秩序王


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「あ、その醤油取ってください」
「はい、どうぞ」
「どうもありがとう」
何気ない食卓。
それは日常の中で最もそれを現す一枚の絵だ。
1人でいてもその人物と言うものがすぐに分かるし、大勢でいればその家庭そのものを写し出す。
そして、今この食卓は、もう家族同然の者たちが登場人物だ。

「どうしたんですか先輩?」
その内の1人、桜が疑問を投げかける。

「ん?」
「いえ、あまり箸が進んでいないようですけど…」
「あ、いや…」
そう言われればいつもと比べてもペースが遅いかもしれない。
と言っても、比較対照が当てにならないから一見すると気のせいかとも思われるぐらいの違いしかないはずだが。
朝食を作ったのは桜だから、余計な心配をかけさせてしまったか…?

「こういう日常はいいもんだな…ってね」
その食が遅い人物、つまり俺はしみじみとつぶやいた。

「本来だったら殺し合いまでしなきゃならなかったのに、こうやって平和に暮らせるっていい事だと思うよな?」
「ええ、そうですね。私もそう思います」
俺たちの視線の先では藤ねぇとセイバーが激しくやりとりしている。
どうやら藤ねぇが最後の唐揚げを食べてしまった事で起こったらしいが、いつもの事と他の皆は静観をしている。

「そう言えばバゼットさん、あなたまた面接ではねられたらしいですね。」

っていきなりそれかよカレン。と思いながら俺は思わず頭を抑える。
その言葉を聞いて顔色を変えるバゼットだが、他は全く無反応。
つまり、これも日常の1コマなわけで。

「…なぜ誰にも話していないのにそれを知っているのですか?」
普通の人達ならまず後ろに下がるだろう鋭い視線をカレンにするけど、その彼女はいたって平然。
ちなみに、俺ももうなれてしまった。こんなのに慣れたくはないんだけど…。

「そんな事より前から聞こうと思っていたのですが」
「聞こうと思ってた事?」
疑問を無視してしゃべるカレンに遠坂が疑問を投げかけた。
またどうせろくでもない事だろうな…とか思いながらとりあえず俺も静観を決め込む事にしよう。
いざ俺におはちが回ってきたらアーチャーに全部押し付けて逃亡と言う事で。

「はい、貴女の暴力癖はもう人間としてこれでもかというぐらい致命的なもので、もはや誰もがゴミのように捨てるようなものですけど…。
 おそらくそれが貴女の起源なのでしょうが、万が一の事を考えて聞いておきます」
「ほーう」
バゼットのこめかみがちょっと反応するけど、まだ許容範囲のようで。

「誰かそう言った師となる者がいたのでしょうか?」
この言葉に、バゼットは少し青ざめる。
彼女に師となる人がいたか…それは魔術師である限りいたと思うんだけど…。

「そんなまさか。バゼットの暴力は彼女の本質でしょ? だったら師匠泣かせだっただけじゃないの?」
とてつもなく素晴らしいフォローをありがとう遠坂。おかげで更に混沌だよ。

「シロウ、すみませんがその漬け物を取っていただきたい」
「分かった。ほら」
片手に茶碗、片手に箸を持ったセイバーに漬け物の皿を渡し、俺も食べるペースを速める事に。
今日はわりといい天気だから、色々としたい事があるからな。
と、そのバゼットは意外にもため息をついただけだった。

「皆さん、私をいつもいつも暴力だのなんだの言ってくれますけど、その方向では誰よりも勝っている人達がいますって。」
「そんな人がいたら見てみたいって」
バゼットの発言にまたも遠坂がつっこむ。

「例えば誰よ」
「そうですね、例えば…」

 と、来客を知らせる音が鳴り響く。
こんな朝早くに一体誰が何の用なんだ?

「珍しいわね。誰が出る?」
「俺が出るよ。ここ俺の家だし」
そう言って俺は立ち上がって、玄関に向かおうとする。

「待ってください。いくら聖杯戦争が終わったからとは言え、油断は禁物です。私も同行しましょう」
とバゼットが名乗りをあげる。

「…まあ、断る理由はないし、そうしようか」
バゼットの意見にも一理はあるし、無下に断るわけにもいかないので、2人で玄関に向かう事に。

「本当に誰だろう?」
首をかしげつつ俺は玄関の鍵を外し、ドアをあける。

 そこに立っていたのはバゼットやライダーとはまた違った大人を思わせる女性だった。
着ている服は今流行のではなく、いたって質素なもので、飾り気が何もない。
でも間違いなく美人の分類に入るほうだと思う。化粧も何もしているようには見えないのにそう思わせるのはすごいと思う。
その顔つきは引き締まっていて、聡明さを感じさせるものだった。

が、間違いなく彼女はつかれきっていた。これでもかと言うぐらい。

「あの、どちら様で?」
俺は彼女がしゃべりださないのでそうきりだす。
その彼女もその事に気づいたようで、頭を下げた。

「失礼しました。私は時計塔に属する魔術師で、フォルテと申します」
「…!」
時計塔の人が何でここに…!?
まさか俺たち、いや、セイバー達に何か用があるのか…!?

「あなた方には何もいたしませんのでご理解を。私が用があるのはそちらにいるバゼットだけですから」
「…何であなたがここにいるんですか、フォルテ」
そういいながらバゼットはファイティングポーズを構えて…ってええっ!?

「ちょっとバゼット!いきなりそれは…!」
「士郎君、フォルテが一体どんな人だか知っているのですか?」
「え? いや、知らないけど…」
「彼女はいわゆる封印指定の者のガードなどを請け負う、いわゆる私みたいな執行者なんですよ。一体どんな目的でここに来たのだか」
そんなバゼットに対し、フォルテさんは…。

え?すがりついた?

「お願いです。もはやあの2人を止められるのはあなたしかいない!どうかお願いしますから助けて〜」
「は?」
いきなりの調子の狂いに、思わずあきれ返るバゼット。
フォルテさんはその美貌が台無しなほど情けない声をあげてバゼットへの懇願を続ける。

「あの翁までがさじを投げて、私にはどうしようもないんです〜」
「翁までが…?」
翁…って誰さ?
一方のバゼットは何バカな事を言ってるんだという顔をしている。

「あの翁がさじを投げる事なんてあるはずがないでしょう。サーヴァントだって彼には勝てないでしょうし」
「あの2人が相手でも?」
サーヴァントにも勝てる人物がさじを投げる? その2人をバゼットに止めさせる?
一体どうしてなんだ?

