/前29日(前23日)

 俺、すなわち真木憐には決意がある。
そう言ってしまえば聞こえがいいけれど、結局はただ俺が子供っぽいだけだ。
なぜならば、大人になってしまえば捨ててしまうような些細な事への見切りができないのだから。

そう、俺は真実が知りたかった。

ただそれだけだった。

 だからなのか、俺はつい先日出会った人がものすごく目を引いたことを憶えている。
その女性は明らかにこの国の人ではなく、外国、しかも欧州から来た人だと分かる。
その白い髪は、老人とかになって起きる脱色なんかではなく、雪を連想させるほど綺麗だった。それが惜しげもなく頭から流れている。
ガーネットの瞳は全てを吸い込むかのように輝き、その顔は幼さこそわずかに残るものの、整った美人だった。
服装は……多分侍女のものか? 彼女が雑用をやる姿は連想しがたいけれど、実際そうなんだろう。

だから俺は彼女を見過ごす事などできるはずがなかった。
フランス語でもよかったけれど、一番使っていた英語で。

それがディートリッヒ、彼女との出会いだ。


 そして今日、ようやく彼女を再び見つけた。
どうやらディートの事で話が盛り上がっていたようだったので俺も参加した。
大勢でにぎわうのは好きだったし楽しかったから、俺は別に深く考えもせずに時を過ごした。

だけれども……、

「ディート!」
俺の呼びかけにも応じず、ディート、あのクリーム色の髪をした女性は去っていった。

まるで何かを恐れるかのように。何かに絶望するように。
何かって何だ? さっぱり分からない。

「一体どうしたって言うんだ…?」
俺は1人ごとをつぶやいてその場に立ち尽くす事しか出来なかった。
ただただ呆然と彼女が去った方向を眺めるだけだ。

考えれば考えるほど頭がこんがらがってくる。
一体何が起きたというんだ…?
それとも、俺が何かをしたのだろうか?

と、店から葵が外に出てくる。
葵もまたディートの変化にあわてているようだ。

「どうしたんでしょうか、ディートさん……」
「こっちの方が聞きたいぐらいだよ……」
と、俺は何のひねりもない言葉をつぶやくので精一杯だった。

「ディートさん、何かにおびえているようでしたけれども。」
「怯える…というよりあれは驚愕と後悔って感じだったけどな…。」
あの時のディートの顔、あれは明らかに「なんて事をしてしまったんだ。」といった表情だ。した行為に何も思い当たる事がないんだから、考えた事かな?

でも……一体何を考えたらあそこまでの表情を浮かべられるんだ。
ただただ絶望と、憤りに満ちたあの表情を、まだ20にも満たない彼女が。
表とは違った彼女が存在するって言うのか?

「分からない……」
何にしても、今の俺には何も出来そうにない。




fate/the midnight saga(仮)

第3話


   /

 結局あの後、俺はすぐに茶店から出てしまった。
理由は簡単、ディートの変化にかなりのショックを受けてしまったからだ。
あのまま店にいてみんなともりあがれるほど俺は人間が出来ていない。残念なことだが。
葵にはかなり迷惑をかけてしまったけれども、こんな理由で断ってしまった。

時も経ち、俺は住んでいる家に帰ろうと夕方の町を寂しく歩いていた。
俺はそれをただ呆然と眺めていると――、

「憐さん」
「えっ!?」
いきなり後ろから声をかけられてひどくびっくりする。ふりかえるとそこにいたのは葵だった。

「あ…葵…?」
「早めにきりあげてきちゃいました。一緒に行きますよ。」
少し恥ずかしそうにそう述べる彼女。一体いつから彼女は僕の後ろにいたのだろうか?
よーく彼女を観察してみる。彼女の呼吸はいつもより少し荒く、肩が若干上下に動いている。
これはやっぱり…。

「もしかして走ってきたとか?」
「え…っと…。はい。」
うわあ、それは申し訳ない。僕のためにそんな事をしてもらう事ないのに。
そんな思いをよそに彼女は笑みを浮かべる。

「よく分かりましたね。あまり速くはしなかったから分からないと思ってたのに。」
「いや、やっぱ少しだけど変化は出てるかな。息のペースが少し早いとか。」
ぽかーん、今の葵の表情を一言で言うならそれだろうか。
…何で?

