付近に誰もいる気配はなく、このまま戦闘に突入した所でなんら支障がなさそうだ。
「それで、戦うのか?」
そんな思いもかねて、俺は聞いてみる。
さっきの対話ってのはただ師範たちを俺から遠ざけるための口実かもしれないしな。
「再度の発言は無用」
しれっと、そいつは言って手を上げる。
するとその場に彼女のサーヴァントが姿を現す。
身長は士郎より若干高いぐらいで見た目の年齢は20代後半の男性。
雰囲気からもやはり清の方の流れをくむ者のようだ。
…セイバーとはまた違った威圧感を感じる。
そう、いうなら己の信じるものを絶対だと確信しているかのように。
こいつが、ライダーか…。
「そなたの弓騎士は先刻拝見した。なら吾も見せるは礼儀」
「……」
あえて返事はしなかったが、こいつは礼儀を重んじる方か。
なら、銭湯のやつはこいつが犯人ではないのか…?
いや、騙しあいも聖杯戦争には必要だ。もしかしたら惑わすためにそんな態度に出てるのかもしれないし。
「それで、戦うのじゃなければ話し合いだよな。早めに用件はすませてくれ」
「人生に優雅さは必要かと」
…なんかピリピリしてる俺のほうが馬鹿みたいじゃないか。
レイリーはため息をついて、こちらの目を見てくる。
「銭湯の一件、拝見は?」
「…っ!」
その一件の事か。
意外といえば意外だが、予想のうちではある。
「あれは狂戦士の仕業」
「…っ!」
いきなり犯人を暴露かい。
一体何が目的だ?
「バーサーカーの?」
「信じる信じないはそなたの勝手也。だが吾は事実を言っている」
バーサーカーのしわざか…。
確かにバーサーカーなら魔力を補うために行う事だってありえる。
でも、ライダーから注意をそらすための嘘八百かもしれない。
信じる信じないは別にして、今回はライダーを確認できただけでよしとしよう。
「それだけか?」
「否」
…そりゃそうか。
いつ敵になるかも分からない奴に情報だけ与えようだなんて考えを起こす奴はいないだろう。
それに、魔術師の原則は対価交換。
なら、見返りを要求してくるはずだ。
「聞きたい事があるのか?」
だから俺はそれを見越して言ってみる。
それをレイリーは、
「否」
たった一言の否定だけで答えた。
「じゃあ何が言いたいんだよ」
「…狂戦士のように知らぬ者たちへと危害を加えるようであれば、容赦はせぬ」
…へ?
俺はその発言には随分と驚いた。
魔術師であれば手段なんぞ選んでられないと思ったけど、街のものを気づかうとはどういった理由だ?
「用件は以上、再見」
「あ、おい、待てよ」
去っていこうとするレイリーをあわてて呼び止める。
「まだ何か?」
「何が目的でそんな事を俺に話す。敵である俺に」
目的なしで情報や警告を送るだなんて考えられない。
魔術師はそういった人種だ。漢人だろうと日本人だろうと関係なく万国共通で。
「そなたは利用できそうが故」
「り…利用…?」
「吾とそなたの目的が似通っている故に。それ以上でもそれ以下でもなし」
目的が似通っている…?
それはどういうこと、どういうことだ…?
頭が混乱してくる。
こいつの目的は何で、何を俺にさせたいのか。全く分からない。
ただ1つ分かるのは、こいつが油断ならないという事ぐらいだ。
「魔術師は対価交換が原則。なら何か俺にさせたい事でもあるのか?」
「皆無。強いてあげるのなら…」
ふむ、と言いながらレイリーは髪をかきあげる。
その動作がどこかしら人間らしくなく、別世界の住人に見えてしまう。
「マキリの者に動きがなき故、動向が知りたい。それのみ」
「マキリに動きがない?」
マキリ、遠坂とアインツベルンと並んでこの戦争を仕組んだ者たちの1つ。
なら、この3つは確実に参加すると思っていたが…、
「アサシンを召喚していてまだ静観しているんじゃないか?」
「それは吾も考えた事。それを知らせてくれればよろし」
そういうとレイリーはきびすをかえして、
「
そのままライダーとともに去っていった。
残った俺はただ頭を悩ます事しかできなかった。
「帰ろうか…」
「そうだな…」
このままとどまっていても何も起こりそうにないので、とにかく俺達は屋敷に帰る事にした。
interlude out
/
一日が終わった。
今日は昨日と同じでとても長く感じてしまった。
これほど良くも悪くも充実した一日を送れる人がどれだけいるだろうか?
お嬢様との決闘、そして別れ。
ドウメキの屋敷の人との楽しいひと時。
バーサーカーとライダーのそれぞれのマスターの動向。
そして、
「ロア…か」
自分の手を見る。
まだ僕はディートリッヒであり、僕そのものだ。
キャスター:ニムエの助けを借りて僕は僕のままでいられる。
それがいつ破られるか…。
いつ僕が僕でなくなるか…。
いつレンたちをこの手にかけるか…。
「……」
僕はそれぞれのマスターを思い出す。
魔力供給のために一般の人を殺すバーサーカー。
それを阻もうとして目的が不明なライダー。
まだ行動を示さず沈黙するアサシン。
誰よりも魔術師であったランサー。
他人に救いの手をさしのべその幕を閉じたキャスター。
聖杯を誰よりも求める愛しいセイバー。
そして…僕のために立ってくれたアーチャー。
「レン…か」
レンとシャルロットは僕のために自らを使ってくれている。
僕は、それに報いたい。
それが僕にどんな破滅をもたらそうとも…。
「でもそうしたらレンどう思うかな…?」
だとしたら僕ってレンのためじゃなくて、自分がレンには幸せになって欲しいからやってるのかな?
なら自分のためじゃん。
「…やめましょうか」
どちらにしろこの一日は無事に終わり、明日につなげる事ができる。
それなら、明日は明日のベストをつくそうじゃないか。
僕は布団というなれない寝具に身をつつみ、眠りへと落ちていった。
to the next stages…
ようやく2日目終了。これでやっと3日目に入れますよ…。
ライダーのマスターは中国人にしました。特に理由はありませんが、強いて言うならそっち系がいない事ですかね?
ようやくマスターとサーヴァントを全員出す事ができました。彼らの行く末がどうなるかはちゃんとやりたいですね。
と言ってもまだ3日目は日常の続きになりそうで…。
それでは次の日付で。
2006年8月20日