「あの2人が相手でもそんな事が言えるんですか? バゼットさん」
「ですから翁がさじを投げるだけの相手とは…」
と、そこでバゼットの言葉が止まる。
そして、見る見るうちに顔色が青くなっていく。

「…まさか…あの2人ですか?」
あの2人、の部分に微妙なニュアンスを含んだが、フォルテさんは静かにうなづいた。

そして…バゼットが暴れだす。

「はっ離しなさい!そんな世界最悪の事態に首を突っ込んでたまりますか!」
「既に首どころか足の先まで浸かってるじゃないですか!だったら潔くあの姉妹の犠牲に…!さもないと世界がー!」
「たとえそのせいで世界が滅亡しても絶対に私は関わりませんからね!あなた1人が犠牲になれば話は終わりではないですか!」
「そんな殺生な事言わないでお願いですからーっ!」
…一瞬でフォルテさんのイメージが崩れました。
まるで子供のダダみたいにすがりつくフォルテさん、そしてそれを必死にはがそうとするバゼット。

「ちょっとちょっと、どうしたのよ」
「先輩、何かあったんですか?」
その様子を聞きつけたようで、遠坂たちが玄関に現れる。
バゼットたちのコントにしか見えないそれはまだまだ続く。

「大体貴女は2人にとっては特別な存在なのでしょう!でしたらあの2人を止める権利が…!」
「そんなもの要りません!権利で言うならあなたこそあの2人を止めなければいけない義務があるのではないですか!」
「あの姉妹をどうやって止めろって言うんですかーっ!」
「あの姉妹…だと?」
と、フォルテさんとバゼットの会話にいきなり割り込んできたのはアーチャーだった。

「あの姉妹とは…あの姉妹の事か?」
「…多分あなたが考えている姉妹で正しいと思います」
フォルテの言葉に、アーチャーは一瞬で表情を変えて…。

「悪いが急用を思い出した。凛、しばらく私は留守にするから」
「ちょーっと待ちなさい」
明らかに逃げ出そうとするところを襟首つかまれました。

「あんた守護者のくせに逃げ出そうだなんてどう言う事よ。その姉妹ってのが誰だか知らないけど、ちゃちゃっと片付けてやりなさいよ」
「凛もあの2人にじかに関わってみれば分かる!あれはもはや世界がどうにかできる相手ではない!」
そして情けない事を言い出しながら必死に遠坂への説得を開始する。
…俺、今とてつもなくため息をつきたいんだが。

「それギャグ漫画とかで超強いやつがヒロインになすすべなくボコボコにされるのと同じ?」
「違う!決して比喩なんかではない!」
そして真顔でアーチャーは続けた。


「あの蒼崎姉妹は!」


その言葉に、遠坂とカレンの表情が凍る。もうバゼットとフォルテさんはこの世の終わりが来たかのような顔をしている。
表情が曇っているのはイリヤだけで、俺、桜、藤ねぇは当たり前、ライダーやセイバーも誰のことなのかさっぱり分からないようだ。

「アオザキ…シマイ?」
ギギギ、と首を動かして遠坂はフォルテさんの方を見つめる。
肯定はしたくない、決してしたくない、だがフォルテさんはこくりとうなづいた。

「それではあとはお任せしましたので、私はこれで」
「「「ちょっと待ちなさい」」」
立ち去ろうとするフォルテさんをバゼットが止め、遠坂が倒し、カレンが聖骸布で拘束した。

「嫌だー!あの2人には関わりたくなーい!」
「あなたには一切の黙秘権もありません。全てをしゃべってもらいますからね」
絶叫をあげるフォルテさんをずるずる引きずりながら家へと運ぶカレン。
そして衛宮の家の玄関は閉められた。

   /

「まずアオザキ姉妹ですけど、ご存知でない方がいるようなので説明しますね…」
藤ねぇには聞かせられないような内容みたいだったので、アーチャーが送っていった。
説明を始めるフォルテさんは元より、遠坂とカレンの表情は青ざめていて、バゼットはもはやムンクの叫び状態だ。

「まずアオザキ姉のトーコは封印指定を受ける魔術師で、ルーン魔術と人形師の名においては世界でもトップクラスです」
ルーン魔術ってランサーやバゼットが使うあれか。
それと人形師…?

「人形師は肉体の原型を目指す者たちの総称みたいなもので、トーコは第一人者です。もしクローン技術がなければ魔法にも分類されるほどの」
「魔法にも!?」
桜が驚きの入った声をあげた。
魔法にたどり着くのは魔術師であれば誰でも目指す事だ。
しかもクローン技術と言うことは数十年だけ前なら魔法使いになっていたと言う事だろう。
…ちょっと皮肉かもしれないな。

「それと、現代のルーン魔術はほとんど彼女が確立したようなものですね。それほど優秀でした」
「私のルーン魔術も彼女の研究が元になっていますから、私にとっては先輩ですね」
とバゼットは言いながらあさっての方を見る。
何かとんでもない思い出でもあるのか?

「そして妹のアオコは魔術師としては3流ですが、第四の魔法使いでもあります」
「「「「魔法使い!」」」」
俺と桜ばかりでなく、ライダーとセイバーまでが驚きの声をあげた。
今やこの世に5人以下しかいない魔法使い、その中の1人がその青子という人なのか…。
…ん?

「あのさ、魔術師って普通一番上の子供が受け継ぐんじゃなかったのか?なのになんで妹が魔法使い?」
「そこです!」
俺はふと疑問に思った事を口にするが、フォルテさんがその言葉を聞いて指をこちらにさす。

「これはあくまで想像ですけど、アオザキの先代がトーコを犠牲にしてアオコを魔法使いにしてしまった事がそもそもの原因なのです。
 その結果、魔術協会の最も頭を痛める事になってしまって…」
漫画なら「よよよ」と擬音がつきそうな感じに眉間を押さえてうつむく。

「でもそれじゃあサーヴァントにも匹敵する人がさじを投げる説明にはなってないんじゃあ…」
「まずアオコの方ですが、彼女は事破壊に関しては世界一と言ってもいいぐらいの才能と能力があります。ついたあだ名がマジックガンナーなど。
 そしてなによりそれに拍車をかけているのが、高速詠唱と魔力燃費が他の魔術師をはるかに上回る事です」
えっと、つまり破壊魔術を高速で詠唱する上に、その魔力消費は極端に少ないって事か?

