また一つ季節が過ぎてつい最近まで咲き乱れていた花々は今は土を覆う枯れ葉に、見下ろしていた世界の地面となり、人々の足に踏み躙られて粉々に砕けた。

腐葉土となったやわらかな世界に佇む少年はそっと前を見据えた。

まるでそこは世界の端切れのよう。人々に忘れ去られて何年が経つのだろうか?きっともうこの場所を訪問する人間は自分以外にいないだろう。もし居るとしてもきっと、長い間尋ねられていない地だ。 季節を追う事に成長する自分の体を少年はゆるやかに動かした。石のように硬くなった少女の体を背負った背はあの頃よりも大きく広広となったはずだ。 幼さが消えた青年の顔を冷たく光る墓石に向けて空を仰ぐ。綺麗で青い空だった。

自分にとって終わりであり始まりの地。


分岐の日、振り払われたこの指先を掠った、冷たく鼓動する手が眠る地。

誘いの地。



―リドリー、それは少女の名前だった。

冷たく光る墓石に刻まれたその名が冬の太陽の光を跳ね返しキラリと輝く。 黒々とした土がこびりついた墓石は随分と古ぼけて見えた。あれから何年もたつのだからしょうがない、そう思うとなんだか切なさがこみ上げた。

刻まれた名前を指先でなぞる。ひんやりとした石の感覚が指先を通して流れこむ、あの日の指先の冷たさが脳裏をよぎった。 抱き締めた彼女の体が拒否をした自分の想いは今も変わらずこの胸にある。世界はあれから何年も経ちすっかりと変わり果ててしまったが、自分の想いだけは何一つとして変っていないと思った。

(いつまでも立ち止まってはいられないのに)そうなんども自分を蹴り飛ばしたが、一行に進まない自分の中の時間、体だけが成長を繰り返す。

手に抱き締めていた白い花束をそっと置いた。彼女には白が似合う。汚れの知らない、真っ白な無垢の心。自分のすべてを押しこんで決意をした、彼女に強くて弱い姿。すべてが真っ白く消えてしまった。

葉をすべて落とした巨木の下は風が吹き抜ける。 このレサンの樹だけは、あの頃と変わらなかった。今もこうして毎年毎年木々に葉を枝がしなるほど生やしてはすべて土に返していく。 その度に一つ建てられた彼女の墓石の回りを賑やかに飾り上げる。少年は心の内でそっと樹にお礼をのべた。ここにずっと留まる事ができない自分の代わりに、彼女の傍に居てくれてありがとう、と。

冬なのにどこか温かかった。今年は暖冬だから、と自分に言い聞かせてそっと消えかけた腐葉土に身を沈めた。 しっとりとした感覚に酔いしれながら目を閉じて彼女を想う。

声を出して彼女を呼ぶ事ができない。あれから何年もたったが、彼女の墓と作った日から一度も彼女のことを呼ぶ事ができなくなっていた。 声にだすとこみ上げる物がある。抑えきれない感情に苦しむのはもうたくさんだと思った。だが心のうちではいつも呼んでいた、リドリーと。

彼女を想うと切りがない。ここらで一眠りしようと、まどろみかけた瞳をゆっくりと閉じてジャックが眠り始めた。 風が止んだ。頬を撫でつける手が消えて、本格的な眠りに付き始めたころ、耳の奥で誰かが自分を呼び始めた。やわらかい少女の声。

(ジャック)

(誰―?)

そこは真っ白な世界だった。

ゆっくりと呼応していた心拍音が音を上げて刻み始める。白い世界の中に光る金色の光り。耳の奥で木霊する彼女の震え。 音となって現れた彼女の姿。少年は目をこらした。これは夢、夢だから自分が見ている光景もおそらく夢でしかないのだと。期待してはいけないんだ、と。

(ジャック)

少年はおもわず駆け出した。白い世界で光りを放つ彼女の影。手をのばした、今度こそ掴めるようにと。


光りが誘う白銀の世界。

冷たく温かい手が眠る地、冷たく光る彼女の背中。追い求めてた貴方の影。 ただただ何年も想った。過ぎていった時間の中でめぐり合った貴方を。(続く→)


(長くなっちゃったから。次で終わります。ていうかどんだけ暗いんだこれ!?)

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