地 球 最 後 の 日 。


そう、僕達に告げられたのはいつもとなんら変わりない朝で、時計の針は7時32分を指していた。 窓際のカーテンが風にゆられてふわりと靡く。小鳥の囀りもまるで子守唄の様に耳を擽っていたし、心地のよいいつもの日常の朝だった。 何を言ってるのだろうか、この人は。村の皆を広場に召集し、低い声を絞り出すようゆっくりと族長の口から零れ落ちた言葉など信じる事ができなかった。

地球最後の日。世界中が命を保つために受けているクリスタルの恩恵、それが無くなってしまうとのこと。 当然、クリスタルの光がこの世界から消えて無くなれば、僕等生物の命は必然的に絶たれる。瘴気に侵され苦しみ、絶滅していく事のみ術はない。 痛い、痛い通告だった。その知らせを聞いた瞬間の村人の表情といったら、なんと言葉したらいいのだろうか。 絶望、喪失、そのような言葉がピッタリと当てはまるような。大声を張り上げて泣き出す人も居たし、逃げ出そうとしている人もいた。 逃げたって、もう安全な場所などどこにもないのに、と暴れ出す村人を横目で見ながらやけに落ち着いている自分に酷く吃驚した。 眼を瞑る。真っ暗な瞼の裏で思い描く事はただ1つだけ。(さぁ、これから何をしようか――――)

地 球 最 後 の 日 へ 向 け て 今 自 分 が で き る 事 。

こんな集会、早く終わってしまえばいいのに。もう結果など、見えているのだから。如何考えても、もうどうしようもないのだ。 今、この残酷な現実のピリオドには地球最後というエンディングが僕達を腰を据えて待っている。逃れる事ができない運命、逃げてはいけない事実。

村人がわめいた。せっかく今年の麦は大きく育っているのに、と。遠くを見ればそこには生い茂った麦畑が風に揺られて靡いている。 村人が族長の足にしがみついた。せっかくここまで生きてきたのに、何故俺が死ななくては成らないのだ、と。彼は最近まで病を抱えていた。 村人が大声で泣いた。私、死ぬ前にもう一度彼に会いたい。彼女の夫は2年前から遠く離れたアルフィタリア城で城の警備を行っている。

村中が悲しみの謳歌に包まれた時、罵声に似たような声が彼らの鳴き声よりも大きく響いた。

「貴方達は、最後まで自分の事しか考えてないのね」

沢山の人が声の主に振り向く。そこには村人と同じように蒼白な顔をした少女が透明で真っ直ぐな瞳をふるふると震わせ立っていた。 村人をその潤んだ瞳に鋭い光を宿らせ、冷たく鋭い視線で睨みつけていた。表情は暗い、が強い。その温厚な顔つきとは裏腹に性格はとても強気な彼女。 そして人一倍の正義感をもつ彼女は、この人が人にすがりつく惨めな姿を見ていられなかったのだろう。 涙で濡れた頬を無造作に拭うとこちらにきびすを返して走り去った。一瞬、一瞬だけ彼女と目があったような気がする。 彼女に一括された大人達は黙り込んでしまった。彼女の一言はそれだけ心に響いたのだろう。涙ながらの訴えは、心乱した彼らにしっかりと伝わったのだ。


皆、死にたくないのだ。だから、彼女は泣いていたのだから。 そっと空を見上げた。なんて綺麗な空なのだろう。その事実さえしらなければ村皆でこの空見上げて笑い会えたかもしれないのに。 足早に去って行く雲脚を追いかけながら少年は何も考えることができなかった。悲しくないわけではない、死にたくないわけではない。でも、声は出なかった。 少年の黄金色の髪が、太陽の光をいっぱいに浴びながら風にゆれる。村で一番大きな大樹から木漏れ日が降り注ぐ。なんて、温かいのだろうか。 どんなに体重をかけて寄りかかっても、大樹は折れるどころか微塵も揺れる事がない。でも、でもこの大樹も僕等と一緒に消えて無くなってしまうのか。

そう思うと、やっぱり悲しかった。こうして今、ここに確かに存在している物が、消えてしまうのは。 人々の記憶から消えて、その人すらも消えて。世界には瘴気という悲しみだけが残る。そこには希望も愛も未来も、何一つなくただ時間だけが過ぎて行く地獄だ。


そ れ が 、 本 当 に 悲 し い と い え る こ と だ と 僕 は 思 う の だ 。


気が付くと走っていた。彼女が消えていった、あの場所へ。

*

「何?ティクロ。貴方もあの人達のように命乞いでもしたの?」

彼女の鋭い声が響く。案の定、彼女は一人森の中で泣いていた。その瞳は赤く充血している。 それでも声にはあの強気がたっぷりと含まれていたので、少年は一人胸を撫で下ろすと彼女の隣へとゆっくりと腰かけた。 ティクロ、それが少年の名前。彼はクラヴァットで、彼女とは幼なじみだった。小さい頃から、彼女とずっと一緒だ。 彼女が今如何思っていてどこに居るのか、とか少し考えれば何となく伝わってくるわけで。今回も彼女がどれほど胸を痛めているかが痛いほど彼には伝わってきた。

「君は如何思うの?」
ティクロは問う。少女は僅かに瞳を濁らしたがやがて自嘲した笑みを浮かべると少年を見返した。

「貴方こそ、如何思っているの?」
少女は問う。少年は彼女と同じように微笑むと「悲しいね」とだけ答えた。

二人の間に沈黙が訪れる。だが息苦しいような沈黙ではなく、ただお互いを確認し会う為の沈黙だった。

「もし、よ」沈黙を破ったのは少女だった。

「私が、一緒に居て欲しいって思ったら?」少女は俯きがちに問う。
「勿論、君の傍に。」ティクロは答える。

「じゃぁ、瘴気で苦しくなってたら」少女は問う。
「一緒に、苦しんであげる」勿論、君の傍で。と少年は笑う。

「じゃぁ、死んでしまったら?」少女は問う。
「僕も、死んじゃってるよ。」少年は答える。

「いつも一緒?」少女は笑った。

「それは勿論。」少年も微笑んだ。

「私のこと、忘れないでね」「当たり前、忘れたくても忘れられないよ。」


そういって二人は見詰め合うと、同時に微笑んだ。一緒なら、悲しくないわ、と彼女は笑う。 人に忘れられる事が恐かった。僕等はそれが恐かった。だけど、僕等お互いに忘れないって誓ったから。

その言葉があれば、なんにもこわくなんてないのだ。

ち き ゅ う さ い ご の ひ を 、 き み と む か え ら れ る か ら な ん に も こ わ く な ん か な い の 。


きっと死んだって、隣にいるのは君だから。(きっと死んだって隣にいるのは貴方だもの。)


>>受身つんことツンデレせみ。ちょっとはまったCPだったりする。


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