「蒼崎には関わるな」
/
「あ、その醤油取ってください」
「はい、どうぞ」
「どうもありがとう」
何気ない食卓。
それは日常の中で最もそれを現す一枚の絵だ。
1人でいてもその人物と言うものがすぐに分かるし、大勢でいればその家庭そのものを写し出す。
そして、今この食卓は、もう家族同然の者たちが登場人物だ。
「どうしたんですか先輩?」
その内の1人、桜が疑問を投げかける。
「ん?」
「いえ、あまり箸が進んでいないようですけど……」
「あ、いや…」
そう言われればいつもと比べてもペースが遅いかもしれない。
と言っても、比較対照が当てにならないから一見すると気のせいかとも思われるぐらいの違いしかないはずだが。
朝食を作ったのは桜だから、余計な心配をかけさせてしまったか?
「こういう日常はいいもんだな……ってね」
その食が遅い人物、つまり俺はしみじみとつぶやいた。
「本来だったら殺し合いまでしなきゃならなかったのに、こうやって平和に暮らせるっていい事だと思うよな?」
「ええ、そうですね。私もそう思います」
俺たちの視線の先では藤ねぇとセイバーが激しくやりとりしている。
どうやら藤ねぇが最後の唐揚げを食べてしまった事で起こったらしいが、いつもの事と他の皆は静観をしている。
「そう言えばバゼットさん、あなたまた面接ではねられたらしいですね。」
っていきなりそれかよカレン。と思いながら俺は思わず頭を抑える。
その言葉を聞いて顔色を変えるバゼットだが、他は全く無反応。
つまり、これも日常の1コマなわけで。
「……なぜ誰にも話していないのにそれを知っているのですか?」
普通の人達ならまず後ろに下がるだろう鋭い視線をカレンにするけど、その彼女はいたって平然。
ちなみに、俺ももうなれてしまった。こんなのに慣れたくはないんだけど…。
「そんな事より前から聞こうと思っていたのですが」
「聞こうと思ってた事?」
疑問を無視してしゃべるカレンに遠坂が疑問を投げかけた。
またどうせろくでもない事だろうな…とか思いながらとりあえず俺も静観を決め込む事にしよう。
いざ俺におはちが回ってきたらアーチャーに全部押し付けて逃亡と言う事で。
「はい、貴女の暴力癖はもう人間としてこれでもかというぐらい致命的なもので、もはや誰もがゴミのように捨てるようなものですけど……。
おそらくそれが貴女の起源なのでしょうが、万が一の事を考えて聞いておきます」
「ほーう」
バゼットのこめかみがちょっと反応するけど、まだ許容範囲のようで。
「誰かそう言った師となる者がいたのでしょうか?」
この言葉に、バゼットは少し青ざめる。
彼女に師となる人がいたか……それは魔術師である限りいたと思うんだけど……。
「そんなまさか。バゼットの暴力は彼女の本質でしょ? だったら師匠泣かせだっただけじゃないの?」
とてつもなく素晴らしいフォローをありがとう遠坂。おかげで更に混沌だよ。
「シロウ、すみませんがその漬け物を取っていただきたい」
「分かった。ほら」
片手に茶碗、片手に箸を持ったセイバーに漬け物の皿を渡し、俺も食べるペースを速める事に。
今日はわりといい天気だから、色々としたい事があるからな。
と、そのバゼットは意外にもため息をついただけだった。
「皆さん、私をいつもいつも暴力だのなんだの言ってくれますけど、その方向では誰よりも勝っている人達がいますって」
「そんな人がいたら見てみたいって」
バゼットの発言にまたも遠坂がつっこむ。
「例えば誰よ」
「そうですね、例えば……」
と、来客を知らせる音が鳴り響く。
こんな朝早くに一体誰が何の用なんだ?
「珍しいわね。誰が出る?」
「俺が出るよ。ここ俺の家だし」
そう言って俺は立ち上がって、玄関に向かおうとする。
「待ってください。いくら聖杯戦争が終わったからとは言え、油断は禁物です。私も同行しましょう」
とバゼットが名乗りをあげる。
「……まあ、断る理由はないし、そうしようか」
バゼットの意見にも一理はあるし、無下に断るわけにもいかないので、2人で玄関に向かう事に。
「本当に誰だろう?」
首をかしげつつ俺は玄関の鍵を外し、ドアをあける。
そこに立っていたのはバゼットやライダーとはまた違った大人を思わせる女性だった。
着ている服は今流行のではなく、いたって質素なもので、飾り気が何もない。
でも間違いなく美人の分類に入るほうだと思う。化粧も何もしているようには見えないのにそう思わせるのはすごいと思う。
その顔つきは引き締まっていて、聡明さを感じさせるものだった。
が、間違いなく彼女はつかれきっていた。これでもかと言うぐらい。
「あの、どちら様で?」
俺は彼女がしゃべりださないのでそうきりだす。
その彼女もその事に気づいたようで、頭を下げた。
「失礼しました。私は時計塔に属する魔術師で、フォルテと申します」
「……!」
時計塔の人が何でここに……!?
まさか俺たち、いや、セイバー達に何か用があるのか……!?
「あなた方には何もいたしませんのでご理解を。私が用があるのはそちらにいるバゼットだけですから」
「何であなたがここにいるんですか、フォルテ」
そういいながらバゼットはファイティングポーズを構えて……ってええっ!?
「ちょっとバゼット! いきなりそれは……!」
「士郎君、フォルテが一体どんな人だか知っているのですか?」
「え? いや、知らないけど……」
「彼女はいわゆる封印指定の者のガードなどを請け負う、いわゆる私みたいな執行者なんですよ。一体どんな目的でここに来たのだか」
そんなバゼットに対し、フォルテさんは……。
え? すがりついた?
「お願いです。もはやあの2人を止められるのはあなたしかいない!どうかお願いしますから助けて〜」
「は?」
いきなりの調子の狂いに、思わずあきれ返るバゼット。
フォルテさんはその美貌が台無しなほど情けない声をあげてバゼットへの懇願を続ける。
「あの翁までがさじを投げて、私にはどうしようもないんです〜」
「翁までが……?」
翁……って誰さ?
