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時には忘れていい事がある。
最悪な思い出は心のどこかにしまい、明るく日常生活を送ろう、そんな前向きな考えだ。
どうでもいいような事、印象に残らない事は気にならないし、覚えていないんだから重要じゃないんだろう。
だけど、時には忘れてはならない事もある。
最悪な思い出は心のかてとし、それを二度と起こさないよう最善の努力をする。
どうでもいいような事、と見落としたものに重要なものが含まれているかもしれない。
まあ、言うなら忘れてはいけない事ばかりだって事だ。
どんな些細な事でも、いつか必ず自分に帰ってくるんだから。
思い出すのはあの焼け野原。
地獄、と呼ぶのすら生ぬるいその光景。
忘れようと思った所で忘れるはずがない。
もちろん、あんな光景を忘れたくはない。
見慣れた街は廃墟に。
見慣れた空は煙で黒く。
見慣れた樹木は炎で赤く。
自分が今まで過ごしてきた生活の跡、それに自分自身さえ消していた。
残ったのは、生きている自分という現実だけ。
あんなのを忘れるはずがない。
そして、あの人に拾われて過ごした日常も、その受け継いだ志もまた。
でもごくまれに思ってしまう。
その全てすら忘れてしまった場合、どうなるのだろうかと?
再び同じ道を歩むのか、それともまったく別の道を歩むのか。
それは、さすがに体験してみないと分からないと思う。
「……あれ……? なんだ、もう朝か」
ぼんやりとした意識を起こす。
時計を確認すると、午前六時?
外を見ると既に日は昇っていた。
さんさんと太陽の光が世界を照らしていて、明るい。
それでもう完璧に目が覚めた。
「やば、とっくに朝ごはん用意する時間じゃないか」
この分だとまた彼女が朝食を作っちまうじゃないか。
自分に活を入れて身支度を整え、いざ台所に。
「おはようございます先輩。朝食の支度、もう出来てますよ」
……遅かった。
起きられなかった自分が悪いんで自業自得だけど……。
「……悪い、また桜一人に任せちまった」
桜に全部押し付けた気がしてなんだか申し訳ない。
いくら物凄く眠たかったとしてもいつも同じ時間には起きられてたんだけどなぁ……。
目の前の台所には桜が既に朝食の準備を整えていた。
ちょっと様子を見ただけでも準備は終盤。俺の出る幕はない。
せいぜい盛り付けが関の山と言った所か。
「夜は俺が作るから、それで勘弁してくれ」
「え、ダメですそんなの」
う、確かに今日の夕食の当番は桜だ。本当なら俺の出る幕は無い。
だけどこれで引き下がる今日の俺ではない。
「しかしだな、朝も夜も朝も夜も桜にまかせっきりっていうのは甘えすぎだろう。頼む、今夜は譲ってくれ」
寝坊の汚名返上の機会をぜひ。
「うーん、そうですね。じゃあ夕飯は半分コという事で」
俺の意思が伝わったようで、桜は笑みで返してきた。
それだけでも十分だ。
というわけで今日はバイトを早めに切り上げて、久々の桜と食事を作る事にしよう。
謝罪の気持ちでいっぱいながら、俺は食卓についた。
そしていつもどおり、時間ギリギリに藤ねえが入ってくる。
「ってあれ? 士郎、どうしたのこれ?」
おっはよー!と元気いっぱいな声を出しながら入ってきた藤ねえだったが、そんな事を言ってくる。
いきなりの疑問系なのは不思議だけど、まあ藤ねえだし。
「は? どうしたのって、何が」
「あれ? ……なんかおかしいなと思ったんだけど、おかしいトコロなんて何処にもないや」
ようはこの食卓の風景に違和感を感じたって事か。
困惑して首をかしげる藤ねえ。思い出せそうで思い出せない。そんな感じだ。
「ね、桜ちゃんはおかしいって思わない? なんか足りないって言うか、なんか忘れてるって言うか」
「わたしは特に。藤村先生の気のせいだと思いますよ」
一方の桜はその違和感とやらを全く感じないらしい。悩む様子もなくさらりと断言する。
若干悩む藤ねえ。
「んー…………まあ、そっか。思い出せないってコトは大したコトじゃないって事だし」
藤ねえは納得いってないようだったが、座布団に座ってご飯を食べる。
でもやっぱねぇ、なんて独り言が聞こえてくる。
藤ねえの言った事も気になったので食卓の風景を確認してみる。
場に藤ねえがいて、桜がいて、俺がいて。切嗣はもういないし、他に客もいない。
桜が作った朝食は日常のもので、普段より質素でも豪華でもない。
うん、やっぱりまごう事なき、いつもどおりの衛宮家の朝だ。
やっぱ藤ねえの気のせいなんだろう。
七時半過ぎ、桜と藤ねえに遅れる事三十分。俺は登校する事にした。
学校に続く坂道。通学路は同じ制服の生徒の姿で賑わっていた。
やっぱりいつもどおりの風景。何一つ欠けてはいない。
と、一人の女子と目線が合った。
彼女は何かを納得したのか、気まずかったのか、それは分からないけれど、足早に坂を上っていった。
……一応記憶と照らし合わせるけど、やっぱり知らない女の子だ。
「なんだ衛宮。いま、遠坂とにらみ合ってたのか?」
「え……?」
不意に俺にかかる声。
振り向くとそこにいたのは、
「ああ、おはよう一成。って今のは別ににらみ合ってたわけじゃない。ただ目が合っただけだよ」
「そうなのか? ならいいが、くれぐれも遠坂に喧嘩なぞ売るなよ。あいつは倍返しが信条だからな、残る一年を棒に振る事になる」
南無観世音菩薩、なんてどこまで本気か分からないお経を口にする一成。