「普通の者が500ぐらい必要なものを5で済ましたりする事もザラのようですから…」
「……!」
思わず息を呑んでしまう。確かにそんなとんでもない事ができるんだったら、バゼット達が恐れるのもうなづける。

「次にトーコの方ですが、彼女自身は全く戦いには向いていません」
「戦いには向いてない?」
「人形師であるので、己が強くなる必要が全くないからです。人形が強くなれば事足りますから。」
と、ここでフォルテさんの言葉が止まり、身震いをする。

「彼女たちが戦った事は何回かありますが、最後に戦ったのでは総力戦になりました。先輩は使い魔や人形をフルに、青子さんも魔力を惜しみなく
 使い、死闘をしました。その結果抑止の守護者まで出たとか…」
「抑止の守護者が!?」
バゼットの発言に遠坂は信じられないと言った顔をして立ち上がる。

「青子さんの魔術は宝具で言うならAはざらにぶっ放してきますからね…。通常の真祖となら互角で戦えるほどだとか」
「Aをざらに!?」
今度は俺が驚愕の声をあげた。Aって言ったらセイバーがかろうじてキャンセルできるレベルじゃないか。

「バゼット、貴女は知らないでしょうけど、この1年でもう一度戦いを繰り広げましたよ。」
「えっ!? それは本当ですかフォルテ!」
「誰かの固有結界内だったので現実世界に被害はなかったようですけど、どうやらトーコはアオコを模した人形を用意してきたそうで、それは
 さながら現代戦争のようだったとか」
現代戦争って、あのミサイルとかがバンバンでてくるようなかんじか?
…絶対に関わりたくないな。

「てなわけで、どうかあの2人を止めるために力添えを」
どこで覚えたのか、フォルテさんは深々と土下座をする。

「ちょっとフォルテ、まだ肝心の、その姉妹がどうしてまた戦うだなんて言い出したんですか?」
「知っていれば対処ができるとでも?」
「う…っ!」
バゼットの中ではそれは確実に無理と思う事らしい。

「あの、フォルテさん、なぜそれでバゼットさんを頼ってきたのですか?」
おそるおそる桜が手を上げて発言をする。
正直俺もそれは疑問に浮かんでた。

「バゼットはルーンを学んでトーコに憧れていましたが、そこをアオコに目をつけられて徹底的に叩きなおされたとか。
 彼女の暴力ぐせは確実に2人の影響が原因の1つでしょう」
「「「「「「うわっ」」」」」」
バゼットとフォルテさんを除く全員が声をあげた。
今なんかものすごく納得できた気がする。

「そして、なぜ決闘の場が冬木になったかは知りませんが、とある事情でいち早く察知した私がこうして出向いているわけです。お力添えを」
…聞けば聞くだけ無謀に思えてきたんだけど…。
ちらっと遠坂を見ると、かなり真剣な顔つきをしている。
やっぱり自分の管理下にある地でドンパチをさせたくはないらしい。

「それで、具体的にはどうすればいいのよ。まさか考えもなしに助力を求め用だなんて思ってないでしょうね」
「まずトーコは封印指定を受けているので、この事件が公になる事を嫌うはずです。そこのところで釘をさします。アオコの方は気絶させた上で
 翁の前に引きずり出す以外考え付きませんが…どうでしょうか?」
フォルテさんは咳払いをして一区切りおく。

「重要なのは、あの2人を合わせない事です。1人を相手にするなら対処法がありますから。」
「対処法なんてあるの?」
「アオコの方は格闘もできますが、達人クラスではない。したがって対魔力が優れているものならばあるいは、でしょうか。
 トーコの方は用意する人形にもよりますが、たいていアオコに対抗するものを用意してくるので近距離戦に優れたものを当てるべきでしょう」
なるほど。その2人に決闘をさせない事に重点を置いて、1人ずつ対処しようとしてるのか。

「ですからバゼット、貴女がアオコを相手してください。私が何とかトーコを説得しますので」
「なんで私のほうがマジックガンナーなんですか!」
うがー、と怒鳴ってバゼットは立ち上がるが、フォルテさんはいたって当然の事だとばかりに話を進めている。

「私の空気打ちでは彼女に対抗できないからに決まってるじゃないですか。そんな事も分からないと?」
「私にだって青子さんに対抗できるはずがないじゃないですか!セイバー並の対魔力があるならともかく…!」
と、そこで2人の会話がぴたっと止まる。
そしてゆっくりとこっち側のほうに顔をむけて…?

「…よく考えれば私たち人間が相手をする必要もないんでしたね…」
「…全くです。そんな簡単な事を失念しているとは情けない」
え? この流れはもしかして…?

「ちょっとフォルテって言ったわよね。何でわたしたちが関わらなきゃならないのよ!」
「至極真っ当な意見ですが、それはあの2人に言ってください。魔術師がこの地にいた事で彼女たちを止めねばならない義務が
 生じたのですから」
思いっきり遠坂は机に手をたたきつけた。
…その机もタダじゃないんだからな…。

「遠坂、その蒼崎姉妹を知ってるのか?」
「じかに会ったわけじゃないけど、魔術師なら誰もがこう言うわ。「蒼崎には関わるな」ってね」
「うあ」
関わるなって、どんな存在なんですか?

「いっその事ほとぼりが冷めるまで放っておくのは?」
「この街への被害が甚大になってもよろしいなら構いませんが」
「……」
今度こそ、遠坂は机に沈んだ。
それを見つめる事数秒、セイバーが俺に話しかけてくる。

「…シロウ、どうしますか?」
「……街に被害が及ぶかもしれないんだったら、とめるしかないだろ。どんな相手だろうと」
いくら魔術師の誰もが関わるなと言っていようが、街に迷惑をかけるなら、止めるしかないだろ。
どんな人が相手だろうとも…。

「それでは私がアオコの方を相手します。一応説得を試みるつもりですが、対魔力が一番高い私が適任でしょうから」
「では私がそれを援護しましょう。セイバーほどではありませんが私にも対魔力はありますし」
とライダーが名乗りをあげてくれた。

「トーコの方はどんな戦いになるか分かりませんから、アーチャーが相手を務めるのが一番だと思いますが、どう思いますかリン」
「…そうね。戦いが避けられなくなったらアーチャーに頼むしか…あれ?」
遠坂はそこで言葉をとめて周りを見渡す。
と、そこで俺も気づく。

もしかして、アーチャーはまだ帰ってきてない?

「ちょっと、あれから何分経ってるの?」
「…軽く30分は経ってるぞ」
「アイツ逃げたわね」
…俺の目の錯覚だろうか。遠坂の後ろにめらめらと炎がミエテクルー。

   /

「……来ます」
フォルテさんが俺たちに合図を送った。
決闘の地と予測された公園内にはあらかじめ人払いの結界をはっておいたので人は俺たちしかいなかった。
時刻は夕方をまわっているのであまり違和感を感じないんだが。

 そして、彼女はやって来た。
身長は俺より少し低く、赤い長髪をたなびかせた女性が鞄を持って公園の方へと足を進めている。
と、どうやら結界に気づいたみたいだが、あっさりとそれを乗り越える。

「待ちなさいアオザキアオコ!」
と、木陰からフォルテさんがその青子さんと呼ばれる人の前に立ちふさがった。
俺たちもそれに続く。

「トーコとの決闘はさせはしません。今すぐ時計塔に帰っていただきます」
「あら、フォルテじゃない。やはー。お久しぶりね」
かなり気軽に青子さんは手を上げて挨拶をかわす。
一見すると普通の女性にしか見えないけど…?