一方のバゼットは何バカな事を言ってるんだという顔をしている。
「あの翁がさじを投げる事なんてあるはずがないでしょう。サーヴァントだって彼には勝てないでしょうし」
「あの2人が相手でも?」
サーヴァントにも勝てる人物がさじを投げる? その2人をバゼットに止めさせる?
一体どうしてなんだ?
「あの2人が相手でもそんな事が言えるんですか? バゼットさん」
「ですから翁がさじを投げるだけの相手とは……」
と、そこでバゼットの言葉が止まる。
そして、見る見るうちに顔色が青くなっていく。
「ってまさか……あの2人ですか?」
あの2人、の部分に微妙なニュアンスを含んだが、フォルテさんは静かにうなづいた。
そして…バゼットが暴れだす。
「はっ離しなさい! そんな世界最悪の事態に首を突っ込んでたまりますか!」
「既に首どころか足の先まで浸かってるじゃないですか! だったら潔くあの姉妹の犠牲に……! さもないと世界がー!」
「たとえそのせいで世界が滅亡しても絶対に私は関わりませんからね! あなた1人が犠牲になれば話は終わりではないですか!」
「そんな殺生な事言わないでお願いですからーっ!」
……一瞬でフォルテさんのイメージが崩れました。
まるで子供のダダみたいにすがりつくフォルテさん、そしてそれを必死にはがそうとするバゼット。
「ちょっとちょっと、どうしたのよ」
「先輩、何かあったんですか?」
その様子を聞きつけたようで、遠坂たちが玄関に現れる。
バゼットたちのコントにしか見えないそれはまだまだ続く。
「大体貴女は2人にとっては特別な存在なのでしょう! でしたらあの2人を止める権利が……!」
「そんなもの要りません! 権利で言うならあなたこそあの2人を止めなければいけない義務があるのではないですか!」
「あの姉妹をどうやって止めろって言うんですかーっ!」
「あの姉妹……だと?」
と、フォルテさんとバゼットの会話にいきなり割り込んできたのはアーチャーだった。
「あの姉妹とは……あの姉妹の事か?」
「……多分あなたが考えている姉妹で正しいと思います」
フォルテの言葉に、アーチャーは一瞬で表情を変えて……。
「悪いが急用を思い出した。凛、しばらく私は留守にするから」
「ちょーっと待ちなさい」
明らかに逃げ出そうとするところを襟首つかまれました。
「あんた英霊のくせに逃げ出そうだなんてどう言う事よ。その姉妹ってのが誰だか知らないけど、ちゃちゃっと片付けてやりなさいよ」
「凛もあの2人にじかに関わってみれば分かる。あれはもはや世界がどうにかできる相手ではない」
そして情けない事を言い出しながら必死に遠坂への説得を開始する。
……俺、今とてつもなくため息をつきたいんだが。
「それギャグ漫画とかで超強いやつがヒロインになすすべなくボコボコにされるのと同じ?」
「違う! 決して比喩なんかではない!」
そして真顔でアーチャーは続けた。
「あの蒼崎姉妹は!」
その言葉に、遠坂とカレンの表情が凍る。もうバゼットとフォルテさんはこの世の終わりが来たかのような顔をしている。
表情が曇っているのはイリヤだけで、俺、桜、藤ねぇは当たり前、ライダーやセイバーも誰のことなのかさっぱり分からないようだ。
「アオザキ……シマイ?」
ギギギ、と首を動かして遠坂はフォルテさんの方を見つめる。
肯定はしたくない、決してしたくない、だがフォルテさんはこくりとうなづいた。
「それではあとはお任せしましたので、私はこれで」
「「「ちょっと待ちなさい」」」
立ち去ろうとするフォルテさんをバゼットが止め、遠坂が倒し、カレンが聖骸布で拘束した。
「嫌だー! あの2人には関わりたくなーい!」
「あなたには一切の黙秘権もありません。全てをしゃべってもらいますからね」
絶叫をあげるフォルテさんをずるずる引きずりながら家へと運ぶカレン。
そして衛宮の家の玄関は閉められた。
/
「まずアオザキ姉妹ですけど、ご存知でない方がいるようなので説明しますね……」
藤ねぇには聞かせられないような内容みたいだったので、アーチャーが送っていった。
説明を始めるフォルテさんは元より、遠坂とカレンの表情は青ざめていて、バゼットはもはやムンクの叫び状態だ。
「まずアオザキ姉のトーコは封印指定を受ける魔術師で、ルーン魔術と人形師の名においては世界でもトップクラスです」
ルーン魔術ってランサーやバゼットが使うあれか。
それと人形師……?
「人形師は肉体の原型を目指す者たちの総称みたいなもので、トーコは第一人者です。もしクローン技術がなければ魔法にも分類されるほどの」
「魔法にも!?」
桜が驚きの入った声をあげた。
魔法にたどり着くのは魔術師であれば誰でも目指す事だ。
しかもクローン技術と言うことは数十年だけ前なら魔法使いになっていたと言う事だろう。
……ちょっと皮肉かもしれないな。
「それと、ルーン魔術に関してもトゥーレ協会にあるオリジナルに近づけた事で他の魔術師からも一目置かれていました」
「当時はルーンが残念ですが学ぶ者も少なかったですから……」
とバゼットは言いながらあさっての方を見る。
何かとんでもない思い出でもあるのか?
「そして妹のアオコは魔術師としては3流ですが、第四の魔法使いでもあります」
「「「「魔法使い!」」」」
俺と桜ばかりでなく、ライダーとセイバーまでが驚きの声をあげた。
今やこの世に5人以下しかいない魔法使い、その中の1人がその青子という人なのか……。
……ん?