が、そんな心配はそもそも無縁だ。
「ばーか。喧嘩を売るも何も、俺、あいつの事知らないぞ」
いやまあ、美人な事は認めるし、物腰は優等生を絵に描いたような感じだ。
でもそんな人物だったら印象に残るはずなんだが、とんと記憶に無い。
「そもそもあんなのうちの学校にいたっけ?」
俺のその言葉をきいて一成は驚くが、すぐにかんからと笑い出す。
「うむ、それが正しい対応だ。アレは人の手に余る。関わらぬように過ごすのが人の道というものよ。
いや、一時はどうなるかと肝を冷やしたが、これにて一件落着!」
……その一時とやらが何を意味するのかは分からないけど、一成の中では解決したようだ。
そのまま満足した表情で坂を上っていく。
「……」
その後ろ姿を見送って、ぼんやりと立ち尽くした。
欠けているものなどない朝の光景。
わずかに痛む左手の感覚。
「一件落着って――何が起きて、何が終わったんだ、一成」
疑問に思うが、どうも答えはでないらしい。
予鈴がなる。
……もう朝の八時。
学校の門が閉まるように、何かに締め出されたような気がする。
「……なんかおかしいと思ったんだけど、」
藤ねえの言葉を思い出す。
藤ねえは朝食の時から違和感を感じたらしいけど、確かに俺も感じる。
「――俺は、たしか――」
……何も思い浮かばない。
カタチのない焦燥に包まれて、何処に向かうべきか、何処に戻るべきかも、思いつかなかった――。
/
悩みながら学校に辿り着くけど、これと言って思い当たる事もない。
学校自体の様子も、そこにかよう生徒にも特に変わった様子はない。
そこには俺の知っている日常そのものがあった。
時間ギリギリ、どうやらホームルーム開始前に教室に到着できたようだ。
とりあえず雑談をするクラスメイトに挨拶。自分の席に向かう。
そしてふと視線が在ったのは友人の、と最低俺が思っている、慎二がいた。
どうやら今日は上機嫌なようで、俺を見ても不機嫌にならずに笑みを浮かべてくる。
「よ、慎二」
「やあ衛宮」
慎二にも挨拶をして自分の席に手をかけて、
「ところで聞いたかい衛宮。綾子のヤツ、家出して新都で見つかったんだってね」
なんて事を聞いた。
今、なんだかとてつもなく物騒な事を言わなかったか?
「……それ、どういう事だ?」
「あれ? まだ衛宮は知らないのか? とっくに知ってると思ったんだけどな、一年の間じゃ有名だし」
「美綴がどうかしたのか!?」
思わず慎二の肩をつかむ。
強く握りすぎたのか、慎二の表情が若干引きつる。
「そう食ってかかるなよ。僕だって今朝道場で聞いたばかりだ。
綾子のやつがそこいらの路地裏でキマってて、目もイッちまってて、制服もぼろぼろだって話だ」
美綴がそんな事に。
あいつ、確か昨日一成に知らされて行方不明になった話は聞いた。
そして最後にあったのが慎二なのも聞いた。
その美綴が見つかったのか。
「それで、美綴は今どうしてるんだ?」
「家で保護されて療養中だってさ」
そう、か。とりあえずは無事なんだな。
ほっと胸を撫で下ろす。
正直昨日は最悪な事まで頭に浮かんだけれど、そんな事にはなってなかったようだ。
ん? 待てよ。
今慎二は何ていった?
「ちょっとまて慎二。一年の間で有名だ、ってどういう事だ?」
「どうやら昨日のうちから伝言ゲームみたいにぐるぐる回ってたらしいね。僕もそれから聞いただけだし」
……言葉も出ない。
美綴だって女の子だ。あいつはああいうヤツだし、みんなもそう思ってるけど、それでも女の子なんだ。
ならどんなに強くたって、こんな噂話として広まったんじゃあ……。
「慎二、それで、その原因は何なのか聞いてないのか?」
「原因? 綾子が家出した事じゃないのか?」
「いや、家出が万が一事実だとしても、美綴がこうなる理由になってない。何か聞いてないのか!?」
「そう睨むなよ。僕は聞いたことしか知らないし、今話したのが全部だ」
……慎二から離した手、知らずに力が入っていたのか拳を開けても痛い。
「む、すまん。慎二が犯人みたいに言っちまったな……」
「分かればいいんだよ。僕も衛宮と同じで、原因ぐらいははっきりさせておきたいからさ」
慎二が美綴と最後に会話していた、とは昨日一成から聞いた。
だから学校から出るまではあいつは無事だった事になる。
……襲われたんだとしたら下校途中か。
と、ここで本鈴が鳴る。ホームルームの始まりだ。
どうやらここいらで会話は終了。
美綴の事は心配だけど、慎二と話しても事態が好転する事は少なそうだ。
「分かった。俺も原因が知りたいから、何か分かったら教えてくれ」
慎二はこれでも俺よりはるかに情報網が広い。
なら俺より先に原因に分かるかもしれないしな。
慎二は返事をせずに手をひらひらさせながら自分の席に座っていく。
それを見て俺も席に座る事にした。
予想通りというか、ホームルームの話題は美綴に関する事だった。
今は部活動している者以外はすぐに下校するようにとの事になっているけど、この分だと部活動も当面禁止になるかもしれないと言う。
期末テストは数週間後だし、ここ数日が重要なんだけど、安全には変えられない。
授業もつつがなく始まり、つつがなく終わった。
だけど、俺は登校時に抱いた違和感がひっかかってて授業にあまり集中できなかった。
というわけであっという間に昼休みに入る。
……周りを見てみると、何だかみんな、本当に微妙だけど変化がある。
いつも見ていないと気づかないほどの変化と言うか、その……なんだ?
