/2日目・interlude

「……」
「……」

「話しかけてもいいんですよアサシン」
「…ソウハイカン。今マサニ誰カ聞イテイルカモシレナイノダカラナ」

「(くすくす…)随分と慎重なんですね。やっぱり」
「……」

「心配ありませんよ。皆さん自分の事で精一杯でわたしたちの事は誰も気にしてませんから」
「…ソウカ?」

「そうですよ。催促は来るかもしれませんけれど」
「……」

「それで、セイバー達はどうでした?」
「…マダせいばーモきゃすたーモ小手調ベノヨウニ見受ケラレタ。ソレニあーちゃーハ弓デハナク刀ヲ使ッテイタ」

「そう、ですか。それで真名は分かりましたか?」
「…きゃすたーハにむえト名ノッテイタ。ソレトせいばーハますたーガじーくふりーとト呼ンデイタ」

「…ジークフリート、確か北欧最高の半神でしたっけ? アインツベルンのお姫様はそんなのを連れてきたんですが…。すごいですね」
「あーちゃーニ関シテハ皆目検討ガツカナイ。申シ訳ナイ」

「刀を使う弓兵なんてそう簡単に分かるものじゃないですからね。気にする事ないですよ」
「……」

「そのアーチャーのマスター、誰だか分かりましたか?」
「レン、ト呼バレテイタ」

「レン…! そう、彼が…」
「……」

「他にはありましたっけ? たしか昨日ランサー対キャスター以外にライダー対バーサーカーがあったはずですけど」
「らんさーハ見ツケ出ス事ガデキナカッタ。らいだーハ向コウノ方ヲ巡回シテイル。ばーさーかーハマタ行動ヲ起コスト予想サレル」

「…そう、ですか…」
「……」

「それで、単独でやって勝てそうな相手は?」
「…現時点デハ何トモ。タダスキヲツイテモ成功ハ難シイト断定シヨウ」

「じゃあ決めたとおり、漁夫の利を狙いようにしましょうか♪」
「…他ノ者ガ戦ッテイルスキニ宝具デますたーヲ殺ス」

「その通り。1人でも成功させれば勝ち抜ける可能性がうんと高くなりますから、それまで待ちましょう」
「…シカシ」

「わたしが魔術師だって見破られないか? そこは大丈夫ですよ。ばっちり対策してありますし」
「……」

「現にアインツベルンのお嬢様もわたしに全く気づいていませんでしたし、ね。(くすくす)」
「……」

「とにかく積極的に出てくるだろう遠坂とアインツベルンのマスターを早々に片付けてしまって、それから他の邪魔なマスターを始末しましょう」
「了解シタ」

「そして、最後にあいつらを殺しちゃって…ね」
「…ますたー…」

「あの人はわたしだけのものわたしだけのものわたしだけのもの……」
「……」

interlude out



   /interlude

「よ、鈴木。相変わらず覗きか? いや、これだと確信犯か?」
「…アホだろ。いや、そんな事は始めっから分かってっか」
苦笑いを浮かべる鈴木健。
笑う男集。

 ここは市民憩いの場である銭湯。
風呂から昇る湯気のおかげで脱衣場は湿気が高く、蒸し暑い。
それでも文句をいう人は誰もいない。それが銭湯なのだから。

「番台さん、あかすりちょうだい」
「あいよ」
色々と野次を飛ばす男集から視線を離し、反対側の女性脱衣場の方に顔を向けた。

「これでいいかい?」
「ありがと」
鈴木からそれを受け取り、女性は去って…、

「あんた、あたしに見惚れたのかい?」
いかなかった。
思いっきり下がる鈴木。

「ばっ馬鹿言ってんじゃねぇ! 誰がおめぇなんかに…!」
「そう言ってるわりに視線がいやらしいよ」
「ぶ…っ!」
吹き出す鈴木。

「よっ! 女殺しは健在かい?」
「いやー! 男冥利につきないか?」
「少しぐらい分けてくれよ」
当然のごとくはやしたてたりする男集。
鈴木の顔が赤く…ならず、逆に青ざめる。

「おい…、頼むから冗談でもそんな事を言うのは止めてくれねぇか?」
「へ? 何で?」
「もしかして怖いのか? 女房が」
「ば…っ!」
その先を言おうと思ったが、あまりに自分が大きな声を出している事に気づく。

「馬鹿かおまえら。あいつに比べちゃあおまえさんたちなんてそこらにある馬の糞ぐらいだっつーの」
「お、それは大きく出たねー」
わはははは、と笑う笑う男集だったが、それは数秒後にぴたっと止んでしまう。

「…どうしたんだ? 一体」
「…悪いことは言わねぇ。早いトコ逃げた方がいいんじゃね?」


「あんた、もう一度言って御覧なさい」


「え…!?」
ぎぎぎ、と後ろをゆーっくりとしたスピードでむく鈴木。
そして、顔面蒼白。

「お…おまえ…」
「そんなくだらない事言ってるんだったらとっとと火加減でも見て来いっての!」
「ふぼおっ!」
顔面パンチのオマケ付きで言われた命令で逃げるようにして走り去っていく鈴木。
ふんっ、と荒い息を吐いたのは大柄な女性だった。

「なあ旦那。そこまで乱暴になる事ないんじゃないか? 自分の亭主に対してそりゃひどい…」
「お黙り! それと旦那って言うんでないよ!」
「…っ! へいへい…」
びくっとした後呆れながら男達は着替えをかごに入れていく。
その鈴木の女房はまた荒い息を吐いて番台に座った。
と、