「あのさ、魔術師って普通一番上の子供が受け継ぐんじゃなかったのか?なのになんで妹が魔法使い?」
「そこです!」
俺はふと疑問に思った事を口にするが、フォルテさんがその言葉を聞いて指をこちらにさす。
「これはあくまで想像ですけど、アオザキの先代がトーコを犠牲にしてアオコを魔法使いにしてしまった事がそもそもの原因なのです。
その結果、魔術協会の最も頭を痛める事になってしまって……」
漫画なら「よよよ」と擬音がつきそうな感じに眉間を押さえてうつむく。
「でもそれじゃあサーヴァントにも匹敵する人がさじを投げる説明にはなってないんじゃあ……」
「まずアオコの方ですが、彼女は事破壊に関しては世界一と言ってもいいぐらいの才能と能力があります。ついたあだ名がマジックガンナーなど。
そしてなによりそれに拍車をかけているのが、高速詠唱と魔力燃費が他の魔術師をはるかに上回る事です」
えっと、つまり破壊魔術を高速で詠唱する上に、その魔力消費は極端に少ないって事か?
「普通の者が500ぐらい必要なものを5で済ましたりする事もザラのようですから……」
「……!」
思わず息を呑んでしまう。確かにそんなとんでもない事ができるんだったら、バゼット達が恐れるのもうなづける。
「次にトーコの方ですが、彼女自身は全く戦いには向いていません」
「戦いには向いてない?」
「人形師であるので、己が強くなる必要が全くないからです。人形が強くなれば事足りますから。」
と、ここでフォルテさんの言葉が止まり、身震いをする。
「彼女たちが戦った事は何回かありますが、最後に戦ったのでは総力戦になりました。先輩は使い魔や人形をフルに、青子さんも魔力を惜しみなく
使い、死闘をしました。その結果抑止の守護者まで出たとか出ないとか」
「抑止の守護者が!?」
バゼットの発言に遠坂は信じられないと言った顔をして立ち上がる。
話半分かもしれないけれど、とにかくそれほどすさまじい事だったんだろう。
「青子さんの魔術はランクで言うならAはざらにぶっ放してきますからね…。通常の真祖となら互角で戦えるほどだとか」
「Aをざらに!?」
今度は俺が驚愕の声をあげた。Aって言ったらセイバーがかろうじてキャンセルできるレベルじゃないか。
「その様子はさながら現代戦争のようだったとか。どれだけもみ消すのに大変だったか……」
現代戦争って、あのミサイルとかがバンバンでてくるようなかんじか?
……絶対に関わりたくないな。
「てなわけで、どうかあの2人を止めるために力添えを」
どこで覚えたのか、フォルテさんは深々と土下座をする。
「ちょっとフォルテ、まだ肝心の、その姉妹がどうしてまた戦うだなんて言い出したんですか?」
「知っていれば対処ができるとでも?」
「う……っ!」
バゼットの中ではそれは確実に無理と思う事らしい。
「あの、フォルテさん、なぜそれでバゼットさんを頼ってきたのですか?」
おそるおそる桜が手を上げて発言をする。
正直俺もそれは疑問に浮かんでた。
「いえ、単純に戦力と状況を踏まえれば貴女が最適だと協会に言われただけですので、なんとも」
「「「「「「うわっ」」」」」」
バゼットとフォルテさんを除く全員が声をあげた。
今なんかものすごく納得できた気がする。
「そして、なぜ決闘の場が冬木になったかは知りませんが、とある事情でいち早く察知した私がこうして出向いているわけです。お力添えを」
聞けば聞くだけ無謀に思えてきたんだけど……。
ちらっと遠坂を見ると、かなり真剣な顔つきをしている。
やっぱり自分の管理下にある地でドンパチをさせたくはないらしい。
「それで、具体的にはどうすればいいのよ。まさか考えもなしに助力を求め用だなんて思ってないでしょうね」
「まずトーコは封印指定を受けているので、この事件が公になる事を嫌うはずです。そこのところで釘をさします。
アオコの方は気絶させた上で翁の前に引きずり出す以外考え付きませんが……どうでしょうか?」
フォルテさんは咳払いをして一区切りおく。
「重要なのは、あの2人を合わせない事です。1人を相手にするなら対処法がありますから」
「対処法なんてあるのかしら?」
「アオコの方は格闘もできますが、達人クラスではない。したがって対魔力が優れているものならばあるいは、でしょうか。
トーコの方は用意する人形にもよりますが、たいていアオコに対抗するものを用意してくるので近距離戦に優れたものを当てるべきでしょう」
なるほど。その2人に決闘をさせない事に重点を置いて、1人ずつ対処しようとしてるのか。
「ですからバゼット、貴女がアオコを相手してください。私が何とかトーコを説得しますので」
「なんで私のほうがマジックガンナーなんですか!」
うがー、と怒鳴ってバゼットは立ち上がるが、フォルテさんはいたって当然の事だとばかりに話を進めている。
「私の空気打ちでは彼女に対抗できないからに決まってるじゃないですか。そんな事も分からないと?」
「私にだって青子さんに対抗できるはずがないじゃないですか!セイバー並の対魔力があるならともかく……!」
と、そこで2人の会話がぴたっと止まる。
そしてゆっくりとこっち側のほうに顔をむけて……?
「……よく考えれば私たち人間が相手をする必要もないんでしたね」
「……全くです。そんな簡単な事を失念しているとは情けない」
え? この流れはもしかして……?
「ちょっとフォルテって言ったわよね。何でわたしたちが関わらなきゃならないのよ!」
「至極真っ当な意見ですが、それはあの2人に言ってください。魔術師がこの地にいた事で彼女たちを止めねばならない義務が生じたのですから」
やっぱり俺たちを巻き込む気か。
それに気づいた遠坂は思いっきり机に手をたたきつけた。
ひびははいってないようだけど……その机もタダじゃないんだからな。
「遠坂、その蒼崎姉妹を知ってるのか?」
「じかに会ったわけじゃないけど、魔術師なら誰もがこう言うわ。「蒼崎には関わるな」ってね」
「うあ」
関わるなって、どんな存在なんですか?