「前々回に抑止の守護者が動いた事を忘れたのですか!貴女方の私闘によってどれだけの迷惑がこうむられているか…!」
「抑止の守護者って…こいつ?」
どこから出したのか分からないけど、放り出したのは黒焦げの塊…?

「シロウ、これアーチャーですよ。間違いありません」
「へ…?」
俺は思わず間抜けた声をあげてしまう。
黒こげの塊は「もういやだー」とかなんとか言いながらうめいて体を痙攣させている。
…俺は絶対にこうはならないぞ。

「前々回邪魔された腹いせしたんだけど、やりすぎちゃったわー」
「…抑止の守護者までねじ伏せるとは…。どこまでデタラメなんですか!」
「さあ? ところでフォルテ、もしかして邪魔する気?」
「もちろんですとも」
そう言いながらフォルテさんは剣をとりだした。
…穴が三つ? 随分と脆そうだけど、大丈夫なのか?

「…なるほど。対魔力に優れたサーヴァントを用意したって言うのね。そういえばここ聖杯戦争の地だったっけ。失念してたわ」
「分かっているのなら話が早い。いくら貴女でも対魔力に優れたサーヴァント2体も相手にできるとは思えませんが?」
「それに対する言葉は1つよ」
と、いきなり閃光が走って…?

「危ないシロウ!」
それがセイバーに直撃する。

「セイバー!」
「大丈夫です。ですがこれほどの威力をあそこまで短縮した詠唱で行なうとは…」
と言う事は今の閃光は青子さんが放った魔術なのか…?

「押しきる」
青子さんはまるでキャスターみたいに幾つもの光球を発生させる。
それは本当にキャスターを見ているみたいだ。
対するフォルテさんはもうこまかいふるえが止まらない。

「被害は全て時計塔を通してあなたに請求させてもらいますからね」
「いや、できればキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグあてで」
「何どさくさにまぎれて翁に責任なすりつけようとしてるんですか!」
「前々回もそれで通ったし、いいんじゃない?」
「そんな事をしていたのですか!貴女って人は…!」
…なあ、これ死闘だよな?

   /interlude

「…来ます」
バゼットはゆっくりと立ち上がり、結界のはってある公園入り口で、その人物の前に立ちふさがった。
水色のショートヘアの麗人と白で統一された少女の2人組みだ。
麗人は加えていた煙草を地面に捨て、新たな煙草を取り出す。

「蒼崎橙子、青子との決闘をさせるわけにはいきません」
「まさかそれを言うためだけに日本に来たわけではあるまい?何が目的だ」
というには言ったがその麗人、橙子は何かに気づいたように手を叩く。

「そうか、ここは聖杯戦争の地だったな。と言う事は長年のあこがれだったクー・フーリンを呼び出せたのか?」
くくっと笑いながら橙子はそうつぶやく。
バゼットはその言葉に手を強く握る。

「ええ、召喚しましたよ。それが何か?」
「では青子のやつをぶっ殺すための戦力を持った私を止めるぐらいだ。サーヴァントの1人や2人ぐらい用意しているだろうと思ってね」
通常の魔術師ではサーヴァントの相手にもならない。それを分かっていながら橙子の自身には揺るぎがない。

「ところでバゼット、そっちの少女は誰だ? まさか彼女がサーヴァントではあるまい」
「始めまして橙子さん。私はこの冬木を管理する、遠坂凛と申します」
バゼットの隣にいた凛はそういいながら挨拶をする。
ただし頭は下げない。

「単刀直入に言いますが、青子との私闘を行なうのを止めていただきたいのですが」
「無理だな。大方あっちの方にもこうして誰かが出向いてるんだろ。アイツが現れなかったらまあ止めてやるが、私から止めるつもりはないぞ」
「そこをまげて何とか」
「二度同じ事を言うつもりはないぞ」
煙草の煙を吐き出しながらなおもつぶやくような口調は止めない。
説得は無理だと判断したのか、遠坂とバゼットは戦闘態勢をとる。
と、2人の前に立ったのはイリヤだった。

「イリヤスフィール!ここは私たちが…!」
「大丈夫よ。ちゃーんと頼もしい助っ人がいるんだから」
にやっと笑いながらイリヤは橙子の方を見る。

「始めまして蒼崎橙子、わたしは…」
「久しぶりだな、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。衛宮切継は元気にしているか?」
「…っ!!」
その言葉にイリヤの表情が歪む。
そして明らかに驚きと怒りに満ちた表情へと変化した。

「なぜそれを…!」
「おや、私を覚えていないのか。なら別にいい。今日において私を知っているかなど関係ないからな」
そう言いながら橙子は歩みを再会した。
イリヤは橙子を睨みつけて、手を上げる。

「バーサーカー!」
その言葉と同時に、橙子たちの目の前に2メートルを軽く超す大男が現れる。
それを見て、白い少女は青ざめた。

「ちょっと橙子、どうするのよ。こんなやつどうやって相手するつもり?」
「おや、コイツを相手するのはお前さんの仕事だぞ。レン」
「………は?」
白い少女、レンは間の抜けた声を発する。

「邪魔をさせないためにお前を連れてきたんだ。給料分はしっかり働いてもらうぞ」
「何莫迦な事言ってるのよ!あんなの相手にできるはずが…!」
「やっちゃえバーサーカー」
「■■■■■■――――っ!!」
バーサーカーは咆哮をあげると、一直線に橙子へと襲いかかった。

「七夜!」
そのバーカーカーの横をすばやく通りすぎたのは学生服を着た青年だった。

「全く、人使いが荒いな」
「七夜!遠慮する事ないから殺しなさい。貴方も本望でしょう?」
「どこがだ」
七夜と呼ばれた人物はレンへの呪詛をふりまきながらバーサーカーの相手をする。
たくみに攻撃をかわしているが、見る限りかろうじて、である。