「あらいらっしゃい」
誰かが戸を開けて入ってきた。
鈴木の妻は営業スマイルというより気さくなおばさんと言った感じの笑みをうかべてそれに答える。

 が、それは一瞬後には収まってしまった。

 まず目の前にいるのはこの街の人間ではない。
それどころかこの国の人間でもない。

いくら明治維新があってからまだ10数年しか経っていなくても、日本人とそれ以外の区別ぐらいはつく。
そして、目の前にいるのは日本でも清でもない。
そう、明らかに西洋人だった。

 でも、ここ最近に限ってはそこまで珍しくもない。
何しろ最近になってあの白い雪のような少女や女性、それに大柄な男性も見てきている。
妻自身は話した事はなかったが、鈴木はたまにそれを話題に出してきている。
うんざりしながらそれを聞いていたけど、ちゃんと覚えている。

目の前にいるのは初老の男性。
日本人は西洋人なんかと比べるとはっきり言ってチビだ。
そんなやつらが西洋人の服を着たってただダサいだけだ。

目の前にいるその男はそんなスーツをしっかりと着こなした、いわゆる紳士といった感じだった。
杖を腕にかけ、帽子を手袋をした手でとる。
そして、にこっと妻に対して笑って見せた。

だが妻はそれだけでは驚かなかっただろう。

彼女が驚いたのはその隣にいた連れの女性だ。

まるで深い海のように深い蒼の瞳、淡い空のようなウェーブのかかった髪。
顔には幼さが残り、いや、本当に幼い。少女のようなものだ。
その服装は妻には全く見た事がない。そでが全くなく、大きな白い布で構成されているような感じだ。
その身体は繊細で華奢。ちょっと力を込めればすぐにでも折れてしまいそうな弱さを感じる。

そして、この場にいる誰よりも美しかった。

「わあ…」
その場にいる誰もが彼女を見てため息をもらす。
そして、明日この場にいた誰もがこう口々に言うだろう。

彼女は絶世の美少女だ、と。


生きていればの話だが。


「さあ、食事の時間だ」
紳士のような男性は、そう口にした。
とたん、

「■■■■■――っ!!」

その少女は悲痛な叫びをあげた。
そして、

「な…」
その場にいた誰もが何も言えなかった。
そして、だれも何もできなかった。
何も信じられなかった。

目の前にいた美しい少女が、一瞬後には怪物になってしまっていたなどと。

 だれもがそれをただ呆然と眺め、そして、


その怪物の餌となった。



「さあ、ゆくぞバーサーカー」

血にまみれた脱衣場、そして風呂場。

そこには唯1人の息吹も聞こえず、

ただ一かけらの肉片すらなく、

ただ大量の血だけが飛び散っていて、

そこで何があったのかを物語っていた。

その場にいるのは紳士風の男性と、元の姿となった少女だけであった。

「……」
バーサーカーと呼ばれし少女はそれを悲痛な顔つきで見つめ、
去っていく男を追いかけて去っていった。


「くそっ! 雑用ばっか押し付けやがって…!」
1人、かまどに薪をやって熱さを絶やさない人物がいた。
灰まみれの腕で汗まみれのひたいをぬぐう。

「せっかく憐のやつがディートリッヒちゃんの歓迎会だかなんか楽しい事やるってのにこのザマはなんだよ…!」
自分の鬼妻に向かって悪態をつく。
そうでもしないとやってられない。

「大体銭湯だっつーのにこんな汗まみれになってるのも絶対おかしいよなぁー」
そう、絶対におかしい。
なぜ自分はこんな目にあわなければならないのだ。
今ごろ街のみんなと美人と酒を囲んでわいわいさわいでる時間だと言うのに。

「食材がなくなったから提供よろしく! 女将さんの了解はちゃーんととってあるぞ」
などと憐が鈴木に言ったのが数刻前。それから、

「あれ? もしかしてまだ仕事あるの? 残念だなー」
などと皮肉にしか思えないような台詞を言って去っていった。
それが頭から全く離れずぐるぐるぐるぐると彼の頭を回っている。

「あーもう!」
持っていた薪を投げ捨て、立ち上がる。

「やってられっか! 今日は休業だ!」
今回は夫の威厳を見せて、妻を説き伏せる!
そう意気込んで彼はとっとと部屋を後にし、

「おいおまえら! 今日はもうおしまい…!」
と言って中に入り、言葉が止まる。

そこには誰もいない。
いるはずのお客さん、仲間、番台に座る自分の妻。

あるのはおびただしいまでの血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血 血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血!!!


「う……うわあああああああああああああああああああっ!!」


銭湯を持つ鈴木は、ただ叫ぶ事だけしかできなかった。

まるで神にそれだけしか認められていないかのように。

interlude out




Fate/the midnight saga(仮)

第9話


   /

「だからさ、まずブリタニアには12の至宝があってね、それを使って正しい手順で儀式を行えば古き神々を呼び戻せるんだ」
「ふーん…」
「そうすれば大釜を使って死んだやつを復活させる事だって出来るし、キリスト教徒どもを根絶やしにする事だってできるのさ」
「へ…へえ…」
それはまた恐ろしいのかすごいのか…。

夜、僕らはレンの屋敷の方に脚を進めていた。
道は静寂そのもの。人一人いやしない。道にはただ僕らだけがいる。
月明かりと手元の明かりだけが道しるべのようだ。

しゃべっているのはニムエで、他に歩いている僕、レン、アーチャーはそれを聞いているだけだ。

「その至宝って長き戦乱で各地に散らばってたんだけど、大釜を除いてアーサー達の遠征によってちゃーんと見つかったのさ」
「大釜は自分たちで探さなきゃいけなかったから、でしょ?」
「うん、その通りだよ。色々と大変だったんだから」
しみじみと語るのはニムエ。それをただ聞いて理解しようとする僕。
こう聞いていると本当によく知られているアーサー王伝説とは違う気がする。