「いっその事ほとぼりが冷めるまで放っておくのは?」
「この街への被害が甚大になってもよろしいなら構いませんが」
「……」
今度こそ、遠坂は机に沈んだ。
それを見つめる事数秒、セイバーが俺に話しかけてくる。
「……シロウ、どうしますか?」
「…………街に被害が及ぶかもしれないんだったら、止めるしかないだろ。どんな相手だろうと」
いくら魔術師の誰もが関わるなと言っていようが、街に迷惑をかけるなら、止めるしかないだろ。
どんな人が相手だろうとも……。
「それでは私がアオコの方を相手します。一応説得を試みるつもりですが、対魔力が一番高い私が適任でしょうから」
「では私がそれを援護しましょう。セイバーほどではありませんが私にも対魔力はありますし」
とセイバーとライダーが名乗りをあげてくれた。
それが何より心強く聞こえた。
「トーコの方はどんな戦いになるか分かりませんから、アーチャーが相手を務めるのが一番だと思いますが、どう思いますかリン」
「……そうね。戦いが避けられなくなったらアーチャーに頼むしか……あれ?」
遠坂はそこで言葉をとめて周りを見渡す。
と、そこで俺も気づく。
もしかして、アーチャーはまだ帰ってきてない?
「ちょっと、あれから何分経ってるの?」
「……軽く30分は経ってるぞ」
「アイツ逃げたわね」
……俺の目の錯覚だろうか。遠坂の後ろにめらめらと炎がミエテクルー。
/
「……来ます」
フォルテさんが俺たちに合図を送った。
決闘の地と予測された公園内にはあらかじめ人払いの結界をはっておいたので人は俺たちしかいなかった。
時刻は夕方をまわっているのであまり違和感を感じないんだが。
そして、彼女はやって来た。
身長は俺より少し低く、赤い長髪をたなびかせた女性が鞄を持って公園の方へと足を進めている。
と、どうやら結界に気づいたみたいだが、あっさりとそれを乗り越える。
「待ちなさいアオコアオザキ!」
と、木陰からフォルテさんがその青子さんと呼ばれる人の前に立ちふさがった。
俺たちもそれに続く。
「トーコとの決闘はさせはしません。今すぐ時計塔に帰っていただきます」
「あら、フォルテじゃない。やはー。お久しぶりね」
かなり気軽に青子さんは手を上げて挨拶をかわす。
一見すると普通の女性にしか見えないけど……?
「前回の事を忘れたのですか! 貴女方の私闘によってどれだけの迷惑がこうむられているか……!」
「んー、あなたをこんなふうにしたくないんだけどねー……」
どこから出したのか分からないけど、放り出したのは黒焦げの塊……?
「シロウ、これアーチャーですよ。間違いありません」
「へ……?」
俺は思わず間抜けた声をあげてしまう。
黒こげの塊は「もういやだー」とかなんとか言いながらうめいて体を痙攣させている。
……俺は絶対にこうはならないぞ。
「ですが英霊である彼がなぜここまで一方的にやられているのですか?」
「英雄までねじ伏せるとは……。どこまでデタラメなんですか!」
「……さあ? なんだかものすごい形相だったから怖くて不意打ちしかけたんだけど」
……納得。
不意打ちで大魔術をされたんじゃあたまらない。
って不意打ちしたくなるほどの形相って……もしかしてアーチャーのヤツ、蒼崎のどちらかを見かけたら一方的にヤる気だったのか?
「ところでフォルテ、もしかして邪魔する気?」
「もちろんですとも」
そう言いながらフォルテさんは剣をとりだした。
……穴が三つ? 随分と脆そうだけど、大丈夫なのか?
「……なるほど。対魔力に優れたサーヴァントを用意したって言うのね。そういえばここ聖杯戦争の地だったっけ。失念してたわ」
「分かっているのなら話が早い。いくら貴女でも対魔力に優れたサーヴァント2体も相手にできるとは思えませんが?」
「それに対する言葉は1つよ」
と、いきなり閃光が走って……?
「危ないシロウ!」
それがセイバーに直撃する。
「セイバー!」
「大丈夫です。ですがこれほどの威力をあそこまで短縮した詠唱で行なうとは……」
と言う事は今の閃光は青子さんが放った魔術なのか……?
「押しきる」
青子さんはまるでキャスターみたいに幾つもの光球を発生させる。
その1つ1つが街に破壊の後を残すに違いないほど威力を持っていることが分かる。
対するフォルテさんはもうこまかいふるえが止まらない。
「被害は全て時計塔を通してあなたに請求させてもらいますからね」
「いや、できればキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグあてで」
「何どさくさにまぎれて翁に責任なすりつけようとしてるんですか!」
「前々回もそれで通ったし、いいんじゃない?」
「そんな事をしていたのですか!貴女って人は……!」
……なあ、これ死闘だよな?