違和感に悩んでる俺が言うのもなんだけど、みんな気だるいといったような感じが。
「一成、邪魔するぞ」
とりあえず弁当を持って生徒会室に顔を出す事に。
どうやら一成、既に昼食を開始していたようだ。
他の生徒会役員はもちろんいない。一成ただ一人だ。
「――ちょうどいいな。少し話がある」
この状況はいつもの事とは言え好都合だ。
一成なら話題をふった所で事態が暗転する事はないだろう。
「む、改まってなんだ?」
「まずは美綴の事だ。噂以外で何か聞いてないか?」
まずはストレートに聞いてみる。
これが本題と言えば本題だけど、望み薄だ。
「俺とて噂以外の事は聞いてない。ただ先生方に聞いた、言わば噂に脚色されてないものでよいなら言えるが」
「悪い。それだけでも助かる」
慎二が聞いたのは伝言ゲームのように変な脚色がついているものだからな。
先生方ならこの事を客観的にとらえてるはずだ。
一成が話してくれたのは慎二から聞いたものを深く掘り下げていた。
原因は一切不明。ただおそらく薬物反応はないだろうとの事。
幸いにも命に別状はないが、衰弱が激しいとの事だった。
「だが見舞いに行った先生の話では、どうも衰弱とはまた違っているらしい」
「衰弱とは違う?」
「ああ、便宜上病院関係者はそのようにしているが、生命力とも言うべきものがごっそりとなくなっているよう感じられたそうだ」
生命力がごっそり?
また随分と遠まわしな表現だな。
「……一成は何か心当たりはあるか?」
思いきって聞いてみる。
一成はふむ、とうなった後、
「昨日(さくじつ)も言ったが、彼女と最後に話していたのは慎二だと判っている。慎二が何かを知っている可能性もあるが……推測の域を出ん」
確かに慎二はおととい部活動に出ていなかった。
なのになんでわざわざ部活動が終わってから学校に来て、なんで美綴と激しく言い争っていたのかは分かっていない。
そう考えると確かに慎二は一番怪しいんだが……一成の言っている通り推測の域を出ない。
あの様子だと知っていたとしても素直に話してくれるとは思えない。
と言う事は慎二以外の人から聞くしかないだろう。
「悪いな。せっかくの休み時間にこんな話をして」
「いや、一向に構わない。ところで衛宮、そのから揚げをもらえるか?」
「おう、分かった。ほら」
結局事実を再確認しただけで進展はなしか。
弁当のおすそわけをしつつ、考えにふけっていた。
放課後。部活動は休みなのでグラウンドには下校している生徒しか見られない。
授業終了と同時にみんな帰りの支度をすませて教室を後にする。
この分だと一時間もしないうちに校舎は無人になってしまう。
「――とりあえずは話を聞いてみるか」
美綴が慎二との会話を境に行方不明になり、路地裏で発見される。
強盗とかではなく、ただ心身ともに弱り果てていた。
こんなの只事ではないし、友人としては見過ごせる範囲じゃない。
まずは、と慎二と美綴との会話を聞いたという一年生の部員を葛木先生に聞いてみる事にした。
慎二の性格を考えると一年生は匿名を希望するだろうから、一成が知っているとは限らない。
もしかしたら藤ねえから葛木先生に伝わったのかもしれないけど、あいにくと職員室にはいなかった。
……ホームルームが終わったからいると思ったんだけどなぁ。
「今日の下校時間は昨日よりも早い。校門が閉まらぬうちに下校するように」
と去り際に釘をさされた。
「え? もう帰った?」
「はい、部活動がないんで荷物をまとめてさっさと帰っちゃいましたよ」
……ぬかった。
最後の授業終了後に即行で職員室に向かったから大丈夫だと思ったけど、どうやらその一年生も帰ってしまったらしい。
用事がないときはさっさと帰りたいのか、それとも慎二に知られる事への恐れからかは分からないが。
「……そうか。なら俺が来た事はその子には秘密にしといてくれ」
「分かりました」
返事を聞くと早々にきりあげる。
多分他の一年生に美綴の事を聞いて回った所で噂と同じような結果しか得られないだろう。
「――なんでここに?」
くだんが尾を引いてるのか、結局俺は弓道場に足を運んでいた。
部活動はやっていないので扉は硬く閉ざされている。
ここにいても全く進展はないだろう。
「……帰るか」
藤ねえに聞けばまた新たな事が分かるかもしれない。
少なくともこの場にとどまるよりははるかに有意義だろう。
そう思って校門の方へと足をのばした俺だったが、
「や、今頃お帰りかい?」
意外な人物に遭遇した。
「慎二?」
「最近は物騒だから、生徒は速やかに下校するんじゃなかったっけ」
慎二は俺の前に立ちふさがるよう、校門へと続く道にいた。
慎二の言ってる事は自分を棚上げしてる気がするんだけど、とりあえず自分の方を答える事に。
「美綴に関して進展があるか聞いて回ってた」
「ふうん、それはご苦労だね」
笑みを浮かべる慎二。
「で、進展はあったのかい?」
「……ない。噂以上のものは聞かなかった。そっちはどうだったんだ?」
「僕の方かい? 何も進展なんかないさ」
「そうか」
慎二の方にも進展がないとなると、取るべき手段は限られてきそうだ。
美綴に直接聞くのは論外だし、警察だって教えてはくれないだろう。
なら町中聞きまわって慎二から後にあいつを見かけた人物を見つけだすしかないか。
「それじゃあまた明日な」
「待てよ衛宮。せっかくおまえの事を待ってやってたのにつれないじゃないか」
俺の事を待ってた?
慎二が「一緒に下校しようぜ」なんて言う筈もないし、何か俺に話でもあるのか?
「期末テスト対策だったらまだこれからだ。近いうちに一成と相談するからその後でな」
「……話があるのは同じだがそんな事じゃない。僕が言いたいのは昨日の事さ」
「昨日?」
昨日慎二は学校を欠席した。
だから俺に聞こうとしてるのか?