「処女を使って神々から場所を聞かなきゃならないし、ダーヴェルは無能だから結局マーリンの力借りたり…」
…ダーヴェルがこれ聞いてたら本当にどう思うんだろう。

「まあ、色々あって大釜を含めた12の至宝を手に入れられたってわけ。どう?」
「うん、すごいとは思うよ」
「あ、これがその至宝ね」
と、どこから出してきたのか次々と色々なものが出てくる。
どれもこれもが普通の魔術用具とは違ったレベルのもの、つまり…、

「これ全部宝具…?」
「あたしじゃあ使えないものばっかだけどね。例えばこれ」
「へ?」
そう言ってニムエが僕に渡したのは…マント?

「アーサーが姿を隠すために使ってたやつなんだけど、あたしには使えないわ」
「これどうやって使うの?」
「風の精霊に働きかけて姿を消すんだよ。マント以外の形にもなれるみたいだけど」
…一国の王が姿を消してどうするんだろうか?
そう考えると使い道がないような…。
あれ? でもアーチャーはしきりにうなづいてる。なんでだろうか?

「まあ…、他のはあとでゆっくりと説明するとして、と。それじゃあ…」
「なあ、ちょっと質問いいか?」
と、ニムエの話に割り込んでそう言ったのはレンだった。
さっきから考え込んでる事を言うつもりらしい。

「何よ?」
「なんか俺が知ってるアーサー王伝説と結構違うんだけど、やっぱ伝承違いだけなのか?」
あ、それは僕も思った。
ニムエが湖の貴婦人じゃない、聞いた事のないダーヴェルという騎士もいる、古き神々もいる。
僕はトマス・マロリーの書いたものやマビノギオンぐらいでしか知らないから何とも言えないけど。

「例えばあたしとかダーヴェルとか?」
「そうそう」
僕の考えている事はニムエもあっさりと考えたらしく、ズバリ言い当ててくる。
ふう、とため息をつくニムエ。

「君たちが知ってるあたしたちの話はおそらくキリスト教徒が結構脚色してるでしょ?」
「え? ま、まあそうだな」
「あたしたちのは古き神々とキリスト教の神が葛藤してる世界だったのよ」
なるほど、それはいえているかもしれない。

アーサー王伝説の象徴たる聖杯の話も、元はキリスト教の話だ。
トマス・マロリーのを読んでいると結構キリスト教関係で脚色されている事はいなめない。
と言うか魔法使いはいてもドルイドはいたっけ?

長く伝えられる間に抜け落ちたものもあるし、新たに追加されたものもあるだろう。
確かトリスタンとイゾルデは追加された代表みたいなものだったはず。

あれ? でもさっきトリスタンの名前出してたよね。
と言う事はあらかた有名な円卓の騎士はいるって事か?
後世で追加された…と世間ではされている騎士達も。
とすると…、

「事実は小説よりも奇なり、だね」
思わずつぶやいてしまう。
じゃあその抜け落ちたものがダーヴェル?

「あたしは古き神々に仕えるドルイド、つまり神官みたいなもんさ」
「なるほど…」
「ダーヴェルは…そうだねー、そっちふうにいうならベディヴィエールが一番近いかな?」
「「「へ?」」」
僕ら3人は顔を見合わせる。

「「「ベディヴィエール!?」」」
「カムランの戦いでも生き残ったし、最後修道僧になっちゃうし、それに…」
…なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ…。

「エクスカリバーを神に返しちゃうし! 聞いてるのダーヴェル!?」
「うわあっ!」
急に召喚されて転ぶのはさっきまでセイバーと死闘を繰り広げていた戦士、ダーヴェルだった。
でもさっきまでの雄大さは欠片もないと思うのは僕の気のせいでしょう?

「しかもあたしの目の前で返してくれちゃって!」
「俺のせいか!? 俺のせいなのか!?」
僕たちの知っている話だと最後エクスカリバーはニムエに返されるんだから、そこは違うんだ…。
睨みつけるニムエに後ろに下がるダーヴェル。

「でもその12の至宝があるなら別に聖剣と聖鞘は関係なくない?」
ぴたっと、レンの指摘でニムエとダーヴェルの身体が止まる。
と、

「ふっふっふ、そうだったらどんなに良かった事か…」
…黒い、とてつもなく黒い笑いをニムエがあげているよ。
それじゃあ本当に魔女だよ。

「鞘さえあれば大釜以外の11の至宝を薪代わりにしてもいいんだけどね。あれそのものがすごいから」
鞘、確かそれを持っているとアーサーは不死になるんだっけ。

「聖剣は12の至宝と組み合わせる正規の方法なんだ。だから一度はあいつを騙して聖剣使えたんだけど…ね」
またじろ、とダーヴェルを睨みつける。
あれ? 今度はさっきより後ろに下がってない。何とかふんばってる。

「それ合わせて3回もチャンスがあったのに君って奴は…」
「ニムエ、その事は前だってはっきり言っただろ。俺は神々より国を選んだんだ」
「キリスト教徒どもに蹂躙された国がかい!? 冗談じゃないよ!」
かぶりをきるニムエ。
その主張はさっきよりもはるかに力強い。