「もしかして、そんなに意外だったか? 俺が言い当てたの」
「え? あ、いえ、そんな事ないですよ! ただ憐さんが私の事をそんなに見ていてくれているなんて。」
それって俺が普段全く他人の事を気にしない目がフシアナな奴だと思ってたとか?だとするとかなりショックだし…。

「そりゃあ毎日見てるんだ。少しの変化でも見逃さないことは重要だと思うんだよね。」
「そうですか…。とても嬉しいです。やっぱり。」
「うれしい?」
「憐さんがそんなに私の事を見てくれているなんて…。」
え?
まるでキリスト教で言う聖母のような笑みを浮かべる葵にどきっとくる。

えっと…この場合どうすればいいんだ俺。
ええいしっかりしろ俺。いつものように声をかければいいんだ。「それはもちろん」とか「かけがえのない人だからね」とか。

「あー…うー…。」
ええい、だというのに何も言えないし。俺ってこういうのつくづくダメだな。うん。

「えっと、今日の夕食は誰が当番でしたっけ?」
「あ、今日は葵だったはずだけど、手伝うよ。」
あちゃー、話題の転換をされてしまったか。やっぱ俺ってダメだな…。

そんな事を思いながらも次には今日の夕食について考えることに。
色々と捨てがたいものもあるんだけど、ここは葵に任せておくか。いつも彼女が作ってくれる時はそうするように。

「憐さん。」
「ん?どうしたんだ?」
神妙な顔をする葵、彼女の顔がちょうど夕日で輝いている。
それが少し手を上げれば届くような距離をとてつもなく遠くにいると錯覚させる。
が、一瞬後には照れ笑いを浮かべてくる。

「いえ、やっぱなんでもないです。」
「む、それじゃあすごく気になるんだがな。」
「本当になんでもないんですよ。心配させてすみません。」
「…そうか。何かあったら遠慮せずに言ってくれよ。こんな俺でもほんの少しは役にたつと思うからな。」
まあ、これ以上詮索するのは何だし、結局その一言で会話は終わってしまった。



 で、俺と葵は俺の住んでいる家にやってくる。
江戸時代からあるわりと大き目の屋敷、ここに俺は客人として世話になっている。
もちろん宿賃は払ってますから。はい。

「姐さん、今帰ったよ。」
「あ、憐、それに葵ちゃん、お帰りー。」
足音をさせて現れたのは、この屋敷の女主人である百目木沙耶だ。姐さんは竹刀を持った上で胴衣を着ている。
あー、これは誰かまた犠牲者が出たかな?

「姐さん、間違いなく門下生がまた減るぞ。」
「このぐらいで何だか。女に負けることがそんなにくやしいのかなー?」
いや、十分男にとっては屈辱だろ、とは思ったけれども口に出さずにおいた。
ちなみに俺はその意見に懐疑的。だってオンナはコワイ。

「憐さん、今何か思いましたか?」
「え…?」
なーんか葵がとてつもなくさわやかな、でも心の中では180度逆の事を思っているであろう笑顔をこちらに向けている。

「いや、何でもアリマセンヨー。」
「声が裏返ってますけど。」
…前言撤回、オンナはアクマである。特にカンってやつは男をはるかに凌駕する。あれ?意味かぶってない?
で、俺のそんな思いを完全に無視して姐さんはおなかを抑えて腹の虫をならす。

「じゃあ早くご飯にしよう。今日はおなかがぺこぺこだよー。」
「まだ日も暮れてないぞ。って事はまだ練習時間だろ。さぼってないで早く行ったら?」
「むー、憐のけちー。」
顔を膨らませながら彼女は来た廊下を引き返していく。
哀愁漂うのはきっと気のせいだ。うん、気のせいだ。

「哀れ門下生。こうして彼らはまたぼこぼこにされるのでした。」
「かわいそうですね……」
神妙な顔ではなく、苦笑いを浮かべている点で既にそうは思ってないように見えるのですけど、葵さん。

「さて、姐さんがまた何か言う前に夕飯の支度をすませようか。」
「はい、そうですね。」
くすり、と笑った葵と供に俺らは台所に向かう事にする。



 道場の方向からどすーんやらばーんやらとんでもない音が聞こえてくるけど、やってるの柔術じゃなくて剣術だよな?
おおむね夕飯のしたくは順調に進み、門下生が帰宅した後、ようやく飯になる。