/interlude
「……来ます」
バゼットはゆっくりと立ち上がり、結界のはってある公園入り口で、その人物の前に立ちふさがった。
水色のショートヘアの麗人、手には二つの鞄があって両方人が入れそうなほど大きい。
麗人は加えていた煙草を地面に捨て、新たな煙草を取り出す。
「蒼崎橙子、青子との決闘をさせるわけにはいきません」
「バゼット・フラガ・マクレミッツ? ……おまえがこの場にいると言う事は、私をどうにかしに来たのか?」
面白くない、と言った顔をしながら煙草に火をつけた。
「いえ、協会からはそのような指令は受けていない。ただ貴女が青子と決闘するとあれば見過ごすわけにはいかない」
「……まさかそれを言うためだけに日本に来たわけではあるまい。何が目的だ?」
というには言ったがその麗人、橙子は何かに気づいたように手を叩く。
「そうか、聖杯戦争に参加したのか。と言う事は長年のあこがれだったクー・フーリンを呼び出せたのか?」
くくっと笑いながら橙子はそうつぶやく。
バゼットはその言葉に手を強く握る。
「ええ、召喚しましたよ。それが何か?」
「では青子のやつをぶっ殺すための戦力を持った私を止めるぐらいだ。サーヴァントの1人や2人ぐらい用意しているだろうと思ってね」
通常の魔術師ではサーヴァントの相手にもならない。それを分かっていながら橙子の自身には揺るぎがない。
「ところでバゼット、そっちの少女は誰だ? まさか彼女がサーヴァントではあるまい」
「始めまして橙子さん。私はこの冬木を管理する、遠坂凛と申します」
バゼットの隣にいた凛はそういいながら挨拶をする。
ただし頭は下げない。
「単刀直入に言いますが、青子との私闘を行なうのを止めていただきたいのですが」
「無理だな。大方あっちの方にもこうして誰かが出向いてるんだろ。アイツが現れなかったらまあ止めてやるが、私から止めるつもりはないぞ」
「そこをまげて何とか」
「二度同じ事を言うつもりはないぞ」
煙草の煙を吐き出しながらなおもつぶやくような口調は止めない。
説得は無理だと判断したのか、遠坂とバゼットは戦闘態勢をとる。
と、2人の前に立ったのはイリヤだった。
「イリヤスフィール! ここは私たちが……!」
「大丈夫よ。ちゃーんと頼もしい助っ人がいるんだから」
にやっと笑いながらイリヤは橙子の方を見る。
「始めまして蒼崎橙子、わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」
「アインツベルン! ……そうか。魔法使いの系譜か」
橙子はふっふっふ、とどす黒い笑みを浮かべて煙草を捨てる。
「魔法使いねぇ……」
橙子は一歩踏み出した。
「押し切る」
「そんな事ができるかしら。バーサーカー!」
その言葉と同時に、橙子たちの目の前に2メートルを軽く超す大男が現れる。
それを見て橙子はほう、と関心の声をあげる。
「やれやれ……私自身には戦闘能力は皆無だと言うのに。誰かさんと一緒にしないで貰いたいね」
その誰かさんとは果たして誰の事を言っているのか、それは誰にも分からないが、橙子は持っていた鞄を地面に無造作に置いた。
すると自動で鞄の鍵が空いていく。
「ではごきげんよう。残念ながらこの場で全部の手の内を見せるわけにはいかないんでね」
「いかせないわ。やっちゃえバーサーカー」
「■■■■■■――――っ!!」
バーサーカーは咆哮をあげると、一直線に橙子へと襲いかかった。
一方の橙子は足にルーンの魔術をかけて全速力でその場を離脱する。
バーサーカーは残った鞄に向かって斧剣を振るって……、
何かが飛び出した。
ソレはバーサーカーから距離をとるように着地し、向かい合った。
ソレを見たバゼットは驚きに包まれた。
彼女を見た事がないイリヤたちはともかく、見覚えのあるバゼットにとってはそれは驚きの対象であった。
「あ……青子……?」
そこにいたのはまぎれもない蒼崎青子その姿だった。
が、ソレに表情は全くなく、ただの人形を思わせる。
いや、実際トランクに閉まってあったものだろうから橙子の作品、言うなら青子人形なんだろう。
「■■■■■■――――っ!!」
だがそれの正体など知った事ではないバーサーカーにとっては目の前のモノは倒すべき相手に過ぎない。
一秒にも満たない時間で間合いを縮め、剣を振り下ろす。
その瞬間、またしても目を疑った。
青子人形の動きはサーヴァントと比べるならはっきり言って遅い。
バーサーカーが間合いを縮めようと踏み込んだのと青子人形が飛び上がったのとは同じ時間。
だというのにバーサーカーの攻撃をかわしたのはかろうじて。
だが、問題はそれではない。
問題なのは、その青子が変形をした事だった。
「えっ?」
「うわ……」
なんだか昔のロボットアニメよろしく、腕とか足とかが変形していく。
収納したり伸びたり縮んだり。音が妙にするのは偶然だと言いたい。
「……何アレ?」
「悪趣味な……」
そうして成った形態は鴉だった。
ただし、部分部分が人間の形態を残していてグロテスクなんだが。
「……今後のためにもアレは一秒でも早くこの世から消し去るべきですね」
「そうね」
こんなのが公になった暁には、と思うとぞっとする。
鴉の形態だけあって空を飛んでいる。
飛び道具がないバーサーカーではジャンプをした所でかわされる可能性が高い。
よってイリヤたちは速やかに魔術での遠距離攻撃に切り替えたのだった。
interlude out
/
「待たせたわね」
「そんなに待ってはいない」
公園の中心部、2人の女性が対峙していた。
公園内はとてつもなく静かで、誰もが息を飲んでいる。
「結局そっちもやられたのね……」
「申し訳ありませんシロウ! 私がもっとしっかりしていれば……!」
セイバーは土下座で俺に謝っている。
ちなみに、そんな俺もアーチャーと同じように黒こげになってしまっている。
「いや……、俺が至らなかったせいでこんな結果になったんだから、セイバーが謝る事じゃないよ」
「いえ、全ては私がふがいないせいです! 申し訳ございません!」
回想スタート
青子さんの魔術はキャスターのように詠唱なしではなかったけど、高速詠唱でとんでもない威力の魔術を次から次へと放ってきた。
はっきり言って相手がアーチャーやランサーだったら互角以上の戦いをしていたかもしれない。
けど相手はセイバーとライダー、対魔力では優れた2人を相手に青子さんの表情はとても厳しかった。
「くっ! これじゃあキャスターが例外なく最弱って呼ばれるわけね。ここまで対魔力が高いだなんて…!」
「メイガス、降伏をおすすめします。貴女は確かに優れた魔術師なのでしょうが、我々相手に勝てるとは思えません」
「はっ! それこそまさかよ!」
ちなみに戦っているのは2人だけで、俺と桜はただ静観するだけだったりする。
「……すごいですね、あの青子さん。あの2人相手に勝負できるなんて」
「ああ、俺が相手だったら5秒ももたないんじゃないか?」
いや、冗談じゃなくて本気な話。
とは言ったものの魔術による攻撃は牽制程度にしかなっていない。
うまく立ち回っているのはそれに集う余波や格闘術を駆使しているから。
だけど見る限りじゃあこっちが優勢なのは間違いない。
「でも悪いけど、終わらせてもらうわ」
青子さんはセイバーとライダーと若干距離をとって、それこそドラゴ○ボールみたいにタメのポーズに入る。
「く……っ! 大魔術を使う気ですか! なら…!」
「ってセイバー! セイバーが宝具を使ったらそれこそ街に被害が……!」
「私が今アオコに放てば被害はなしですむ位置にいるようです!」
へ…? そうなのか?