「いいかい。あんなクソくらえな神が来た所で何も出来やしないよ。だから古き神々を呼び戻し、あいつを信じる奴らを一掃するんだ」
「神々は俺たちに何もしてくれやしない。神々がする事をただ俺たちが受けるだけだ。これはお館様以外にもニムエだって言ってただろ」
「おだまり! あんたの軽い頭で言うんじゃないよ! 古き神々ならあたしたちの国は元に戻る。キリスト教徒どもだってサクソン人どもだって
 みんな追い払ってくれるんだ!」
「それで俺たちも被害をこうむるんだろ? 冗談じゃないぞ」
「ああ戦士は気楽でいいよね! ただ剣を振るうのが全てなんだからさ!」
…言い争いを始める2人。
どうしようか迷い、レンに視線を向けるけれども、

「何で俺が?」
と言った困惑にあふれた表情を返してくれました。
アーチャーはどちらかと言うと「もう勝手にやってくれ」と言った感じだ。
…どれだけの事を彼は生前味わったんだ?

 なおも言い争いは続いている。

「いくら古い神々を呼び戻せると言ったって、その神々が国や人々を救うとは思えない。だから殿だって反対したんだろ」
「へえ、あのあいつがか…」

 その瞬間、場の空気が一変した。

 今までのを言うなら厳しく言っても激しい論争、穏やかに言うなら痴話げんかみたいなものだ。
が、今流れている空気は…、

間違いなく、戦闘前のそれだ。

「あのあいつがね…いかにもいいそうな言葉だよ」
「…ニムエ、それ以上は言うな」
「本当、いかにもあいつらしい言葉で涙が出てくるね」
「……!」

その空気を感じたのか、僕らは既に歩くのをやめていた。
ダーヴェルはニムエの方に顔を向けていて表情は全く読み取れない。
ただ1ついえるのは、

このままでは、起こってはいけない事が起こってしまう、と。

「聖杯探求に反対したあんただってアーサーの事は本当は分かってるんだろう?」
「…」
「メ……モードレッドの奴だってグェネヴィアだって、ランスロットだって、分かってたからああしたんだろ?」
「ニムエ…!」
ダーヴェルは鞘から剣を抜く。

これは、まずい。

「ダーヴェル、止め…」
てください。僕は彼の肩を掴んで真正面からそう言おうとしていって…、
彼の目を見てしりもちをついた。


 怖い…!


その眼は睨んだもの全てを殺すとばかりに殺気をおびていて、

その表情は憤慨そのものにいろどられ、

その手は最後の理性とばかりにわなわなと震えて剣を振りあげるのを押さえている。


「あ…ああ…」
もう僕は歯も手も頭も身体も全てを震わせ、立つどころか座り込んでいる事事態がかろうじてになっていた。

「モードレッドだって言ってたじゃないか。君だってアルハムと戦ってたからって聞いてないわけじゃあないだろ?」
「それ以上言ったらニムエ、君だろうとも俺は剣をふるうぞ」
そんなものを見せ付けられてもない全くひるまないニムエ。
彼女はダーヴェルを挑発しているつもりは全くないのだろう。

ただ自分の意見を述べているだけなんだから。

「レン…」
どうにかしてください、と言おうとして顔を彼の方に向ける。
そんな彼も僕と違って立ってはいたけれど全く動けないでいた。

「シロウ…」
アーチャー、同じ英霊ならこの状況をどうにか…
って、え?

「キャスター、それ以上は言うな」
「アーチャー? なんで君がアーサーに関して何かを言うのさ」
「うるさい。それ以上しゃべるな」
アーチャーが取り出したのはさっき出していた中華刀。

その表情は、ダーヴェルのに勝るとも劣らないすさまじい形相だ。

「はあ、君たちは現実を認識していないようだから言ってやるけどさ…」
だめだ、それ以上は言うな。

 アーサーに長く付き従ってきたダーヴェル、それになぜかアーサーの事に関心を示すアーチャー。
2人にとって、アーサーとはそれほどの存在なのだとしたら。

絶対に言わせてはいけない。



「あんたらがどう幻想を抱こうが、あいつは国のサ……!」


「それ以上は絶対に言うなああぁぁぁぁああっっ!!」



僕がそう叫んだその瞬間、右手の甲が熱くなり、光り輝く。

「嘘…!」
驚愕の声をもらすニムエ。
でももう遅い。

そう、僕は令呪一個を使って言うのを阻止したのだった。

「…」
「…」
「…」
「…」

 魔力の流れが止まり、辺りは静寂さを取り戻す。
そして、誰も動こうとしなかった。
誰も何も言おうとしなかった。

「あの…ディート?」
ニムエがおそるおそる口を開くけど、僕は彼女を正視せず、ただ地面の方を向いていた。

「ニムエ、頼むからそれ以上口にするのはやめてくれ。これは僕からのお願いだ」
「悪かったよ…君の事は何一つ考えちゃいなかった…」
かぶっている帽子で目元を隠し、ただそう言う。
ダーヴェルは無言で剣を鞘に戻す。

「ダーヴェルもいいよね?」
「……」
何も言わないが、彼はうなづいてくれた。

「ディート、立てるか?」
「え? あ、うん…」
レンが僕に手をさしのべてくるので、僕はそれに甘えて立ち上がった。
そのレンの表情は、とても悔しそうだった。

「? どうしたんだよ」
「…だめだな。俺って」
もらす、と言うより告白するような感じで、レンはぽつりと言い放つ。
それは、彼の心の底からのものなのかもしれない。

「あんな重大な場面に出くわしときながら、俺は何もできなかった。何もな…!」
ぎり、と奥歯をかみしめる音が僕にまで聞こえてくる。

でも、それはしょうがない事だと僕は思う。
何しろ目の前で起ころうとした事は、円卓の騎士と、最高の魔術師と、弓の英雄が、一触即発になったんだから。
僕だって令呪を使ったのは本能に近いもののせいだ。