「橙子、賃上げの要求をするわよ。覚えてらっしゃい」
「勝てたらな」
レンは橙子への不満をいっぱいに詠唱を開始する。
そして…

「ホウマツノユメ」
その言葉と同時に、橙子はその場から消え去った。
それに驚くのは橙子に対峙していた3人。

「な…っ!」
いや、その場から消えたのはわたしたち…!?
遠坂は大きく驚いた。周りに広がるのは一面の銀世界。
これは、まさしく…。

「固有結界…」
思わずつぶやいてしまう。

「固有結界持ちを捨て駒に…!一体どこまでデタラメなのですか先輩は!」
「さあ? 私じゃなくて橙子自身に聞いたら?」
そう言いながらレンはとてつもなく深いため息をついた。
正直な話、生きてれば儲けもんだな、が感想だったりする。

interlude out

   /

「待たせたわね」
「そんなに待ってはいない」
公園の中心部、2人の女性が対峙していた。
公園内はとてつもなく静かで、誰もが息を飲んでいる。

「結局そっちもやられたのね…」
「申し訳ありませんシロウ!私がもっとしっかりしていれば…!」
セイバーは土下座で俺に謝っている。
ちなみに、そんな俺もアーチャーと同じように黒こげになってしまっている。

「いや…、俺が至らなかったせいでこんな結果になったんだから、セイバーが謝る事じゃないよ」
「いえ、全ては私がふがいないせいです!申し訳ございません!」

 回想スタート
青子さんの魔術はキャスターのように詠唱なしではなかったけど、高速詠唱でとんでもない威力の魔術を次から次へと放ってきた。
はっきり言って相手がアーチャーやランサーだったら互角以上の戦いをしていたかもしれない。
けど相手はセイバーとライダー、対魔力では優れた2人を相手に青子さんの表情はとても厳しかった。

「くっ!これじゃあキャスターが例外なく最弱って呼ばれるわけね。ここまで対魔力が高いだなんて…!」
「メイガス、降伏をおすすめします。貴女は確かに優れた魔術師なのでしょうが、我々相手に勝てるとは思えません」
「はっ!それこそまさかよ!」
ちなみに戦っているのは2人だけで、俺と桜はただ静観するだけだったりする。

「…すごいですね、あの青子さん。あの2人相手に勝負できるなんて」
「ああ、俺が相手だったら5秒ももたないんじゃないか?」
いや、冗談じゃなくて本気な話。

「でも悪いけど、終わらせてもらうわ」
青子さんはセイバーとライダーと若干距離をとって、それこそドラゴ○ボールみたいにタメのポーズに入る。

「く…っ!大魔術を使う気ですか!なら…!」
「ってセイバー!セイバーが宝具を使ったらそれこそ街に被害が…!」
「私が今アオコに放てば被害はなしですむ位置にいるようです!」
へ…? そうなのか?
セイバーは風王結界を解き、魔力を剣に集め始める。

「それって偶然?」
「いえ、どうやらアオコの方がわざとその位置にいるようですけれど…」
青子さんは足を大きく開いて両腕を引いて、一呼吸おく。

「スヴィアッ!ブレイクッ!」
そしてとてつもないほどの魔力の閃光を解き放って…。

「って何あの威力の魔術!まるで宝具じゃないか!」
「シロウもサクラも下がってください!」
率直な感想を叫ぶ俺の前にセイバーが立ちはだかった。
そしてセイバーは…。
  エ  ク  ス
「約束された――」

至高の光を解き放つ…!
 カ  リ  バ  ー
「勝利の剣!!」

 その光は瞬く間に魔力の閃光を飲み込んでいき、一直線に青子さんの方へと進んでいく。

「セイバー!あれじゃあ青子さんが死んじゃうんじゃないか!」
「青子さんがそんな簡単に死ぬはずないじゃないですか!像どころか恐竜すら殺すような人なんですから!」
バゼットはそう絶叫をあげる。
でも正直あれで生きているというのは…。

「シロウ!」
と、いきなりライダーはセイバーと俺たちの間に割って入った。
ライダーが見上げるのは…ななめ上?

「スライダーッ!」
視線を上げた瞬間、数メートルは飛び上がった青子さんが、再び魔力の閃光を放ってきた。

「なっ!」
驚くのはセイバーばかりではない。
つまり、先の2つの魔術はセイバーに宝具を使わせるためのオトリで、狙いは3撃目。
今からあれをかわすのは無理だ。なら俺がやるしかない…!
  ロ   ー
「熾天覆う――」
 ベ ル レ
「騎英の――」
俺の前ではライダーが宝具を放つために準備を始めている。
そして…。
 ア  イ  ア  ス
「七つの円環!!」
 フ ォ ー ン
「手綱!!」

 俺とライダーが宝具を放ったのはほぼ同時。
ああ、やっぱり俺のやつは花びらが7つもない。
あれから鍛練はさぼってはいないけど、4枚出せれば良い方か。
でもそれだけで今回は十分だったようだ。青子さんの大魔術の方がわずかだが弱い。

「うっそ…!」
と青子さんが言ったのかは分からないけど、多分言ってたと思う。
が、宝具と大魔術のぶつかり合いから数秒、いきなり手ごたえがなくなった。

「しまった…!サクラ、シロウ!手ごたえが急になくなりました!気をつけて…!」
「なぎ払え!」
その瞬間、俺の意識は闇の中へと消えた。
 回想終了。

「失念してました。青子さんの属性は風、消失と出現は彼女のおはこでした。まさか大魔術そのものがおとりだったとは…」
結局あの時は大魔術を放棄して俺らの後ろに現れた青子さんは、あの大魔術よりは弱い威力のもので俺たちを攻撃、見事に俺に直撃した。
なんでもバゼットの話では、某格ゲーから取って青子ゲイザーとか呼ばれてるらしい。
バゼットは桜を救うのが精一杯だったようで、俺だけがこうなったわけだ。

「もしこれが聖杯戦争でしたらシロウは死んでいたのですよ!そう思うと私は…!」
「だから、今はその聖杯戦争じゃあないだろ。だったらそんな悲観しないでくれ。俺が悪かったんだから」
「どちらも悪くありませんよ。と言うより青子さんを前に五体満足でいられた事が既に奇跡ですから」
と淡々と語るバゼット。遠くに視線をやるのはなぜだろうか?

「で、遠坂の方はどうだったんだ?」
「…それがね…」

 遠坂の回想開始
橙子自身は白いやつに固有結界使わせてわたし達を隔離して先に行った。
と言ってもこっちにはバーサーカーがいる。白いやつ1人で相手にできるとは思えなかった。
が、あいつはとんでもないカードを出してきた。

「斬刑に処す」
まず1人は学生服の男。年はわたし達と同じぐらいで、武器は普通のナイフ。
だと言うのにバーサーカーにダメージを与えられるデタラメっぷりだ。

 そして…。
      カラド、ボルク
「―――“偽・螺旋剣”」

もう1人は、見間違うはずもない。

「まさか…タタリを手駒にするなんて…!」
フォルテは思わずつぶやいているようだけど、知るもんか。

なんでアーチャーが敵にまわってるんだ!