「おまえ放課後何やってたんだ?」
「放課後? 今日と同じで美綴の事を聞きまわってただけだが」
「――そうか。おまえの中ではそういう事になってるんだな」
何かを納得したように慎二はうなづく。
その表情は妙に納得したような印象を持たせる。
「よし、衛宮。今から僕の家に行かないか? 誰にも聞かれたくない話をしたいからさ」
「かまわないけど何で改まって……」
「そうと決まれば急ごう。アイツに見つかっておまえの二の舞はゴメンだ」
「俺の二の舞って……」
慎二が何の事を言っていて何を話そうとしているのか俺には見当もつかない。
だけど慎二がこういうからには何かしらの意味があるんだろう。
俺は慎二に同意する事にした。
/
「なあ衛宮、おまえはこの頃この街で起こる事件はどう思う?」
「この街で起こる事件って、美綴の事か、それともガス漏れ事件の事か?」
「両方さ。それら全部ひっくるめて起こってるこの街の異常、それをどう思うんだ?」
間桐邸、相変わらずのすごい建物だった。
そして昼間だと言うのにカーテンを閉じていたりと日光が入らないようにしていて薄暗い。
暗い闇に沈む居間で俺と慎二は向かい合ってソファーに座っていた。
「……物騒を通り越して何か問題があるとしか思えない」
「あ、やっぱりそう考えるか。うん、その反応は実に正しい事だよ」
俺の答えが嬉しかったのか、慎二は笑みを浮かべる。
「話ってもしかして美綴の事に関係してるのか?」
「ああ、だけど……」
「だけど?」
慎二は出し渋るのを楽しんでいるようにしている。
「これから話す事を聞けば衛宮はまた元の道に戻る事になるかもしれない。聞きたくなかったら今すぐにでも席を立ってくれてかまわないよ」
何を今さら。そこまで話しといてここから去ることなんてできやしない。
そんな俺の意志を受け取ったのか、満足そうにうなづいた。
「さすが衛宮。なら僕も遠慮せずにおまえを巻き込もうじゃないか」
巻き込むって、この頃街で起こる事件に関してか。
美綴が巻き込まれた以上、俺がいつ巻き込まれるかも分からないが。
「アレはね、魔術師が行う儀式の一環として行われている事なんだ」
「――――」
今、慎二のヤツはなんて言った?
普通の会話だと中々出てこない単語を、さらりと言わなかったか?
「慎二、オマエ――」
「ああ、魔術師って単語で反応するって事はやっぱり衛宮もそうだったのか。これで話がスムーズに出来る」
っ!
とっさに身構える。
慎二の言い分からすると、こいつもこっち側の世界の者、つまり魔術師って事に――!
「まあその反応は当然だろうね。逆の立場だったら僕だってそうする。だけど言っただろう? 僕は衛宮と話し合いたいだけだってね」
「……」
それは確かに聞いた。そんな話だからこそ、この家に俺を連れてきたんだろう。
だけど逆を言えばここは慎二の家。魔術師といっても未熟な俺では抵抗するどころか脱出すら困難なはずだ。
つまり、俺をどのようにもできると言う事になる。
「……」
でも何もしないという事は本当に話し合いのために呼んだんだろう。
俺は少なくとも慎二を信じる。
なので俺は無言でまたソファーに腰掛けた。警戒心はそのままに。
「おかしいと思ったんだ。あの遠坂のヤツが記憶の消去だけで済ませるだなんてさ。つまり衛宮は巻き込まれた後で『儀式』の事を知ったんだろうね。
だから僕がとりあえず魔術師が知ってる一般知識を教えようか」
そうして慎二は説明を始めた。
この地で行われていると言う、聖杯戦争の事を。
聖杯、7人の英雄、サーヴァント、選定条件、バトルロイヤル。
それに毎回参加する家系、遠坂、マキリ、アインツベルン。
そして、サーヴァントは人間を糧にする事で強力になる。
色々と言いたい事はあったけれど、とりあえず俺は慎二の言う事を一つ一つ理解しようとするだけだった。
普通の人なら「馬鹿げてる」とか「漫画の読みすぎ?」とか思うかもしれない。
だけど、魔術師がいる世界ならそれがありえてしまう、それがより慎二の言っている事の現実味を増す。
そして、美綴がその儀式で犠牲になった事も。
「以上がとりあえずの聖杯戦争に関しての説明だ。何か質問は?」
「――ちょっと待ってくれ。まだ整理途中だ」
「ああ、吟味する時間はたっぷりある。ゆっくりしてくれよ」
何とか混乱する頭を落ち着かせて整理する。
どんな願いもかなえてしまう聖杯を巡って7人の魔術師がそれぞれ英霊を召喚して争う戦争。
それはもうこの地で何度も繰り返されている事で、過去何度も参加した魔術師はおろか、一般人まで巻き添えになったという。
そんな事……今まで知らなかった。
「とりあえず、慎二はその戦争の参加者なんだな?」
「ああそうだ。僕のサーヴァントはライダーさ」
間桐は元々この地に根を成すマキリの事。
今代は慎二がマスターとなっていて桜は魔術とは無関係らしい。
その点はよかったと思ってる。
桜にこんな殺し合いに関わらせてたまるか。
桜は、魔術とは無縁の穏やかな日常を過ごして欲しいから。
「何なら衛宮に紹介するよ」
そう言うと慎二は指を鳴らす。
直後、慎二の背後に闇の結晶が姿を見せる。
文字通り、扉を開けて入ってきたのではなく、その場に出現した。
「これが僕のサーヴァント、ライダーだ」
その女性にはあまりに光が見られない。
いや、何でかはよく分からないけれど、見られたという表現の方が正しいかもしれない。
ライダーは終始無言。むしろ微動だにしない。
ただ彼女は俺の観察を眼帯越しにうかがっているようだ。
もちろん、俺が何かをすればいつでも行動に移れるように。
背筋が凍る。
話は聞いたけれど実際にあってみるのとじゃあ全然違う。
これが、英雄。
「じゃあやっぱり……慎二も聖杯戦争に勝つつもりなのか?」
「……どうだろうな。そりゃあ確かに願いが何でも叶う聖杯は魅力的だけど、命は惜しい。出来れば無事に生き残る事を前提に進めていきたい
実を言うと僕がサーヴァントを持ってるのも家系の義務みたいなもんだしね」
若干考える時間を隔てての慎二の発言。
つまり慎二はこの戦争で勝ち残っていくつもりのようだ。
なら、やっぱり疑問がわく。
「じゃあなんでマスターに選ばれてもいない俺にこの事を話したんだ。俺がマスターだったら同盟の持ちかけとかも意味あるだろうけど……」
そう、俺は魔術師ではあるけど今回マスターとしては選ばれなかった。
俺のやる気があったとしても、慎二には俺に話すメリットがないはずだ。
「ああ、さっきも言っただろ? 遠坂がおまえの記憶を消去したってな」
「……」
そう言えばそんな事言ってたっけ。
一成が遠坂と読んでいた女子、俺には見覚えのない人物だったけど、彼女が慎二同様に魔術師であり、マスターでもあるという。
そんな彼女が俺に記憶の消去を……たまたま目撃でもして記憶を消されたのか?