「レン、それにいつまでも悲観してちゃだめ。誰だって同じようなものだよ。だから…」
「……」
レンは拳を硬く握り締め、歩き始めた。

「…俺は絶対にあいつらを超えて見せるぞ。絶対にな…」
ただその言葉を言いながら。

「すまなかった。ついカッとなってしまって…」
逆に申し訳なさそうな顔をしているのはアーチャーだった。
既に中華刀はしまっていて、手には召喚時に持っていたエプロンと鍋しかない。

「とても軽率な事をしたと思ってる。本当にすまなかった」
「そんな、謝らなくてもいいですよアーチャーさん」
アーチャーにとってアーサーがどれだけの存在なのか僕は知らないし、知るよしもない。
それに、聞く資格もないだろう。
そして…、

「もし僕がとめていなかったらどうしてました?」
「ためらわずキャスターに斬りかかってた」
彼は真剣な顔でそう断言した。
そう、やっぱり…。

「貴方にとってアーサー王がどれほどの存在なのかは分かりませんけど、それを変えるつもりはないのでしょう?」
「う、ま、まあ…そうだな」
「でしたらキャスターにはあんな事は絶対に言わせませんから、気にしないでください」
と僕は言うけれど、気にしないことなんて無理だろう。
僕だってお嬢様をけなされれば理性なんてどこかに吹っ飛んでしまうだろうし。

「…善処しとく」
アーチャーはそう言って歩き始めた。
さあ、僕も歩き出さないと…。

「って、あれ?」
腰に力が入らな…。

「ほら」
い。
力の抜けた僕の腰を、ダーヴェルがささてくれる。

「…ニムエの言うとおりだったのかもな」
「え?」
ぽつりと、ダーヴェルがもらすのを僕は聞き逃さなかった。

「止めた、と言う事はニムエが何を言おうとしていたのか悟ったんだろう?」
「…」
確かに僕は分かってしまった。
ニムエが何を言おうとしているのか。

「でもそれは俺たちが至らなかったせいなんだ。俺も、ランスロットも、お館様ですら」
「お館様?」
そういえばさっきからその言葉がでてくるけど…。

「マーリンの事。俺はあの人をそう呼んでる」
「あ、そうなのか」
ちょっと納得。

「俺たちが至っていればあの人はあそこまで背負う事はなかった。そして気づいていたはずなんだ」
それは、独白に近いものがあった。
イフは絶対にないけれど、それを考えてしまうほどに、それは彼にとっては重くのしかかっているのだろう。


「それでも俺は最後に見たんだ」

「え?」

「だから、ニムエは絶対に間違っている」


それ以上何も言わず、ダーヴェルは歩き出した。
僕はその背中を見ているともう何も言えなかった。


   /

「こ…これがレンの住む屋敷…?」
「そ、すごいだろ?」
僕は思わずため息が漏れる。

 目の前にあるのは、武家屋敷といったやつだ。
知識としては知っていたけど実物を見たのは初めてで、ただそれを眺める。
もはや深夜になりつつあったのに、その屋敷からは明かりがこうこうともれている。
そして、

「ものすごい楽しそうだね」
「あいつら…、少し加減ってもんを知らないのか…?」
その屋敷からはにぎやかな声が聞こえてくる。
僕はそれでとても楽しそうに聞こえたし、レンはそれに呆れて頭をかかえている。

「んー、やっぱ霊地じゃないか…」
ややため息をついてニムエはきょろきょろと辺りを見渡す。
いくらレンが魔術師だからって、居候の身なんだから霊地じゃないのはさほど不思議じゃないけど…、

「何してるの?」
思わず僕は聞いてみる。

「いや、レンはうまい事マスターで魔術師な事は隠してたからかもしれないけど、結界がないんだよね。あたしたちが居候するんだったらここが
 本拠地だって丸分かりでしょ? だから結界でも張ってどうにかしようかなーって」
あ、なるほどね。

 魔術師はその技術を盗まれる事、それから世俗に正体をさらさないために何らかの手段を講じる。
つまり、まず自らの技術のつまった工房に近寄らせないように意識をそらすようなもの、万一敵意を持って進入した時のトラップなどなど…。
全ては自分の神秘を守るために。

 それでレンのいるこの武家屋敷はというと…、

「見事なまでにないよねぇ…」
結界のけの字すら見えないまっさらなものだった。
魔術師としてこれはどうよと思うんだけど。

「俺から盗むようなものなんて何一つないぞ。それに居候の身でそんな事するわけないだろ」
たしかにそれはそうかもしれないけれど…。

「どんな結界が好み? 何なら抑止力が来るような超強力なヤツを…」
「「やめてって」」
ニムエの発言に僕とレンの言葉がかぶる。
攻めてこさせないためにするのが結界なのにそんな事やったら本末転倒じゃないか。
彼女は若干惜しげな顔をしてため息をつく。

「ま、そんなの霊脈がないここじゃ無理だけどね。なら3パターン考えられるんだけど…」
「3パターン?」
「1つは敵を知らせる警戒型のやつ。あくまで撃退はこっちでするしかないけど、破られる必要は無いね。
 もう1つは突破しようとするとペナルティがかかるやつ。物理的な壁じゃなくて相手に重圧がかかるようにしたり、ダメージを与えたりと
 様々。たいていの魔術師はこれをやるかな。ちなみにドルイドのは精神的なペナルティが圧倒的だね」
なるほど、確かにその通りだ。