「そう言えば昨日芸術家と一緒に来たっていった外国人の女の子の話をしてたよね。」
そして夕食の時間。他の食卓とは違って俺らはちゃぶ台を採用している。
大きな屋敷と言っても使用人はいないも同然だし(って言うか俺が雑用やらされるんだけど)、ここにいるのは姐さんと俺と葵だけだ。

 ちなみに道場では姐さんは師範代、はっきり言って師範ともう少しで並ぶぐらい強い。
姐さんが男だったら間違いなく師範だろう。と言うか弓も柔術も姐さんはすごいし。
屋敷に居るのは俺らだけではないのだが、姐さんと食を共にするには彼女に気に入られるしかないっぽい。
俺は彼女に生活面で気に入られたのだが、武芸がどうしても勝てない。弓なんかこの前コテンパンにされたばかりだ。
葵はその料理が抜群にうまい。はっきり言って和食では確実に彼女の方が上だ。いつか抜いてやる。

今日は師範や他の師範代は別の部屋で食をしている。
……どうやら姐さんに圧倒的大差で打ちのめされた師範代の反省会みたいなものらしい。
想像したくないな。

 ちゃぶ台は食事中に会話をするのに最適で、主に街で起こった事が話題にでる。
なのでおとといからはそのディートと芸術家の話でもちきりだ。

だが姐さん、頼むから口の周りについたごはんつぶは取ってくれ。

「ああ、してたな。」
「その女の子ってあのたくましい男性とかわいい女の子と何か関係あるの?」
「ああ、なるほど。」
こんな所に異国人が数人来るなんておかしい、そう姐さんは言いたいのか。
まあ、観光するにも向かないところだからな、ここは。そういった意味では別の人が同時に現れるはずもないだろう。
さっきディートが話した事をありのまま話すことに。

「へえー、そうなんだ。やっぱおかしいと思ったのよね。こんな田舎町に外国人が来るなんてさ。」
「それは言いすぎだろ。」
「そうかしら? まあ、とにかくあたし思うんだけどさ。あの男性、絶対凄腕よ。」
俺はその男にあった事がないので残念ながら否定も肯定もできない。
でも茶店にいた、その男を見た全員が口々にそう言ってたな。
でもあくまで普通の侍と比べてかと思ったけど、姐さんが言うのだから本当に凄腕なのだろう。まちがいない。

「へー、そうなんですか。」
葵も同じく出会った事はないはずだけど、あいづちだけは述べておくことにしたらしい。

「ぜひ今度うちの道場に来てもらおうかしら。」
「姐さんに関わったらその男、すぐに祖国に帰っちまうからやめとけって。」
「何よその言い方ー! あたしが鬼みたいじゃないー!」
うがー、とちゃぶ台をひっくり返す勢いでそう絶叫する。でも多分俺の予想に間違いはない。
いや、むしろこの屋敷で自覚がない貴女以外は全員そう思ってますよ、姐さん。

ようやく姐さんは納まったところで、葵が首をかしげる。

「それにしても何でこの町なんでしょうね。そこまで彼らにとって面白いものがあるとは思えないんですけど。」
「うーん、確かに名所とかなら京都行けって思うぐらいだしな…。」
もちろん住んでる俺らにとってはとてもいい場所なのだが、外国人にとって面白い場所があるとは思えない。
明治維新をしてからまだ数年。横浜みたいにとっとと西洋化が進んだ所なんて日本中探したってざらにあるはずもなく、この町は江戸時代のままだ。
そんな町たくさんあるのだから、こんな町来たってせいぜい寺で説教聞くぐらいしかできないだろう。

…あくまで普通の外国人だったら…の話だが。

「で、彼女達は一体何者なのかしらね。もしかして向こうの芸術家で、想像力をかきたてられるからこっちに来たのかしら」
「世界……そんなのを作ってるみたいにですかね?」
「あはは、葵ちゃんうまーい。」
頼むから姐さん、箸を持ちながら人をさすのは止めてくれ。
それに世界を創るってどんな芸術家だよ葵。見てみたいですよそんな芸術家。

「憐はどう思う?」
「運命……とか?」
「あー、それもいいかもねー。」
俺の『冗談』でもりあがる姐さん。葵も笑みを浮かべて笑いをこらえている。

…でも俺の『本音』については誰も何も言わなかった。



   /

「それでは憐さん、また明日会いましょうね。」
「もちろん。すぐにそっちに行くから。」
葵は一礼して百目木の家を後にした。
で、彼女が見えなくなったところで白いオニが手を肩に置く。