「衛宮、おまえ一度遠坂のヤツに負けてるんだよ」
だが、慎二から聞いたのはその予想の斜め上を行く言葉だった。
「俺が、遠坂に、負けた?」
「ああ。さすがにどのサーヴァントをつれてたのかは知らないけれど、昨日おまえあいつにやられたんだよ。
そしてその後でそのサーヴァントに関わった人物の記憶を残らず消去していった。違和感ぐらいは感じたんだろ?」
……確かに違和感は朝から感じていた。
それは藤ねえも感じていたし、俺もずっと気になっていた。
その正体が、昨日までいたらしい俺のサーヴァントがいない事だった……?
思い出せない違和感、何かを失ったような喪失感。
疑問は簡単に浮かぶけれど、その先は濃い霧につつまれたように何も見えてこない。
俺はどんなサーヴァントを呼び出して、どんな生活を送っていたのか。
……分からない。本当にそんな事があったのかなんて。
「衛宮にこうして話す理由はその遠坂にあるんだ」
「遠坂に?」
現実感が全くないけれど、俺は遠坂に敗北してサーヴァントを失い、聖杯戦争を敗北した事になる。
そんな敗北者にわざわざもう一度話した理由が、その遠坂に?
「衛宮も知ってるかもしれないけれど、なぜか遠坂のヤツは僕の事を快く思っていないらしい。
遠坂も間桐が魔術師の家系だって知ってるから、いくら魔術回路が廃れた僕でもいつかはマスターだってばれるだろうしね」
「――つまり慎二、おまえは……」
ここまで聞けば誰にだって先の展開は読める。
つまり慎二は――、
「ああ。一度負けた衛宮相手なら遠坂のやつも油断する。そこをつくんだ」
俺に囮になれと言いたいわけか。
「魔術師は等価交換が原則、だったっけ。サーヴァントを失った衛宮を聖杯戦争終了まで守ってやる事と引き換えに協力してくれないか?」
……どうする?
あの女子、遠坂は俺の事を破っておきながらその処理は記憶の消去だけで済ませた。
この戦争の性質上、弱いマスターを狙うのは当たり前の事だけど、それでも俺は無傷で済んでいる。
だとしたら遠坂は一般人を狙うようなやつじゃない。
慎二のヤツも多分一般人を狙うような事はしないだろう。
魔術師は隠匿が暗黙の了解。一般人を巻き込んでいれば他の魔術師に目をつけてくれと言わんばかりだ。
だけど、慎二は魔術回路を持たない魔術師だと言う。ならもしかして……。
それに慎二と組む事は必然的にその遠坂と対峙する事になる。
だけどここで断ったら俺は聖杯戦争の事を知る魔術師と言う事になる。
つまり、その場で慎二に殺されても文句は言えない立場になる。
人類史最高の存在である英雄、それがどれほどなのかは分からないけれど俺より優れている事ぐらいは分かる。
そして、相手も英雄を従えているのは確実。
「ああ、なるほどね。確かにいきなりこんな話をされたら誰だって警戒するだろうさ。いきなり「はいそうですか」って賛同する方がおかしい。
だけど衛宮。こうして元マスターのおまえと接触するだけでこっちはリスクをはらってるんだ。それも考えに入れてもらいたいね」
確かに慎二の言う事も一理ある。
一流の魔術師は他の魔術師の事を感じ分ける事が出来る。
それはもちろん、一流になればなるほど魔力を感じ取れる能力に秀でるから。
そういった面で慎二は逆に知られにくい、ダークホースのマスターだ。
俺も未熟だからそうなのかもしれないけど、あいにく俺は既にマスターだったと知られているらしい。
ならこうしている事で慎二に疑いがかかる事もありうる。
そういった意味で、俺との接触は確かに慎二にとってはデメリットも含んでいるわけか。
「……2つだけ確認させてもらうけど、いいか?」
「ん? なんだよそんな真剣な顔して」
きょとんとして俺の顔色をうかがう慎二。
慎二と協力する道を取るとしても、この2つだけは確認しておきたい。
「遠坂をどうやって負かす気なんだ。もしかしてライダーを遠坂のサーヴァントと戦わせてる間に遠坂を殺す気じゃないだろうな」
「はっ、そんな必要はないよ。ようはサーヴァントとマスターをつなぐ令呪さえなければいいんだから、
アイツを倒した後であいつが衛宮にしたように令呪を剥ぎ取ればいい。これで遠坂は脱落する」
そうか。これで少なくとも遠坂という名の女子の命は大丈夫だ。
殺し合いが普通の聖杯戦争で記憶の消去を選んだマスター、そんな彼女に殺す手段なんてとれない。
出来れば説得に越した事はないけれど、どうも慎二と遠坂の相性は悪いらしいからあまり期待しない方がよさそうだろう。
まあ、俺が説得できれば一番なんだけど、過去を振り返るとその可能性は……はあ。
もう1つ。ある意味俺にとっては一番聞きたかったことだった。
「慎二。おまえは一般の人を犠牲にするマスターなのか?」
慎二の顔が不快感をあらわにする。
だけど止める気は俺には全くない。
「もしそうなら俺は慎二とは組めない。俺なりに何かしらをしようと思う」
「……まあ、衛宮ならそう言うだろうと思ったよ。予想通りの質問だとはいえ、疑われるのは心外だな」
いいかい、と言いつつ若干慎二は身を乗り出す。
「確かに僕は魔術回路がないからサーヴァントであるライダーの戦力アップは図れない。だけど考えてみろよ。
僕がそんな事をすると思ってるのかい?」
「……信じていいんだな?」
「何だよ疑い深いな。僕を信じろよ衛宮」
笑みを浮かべながら慎二は断言する。
「分かった、信じる。おまえは何もしてないんだよな」
正直慎二の言う事は信じたい。
それに、今の俺は一度遠坂に負けているらしい。だとしたら、慎二の提案は願ってもない事だけど……。
「衛宮、本当なら僕は誰とも戦いたくないんだ。だけど飛んでくる火の粉は払いたい。何も敵を殺すわけじゃないんだ。