「最後の1つは進入と同時に使い魔に迎撃させるやつ。サーヴァント相手にはせいぜいできて足止め程度だけど、こっちは遠距離の出来る
 キャスターとアーチャーだ。その間に倒す事だって出来る」
どれがいい? とニムエはこっちに対して笑顔を向けてくる。
子供のような無邪気なものではなく、小悪魔を連想させる黒いやつだ。
僕とレンは顔を見合わせる。

「ねえニムエ」
ふと疑問に思った事があったので僕はニムエに問いかける。
と、なにやら不機嫌そうにこちらの方を向いてきた。

「誰かが聞いてるかもしれないからキャスターでお願い」
あ、そうか。真名が一発でばれるから、ね。

「キャスター、やっぱドルイドの結界も霊脈とか関係あるの?」
「それは当然あるでしょう。聖地で行えば結界に一歩踏み込んだだけで廃人にするような強力なものができるけど…」
なんでもニムエたちの世界ではドルイドが張った結界はドルイドが解呪して突破するものらしい。
でないとどんな事が起こっても保証しない、と。

「じゃあもしかして無差別?」
「……にしないようにも出来るけど、効果が随分落ちちゃうね」
うーん、僕だったら2つ目を採用するんだけど、居候する身でそんな大それた事いえないし…。
ここはやっぱりこの屋敷に住む魔術師のレンに決めてもらうべきだろう。

「レン、君の意見は?」
「…そうだな…」
あごに手を当てて考えるレン。
軽い感じではなく、真剣に考えている顔つきだ。

「サーヴァントがここにいる事を気づかれないようにするもんは無理だろ?」
「そうだね。それは確実に無理だと断定しておくよ」
それはそうだろう。
何しろ僕らは始めから漁夫の利を狙う形じゃなくて「かかってこい」が作戦だし。
だからこそ街中でサーヴァントと堂々と行動しているんだし。

「…なら一般の人には分からないように、敵意を持つものには精神的なダメージを与えるたぐいにしてくれ。さすがに聖杯戦争になって
 結界なしだと不安だからな」
「ん、分かった。じゃあ今夜中にでもやっとくよ」
と言ってニムエは屋敷に向かって歩き出した。
え? 今やるんじゃないの?

「まさか今やると思ってるの? 冗談、ドルイドの結界なんてやってるの見られたら一発で怪しまれるって」
「あ」
それはまあそうか。
そんな神秘をやってるのを見られたらそれこそたまったもんじゃないし。

「それとレン、一応聞いておくけどさ」
「なんだ?」
と、キャスターは歩みを止めてレンの方を向く。


「君屋敷の一般人を巻き込む覚悟はある?」


その言葉に、空気が止まった。
でもこの事は避けて通る事はできないだろう。

「あたしはあると思ったからこうしてるんだけどさ。人質にされれば敵の手数が少なくなるし対処のしようがある。
 でもまきぞえってやつだと敵からかばう必要が出てきてこっちのリスクだけが高くなるんだけどさ」
なおも続けるキャスター。

レンはこれにどう答えるのだろうか?
彼は一般に危害を出すマスターたちを真っ先に倒すと言っていた。
この屋敷に僕らを泊めるどころか自身がここにいる事そのものが敵をここに呼び寄せる事にだって気づいているはずだ。
だったら、どうするのだろうか。

「言っとくけどいくら神秘が隠匿されるもので、大勢が見てるから攻めてこないだろうなんてバカな考えはよしてね。
 いざとなれば皆殺しにすればいいんだから…」
「そんな考え必要ないだろ」
が、レンの答えは僕の予想していたのとは全く違ったものだった。
僕はおろか、アーチャーもキャスターもそれには驚いている。
てっきり僕は何らかの対策を練っているとばっかり思ってたんだけど。

「それってどう言う事さ」
キャスターの目つきが変わる。
返答次第では行動を変える、だろうか。

「言葉の通り。道場とかあるし、この屋敷はすっごく人の出入りがいいんだ。さすがに俺自身の工房だけはちゃんと結界とかトラップとかあるけど、
 俺たちが不在の時にここに攻めてきたって利益がないからな」
それに、と付け加える。

「他の所に場所移しても同じぐらいの距離に一般人はいっぱいいるぞ。まさか離れた所に野宿とか新たに家建てろとか言うつもりか?」
「う…!」
確かに、そんな事したら一発でこっち側の人にはばれそう。

「俺にとっては街の人とこの屋敷の人は同じぐらい大切だ。なら俺がどこにいて敵が何をしようと取る行動は同じさ。誰一人殺させやしない、にはね」
「…」
敵に襲われる確率が少し屋敷に傾くか、街全体に平等に分けられるかの違いだけ、って事だろうか。
確かに言ってる事は理にかなってる。
かなってるけど…、

「レン、貴方はここの屋敷の人を特別だと思ってないのですか?」
それはあくまで人間、と言う個体の存在で考えればの話だ。
でも、人間にはだれだって優先順位がある。
なら…、

「思ってるさ。でもそれとこれとは関係ない。俺は俺のベストをつくし、被害を最小限に食い止めるだけだ。それに…」
レンは淡々と語る。
僕やキャスターに話す感じではなく、まるで独り言のように。