「もちろん明日の庭掃除と手入れ、忘れてないよねー?」
げ、覚えてたのか。
すっかり忘れてたと思った。もちろん姐さんの方が。

「え? やっぱ忘れてらっしゃらないんですか?」
「もちろん。だってとーっても重要な事だと思わない?」
重要な事ねー。一応俺は庭を覗いてみる。
…悲惨、それが俺の第一印象。これは多分神が「光あれー」とか言っても変えられないだろうと断定しておく。

「庭師ぐらい呼んどけ。俺に全てを押し付けるな。ただでさえ明日は屋敷の掃除で忙しいって言うのに。」
「それが居候の分際でいう台詞ー?」
「イタイタイタイタイタ! 関節は勘弁してくれーっ!」
腕の関節が逆方向にねじれる痛みに耐えかねて絶叫する俺。すっごくみっともないことは認める。

「とにかくお願いね。」
「えへ、と笑ったって俺は騙されないからな。」
といった所で結局やる運命には変わりないんだけどね…。
はあ。


 そんな事もあったが、俺はとにかく準備を行なう事にした。
月のかげんで推測する限り、西洋風に言うならあと1時間と言った所か。

「一応時計で確認、と」
袴に通している懐中時計で確認。

……うん、やっぱり一時間ぐらいだ。
それまでには終わらせておかなければ。
と言ってもある程度は葵のところに行く前に済ませてあるんだけど、一応念のために。

俺が今いるのは土蔵だ。本来だったら俺の部屋は別に用意されているんだけど、やりたい事があると少し前からここを借りておいた。
そしてとっとと俺は準備を済ませる。後は時間になったら行なえばいい。

「ふう……」
気持ちを整理する。

はっきり言ってしまえば、これを行なったらもう後戻りはできない。葵や姐さんなど、他の人達に迷惑をかける事は間違いない。
だからと言って引き返す気は全くない。
なぜなら後ろを顧みない者がいるからだ。俺はそれが許せない。


……だからこそ俺は聖杯戦争に参加すると決めたのだ。


 ディートはおそらくアインツベルンのマスターに従ってきた人だろう。そして姐さんの言っていた屈強な男がサーヴァントに違いない。
だとするとマキリと遠坂も既にサーヴァントを召喚していると見て間違いない。
なら残った枠は4、一体何のクラスが残っているんだろうか。

個人的に欲しいのはセイバーかキャスター。セイバーだったら俺自身の腕を確実に上げてくれるし、元より最強のサーヴァントだ。
俺ははっきり言ってしまえば魔術師というよりは剣士と言った方が的確だ。てゆうかここ最近は魔術もやってはいるけど剣の方が多いかなーと。
キャスターならそんな未熟と言う言葉すら恥ずかしい俺の腕をあげてくれるだろうし、俺が前衛、キャスター後衛の形ができる。

個人的に欲しくないのはもちろんバーサーカー。あんなのあったってこっちに何の利益もないし。
そりゃあサーヴァントとしては強いけど、こっちの得るものが何もないんだよなー…。という理由で却下。
あとライダーも微妙。いいイメージが中々わいてこない。

「後はランサーとアーチャー、それにアサシンか…。ランサーもまあいいかもしれないけどセイバーよりはな…。
 それにアーチャーとアサシンだと敵マスターの暗殺が主になりそうな気がするんだがな…。」
まあ、俺の一ヶ月単位での魔力のピークは実は十数日後にまた来るっけれど、選択肢は多い方がいい。
何しろいつ聖杯戦争が始まるかわかったものではない。俺は余りのクラスで落ち着く気などない。
選択肢が多い方がいい、つまりそれの意味するものは…。

「触媒なしに召喚成功するかね…?」
これだ。まずこれがネックだ。
自分の首ががくっとうなだれるのが手に取るように分かるし。
これは考えれば考えるだけへこんでくる。

召喚は触媒によってその英霊を引き当てる事が重要だと言われている。
それはそうだろう。魔術師なら参加するなら勝ちたいものだ。
いや、それ以前に召喚されるサーヴァント次第ではマスターまで命の危険にさらされる可能性だって十分にある。
ならば、格の低い英霊を呼ぶよりも知名度が高い英霊を呼ぶのが一番だろう。