セイバーは風王結界を解き、魔力を剣に集め始める。
「それって偶然?」
「いえ、どうやらアオコの方がわざとその位置にいるようですけれど……」
青子さんは足を大きく開いて両腕を引いて、一呼吸おく。
「スヴィアッ! ブレイクッ!」
そしてとてつもないほどの魔力の閃光を解き放って……。
「って何あの威力の魔術! まるで宝具じゃないか!」
「シロウもサクラも下がってください!」
率直な感想を叫ぶ俺の前にセイバーが立ちはだかった。
そしてセイバーは……。
「
至高の光を解き放つ…!
「
その光は瞬く間に魔力の閃光を飲み込んでいき、一直線に青子さんの方へと進んでいく。
「セイバー! あれじゃあ青子さんが死んじゃうんじゃないか!」
「青子さんがそんな簡単に死ぬはずないじゃないですか! 像どころか恐竜すら殺すような人なんですから!」
バゼットはそう絶叫をあげる。
でも正直あれで生きているというのは……。
「シロウ!」
と、いきなりライダーはセイバーと俺たちの間に割って入った。
ライダーが見上げるのは……ななめ上?
「スライダーッ!」
視線を上げた瞬間、数メートルは飛び上がった青子さんが、再び魔力の閃光を放ってきた。
「なっ!」
驚くのはセイバーばかりではない。
つまり、先の2つの魔術はセイバーに宝具を使わせるためのオトリで、狙いは3撃目。
今からあれをかわすのは無理だ。なら俺がやるしかない……!
「
「
俺の前ではライダーが宝具を放つために準備を始めている。
そして…。
「
「
俺とライダーが宝具を放ったのはほぼ同時。
ああ、やっぱり俺のやつは花びらが7つもない。
あれから鍛練はさぼってはいないけど、4枚出せれば良い方か。
でもそれだけで今回は十分だったようだ。青子さんの大魔術の方が弱い。
「うっそ……!」
と青子さんが言ったのかは分からないけど、多分言ってたと思う。
が、宝具と大魔術のぶつかり合いから数秒、いきなり手ごたえがなくなった。
「しまった……! サクラ、シロウ! 手ごたえが急になくなりました! 気をつけて……!」
「なぎ払え!」
その瞬間、俺の意識は闇の中へと消えた。
回想終了。
「失念してました。青子さんの属性は風、消失と出現は彼女のおはこでした。まさか大魔術そのものがおとりだったとは……」
結局あの時は大魔術を放棄して俺らの後ろに現れた青子さんは、あの大魔術よりは弱い威力のもので俺たちを攻撃、見事に俺に直撃した。
なんでもバゼットの話では、某格ゲーから取って青子ゲイザーとか呼ばれてるらしい。
バゼットは桜を救うのが精一杯だったようで、俺だけがこうなったわけだ。
「もしこれが聖杯戦争でしたらシロウは死んでいたのですよ!そう思うと私は……!」
「だから、今はその聖杯戦争じゃあないだろ。だったらそんな悲観しないでくれ。俺が悪かったんだから」
「どちらも悪くありませんよ。と言うより青子さんを前に五体満足でいられた事が既に奇跡ですから」
と淡々と語るバゼット。遠くに視線をやるのはなぜだろうか?
「で、遠坂の方はどうだったんだ?」
「それがね……」
遠坂の回想開始
蒼崎橙子が去った後、残ったのはグロテスクに変形する人形。
もう色々な形に変化してね、強くないんだけど攻撃が中々当たらないのよ。
ただの時間稼ぎとしか思えないようなやつだったんだけどね。
「この……っ!」
「いいかげんにしなさいよっ!」
わたしとイリヤが同時に魔術を放っても鴉の形態になっていて簡単に避けられてしまう。
さすがにソニックブームを起こすだけの威力を持ったものを使う事もできない。
だって、もったいないし。
青子人形とやらがまた変形をする。
今度は蜘蛛のようになってカサカサ動き回る。
地面にいるからバーサーカーでも攻撃できるし、と直線的に向かうけど木々をなぎ倒すばかりですぐにまた鴉になって逃げてしまう。
だからと言って放っておこうとするとバーサーカーよりわたしたちの方を優先するらしく、追ってくるし。
それになんだか得体の知れない液体を口からたらしてくるし。
「……うまいことアレを地上に落とす方法、ある?」
「あればとっくにやってるわよ」
「……さすがに飛び回るだけのモノを倒す装備もないですし」
ああもう、これでアーチャーが健在、もしくはライダーがこっちにいればあんなやつあっさりと倒せるのに!
こっちはわたし、イリヤ、バゼット、バーサーカー、伸びてるアーチャーなのよね。
今度は蛇のように変形して林に身を潜める。
それをギリシア神話に出てくるエキドナみたいだな、なんて思ってしまう。
もうなんに変形しても驚きそうにない。
……本当にこれ、時計塔に持っていったら魔術師たち何て言うんだろう?
「……なるほど、どうやら状況に応じて一番生存率が高そうな形態を主にとるらしいな」
「そうね。でなければとっくにバーサーカーにミンチにされてるはずだし」
「上空を飛び回る人形か。中々ユニークなのを創ってくれる」
「ユニークで済むもんじゃないわ。アレ時計塔に送ったら間違いなく爆笑する側と青ざめる側に分かれるわ」
もちろんあの蒼崎青子がその場にいない事が前提条件。
でなければみんな静まり返るでしょうしね。
「では倒すとするか」
「……え?」
わたしは思わず驚きの声をあげてしまった。
隣に立っていたのは、アーチャーじゃないの。
「あんた、いつ復活したのよ?」
「蜘蛛になってイリヤに襲い掛かろうとしたらへんからだ」
ってそれ随分前じゃないの。
「なら早く倒しなさいよ。こんな寒い所こりごりよ」
「了解。マスター」
ふふ、と笑いながらアーチャーは進み出る。
敵のアーチャーはそれを察知して、睨みつけてきた。
「
アーチャーが宣言すると無数の鎖が上空を旋回する人形へと襲いかかる。
見ると神秘性はあまりない。ただ数が多い。
四方八方、上から覆うように襲うから逃げ場は自然と限られてくる。
つまり、下のほうだ。
「■■■■■■――――っ!!」
そして一閃。
バーサーカーの一撃で人形は上半身と下半身で真っ二つになった。
自動人形の部品がバラバラと地面に落ちていく。
それでも上半身だけは何とか動こうとしている。
「……こんなの跡形もなく処分するに限るわね」
「そうね」
「同感です」
わたしたちの意見も一致した事だし、早々に始末する事に……、
「凛! 迂闊に近づくな!」
「え?」
アーチャーの言葉に止めをさそうと動いていたわたしの体が止まる。
と、青子人形はいきなりこっちの方を向いて……、
自爆した。
「バーサーカー!」
真っ二つにしたのがバーサーカーだったから彼が一番前だった。
だから爆発の勢いは全部彼が受け止めてくれた。
残ったのは青子人形があったと見られるクレーターだけ。
もう部品1つも落ちていない。
「何これ……機密保持の機能?」
「……合体変形自爆システム。ロマンだそうだ」
……ロマンなんかでそんなの創ったの?