「どう言う事よ!なんであんたが敵にまわってるのよ!」
「リン、彼はアーチャーではありません。まずあの白い少女はおそらくタタリでしょう」
「あの27祖13番で誰も確認した事がないと言われる奴でしょう!?」
「いえ、それは本体の話で、彼自身の固有結界はおおよそで調査されています。つまり…」
「つまり、この抑止の守護者は私が具現化した存在なのよ」
と、あの白いのがしゃべりだす。

「過去、ズェピアは何回もタタリを発生させたけど、抑止の守護者を出してしまった回もあったの。その時に出てきたのが彼よ。
 私はその記憶とあなた方の記憶を混ぜ合わせて作り出しただけ。」
「あんた…!そんな事をして許されると思ってるの!?」
「思わないわ。でも時間稼ぎをするならこれぐらいはしないとそいつには対抗できそうにないもの」
…確かにバーサーカー相手に善戦できる存在は限られてくる。
ならアーチャーを召喚するのは正しいかもしれないけど…何か違う気がする。

「ああ、確かに違うな。おそらくあの七夜とは違い、自らの言う事を聞かせるために精度を落として召喚したのだろう。
 だからバーサーカーを一度も殺せていないのだ」
「あ、そうそう、そんな感じ…」
正直、いくらバーサーカーが相手でもアーチャーなら数回は確実に殺せるはずだ。
だと言うのにあの七夜とやらの力を借りても一度も殺せていない。
本当に時間稼ぎをしているだけなのかもしれないけど、わたしにはあのアーチャーにはそれが精一杯にしか見えない。

「では倒すとするか」
「…って…ええっ!?」
わたしは思わず驚きの声をあげてしまった。
隣に立っていたのは、アーチャーじゃないの!

「あんた、いつからここにいたの?」
「なに、あの私が召喚されて、ローアイアスを使った辺りだな」
ってそれ随分前じゃないの。

「なら早く倒しなさいよ。こんな寒い所こりごりよ」
「了解。マイマスター」
ふふ、と笑いながらアーチャーは進み出る。
敵のアーチャーはそれを察知して、睨みつけてきた。

「さて、武器の貯蔵は十分か? 贋作者の贋作」
その後の展開はほぼ一方的だった。
ニセアーチャーも七夜もアーチャーとバーサーカーに一蹴され、残るはレンってやつだけ。

「あーあ、負けちゃったのね。もう時間稼ぎもいいでしょうし…」
レンが腕を広げると、わたし達は元の世界に戻っていた。
ふう、後は…。

「こいつの始末だけね」
「え…?」
レンは間の抜けた声をあげて後ろに下がる。

「そうね。悪い子にはちゃーんとお仕置きをしないと」
イリヤが微笑を浮かべながらにじり寄る。

「そうだな。今後のためにも少しお灸をすえなければな」
アーチャーもそう言いながら歩みを始める。
当然わたしもそいつに近づいていく。

「いやあああっ!」
 回想終了

「むご…」
「衛宮くん、何か言ったー?」
「いえ、何も言ッテマセンヨー」
俺はそのレンと呼ばれる少女を想像しながら思わずつぶやいた。
ちなみにそのレン、あの後どこかに行ってしまったらしい。

「カレン、そっちの方はどうなの?」
「ええ、しっかりランサーとアーチャーを連れてきましたよ」
とカレンは後ろで不満たっぷりのサーヴァント2人の方を見る。
万が一私闘がとんでもない事になった時のために連れてきた。
こっちにはサーヴァントが計6人。真祖が来ても勝てる戦力だろ。

「何で俺がこんな事をしなきゃいけないんだ?」
「黙りなさいこの○○。何でしたらあなたを今すぐ…」
「俺が悪かったです」
ランサー、はっきり思うが情けないと思うぞ(と言っても俺が同じ立場でもそうすると思うけど)。

「にしても…」
と、ギルガメッシュが口を開いた。彼もかなり不満そうだったが、ランサーほどではなかった。
セイバーがいるからか?

「あの雑種の1人、どこか見覚えがあるのだが…」
「ギルガメッシュに見覚えが? 私も見覚えがあるのですが、どうも思い出せないんですよ」
「セイバーにも見覚えが?」
セイバーがギルガメッシュに同意する。それに疑問を示したのがイリヤだった。

「私トウコに「久しぶりだな」って言われて、セイバーとギルガメッシュに見覚えがあるって事は…」
「それではトーコは前聖杯戦争の参加者だったと?」
発言を引き継いだのはフォルテさんだった。
それに疑問を浮かべるのは遠坂だった。

「蒼崎の者が聖杯戦争に? そんなの聞いたことないわ」
「じゃあリン、言ってみてよ。この状況を説明できるものを」
「う…っ!」

 ちなみに、橙子さんと青子さんの戦いはハタから見てもとんでもないものだった。
橙子さんが出したのは二次元的な巨大ネコと葛木先生のような日本人の男。フォルテさんが言うには荒耶宗蓮と言うらしいけど、人形だ。
それに対抗するように、青子さんは先ほどセイバーたちにやったのよりはるかに早いスパンで橙子さんを攻撃していた。
戦局は、明らかに青子さんの方に傾いているように見える。

「すまっしゅー!」
と、日本人の男は青子さんの魔術の一撃でその場に倒れる。
そして、次の魔術の一撃でそばにあったトランクが破壊した。それによって出現していた二次元のネコは消え去る。

「さて姉貴、これで私の勝ちみたいだけど?」
「そうだな、人形も機械も破壊された私にできるのはせいぜいルーン魔術ぐらいだ。それ程度ではお前にはかなうまい」
敗北をあっさりと認める橙子さん。
…にしてはやけに余裕があるな。

「なあバゼット、あの2人の決闘ってあんなさわやかに終わるのか?」
「まさか。最終的な決着は片方が気絶か再起不能になるまでやると言うのが通例です。ですからまだ続く可能性が」
と、とんでもない事を口にするバゼット。

「…でもあの状態からじゃあ橙子さんは覆しようがないんじゃないか?」
あの日本人人形が青子さんと戦っている間にやったのもルーン魔術での補助がほとんどだったし。

「ルーン魔術で青子さんに勝てるものなのか?」
「ルーン魔術では無理でしょうね。私でもランサーでも」
「俺の本分は槍なんだけどな」
ととても退屈そうにランサーは付け加えた。

「しかし、私が見たときは橙子は幻想種を使い魔に、私レベルの剣士を人形にして青子に挑んでいたぞ。あれではおとなしすぎる」
「そうですね。トーコはアオコを第四魔法抜きにしたとしても寸分たがわず創りあげる技術を持っていますから、アラヤを創るはずが…」
とアーチャーとフォルテさんは口々にそうつぶやく。