例えばアーサー王のように、例えばクー・フーリンのように、例えばヘラクレスのように。

だから宝具とかその人物にゆかりのある一品を用意するものだけれども……あいにく俺にはそれがない。
てゆうか限りなく一般人に近い俺みたいな魔術師が英霊の触媒に出来るようなもんを簡単に用意できると思ってんのか?
その点どうなのよ、このシステム作った方。

「……まあ、愚痴を言っても始まらない。そろそろ時間っぽいから始めるか」
時計で最後まできちんと確認。やはり時刻はもう少しでピークだ。
俺は自分の書いた召喚の陣の前に立ち、とっとと始めてしまう事に。

この召喚の陣、なけなしの宝石を溶かして創ったものだ。
普通は生贄用の鶏とか別のものを使うかもしれないけれど、俺はこれにこだわりたかった。
何しろ俺の専門は宝石魔術。ならばそれを使わない手段など俺には存在しない。
なけなし、つまりこれは俺が数年もかけて貯めた宝石だ。

じゃあはじめよう。


Das Material is aus Silber und Eisen.素に銀と鉄
  Der Grundstein ist aus Stein und der Grosherzog des Vertrag.礎に石と契約の大公

俺の詠唱は本来なら英語だ。なぜなら俺の先生は英国の人だから。
だけど、今回はドイツ語を用いる。
それは……。

Der Ahn ist meiner groser祖には我が大師 Meister Schweinorg.シュバインオーグ
  Schutz gegen einen heftiger Wind.降り立つ風には壁を

溶解させた宝石をたらしながら、更に魔方陣に手を加えていく。
細心の注意を払い、そして詠唱による暗示もやめないで。

Schlies alles Tor,四方の門は閉じ Geh aus der Krone.王冠より出て Zirkulier die Gabelung nach dem Konig.王国にいたる三叉路は循環せよ

集中だ。とにかく集中しろ。

Full,満たせ Full,満たせ Full,満たせ Full,満たせ Full.満たせ
 Es wird funfmal wirderholt.繰り返すつどに五度 Nur ist es die volle Zeit gabrochen.ただ満たされる剣を破却する

本を読みながらでは俺の場合、手元を狂わしてしまうから詠唱を全暗記しておいた。
莫迦な話だが、暗記はまあ普通といったぐらいだ。


「――Anfangセット

さあ、

「――Satz.告げる

ここからが本番だ。


Du uberlast alles mir,汝の身は我が下に mein Schicksal uberlast alles deinem Schwert.我が命運は汝の剣に
  Das basiert auf dem Gral,聖杯の寄るべに従い antwort wenn du diesem Wille und diesem Vernunftground folgt.この意、この理に従うならば答えよ


魔術行使を何度も行い、使い慣れた魔術回路とは言え、最大限に駆使すれば悲鳴をあげる。
それは一切無視して続行する。

こんな事で根をあげていては、この先をおくったってすぐに死んでしまうかもしれない。


Lieg des Gelubde hier.誓いを此処に
  Ich bin die Gute der ganze Welt.我は常世全ての善と成る者 Ich bin das Bose der ganze Welt.我は常世総ての悪を敷く者
  Du bist der Himmel mit drei Wortseelen.汝三大主言霊を纏う七天


肉体も回路も何もかもが悲鳴をあげている。
ぐ、俺ごときでやろうとすりゃあそうなるだろうな……!
だが、あと一歩……!



Komn, aus dem Kreis der Unterdrunkung抑止の輪より来たれ der Schutzgeist der Balkenwaage天秤の守り手よ ―――!!」



魔方陣を中心として荒れる風、閃光が走る。
しかし、魔方陣の紋様は凄然と輝きを放ち続ける。

よぉしっ! 手ごたえからいって間違いなくいいカードを引き当てたはず!
以前そんな事を思っていたらジョーカーだったって事がなかったわけでもないけど、この際棚上げ!
魔力は陣に収束しているし、これならサーヴァントがでてきてくるはず……!

って…。

「あれ?」
おかしい。変化がおきない。

少しの間待ってみる。
だが辺りになんの変化も見られない。いつもの夜と全く変わりがない。
もうちょっと待ってみる。やっぱり変化なし。

「ってちょっと待てよ……」
まさか……これだけやっておきながら召喚失敗……!?
術は完璧に行なったから最悪イレギュラーなサーヴァントぐらいは呼び出せるはずなのに……!