魔術師を一体なんだと……。
『はあ……』
バーサーカー以外のため息が全く同時に出る。
こんなの偶然じゃなくて必然よ。
回想終了
「むご……」
「衛宮くん、何か言ったー?」
「いえ、何も言ッテマセンヨー」
俺はその光景を想像しながら思わずつぶやいた。
ちなみに後始末はほったらかし。今はあの姉妹の方を優先するんだそうだ。
一応人払いの結界は張ったそうだけど……。
「これ以上ややこしくしないでね(はぁと)」
と笑っていたけど俺には
「これ以上何かやったら遠慮なく死以上をプレゼントするわ(くろはぁと)」
に見えたのは心の底に秘めておく。
「カレン、そっちの方はどうなの?」
「ええ、しっかりランサーとアーチャーを連れてきましたよ」
とカレンは後ろで不満たっぷりのサーヴァント2人の方を見る。
万が一私闘がとんでもない事になった時のために連れてきた。
こっちにはサーヴァントが計6人。真祖が来ても勝てる戦力だろ。
「何で俺がこんな事をしなきゃいけないんだ?」
「黙りなさいこの○○。何でしたらあなたを今すぐ……」
「ぐ……っ!」
わなわなと拳をふるわせるランサー。
このままだと血の涙すら流しそうだ。
「なぜ我がこんなことまでせねば……」
と、ギルガメッシュが口を開いた。
「あれ? 面倒ごとならあっちの方に押し付けないのか?」
あっち、つまり小ギルの方に。
俺てっきりそうするかと思ったんだが。
「この雑種にいえ。この姿の方が何かと都合がいいとか言っていたぞ」
そう言ってカレンの方に親指を向けるギルガメッシュ。
「しかもぜひそうしてくれとランサーが我を拝み倒してきてな。全く、生前もこいつほど我をあがめた者がいたか……」
「そうしなくちゃ毎晩またメシがアレになるんだっつーの……!」
目を血走らせながらランサーがそう力説した。
あー、なるほどね。結局1人損をしてるのはランサーなのか。
「……駄犬、そろそろ私事はおしまいにしたらどうです?」
カレンがぼそっとそんな事を言ってくれる。
それで巻き起こる論争をよそに、俺は目の前の戦いを見る事にした。
橙子さんと青子さんの戦いはハタから見てもとんでもないものだった。
橙子さんが出したのは二次元的な巨大ネコと葛木先生のような日本人の男。フォルテさんが言うには荒耶宗蓮と言うらしいけど、人形だ。
それに対抗するように、青子さんは先ほどセイバーたちにやったのと同じく早いスパンで橙子さんを攻撃していた。
戦局は、明らかに青子さんの方に傾いているように見える。
「すまっしゅー!」
と、日本人の男は青子さんの魔術の一撃でその場に倒れる。
そして、次の魔術の一撃でそばにあったトランクが破壊した。それによって出現していた二次元のネコは消え去る。
「さて姉貴、これで私の勝ちみたいだけど?」
「そうだな、人形も機械も破壊された私にできるのはせいぜいルーン魔術ぐらいだ。それ程度ではお前にはかなうまい」
敗北をあっさりと認める橙子さん。
…にしてはやけに余裕があるな。
「なあバゼット、あの2人の決闘ってあんなさわやかに終わるのか?」
「まさか。最終的な決着は片方が気絶か再起不能になるまでやると言うのが通例です。ですからまだ続く可能性が」
と、とんでもない事を口にするバゼット。
「……でもあの状態からじゃあ橙子さんは覆しようがないんじゃないか?」
あの日本人人形が青子さんと戦っている間にやったのもルーン魔術での補助がほとんどだったし。
「ルーン魔術で青子さんに勝てるものなのか?」
「ルーン魔術では無理でしょうね。私でもランサーでも」
「俺の本分は槍なんだけどな」
ととても退屈そうにランサーは付け加えた。
「しかし、私が聞いた話では橙子は匣の魔物を所有しているようです。本気で殺しあうならアレを持ってこないはずがないのですが……」
「そうですね。トーコはアオコを第四魔法抜きにしたとしても寸分たがわず創りあげる技術を持っていますから、アラヤを創るはずが……」
とバゼットとフォルテさんは口々にそうつぶやく。
橙子さんと青子さんの会話は続く。
「で、姉貴。いつもみたいに「こんなこともあろうかと」はないの?」
「ピンチでないのにそんな台詞を使う必要はない。全て想定内だからな。アラヤでもお前には勝てんだろ」
「じゃあまだ手があるって言うの?」
「もちろん」
そう言うと橙子さんは手をあげた。
魔術的要素も次への攻撃でもない、全く意味のない行為。
が、次の瞬間、
「ふっ!」
橙子さんは横の方に飛ぶ。
一瞬だけどルーンの文字が見えた。あれで自身の身体を強化してるのか?
「逃がさないわ」
ほぼ詠唱なしで青子さんは魔力の塊みたいな弾を高速で橙子さんに放つ。
それは真っすぐ橙子さんに向かい、
一瞬で橙子さんは消えて、俺たちの方に炸裂した。
「危なかったわね。まさかルーンでかわすだなんて……!」
理屈は簡単、ルーンで更に強化してそれをかわしたにすぎない。
その先に俺たちがいたってわけ。
「メイガス! 貴女という人は……!」
ってセイバーは剣を橙子さんの方に向けてるよ。
「セイバー。少し落ち着いて……」
「もう少しでシロウが傷つくところだったんです! 黙っていられますか!」
「その通りです」
ってライダーも戦闘状態になって橙子さん睨んでるし!