「万が一の時には多分覚悟はできてる」
そう断言して、彼は屋敷の方に歩みだした。

 被害は最小限に食い止めてみせる。
そして、万が一になったら…彼らを見捨てる。
彼は普通にしていると魔術師らしくない。すぐ感情的になるし、人と深く関わりたがっている。
それでも、いざと言う時はあそこまで魔術師になるのか…。

「んー、それは違うと思うんだけど」
「へ?」
いきなり言われたので僕は結構驚いてしまった。
言ったのはキャスターだ。かなりやれやれといった感じの顔をしている。

「多分って事はああは言ったけどあいつかなりの甘ちゃんじゃない? だったらそのいざになったら逆に何もできないんじゃん?」
「…!」

 それは、全くおろかな事。
誰だって目的のために生きているのであってその過程で死んでしまっては全く意味がない。
彼のこの戦争の目的は人を救う事ではないはず。

でも、その方が彼らしいと私は思ってしまう。

「ま、それにあたしがこの屋敷には結界張っとくから夜外を徘徊している時にわざわざリスク犯してまで本拠地攻めようとしないで、出たところ
 を攻撃してくるでしょう。だいぶ楽観的だけど今はそう結論付けましょう」
「そうだな」
キャスターの発言にアーチャーも同意して2人も屋敷へと向かう。

「……」
何とも言えない事を胸に秘めて、僕も3人を追う事にした。


 ダーヴェルは既に引っ込められ、僕ら4人は屋敷の中に入った。
都合の悪いときばっか呼び出されるダーヴェル、哀れ。
円卓の騎士がこき使われてるの見てると少し泣けてくる…。

「いらっしゃーい! ようこそ百目木家に!」
居間に入ったとたん、みんなの拍手がわきあがる。
それにはひどく驚いてしまった。

「え? え?」
「貴女が今日から居候する事になるディートちゃんでしょう? 憐から散々聞かされたよぅ」
一番前にいた女性が満面の笑みを浮かべながら僕の手を握り、上下に振る。

「え、ええ。そうです。未熟者ですがしばらくよろしくお願いいたします」
「くぅーっ! 美人の上に礼儀正しいと来る! なんだかとってもうれしいわー」
と言いながらその女性はレンたちと後ろで食事を進める大勢の中の数人を見る。

「なにせうちは野郎どもばっかだからさ。女の子が来てくれる分にはとっても嬉しいのよ」
「悪かったな、野郎ばっかで」
ぼそっと言うレン。
距離から言うと僕より女性の方が近いんだけど、僕には聞こえて女性には聞こえていないらしい。
いや、無視してるだけかな?

「そっちの女の子がディートちゃんの連れね? 百目木家にようこそ」
「短い間ですがお世話になります」
礼儀正しく、ニムエは女性に挨拶をした。
一斉に男性たちから上がる声。それは街の中の反応を大きくしたような感じだ。

「じゃあまずディートちゃんたちが…」
「ディート、と呼び捨てでかまいません。レンにもそう呼んでもらっているので」
「え? そうなの?」
ん? 女性は申し訳なさそうな感じにちらっとレンの方を見る。
彼は、なんかとても怒っていた。

「だから言っただろ。誰に対しても呼び捨てで呼ばせるって」
「ごめんねー、あたしが誤解してたみたいね」
と笑う女性。
明らかにごまかしといった感じだけど、それを指摘するものは誰もいない。
と、次には僕に対して真剣な顔つきを向けてくる。

「いやよ。だって呼びたいじゃない。ちゃん付けで」
「は…、はあ」
照れる事は照れるけど、彼女の方が年上ならそれでもいいかなと結論付ける事に。

「ディートちゃんたちが会ってない人と会ってる人がいるようだけれども、一応全員簡単な自己紹介をさせてもらうわね」
「分かりました」
そうしてくれると名前も覚えられるから助かります。

「まずあたしが百目木沙耶。この屋敷の娘で、道場の師範代をやってるわ。困った事があったら何でもいいなさいね」
そう言って女性、沙耶さんは自分の胸に手を当てて自己紹介をする。

 僕から見たその女性は、お嬢様とは違った力強さとやさしさを持っているように見えた。
彼女と暮らせばとても幸せなんだろうなと思う。

「それから一番向こうがこの屋敷の主であたしの祖父に当たる百目木一成。道場の師範でもあるから」
「ドウメキカズナリ、ですか」
「ちょっと発音が違うかなー?」
む、確かにそうかもしれない。日本の言葉はわりと高低差が祖国語よりないからなぁ。

 その男性は、完全な和服だった。
アインツベルンのお館様のように、風格があり立派な人に思える。
身長は座高から判断しても高い。170後半はまずあると思う。
年は60は軽く越えていると思う。もしかしたら80行っているかもしれない。ただ、そんな印象は全くいだかせない。
彼はこちらの方に会釈をする。

「ようこそ百目木の屋敷へ。当主として歓迎する」
「あ、こちらこそ居候を認めてくださってどうもありがとうございました」
こちらも思いを込めて深く頭を下げ、ニムエも軽くおじぎをする。

「どんな事情があるにせよ、出来うる限りの協力はしよう」
「ご親切にどうもありがとうございます」
と言っても、多分この方の協力を僕らは受ける事はないのではないかと思う。

「さて、それじゃあ次は…」


自己紹介は終わり、この場にいる数十人の大宴会(と言うべきと思う)の紹介は終わった。

「それじゃあディートちゃんもあなたもどうぞパーっとやってちょうだい。せっかく士郎と葵ちゃんが作ってくれたんだからさ」
「あ、まだ私たちの自己紹介がすんでませんよ」
「え?」
疑問を浮かべてすぐに沙耶さんは手をついた。