敵サーヴァントを再起不能にするか令呪を強奪すればいいんだからさ」
「……」
でも何かがおかしい。というより抜けている気がする。
慎二の言っている事には何か重要な事が入っていないような、そんな感じだ。
少し熟考して、思い当たった。
「そうだ慎二。勝ち残る事じゃなくて生き残る事が優先なんだったら聖杯戦争から下りればいいじゃないか。そうすれば襲われる心配もない」
「はあ? 分かっちゃいないな衛宮。過去に英雄にまでなった奴が僕たちに従う理由はたった1つしかないんだよ。つまり聖杯さ」
慎二は心底あきれ果てているようなしぐさをする。
「マスターが聖杯を欲しがってるのと同様にサーヴァントだって聖杯が欲しい。でもマスターが戦いを放棄するって事はサーヴァントは無理して従う必要もない。
最悪殺されたって文句は言えないのさ」
「殺され……」
「つまりサーヴァントを持った時点で後戻りは出来ない。先に進むしかないってわけさ」
……いくら一流の魔術師だからって英雄を使い魔にできるような戦争だ。
英雄側にも聖杯で叶えたい願いがあって召喚に応じたんだとするなら、戦争放棄は裏切り行為になるわけか。
つまり慎二はもう後戻りが出来ない状態にあるのか。
生き残るためにのけて勝ち残るしかない。
そのために他人の犠牲を厭わない。
……何だよそれ。
なんでそんな馬鹿げた事が起こってるんだ。
無関係の人を巻き込みかねない事を、そう簡単に何で行えるんだ。
頭にくる。
自分の都合だけで何も知らない人たちが何も知らない間に犠牲になっていくなんて。
例え記憶が操作されたとしても、襲われたと言う事実、それに恐怖が消えるわけじゃない。
そして、へたをすれば死んでしまった事すら分かってもらえないままで終わるかもしれなくて。
……もう俺の決意は決まった。
遠坂に記憶を消される前もきっと同じ思いだったに違いない。
目の前にいる慎二と考え方が違うだろうけど、その事で道が分かれるかもしれないけど、俺の目指しているものは変わりない。
正義の味方という、俺の目標はきっと。
「……分かった。俺は慎二に協力する。一刻も早くこの馬鹿げた戦いを終わらせよう」
「……いいね、さすが衛宮だよ。そう言ってくれると思ったよ」
俺の決意の言葉を慎二は満足げに受け止めたようだ。
だけど俺の言いたい事は終わっちゃいない。
これからが肝心な事だ。
「だけど慎二、押し付けがましいようだけど、街で理不尽な犠牲を出さないよう動いてくれないか?」
「それって綾子のやつを襲ったサーヴァントとかを優先的に倒せって事か? まあ状況を見てそうするさ」
そうか。そう言ってくれると助かる。
左手がわずかに痛む。
慎二の話が本当なら、ここには俺のサーヴァントの令呪があった。
俺が遠坂に負けたって事は、俺はサーヴァントの期待と信頼を裏切った事になる。
……俺が未熟なばかりに、こんな事になって……。
クラスも性格も、姿も分からない俺のサーヴァント。
俺は……もう一度参戦する事にしたよ。
負けたからってこの状況をただ黙ってなんて見てられない。
今回進もうとしてる道は負けたと言う前回より険しい道だろう。
だけど、俺は絶対にこの道を進み続ける。
「ああ、どうせなら衛宮。教会に行ったらどうだ?」
「キョウカイ?」
唐突なまでの慎二の言葉に疑問を持つ。
「キョウカイって……魔術協会の方か?」
「違うって。聖堂教会の方さ。聖杯って命名されるとあっちゃああそこも黙っていられないんだろうね。情報操作や事後処理なんかを受け持つ代わりに
第三者としてこの戦争を管理してるのさ。ほら、新都の向こう側にある」
……悪いが俺は一度も行った事はない。
いや、正確にはあるかもしれないけど記憶にはない。
まあ教会って言うぐらいだから地図にも載ってるはずか。
「僕は行ってないんだけど、聖杯戦争の事をもっと詳しく知りたいとか、サーヴァントを失って脱落したマスターの避難所みたいな所だからね。
行って損はないんじゃないか」
「……そうか、わざわざ悪いな」
その管理してるとか言う人物には聞きたい事が山ほどある。
例えばこの聖杯戦争が何時、何の目的で始まったのか。どうしてわざわざこんな方法なのか。
疑問は尽きない。
「じゃあ衛宮。今後ともよろしく頼むよ」
慎二は笑みを浮かべながら手を差し出してくる。
俺はそれを――、
「ああ、よろしく頼む」
好意的とは言いがたいけれど握手で返した。
この先で一体何が待ち受けているのか俺には分からない。
一度は脱落した俺がもう一度戻ってくる事がどんな結末をもたらすのかも分からない。
だけど、俺の決意は変わらない。
絶対にこの争いで一人も犠牲者は出さない。
俺の目指しているものに誓って。
「さて、話は今のところそれだけだ。細かい所は明日にでもまわそう。その間に心の整理でもしとけよ。
それじゃあライダー、衛宮を送ってやってよ。聞いての通り衛宮は僕と組んだんだから傷つけるなよ」
ライダーはうなづきもせず、その命令を淡々とこなすようにこちらに近寄ってくる。
その歩き方が綺麗だったので一瞬見とれた。
「さすがに間桐邸から先まで送ろうとすると遠坂の奴に発見されるかもしれないから、玄関まででいいからな。それまでは丁重に扱えよ。
じゃあな衛宮、またあした」
慎二は手をひらひらさせると奥の部屋へと去っていった。
居間に残るのは俺とライダーだけ。
このまま座って色々と整理したかったけれど、家では桜と藤ねえが待っているに違いない。
なら早々に間桐邸を切り上げるべきだろう。
門へと向かう。
無言でライダーへと視線を向けると、彼女は俺との距離を一定に保ったままだった。
近すぎず、離れすぎず。絶妙な位置というか、中途半端というか。