「そんな! いくらなんでも術は完璧だったはずだ!」
まずい、まずいぞ。
令呪のきざしは現れていたし、召喚の儀式は完璧。
やはり触媒を使わなかったのはまずかったか……!?


「え……っ!?」

 と、いきなりこの蔵に隕石っぽいのが落ちてきた。それはもう盛大に。
すさまじい音だったんで耳がまだキンキンいっているし。
辺りは土煙で見えない上に、下は天井や床、それに蔵にしまってあった備品の残骸などで散乱している。

「一体何が……!?」
どんな事が起きても驚かないだけの覚悟はしていたが、いきなりこれとは予想外だった。

次第に煙も晴れていき……、

「あいたたたた……」
落ちてきたものはそう言いながら上半身を起こす。

それはまるで人間のよう、いや、その人物は人間であって人間でない存在だ。


   /

 よーし、気持ちを整理させてもう一度見てみよう。
今目の前にいるのは俺よりも明らかに年上、年齢で言えば20代前半だろう。
赤い外套を纏ったオレンジ色っぽい髪をした青年だ。肌は俺たちと同じアジア系。顔の感じから言っても東洋系だろうか?
その彼は服についたほこりを叩き落として、俺の前に立つ。

「あー、えー。やっぱあんたが俺のサーヴァントでいいのか?」
恐る恐るだけど、俺はそうきりだす。
いつまでも黙っているのは性に合わないし、会話がなければ全てが始まらない。

「え? まあそうなるかな。クラスはアーチャーだ」
「ア、アーチャーか……」
うーん、ちょっとがっかり。さっきも思ったけどセイバーかキャスターが良かったんだが…。
まあ、この際ちゃんと召喚できてバーサーカーでなかっただけ良しとするか。
触媒なしで英霊を召喚できただけでも十分だ。
俺って楽観的だな。

俺はそう思いながら、質問を続ける事にする。

「んじゃあアーチャー、あんたの真名は?」
これは本当に重要な事だ。と言うより真名を知らないで聖杯戦争を生き残れない。

なぜなら、聖杯戦争は英霊と魔術師の強さは元より、その戦略によっても大きく勝敗を左右される。
例えば英霊の真名。英霊同士が戦うのならば、真の名は隠すべきものだ。
例えばクー・フーリン。彼はウェルグスのカラドボルグの前に一度は屈しないといけない。
例えばジークフリート。彼はニーベルンゲンの指輪の呪いで殺された。
つまり、いくら英雄といえども弱点をつかれてしまう可能性があるのだ。

その逆もしかり。
真名を知っていれば戦略がたてやすくなり、敵に対して有利に事を運べるようになる。
まだ聖杯戦争開始までは期間がありそうだし、先手を打つことが容易になれる。

が、アーチャーは腕を組んで若干考えてしまう。

「……一応俺も魔術師の端くれだし、暗示にかかって自白する事はありえないぞ」
「あ、いや、そうじゃなくてな。俺は多分マスターより未来の英霊だぞ」
み……未来の英霊?

そうか。輪廻の輪から抜けて抑止の輪に加わった英霊たちに過去も未来も関係ないのだった。
過去の遺物がない分触媒は当然期待できない。未来予測でもしない限り。
でも触媒がないわけじゃない。
例えばいずれこの地出身の英雄がでるとか、術者が持っている物がいずれ英雄の手に渡るとか。

まあ、今回はそんな未来に起こる過去話はいいだろう。
聞いたところで戦略のたしになりそうにはない。
未来予測は俺できないし。

「未来の英霊かー……。交通手段も発達してきてるし、通信手段も増えてきてるからそんな英霊になる神秘的な奴は少なくなるとばかり思ってたけどな」
「それは俺も同意する」
でも現にアーチャーはこうしてサーヴァントとしてここにいる。と言うことはどんな事をしたのだろうか?
むしろ逆に情報が伝わりやすいから英雄になったとも考えられるしな。

「で、それでもいいなら言うけど、いいか?」
「ああ、頼む」
未来の英霊だと知識は何の役にもたたないけど、聞かないよりはアーチャーとのつながりを覚えたいからそちらの方がいいだろうな。

「『衛宮士郎』、それが俺の名前だ。今が1800年代後半なら、多分百数十年後ぐらいに俺はいる事になってる」
百数十年後、ならちょうど2000年ぐらいか。
……今後俺が長生きしてもまず無理だな。子孫に期待しよう。

「じゃあアーチャーじゃなくて、士郎、でいいか? 聖杯戦争始まるまではアーチャーの事をサーヴァントだと思わせたくないからな」
「俺もその方がいいな。アーチャーって呼ばれるのはなんか好きになれないから」
好きになれない? 『アーチャー』が? 