橙子さんと青子さんの会話は続く。

「で、姉貴。いつもみたいに「こんなこともあろうかと」はないの?」
「ピンチでないのにそんな台詞を使う必要はない。全て想定内だからな。アラヤでもお前には勝てんだろ」
「じゃあまだ手があるって言うの?」
「もちろん」
そう言うと橙子さんは手をあげた。
魔術的要素も次への攻撃でもない、全く意味のない行為。
が、この戦局を変えるには十分だった。

 次の瞬間、青子さんは180度回転して橙子さんに背を向ける。
その直後、青子さんが作った魔術の防御壁に高速で何かがぶつかった。

「ぐ…っ!」
ぶつかったものは、宝具だった。西洋剣の。
確かあれは見た事があるぞ。確か…。

「ジュワユース?」
確かシャルルマーニュが保有していた、ローランの所持するデュランダルと並ぶ宝具だったはず。
それが今目の前に…。

「あ…あれは…!」
と大声を出したのはセイバーだった。隠れる事も忘れて立ち上がる。

「セ…セイバー?」
「あの宝具はシャルルが持っていた宝具ですよ!間違いありません!」
「だからシャルルマーニュが持っていたジュワユースだろ。違うのか?」
                  ゲート・オブ・バビロン
あれは確かギルガメッシュの王 の 財 宝の中にあったはずだし、間違ってはいないはずなんだが…。

「そうだよなアーチャー」
「うむ。確かにあれはジュワユースだろうな」
やっぱりそれで正しいみたいだ。

「確かにあの剣はジュワユースです。ですが、あの宝具はジュワユースではありません!」
剣がジュワユースなのに、宝具がジュワユースじゃあない?
なぞなぞか?

その攻撃を受けている青子さんは今にもその剣をはじきそうな勢いだ。

「姉貴、まさかこの宝具が私を倒す手段?」
「かどうかはお前次第だ」
「いくら宝具でも、この程度の威力じゃあ倒せないわよー」
「それはどうかな」
と、防御壁に当たっていた剣に何かがおびてくる。
そして次の瞬間、それは防御壁を何もなかったかのように通過した。防御壁を破壊せずに。

「な…っ!」
「あれは前回の聖杯戦争でシャルルが使っていた最強の宝具…」
セイバーは驚愕の声をあげる青子さんを見つめながら言葉を続ける。

   聖 槍 ロ ン ギ ヌ ス
「運命をつかさどりし聖槍」


 その槍となった剣は深々と青子さんの腹に突き刺さった。

 宝具の一撃は重かったようで、青子さんは地面に倒れてしまう。
致命傷ではなかったけど、大怪我はしている。
それを橙子さんが見下ろしていた。勝ち誇ったような顔をして。

「今回は私の勝ちだったようだな」
そう言いながらルーン魔術を解き放ち、青子さんを拘束する。
魔術を放とうとする青子さんだったけど、橙子さんの方が早い。

「さらばだ青子」
「そこまでです、ミストーコ」
と、カレンが立ち上がってそう大声で2人に呼びかける。
怯えも何もない、純粋なものだ。

「勝負はつきました。ここはお引きください」
「聖堂教会の者か」
「いえ、冬木の者として」
なるほど、とつぶやきながら橙子さんは煙草に火をつける。

「では断れば?」
「サーヴァント6人を相手にするだけの話ですから、どうぞご自由に」
セイバー、アーチャー、ライダー、バーサーカー、ランサー、ギルガメッシュ。もうオールキャストだ。
俺だったら絶対に戦いたくないです。
橙子さんもやれやれ、と言いながら青子さんから遠ざかる。

「仕方がない。ではそうするか。別に昔ほどこだわっているわけではないからな」
「「えっ!?」」
驚愕の声をあげるのはバゼットとフォルテさん。

「トーコ、熱でもあるのですか?」
「そうですよ先輩。青子さん相手にそんな冷静でいられるなんて…」
「失礼だな。人間期間をおけば誰しも変わるものさ」
と言いながら橙子さんは煙草の煙を吹いた。

「失礼ですがメイガス」
と、セイバーが橙子さんに話しかけた。その表情は明らかに曇っている。

「久しいなセイバー。今回もお前だったのか」
「…やはりですか。あなたがあのメイガスだったか」
そういいながら少しうつむいた。
橙子さんはふふっと笑う。

「ではこの宝具を放ったのは…」
「ランサーだ。そうだろ?」
その時、先ほど剣が放たれた方向から人影が現れる。
その内の1人は遠坂たちが言っていた白い少女だろう。
そしてもう1人は…貴族といった格好をしている。かなりの美形に入るかもしれない。
が、普通の貴族のように華奢ではなく、その中に威厳が入っていた。

「やあ、久しいね。セイバー、それにアーチャー」
「秩序王…シャルルマーニュ…!」

   /

セイバーの表情は驚愕に満ちていた。
他のみんなも少なからず動揺しているけど、サーヴァントはほとんど反応がない。セイバーとギルガメッシュぐらいだ。

「なぜ雑種が現界している。10年ほど前より現界している我や今回呼び出されてセイバーはともかくとし、
 貴様はセイバーに敗れたのではなかったのか?」
「その通り、僕はセイバーのエクスカリバーでリタイアした。」
ギルガメッシュに対してランサー、つまりシャルルは微笑を浮かべて答える。

「それに僕は正確にはあの時のランサーじゃあないんだ」
「あの時のランサーじゃあない…?」
遠坂は何かに気づいたかのように、白い少女を見つめる。

「まさかあいつが…!?」
「それは違うぞ遠坂。確かにランサーを再びこの世に出すためにはそいつが必要だった。もはや聖杯戦争は終わってしまったからね。
 だが、記憶さえあれば私の人形にそれを固定できる。ランサーは私の目に焼きついているからな」
…つまり、橙子さんは第四次ではランサーのマスターだったのか。

「これで分かったかイリヤ。私がお前を知っている理由が」
「知っているわけね。確かに会った事あるもの。でもその時とは印象が違ってない?」
「色々と味わったからな。あの後に」
煙草を吐き捨てて足でその火を消す。

「だが宝具はどうしようもなかったからな。聖槍ロンギヌスは現存するとは言え、聖槍の騎士団からかっぱらってくるわけにもいかないし、
 そこだけはこいつに協力してもらった」
「おかげでこっちは大変よ。一体どうしてくれるの…」
白い少女の不満を裏拳一撃で黙らせる橙子さん。
ちょっと怖いぞ。

「と言うわけで抑止の守護者。これを投影してくれると嬉しいのだがな」
「…私か?」
「数年前の事を忘れたとは言わさんぞ。あれだけの宝具をぶっ放してきたじゃないか。」
アーチャーは橙子さんの要望に対し、しばし考える。