「ああ、そうねー。まだ名前を聞いても氏名は聞いてないしね。うっかりしてたわ。ごめんねー」
「いえ。気にする事はないですよ」
僕はそう言って、侍女らしく控えめな挨拶をする事に。

「私の名はディートリッヒと申し…」
「ちょっとディート」
どん、と後ろからニムエがひじでつっついてきた。
…やっぱアレを言わないとだめか。

「私の名はディートリッヒ・フォン・アインツベルンと申します。どうぞよろしくお願いします」
その言葉に、皆が大歓声で答える。

「よく戻ってきてくれたよディート!」
「これからもよろしく頼むよ!」
「外人の娘さんもいいなー!」
主にそう言うのはレンがつれてくれたあの茶店で見た人たちだけど。
そんな中、

「アインツベルン…?」

若干驚いた顔をする葵と、

「アインツベルン…!」

やはり驚いた顔をしている一成さんがとても気になった。

「葵、どうかしましたか?」
「え、いえ。やっぱりディートさんはドイツ出身なんですね」
まあ、確かに『フォン』が付くのはそっちの方の名前だから、そう思うのは当然か。

「いや…」
そう言えばキャスターがさっき「彼女は魔術師だ」と言っていたし、もしかしたらアインツベルンを知っているかもしれない。
でもやっぱり彼女からは魔力を感じ取る事ができない。
一方、

「そうか、もうそんな時か…」
何やらぶつぶつと言う一成さんだけど、僕にはよく聞こえないので何も言えない。
それは僕の名前を聞いてそれに衝撃を受けているようにしか見えない。

「あたしはヴィヴィアンね。これからよろしく」
にこっと笑って挨拶をする。
今度は誰もが彼女を暖かく迎える。

「ディート」
と、レンが僕の肩に手を置いてくる。

「今日は葵と士郎が一生懸命作ってくれたんだ。向こうがどんな料理を出してくるかはしらないけど、負けないぐらいおいしいぞ」
「あ、向こうでは僕が食事当番なんだけどなー」
「え…?」
固まるレン、くっくと笑うニムエ。

「墓穴を掘ってどうするんだよ憐。もうちょっと考えた方がいいんじゃないか?」
「いいの! さ、食おう食おう。何しろ俺一口も食ってないし!」
ごまかすようにして彼は席に座る。
と、

「おい憐…ディートちゃんだけじゃなくてあんな可愛らしい少女と知り合うだなんてよ、どういう了見だ?」
「葵ちゃんだけじゃあ不足だと言いたいのか?」
「欲張りにも程があるんじゃないか? ああ?」
なんだかとてもこわおもての人にからまれてきてます。
みんな顔が真っ赤で酔っているようだ。

「そ…それを言わなきゃだめか?」
「もしかしてそのまま踏み倒しですかお兄さん?」
ある人はレンの肩に手をかけて、にやーっと笑う。
レンの顔が引きつっている事から多分ものすごく力を入れてるんじゃないかなー。

「葵! 何か言ってやってくれよ。俺は親切心から言ったんだって」
わ、葵に助けを求めたら自分から墓穴掘ってその中に入るみたいなものじゃないか?
その葵は声をかけられ、笑顔をむける。

「いえ、私もぜひその辺の事は聞きたいです憐さん」
僕にはその笑顔がとても黒く見えるんだけど、気のせいだよね?
案の定と言うか、更にレンの顔が引きつる。

「ディート! 君からも…!」
「ごめん、僕では説得できそうにないよ」
僕はちゃんと茶店で説明はしました。
ですから後の説得はおまかせしますので。

「…案外ディートがレンとくっついたらレンの方が尻にしかれるかもねー」
「ちょっとヴィヴィアン、それはどうかと思うんだけど…」
その光景を見ながら笑いを絶やさないキャスターはそんな事を言ってくれた。
冗談だよ、と言いながら手をぱたぱたふる。

「さ、あたしたちも食べようか。せっかくみんなが開いてくれたんだし」
「…そうだね」
僕らは一成さんの近くしか開いてなかったのでそこに座る。
みんなが座った所で沙耶さんが咳払いをして立ち上がった。

「それじゃあディートちゃんとヴィヴィアンちゃんの歓迎会を改めて宣言しまーす! みんなもりあがってねー!」
そしてそういうとまたみんなさわぎだした。

「ディートちゃん、遠慮せず食べてねー」
「分かりました」
僕は沙耶さんの言葉に笑顔で答える。
そして、キャスターの方に顔を向けた。

「それじゃあ、食べようか」
「そうね」


 これから何があるかは分からないけど、今だけはこの時間を楽しむとしよう。
色々と言いたい事はあるけれど、ただ1つどうしてもいいたいのは、

僕には、みんなの温かさがとても嬉しかった。




to the next stages…


第10話に続く

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 1ヶ月近くも前の話から経ってますね…はい。
本来次の話とこの話は一緒で、2日目を終わらせるつもりでしたが会話シーンが長くなりましたね…。
ちなみにこの話のニムエはアーサーの事をあまりこころよく思っていません。それを表現したくてああ書きましたけど、セイバーファンの人を 不快にさせてしまったかもしれません。その点は謝罪いたします。
次の話で2日目を終わらせる予定です。…長かった。

 所でこの1ヶ月で色々な事しました。例えばFate/stay nightをもう一回全部やり直したとかローズマリ・サトクリフ版アーサー王を読み終えた とか、色々と。
なのでそれが文章に生かせるようにこれからもがんばりたいと思います。
それでは。
  2006年8月19日


2style.net