「彼女はわざとこちらに当たる事を想定してよけた。もう少しでサクラが傷つくところだったんです」
「シロウ、すみませんがとめるなら令呪を使ってください」
「なんでさ」
何かとんでもない事に……ん?
ギルガメッシュがわなわなとふるえている。
ってこれはまさか……。
「雑種……! よくも我の服を汚してくれたな!」
ギルガメッシュが睨む方向は……攻撃を仕かけた青子さんの方だ。
「万死に値するぞ」
指を鳴らすとギルガメッシュの背後に無数の宝具が出現する。
もはややる気満々だ。
「カレン! どうにか……!」
「そうはいいましても私も汚れてしまいましたし」
「これから起こる事に比べたらクリーニング代ぐらい……!」
「黙りなさい、このヘタレ」
うあ、言い切ったよ。
橙子さんは依然青子さんの魔術から逃げ続けている。
少し渋い顔をする青子さん。
「ぐ……! なら……!」
「おや、これはまずいな」
青子さんはさっきの広範囲魔術をしようとしている。
橙子さんは……、
「トーコ! 貴女何を……!」
思いっきりセイバー達の裏に隠れてます。
何してんですかー!?
「スライダー!」
非難するか避難する前に青子さんの魔術が放たれる。
一面が吹っ飛ばされる中、セイバーの後ろにいた俺達は何とか無事だ。
「……」「……」
もはやセイバーとライダーは殺気をみなぎらせて橙子さんを睨んでいる。
やばい、このままじゃあ戦闘どころか戦争は必死だ。
「遠坂! ここは……」
俺たちがどうにかしないと、と言おうとして俺は思いっきり退く。
遠坂は笑っている。これでもかってぐらい笑っている。
この状況で。
「ふ……ふふふ……」
「と……遠坂?」
遠坂さんは、腕を上げて、
「やっちゃいなさい、アーチャー」
親指を下におろしました。
嗚呼、これは、
全面戦争の開始だ。
「せ……先輩ー……」
半分なみだ目の桜と共に俺は宝具と魔術が入り乱れる光景をただ呆然と眺める。
戦ってないのは俺たち2人を含めたらとらえられたレンとただボーゼンと眺めるフォルテさんだけだ。
「じゃあ私はそういうことで」
「待ってください」
そそくさと去ろうとするフォルテさんの肩を桜ががしっと掴む。
「逃げませんよね?」
「いや、私急用を…」
「逃げませんよね?」
にっこりと笑う桜。
気のせいかとてもどす黒く見える。
顔を引きつらせるフォルテさん。そして彼女はがくっとうなだれた。
「……もっと奸智を身につけた方がいいのではないのかね?」
アーチャーはあきらめ果てた表情でぼそっとそんな事を口にする。
あー、俺にも分かってきた。
青子さんが放った魔術を橙子さんが避けて俺たちに当たれば、
魔術を放った青子さんに怒る者と、
避けた橙子さんに怒る者が現れる。
ようは乱戦に持ってきてしまいたかったわけか。
「あなたも大変ですねね」
「いつもの事だし」
カレンの言葉に俺はそういうしかなかった。
「引き分けかー……」
「……だな」
朝日が昇りそうなのか、少し空が明るくなった頃に2人はそう言いあう。
多分魔力切れだろう。
「まさか姉貴がこんな汚い手を使うなんてね。この前のあたしによく似た人形の方が面白かったわ」
「残念だがこっちもジリ貧でね。こうでもしなくちゃこっちが一方的にやられるぐらいだからな」
「何? その言い方だと金さえあればあたしを倒せるやつが創れると?」
「案外平行世界では英雄でも作ってるかもな」
互いにまるで昔の少年漫画みたいに語り合ってる2人。
その2人を朝日が祝福する。
「じゃあこの続きはフードバトルで。昨日おもしろい店見つけたんだ」
「受けてたつぞ」
2人はそんな事を言い合いながら去っていった。
あたり一面は聖杯戦争びっくりなぐらいの有様。
「なかなかおもしろい人たちでしたね」
「ふん」
これまた朝日をバックにこう語り合うカレンとギルガメッシュ。
他のセイバーやライダーを始めとして、戦った人たち全員が倒れてるのにあんたらなんで無傷なんだ?
「…これの後始末、俺たちがやんなきゃいけないのか?」
もはやヘクタールクラスの惨劇を、俺たちがねー。
「蒼崎には関わるな」か。
どうやらそれは本当の事だったみたいで。
おしまい
今回は『秩序王』をオリジナル要素の大半を除去して再構成してみました。いかがだったでしょうか?
橙子さんは幹也たちとの出会いが、青子先生は志貴たちとの出会いが2人をそれぞれ変えて出会ってもこうして力試しとかけじめのようなもので
戦うのではないかと思う反面、出会いがあってもなお2人は互いを許しはしないとしている面、どちらにしようか迷いました。
前者が理想なんですけど、後者も十分にありえそうで。
それでは次の舞台でまたお会い致しましょう。
2006年10月22日
今回は更に独自設定を排除してみました。いかがだったでしょうか?
書いている期間はまだ1年ちょっとだって言うのに改めて読んでみると頭を抱えたくなってくる部分が多々あって困ります。
そんなわけでちょくちょく訂正しつつ更新を進める、と。……長編終わるのいつだよ?
ちなみに『秩序王』から修正した点と言えば、
(10月時点)『幻橙英雄』の原型になった秩序王の製作は無しの方向で。
(今回)白レンに関する独自設定を排除。につどい『裏メルティブラッド』でやるはずだった設定も排除(更新停滞してるんだから当たり前ですが)。
あと原作に矛盾してそうな箇所を修正。
……どんな作品だったかは上にリンクはってあるんでそちらからどうぞ。あえて何も語りません。
それでは今回はこの辺で。
2007年4月21日 第二回更新