……まあ、その辺はとりあえず今は保留だ。
過去の英霊だったら適当に偽名でっちあげようかと思っていたけど、そんな必要なかったな。

「分かった。アーチャーって言うぐらいだから、弓に長けてるのか、それとも銃なんかを使った狙撃手だったとか?」
「あ、うーん…。どっちかと言うと接近戦の方が得意かな?弓も出来なくはないけど。」
「アーチャーなのに接近戦が得意? 随分とかわってるな。」
まあ、両方に長けた存在がいてもおかしくはないけど、それにしても今からだと弓よりまず鉄砲の時代だろ。
なのに弓が得意って言うのも変だけど。

「……」
まずい。めまいが一瞬した。
大魔術をして魔力を根こそぎ持っていかれた、そんな感じだ。
仕方がない。戦術面は重要だけどその辺の事は明日話し合うことにしよう。
召喚で今日は疲れた…。

「今日のところはこれで終わりにしよう。作戦面は後回しだ。明日から大変だぞー。」
「あ、その前に訊いておきたい事がある。」
「訊いておきたい事?」
はて、訊きたい事か。
俺の魔術師としての実力か? それとも…。

彼はサーヴァントだ。サーヴァントがマスターに聞いておきたいこと、それは…。

「あ、聖杯か。」
思わず指を鳴らしながらつぶやく。

「そうそう、士郎は聖杯に何を求めるんだ?」
「え? あ、聖杯か。」
いきなり真剣な顔つきになる士郎。はっきり言ってそれは優れた魔術師と対面した時のような印象をいだかせる。
さっきまでは明らかに普通のいい人と話している印象だったのに。
彼はしばらくの沈黙の後…、

「ない。」
といった。
サーヴァントが聖杯を求めないのも変な話だけれども、彼の話し方に嘘偽りなど何一つない。
よって本当の事だろう。

「ない、か。それは意外だな。俺もないからサーヴァントの願いをかなえようと思ってたんだが。」
「え? ないのか?」
驚き、といった表情をして俺をそう言う。
……まあ、普通の魔術師だったら聖杯を求めるために戦争に参加するんだからな、当然だろう。

「ならなんで聖杯戦争に……」
何で聖杯戦争に参加したのか。
そんなの始めから決まっている。


「勝つためだ。特に遠坂のマスターには。」


きっぱりと、俺はそう士郎に言う。

そう、俺はこれこそが目的で参加するようなものだ。
もちろんこれが理由ではあるけれど、唯一の理由ではない。

「聖杯戦争は確かに魅力的なことだと思う。普段なら数世紀をかけて代々「」への道を見つけようとする所に現れた近道なんだからな。
 でも俺はそんな事よりも過去に人々が崇拝の対象にした英雄がどんな人物か見てみたかったんだ。そんな考えを持ち、どんな戦いをするのかを……」
これも理由の一つ。

「そして俺はアレを手に入れるために何でもしようって奴からこの街を守りたくて、とっとと終わらせるために参加した。これも理由の一つ」
だけど、最大の理由は、これだ。

「だけど、俺は勝つためにこの戦いに参加する。名誉のためでも「」のためでもない。だが俺自身のために、だ。こんな考えのマスターでがっかりしたか?」

大体俺は聖杯を使ってまでかなえたい願いがない。
普通なら魔術師は「」に至る事を最上級の目的としているから、周りはどうでもいいと思うだろう。
俺はそんな考えは許せない。だからこそ戦う。そいつらを止めるために。
士郎もこんな考えの魔術師でさぞかし落胆しているだろうな…。

「いや、そんな事はない。立派だと思うぞ」
「ええっ!?」
これこそ意外だ。
俺の予想だと「理想ばかり語るな」とか「とことん甘いなオイ」とか言われると思っていたのだけれども…。

これはもしかして結構いいカード引いたかも? まさに俺向きの。

「それでさっきの話だけど…。」
「さっきの話?」
「ほら、訊きたい事があるって俺言ったじゃないか。」
あれ? それって聖杯に関しての事じゃあなかったのか?
それなら何の話だ? 今いるサーヴァントの情報なんて俺分からないし、ましてや町の情報もじかに見てもらった方が早そうだし。