そのライダー、受ける印象は邪悪でありながら神聖。矛盾に満ちている。
ある地域で神聖だったものが別の地域では悪魔になる事は神話に多く見られるけど……ライダーもその類なのか。
というか、彼女は清楚な顔立ちをしている。眼帯をしているから瞳までは見れないけれど、きっと絶世が付いてもおかしくない美人なんだろう。
……これなら他の女性に嫉妬されるかもしれないな。
「……分かりません」
不意に聞こえてくる透き通った声。
それがライダーのものだと気づくのに数秒を要した。
「え……ライダー?」
「なぜサーヴァントを失った貴方が引き続き聖杯戦争に参加するのですか。サーヴァントのいない貴方では聖杯にたどりつけないと言うのに。
むしろシンジに協力する事で貴方が死ぬ確率の方が非常に高い」
う、いや、まあ。確かにそれは疑問に思っても仕方がない事だよな。
ハタから見ればデメリットこそあれ、メリットが全くないし。
「そうだな……慎二のためって言ったら信じるか?」
「いえ全く」
きっぱりと言われる。
そこまで断言してくれなくてもいいと思うけど。
慎二のためじゃないと言えば嘘になる。
だけど一度失ったサーヴァントの弔いだとか言う資格は俺にはない。
俺はただ、この町で起きていてこれからも起きようとしている事柄を見過ごす事が出来ない、ただそれだけだった。
「……聖杯戦争って、無関係者まで巻き添えになるかもしれないんだろ?」
「――――そうですね。ばれなければいいとの考えを持ったマスターがいる事は事実でしょう」
いや、もう巻き添えになっている。
美綴はもう犠牲になってしまったし、ガス漏れといわれてる事件だって本当は魔力のかき集めに利用されただけだ。
それに、神秘は隠匿するもの。遠坂みたいに記憶の消去じゃなくて口封じに殺す事だって考えられる。
何の罪もない人たちが犠牲になっていく。そんな事が我慢できるはずがない。
「それを見過ごす事が出来ない。単純にそれだけだ」
「自分のためではなく他者のために危険を犯す、と?」
俺は黙ってうなづく。
その言葉に満足したのか、それとも納得いかないのかは分からないけど、ライダーはふむ、とうなってあごに手を当てる。
数秒そのしぐさが続いて、彼女はすらりと長い手を下ろす。
「1つだけ言いたいことがあります」
「言いたいこと?」
淡々と彼女は話す。高低差がない声、だというのに感情がないようには全く聞こえない。
そしてその様子のままで、
「自分の事を最優先で考えるようにしてください」
こんな事を言った。
何でライダーがそんな事を言ったのかは分からない。何の目的で、それが俺の言った事にどう関係するのかも。
ただ、これは重要な事なんだろうとは分かった。
「……ライダー、慎二の事よろしく頼むな。アイツ、ああいうやつだからさ」
「――人がいいのですね。シンジが味方に引き込んだのもうなづけます」
微笑みを浮かべて彼女は屋敷に引き返していく。
俺はそんな彼女を見ながら、彼女が言った事について考えていた。
/
これに至った経緯はUBWルート経由タイガー道場ルート15を参照。
ようはセイバーを置いて学校に来た衛宮士郎が遠坂凛に敗北し、令呪喪失と記憶消去を受けている所から。
セイバーは衛宮士郎の敗北を屋敷で知る事になり、他のマスターを探す事に。
バーサーカー(ヘラクレス)の恐ろしさを知っているキャスターはアサシンだけでは不十分と考えて戦力の増加を狙っていた。
これを好機と見たキャスター、衛宮士郎の無事を条件にセイバーを味方に引き入れる。
凛はセイバーに関わったとされる、衛宮家にいる大河、土曜日に出会ったと見られる弓道部員の記憶操作は行っている。
セイバーの噂が月曜日の時点で流れてはいるが、そこまでの情報操作を行ったかは不明。
ただ、間桐桜とキャスターのマスターである葛木に関してはセイバーの事を憶えている。
その葛木がセイバーがキャスターの軍門に下った事を知っているかは不明。
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六日目
士郎、軽めの夕食の後言峰教会へ。この辺のやり取りは三日目の焼き増し。
ただし、サーヴァント無しで戦地に赴こうとする士郎を見た言峰、ランサーを貸し出す。
ランサーの事は士郎と同じようにマスターを失ったサーヴァントだと説明。
柳洞寺に半分近くのサーヴァントがいる事、セイバーを失ってもなお同じ道を進もうとする士郎に何かしらを思った事が理由。
ただし令呪は言峰がそのまま所有。切嗣とアイリスフィールのような感じ。
条件としてランサーがまだ戦っていないバーサーカー、アサシン、ライダーとの勝負を言われる(キャスターはバゼットの時に一線交えた事に)。
ランサーとの会話で自分のサーヴァントがセイバーだった事を知る。
その日のうちに柳洞寺に赴いてアサシンと決闘。
その間にライダーが境内に侵入。慎二とライダー、そこでセイバーがキャスターの軍門に下った事を知る。
と同時にセイバー、またしても士郎が聖杯戦争に関わった事を知る。
アニメと違い慎二と士郎が協力関係(?)にあるのでライダーは士郎に一言かけてから去っていく。
士郎をセイバーと再会させるかは未定。
七日目
ランサーとの特訓開始。
セイバーを一度失った事への贖罪とばかりに稽古にはげむ。
学校には通い続ける事に。
理由は当然、凛に再び聖杯戦争に関わった事を悟られないために。
なのでランサーは霊体化できても士郎のそばにはいない。
慎二は士郎が味方になったので、UBWルートのようにこの日に行動を起こす事はない。
放課後、イリヤと再会。自分の事を忘れた士郎にイリヤご立腹。