「…なぜそこまでランサーを完璧にしようとするのだ? 別に宝具なしでもいいではないか」
「完璧を求めるからこその魔術師だろうが。まあ、あくまで日常が恋しいからこそランサーを創るのだから、おそらく使いはしないだろうがな」
「僕はこだわってないんだけどねー」
と言うシャルルの軽口を橙子さんは睨み一発で黙らせた。と言ってもシャルルはやれやれといった顔をするだけだった。

「…タダでそれをやらせるつもりか?」
「もちろんタダでとはいわないさ。なんならどんなスペックの人形だろうと1体タダで創ってやっていい」
「「ええっ!?」」
またまたバゼットとフォルテが驚く。

「…なあ遠坂。橙子さんが創る人形ってどれぐらいかかるんだ?」
「そうね、例えばあのシャルルみたいに英霊が聖杯なしの状態のレベルぐらいに調整してあるんだとすると…万ではすまないわね」
「ぶっ!」
億にいくのをタダでポーンとあげるのか…。俺には想像つかないな。

「その言葉、忘れないで欲しい」
そう言いながら、ちらっと見たのは…イリヤ?

 待てよ、イリヤ、アーチャー、橙子さん、アインツベルン、聖杯、人形師…。

「まさかアーチャー…!」
「何か質問でもあるのか?」
「あ、いや…。ない」
くそっ!一番先に考えつかなきゃならないのは俺なのに、それを微塵にも思わなかっただなんて…!

「では…」
アーチャーは決まった詠唱を唱え、今ある剣と全く同一のものを創りあげる。

「これで十分か?」
「ああ十分だ。では対価はいつ送ろうか?」
「すぐにでも」
「では遠坂宛に送っておこう。どのようなものにするかは詳細なデータを送ってくれ。住所はバゼットに聞けば分かるだろう」
そういうと、橙子さんはシャルルと白い少女に合図を送る。

「多くを語りたいが、今日はもう遅い。じゃあな」
「それではセイバー、名残惜しいが…」
と、シャルルはセイバーの方に優雅に近づいていき…
手の甲にキスを…!?

「な…っ!」
俺は頭の中がこんがらがってきた。
シャルルがセイバーにキスを…。

「近いうちにお茶会に誘いますから」
「え? え?」
「…待て雑種」
そのまま去ろうとするシャルルに対し、ギルガメッシュがものすごい形相で睨んでいる。

「我のセイバーになにをするか。分際をわきまえろ」
「…アーチャー、君も王ならもっと寛容な心を持ったらどう?」
「戯言を…!」
ってシャルルとギルガメッシュは互いに宝具に魔力を通しだして…!

「やめろ」「やめなさい」
互いのマスターにはりたおされた。
橙子はやれやれと言いながら白い少女と共にシャルルを引きずって去っていった。
あれが英雄ですか…。

「あったー…。まさか姉貴のやつがサーヴァントを引っ張り出してくるだなんて…思いもしなかったわ」
と、傷元に手を当てながら青子さんがゆっくりと立ち上がる。

「私も知らなかったなー。まさか姉貴が聖杯戦争参加者だったなんて」
見ると傷口はもうふさがってしまっている。

「それじゃあバゼット、フォルテ。あなた達とは時計塔でゆーっくりと話しましょうねー」
「……」「はわわ…」
バゼットとフォルテさんは互いに恐怖に表情を塗られてしまっている。

「それじゃあ、運があったらまた会いましょうね」
青子さんは風が吹いたかと思うと、その場から姿を消していた。

 後に残るのは俺たち冬木のものばかり。

「…結局あの姉妹はなんだったのさ」
俺は答えの分かっている質問をあえてしゃべる。
遠坂は桜をちらっと見ながら深いため息をついた。

「姉妹よ。とても普通の。ただし、それが周りにどれだけ影響を与えるかの度合いがひどいだけね」

 夜空は街中だというのに星で輝いていた。
まるで何もなかったかのように。

おしまい


戻る



 クラス:ランサー

 マスター:蒼崎橙子

 真名:シャルルマーニュ

 性別:男性

 身長:186cm

 体重:70kg

 属性:中立・善

 能力

 筋力:B  魔力:B

 耐久:D  幸運:A

 敏捷:B  宝具:A

 保有スキル

 対魔力:C

 単独保有スキル

 カリスマ:B
 略

 仕切りなおし:C
 略

 優雅:B
 どれだけ自己を保てるかの能力。

 宝具
    聖 槍 ロ ン ギ ヌ ス
 『運命をつかさどりし聖槍』
 ランク:E-- ~ EX  種別:対人宝具  レンジ:1〜99  最大捕捉:1人
 世界の運命を大きく変えるだろう人物に対して絶大な威力を発揮する宝具。魔術はおろか、概念武装や宝具すらすり抜ける。
 ただしかわす事は可能。一般の人間にはただの槍程度。セイバーにはA++、イエスではEX、すなわち確実に殺せる。
   ジ ュ ワ ユ ー ス
 『喜びを与えし聖剣』
 ランク:A  種別:対人宝具  レンジ:1〜2  最大捕捉:1人
 わりと強力な宝具による一撃。どちらかと言うと、シャルルはこれを技と併用して使っていた。


 どうも、シロトです。
まずこのSSを考えついたのは、
@第四次聖杯戦争では騎士王、英雄王、征服王の3人の王が座に納まっているので、それ以外全員も王だったらーと考えついたのがシャルル
 だったりします。他のも考えているのですが、関係ないので割愛。
A先生と橙子さんのドンパチを書きたかった。橙子さんにはルーンつながりでランサー人形を使わせる。
この2つを別々に考えていたのですが、「シャルルのマスターが橙子だったら?」と考えたらもう止まりませんでした。

次にこのSSで書ききれなかった事ですが、
シャルルはセイバーと戦って聖槍ロンギヌスとエクスカリバーのぶつかり合いで敗れています。ちなみに建物を爆破されたのは橙子さん達という設定。
ギルガメッシュとは戦闘にはなったが互いに様子見程度で終了。言峰とは会っておらず、切継とは会っている。
ちなみにシャルルはセイバーとは戦闘以外での面識の方が多い。彼はセイバーをかなり気に入っているが、恋愛感情ではない。
こんな事を考えてます。書くとしても当分先でしょう…。

 と、こんな感じで独自設定が満載でしたが、いかがだったでしょうか?
今度橙子さんと先生を戦わすんだったら、こんなドンパチではなくてもっと平和的なものにしたいです。
それこそ志貴や式が困るようなものを…。
では。
  2006年6月5日


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