うーん、何だ?
分からない。

と、アーチャーはそんな俺に気づいたようで、ため息をもらす。

「名前だって。すまないけど俺、マスターって呼ぶより名前の方がいいかなって思ってるから。」
が、士郎が聞いてきたのはそんな事だった。
ちょっと拍子抜けしたところもあるけど、俺は士郎が気に入りだしている。この人間っぽい所が何とも言えずに。

「ああ、なるほどね。それなら大歓迎だぞ。俺は真木憐だ。真木でも憐でもいいけど、出来れば名前で呼んでくれると嬉しい」
「憐、か。俺としてもそっちの呼び方のほうが好ましいな。」
ん? 士郎の表情がゆるんだけど、何かはずかしい事でも言ったのか?
うーん、とんと分からない。

「それじゃあこれからよろしく、士郎。」
「こちらこそ、憐。」
俺は士郎と右手を握り合い、お互いを確かめる。

 …なんかやり終えたらドッと疲れが押し寄せてきたな。
できれば蔵の片づけを終わらせてからにしたかったけど…無理っぽい。

「ごめんな士郎、ここ片づけておいてくれ…。なんか疲れた…。」
「あ、そっか。召喚したてだからか。分かった。俺がやっておくから寝ておいてくれ。」
「ありがたい…。」
ふらつく足に何とか活を入れてとにかく自分の部屋に戻ろうとする俺。

 とにかく明日は色々とやることがある。
まず朝ごはんは俺の当番だし、屋敷の掃除と庭の掃除&手入れ、これだけで午前がつぶれる。
午後は士郎に町を案内してやって今後の作戦立ててまた夕御飯か……。

 あれ? 待てよ、何かを忘れているような…。
そう、心のどこかに引っかかってる、でも思い出したらまずヤバイそれを…。

「なあ憐。」
と、士郎が大工道具を持ちながら声をかけてきた。
なんかその格好で大工道具ってのも似合わないな。

「何だ?」
「俺の落下音、誰かに聞かれたんじゃないか?」
「あ、その点は大丈夫。どんなミス犯してもフォローできるように…。」
ん? フォロー?誰に?
…ってあーっ!!

「姐さんの事忘れてたーっ!」
「姐さん?」
そうだよ姐さんをごまかさなきゃならないじゃん。
サーヴァントを召喚した今、士郎をどこか別の場所に泊めるなんて論外だけど屋敷に泊める事をまったく考えてなかったし。
まずいなぁ、師範はともかく姐さんをどうごまかすか…。
ここは「俺の兄弟です。」。まずダメだな。うん。

「姐さんって誰だ?」
「あー、百目木沙耶、この屋敷の女主人。彼女を論破しないと士郎ここにいられないから、何かいい案よろしく。」
「ええっ!? ちょっと憐! それどういう…。」
あー、聞こえない聞こえない。自分のサーヴァントの批判は気にしないでとっとと俺は部屋に帰る。
がんばれ士郎。


「あー…。」
疲れた。とにかく疲れた。
明日も大変だな。やる事がどっさり。
と言ってもこれぐらいで降参するほど俺はヘタレではない。

「あー、この先どうなるかね…。」
俺も、ディートも。

 そんな事を考えながら俺の意識は夢の世界へと沈んでいった。




to the next stage…


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第4話に続く

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 どうも、シロトです。
憐視点に入った第三話はいかがだったでしょうか?
この小説を書くに至ったもう1つのifが、「アーチャーではない士郎が召喚されたら?」というものでした。
それを生かしきれるのかが果てしない問題ですけど…。
とにかく自己満足で終わらないよう奮闘していこうと思います。
次回も多分憐視点で進むかと思うのでまだ開戦は先か…。
  2006年5月8日

 今回結構書き加えました。
変更したのは憐の召喚詠唱。これは漫画版Fate/stay nightの凛の詠唱にそっています。
それと冒頭部を追加。これで第3話から読み始めても大丈夫……だといいな。
では次の更新時で。
  2007年1月24日

 今回の書き換えはなし。一々全部書き直しなんて面倒なので、あらすじで不満な所以外はそのままの方針で。
完全にさぼってますね……。
  2007年10月24日


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