アインツベルンの説明は慎二に受けていたのでマスターな事は分かった。
夜、魔術の特訓開始。
師匠であるスカサハが魔術にも長けていた事もあり基本ぐらいは分かっていたランサーが大ざっぱに教える。
この時、学校に結界が張られている事を知る。そしてその結界がどんなものであるかも。
ガス漏れの件がキャスターの仕業だとすると学校の結界は手口が違う事もあり、消去法でライダーが一番怪しい事になる。
よってこの日は行動を起こさず。
八日目
朝の特訓継続。
セイバーの件もあり、桜や大河にランサーの事は知らせていない。
慎二、桜と共にやってくる。狙いは当然聖杯戦争に関する相談。
学校の結界については遠坂への牽制だと慎二は主張。慎二に対して疑問を抱く士郎。
話を総合するとバーサーカー以外のサーヴァントはある程度判明している事になる。
学校には行く。迂闊に結界の事を調べると凛に知られる可能性と慎二の事を信じたいと思う気持ちもあり、結界は放置で。
イリヤと再会。この辺はFateルートと同じ。
夜、魔術講座2。
ランサー、士郎の魔術を見て唖然。スイッチを入れることに。
よって士郎の事も考えてこの日も行動を起こさず。
九日目
朝、慎二は放課後に結界を発動させて遠坂を倒す事を主張。
士郎は生徒はいないが先生が見回りをしている以上それは許容できないと主張。
両者に溝が生まれる。
学校、慎二は独断で結界を発動。ライダーと共に凛を倒すべく行動を開始。学校に来ていた凛はアーチャーでライダーに応戦。
士郎、慎二に裏切られたと憤る。ランサーは学校の以上を察知して突入。
ライダー、魔眼発動でアーチャーを足止めし、凛を追いつめる。
ランサーと士郎強襲。ランサーに不意を突かれたライダーは負傷し、慎二は士郎に追いつめられる。
ランサーの戦法は万一目が合ったときのためにルーンをかけ、目を合わせないよう首から下に視線を合わせて戦っている。
ひざで初動は分かるのでさして戦い方に苦はない。
ライダー、宝具を使用してその場を離脱。
凛、学校の後始末の方が優先だとうながし、士郎とは戦わない。
言峰に連絡後、士郎を締め上げて白状させる。
夜、慎二に関しては自分に責任があるとする士郎。凛もそれに同意。
ただしその決着がつけば敵同士になるとはお互いに分かっている。
十日目
Fateルートと同じようにライダーが見回っていた士郎とランサーを強襲。
ベルレフォーンに投擲のゲイ・ボルクで対抗。ランサーの方が力負けするも致命傷には至らず。
士郎、ランサーがライダーを足止めしている間に慎二に肉薄。偽臣の書を奪取。
慎二、逃げようとする所をランサーに取り押さえられる。
教会にはライダーが送っていこうとするが、そこに現れたのはキャスター。
マスターである葛木が結界の餌食になりそうだった事で相当頭にきている。
ランサーとライダーが弱まっている今こそ好機だとしてセイバーを召喚。
士郎、この時初めてセイバーと再会する。
セイバー対ランサー、ライダー対キャスターの戦いが始まる。
ランサー、手加減抜きで戦えるも以前よりも能力が高いセイバー相手に大苦戦。
その分天馬を用い、対魔力の高いライダーに苦戦するキャスター。中距離が主なのでルールブレイカーも使えず。
結局キャスターたちは退却する。
夜、セイバーの事でショックを受けている士郎。
慎二に関しては教会に行かせてギルガメッシュを従えるか、そのまま士郎に協力するのか、間桐邸に帰るのか未定。
以下続く。
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Fate/goddess of rider
当然の事ながら連載予定一切なし。
と、言うわけで今回は以前考案でも書いてみた仮想ライダールートにチャレンジしてみました。
Fate本編のように衛宮士郎の行動で全ての運命が決まるのなら、ロリキャスルートを除けば自然と本編のようにセイバーを召還する事になるはず。
アーチャー対ランサーでランサーに目撃されずに立ち去る事ができれば、と以前書きましたけど、なんだかご都合主義っぽい。
なのでライダーと関係させるには慎二と組む事になり遠坂凛と敵対する以外なく、自然とタイガー道場ルート15を利用する事にしました。
さて、実はこれと同じ要領で大河ルートを目指して考えてみました。
九日目で慎二に結界を発動させないで士郎が弾いた書を大河が偶然拾う、なんてものすごくご都合主義な展開が起こったとしてそのまま進められるか。
……無理だ。この展開でも大河が第一ヒロインになる展開が考え付かない。
一番現実的なのはタイガー道場ルート15のようにまた日常に士郎が戻っていくパターンなんですが、イリヤとアーチャーがいる限り許されるとはとても…。
アーチャーに関しては聖杯戦争に関わらない士郎は人生の大きな転換を迎えないから別人物、でけりがつきそうですがイリヤは無理だろ。
どうかんがえても彼女は士郎が脱落してもしなくても関係ないような気がします。
士郎のパートナーがセイバーでは本編どおり凛が絡んでくるのでほぼ大河の出る幕無し。
やっぱ大河にキャスターを絡ませるしかないのでしょうか?
その手法を使った『大団円を目指して』は見事士郎とキャスターとの間に見事なバランスを作っているので、不可能ではないと思うのですが……。
理想で考えると大河をヒロインにするならエミヤと衛宮の問題解決が不可欠だろうと思います。
切嗣に関しては本編以上の掘り下げ方ができるのではないかと。
だから書き方次第ではとても面白くなるのでしょうけど、あまり大河ルートは見かけないです……。
それではあれば次の話で(絶対にないでしょうけど)。
2007年4月25日